by SIFCA
目次文献略語

破産法学習ノート2

破産手続の機関


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 破産管財人  保全管理人


文 献


1 破産管財人


破産手続の追行のために、次の機関が用意されている[CL1]。

裁判所、債務者(破産者)および債権者が破産手続外でも存在するのに対し、これらは、特定の破産手続との関係で設置されるものである。

1.1 選任

裁判所が破産管財人になるべき者の同意を得て選任する(74条)[CL1]。破産手続開始決定と同時に、事件の規模・特質を考慮して、一人又は数人の者を選任する(31条1項柱書)。逆に管財人のなり手がなければ、破産手続開始決定は実際上困難となる[CL]。

裁判所は、破産管財人の職務を行うに適した者を選任する(規則23条1項)。現実には、弁護士が選任されることが多いが、大規模な破産事件が増加していることを考慮して、法人も破産管財人になることができるとされている(74条2項。典型的には、弁護士法人(弁護士法30条の2以下)である)。この場合には、当該法人は、役員又は職員のうち破産管財人の職務を行うべき者を指名し、指名された者の氏名を裁判所に届け出なければならない(規則23条2項)。

裁判所書記官は、破産管財人に対し、その選任を証する書面を交付する(規則23条3項)。

1.2 職務

職務内容
破産管財人の職務を法律の規定にしたがって列挙すると、次のようになる。

破産管財人の監督・コントロール
破産管財人は、破産裁判所の監督に服するほかに、破産債権者等も一定の範囲で破産管財人の行動にコントロールないし影響を及ぼすことができる。

破産管財人の権限
破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人が有し、かつ彼に専属する(2条12項・78条)。

重要な財産処分行為については、破産裁判所の許可が必要である(78条2項)。

 ()金額に依存しない法定重要行為  次の行為は、金額にかかわりなしに裁判所の許可が必要である。

 ()金額に依存する法定重要行為  次の行為も、原則として裁判所の許可が必要であるが、破産規則で定める額(規則25条により100万円)以下の価額を有するものに関するときは、裁判所の許可は必要ない(78条3項1号)。

 ()その他裁判所の指定する行為

裁判所による許可不要指定
法律の規定によれば裁判所の許可が必要な場合でも、裁判所は、事件の特質、破産管財人の資質、経済状況等を考慮して、許可不要の指定をすることができ、許可不要の指定がされているものについては、個別の許可は不要である(78条3項2号)。

営業又は事業の譲渡
財産の処分にあたっては、複数の財産を一括して、その有機的連関を保った状態で(場合によれば、顧客関係あるいは労働関係を含めて)処分する方が、高額で売却できることがある。そこで、営業または事業の譲渡も認められているのであるが(3号)、裁判所は、許可をする場合には、労働組合等(32条3項4号)の意見を聴かなければならない(78条4項)。営業や事業の譲渡は、積極財産の譲渡であり、雇用関係を当然に包含するものではないが、しかし、譲受人が譲渡人の労働者を雇用することを期待できることもあり(さらに言えば、稀ではあろうが、労働者も譲受人になりうるのであり)、その点で労働者は営業・事業の譲渡に利害関係を有し、また、労働者が譲渡される営業・事業の内情に詳しく、有益な情報が提供されることを期待できるからである([小川*2004a]133頁)。

職務執行
破産管財人が複数いる場合には、原則として共同で職務を行う(76条1項本文)[1]。しかし、大規模な事件においては、基本的事項は共同して決定する必要があるとしても、その他の事項についてまで共同して職務を行うことを要求していたのでは、迅速な処理が望めない。破産管財人らは、裁判所の許可を得て、それぞれ単独にその職務を行い、又は職務を分掌することができる(76条1項ただし書)。

破産管財人は、自己の責任で、代理人を選任することができる。

破産管財人は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、裁判所の許可を得て、警察上の援助を求めることができる(84条)。裁判所の許可が必要とされたのは、破産管財人が公務員でないことを考慮してのことである(公務員である執行官は、民事執行を行うに際して、裁判所の許可なしに警察上の援助を求める事ができるとされている(民執法6条1項))。

破産管財人の職務執行は、刑罰規定によっても保護されている。偽計又は威力を用いて、破産管財人・破産管財人代理の職務を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれの併科に処せられる(272条)。

破産管財人の注意義務・忠実義務
破産管財人は、その職務を忠実にかつ注意深く行わなければならない。

)民事上の責任)[CL2]  破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負い(85条1項),この善管注意義務違反に係る責任は,破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務に違反した場合に生ずる(同条2項)(最高裁判所 平成18年12月21日 第1小法廷 判決(平成17年(受)第276号))。


)刑事上の責任  破産管財人・破産管財人代理が自己若しくは第三者の利益を図り又は債権者に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、債権者に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれの併科に処せられる(267条)。

破産管財人の報酬
破産管財人は、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる(87条1項)。破産管財人代理の報酬は、破産管財人が受ける費用の前払の中に含めることも考えられるが、その職務の重要性を考慮して、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができるとされている(87条3項。ただ、費用の前払いは、破産管財人が一括して受領して、必要に応じて破産管財人代理に渡す方がよいであろう)。

破産管財人・破産管財人代理の報酬債権は、148条2号により財団債権となり、共益費用の一部として他の財団債権に優先する。[CL3]

破産管財人の源泉徴収義務
破産管財人は、破産財団所属財産を換価して得た金銭を利害関係人に支払うので、税法上の源泉徴収義務を負うかが問題となる。最高裁判所 平成23年1月14日 第2小法廷 判決(平成20年(行ツ)第236号)は、所得税法199条及び204条の源泉徴収義務について、「支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである」との根拠付けを前提にして、破産管財人と支払を受ける者との間の密度を検討して、次のように判示している。

1.3 任務の終了

破産管財人の職務は、破産手続の終了のほか、辞任・解任・死亡により終了する[4]。その後の破産財団所属財産の管理は、(α)辞任・解任・死亡の場合には、後任の破産管財人が、(β)破産手続開始決定の取消し・破産廃止の場合は破産者がなす。これらの者が財産を管理できるようになるまでの間、急迫の事情があるときは、従前の破産管財人が必要な処分(応急処分)をなす(90条1項)。

辞任
破産管財人は、正当な理由があるときは、裁判所の許可を得て辞任することができる(規則23条5項)。破産管財人が辞任を裁判所に申し立て、裁判所が正当な理由の有無を判断して、辞任の許否を決定する。辞任不許可決定に対して、辞任を申し立てた破産管財人は、即時抗告ができる。破産管財人が業務遂行意欲を失っている場合に、辞任を不許可にしても満足な結果は生じないので、正当な理由は、緩やかな解釈される(破産管財人個人または家族への悪質な嫌がらせも、辞任理由となりうる)。

解任
裁判所は、破産管財人が破産財団に属する財産の管理及び処分を適切に行っていないとき、その他重要な事由があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産管財人を解任することができる。この場合においては、その破産管財人を審尋しなければならない(75条2項)。

計算報告等
破産管財人の任務が終了した場合には、破産管財人は、遅滞なく、計算の報告書を裁判所に提出しなければならない(88条1項)。破産管財人の任務がその死亡等により終了したため、彼自身が報告をすることができないときは、後任の破産管財人が計算報告書を作成して、提出する(88条2項。死亡した破産管財人の相続人は、計算報告義務を承継しない。その意味で、計算報告義務は一身専属的義務である)。

破産債権者・破産者への報告は、次の2つの方法のいずれかでなされる。

いずれの方法によるのであれ、破産債権者・破産者は、破産管財人が報告した計算に異議を述べることができる(88条4項・89条3項)。計算報告をした破産管財人と後任の破産管財人とが異なる場合には、後任の破産管財人も異議を述べることができる。


計算報告の承認
破産債権者等は、債権者集会が開催された場合には、期日において異議を述べ、書面報告の場合には裁判所が定める異議申立て期間内に異議を述べる。異議がなければ、計算は承認されたものとみなされる(88条6項・89条4項)。

承認の意味は、責任追及がなされないということである。その意味での承認であるから、正確な情報開示が前提となる。十分な情報開示を伴わない計算報告が承認されても、責任免除とはならない。異議が提出された事項については、破産管財人は十分な説明をし、異議が撤回されれば、承認とみなされる。異議が撤回されなければ、通常の訴訟手続(損害賠償請求訴訟など)により決着が図られる。

破産管財人が死亡して、後任者が計算報告をした場合に、その報告に異議が述べられたときには、破産債権者から前任者の相続人に対して損害賠償の訴えが提起される可能性があるから、後任者が相続人に異議が出された旨を通知すべきであろう。

1.4 破産管財人の地位

破産法上の地位
破産管財人の地位をどのようにとらえるかについては、議論が分かれている。主要な見解のみを挙げると、次のような見解がある。

  1. 破産財団代表説:破産財団に法人格を認めて、破産管財人をその代表者と見る見解([兼子*1977a]472頁)。
  2. 管理機構人格説: 破産財団の法人格を否定し、財団所属財産は破産者に帰属したままであることを前提にして、管理機構としての破産管財人の法主体性を肯定し、これが財団所属財産について管理・処分権を有するとみる。管理機構としての破産管財人と破産管財人に選任される者(自然人・法人)とは別個であり、破産管財人が解任等により交代しても管理機構としての破産管財人は同一であると説く([山木戸*1974a]80頁以下)。

以下では、管理機構人格説を前提にして、説明する。

訴訟上の地位
破産財団に関する訴訟については、破産管財人が当事者となる(80条)[3]。彼は、民訴法115条1項2号の適用を受ける訴訟担当者であり、破産者は被担当者である。判決の効力は、破産手続終了後、破産者に、その有利にも不利にも及ぶ。[CL4]

破産管財人の実体法上の地位 − 第三者との関係
次の2つの面があり、いずれに重点を置くかで、見解の対立がある。

  1. 破産者の地位を引き継いだ者としての側面に重点を置く見解  破産管財人は、破産者の地位を引き継いで彼が有していた管理処分権を行使する者にすぎない。破産管財人が行使する管理処分権は、破産債権者への公平な平等弁済のために修正を受けるに過ぎない([百選*1990a]55頁(小林)など)。
  2. 破産債権者の利益代表としての側面に重点を置く見解  破産管財人は、破産財団から破産手続による満足の現実的期待をもった破産債権者の代表であり、強制執行の場合の差押債権者と同様に第三者性を認められるべきである。

破産手続は、「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整」(1条)しながら債務者の財産関係を適正かつ公平に清算する手続であるから、破産法のこの目的の実現のために設置される破産管財人の職務もまた、利害関係人の利害を適切に調整しながら行われるべきものとなる。したがって、破産管財人の地位を上記のいずれか一方に一律に決めるのは適当ではない。問題毎に、そしてその問題の解決のために適用されるべき規定の趣旨を考慮して、いずれに重点を置くべきかが検討されるべきである。

破産者の地位を引き継いだ者としての側面に重点がおかれる問題

破産債権者の利益代表としての側面に重点がおかれる問題


2 保全管理人



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1997年5月25日 −2005年7月13日 −2008年8月26日