by SIFCA
目次文献略語

破産法学習ノート2

係属中の訴訟等


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 民事執行等  2 滞納処分
3 破産財団に関する訴訟の中断・受継 練習問題


1 民事執行等(42条


1.1 民事執行・民事保全法による保全処分

強制執行等の禁止(42条1項・2項本文・6項)
民事執行や民事保全処分(仮差押え・仮処分)等の破産手続の開始後における取扱いは、それらにより実現あるいは保全されるべき権利が何であるかによって、次のように分かれる。

 ()破産債権に基づくもの[6] [9]

 ()財団債権に基づく上記の執行手続をどうするかは、立法論としては意見の分かれるところであるが、財団不足により財団債権への弁済さえ不十分になることが少なくないことも考慮して、現行法は、財団債権に基づく上記の執行も許されず、すでになされているものは、破産財団に対してはその効力を失うとした(42条1項・2項・6項。[小川*2004a]72頁以下参照)

 ()その他の権利に基づく強制執行・担保権実行・仮処分は、破産財団に属する財産に対するものであっても許される(既に開始されているものは、続行される)。破産財団に属する財産に対するものは破産管財人が相手方となる。

2項本文の対象となるのは、破産手続開始前に「既に」開始されている強制執行等の手続である。破産手続開始の時にまだ「されている」こと、すなわち完了していないこと(目的を達していないこと)も必要である。破産手続開始時に完了している強制執行等の手続の効力がその後破産手続開始によって影響を受けることはなく(最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 決定(平成13年(許)第21号))、まして、42条2項ただし書の規定による続行も問題にならない。

財団財産の換価手続としての続行(42条2項ただし書・3項−6項)
破産管財人は、破産手続の開始により効力を失うことになる手続のうち、次の種類のものを財団財産の換価手続(184条1項)として続行することができる(42条2項ただし書)。手続経済のためである。

仮差押え及び仮処分の手続は、それ自体では換価手続になり得ないので、42条2項ただし書から除外されている。財産開示手続も同様である。企業の総財産を対象とする企業担保権の実行手続も、42条2項ただし書から除外されている。

なお、破産者の自由財産に対する執行等は、(α)破産債権・財団債権の実現のためのものは許されないが、(β)破産債権・財団債権でない金銭債権(破産手続開始後に原因のある債権)の実現のためのものは許される。後者の債権のための財産開示手続も許される。

1.2 破産債権に基づく執行の効力喪失の意味

)破産手続開始前に開始されている民事執行等の手続は、「破産財団に対してはその効力を失う」。例えば、

しかし、破産手続開始決定が取り消されたような場合には、民事執行等の手続は効力を維持することになる。その点からすれば、破産手続開始決定の確定以前に破産管財人が差押え又は仮差押えの執行のなされている不動産を換価するのは適当ではない。

1')破産手続開始前に完了している強制執行は、42条2項の適用を受けない。ここで執行の完了とは、金銭執行については、債権者が配当を受けることを意味する。配当表に対して異議の申出があり、配当異議の訴えが提起され、民執法91条1項7号により供託がされた場合には、その供託は権利確定に伴う配当の実施の準備としてなされるものにとどまり、供託された金銭により執行債権の満足が得られたと見ることはまだできず、配当異議訴訟が落着して、裁判所書記官による供託所に対する支払委託の手続(民執規則61条)が終了した時点で初めて債権者は満足を得たと見ることができる(不動産の強制競売以外については、民執法111条・121条・142条2項・166条2項、民執規則73条・83条・132条・145条・150条の8・150条の15第1項等を参照。株券が発行されていない株式の売却命令の事件について、最高裁判所 平成30年4月18日 第2小法廷 決定(平成29年(許)第13号))。
 なお、破産手続開始前に破産者の財産が売却され、買受人に権利を移転するための手続が完了している場合には、配当手続の完了前に破産手続が開始されても、買受人の権利取得は影響を受けない(買受人の権利主との関係では、破産法42条2項は適用されない)。そのように解しないと、強制執行による財産売却の信頼が害されるからである。

|破産債権者による差押え
|・抵当権設定とその登記
|・第三者への譲渡とその登記
↓破産手続の開始

)破産債権に基づく執行は、それが破産債権者間の公平を害し、また、破産手続の追行・破産的清算の障害となるがゆえに効力を失うのである。執行による処分禁止効(民執59条2項)が破産財団にとって有益である場合には、その効力は破産財団のために存続する。たとえば、 右の図の場合に、破産債権者による差押えは破産債権者全体のためにも作用すると考えるべきであるから、抵当権者は抵当権取得を、第三者は所有権取得を、破産管財人に対して主張することができない。この場合には、差押えによる処分禁止効を素直に生かすという点では、破産管財人が強制競売手続を続行し、民事執行法82条により差押えの後の抵当権設定登記及び第三者への所有権移転登記を抹消するのが素直であろう。

)不動産について仮差押えの執行がなされた段階で抵当権設定登記がなされた場合については、その処分行為(抵当権設定行為)の効力は、仮差押えに係る被保全の債権の存否に依存する(民執法91条1項6号・92条。ただし、配当異議訴訟の中で解決すれば足りるとの見解もある)。このことは、不動産の所有者について破産手続が開始された場合でも同様に考えるべきであると思われる。問題は、仮差押えの被保全債権の存否をどのような手続の中で確定し、そして、存在するとした場合に、抵当権の設定登記をどのような手続で抹消するかである。破産手続が開始されているので仮差押えの本執行への転移は難しいことを考慮すると、次の2つの方法が考えられる。

  1. 比較的単純な方法は、破産管財人が仮差押えの被保全債権の存在を認めれば、仮差押え債権者に配当することができる場合になると解して、抵当権設定登記の抹消を認めることが考えられる。しかし、これでは、破産管財人の恣意で抵当権の消長が決められることになり(極端な場合に、仮差押えの被保全債権額を1万円認めるだけで、抵当権は効力を失うことになり)、適当ではない。 
  2. 次に考えられるのは、破産債権確定手続の中で被保全債権の存否を確定する方法である。抵当権者は、被保全債権が存在することになれば、無担保の破産債権になるのであるから、被担保債権全額を破産債権として届け出ることができるとした上で、仮差押えの被保全債権に異議を述べて争う機会を与えるべきである。
  3. しかし、被担保債権が破産債権でない場合(仮差押債務者が物上保証人である場合)には、上記の方法ではうまくいきそうもない。この場合には、破産管財人が抵当権者に対して抵当権設定登記抹消請求の訴えを提起し、もし被保全債権が存在するのであればその訴訟の中で破産管財人は仮差押えの執行による処分禁止効を援用して、所有権移転登記の抹消を得ることができるとすることになる。この通用範囲の方法が他の場合にも採用されるべきである。

)仮差押え後に不動産が第三者に譲渡され、その後に仮差押債務者について破産手続が開始された場合にも、上記Cの方法で処理できる。すなわち、破産管財人が譲受人に対して所有権移転登記の抹消請求の訴えを提起し、もし被保全債権が存在するのであればその訴訟の中で破産管財人は仮差押えの執行による処分禁止効を援用して、所有権移転登記の抹消を得ることができるとすべきである。


2 滞納処分(43条


破産手続の開始前に開始された滞納処分
破産手続の開始前に開始された滞納処分は、続行できる(43条2項)。行政庁が滞納処分を追行しない場合には、管財人は184条1項により換価できると解すべきである。この場合に、滞調法9条・17条の(類推)適用により続行決定をし、それにより滞納処分としての差押えにかかわらず売却可能となる。

破産手続の開始後における新たな滞納処分
滞納処分による換価よりも管財人による換価の方が迅速で有利(高価額)なことが多い。また、新たな滞納処分を許すと、破産管財人が任意処分の交渉を進めていても突然なされる滞納処分によりそれが中断されることになるため、任意処分により財団財産の整理を進めようとする管財人の意欲がそがれ、破産手続の円滑な進行が妨げられることになりやすい。そこで破産手続開始後の新たな滞納処分は許されないとされた(43条1項)[5]。


3 破産財団に関する訴訟手続の中断・受継(44条


破産財団に関する訴訟手続の中断
破産財団に関する訴訟手続は、次のように区分することができるが、破産財団に関する訴訟手続である限り、すべて44条1項により中断する。

財団財産に関する訴訟手続は、さらに、次の2つに分類される。

破産者が当事者となっている訴訟手続から説明しよう。

3.1 破産債権に関しない訴訟手続 − 破産者が当事者となっているもの

中断と受継(44条1項・2項)
破産者が当事者となっている破産財団に関する訴訟手続は、破産執行手続を適正に行うために、破産手続の開始により中断する(44条条1項。同時廃止の場合には、中断の必要がなく、中断しない(たとえ中断すると考えても、44条6項により当然受継となるので、意味がない)。

用語法

「受継」と「受継の申立て」と「受け継ぐ」
これらの言葉の意味は、かつては、各種の民事手続法の間で統一性なく使われていたが、平成に入ってから制定された法律では、かなり統一されてきた。

  • 中断した手続を新追行者(新当事者または新法定代理人・新代表者)と相手方との間で続行(再開)することを「受継」という。
  • 手続の続行にあたっては、誰が新追行者になるべきかを裁判所が判断する必要があるので、当事者が手続を続行させようとする場合には、その旨の申立てが必要であり、この申立ては新追行者のみならず、その相手方からもなされ得る。
  • この手続続行の申立てを受継の申立てという(破産法44条、民訴法126条128条など)。「受継の申立て」は、新追行者にも相手方にも使うことができるが、新追行者については次の「受け継ぐ」の語を用いることが多く、そのことを前提にすると、「受継の申立て」の語は、相手方について用いるのが通常となる(44条2項の前段と後段とを対照し、127条1項と129条2項とを対照するとよい)。
  • 受け継ぐ」は、新追行者(受継資格者)が受継申立てをして受継する場合に使う(民訴法124条、破産法44条2項)。「受け継がなければならない」は、「受継申立てをして受継しなければならない」ないしは「自己が訴訟手続を受継するために受継申立てをしなければならない」の意味である。したがって、この語は、専ら新追行者について用いられる。

当事者の一方について破産手続が開始されると、破産管財人は訴訟手続を受け継ぐことができる(44条2項前段)。相手方も受継の申立てをすることができ、受継の申立てがあった場合には、破産管財人は訴訟手続を受継しなければならない。

訴え提起
|当事者について破産手続開始=訴訟手続の中断(44条1項)
↓管財人による受継(44条2項)
判決

破産管財人による受継後に破産手続が終了すると、訴訟手続は再び中断し、破産者が受継すべきことになる。

訴え提起
|破産手続の開始=中断(44条1項)
|破産管財人による受継(44条2項)
|破産手続の終了=中断(44条4項)
↓破産者による受継(44条5項)
判決

しかし、破産手続の開始によって中断した訴訟手続が管財人によって受継される前に破産手続が終了すると、破産者であった者(元破産者)によって当然に受継される(特別な手続を経ることなく、訴訟手続が続行される)。

訴え提起
|破産手続の開始=中断(44条1項)
↓破産手続の終了=元破産者による当然受継(44条6項)
判決

例えば、

破産管財人の地位
破産管財人は従前の訴訟状態を引き継ぐが、固有の攻撃防御方法(対抗要件の欠缺・否認権)の提出は妨げられない。例えば、

  X──(所有権移転登記請求)──→Y
(買主) (代金支払いずみ) (売主・破産)

という場合に、破産管財人はこの訴訟手続を受継した後、Xが所有権取得の対抗要件を具備していないことを主張できる。

訴訟手続を受継した破産管財人が勝訴の見込みがないと判断した場合(あるいは、訴訟費用等を考慮して、訴訟手続の続行が無意味であると判断した場合)には、次のような処理をすることができる。

  1. 破産者が破産により消滅する法人の場合  破産管財人は、請求の放棄・認諾、訴えの取下げあるいは和解により訴訟を終了させてよい。
  2. 破産者が個人又は破産後も存続する法人の場合  破産管財人は、破産者のために目的物を財団から放棄する。これにより自由財産に属することになった目的物について破産者が訴訟を承継する。この場合の承継を、(α)係争物の譲渡に準じて参加承継・引受承継とすべきか、それとも、(β44条6項を類推適用して当然承継とするのがよいかは迷うところであるが、前者とするのがよいであろう[2]。

相手方の訴訟費用償還請求権(44条3項)
破産管財人が受継した場合に、相手方が訴訟費用償還請求権を有することになれば(民訴61条以下参照)、それは、破産手続開始前の訴訟追行に係る訴訟費用を含めて、 財団債権となる(44条3項)。

財団債権(2条7項)に関する訴訟手続
44条2項の「破産債権に関しない訴訟手続」には、財団財産に関する訴訟手続のほかに、財団債権に関する訴訟手続も含まれる。これに該当するのは、次の債権に関する訴訟手続が破産手続開始前に係属している場合である。

 (α)双方未履行の売買契約について訴訟が係属している場合に、破産管財人が履行を選択すれば、相手方の有する債権は財団債権になる(148条1項7号)。相手方の債権が財団債権になることが確定するのは、破産手続開始後であるが、ともあれ、これに関する部分も含めて訴訟全体が破産財団に関する訴訟手続として中断する(44条1項)。そして、破産管財人が履行を選択すれば、破産債権に関しない訴訟手続として44条2項による受継の対象になる[3](相手方に対する債権に関する訴訟手続は財団財産に関する訴訟手続であり、相手方の債権に関する訴訟手続は財団債権に関する訴訟手続であることに注意)。

 (β)建物の所有により土地を不法占拠している者に対して土地所有者が建物収去土地明渡請求と明渡しまでの賃料相当額の損害賠償請求の訴訟を提起した後で、不法占拠者について破産手続が開始されると、その訴訟手続は、破産財団に関する訴訟手続として中断する。建物収去土地明渡請求部分は、財団財産に関する訴訟手続である。破産手続開始後の損害賠償請求は、訴え提起当時においてはただの将来請求であるが、破産手続が開始されれば、財団債権(148条1号4号)に関する訴訟手続である。いずれの手続も破産債権に関しない訴訟手続として44条2項の受継の対象となる。他方、破産手続開始決定の前日までの損害賠償請求権は破産債権であり、これに関する部分も44条1項により中断されるが、2項の適用はない。

 (γ)破産手続開始前に原因のあるその他の財団債権

3.2 破産者が当事者になっていない訴訟手続の受継(45条

破産者が当事者になっていない訴訟手続を管財人が受継する場合として次の2つがあり、これらについては45条が適用される(その内容は、44条に準ずるものである)。

代位訴訟  破産者の債権者が債権者代位権(民法423条)に基づき、取立訴訟をしている場合。

破産債権者⇒管財人

|代位債権者による取立訴訟⇒管財人による取立訴訟

第三債務者
(破産者の債務者)

転用型代位訴訟  債権者代位権が非金銭債権の保全のために行使されている場合(転用の場合)でも、破産財団に属する権利が行使されているのである限り、中断・受継の対象となる([小川*2004a]75頁)。

転用型代位訴訟と代位債権者の固有訴訟との併合の場合  例えば、破産者から土地を借り受けた者が、借地の使用を妨害する者に対して、借地権に基づく妨害排除請求権を行使するとともに、所有者の妨害排除請求権を代位行使している訴訟にあっては、所有者(賃貸人)について破産手続が開始されると、後者の請求について中断が生じ、破産管財人が受継すれば、共同訴訟となる。この場合に、両請求は予備的にあるいは選択的に併合されているのが通常であり、その場合には、破産管財人が代位訴訟手続を受継することにより、同時審判申出訴訟(民訴法41条)になると構成すべきであろう(訴えの主観的予備的併合(及び選択的併合)を否定する判例の立場を前提とする)。破産管財人が借地権の存在を争う場合には、彼は独立当事者参加(民訴法47条)をすることもでき、当事者参加をした場合には、同時審判申出訴訟ではなく当事者参加訴訟として扱われる。

債権者取消訴訟  破産者の債権者が債権者取消権(民法424条)に基づいて訴訟をしている場合 。

破産債権者⇒管財人

|債権者取消訴訟⇒否認訴訟または否認決定に対する異議訴訟(45条173条・175条)

受益者・転得者

破産管財人は、係属中の取消訴訟を否認訴訟として受け付くことができる。この場合に、管財人は従前の訴訟状態に拘束されないとすべきである。なぜなら、(α)ある詐害行為を取り消す権利(債権者取消権)は、各債権者に固有に帰属し、ある債権者の取消請求を棄却する判決が確定しても、その判決の既判力が他の債権者に及ぶことはなく、他の債権者はその判決にかかわらず取消を請求することかできる。同様に、ある債権者によって提起された取消訴訟の請求棄却判決の既判力が否認権を行使する破産管財人に及ぶことはない。(β)債権者取消訴訟も否認訴訟も、債務者の責任財産から不当にあるいは不公平に流出した財産を取り戻すという基本的な役割は同じであるが、権利としては別個であり、要件・効果も異なる。取消権を否定する判決が確定した後で、否認訴訟の裁判所が否認権を認めても、既判力ある判断に矛盾した判断をしたことにはならず、個々の債権者と破産管財人との立場の違いを考慮すれば、紛争の蒸し返しと評価する余地もない。

そして、破産管財人が否認権を行使することなく破産手続開始から2年が経過した後で、取消訴訟の存在に気付いたような場合には、債権者取消訴訟のままその訴訟手続を受け継ぐことができるとすべきであるから、破産管財人は、否認権を行使することができるほか、係属中の訴訟で行使されている債権者取消権も原告である債権者を含む全債権者のために行使できるとすべきである。

したがって、

3.3 訴訟費用の財団債権化

44条3項又は45条2項の規定により破産管財人が訴訟手続を受継した場合には、破産手続開始後の破産管財人の訴訟追行により相手方か破産管財人に対して有することになる費用のみならず、破産手続開始前の相手方当事者の破産者に対する訴訟費用請求権も財団債権になる(44条3項・45条3項)。しかし、この規定は、破産管財人が訴訟手続の受継後に現実に破産者の権利主張又は抗争の立場を引き継いで訴訟手続を追行した場合に関する規定と解すべきであろう。破産管財人が訴訟手続の受継後に直ちに請求の放棄又は認諾をした場合には、受継前の訴訟追行に係る相手方の破産者、破産債権者又は財団債権者に対する費用償還請求権は、財団債権として保護する必要はなく、破産債権として扱えば足りる。

3.4 破産債権に関する訴訟

破産債権者
 |
 |取立訴訟⇒債権確定訴訟(127条・129条 )
 |
 ↓
破産者⇒異議者等(他の債権者、破産管財人)  (当事者変更)

債務者について破産手続が開始された時点から、訴求債権の存否を債権者と破産者との間で確定させることは重要ではなくなり、配当金を取り合う関係に立つ債権者間で確定させるべきことになる。そこで、破産手続の開始と共に、債権取立の訴訟手続は中断する(44条1項)。債権調査期日[1]において、他の債権者が意義を述べ又は管財人が認めないときには、125条所定の査定手続を経ることなく(125条1項ただし書)、破産債権者(原告)は、訴訟により債権を確定させるために、債権調査の期日又は期間の終了後1月の不変期間内に(127条2項・125条2項)、異議者等(異議を述べた債権者・当該破産債権を認めなかった破産管財人)を相手方として、 受継を申し立てなければならない(127条1項)(査定手続不要説([加藤*2005a] 156頁以下)。ただし、異説もある[7])。

破産者が異議を述べても、この者を共同被告として受継を申し立てることはできない。破産者との関係で破産債権を確定する必要はなく、破産者が法人の場合には破産手続の終了により消滅することになり、また、個人の場合には多くの場合に免責が与えられるであろうことを考慮すると、債権確定訴訟に破産者を巻き込む実益は乏しいからである([小川*2004a]171頁以下参照)。 ただし、当該債権に免責決定の効力が及ばない場合に、破産手続終了後に破産者を相手に受継の申立をすることはできる(破産手続開始前に係属していた一つの訴訟手続が破産手続進行中に破産債権確定訴訟の手続として続行されるとともに、破産手続終了後に破産者に対する取立訴訟の手続として続行されることになる(221条1項・2項参照))。

この場合の受継申立責任を負うのは、破産債権者である(127条)。ただし、破産債権について債務名義・終局判決がある場合には異議者等である(129条)。

破産債権に関する訴訟手続の受継について教訓的な事例がある。

最判昭和59.5.17判例時報1119-72
事案 : 地主Xが借地人Yに対して、一時使用の賃貸借の終了を理由に訴えを提起した。第一審で請求が棄却され、第二審係属中にYが破産した。

(地主)             (借地人・破産)
  X────(建物収去・土地明渡)───→Y
    (月13万の賃料相当額の損害賠償)
控訴審 は、Yの破産管財人からの受継申立てを受けて、訴訟手続全体の受継を許容し、訴訟を進行させ、 Xの請求を認容した。
上告審 は、原判決のうち、建物収去・土地明渡請求認容部分および破産宣告後の時期に係る損害賠償請求の認容部分を正当としつつも、破産宣告前の時期に係る損害賠償請求の認容部分を次の理由により破棄し、差し戻した。

「本件損害金請求のうち本件破産宣告の日の前日までの賃料相当損害金の請求に係る訴訟は、破産法69条現44条2項]にいう破産財団に属する財産に関する訴訟にあたらず、同法246条現127条1項]所定の破産債権の確定を求める訴訟となるべきものであるから、その受継は同法246条、244条 2項[現127条1項]、247条現128条] によってすることを要するものというべきである。そうすると、原審が上告人[破産管財人]の前記受継の申立の当否を判断するためには、Xが、本件損害金請求のうち本件破産宣告の日の前日までの損害金債権について、破産債権として届出をしたかどうか、右届出があった場合において債権調査期日で異議があったか否かを職権をもって調査することを要したものというべきであり、調査の結果、右債権の届出があり、かつ、債権調査期日において異議があったことが認められる場合に限り、その異議があった限度で、当該異議者との間で訴訟手続を受継させ、かつ、請求の趣旨を破産債権の確定の請求に変更することを促すべきであったといわなければならない。」

3.5 仮執行による弁済の効力

文献

上訴審との関係
仮執行宣言付き判決に基づく強制執行(仮執行)が行われ、債権者が訴求債権について満足を得た場合に、上訴審は、その満足を顧慮することなく仮執行宣言付判決の当否を判断し、その前提として訴求債権の存否・内容を審理判断するとの建前がとられている。上訴審は、訴求債権がその他の事由(当初から不発生、あるいは仮執行前の弁済による消滅など)により存在しないと判断すれば、仮執行宣言付判決を変更して原状回復を命ずる(260条2項・3項)。

破産手続との関係
破産手続の開始前の仮執行による満足は、債務者について破産手続が開始されるまでに仮執行の基礎となった判決が確定すれば、破産手続との関係でも維持される(その満足が否認権の行使により否定される余地はあるが、その点を別とする)。では、破産手続開始までにその判決が確定しなかった場合は、どうか。この場合でも、仮執行の結果である弁済(満足)の効力は破産手続との関係で肯定されるのか。この点については、次のような見解が対立している。

  1. 弁済効力否定説失効説)  仮執行によって得られた満足は確定的なものではなく、本案判決または仮執行宣言が取り消されることを解除条件とする暫定的なものである。したがって、仮執行による支払・給付は実体法上の弁済の効力を有せず(それは判決の確定をまって初めて確定的に生ずる)、それによって破産債権がただちに消滅することはない。判決の確定前に債務者について破産手続が開始されれば、仮執行はその効力を失ない、彼は、破産債権者として破産手続により権利を行使すべきであり、仮執行により得た満足を吐き出して、他の破産債権者と平等に比例的満足を受けるべきである。
  2. 弁済効力肯定説存続説)  仮執行は、仮執行宣言付判決の執行力が上訴審の裁判により効力を失うことがあり(260条1項)、本案判決が変更れさると仮執行により給付されたものの返還等の原状回復が命じられうる(同2項)という点で仮定的性格を有し、仮執行の効力は、本判判決の変更を解除条件とする(あるいは、仮執行宣言付判決が変更されることなく確定することを停止条件とする)のは、確かである。しかし、その他の点では、仮執行も他の債務名義に基づく強制執行と同じである。この執行の効果をその後の破産手続開始の一事で否定すべきではない[8]。実質的な論拠として次の二つを挙げることができる([青山*1983a]、[林*1984a][百選*1990a]49事件(林)など)。

仮執行による満足は本案判決の変更を解除条件とする満足であるとの立場(解除条件説)に立って、弁済効力肯定説(存続説)の論理を形式的に押し進めれば、解除条件が成就しない限り仮執行による支払・給付を受けた時点で実体法上の弁済の効力が生じ、したがってその債権は消滅するとの説明に至る。しかし、この点は、控訴審の訴訟手続を誰に受継させるべきかという別個の問題(他の要素も考慮して決定されるべき別個の問題)であり、弁済効力肯定説(存続説)の本質的部分ではない。本質的部分は、本案判決が変更されない限り、債権者は仮執行により得た満足を吐き出さなくてもよいという点にある。

判例[4]
最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 決定
(平成13年(許)第21号)は、仮執行宣言付判決に対して上訴に伴う強制執行の停止・執行処分の取消しがされた後,債務者が破産宣告を受け,破産管財人が担保取消しを申し立てた事案に関するものであるが、最高裁は、担保提供者が破産宣告を受けたとしても,その一事をもって「担保の事由が消滅したこと」に該当するということはできないからこの取消し申立ては却下すべきであるとの結論を導くにあたって、次のように説示した:「仮執行宣言付判決に係る事件が上訴審に係属中に債務者が破産宣告を受けた場合において,仮執行が破産宣告当時いまだ終了していないときは,破産法70条1項本文[現42条2項本文]により仮執行はその効力を失い,債権者は破産手続においてのみ債権を行使すべきことになるが,他方,仮執行が破産宣告当時既に終了していれば,破産宣告によってその効力が失われることはない」(これに続く同趣旨の先例として、最高裁判所 平成14年4月26日 第2小法廷 決定(平成14年(許)第1号)がある)。

この事件は仮執行が破産手続開始前に完了した事案ではないので、判旨の読みとりないし射程距離の認定には注意を要するが、本判決の傍論の説示は、弁済効力肯定説(存続説)を採用した(前述の意味での本質的部分を採用した)ものと解してよいであろう。なお、傍論の説示は、仮執行の効力が債務者の破産にかかわらず失われることはないことを説示したにとどまり、訴求債権が破産手続上どのように扱われるべきかについては判断していない([佐野*2002a]134頁))。

学説
従来は、弁済効力否定説 が多数説であった。しかし、前記の最高裁判決を受けて、今後、弁済効力肯定説(存続説)を支持する見解が多数になると予想される。

仮執行により満足を受けた債権の確定
仮執行による満足の効力について存続説を前提にしても、仮執行により満足を受けた債権の不存在がその後に確定すれば(正確には、仮執行宣言付き判決が取り消され、又は仮執行宣言が取り消されれば)、債権者は仮執行により得たものを返還しなければならない。従って、その債権の確定の手続が問題となる。この点について次の2つが考えられる。

  1. 破産債権方式  一般の破産債権と同様に債権調査を受け、必要であれば129条の受継申立により従前の訴訟が債権確定訴訟として続行される([高部*2004a]837頁)。
  2. 財団財産方式  従前の訴訟は、破産債権に関しない訴訟として44条2項の適用を受けて、その中で確定させる([野村*2002a]436頁、[注釈*1996b]354頁(栗田))。

弁済効力肯定説の趣旨を考慮すると、2の選択肢が妥当であろう。なぜなら、(α)存続説を前提にすれば、控訴審で債権者が勝訴しても敗訴しても破産債権者となることはないから、「ここでは破産債権者の範囲を決定することは問題となっておらず、問題となっているのは破産財団の範囲」であり、したがって財団財産方式をとるべきである([野村*2002a]436頁)。(β)破産債権の届出は、破産手続により権利を行使するため、すなわち配当を得るためには必要であるが、彼が債権を届け出なかった場合に、そのことを理由に配当手続外の関係でも当該債権は不存在であるとすることは無理であろう(会社更生手続においては、届出のない債権について更生会社は責任を免れると規定する会社更生法204条1項を根拠にして、仮執行により満足を得た債権者が更生債権の届出をしない場合にはその満足を不当利得として返還させる実定法上の根拠はあるが、破産法には、これに相当する規定はない)。また、実際上も、破産手続開始前の仮執行により満足を得た債権者にその債権を破産債権として届け出ることを期待するのは酷と思われるからである(注4の先例の事案を参照)。(γ)もっとも、仮執行が転付命令の方法で行われた場合などには、仮執行の効力は被転付債権の存在に依存するので、仮執行が無効になる場合に備えて予備的に破産債権の届出をすることを認めておく必要はあるが、それは仮執行に限らず本執行による満足の場合にも生ずることである。(ε)仮執行により訴求債権の一部についてのみ満足を受けた場合には、控訴審の訴訟手続が44条2項により受継されるべき部分と129条2項により受継されるべき部分とに分かれることになるが([山本*2002a]67頁)、破産管財人か当該債権を争わず、他の債権者のみが争う場合には、異議債権者か仮執行による満足を受けていない部分についてのみ破産債権確定訴訟として受継することになり手続的には特段の問題は生じない(その債権者が仮執行により満足を受けた部分を争うことができないことの政策的当否の問題は残る)。破産管財人のみが受継する場合には、一方は破産債権確定訴訟であり、他方は仮執行による満足の当否を確定するための通常の給付訴訟であるという形式上の違いはあっても、審理すべき事項に基本的に違いはなのであるから、それほど問題ではなかろう。破産管財人と他の債権者が訴求債権を争う場合も、これに準ずることになる。

なお、最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 決定は、この点について判断を示していない([高部*2004a]837頁は、破産債権方式を採用したものと説明するが、本決定はその点について判断していないと見るべきであろう([佐野*2002a]134頁、[山本*2002a]67頁、[野村*2002a]436頁注19参照)。この問題についての最高裁の判断は、相応の実質的理由を付して明示的になされるべきである)。

破産手続開始前の仮執行による満足の効力は判決確定前に債務者について破産手続が開始された場合でも失われないことを前提にして、その訴求債権の確定に関して、破産債権として破産法所定の手続により確定すべきであるとする見解がある。この見解の根拠を検討しなさい。

練習問題


次の事項を簡単に説明しなさい。

学内試験問題

X所有地上にYが無権原で建物をたて、土地を不法占拠した。XがYに対して建物収去・土地明渡請求および損害賠償の訴えを提起した。その訴訟の途中でYについて破産手続が開始された。訴訟はどうなるか。


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Author: 栗田 隆
Contact: kurita@kansai-u.ac.jp
1996年 9月12日−2005年 5月19日 −2008年 5月4日