bySIFCA
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破産法学習ノート
破産債権1
関西大学法学部教授
栗田 隆
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bySIFCA
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1 概説 2 破産債権の要件 3 破産債権の順位
4 破産債権の行使
5 まとめと発展的問題
1 概 説
破産債権に関する
文献
判例
意義──要件と効果
破産債権の特徴は、要件の面と効果の面から述べることができる。
- 破産債権の要件 破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、
財団債権に該当しないものである(2条5項)。 97条所定の債権も含まれる
(この中には破産手続開始後に原因があるが破産債権とされているものもある
(例えば97条4号))。
破産手続開始時に条件未成就の停止条件付債権や将来の請求権でもよい(103条4項)。
- 破産債権であることの効果 破産手続に参加して配当を受けることができる債権である(103条1項)。
これに付随して、破産債権は破産手続によらなければ行使できないとの効果が結びつけられているが(100条1項・42条・44条)、
この付随的効果については、100条2項・101条1項に例外がある[79]。
破産法は、破産債権を要件の面から定義している(2条5項)。
ある債権が破産債権であることに結びつけられた主要な効果は上記のこと(100条)であるが、その外に、次の効果も付与されている。
- 破産債権を自働債権とする相殺が一定の制約の下で許される(67条1項。71条・72条に注意)。
- 破産債権については、個人破産者の経済的更生という破産法のもう一つの目的のために、免責決定により破産者の責任が免除される(253条)。
- 破産債権は、破産手続中のみならず、免責手続中もその行使が制限される(249条)。
- 破産債権は、破産手続開始前であっても、権利行使について制限を受けることがある(24条1項1号・25条1項)。
- 破産債権者となるべき者への破産手続開始前における弁済・担保供与は、偏波否認(162条)の対象になり得る。
ただし、ある債権が破産債権でなくても、その債権に上記の効果が与えられる場合がある。 例えば、破産手続開始後に第三者が(破産手続開始前の義務の履行としててではなく)
任意に破産債権者に弁済をした場合に、その求償権は、破産手続開始後に原因のある債権と見るべきであり、したがって破産債権ではない; しかし、その代位弁済が破産者の委託に基づかない場合に、
その代位弁済によって破産者の利益は害されるべきではないから、 代位弁済された債権が破産免責の効力を受けるのであれば、求償権も破産免責の効力を受けるとすべきであり、
また、 破産手続中に破産者の自由財産に対して権利行使をすることは許されず、免責手続中の権利行使も制限されると解すべきである。
破産手続外においては、原債権が時効により消滅すれば、求償権も消滅すると解すべきである。
なお、この求償権は、破産法148条1項5号の適用対象にならない。
用語上の注意
- 破産手続に参加する(103条1項) 直接には、破産債権を届け出て破産債権として確定してもらうことができることを意味する。原則として、配当手続に参加することもできる。
- 配当手続に参加する(196条1項・198条) 配当表に記載してもらうことができることを意味する。破産手続に参加できても、配当手続に参加できない場合があり(198条)、
その場合には、配当金を受領することもできない。
- 配当を受ける(193条2項・202条) 配当金を受領することを意味する。配当手続に参加できた債権者は、配当を受けることができるのが原則である。
しかし、異議等のある無名義債権については、債権者が破産債権確定のための手続(査定手続等)の係属を証明すれば、配当手続に参加することができるが(198条1項・199条1項2号)、
配当金を受領するためには、その手続により最終的に破産債権の存在が確定されることが必要であり(202条1号)、 その決着がつくまでに最後配当が実施されると、彼への配当金は供託され(202条)、
その後に債権が存在しないことが確定すると、その配当金は他の債権者への追加配当の原資となる。
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2 破産債権の要件(2条5項・97条)
- [山本*2017b]=山本和彦「破産債権の概念について──「将来の請求権」の再定義の試み」『徳田和幸先生古稀祝賀論文集・民事手続法の現代的課題と理論的解明』(弘文堂、2017年2月28日)731頁−750頁
2.1 基本
原則として、次のすべての要件を満たすものが破産債権であり、かつ、満たさないものは破産債権ではない。ただし、(d)の要件については例外がある。
(a)金銭給付によって満足させられる性質の請求権(財産権上の請求権[2])
破産手続では、債務者の財産が金銭に換えられ、その金銭が破産債権者に平等に分配されることになるので、
破産債権は、(α)金銭給付によって満足させられる性質の請求権であることが必要である。
この要件は破産債権者に給付されるべき金額の算定を伴うので、破産債権は、(β)金銭に評価できる請求権であることが必要である(これら2つのことは、しばしば同義である)。
- 代替的作為請求権は、任意の履行がない場合には、契約に基づくものであるか否かを問わず、代替執行によって強制的に実現され、
その場合には費用支払請求権に転化するので、それ自体で金銭に評価できる請求権として扱われる。
- 不代替的作為請求権や不作為請求権は、通常、金銭給付によって満足させられない請求権であり、 それ自体は金銭に評価できない(民法399条参照)。
このことは、契約による請求権についても、人格権や物権に基づく請求権についても妥当する。例えば、夜間の騒音の差止請求権は、その義務者が破産手続開始後も騒音を出す場合に、
破産財団からの配当を受けて満足させられる性質のものではなく、破産手続外で義務者自身に対して行使できることが必要であり、破産債権にはならない。
他方、破産手続開始前におけるその不履行により生じた損害賠償債権は、金銭賠償の原則 (民法417条・722条1項)により金銭債権となり、破産債権になる。
- 年次有給休暇を得る権利(労基法39条)は、雇用関係が存続する限りは、金銭により満足を得ることができる権利ではなく、現実に休暇が与えられなければならない
(有給休暇の買取禁止ないし買取予約禁止)。しかし、使用者について破産手続が開始された場合には、金銭給付によって満足させられる権利に転化すると見るべきであり、
それを前提にして、破産債権になると解すべきである。 このことは、年次有給休暇を得る権利の法的性質をどのようにみるか((不代替的)作為請求権か形成権か等)に依存しない。
- 金銭評価ができればよく、当事者間で金額が確定していることは必要ない。次の請求権も破産債権になる:
- 物の給付請求権
- 破産手続開始前の不法行為により破産者が損害賠償義務を負ったが、手続開始時までに被害者の傷が治癒(症状が固定)していないため、損害額が確定していない損害賠償請求権。
後遺障害が未だ顕在化していないが顕在化する可能性がある場合(特に最後配当後に顕在化する可能性がある場合)には、
(α)その後遺障害による損害を除外した損害賠償請求権を債権届出期間内に届け出、その後に後遺障害が判明した時点で、
追加的届出をすることも許し、一般の債権調査終了後に後遺障害が顕在化した場合には、 その後遺障害を考慮しない賠償金請求権が既に確定していても、
後遺障害についての賠償金請求権の追加届出を許すべきである (112条3項。当初の債権届出は、事後に判明する後遺障害による損害を除外した賠償請求権の届出と扱うことになる);
この外に、(β)賠償義務者である破産者が法人である限り、後遺障害の顕在化の可能性も考慮した賠償請求権の届出も許すべきである。
(b)破産者に対する人的請求権
破産債権となるのは、(b1)破産者に対して一定の給付を求める権利(請求権)である。人的請求権が破産債権になるためには、さらに、
(a)の要件に密接に関連することであるが、(b2)破産者が自己に属する財産(責任財産)を用いて実現することのできる義務の履行を求める請求権であることが原則として必要である。
財産に対する支配権(所有権など)自体あるいは支配権から派生する権利(妨害排除請求権など)は、破産債権にならない。人的請求権の例:
- 破産者に対して一定の量(金額)の金銭の給付を求める請求権 これの責任財産は、破産者の一般財産である。
- 破産者に属する特定の動産の引渡しを求める請求権 例えば、破産者である売主に対する売買契約に基づく特定の絵画の引渡請求権は、 人的請求権であり、破産債権になる[37]。
これの責任財産は、第一次的には、当該特定の財産である。しかし、破産手続開始後は、 その請求権は破産者の総財産から他の債権者と共に割合的満足を受けるべき債権(破産債権)に転化させられる
(103条2項1号イ)。
なお、所有権に基づく引渡請求権などは、破産債権ではない。
- 財産を他から調達して債権者に移転することを求める請求権 これの責任財産は、調達に必要な資金が捻出されるべき債務者の一般財産である。
他方、次の権利は、破産債権にならない。
- 物的担保権 その多くは破産手続によらずに実行する権利(別除権)が認められている(2条9項・65条)。
別除権が認められている担保権の被担保債権は、破産債権となり得る(物上保証人について破産手続が開始された場合のように、被担保債権が破産債権にならない場合もあることに注意)。
ただし、一般債権者との公平を保つために、別除権を有する者(別除権者。2条10項)は、
被担保債権のうち別除権を行使しても回収することができない部分(担保不足部分)についてのみ破産債権者として権利を行使することができるとの建前がとられている(108条)。
この建前を、不足額主義と言う。
- 取戻権 破産者に属しない財産を破産管財人の支配から取り戻す権利は、取戻権と呼ばれ、破産手続の開始によって影響されることなく行使できる(62条)。
- 権利者がその財産に対して直接の支配権(所有権等)を有する場合には、そのことが、(α)その支配権の限度で目的財産が破産者に属しないことを根拠付け、
かつ、その支配権が(β)目的財産の返還等を求める請求権の基礎となる。
- 破産者に属しない財産について権利者が支配権を有するわけではないが、破産者に対してその返還等を請求する権利を有する場合にも、その請求権は取戻権であり、破産債権にならない。
例えば、転貸人が転借人(破産者)に対して有する転貸借終了後の返還請求権(民法601条)は、取戻権である。
- 破産者に属しない財産を破産者が占有者から奪った場合に、占有者が有する占有回収請求権(民法200条)も同様に取戻権になる。
- 破産者が自己の所有物を賃貸したが、破産手続開始前に賃借人からその物を奪ったことにより、賃借人が占有回収訴権(民法200条1項)を有する場合に、
破産手続開始後にその物が破産管財人の支配下にあるのであれば、 賃借人はこの訴権(請求権)を破産管財人に対して行使できるべきである。
この請求権は、目的物が破産者に属するので、62条の取戻権に該当しないが、
破産管財人の支配を排除する権利という意味で、広義の取戻権に含めることができる。
破産管財人は、目的物を賃借権の負担付財産として扱わなければならず、当該賃借権が56条1項の保護をうけるものである場合には、
目的物を賃借権の負担付財産として換価しなければならないのが原則となる。
上記2bの請求権は、民法の世界において人的請求権に含めるのが通常である。 しかし、民法の世界における位置付けにかかわらず、破産法の世界では、
この請求権は「破産債権となる人的請求権」から除外される[CL7]。
なお、物権的請求権(上記2a)も、破産手続開始前に破産者の責めに帰すべき事由により実現され得なくなれば、一般法に従い損害賠償請求権(金銭債権)に転化し、金銭債権になれば破産債権になる。
いくつかの例
- 賃貸借終了後の賃借人(破産者)に対する賃貸人の返還請求権は、所有権に基づく物権的請求としても、契約に基づく債権的請求権としても主張し得るが、
いずれであっても、取戻権(破産者に属さない財産を取り戻す権利)である。
- 通行妨害の被害者が妨害者(通路所有者又は第三者)に対して通行地役権あるいは人格権に基づいて差止請求権を有する場合に、 その請求権は、人的請求権であるが、金銭給付によって満足させられる権利ではなく、
(a)の要件を充足しない。したがって、その請求権は、妨害者について破産手続が開始されたときに、破産債権にならない。
しかし、破産手続開始前の妨害行為による損害賠償請求権は、破産債権である。通路に柵を設置する方法で通行妨害がなされた場合には、
その柵が破産財団に属する限り、通行権者は破産管財人に対して妨害物の撤去を請求することができる。 破産手続開始後も柵が撤去されないことにより通行妨害の状態が続いていることによる損害賠償請求権は、
破産管財人の行為(柵を撤去しないという不作為による不法行為)によって生じた請求権として、財団債権になる(148条1項4号)
- 債務者が自己の労働力を用いて実現すべき義務の履行を求める請求権はどうか。 このうち、
- 代替的作為請求権(例えば、債権者の所有地で債権者の所有する機械を用いて草刈りをする債務の履行請求権)が破産債権となることは問題ない。
当該義務は、債務者が自己の財産から費用を出して他人にさせることにより履行することができるものであるので、人的請求権の要件を満たす。
そのことの裏返しとして、債務の目的となっている行為を他人にさせるのに必要な費用が捻出されるべき債務者の一般財産が責任財産になる。
これを破産債権とすることにより、破産者は、破産手続開始後はこの債務から解放されて、自己の労働力を新たな収入の獲得のために用いることができるようになる
(このことは、報酬が前払いされている場合に重要である)。 その反面、債権者は、破産配当による不完全な満足で我慢しなければならない。
なお、前記の草刈契約は、破産手続開始前に報酬の前払がなされていない場合には、双方未履行契約として、53条によって処理されるが、
履行が選択されるときでも、破産者は作為義務を負わない(破産管財人は、破産者に草刈を依頼することもできるが、その場合には破産者に報酬を支払わなければならない)。
- 不代替的作為請求権を破産債権とすべきか否かは、政策的考慮を必要とする。例えば、債権者が用意するスタジオと材料を用いて肖像画を制作することの契約が高名な画家との間で締結され、
制作料が全額前払いされた後で、その画家について破産手続が開始された場合を考えてみよう。この場合の肖像画制作請求権は、不代替的作為請求権であり、
債務者は義務の履行に当たって特に財産を必要とするわけではなく、自己の労働力(絵画制作能力)を用いれば足りるが、債務者の財産を用いて実現することができるわけではない。
そうであるにもかかわらずこれを破産債権とすることにより、破産手続開始後に彼をこの義務から解放して、
新たな制作活動を可能にすることは、個人破産者の経済生活の再建の視点から見て、意味のあることである。
ただ、そうなると、肖像画の制作という金銭によっては満足させることができない権利を有する債権者は、金銭による不完全な満足で我慢しなければならないことになる。
そうすべきであるか否かは、第一次的に要件(a)の問題である。 仮にこの問題について、破産債権性を肯定すべきであるとの決断をするのであれば、要件(b2)を次のように緩和する必要が生ずる:
破産者に対して、一定の給付を求める権利(請求権)であることが必要であり、
これに対応する義務は破産者が自己に属する財産(責任財産)又は労働力を用いて実現することのできる義務であることが必要である。
(c)執行することのできる請求権=掴取権能のある債権
これは、破産手続が包括的な執行手続(強制的な権利実現手続)の性格を有することに基づく要件である[84]。
次のものは、破産債権にならない。
- いわゆる自然債務に対応する権利(例えば、消滅時効にかかった債権)
- 遺贈による請求権は、遺贈者(破産者)の死亡前にあっては単なる期待権とみられ、破産債権にはならない。
次のものについては、意見が分かれよう。
- 死因贈与契約に基づき贈与を受ける者が贈与者(破産者)に対して有する権利(以下では、書面により贈与契約が締結されていること、否認原因(160条3項)が存しないことを前提にする)。
債務者が死亡した後の遺産に対して行使されるべきことが当初から予定されている権利であり、生存中の債務者に対して給付行為を求めることができる権利とは言い難いという特殊性がある。
(α)その特殊性を無視して、不確定期限付き贈与契約の一種であると割り切れば、99条1項3号により劣後的部分が定まる破産債権となる;配当に与かる以上、破産者が免責決定を受ければその効力が及ぶとすべきである。
他方、(β)贈与者の死亡時に残存する財産があれば、その財産でもって履行されるべき債権であるとみれば、特種な停止条件付破産債権と見るべきことになる;
最後配当の除斥期間満了前に破産者が死亡すれば配当に加えられる;贈与されるべき財産(金銭以外の財産)が破産手続開始時に破産財団中に存在していれば、
その後に破産管財人によって換価されていて死亡時には存在していなくても、配当に加えられるべきである; 最後配当の除斥期間満了前に破産者が死亡していなければ、配当から除斥される;
配当から除斥される場合については、死亡時に残存する財産でもって履行されるべき債権という特殊性に鑑み、 この債権に免責の効力を及ぼす必要はなく、また、及ぼすべきでない。
いずれと見るべきかは、個々の死因贈与契約ごとに、契約締結に至った事情などを考慮して判断されるべきであろうが、 いずれとも判定できない場合には、(β)と見るべきであろう。
(d)破産手続開始前の原因に基づいて生じた請求権
債権者の範囲は、いずれかの時点を基準にして固定しなければならない。そうでないと、手続の整理がつかないからである。
破産法は、破産手続開始の時を基準にして、破産債権の範囲を固定した。破産手続開始当時に債権の発生原因の全部が具備していることが必要であるとの見解を全部具備説というが、
この説は現在では否定されている。基本的構成要件が破産手続開始前に充足されていれば足りる(一部具備説ないし基本部分具備説)。
そのような債権である限り、条件付債権、期限未到来債権でもよい(103条3項・4項参照)。
要件を規範的に述べれば、「配当時(最後配当の除斥期間満了時)には完全に効力が生じて配当を受けることができる債権のうちで、
破産手続に参加させるに値するだけの原因が破産手続開始前に存在するもの」ということができる[6]。
- 受託保証人の主債務者に対する事後求償権(保証債務の履行後に発生する求償権)は、保証債務履行前においては法定の停止条件付債権である。このような債権を将来の請求権と言うが、
これでもよい(破産手続開始前に主債務者と保証人との間で保証委託契約が成立したことが求償権の基本的構成要件であり発生原因である)[88]。
- 当事者間で発生について争いのある不法行為債権も、客観的にみれば破産手続開始前に発生しているのであれば(債権の発生原因である不法行為が破産手続開始前になされていれば)、
損害が破産手続開始時に顕在化していなくても、破産債権となる。
破産法は、破産債権として扱う必要があるが、破産手続開始前に原因があるかについて疑義の生ずる債権、あるいは破産手続開始前に原因があるとはいえない債権について、個別的に規定を置いている。
次のものは、破産債権に含まれる(97条)。
- 破産債権に附帯する請求権(1号から3号)
- 破産手続開始後の利息の請求権
- 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権 破産債権に附帯するものに限られる。建物所有により他人の土地を不法占有している者について破産手続が開始された場合に、
破産財団に属することになった建物により破産手続開始後も土地の利用を妨害されていることによる土地所有者の損害賠償請求権は、取戻権を基礎とする損害賠償請求権であり、
このようなものは財団債権になる(148条1項4号)。
- 破産手続開始後の延滞税(国税通則法60条以下)、利子税(同法64条)又は延滞金の請求権 国税通則法2条4号に挙げられている附帯税は、(α)延滞税・利子税と(β)その他の税(後記b2)とに分けることができる。
両者には基本的な性格の違いがあり(後者は罰金と同様な制裁の色彩が強いが、前者はそうではない)、この違いにより、前者は破産手続開始後のもののみが3号に含まれ、後者は無限定に5号に含まれる。
3号・5号に含まれるものは、いずれも劣後的破産債権である(99条1項1号)という点では同じである。
他方、破産手続開始前の延滞税等は、それが財団債権に該当する場合は別として、租税優先の原則に従い優先的破産債権になる(劣後的破産債権ではない)。
- 租税等・罰金等の請求権(4号から6号)
- 租税等の請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(4号) 破産債権は、破産手続開始前に原因があるものに限られるとの原則の例外である。
「破産財団に関して生ずる租税債権等」は、(1)「破産財団に属する財産に関して生ずる租税債権等を意味する;また、(2)破産者が法人である場合には、法人に属する財産は全て破産財団に含まれるので、
「破産財団に関する」は「破産法人に関する」を意味する(そのように解釈すべきである。
そうでないと、破産法人の破産手続開始後の所得[75]に係る租税債権の位置付けに窮することになるからである[76])。
ただし、上記に該当するものであっても、148条1項2号又は4号に該当すると評価され得るものは財団債権になるので(例えば、(1)に該当する租税債権のうちの固定資産税)、
それ以外のものがここにいう破産債権になり、 かつ、劣後的破産債権になる(99条1項1号)。次の規定に注意
- 破産者が個人である場合に、破産財団所属財産を破産管財人が換価したことによる所得は、おおむね課税対象にならない(所得税法9条1項10号。[伊藤*破産・民再v3]317頁以下参照)。
- 法人税法59条2項1号(法人税令117条3号)により、破産手続開始により解散した法人の債務免除益(免除以外の事由による債務消滅利益を含む)[74]については、
所得金額の計算上、その金額に達するまで、過年度の欠損金額を当年度の損金額に算入することが認められている。
-
本税が破産債権である場合の附帯税
(国税通則法2条4号)等の取扱い
97条 |
性質 |
破産手続
開始前 |
破産手続
開始後 |
3号の請求権 |
非制裁的 |
優先的
破産債権 |
劣後的
破産債権 |
5号の請求権 |
制裁的 |
劣後的破産債権
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加算税(国税通則法2条4号所定の過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税)又は加算金(地方税法1条1項14号所定の過少申告加算金、
不申告加算金及び重加算金)の請求権又は同類の共助対象外国租税債権(5号) 罰金等の請求権と同様に、その原因が破産手続開始の前にあるか後にあるかを問わない
(148条1項3号の最初のかっこ書参照)。
- 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(6号) その原因が破産手続開始の前にあるか後にあるかを問わない。なお、罰金等の請求権についても、
財団債権となるものが存在することが予定されている(114条2号参照)。
劣後的破産債権とするために、他の法律により過料の請求権とみなされる請求権もある(例:課徴金の請求権等(金融商品取引法185条の16))。
- 破産手続参加の費用の請求権(7号) 個々の破産債権者の手続参加費用の償還請求権である。 破産手続開始申立ての費用は、 共益費用の償還請求権として、財団債権となる
(148条1項1号)。
- 双務契約の終了に伴う請求権等(8号から12号) これらの請求権は、個別の規定により破産債権であることが明示されているので、97条で個別に列挙する必要はなく、
「その他この法律の規定により破産債権とされている権利」と一括することもできるが、該当規定の検索の便のために列挙されている。
- 双務契約が破産管財人により解除された(とみなされる)場合(54条1項)・定期取引が当然解除とみなされる場合
(58条3項)の、相手方の損害賠償請求権
- 受任者が破産手続終了後に事務処理等をしたことにより生ずる請求権(57条)
委任者について破産手続が開始された場合には、委任契約は、受任者との関係では、受任者が破産手続開始を了知したときに初めて終了する
(正確には、それまでは破産手続開始による終了を受任者に対して対抗(主張)することができない(民法655条))。
それまでは受任者との関係では委任契約は有効に存続しており、委任事務の処理により生じた費用償還請求権・報酬請求権は、 破産手続開始前に有効に生じた委任契約の履行行為により生ずる債権(
破産手続開始前に原因のある債権)として、破産債権になる(2条5項の破産債権の要件を充足する。
ただし、「2条5項の要件は満たさず、本来は破産債権ではないが、57条により破産債権にされている」、と説明する見解もある)。
- 為替手形等の支払人等の償還請求権(60条) 破産手続開始前に締結された支払委託契約や保証委託契約に基づき、
破産手続開始後に為替手形の引受け等の手形行為あるいは小切手行為がなされた場合の償還請求権は、これらの契約が委任契約の一種であることに鑑みれば、すでに57条により破産債権となり得るが、
その特則として60条が要件を緩和して破産債権になるとした(例えば、民法655条は「通知」により委任契約が終了するとしているので、
通知後の委任事務の処理により生じた債権が破産法57条により破産債権になることはないが、破産法60条は「通知」を要件の一部に含めていない。
もっとも、通知があれば当然に「破産手続開始の事実を知った」と見るべきかの解釈問題は残るが、特則であることを強調すれば、そのように解釈しない方がよいことになる)。
- 交互計算終了による相手方の残額請求権(59条1項)
破産手続開始前に効力を生じた交互計算契約に原因のある債権であり、2条5項の破産債権の要件を充足している。
- 否認の相手方の償還請求権 (168条2項2号・3号)
(e)財団債権でないこと
破産手続開始前に原因がある請求権は、破産債権になるのが原則であるが、様々な政策的理由により、財団債権とされているものがある。財団債権とされている請求権は、
破産債権ではない(2条5項末尾・97条柱書かっこ書)。例えば、次のものがこれに該当する:
- 双方未履行の双務契約について履行が選択された場合(53条1項)の相手方の請求権(148条1項7号)
- 遺贈に付された負担の請求権(148条2項)
- 破産手続開始前の3月間の使用人の給料(149条1項)、
及び破産手続の終了前に退職した使用人の退職手当(原則として、退職前3月間の給料の総額の範囲に限られる)(同条2項)
- 租税等の請求権のうちで、その納期限が経過して強制徴収が可能となった期間が破産手続開始当時に1年を越えていないもの(148条1項3号)
(f)その他
破産手続開始当時に満足を受けていないことも、もちろん必要である。債権者が、破産手続開始当時に未確定の仮執行宣言付判決に基づき、破産手続開始前に仮執行により満足を受けた場合に問題となる。
この場合について、次の2つの見解が対立している(詳しくは、「破産財団に関する訴訟の中断・受継」の中の「3.4 仮執行による弁済の効力」の項参照)。
- 債務者について破産手続が開始されたこと自体を理由に仮執行による給付の効力を否定し、債権者は仮執行がなかった場合と同様に破産手続によってのみ権利を行使すべきであるとする見解。
- 仮執行宣言付判決が確定的に取り消されない限り、仮執行による給付は破産手続との関係では有効であり、その部分については比例的満足を強制されないとする見解。
次のように考えたい。仮執行による満足は、確定判決により債権の存在が肯定されることを停止条件とする仮定的満足であるが、
この仮定的満足を破産手続開始前に受けているという債権者の地位は、破産手続においても尊重されるべきである。
したがって、仮執行宣言付判決が確定すれば、破産手続開始前の仮執行による弁済の効力は、破産手続との関係でも肯定されるべきである。すなわち、
- 仮執行により満足を得た部分は、破産財団から比例的満足を受けるべき債権(破産債権)に当たらない。
当該訴訟手続は、破産手続開始決定により中断するが(44条1項)、
破産管財人によって受継され(44条2項)、終局判決において債権の存在が肯定されれば、満足の効力は破産手続開始前に遡及して、確定的満足になる。
- 他方、仮執行による満足を受けていない部分は、破産債権となる。この部分については、当該訴訟手続は破産手続開始決定により中断し(44条1項)、
債権調査手続において異議等が出された場合に、債権確定訴訟として異議者等により受継される(129条2項。44条2項も参照)。
債務者からの申立てにより執行停止がなされ、それにつき担保が提供されていた場合には、執行停止がなくても仮執行は破産手続開始時までに完了していなかったであろうとの事情がない限り、仮執行債権者は、
執行停止による損害につき、当該担保に対し権利を行使することができる(最高裁判所平成13年12月13日第1小法廷決定(平成13年(許)第21号))。
2.2 発展的問題
2.2.1 責任限定債権
金銭債権の満足に充てられるべき財産(責任財産)は、多くの場合に限定されていないが、例外的に、法律の規定により又は合意により、特定の財産(限定責任財産)に限定されている場合がある
(責任財産を限定する特約は、しばしば「ノンリコース特約」と呼ばれる[4])。
そのような債権を責任限定債権と呼び、その債権者を責任限定債権者と言うことにする。責任限定債権については、限定責任財産からの弁済について、その債権と他の債権との優先順位が問題となる。
- 責任限定債権のために限定責任財産に担保権(別除権が認められた担保権)が成立している場合には、責任限定債権者は、破産手続外で別除権を行使して満足を受ける。
当該財産に残余が生ずれば、それは破産財団に属する。責任限定債権者は、当該担保財産から完全な満足を得ることができない場合でも、破産手続に参加することができないのが原則である。
ただし、担保権行使前に責任限定債権者の責に帰すことのできない事由により担保権が消滅した場合に、目的物の価額を限度として破産債権となることを認めるのが適当な債権もある
(例えば、商法804条の有限責任について、商法802条の先取特権が民法333条により失われた場合に、そのように扱うべきであろう)[3]。
- 限定責任財産上に責任限定債権のための担保権が生じないが、他の債権に優先することが定められている場合には、それに従う。
例えば、限定承認がなされた場合には、相続債務の責任財産は相続財産に限定される。その相続財産からまず相続債権者が満足を得、残余があれば、
残余財産は相続人の固有財産となり、固有債権の満足に充てられる
(この場合には、相続債権者が完全な満足を得るまで、両財産は分別して管理される。242条1項)。
- 限定責任財産上に責任限定債権のための担保権が存せず、また優先的に弁済を受けるべきことが定められていないという事態は、配当処理が難しくなるので、あまり想定したくない。
しかし、理論上はあり得る(少なくとも合意により生じ得る)。(α)責任限定債権者とその他の債権者とを同順位に立たせると、責任限定債権者が不利になるので、
責任限定債権者が優先することについて他の債権者の黙示の同意を認定することができる場合には、そのように扱うのがよい。
(β)しかし、そのような黙示の同意を認めることができない場合には、他の債権者は、限定責任財産からも破産手続開始当時の債権額を基準にして平等に配当を受けるのが原則となる
(責任限定債権者が不利益を受けるが、それは、責任限定が合意により生ずる場合には、責任限定特約を受け入れたことの結果である)。
2.2.2 手持債権を利用した資金調達(文献[53])
金融機関等は、資本の回転率を高めるために又は新規融資資金の調達のために、保有債権を売却したり又は担保に用いることがある
(以下では、金融機関等を「原債権者」、その保有債権を「原資産」ということがある。
「資産」という外延の広い言葉が使われているが、主として念頭に置かれているのは債権や証券である)。 (α)債権の売却の際に、(α1)その債権について自らが保証人になったり、
売戻特約ないし買戻特約を付す等の方法によりリスクを引き受けるか、それとも(α2)リスクを基本的に引き受けないかの選択肢がある。
後者は、いわゆるバランス シートからリスク資産をはずすことになり、金融機関の自己資本比率を高める点では有利である。他方、(β)金融機関が保有債権をバランス
シートからはずすことなく、これを担保にして証券(債券)を発行し、できるだけ低い金利で資金を調達することもある。証券を買い入れる投資家から見れば、担保となる資産から優先弁済を得ることもできる上に、
金融機関の一般財産からも弁済を求めることができる点で安心感がある。さらに、金融機関が破綻しない限り、担保である原債権の発生から回収まで金融機関が責任をもつので、投資家の安心感は一層高まる。
(a)債権の売却(オフ バランス シート) 債権の売却は、売手にとっては、債権という不確実性のある財産を現金という確実な資産に変換することであり、
これにより、バランスシートの資産の部からリスク財産を削除することが達成される(オフ
バランス シート)。
債権の売却が円滑になされるためには、買手に生ずるリスクや資金負担を軽減することが重要になる。買手にとっては、(1)原債権者(債権の売手)の倒産によって影響を受けないようにすることと、
(2)買い取った債権の不履行によって不測の損害を受けないようにすることが重要である。(1)は、いわゆる倒産隔離の問題であり、日本では専ら会社更生手続との関係で問題になる。
会社更生手続では、担保権者も手続に取り込まれ、担保権を手続外で行使することが否定されているからである。
この問題に対処するためには、債権の売買が代金相当額を被担保債権とする譲渡担保と認定されないようにすることが必要である。
(2)の問題については、保証契約やこれに類似する契約を利用することも一つの方法であるが、この外に、売却される債権がある程度まとまった数の債務者を異にする債権である場合には、
その内のどれだけの割合のものが不履行になるかは比較的把握しやすいので、不履行の確率を見込んで代金額を定めることも、一つの方法である。
この場合には、(3)一括して売却される債権が多額になるので、その購入資金を多数の小口投資家から調達することができるようにする技術があれば便宜である。
上記の問題に対処するために、原債権者が有する多数の債権を多数の投資家に直接売却するのではなく、いったん一つの法主体(媒介的主体)に売却して、媒介的主体がそれを裏付財産にして証券を発行し、
その証券を小口に分割して売却するという方法が採られる。その媒介的主体は、導管あるいはSPVとも呼ばれる。それが会社であれば、特定目的会社(SPC)となるが、信託の受託者でもよく、
自己信託(信託法3条3号)が認められている現在では、原債権者自身も受託者として媒介的主体になることができる。ここで、裏付財産は、証券の利払及び償還の原資となる財産を意味する。
SPVが一つの証券しか発行しないのであれば、発行される証券に化体される債権を被担保債権としてその裏付財産に担保権を設定する必要は高くないが、
それでも、SPVに対して他の者が債権を主張する可能性はあるので、裏付財産に担保権を設定しておくことが望ましい。
SPVが複数の証券を発行する場合には、各証券についてそれぞれの裏付財産上に担保権を設定しておくことが不可欠になる。
さらに、前記(α2)の選択肢(原債権者がリスクを引き受けない選択肢)を採る場合には、原債権者が投資家から責任を追及されないことを確実にするために、投資家が取得する債権の責任財産が裏付財産に限定され、
原債権者の責任を追及し得ない旨の特約(責任財産限定特約)を付すこともある(さらに念を入れて、責任財産から弁済を受けることができない部分については、権利を放棄する旨の特約を付すこともある)。
「裏付資産」の語義は多様であり得る。ある資産Aから得られる金銭(収益及び当該財産自体の換価金)でもって証券Bの利払と元本の償還がなされる場合に、
「資産Aは、証券Bの裏付資産である」といわれのであるから、裏付資産の基本的意味は、「特定の債権(特に、証券に化体された債権)の弁済原資となっている財産」(弁済原資財産)である。
これに加えて、その債権の「担保資産」にもなっているとの意味を含めて用いられることもある。この場合には、「裏付資産」は、弁済原資財産であるとともに、「責任財産限定特約付きの担保資産」である。
時には、弁済原資財産であるという意味を脱落させて、単に担保資産であるという意味で用いられることもある。
このように、債権を中心にした資産を裏付けにして発行される証券は、主としてアメリカで盛んに発行され、一般に、Asset-Backed
Securityと呼ばれる。略して、ABSである。日本では、「資産担保証券」と訳されることが多い。ただ、モーゲッジ(抵当権)によって担保された住宅ローン債権などを裏付資産にした証券は、Mortgage-Backed
Securityと呼ばれる。略して、MBSである。「モーゲージ担保証券」と訳されることが多い。
日本では、資産担保証券に関する法として、「資産の流動化に関する法律」(平成10年法律105号)が制定されている。 同法では、SPCは「特定目的会社」、流動化されるべき原資産は「特定資産」、
特定目的会社が発行する特定資産によって裏付けられた証券(ABS)は「資産対応証券」と呼ばれている。
会社に代えて信託(特定目的信託)を用いることもでき、この場合には、特定目的会社に相当する「特定目的信託の受託者」である「受託信託会社等」が資産対応証券に相当する「受益証券」を発行する。
(b)債権の担保化(オン バランス シート) 金融機関等(原債権者)が貸出債権を担保にして自ら証券を発行する場合には、
証券保有者は、平時においては原債権者(証券発行体)の一般財産から弁済を受けるとともに、原債権者について倒産手続が開始されたときは担保となっている原資産から優先的に弁済を得ることができる。
貸出債権(原資産)は、金融機関の貸借対照表(バランス シート)に残る。主に欧州、特にドイツで盛行している資金調達方法である。原資産を担保財産とする証券は、ドイツ語ではPfandbriefと呼ばれる
(Pfandは担保の意味であり、Pfandbriefは「担保付証券」を意味する。 起源は古く、日本の抵当証券に相当するHypothekenbriefに由来するようである。
10億ユーロ以上の証券が証券市場に向けて発行される場合には、Jumbo-Pfandbriefと呼ばれ、特別の制度が用意されている)。
証券発行体が倒産した場合に担保資産から優先的に弁済を得ることをもって、「担保資産によってカバーされる」と表現し、その点にちなんでカバード
ボンド(担保付証券)とも呼ばれる(カバード ボンドの範疇は広く、ドイツのPfandbriefはその一種である)。
貸出債権の担保化の方法は、国によって異なり得る。日本の現行法の下では、基本となるのは、担保の古典的方法である質権設定あるいは譲渡担保であり、動産債権譲渡特例法8条・14条がこの目的に役立つ。
特定の少数の大口投資家から融資を受け、証券化の必要がない場合には、これで十分である。貸出債権を担保にして幅広い投資家から資金を受け入れるためには、証券化が必要となり、投資家保護のための措置を講ずる必要が生ずる。
しかし、ここでは、この点にこだわらずに貸出債権の担保化を考えてみよう。現行法の下では、次のようなことが考えられる:
- 担保付社債信託法に従って担保付社債を発行する方法 社債権者が個々に権利を行使していたのでは、権利の実現が不十分になりやすい。
担保付社債については、担保権を管理・実行する者を置く必要があり(同法2条1項)、この者が同時に社債を管理する(同法2条2項・35条)。
この者は、許可を得た信託会社でなければならず、社債発行会社や社債権者との関係では受託会社と呼ばれる。この者と担保財産を有する者(委託者)との間で、社債権者を受益者とする信託契約が締結され、
担保権の設定は、この信託契約の中で、受託会社を担保権者としてなされる[54](それゆえ、社債成立前に担保権が効力を生ずることを認める規定が38条に置かれている)。
担保付社債の発行はこの信託契約に従わなければならない(同法2条1項・27条)。 信託会社は、担保権を保存し(同法36条)、
必要があればそれを総社債権者のために実行し(同法37条2項・43条)、換価金を各社債権者に債権額に応じて交付する(同法44条1項)。
社債発行会社について破産手続が開始されると、受託者は破産手続外で担保権を実行することができる。不足額があれば、それを破産債権として行使することができ、
かつ、配当を受けるためには担保権を実行して不足額を証明しておくことが必要である(不足額主義)。
担保財産となっている原資産(複数の貸出債権)の弁済期が未到来の場合には、担保権の実行方法は、それを一括してあるいはいくつかの群に分割して売却することが典型的な方法になるが、その外に帰属清算も考えられる。
- 担保債権を裏付財産にして証券を発行する方法 原債権者が特定の少数の大口投資家から融資を受ける場合には、その融資債権のために原資産の上に質権を設定したり、原資産を譲渡担保に供するだけで足りるが、
証券化の必要がある場合には、SPVを介在させる方がよいであろう。すなわち、SPVが小口債権者から資金を調達して原債権者に貸し付け、
この貸付債権(α債権)の担保のために原債権者が原資産(β債権。貸出債権等の集合である。担保の目的債権の意味で、以下「担保債権」ともいう)をSPVに譲渡する(譲渡担保に供する);
SPVは、この担保債権を裏付財産として証券(ABS)を発行し、小口債権者に交付し、担保債権への弁済金から証券の利払及び元本の償還をする
(SPVが原債権者に融資する資金を調達する段階で、資金調達から原債権者への貸付までの極めて短い期間、小口債権者のSPVに対する債権を原債権者が保証する必要があるかもしれない。
その場合には、小口債権者の原債権者に対する保証債権を被担保債権として原資産上に担保権が設定され、資金調達が完了して原債権者に融資が行われると同時に、
被担保債権をSPVの原債権者に対する融資債権に切り替えることになろう)。 原債権者について破産手続が開始された場合には、SPVは別除権者になり、不足額主義の適用を受ける(198条3項・220条1項)。
したがって、原資産上の担保権を実行して、不足額を確定させる必要がある。
譲渡担保権の実行方法として約定により帰属清算が認められているのであれば、担保となっている原資産をSPVに代物弁済的に帰属させ、
その評価額が被担保債権額に満たなければ不足額を破産債権として行使することになる(評価額の算定に際しては、破産管財人との間で鋭い対立が生じ、訴訟手続で確定する必要が生じたり、
場合によれば、破産管財人との合意により競争売却手続により売却することになる可能性はある)。SPVは、自己に帰属した原資産からの利息及び元本の弁済金から証券を順次償還していくことになる
(この段階では、SPVが発行した証券は、原資産を裏付財産とするABSである)。 その後に、SPVは、原資産を他の金融機関に代金分割払の条件で売却して、
その代金債権(α'債権)を裏付資産にし、かつ、売却した原資産上に代金債権のための担保権を設定させて、 当初の担保関係を復元することもできる。
その実益があるか否かは、状況に依存しよう(コストを考慮すると、原資産を裏付資産とするABSにとどめたままにする方がよい場合が多いであろうが、
担保権実行時(帰属清算時)の市場金利が高いために原資産の評価額が低い場合には、その後に市場金利が低下して評価額が高くなってからSPVが原資産を売却することもあり得よう)。
(c)原債権者の保証付きABS 金融機関が保有する債権を裏付財産あるいは担保財産として用いて資金調達する場合に、それに応ずる投資家から見て最も有利なのは、
原債権者の保証が付いた原債権によって裏付けられた証券(原債権者の保証付きABS)であろう(もちろん、原債権者とSPVとの間で締結される保証契約における合意に従い、相応の保証料が支払われることになる)。
これであれば、裏付資産について債務不履行が生じても、(α)原債権者に保証債務の履行を求めることができ、裏付資産不足になることはない。保証のないABSよりも有利である。
さらに、(β)原債権者について破産手続が開始されても、それに巻き込まれることなく裏付資産から弁済を得ることができる。
また、(γ)原債権者(破産者)に対する保証債権が破産債権として行使される場合に、この保証債権のための担保権が破産者の財産上に設定されているわけではないので[68]、
保証債権について不足額主義は適用されず、保証債権額(=被保証債権額、すなわち、破産手続開始時における裏付資産たる原債権額)の全額で破産手続に参加することができる。
保証人である原債権者について破産手続が開始されたが、被保証債権の債務者については破産手続が開始されていない場合に、SPVの有する破産債権をどのように考えるかの問題が生ずる。
結論のみを述べれば、(α)従前の保証人(原債権者)に支払う保証料と新たに他の者と保証契約を締結して支払う保証料とが同額である場合には、SPVが支払った保証料のうちで未償却分
(保証期間のうちの未経過期間に対応する保証料)の返還請求権が破産債権になるとしてよい。SPVは、新たな保証人に支払う保証料を破産財団からの配当金と裏付財産からの収入(利払金)から支払うことになり、
後者の分だけ、証券保有者は利払金が減少する。それは、保証人の倒産によって証券保有者が負担すべき損失である。(β)前記(α)に該当しない場合については、
後述「6.3 発展的考察」中の「破産した保証人の求償権の処理と破産債権としての保証債権」の項を参照
2.2.3 扶養料請求権
民法877条等の規定による扶養料請求権等は、(α)破産手続開始前に履行期が到来している支分権と(β)開始後に履行期が到来する支分権及と(δ)これを発生させる基本権とに分けて考える必要がある。
前1者が破産債権となることに問題はない(253条1項4号により非免責債権である)。
後2者については、次の点を考慮する必要がある。
- これらを破産債権とすれば、破産手続中は、破産手続外での権利行使が許されず
(100条1項・42条1項・2項)、
また、免責手続中は、新たな強制執行等は許されず、既にされているものは中止され(249条1項)、
免責許可決定が確定すれば既にされている強制執行等は効力を失うことになる
(249条2項。非免責債権のための強制執行も一旦効力を失うとされている)[55]。しかし、その取扱いが扶養料請求権の性質に適するかは疑問である。
- 扶養料請求権は、一種の定期金債権ではあるが、本来、その時々の両当事者の生活状況を考慮してその内容が決定されるべきものであり、債務者について破産手続が開始されたという重要な事情変更があれば、
そのことを考慮して扶養料請求権の内容が決定されるべきである(基本権としての扶養料請求権については、債務者が破産したという事情も考慮する必要があり、権利内容の変容を認めるべき場合もあろう)。
そのような特質を有する扶養料請求権を破産手続開始前に原因のある通常の定期金債権と同様に扱うことには疑問がある。破産手続開始後の支分権は、破産手続開始後に発生したと考える方がよいのではなかろうか。
合意による扶養料請求権については、事情変更の法理を適用して内容を変更すべきか否かが問題となるが、ともあれ変更の余地があり得るという点では法定の扶養料債権と同列に扱うことができる。
- 他方で、253条1項4号が扶養料債権を非免責債権として明示している現行法の下では、破産債権の中に基本権としての扶養料債権に含ませても、
扶養料債権者が権利自体を失うことはない。そして、破産者が労働能力を喪失している等の理由により今後財産を得る見込みがない場合には、将来の扶養料請求権についても破産配当を得ておく方がよいことになる。
ここでは、破産者と扶養料債権者の間の利害の調整よりも、他の債権者との利害の調整が重要である。
当事者の利害状況は個々の事件において様々であろう。
- 破産者が若くて新規の労働収入を得ることができる場合には、将来の扶養料請求権を破産債権として配当に加えることにより他の破産債権者を圧迫するよりは、
破産債権ではないとして、破産手続進行中に破産手続外で権利を行使することを許す方が合理的と思われる。
- 他方で、破産者が新規の所得を得る見込みがない場合には、破産手続は将来の扶養料請求権を取り立てる最後の機会となるから、他の債権者を圧迫することなっても、配当に与からせるべきことになる。
- 個人の破産手続の多くが同時廃止で終了しているという現実を考慮すると、破産財団から将来の扶養料債権を取り立てる可能性は低い。その点に執着するよりは、
破産手続開始後に生ずる扶養料債権(支分権)は、破産債権ではないとした上で、破産手続および免責手続の進行中の権利行使を認めていく方が、現実に即しているようにも思える。
以上の理由によりいろいろ迷うことになるが、現行法の解釈としては、253条1項4号により非免責債権とされている各種の扶養料債権は、
履行期が破産手続開始後に到来するものも含めて破産債権として配当に与からせつつ、破産手続中及び免責手続中の権利行使については、扶養料請求権であるとの特質により例外的にこれを許容することが適切と思われる。
2.2.4 破産手続開始前の弁済による求償権と原債権
債務者のために第三者が弁済をし(民法474条1項)、その第三者(代位弁済者)が、債務者に対して求償権を取得すると共に、 求償を確実にするために、
その債権者が有していた原債権を行使することができる場合に(民法499条・500条)、代位弁済後に債務者について破産手続が開始されると、求償権も原債権も破産債権になる。
求償権者は、(α)求償権そのものを破産債権として行使することの外に、(β)求償権の範囲内において原債権を破産債権として行使することができる。
(β)の選択肢は、原債権のために担保権が設定されていたり、
原債権が財団債権あるいは優先的破産債権になる場合には、重要である。しかし、それ以外の場合をどうであろうか。
求償権の金額と原債権の金額とが一致するとき(例えば、求償権者に負担部分がなく債権者への弁済額の全額を求償でき、かつ遅延損害金額が同じである場合)には、
いずれの権利を行使しても結果は同じであるから、(β)の選択肢にあまり意味はない。
他方、弁済者に負担部分があり、弁済した金額の一部しか求償できないときには、(β)の選択肢の重要性は、弁済者はどの範囲で原債権を行使することができるかという民法501条の解釈に依存する。
[設例1]主債務者Sの債権者Gに対する300万円の債務をA・B・Cが連帯保証し、その負担割合が平等であり、Sにまったく財産がないためにAがGに300万円全額の弁済をした後で、
BとCについて破産手続が開始された。
Bの破産手続において1割配当がなされ、Cの破産手続において5割配当がなされる場合に、Aはどれだけの金額の配当金を得ることができるか。
この点について、次のような見解がある。
- 取得債権額制限説[46] これは、≪代位弁済者は、求償権の金額を基準にして配当を受けるにとどまる≫との結論をとる見解である
([山田*1992a]188頁以下、[八田*1997a]212頁以下、[山本*2002c]271頁・274頁注14)。次の2つの構成が可能であるが、実質は同じである:
一つは、(α)代位により取得する債権額は求償権の金額の範囲に制限されるとの構成;
他の一つは、(β)弁済者は、弁済額に応じて原債権を代位取得するが、破産手続等において配当がなされる場合には、求償権額を基準にして配当を受けるという意味で、
原債権の行使は求償権の範囲内に制限されるとの構成。
前記の設例を(α)の構成に従って説明すれば、次のようになる:Aは、300万円全額を代位取得するのではなく、BとCに対しては、それぞれに対する求償権100万円の範囲で原債権を代位取得するにすぎない;
Bの破産手続においては、代位取得した原債権100万円を基準にして、その1割の10万円の配当を受ける;Cの破産手続においては、代位取得した原債権100万円の5割である50万円の配当を受ける。
- 受領金額制限説 全部義務者の1人が債務の全額を弁済した場合に、彼は弁済額に相当する原債権の全部を代位取得し、
他の全部義務者に対して求償権の全額の満足に至るまで代位取得した原債権全額を行使することができる
([福永*1986a]113頁、[長谷部*2011a]231頁注5、[栗田*2011a]98頁以下・102頁)。
前記の設例にあっては、Aは、300万円全額を代位し、BとCに対しては、それぞれに対する求償権100万円の満足に至るまで、300万円の原債権を主張することができる。
したがって、Bの破産手続においては、原債権300万円を基準にして、その1割の30万円の配当を受け、これは求償権額100万円よりも小さいので、30万円全額を受領することができる;
Cの破産手続においては、配当受領額は求償権額100万円に制限されるので、300万円の5割である150万円ではなく、それより小さい100万円のみを受領することができる。
多くの文献は上記の2つの見解の違いを明確にしておらず、したがって両説の違いを認識した上で取得債権額制限説を採用しているようには見受けられないが、それでも、取得債権額制限説が通説であると言われている
(例えば[八田*1997a]212頁以下)。しかし、この見解では、求償権者の地位が弱すぎる。
[設例2]設例を少し変えてみよう:債権者Gが連帯債務者A・Bに対して300万円の給付請求権を有し、A・Bの負担割合は平等であるとする;AがGに300万円を給付した後で、
Bについて破産手続が開始され、7割配当がなされるものとする。
- 取得債権額制限説では、Aは、求償権(150万円)の範囲で原債権を代位取得し、したがって、代位取得した原債権を破産債権として行使する場合には、150万円の7割の105万円の配当を受けることになる。
AとBの負担割合は平等であり、Bは負担割合に応じた負担をするだけの財産を有していたにもかかわらず、実際の負担は、195万円:105万円である。
- 受領金額制限説では、Aは、150万円の求償権の確保のためにBに対する原債権300万円をもって破産手続に参加することができ、
210万円の配当金請求権をもって求償権150万円を確保するのであるから、150万円の配当を受けることができる。
AとBは、負担割合に応じた負担をしたことになる。
「負担割合に応じた負担」という妥当な結論をもたらすのは、受領金額制限説であり、これが採用されるべきである。
これら二つの見解は、おそらく、弁済者代位の根拠について異なる考えを基礎にしていると見るべきであろう。すなわち、
- ≪他人の債務を弁済したことにより求償権が発生するとともにその確保のために代位が認められる≫と考えると、
その他人との関係で弁済者が負担すべき部分は弁済者自身の債務の弁済であり他人の債務ではないから、その部分については代位は生じない。
この考えを推し進めると、連帯債務者が3人以上の場合でも、弁済をしていない各連帯債務者に対して弁済者が債権者に代位するのは、各連帯債務者の負担部分に限られることになる。
- 他方、代位制度の目的は≪求償権への弁済をできるだけ多く確保すること≫にあり、それが代位制度の根拠であると考えると、次のように説明することができる
(説明の単純化のために、債権全額の代位弁済がなされたことを前提にする):
(要件)代位が認められるためには、(α1)ある者の弁済により他の者が債権者に対する弁済義務を免れこと、及び(α2)弁済者が他の者に対して求償権を取得するという関係があれば足り、
(効果)代位は、求償権をできるだけ多く確保するために、債権者がその他人に対して有していた債権(原債権)全部について生じ、
弁済者は、他の者が原債権全部への弁済として給付すべき金銭を求償権の範囲で受領することができる。
第1の考えは、取得債権額限定説と結びつく。第2の考えは、受領金額限定説と結びつく。いずれも理論的に可能な説明であり、いずれを選択するかは結論の妥当性の評価に依存する。
次の理由により、受領金額限定説と結びつくBの考えを採るべきである。
(α)全部義務制度は、内部関係については各全部義務者に「負担割合に応じた負担」を果たさせることを重要な目標としていると考えるべきである;
取得債権額限定説は、負担部分を有しない全部義務者(例えば保証人)の代位を対象とする範囲ではこの目標を達成することができるが、
負担部分を有する全部義務者の代位(例えば連帯債務者)も対象に含めると、この目標を達成することができない([設例2]参照)。
(β)代位権の行使を「自己の権利に基づいて求償をすることのできる範囲」に制約することには、次の2つの役割がある;
第1は、過剰求償(自己の負担部分についてまで共同債務者から求償を得ること)の阻止であり、第2は、求償の循環の阻止である[CL11]
[59];これら2つ役割を果たさせるために、求償権の範囲内で原債権を取得する(取得債権額制限説)とすることが必要不可欠かと問えば、そうではない;
代位取得した原債権を全額行使することができるが、受領することができるのは求償権の範囲内に限られる(受領金額制限説)とすることによっても、過剰求償も求償の循環も回避できる。
したがって、受領金額限定説の方が妥当な結果をもたらすので、これと結びつくBの考えが採られるべきである。
2.2.5 破産手続開始後に代位弁済をした純然たる第三者の求償権と原債権
全部義務者の1人について破産手続が開始された後に他の全部義務者が債務を弁済した場合(典型的には、主債務者の破産手続開始後に保証人が保証債務を履行し、
それが主債務者のための弁済と評価される場合)については後述することにして、ここでは、破産債権を破産手続開始後に純然たる第三者が代位弁済をした場合について検討することにしよう。
(a)この代位弁済は、148条1項5号の事務管理にあたらず、その代位弁済による求償権は財団債権にあたらない。
この代位弁済によりこの求償権を財団債権とするほどの利益が破産財団に生ずる余地はないからである。
(b)この求償権が破産債権に当たるとすべきか否かについては、議論は分かれる。一方で、(α)「原債権の存在という破産手続開始前の原因にもとづく破産債権」と位置づけた上で、
(α1)これを自働債権とする相殺は許されるべきでないとして、72条1項1号を類推適用する見解(破産債権説)がある[64]。
この説明は、(α2)代位者が求償権の実現のために原債権を破産債権として行使することや、(α3)破産者が免責許可決定を受けた場合にその効力が求償権に及ぶことを説明するうえで優れている。
他方で、(β)破産手続開始後に初めて生ずる権利であるから、非破産債権であり、
したがって、 (β1)破産財団所属債権との相殺は許されない(67条1項参照)との見解(非破産債権説)がある[89]。
非破産債権説を採るべきである。なぜなら、求償権の発生原因は、破産手続開始後の代位弁済にあるとみるべきであり(原債権の存在をもって求償権の原因と見ることには、はなはだ抵抗を感ずる)、
それを前提にして、後2者(α2・α3)の説明を工夫する方が素直なように思える:(β2)求償権が非破産債権であっても、その満足に必要な範囲で原債権を破産債権として行使することができる(後述(c)参照);
(β3)破産者の意思に基づかない代位弁済によって破産者が不利益を受けることは許されないから、原債権に免責許可決定の効力が及ぶ場合には求償権にもその効力は及び、同じ理由により、
破産手続外での権利行使及び自由財産所属債権との相殺も許されない[90](なお、代位弁済が破産手続開始後の破産者の委託に基づきなされた場合には、別途考慮が必要である)。
(c)この求償権を破産債権でないと位置づけると、破産債権に該当しない求償権を有する者は、原債権を破産債権として行使する(配当を得る)ことができるのかという問題が生ずる
(無委託保証人についても、同様な問題が生ずる)。この問題については、次の2つ見解が可能であろう。
- 求償権者が原債権を破産債権として行使するためには、求償権が破産債権に該当することが必要であると考える見解(必要説)。
- 求償権者が原債権を破産債権として行使するためには、求償権が破産債権に該当することは必要なく、破産手続開始後に発生した求償権の満足を得るために、
それに必要な範囲で、弁済により代位した原債権を破産債権として行使することができるとする見解(不要説)。
この問題については、必要説を前提にしてこの求償権は破産債権にあたるとする見解もあるが、この学習ノートは不要説に立つ。最高裁判例は、まだないようであるが、
次の先例から類推すれば、不要説が採用されると見てよいであろう(少なくとも、最高裁が不要説を採用する可能性は、現時点では排除されない)。
2.2.6 間接強制金
民事執行法は、強制執行の方法の一つとして間接強制を認めており(民執法172条)、
その金額は義務の不履行により生ずる損害額を超えることができるとされている(明示的ではないが、民執法172条1項・4項はこれを前提にしている)。
その点で、間接強制金は、債権者と債務者の間で合意される賠償額の予定(民法420条1項)と類似する
(そのため、間接強制金は、裁判による損害賠償額の予定と説明されることもある[38])。
この類似性は、破産手続との関係でも承認されてよいが、ただ、そもそも破産手続開始後に間接強制が許されるかが問題となり、
その問題の答は、間接強制によって実現されるべき執行債権が何であるかに依存する[47]。
(a)執行債権が破産債権である場合には、強制執行は、執行債務者について破産手続が開始されることにより効力を失うので(42条2項)、
開始後の不履行により間接強制金が生ずることもない。破産手続開始前の不履行により生じた間接強制金は、普通破産債権になる。 また、開始後の義務不履行により損害賠償請求権が生じ得るが、
これは劣後的破産債権(97条2号)になる。
(b)執行債権が取戻権であり、その権利の実現のために破産管財人が行為義務を負う場合には、 間接強制が続行され、
間接強制金請求権は財団債権になる(148条1項4号)。
執行債権が人格権に基づく差止請求権である場合も同様である。
(b')ただし、執行債権の実現のための行為義務を負うのが破産管財人ではなく破産者(個人)自身である場合には、 間接強制は続行されるが、間接強制金支払義務の責任財産は、破産者の自由財産である。
例えば、
- 破産者が夜間に騒音を出すことを差し止める請求権の間接強制は、(b')に該当する。動産の取戻権(引渡請求権)の強制執行について間接強制がなされる場合
(民執法173条1項)に、
その動産が破産管財人の現実の管理下にあるときは、(b)に該当し、間接強制金の責任財産は破産財団所属財産である。 破産者自身が隠匿しているときには、
(α)破産管財人が破産者から(必要であれば156条所定の手段を用いて)引き渡しを受けて、取戻権者に引き渡す義務を負い、 間接強制金の責任財産は破産財団であるとするか、
(β)破産管財人はその義務を負わず、間接強制金の責任財産は破産者の自由財産であるとするかが問題となる。 前者の選択肢では、
破産財団に無用な負担が生じ、破産債権者が不利益を受ける。後者の選択肢をとるべきであり、(b')に該当する。
- 不動産については破産者による隠匿は考えられないので、特殊な場合でなければ、破産手続開始の時から破産管財人が不動産の占有を解いて取戻権者に引き渡す義務を負い続けると考えるべきであり、
その強制執行として間接強制がなされれば(民執法173条1項)、その強制金の責任財産は破産財団であり、(b)に該当する。
ただし、破産管財人に引渡義務を負わせるべきではないと考えられる特殊な場合には、制裁金の責任財産は、破産者の自由財産である。
3 破産債権の順位(98条−99条)
3.1 優先的破産債権と劣後的破産債権
破産債権は、配当を受ける順位の点から、次のように区分され、先順位の債権が満足を受けた後で、後順位の債権が満足を受ける(194条1項)。
- 優先的破産債権 99条1項所定の劣後的破産債権に該当するもの
ないし 該当する部分は除かれる。
- 一般の破産債権 (「普通破産債権」ともいう[91]。この学習ノートでは、この語を多く用いる。
「担保権付債権」との対比で「一般債権」の語が用いられることがあり、それとの違いを明瞭にしたいからである)
- 劣後的破産債権
- 約定劣後破産債権
3.2 優先的破産債権
これに該当するのは、次のものである(98条)。
- 一般の先取特権のある債権[CL1] 例:
- 民法306条列挙の先取特権。
- 民法以外の法令により共益費用の先取特権に次ぐ順位が認められているもの 生命保険会社における保険契約者等の先取特権(保険業法117条の2。共益費用の先取特権に次ぐ順位が認められている)。
- 民法以外の法令により民法の先取特権に次ぐ順位が認められているもの 国立大学法人の発行する債券の債権者の先取特権(国立大学法人法(平成15年法112号)33条4項・5項)[10]
、一般電気事業者たる会社の社債権者(短期社債権者を除く)の先取特権(電気事業法(昭和39年法170号)37条1項・2項)、特定目的会社の特定社債権者が有する先取特権(資産流動化法128条)
- 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権には、通常、一般の優先権が認められている(国税徴収法8条では「納税者の総財産について、
[中略]他の債権に先だつて徴収する」権利と表現され、その他の法令では「先取特権」の語がよく用いられている。「一般の優先権」は破産法上の用語であり、
この文脈では、「(国税徴収法又は国税徴収の例によって)義務者の一般財産から優先的に徴収する権利」を包含する)。 例:国税債権(国税徴収法8条)、厚生年金の保険料債権(厚生年金保険法89条。86条5項(国税徴収の例による処分))、
平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律による仮払金を不正に受給した者に対する仮払金相当額の徴収請求権(同法11条)等[56]。
「国税徴収の例」に代えて、「国税滞納処分の例」の語が用いられている場合もあるが、同じである。 例:都市計画法75条の定める受益者負担金(同条5項)。
地方税法の定める滞納処分により徴収することができる請求権にも、一般の優先権が認められている(地方税法14条)。これらの中には財団債権(148条1項2号・3号)となるものもある。
財団債権に該当しないもの(破産債権になるもの)については、届出について特則(114条1号)が設けられている。
- その他の一般の優先権のある債権 企業担保権(株式会社が発行する社債を担保するために発行会社の総財産の上に設定される担保物権である(企業担保法1条)。
優先弁済受領権(ただし一般の先取特権に劣後する)と強制換価権が認められている(同法2条1項・37条1項))。
ここで、「一般の」という語は、「債務者の総財産を対象とする」ことを意味する。一般の先取特権や企業担保権は担保物権であるが、
債務者について破産手続が開始された場合に、破産手続外での権利行使(民執法181条1項4号・
189条・190条1項3号・2項・
193条)を許すと、
債務者の総財産を対象とする破産手続の追行(特に破産管財人による換価)を困難にする虞がある。 そこで、債務者の一般財産を対象とする担保権には別除権が否定され(2条9項参照)、
そのような担保権が付着する破産債権は、優先的破産債権とされているのである。
一般の優先権が認められている債権であっても、破産手続開始後の利息又はこれに相当する延滞税、破産手続開始後の原因に基づいて生ずる債権、 加算税・加算金は、財団債権に該当しなければ、
劣後的破産債権になる(99条1項1号・97条1号・3号・4号・5号)。
日用品供給の先取特権
法人は、その規模・経営態様にかかわらず、
民法306条4号・310条にいう日用品供給の先取特権の債務者に含まれない
(最判昭和46.10.21民集25-7-969──個人経営の有限会社に対する水道代金債権の優先権が問題になった事件)。
この先取特権の債務者は、多額の債務を負った者の生活の保護という法意に照らせば自然人に限られるべきであり、また、もし法人も含まれるとすればその範囲の限定が困難となるからである。
3.3 労働債権の保護
- [大山*2000a]=大山和寿「アメリカ連邦破産法における賃金優先権(1・2・3)−雇人給料及び会社使用人の先取特権を改善する立法論を志向して−」
(早稲田大学大学院法研論集第95号392頁以下、96号322頁以下、97号45頁以下)96号319頁以下
- [藤原*2002a]=藤原清明「アメリカ倒産手続きにおける労働債権の取り扱い(未定稿)」
- [吉田=野村*2013a] 吉田清弘=野村剛司『未払賃金立替払制度/実務ハンドブック』(金融財政事情研究会、平成25年4月24日第1刷発行、254頁)
破産法上の保護
ILO173号条約(C173 Protection of Workers' Claims (Employer's Insolvency) Convention,1992)により、雇主の破産の場合における労働債権の保護が求められている[R77]。
日本は、この条約をまだ批准していないが(2013年10月25日にILOのサイトで確認)、条約の趣旨に副う[そう]方向で改正を続けている。現在、次のような保護が与えられている[9]。
- 破産法149条により、雇主について破産手続が開始される前の3月間の使用人の給料は、財団債権となる。
- 破産手続終了前に退職した使用人の退職手当も、次の金額の範囲で財団債権として保護される。ただし、破産手続開始前に退職した者について、破産手続開始後の遅延損害金まで財団債権とするのは適当ではないので、
「当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分」は財団債権とはならない。
- 破産手続開始前に退職した者については、退職前3月間の給料の総額の範囲内
- 破産手続開始後に退職した者についても、退職前3月間の給料の総額の範囲内が原則であるが、破産手続開始後に給料額が低下することがあり、手続開始前に退職した者とのバランスを失しないようにするために、
退職前3月間の給料の総額が破産手続開始前3月間の給料の総額より少ない場合には、後者の範囲内である。
- 民法308条により、雇用関係に基づき生ずる使用人の債権全部に一般の先取特権の保護が及び、
その順位が共益の費用に次ぐという高い順位が与えられている(民法329条)。
- 破産法101条により、優先的破産債権である給料債権又は退職手当債権について、裁判所の許可を得て、配当開始前に弁済することができる。
1から3は、173号条約5条から8条に対応するものであり、4はILO勧告(R180 Protection of Workers' Claims (Employer's
Insolvency) Recommendation,1992)ACCELERATED PAYMENT PROCEDURES の第6条に対応するものである[R77]。
民法308条の保護を受ける債権
「雇用関係に基づいて生じた債権」が保護を受ける。雇用関係の存否は、契約の形式のみによらず、実質的な労務供給の実態をも総合し、使用従属関係に当るか否かを基準として判断される
(名古屋高(金沢支)判昭和61年7月28日[19])[20]。
次の債権は、これに含まれる。
- 給料債権(いわゆるボーナス(賞与)も含まれる)
- 退職手当債権
- 解雇予告手当支払請求権(労基法20条1項2文)
- 身元保証金返還債権[17]([谷口=筒井*2004a]16頁以下。ただし、反対の趣旨を説く文献もある[18])
社内預金や貸付金は、原則としてこれに含まれない(東京高判昭和62.10.27判時1256号100頁[81])。ただし、
- 会社が賃金の一定日払の原則(労基法24条2項)を逃れるために賃金を社内預金に振り替えたような場合は、賃金債権と見てよい(横浜地方裁判所
昭和61年11月27日 判決(昭和60年(ワ)第2614号))。
- 労働者の雇主に対する貸付金も、特殊な状況でなされた場合には、「雇用関係に基づいて生じた債権」にあたるとされることがある。
浦和地判平成5.8.16判例時報1482-159
従業員が、病気のため2、3カ月間休職したのち、病気が回復したことから復職を申し出たところ、
会社から復職の条件として300万円程度の金員を社内預金名目で会社に預け入れるよう求められたので、銀行預金を中途解約して350万円を社内預金の名目で預けたが、その後、会社が破産した。
この場合に、この金銭は貸付金であると認定されたが、この貸付金債権は、雇傭関係と密接に結び付いたものであるから商法旧295条(現在では民法308条)の適用があるとされた。
なお、労務従事者(労働者)の労務の成果が果実または製作物の形で債務者の財産中に存在する場合には、農業労務従事者は最後の1年分の給料債権について、工業労務従事者は最後の3月分の給料債権について、
その労務成果である果実または製作物の上に特別の先取特権を有する(民法323条・324条)。
賃金立替払制度
未払賃金について、労働者健康安全機構(旧:労働者健康福祉機構、労働福祉事業団)が実施する賃金立替払制度がある[50]。
これにより、破産手続開始申立ての6カ月前の日から2年間以内に退職した者(パート・アルバイト等を含む)の未払賃金のうちの8割が立替払される。
ただし、退職時の年齢に応じて88万円〜296万円の範囲で上限が設けられている[R5]。
また、未払賃金総額が2万円未満のときは対象外となる。立替払の対象となるのは、労働者が退職した日の6カ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している次のものである[7]。
その他の救済策
(a)賃金の定期払 毎月の給料は定期に支払われるべきであり、定期に支払われている限り、会社の倒産時に未払賃金となる額は少ない。
その点で、賃金定期払の原則は重要であり、これを裏付けるために賃金不払罪が規定されている(労基法120条・23条)。しかし、あまり多くのことを期待できないのが実情のようである([大山*2000a]96号322頁以下参照)。
- 違反に対する制裁は30万円以下の罰金だけである。
- 刑罰規定の性格上、賃金を支払うだけの資力がないために支払えなかった場合は対象外で、実際に訴追されることは稀であり、会社倒産の場合に関しては実効性が薄いと言われている。
- 労基法104条1項により労働者が労働基準監督官に賃金不払の事実を申告しても、監督官がなし得る上限は是正勧告にとどまり、しかも、多数の事件を抱える監督官が是正勧告に至る割合は低いと言われている。
(a')最低賃金の支払をしなければ、最低賃金法4条1項違反となり、同法40条により50万円以下の罰金に処せられる。 この容疑での書類送検の例は、時おり報道されている。
例えば、従業員4人に最低賃金を支払わなかったとして最低賃金法違反の疑いで、 プロバスケットボールチームの運営管理会社と
同社の男性社長が書類送検された旨の報道(2013年9月2日)がある<http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013090201002204.html>。
(b)親会社等の責任追及 法人格否認の法理等により親会社等に対して賃金の支払を請求できる場合もあるが、
これは、それらの法理の要件を満たす例外的な場合に有効な方策にとどまる([大山*2000a]96号321頁以下参照)。
Aは、B株式会社に勤めていたが、
B会社についてまもなく破産手続が開始されるため、手続開始の1週間前に退職した。退職当時の毎月の給料は、25万円であった。
AはB会社に対して30万円の未払給料債権と500万円の退職金債権とを有している。
これらの債権は、破産手続上どのように扱われるか。 |
年次有給休暇を得る権利
労働者の年次有給休暇を得る権利(労基法39条)は、雇用関係が存続する限りは、金銭により満足を得ることができる権利ではなく、現実に休暇が与えられなければならない(有給休暇の買取禁止ないし買取予約禁止)。
もっとも、法定日数を超える年次有給休暇を得る権利が雇用契約等により労働者に与えられている場合に、
超過分を買い上げることは契約自由の原則の範囲内のことである。また、未消化の年次有給休暇取得権を残したまま退職する場合に、
残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることも(あるいは、その旨の合意等を予めしておくことも)、労基法39条1項等における「有給休暇を与えなければならない」との規定に反するものではない。
これを前提にして、使用者について破産手続が開始された場合に、次のことが認められるべきである。
- 破産管財人が労基法20条の解雇予告制度に基づいて30日以上の予告期間をおいて解雇する場合に、解雇予告を受けた者は、その時から未消化の年次有給休暇をとることができる。
- 退職の際に未消化の有給休暇日数に応じて調整金が支払われることが定められている場合には、
その調整金の給付請求権は、破産手続開始前に原因のある雇用関係に基づく請求権であり、民法308条の保護を受け、優先的破産債権になる。
- 調整金支払の定めがなされていない場合でも、使用者について破産手続が開始されたという特別の状況にあっては、
民法631条により労働者が解約申入れをするときでも、
金銭補償が許されると解すべきであろう。すなわち、年次有給休暇を得る権利は、破産手続開始前に原因のある非金銭債権であり、
103条2項1号イにより破産手続開始時の評価額をもって破産債権となる
(ただし、強い異論は十分に予想できる)[69]。
3.4 劣後的破産債権(99条)
これに該当するのは、次のものである(破産債権であるので、財団債権に該当しないことが前提になっていることに注意)。
(a)破産債権に附帯する請求権で、破産手続開始後の時期に係るもの(97条1号・2号・3号)
- 破産手続開始後の利息の請求権
- 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
- 破産手続開始後の延滞税、利子税又は延滞金の請求権
(b)破産財団に関して破産手続開始後に原因のある租税等の請求権(国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権)(97条4号) 破産財団に関して
破産手続開始後の原因に基づいて生ずる租税等の請求権は、次の2つに区分され、破産債権となるのはbであり、aは含まれない。
- 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用に当たるもの 148条1項2号により、財団債権となる。
例えば、破産財団に属する財産についての固定資産税や、破産財団に属する財産を売却した場合に生ずる消費税(破産者たる事業者が消費税の納税義務者(消費税法5条)に該当し、
破産管財人による売却が課税対象(同4条)に該当する場合であることを前提とする)。
- その他 99条1項1号・97条4号により劣後的破産債権となる。実際には、それほど多くないが、例えば次のものがこれに該当すると考えられている。
- 別除権の目的である土地の別除権者に対する優先弁済部分を基礎とする土地重課税部分([小川*2004a]197頁) なお、土地の短期譲渡益に対する重課税(追加課税)制度は、
平成10年から停止されている(停止措置の延長の繰返しにより、2020年3月31日まで停止。これ以降についても、さらに3年間の停止(令和5年3月31日までの停止)が国土交通省から「令和2年度税制改正要望事項」としてが要望された)。
- 破産法人について、破産手続開始後に生じた所得がもしあれば、それに対する法人税。
(c)公法上の制裁的請求権(97条5号・6号) 精確には、97条5号の加算税等の請求権、6号の罰金等の請求権である。
これらは、主として、制裁を科された本人に苦痛を与えることを目的とするものであり、したがって非免責債権であり
(租税につき253条1項1号、罰金等につき同項7号)、
一般の破産債権者を圧迫してまで徴収する必要性は高くないので、 一律に(つまり、破産手続開始後に原因があるか否かにかかわらず)、劣後的破産債権とされた。
なお、再生手続においては、開始前の罰金等の請求権は再生債権であるが(97条1号)、 再生計画において権利変更の定めをすることができない(155条4項。その代わり、
これらの請求権について再生債権者は議決権を有しない(87条2項));つまりは、再生計画に従って弁済がなされる場合には全額の弁済がなされることになり、
それだけ、他の再生債権者の弁済が減少することになる;そのことは、倒産処理手続の選択の際に考慮されるべき一つの要素になろう。
(d)破産手続参加費用(97条7号)
(e)無利息債権・定期金債権の中間利息相当額(99条2号−4号) 利息付債権について、破産手続開始後の期間に対する利息は、
劣後的破産債権とされている。これとのバランスをとるために、無利息債権については、本来の弁済期よりも前の時点で弁済を受けることによる利得を調整する必要がある。
その利得の計算は、比較的単純な場合(2号の場合)については、法定利率を用いて計算され、一種の利息と観念されるので、中間利息と呼ばれる(「無利息債権についてなぜ中間利息を観念するのか」
という質問を時折受けるが、破産手続開始時に弁済を受けると仮定した場合の、この時から本来の弁済期までの法定利率による利息を意味する。
約定の利息ではなく、「仮想の利息」と言ってよく、端的に「中間利得」と言う方が分かりやすいかもしれない)。中間利息相当額が劣後的破産債権となる。
- 2号 期間と金額の確定している無利息債権については、[債権額]=[普通破産債権額]+[これに対する破産手続開始時から弁済期までの法定利率による中間利息相当額]
となるように定められた中間利息相当額が劣後的破産債権となる。例えば、破産手続開始の時から1年後に弁済期が到来する105万円の無利息債権(非商事債権)については、
破産手続開始時に100万円の現金を民事法定利率(平成29年民法改正前にあっては年5%)で1年間運用すると1年後に105万円となるので、5万円が破産手続開始後の中間利息相当分として劣後的破産債権となり、
これを控除した100万円が普通破産債権となる[22]。なお、計算の負担を軽減するために、
破産手続開始の時から期限に至るまでの期間に1年未満の端数があるときは、これを切り捨てて、整数の年数で計算する。
例えば、破産手続開始から11ヵ月後に弁済期が到来する105万円の無利息債権は、年数が0であるので、劣後的破産債権となる中間利息相当分はなく、普通破産債権額は105万円となる。
破産手続開始から13ヵ月後に弁済期が到来する105万円の無利息債権は、年数が1であるので、劣後的破産債権となる中間利息相当分は5万円であり、普通破産債権額は100万円となる。
- 3号 弁済期が不確定な無利息債権について、[債権額]から[破産手続開始時における評価額]を控除した差額。
- 4号 金額と存続期間が確定している定期金債権について、次の金額の合計額[11]。
- [各期の中間利息相当額の合計額 (a)]
- ([各期の債権額の合計額(p)]−[各期の中間利息相当額の合計額(a)])−[法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額(q)]。ただし、この数額が正の場合に限る。
4号について補足しておこう。普通破産債権と劣後的破産債権の合計額は、いずれの場合でも、pである。
- bの金額が負の場合には、劣後部分は、aの金額のみである。普通破産債権額は、、p−aである。
- bの金額が正の場合には、劣後部分は、aとbの合計額であるので、結局、劣後的破産債権額は、p−qとなり、普通破産債権額は、qである。
特別法による順位の変更
特別法により、特定の破産債権の間で順位の変更が行われることがある。例えば、地下鉄サリン事件等において多数の者に惨禍をもたらしたオウム真理教に係る破産手続においては、
被害者の救済のために、特別法(平成10年法律第45号)により、労働者災害補償保険法等により国が取得した
損害賠償請求権等の一定範囲の債権は、
「国以外の者が届け出た債権のうち生命又は身体を害されたことによる損害賠償請求権に後れる」ものとする措置がとられた[12]。
約定劣後破産債権(劣後ローン)
破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされている債権を
「約定劣後破産債権」と言う。
このような合意も契約自由の範囲内にあり、当事者間の合意を尊重して、破産手続上もその効力が承認されている
(99条2項)[8]。
約定劣後債権は、主として国際決済銀行(BIS)による自己資本規制との関係で導入されるものであり
[13]、99条2項であげられている合意と異なる劣後合意が付されることはほとんどないと思われる。
しかし、理論的には、それもあり得ることである。そのような債権劣後の合意についても、それが他の破産債権者の利益を害さなければ、破産手続上はその合意に応じた順位を認めるべきである。例:
- 当該債権の破産手続開始時点での元利金の半分のみを劣後的破産債権よりも後順位におく合意
- 当該債権の元本部分を普通破産債権と劣後的破産債権との中間の順位におく合意
その点からすれば、99条2項はそこに示された合意の効力を破産手続上も承認する規定であると同時に、劣後合意の解釈規定でもあると言うことができる。
なお、あまりにも複雑な劣後合意で、破産配当になじまないようなものは、99条2項の劣後合意として扱うべきである[15]。
債権者間の公平の確保のための劣後化
明文の規定がない場合でも、債権者間の公平を確保するために、普通破産債権の一部の劣後化が必要となる場合がある。
例えば、最高裁判所平成20年6月24日第3小法廷判決(平成19年(受)第1146号)は、
破産が関係しない場合(したがって、債権者間の衡平が問題にならない場合)に、
≪反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,
同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,
被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも許されない≫としている。
では、加害者について破産手続が開始され、損害賠償請求権が破産債権として行使される場合には、どう考えたらよいであろうか。債権者間の平等の視点から、
損益相殺的な調整が必要となろう[24](裁判官田原睦夫の反対意見がこの問題を指摘している。
破産手続外では損益相殺的調整を否定し、破産手続では肯定することは、同反対意見が指摘するように確かに、「実務処理上,非常に難しい問題を生じかねない」が、しかし、解決はなお可能であろう)。
調整の方法としては、破産債権として届け出られた損害賠償請求権について、(α)利得相当額だけ破産債権額を減少させることも考えられるが(強い調整)、それでは最高裁判例の趣旨から離れすぎよう。
(β)むしろ、利得相当額を劣後化するにとどめる方がよい(弱い調整)。
また、この調整を、同種の反倫理的不法行為により損害を受けた債権者間でのみ行うべきなのか、それとも全ての破産債権者との関係で行うべきなのかが問題となるが、
問題の簡明な解決のためには、全ての破産債権者との関係で利得相当額を劣後的破産債権とすることを原則とすべきである(公平の視点からの調整であるので、最終的な結論は事案に依存する)。
優先的破産債権の劣後的部分
優先的破産債権は、一般の先取特権等を認められた債権としての特質により、破産手続開始後の利息・損害金の部分をも普通破産債権に優先させることが考えられないわけではない。
しかし、破産法は、普通破産債権者とのバランスを考慮して、99条1項の規定により劣後的破産債権となる部分については、
優先権を認めないこととした(98条1項かっこ書)。例:
- 破産手続開始前に供給された水道水の代金債権等は、一般の先取特権が認められ、優先的破産債権となるが、
その債務の破産手続開始後の履行遅滞による損害金部分には、優先権は認められない。
- 破産手続開始前に原因があるため優先的破産債権となる租税等の請求権についても、その破産手続開始後の延滞税等は劣後的破産債権となる
(99条1項1号・97条3号)。
財団債権には前記のルールは適用されない。財団債権の破産手続開始後の利息・遅延損害金は、別段の規定がなければ、財団債権である。例:
- 使用人の給料債権のうち財団債権となる部分については、破産手続開始後の遅延損害金も財団債権となる
(ただし、退職手当については、149条2項の最初のかっこ書に特則がある)。
他方、これに該当しない部分は優先的破産債権でしかないから、破産手続開始後の遅延損害金には優先権が認められない。
劣後的破産債権間の順位
優先的破産債権の間の順位については98条2項、
財団債権の間の順位については152条の規定があるが、
劣後的破産債権については、特に規定はない。 したがって、劣後的破産債権は、その債権額に応じて比例配分を受けることが原則となる(194条2項参照)。
優先的破産債権の劣後的部分と普通破産債権の劣後的部分との間では前者を優先させてもよさそうにも思えるが、特に規定がおかれていない以上、上記の原則に従い、平等であると解さざるをえない。
ただ、それでも、次の債権については、それが違反者に対する制裁であること、債権発生原因が破産手続開始の前後のいずれにあるかを問わず破産債権とされていること、
及び免責許可決定の効力が及ばないことを考慮すると、配当の順位は他の劣後的破産債権に後れるとしてよいであろう。
法人の財産的基盤として拠出された財産の返還請求権は、法人の破産手続において、他の全ての破産債権に後れる(約定劣後破産債権にも後れる)。例:
- 会社の株主・社員の残余財産分配請求権
- 一般社団法人の基金の返還請求権(一般法人法145条)
優先特約付債権
劣後特約付債権の反対物として優先特約付債権も考えられないわけではないが、現行法上は、その特約は、特約債権者と債務者との間で債権的効力を有するにとどまり、
破産手続において他の債権者に優先して弁済を受ける効力までは認められない(他の債権者の承諾ないし同意がある場合には、
その特約とともにその同意が債権確定手続及び配当手続において考慮される余地はある)。
他の破産債権者との関係でも優先権を主張することができるようにするためには、原則として、物的担保権の設定が必要である。
余談──トランシェ(シニア・メザニン・エクイティ)
一人の債務者に一人の債権者がある時に1回の融資をする場合には、通常は、その融資債権は1個であり、1個の債権内部で順位を付ける
(すなわち、1個の債権を複数の部分に切り分けて各部分の間で順位を付ける)必要はない。
他方、1人の債務者に複数の者が資金を出し合って多額の融資をするシンジケートローンにあっては、融資者の投資方針が異なることがある。
- ある者は、安全確実であることを重視し、
- ある者はむしろ高い利回りを重視し、
- ある者は、中程度の利回りと中程度の安全性を目標とする。
その場合に、各融資者が債務者と自分の投資方針にあった内容の融資契約を締結して、各融資者が債務者に対して直接に債権を得ることも、もちろん可能である。
しかし、債務者と投資家との間に一つの法人格(媒介法人)を置き、投資家から集めた資金を媒介法人が債務者に融資し、媒介法人が債務者から担保権の設定を受け、
万一にも債務者が倒産した場合には、担保権を実行して回収した金銭と不足額に対する破産配当により得られた金銭とを投資家の間で予め定められた順位に従って分配する方が、
各投資家の希望に柔軟に対応することができる。
例えば、ある者が100億円の融資を受けようとしていて、彼が提供できる担保の現在価値は100億円であるが、万一にも彼が倒産した場合に、 担保権を実行して回収できる金額は90億円から70億円であると予想されるとしよう。
この場合に、彼に対する100億円の債権のうち、70億円分は安全性が高い; 20億円分は、担保権を実行して回収できるとは限らないが、回収できる可能性もある部分であり、その安全性は中程度である;最後の10億円部分は、
債務者が倒産しない限り回収可能であるが、 しかし、万一倒産すれば回収不能となる確率が高い部分である。 媒介法人が債務者に対して取得する債権の実質的な内容がこのようなものであることを考慮して、
媒介法人が回収した金銭をまず高い安全志向の債権者に支払い、
残余があれば、中程度の安全志向の債権者に支払い、 さらに残余があれば、低い安全志向の債権者に配当するとの条件を設定し、債務者から支払われる利息を安全性の低い債権者により多く支払い、
安全性の高い債権者により少なく払うようにすると、各投資家の投資方針に合致した投資が可能になる[71]。
このように、安全(債務者が倒産した場合の回収金の弁済順位)とリターン(債権者に支払われる利息の率)等で差異を設けることにより一つの債権を切り分けた場合に、
各々の切れ(部分)をトランシェ(フランス語)あるいはスライスと呼ぶ。各トランシェは、様々に名前を付けることができる。 トランシェA、トランシェB、トランシェCでもよいが、
しばしば、安全性の高いトランシェから順に、シニア、メザニン、エクイティと呼ばれる。 シニア部分の債権者からみると、それは、「優先劣後構造」を利用した債権の安全性の向上である。
この手法は、1つの債権の内部的な順位付けと言うことができる。破産手続に直接登場する債権者は、1つの媒介法人であり、その破産債権は通常の順位の原則に従う。
破産手続上は上記のトランシェを考慮しなくてもよい。本来ならば破産手続においてなされるべき配当を破産手続外で行うことになるのであるから、
破産手続の単純化という視点からすれば、これは好ましい融資手法である。
上記の手法は、媒介法人が複数の債務者に融資して、融資債権を一つにプールする場合にも、使用することができる。 この場合には、大きな経済変動がなければ複数の債務者が同時に倒産する確率は低いことを利用して、
媒介法人の債務者に対する債権を無担保債権にすることも可能である。 もちろん、こうした融資手法の安全性が過信され、信用が膨張しすぎると、
その後に通常は信用収縮(バブルの崩壊)という大きな経済変動が生じ、
多数の債務者が同時に支払不能に陥ることになり、安全なはずであった融資手法が少しも安全ではなかったことになる。 アメリカ合衆国において2000年代に見られた住宅ローンの膨張とその崩壊
(特に低所得者向けのサブプライムローンの崩壊──2008年9月にリーマン・ショックをもたらした)による金融危機・経済危機は、 その代表例である[72]。
4 破産債権の行使(100条−103条)
4.1 原則
破産債権は、(α)その権利者が破産手続に参加して(債権を届け出て)、確定手続を経て、破産財団からその順位と債権額に応じた満足を受けることができる債権である。
それとともに、(β)破産手続によらなければ行使することができないという制約を受ける。
権利行使の制約は、次のように説明される。
- 包括的な執行手続である破産手続が開始されているので、破産財団に属する財産に対する個別の権利行使は許されない(42条)。
- 破産者の自由財産に対する権利行使も許されない。自由財産に対する強制執行のみならず、仮差押えも[1]、
裁判上の請求も許されない[106]。裁判外の請求も許されるべきでない。根拠:
- 破産手続中は、破産者を債権者との対応から解放して、経済的更生の機会を少しでも多く与えるほうがよい。
- 破産手続開始後に、破産者の自由財産を用いた経済的活動を容易にするためには、破産手続中は彼の自由財産が破産債権の責任財産にならないとしておくのが適当である。
- 債権者は破産財団から満足を得るのであるから、破産手続中は、自由財産から満足を得させる必要はない。
4.2 例 外
権利行使の制約については、次のような例外がある。
例外1 租税等の請求権(100条2項)
- 破産手続開始前に既に国税滞納処分(25条1項かっこ書参照)がなされている場合に、
その続行が認められている(100条2項1号・43条2項)。
租税等の請求権は、財団債権又は優先的破産債権になるという形で優遇されており、破産手続開始後の続行を認めても破産債権者を害する可能性は低いからである。
- 納税者が還付金・過誤納金の返還請求権を有する場合でも、徴収権限を有する者は、還付金・過誤納金を租税等の請求権に充当することができる(100条2項2号)。
破産手続が開始されていない場合には、そうすることが義務づけられており(国税通則法57条1項1文)、相殺に類似するからである。
例外2 労働債権の許可弁済(101条)
労働債権は、期間の限定なしに一般先取特権による保護を受け、優先的破産債権になるのが原則である。そこで、優先的破産債権である給料の請求権又は退職手当の請求権について届出をした破産債権者が、
これらの破産債権の弁済を今受けなければその生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、
裁判所は、最初に配当をするまでの間、 破産管財人の申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができるとされた。
この許可弁済が必要となるのは、給料債権のうち財団債権となるものの弁済を受けてもなお生活が困窮する場合である。
この許可は、財団債権者又は他の先順位若しくは同順位の優先的破産債権を有する者の利益がその弁済により害されるおそれがないときに限り与えられる。
労働債権を有する破産債権者には申立権は与えられていない[14]。
しかし、彼は破産管財人に、この申立てをすべきことを求めることができ、それを求められたときは、破産管財人は、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならない。
この場合において、破産管財人は、その申立てをしないこととしたときは、その事情を遅滞なく裁判所に報告しなければならない(101条2項)。
裁判所が職権ですることができるとされたことには、次の2つの意味を認めることができる:(α)労働者からの求めにもかかわらず、破産管財人が申立てをしない場合に対処するため;
(β)労働者が101条の規定を知らない場合があり、労働者が破産管財人にその申立てを求めるのを待っていたのではその生活が破壊される虞があることに対応するため。
例外3 債権の種類を問わず、破産債権者は、破産手続外で次の態様で権利行使をすることができる。
- 破産者による自由財産からの任意弁済が許容される範囲で、破産債権者がそれを受領することは許される(破産債権者の側からの弁済請求は、裁判上の請求はもちろん、裁判外の請求であっても許されない)。
しかし、その前提となる破産者の側からの任意弁済の許否については、争いがある。これを許せば裁判外の請求を誘発することになるので許されないとする見解も有力である([山木戸*1974a]34頁、[高田*2002a]764頁など)。
しかし、自由財産からの任意弁済まで禁止する必要はないというのが、現在のところ、
多数説である。最高裁判所平成18年1月23日第2小法廷判決(平成17年(受)第1344号)も、
破産手続中,破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられないとする。
ただし、自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり,
破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済をなすことを強制されるものではないことからすると,
破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり,少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たると言うことはできない(前掲最判)。
- 破産者が外国において有する財産も破産財団に含まれるが(34条1項かっこ書)、
日本において選任された破産管財人が当該在外財産を現実に管理することができない場合には、個々の破産債権者が当該在外財産に対して権利行使をすることも許される。
ただし、日本において破産手続が行われている間に在外財産から弁済を受けると、日本の破産手続においては、
その満足額に相当する配当があったものとして扱われる(109条。
≪これは、満足額が日本の破産手続の配当として扱われる≫ことにちなんで「配当組込主義」と呼ぶことができる。「ホッチ ポット ルール」とも呼ばれる)。
なお、例外に含めるのが適当かどうかは微妙なところであるが、破産手続中に更に債務者について破産手続が開始された場合には、最初の破産手続の破産債権者は、
第2の破産手続に参加することが認められていることにも注意してよい(108条2号後段参照)。
4.3 破産管財人による相殺(102条)
破産債権者に対する債権が破産財団に所属する場合に、破産債権者からの相殺は、67条により、原則的に許容されている。
しかし、破産管財人の側から相殺することは、それが破産手続によらない弁済と同等の効果を持つことから、原則として許されない。
なぜなら、破産管財人は、破産債権者に対して破産財団所属債権の弁済を求めるべきであり、もし破産債権者が相殺権を行使することなくそれに応じ、
そして破産債権については比例配分的満足を甘受するのであれば、その方が破産財団にとって有利だからである。
しかし、破産管財人の側から相殺しても破産財団にとって不利でない場合には、それを許容すべきことになる。
ただ、その要件を厳格あるいは細かに規定すると、さまざまな場合に柔軟に対応することができなくなる。
そこで、次の柔軟な要件の下で、破産管財人は、破産財団に属する債権をもって破産債権と相殺することが許容された(一般の民法等の規定により相殺が制限されている場合には、
裁判所の許可があっても相殺できないことに変わりはない。民法509条以下、国税通則法122条参照):
- その相殺が破産債権者の一般の利益に適合すること、かつ
- 裁判所の許可を得ること
例えば、
- 相手方の債権が別除権付債権であり、別除権行使により当該債権の全額を回収することができる場合 破産管財人は、自分の側から迅速に相殺して被担保債権消滅させることにより、
担保権が設定されていた財産(特に不動産)を迅速に任意換価することができるようになる。
- 財団所属債権が時効にかかっている場合(民法508条参照)
- 破産債権者についても破産手続が開始されている場合([法務省*2002c2]175頁) 双方の債権額が同額の場合でも、
予想配当率が異なるときは、理論上は、高配当率の破産財団の側からの相殺はその破産債権者の一般の利益を害しないが、
低配当率の破産財団の側からの相殺はその破産債権者の一般の利益を害することになる。
しかし、いずれにせよ少なくとも一方の破産財団の破産管財人が相殺することができるのであるから、この理論上の点に拘るのは適当ではなく、いずれの側からも相殺することができるとすべきである。
上記の裁判所の許可がない場合には、破産管財人が破産債権確定訴訟において相殺の抗弁を提出しても、その抗弁は許されない(旧法下の事件であるが、大阪高判昭和52年3月1日判例タイムズ357号257頁参照)。
なお、相手方が相殺することなく破産債権を届け出た場合に、その債権が確定して配当表に記載され、配当額の通知(201条7項)又は配当率の通知(211条)により配当金請求権になった段階では、
管財人が破産財団所属債権をもって配当金請求権と相殺することは、配当金を支払うことと同等であり、これについては裁判所の許可は必要ないとしてよい。
4.4 破産債権者の手続参加(103条)
破産債権者は、自己の破産債権をもって破産手続に参加することができる。すなわち、破産債権を届け出て、債権確定手続を経て、順位と債権額に応じた配当を得ることができる。
103条2項の「破産債権の額」
103条2項は、債権者が破産手続に参加することができる債権の額を定めているが。規定の要点は、確定金額があるものはそれにより、確定金額がないものは破産手続開始時の評価額をもって債権額とするということである(不法行為による損害賠償債権の額は、生じた損害の評価を経て定まるが、破産債権として行使されるのは、不法行為法により金額が確定した債権である)。この規定から普通破産債権額と劣後的破産額を確定することはできない。その意味で、同項柱書の「破産債権の額」は、幾分抽象的な金額であるが、68条2項により破産債権者はこの金額で相殺することができるとされているので、それに適合するように定めることが必要であり、「破産手続開始時の債権額」と解するのが合理的である(68条2項との対比で、同条1項により相殺に供することができる債権額は普通破産債権額に限定すべきだからである)。以下で、2項柱書の金額を「≪破産債権額≫」と記し、各号所定の債権について、普通破産債権額と劣後的破産債権額を見ていこう。
(イ)「金額が確定している金銭債権」、つまり「103条2項1号に列挙されている債権以外の債権」については、
≪破産債権額≫は、(破産手続開始時の)債権額である(103条2項2号)。その中身は、債権の種類により異なる。
- 無利息債権 無利息債権の中には、本来の弁済期がすぎても遅延損害金が生じない性質のものもあり得ようが、ここでは、遅延損害金が生ずる性質の無利息債権を念頭に置く。
- 破産手続開始後に弁済期の到来する無利息債権 これの≪破産債権額≫は、[発生時の債権額(契約により生ずるものについては、約定債権額)]=[開始時の債権額]である。それが劣後部分(99条1項2号)とこれを控除した普通部分とに分解される。
破産債権者が相殺に供することができるのは、普通部分である(68条2項)。このほかに、本来の弁済期をすぎても最後配当が行われない場合には、その損害金債権も劣後的破産債権(97条2号・99条1項1号)になる。 99条1項3号・4号の定期金債権についても、同様である。
- 破産手続開始前に弁済期の到来した無利息債権 これの≪破産債権額≫は、[発生時の債権額]と[履行期後・手続開始の前日までに生じた遅延損害金]の合計額である。このほかに、破産手続開始後の遅延損害金債権も劣後的破産債権(97条2号・99条1項1号)になる。
- 利付債権
- 破産手続開始前に発生して弁済期が到来しているもの これの≪破産債権額≫は、[元本額]と[破産手続開始の前日までの利息・遅延損害金]との合計額であり、それが普通破産債権額になる。
破産債権者は、このほかに、破産手続開始後の利息・遅延損害金を劣後的破産債権として行使できる。
- 破産手続開始後に発生するもの これの≪破産債権額≫は[発生時の債権額]である。[開始時の債権額]の原則の例外になる。
普通破産債権額は、個々の類型の債権の性質を考慮して定める必要があり、どのように定めるかは個々の類型に依存する。
例えば、破産手続開始前の不法行為による損害賠償債権で、開始後に顕在化した損害に係るものについては、損害評価時点で確定する損害賠償債権額が全て普通破産債権額になる
(破産手続開始の日から後遺症発現時点までの中間利息相当額を劣後的破産債権とすることも一応考えられるが、それは衡平に反するように思われる)。
受託保証人が破産手続開始後に代位弁済をしたことにより発生する求償権額は、[被保証債権の消滅のために支出した財産額(かつ、消滅した債権額を超えない額)](民法459条1項)であるが、
その内で、普通破産債権額となるのは被保証債権の普通部分に充当された金額であり、劣後部分に充当された金額に係る求償権は劣後的破産債権になる(代位弁済により他の破産債権者が不利益を受けてはならないからである)。
この外に、前記求償権額に対する利息・損害金額も劣後的破産債権額にも含まれる。
(ロ)103条2項1号に列挙された下記の債権 これらは、破産手続開始時に金額が確定していないので、破産手続開始時における評価額が破産債権額になり、
債権者はそれを普通破産債権として行使することができる。その外に、
その評価額に対する破産手続開始後の利息・遅延損害金の請求権を劣後的破産債権として行使できる(利率は、約定のあるもの(例えば、利付外国通貨債権)についてはその利率により、
約定のないものは法定利率による)。
- 金銭の支払を目的としない債権 物の給付請求権や代替的作為請求権が代表例である。
破産者から買受けた不動産は、登記がないと買主は所有権取得を破産管財人に対抗することができないので、
破産手続開始前の売買契約により所有権が移転し引渡がなされていて、登記請求権のみが未履行の場合も、これに該当する(対象不動産の価額が破産債権額になる。後述5.2中の「非金銭債権の評価」参照)。
- 金銭債権で、その額が不確定であるもの又はその額を外国の通貨をもって定めたもの 日本の破産手続では円で配当がなされるので、
外国通貨債権は破産手続開始時刻の為替レートで換算された円建債権になる。
- 金額又は存続期間が不確定である定期金債権
4.5 条件付き破産債権(103条4項)
文 献
- [栗田*2018a]=栗田隆「停止条件付債権と破産法── 敷金返還請求権、現金決済型CDS及び保証人の求償権を中心にして ──」関西大学法学論集67巻6号(平成30年3月1日)1頁−40頁
条件付破産債権の金額は、原則として、無条件の破産債権と同様にして決定する(103条4項)。
配当するか否かの決定基準は、次の表のようになる(198条2項)。
条件成就の時期 |
停止条件付き債権 |
解除条件付き債権 |
最後配当の除斥期間(*)の満了までに条件成就 |
配当 |
配当不可 |
その後に条件成就 |
配当不可。免責決定があれば、債務者に請求できない |
配当。しかし、返還しなければならない(**) |
(*) 除斥期間は、最後配当の公告等の日から2週間である。198条2項参照。
(**) この配当金は配当財団に属する財産であるので、原則として管財人に返還されて、追加配当の原資となるべきである。
しかし、破産手続の終結から相当期間経過後は、破産者に返還されるべきことになろう(破産者が法人の場合には、それもない)。
また、手続の終了を明確にする趣旨で、破産手続終結後に条件が成就した場合には、返還金請求権は破産財団に属さないと考えることも可能である。
なお、停止条件付債権の中には、条件成就の時に初めて債権額が確定するものもある。そのような特質をもつ破産債権の金額の確定については、[栗田*2018a]を参照。
4.6 破産債権者と破産債権行使者と配当受領者との分離
破産債権は、通常は、その帰属主体が行使する(債権を届け出て、確定手続で異議等が出されれば確定のための手続を追行し、また、債権者集会において議決権を行使する)。
配当金も、彼が受領する。しかし、破産債権の帰属者と行使者と配当受領者とが異なる場合もある。
(1)破産債権が差し押えられている場合 例えば、債権者Aの債務者Bに対する金銭債権の全額をAの債権者X1とX2が同時に差し押さえ、
X1又はX2のBに対する取立訴訟において供託を命ずる判決(民執法157条4項)が確定した後で、Bが破産手続開始決定を受けた場合には、
X1又はX2がAのBに対する破産債権を行使することになる。
配当金は、供託の方法で支払われる。この場合に、どの規定により、どの供託所に供託すべきであろうか。
- 破産手続における配当金の支払場所は、「破産管財人がその職務を行う場所」であり(破産法193条2項)、
破産法202条3号の規定により供託する場合には、破産管財人の事務所の所在地を管轄する供託所に供託することになる。他方、
- 民事執行法156条2項にいう「債務の履行地の供託所」は、本来は、民法等の規定により定まる義務履行地であり、
通常は、債権者の現在の住所地となる(民法484条)。
両者が異な場合の処理が問題となるが、債務者が破産手続開始決定を受けたことにより、破産配当の方法で弁済がなされる場合については、
民執法156条2項所定の義務履行地は、
破産法193条2項の配当金支払場所に変更されると解してよく、破産管財人は、自己の事務所の所在地の供託所に供託すれば、
民執法156条2項の供託をしたことになると解すべきであろう。破産管財人は、その点も含めて、同条3項の届出をすべきである。
(2)第三者への金銭給付を求める請求権が破産債権である場合 当事者の一方Xが他方Yに対して第三者Zへの金銭給付を求める請求権を有するという法律関係は、さまざまな原因によって生じ得るが、
その請求権が契約によって生ずる場合には、その契約は第三者のためにする契約と呼ばれ、別段の合意がなければ、第三者が受益の意思表示をしたときに、
第三者Zの債務者Yに対する権利が発生する(民法537条3項)。
この場合に債権者Xの債務者Yに対する権利(第三者Zへの給付を求める権利)がどうなるかは、契約において自由に定めることができることであるが、
ここでは、債権者Xの履行請求権は消滅しない場合を想定しよう。
そして、債権者は、第三者との関係で、債務者の義務の強制履行の責任を負うとされることも十分にあり得ることであり、ここではそのような責任を負担しているものとしよう。
この請求権の性質付けについては、金銭執行により実現されるべき請求権とするか、代替執行の方法により実現されるべき請求権とするかの問題がある。
給付義務の内容を問うことなく実施することができる執行方法(その意味で一般的な執行方法)は、代替執行であるが、金銭給付が問題となる場合については、
すなわち「第三者へ金銭を支払うことを求める権利」については、
金銭執行により実現することができる請求権と性質付けてよいであろう(配当を受けることができるのは第三者である)。
もし、代替執行の方法により実現されるべき請求権とすると、破産手続においては、「債権者に費用相当額の金銭を支払うことを求める請求権」に転化してしまい、
本来の内容である「第三者へ金銭を支払うことを求める権利」から必要以上に離れてしまうからである。以下では、このことを前提にする。
上記の場合に、債務者について破産手続が開始されたときは、第三者(受益者)ではなく債権者が破産債権者であり、彼が破産債権を届け出て、
債権確定手続に関与し、債権者集会において議決権を行使するとすべきである。
しかし、配当金は、第三者(受益者)に交付されるべきである。第三者が配当金を受け取りに来ない場合には、 破産管財人は、配当金を供託することになる(破産法203条)。
債権者と第三者との間で債務者が第三者の現在の住所地で給付することが予定されている場合(持参債務とされている場合)には、債権者と第三者との間で債権者の義務不履行の問題を生じさせることがあるかもしれないが、
その問題は破産手続外の問題として債権者と第三者との間で解決を図るべきであろう。 例えば、債権者が第三者から配当金の受領について代理権を得て、債権者が配当金を第三者に持参することが考えられる。
なお、第三者が受益の意思表示を破産管財人に対してし、第三者の権利が確定するとともに、権利の強制的実現の負担から債権者が解放されたと見ることができる場合には、
第三者(受益者)と債権者とは共同して権利(ないし権利行使資格)の移転を届け出ることができ、その届出以降は、受益者を破産債権者として扱うことができるとしてよいであろう。
上記のように、破産債権の帰属者とその行使者と配当金受領者とが異なることがある。このような場合には、誰が何をすべきなのか、特に債権の届出、債権確定手続への関与、
議決権の行使をするのは誰であるのかが明確にされなければならない。
5 まとめと発展的問題
5.1 破産債権の等質化
破産手続は、破産者の財産(破産財団所属財産)を換価して得られた金銭を破産債権者に公平に分配する手続である。そのために、内容の異なるさまざまな破産債権を金銭債権として等質なものにする必要がある。
これを破産債権の等質化と言う。等質化の基準は、103条2項・3項および99条1項に示されている。
破産債権の等質化のために、次の処理がなされる。
- 金銭化(103条2項1号イ) 非金銭債権についておこなわれる。
- 現在化
- 期限の到来 弁済期未到来の期限付債権も破産手続開始の時に弁済期が到来したものとみなす
(103条3項。民法137条1号も参照[101])。
- 数額の現在化 無利息債権等について、破産手続開始時に弁済されるとした場合に受けるべき金額(法定利率による中間利息相当額を控除した後の額)を算定し、
これをその普通破産債権額とする(99条1項1号・97条1号-3号・99条1項2号-4号。なお、68条も参照)。
- 金額の確定(103条2項1号ロハ) 不確定金額債権、外国通貨金銭債権についておこなわれる。
破産債権の額
破産債権の額を整理すると、次の表のようになる。停止条件や解除条件の付されている債権については、そもそも配当を受けることができるか否かが問題となるが、
債権額自体は、特殊なものを除き、無条件の破産債権と同様に定められる(103条4項)。
債権の種類 |
優先的破産債権額・
普通破産債権額 |
劣後的破産債権額 |
確定金額債権 |
下記以外のもの |
(a)元本額+破産手続開始の日の前日までの利息・遅延損害金 |
破産手続開始の日以後における利息・遅延損害金(99条1項1号・97条1号・2号・3号) |
期限未到来の無利息債権 |
確定期限付き |
(b)元本額−中間利息相当額 |
中間利息相当額(99条1項2号) |
確定期限なし |
(c)評価額 |
元本額−評価額(99条1項3号) |
外国通貨金銭債権 |
評価額(103条2項1号ロ。上記a・b・cにより定まる債権額の日本円換算額(民法403条)) |
[上記により定まる額の日本円換算額] |
非金銭債権および
不確定金額債権 |
評価額(103条2項1号イ・ロ) |
[評価額を元本とする手続開始後の法定利息] |
定期金債権(期限未到来の部分のみ) |
金額または期限が不確定 |
評価額(103条2項1号ハ) |
[評価額を元本とする手続開始後の法定利息] |
金額および期限の確定したもの |
定期金の合計額−中間利息相当額の合計額
または
定期金相当額の利息を生ずる元本額
のうちの小さい方の額 |
中間利息相当額の合計額
または
定期金の合計額−元本額
(99条1項4号) |
(注) 「劣後的破産債権額」の中の[ ]で囲まれた部分は、明文の規定はないが、そのように扱われるべきであることを意味する。
(注) 利息をどのように計算するかは、当事者の合意で定めることができる。貸付利息は、通常は、貸付日と返済日も含めて計算をする(これを「両端入れ」という)。
例えば、銀行のATMで定期預金を担保に借り入れをすると、借入日に返済しても1日分の利息を徴収され、ある日の午後5時に借りて翌日の9時に返済しても、2日分の利息を徴収される。
預金利息については、別途の合意がなされる(預けた日に引き出された場合に、1日分の利息を付与するわけにはいくまい)。
破産手続において普通破産債権部分を算定する場合には、開始決定があった日の利息分は劣後的破産債権に含め、破産手続開始決定がなされた日の前日までの利息を普通破産債権に含める。
利息の約定のない金銭債権
破産法99条1項2号の適用を受ける無利息債権には、例えば次のようなものがある。
- 定期金債権 その各支分権は無利息債権である。ただし、実例は少ない。
- 手形金債権・小切手金債権 現在の日本において、利息の約定のない金銭債権の典型である(手形法5条・77条2項、小切手法7条参照)。
- 履行期の定めのある代金債権 代金後払いで物の売買あるいは役務の提供がなされる場合には、通常は、
弁済期に代金が支払われること(それまで代金の支払がないこと)を前提にして代金額が定められ、弁済期までの利息の合意はなされない。
弁済期が破産手続開始後である場合には、9条1項2号の適用がある(ただし、同号かっこ書があるので、弁済期が破産手続開始時より1年以後である場合に限り中間利息が劣後的破産債権になる。
代金債権を無利息にしたまま、代金支払時期が売主等の履行後1年以上先の時期に設定されることは、それほど多くないであろう)。
次のものは、破産手続開始の時点では利息付債権または遅延損害金(遅延利息)付債権となっているのが通常である。
- 商人間の貸金債権・立替金債権は、商法513条により、当然に利息付債権となる。
- 不法行為債権は、債権発生のときから債務者が履行遅滞にあると考えられているので、債権者は当初から遅延損害金債権を有する(民法415条前段・419条1項)。
- 期限の定めのない債権は、それが(α)消費貸借による場合には、債権者が相当の期間を定めて催告し、その相当期間経過後に債務者は遅滞に陥る(民法591条1項)。
(β)その他の場合には履行の請求を受けた時から即時に遅滞に陥る(民法412条3項)。債務者が遅滞に陥った時から、遅延損害金債権が発生する。
5.2 発展的問題
ディープ・ディスカウント債
表面利率を低く抑えて割引率を大きくした債券は、「ディープ・ディスカウント債」と呼ばれる。
例えば、2009年2月17日を申込期限とする「第43回日本高速道路保有・債務返済機構債券」は、期間30年、発行額1000億円、利率0.5%、発行価格58円30銭である)。
償還金額は、100円につき100円であり、この債券を100億円購入した者は、58億3000万円を払い込み、半年ごとに支払われる年0.5%の利息(年0.5億円)の外に、満期時に100億円を受領する。
年0.5%というわずかな利率ではあるが、ともあれ無利息債権ではないので、99条1項2号の適用はない。
そして、103条2項2号にいう債権額を弁済期に支払われるべき金額(100億円)及び年0.5%の割合による約定利息と考え、
99条1項1項・97条1号の劣後的破産債権を破産手続開始後から弁済期までの年0.5%の割合による利息債権と理解するならば、
債権が発行されてから1年後に発行者について破産手続が開始された場合に、債券購入者は、100億円の債権者として破産手続に参加することができることになる
(破産手続開始前の利息は支払済みであるとして無視した)。しかし、この結論は不当と考えるべきであろう。 別の解決が探られるべきである。次のような選択肢が考えられる。
- 法定利率に満たない利付債権について、法定利率と約定利率との差で計算した中間利息分を劣後的破産債権とする。
- ディスカウント特約は、時の経過に応じて順次発生すべき利息を弁済期まで積み重ねて、それを償還期に一括して支払う特約であると評価することができる(黙示的利息特約といってよい)。
ディスカウント部分([償還されるべき金額]−[払込金額])を[払込みから償還までの年数]で除した値に[払込みから破産手続開始までの年数]を乗じた金額を破産手続開始前に発生した利息と評価し、
それ以降の分を99条1項1号・97条1号の劣後的破産債権とする。
無利息債権の中間利息相当額を劣後的破産債権とする破産法の規律(99条1項2号)が必ずしも合理的でないこと
(割引のために用いられる法定利率が経済状況に合わない場合があること、
債権額が大きい場合に、1年に満たない端数の切捨てが無視し得ない金額の差をもたらすこと)などを考慮すると、bの選択肢がとられるべきであろう。 これによれば、次の2つが劣後的破産債権となる。
- 破産手続開始後の期間に係る約定利息債権 (明示的利息債権の劣後部分)
- [ディスカウント金額]/[払込みから償還までの期間]×[破産手続開始時から償還予定時までの期間] (黙示的利息債権の劣後部分) 例えば、前述の例では、(100−58.3)÷30×29=40.31億円。
そして、100億円からbの金額を控除した残りの59.69億円が普通破産債権部分になる。
ゼロクーポン債
ゼロクーポン債については、次の2つの考えが可能である。
- 無利息債権説 無利息債権の一種と見て、99条1項2号を適用する。
- 利付債権説 割引額([償還されるべき金額]−[払込額])は利息に相当し、利息を満期時に一括して受け取る利息付債権と見る考え。
両説の違いは、次のように現れる。例えば、1年未満の短期貸付金利が年2%程度の時期に、2年後に100万円を受け取る割引債券を96万円(単利計算で年2.08%の利回り)で購入した場合に、
債務者について1年後に破産手続が開始され、
その時点での法定利率が5%であったとしよう[92]。
- 無利息債権説によれば、99条1項2号が適用され、普通破産債権部分は、100万円/1.05=95万2381円であり(端数切上げ)、劣後的部分は、100万円−100万円/1.05=4万7619円であり(端数切捨て)である。
- 利付債権説によれば、103条2項2号の債権額は100万円であるが、破産手続開始から弁済期までの期間に対応する割引部分(4万円の半額である2万円)が劣後的破産債権になり、普通破産債権部分は98万円である。
形式的に見れば、無利息債権説が採用されるべきことになるが、ゼロクーポン債の社会的機能からすれば、利付債権説の方が妥当であろう[39]。
相場価格のある停止条件付金銭債権
停止条件付債権者への配当については、2つの立法主義がある。(α)限定承認等の場面では、条件成就の見込みも考慮して債権を評価し、
その評価額を基準にして配当弁済をなすべきものとされている(評価主義。民法930条2項・947条3項・950条2項・957条2項。会社の清算手続について、会社法501条・662条)。
他方、(β)破産法は、
最後配当の除斥期間満了までに条件が成就した場合にのみ配当を与えるものとし、
金額は停止条件の存在を考慮することなく定めるものとした(非金銭債権及び103条2項1号ロ・ハ所定の金銭債権は評価額が破産債権額になり、 その他の金銭債権は債権額が破産債権になる)。
これは、打切主義(あるいは条件確定主義)と呼ばれる。
破産法が採用する後者の解決方法は、条件成就の見込みを考慮しなくてもよいので、破産債権額の算定が容易である点で簡便であり、立法論としても格別問題があるわけではない。
しかしそれでも、停止条件付金銭債権について市場の相場が形成されている場合には、評価主義を採用する余地があることを指摘しておいてよいであろう([栗田*2018a]17頁以下参照)。
例えば、金融取引の派生商品の一つであるCDSは、参照債務者の倒産等を停止条件とする金銭給付債権と見ることができるが、その取引が比較的多数回なされていて、市場の相場が形成されている場合もある。
その場合については、破産手続開始時での相場価格をもって破産債権額とすることが可能である。そうすることの利点は、次の点にある:
- 最後配当の除斥期間内に停止条件が成就した場合とそうでない場合とで大きな差が生ずることを防ぎ、予見可能性を高めることができ、これにより、
- 当該破産債権者にとっては、代替取引により同種の金融商品を他から購入することが容易になり、
- 破産管財人にとっては、配当を受けるべき破産債権者とその債権額が早期に確定することにより、破産手続を進めやすくなり、
- その他の破産債権者にとっては、配当見込額の予測を立てやすくなる。
非金銭債権の評価
非金銭債権は、債権の内容に即して適切な方法で評価されるべきである。
(a)本来の履行期が破産手続開始時に到来している場合には、次のように評価される。なお、履行の遅れにより債権者に損害が生じている場合には、破産手続開始の前日までの履行遅滞による損害賠償請求権も破産債権になる。
- 代替的作為義務については、当該作為の実施に必要な費用が債権額となる。第三者に依頼する必要がある場合には、通常は第三者と請負契約を締結することになり、
破産手続開始時点で請負契約で通常約定されるであろう費用及び報酬の合計額が前記の「作為の実施に必要な費用」となる。
- 物(株式や国債等の有価証券を含む)の給付請求権については、目的物の通常の調達価額である。市場の相場のある物(国債や上場株式あるい金や銀など)については、破産手続開始時における相場価格である。
(b)本来の履行期が破産手続開始後に到来する場合には、そのような債権の破産手続開始時の価値をもって評価される。 以下では、破産者が売主になり、
相手方が買主であり、買主が履行済みである場合を想定する(買主も履行を完了していなければ、双方未履行の双務契約の問題となる。
したがって、こうした状況が生ずることは少ないが、生じ得ないというわけではない)。
- 先物取引の相場価格のある物 58条は、双方未履行の状態にある場合についての規定であるが、
同条2項は、破産者の義務のみが未履行である場合の相手方の請求権の評価の参考になる。同項を参考にすれば、 相場のある商品の給付請求権については、
「履行地又はその地の相場の標準となるべき地における同種の取引であって同一の時期に履行すべきものの相場」価格を参考にして評価すべきである。
もっとも、代金の支払時期は価格を左右する要素であるので、(α)その相場価格が契約時に代金が支払われることを前提にして形成されている場合には、
その価格のままでよいが(この場合には、買主は売主の破産手続開始時にその価格で代替取引をすることになる)、 (β)目的物の引渡時期に代金が支払われることを前提にして形成されている場合には、
無利息債権の場合と同様に、中間利息相当分を劣後的破産債権とし、それを控除した金額を普通破産債権額とすべきである。
- 先物取引の相場価格がない物 議論の単純化のために、保管費用があまりかからない物(例えば貴金属)を破産者が破産手続開始の時から1年後に破産債権者に引き渡す義務を負っている場合を考えてみよう。
契約時の相場価格が100万円の物について、買主が契約時に98万円を支払い、売主が破産手続開始から1年後の時期に現物を引き渡す旨の契約が成立したとする。
1年後の市場価格がいくらになるかはわからないが、売主について破産手続が開始されたため、ただちに履行すべきことになり、破産手続開始時の相場価格も100万円であったとすると、
買主は市場価格100万円の目的物を受け取るべきことになるが、本来の履行期よりも1年早く目的物の引渡を受けることができるようになったことによる利得(中間利得)相当額は、劣後的破産債権とすべきである。
したがって、目的物の破産手続開始時の市場価格をもって破産債権としつつも、中間利得相当額を控除した金額を普通破産債権額とすべきである。
中間利得の算定について他に適切な算定方法がなければ、無利息債権の場合と同様に、中間利息相当分を劣後的破産債権とし、それを控除した金額を普通破産債権額とすべきである。
これを一般的な形で述べれば、次のようになる: 無利息債権者について中間利息相当分を劣後的破産債権とすることとのバランス上、 破産手続開始時から本来の履行期までに利用による利得が生ずものとみなして、
その金銭評価額を劣後的破産債権とすべきである;
その中間利得をどのように算定すべきかが問題になるが、特段の事情がなければ、目的物の履行期における相場価格は現在の相場価格a円と同じであろうと仮定し、その現在価値をb円とし、これに履行期までの中間利息相当額([b円]×[履行期までの年数]×[利率])を加えた額がa円になるようなb円を算出し、
b円が普通破産債権額になり、中間利得相当額(a−b)が劣後部分になると解してよい。
概括的に言えば、破産債権者が有する非金銭債権を破産手続開始時に再調達するのに要する費用額が破産債権額になる(この文脈において、再調達の対象は、履行期を同じくする非金銭債権自体であり、
したがって、再調達される債権の価額は、破産手続開始時に即時に給付を得る請求権の価額と同じではない)。
新たな契約が必要な場合に、契約締結に必要な費用(交渉費用や契約書作成費用)もこれに含めるべきかは迷うが、物の売主が義務を履行した後で買主について破産手続が開始され、
代金債権が破産債権になる場合には、売主が代金債権を再調達するための契約(第三者との新たな売買契約)は問題とならず、新契約締結のための費用を破産債権に含める余地もないことを考慮すると、
つまり、金銭債権とのバランスを考慮すると、契約締結に必要な費用は破産債権額の評価に際して考慮すべきではなかろう。
若干特殊なものについて検討しよう。
- 受任者について破産手続が開始されると委任契約は当然に終了するとの原則を民法653条2号は定めている。
事務処理のための費用と報酬が前払いされている場合には、その返還請求権が破産債権になる。委任事務の一部が破産手続開始前に処理されていて、残部が他の者にさせることができる性質のものである場合には、
出来高払の処理をしてよく、残部処理の費用と報酬の返還請求権が破産債権になる。
- 有償での保証委託契約の委任者(主債務者)が債権者に対して代保証人を立てる義務を負う場合には、委任者は、受任者(受託保証人)に対して、
そのような義務が生じないように保証人としての適格を維持する請求権(保証人適格維持請求権)を有し、
受任者は保証人適格維持義務を負うと解してよい。 その場合に、受任者について破産手続が開始されると、この義務の不履行が生じ、この請求権の取扱いが問題になる。
受託保証人に対する主債務者のこのような請求権も、 本来は、破産債権となり得る非金銭債権である(その金銭評価は、破産手続開始時に代保証人を立てるのに必要な費用をもって算定してよい。
もっとも、当初の保証委託契約の締結時よりも委任者の資力が低下していて、そのことが代保証人を立てるのに必要な費用の増加をもたらす場合には、
その増加分は委任者にも責任があるのであるから、これは債権額に含めるべきではない)。
しかし、民法653条2号が、委任契約は受任者の破産手続開始により当然に終了すると規定しており、
この終了により前記請求権も消滅すると考えると、別のものを破産債権とすることを考えなければならない。 すなわち、有償の保証委託契約において、委任者である主債務者は費用償還義務を負い、
受任者は保証人適格維持義務を負っていたのであり、
破産手続開始当時において双方の義務は未履行の状態にあったと考えることができる。 本来ならば53条の規定が適用されるべき場合であるが、
民法653条2号は、受任者について破産手続が開始された場合に、
その義務の履行が通常は困難であることも考慮して当然終了の原則を立てているのであるから(実際、保証委託契約の受任者について破産手続が開始された場合には、履行を選択する余地はない)、
その終了は破産管財人が解除を選択することによる終了と同等に扱ってよく、破産法54条1項の規定の類推適用を肯定してよい。
したがって、委任者は、委任契約の終了により新たに代保証人をたてるのに通常必要となる費用相当額の損害を受け、その賠償請求権を破産債権として行使することができる。
- 不動産の買主が代金全額を支払って引渡しを受け、この時に所有権移転の効果が生じたが、所有権移転登記前に売主について破産手続が開始され、かつ、49条1項ただし書の要件が充足されない場合には、
第一次的に、所有権移転登記請求権が破産債権になる。 もっとも、買主は、所有権の取得を破産管財人に対抗することができず(民法177条)、
破産管財人は買主による所有権取得を否定して目的物の返還を求めることができ、返還を求めるのが通常である(ただし、売却された不動産が崖地等の特殊な土地であり、
その管理コスト等を考慮すると破産財団に復帰させることが不適当な場合には、破産管財人は返還を求めないこともできる)。
その通常の場合にあっては、売主の義務の全部が未履行状態に戻り、所有権移転請求権(ないしこれを含めた買主の売主に対する請求権の全体)を破産債権としてよいことになる。
したがって、彼の破産債権の評価額は、目的物の評価額となる。
- 2つの動産が一組になって初めて機能を発揮し、一方のみでは無用の長物となる場合に、その一組の動産の買主が代金全額を支払って一方の動産の引渡しを受けたが、
他方の動産の引渡しを受ける前に売主について破産手続が開始されたときには、第一次的に、当該他方の動産の引渡請求権が破産債権になる
(当該他方の動産の約定の引渡時期の到来の前に破産手続が開始されたために解除権が発生していない場合には、そうならざるをえないであろう)。
買主がその動産を他から調達することができるときには、この解決で問題はなかろう。 しかし、それが困難であるときには、 この解決は、
無用の長物を抱え込む買主にとって不満足であり、別の解決を探る必要があるが、それを見出すことは難しい。
なお、履行遅滞による解除権が発生していた場合には、買主は、破産手続開始後に売買契約を解除して、代金の返還請求権を破産債権にすることが認められてよい。
- 譲渡可能な設定登記済借地権とその借地上の建物が売買の対象となり、買主は代金全額を支払い、借地権の移転登記がなされたが、 建物についてはそもそも所有権保存登記がなく移転登記もなされていないとしよう。
この状態で、売主について破産手続が開始された場合に、破産管財人が買主による建物所有権取得を争うと、建物所有権移転請求権が破産債権になる。
しかし、建物所有権の移転が否定されると、破産管財人は借地上の建物の収去義務を負い、収去するまで借地の不法占拠が続くことにより買主に生ずる損害賠償請求権が財団債権になるので、
破産管財人としては、地上建物が移築可能でかつ移築により相当の価値が保存されるといった特別の事情がない限り、借地上の建物の所有権移転を認めることになろう。
その場合には、破産管財人は、建物の所有権移転登記に協力することになり、それは、特定の破産債権者に対して破産手続によらずに全部の満足を与えることであるので、
本来は許されないことであるが、破産債権として扱うことが破産財団に損失をもたらし、破産債権者の一般の利益を害するという特段事情があるために例外的に許されると考えるべきである
(これが78条2項12号に該当すると言い得るかが問題になるが、少なくとも同号の類推適用により、裁判所の許可を得ることが必要である)。
対抗要件を具備していない地上権
地上権設定後に設定者が破産手続開始決定を受けた場合に、破産手続の関係において効力を有する対抗要件が具備されていなければ、
破産管財人は、地上権者に対して、その地上権を否定して、地上建物の収去と土地の明渡しを請求することができる。
この場合には、地上権設定契約に基づく土地の使用収益請求権が破産債権になると解すべきである。他方、建物の収去や土地の明渡による損害賠償請求権の取扱いには迷う。
建物収去による損害の賠償請求権の処理の選択肢としては、次の3つ(A,B,C)が考えられる。
- 破産債権(地上権設定契約に基づく土地の使用収益請求権)について破産手続開始後に不履行があったものと考えて、
97条2号・99条1号1号により劣後的破産債権とする。
- 破産管財人に対抗できない地上権を発生させた地上権設定契約は片務契約と見ることができることを前提にして、
これらは双方未履行の双務契約とはいえないから53条・54条の適用はないが、
しかし、54条1項を類推適用して破産債権とする。
- 対抗要件を具備していない地上権自体は第三者性を有する破産管財人に対抗できないとしても、地上権者は破産者との間では地上権設定契約に基づいて目的土地を占有する権限を有しており、
破産管財人は契約関係については破産者の地位を受け継ぐと考えるべきであるから、 破産管財人が地上権者に土地の明渡を求めるためには、
53条1項により地上権設定契約の解除が必要であると考えることもできる。
この考えを前提にして、建物収去・土地の明渡による損害は破産管財人による解除により生じた損害と考えて、54条1項により破産債権となる。
- なお、Cの前段に述べたことを前提にしつつ、破産管財人の解除により生じた損害として148条1項4号の財団債権とすることは、
解除により消滅する権利が破産債権にすぎないから、無理であろう。
Aの選択肢が「債権者その他の利害関係人の利害・・を適切に調整」するとの理念(1条)に合致するのかは、疑問である。
むしろ、この建物収去による損害の賠償請求権も普通破産債権とする方が公平に合するように思われる。
それを可能にする法律構成として、BとCが考えられるが、Cが正当であろう。 ただ、そうなると、土地の売主の破産の場合に、
開始前に代金を全額支払って土地の引渡しを受けたが登記を経由していない買主が土地の上に建物を所有している場合についても同様にすべきことになろう。
同様なことは、民法上片務契約に分類されている使用貸借契約に基づいて借主が地上に建物を所有しているときに、
土地の貸主について破産手続が開始された場合にも生ずる。
おそらく、これらの場合も含めて破産法53条・54条の適用を認めるべきものと思われるが、 その前提として、
破産法53条の双務契約における双務性(それぞれの当事者がどのような義務を負っている場合に双務性があるといえるか)について再検討が必要となろう。
地上権の問題に話を戻すと、政策的には、破産管財人と地上権者とが地上権設定登記についてあるいは土地の売却について交渉するように両者を誘導することが望ましい。
前記の解決はその誘導の妨げになることはない。
Author: 栗田 隆
1996年3月20日−2005年10月5日−2020年7月15日