by SIFCA
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破産法学習ノート2
破産手続の機関
関西大学法学部教授
栗田 隆
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1 破産管財人 保全管理人
文 献
- 高田賢治『破産管財人制度論』(大阪市立大学法学叢書61、有斐閣、2012年3月30日初版1刷、209頁)
- 高田賢治「イギリス倒産法における管財人制度(1)」大阪市立大学法学雑誌55巻3・4号(平成12年3月30日発行)842頁−879頁。
- 谷口哲也「破産法85条の理解」(清和法学研究23巻2号(2018年)113頁−142頁)
1 破産管財人
破産手続の追行のために、次の機関が用意されている[CL1]。
裁判所、債務者(破産者)および債権者が破産手続外でも存在するのに対し、これらは、特定の破産手続との関係で設置されるものである。
1.1 選任
裁判所が破産管財人になるべき者の同意を得て選任する(74条)[CL1]。破産手続開始決定と同時に、事件の規模・特質を考慮して、一人又は数人の者を選任する(31条1項柱書)。逆に管財人のなり手がなければ、破産手続開始決定は実際上困難となる[CL]。
裁判所は、破産管財人の職務を行うに適した者を選任する(規則23条1項)。現実には、弁護士が選任されることが多いが、大規模な破産事件が増加していることを考慮して、法人も破産管財人になることができるとされている(74条2項。典型的には、弁護士法人(弁護士法30条の2以下)である)。この場合には、当該法人は、役員又は職員のうち破産管財人の職務を行うべき者を指名し、指名された者の氏名を裁判所に届け出なければならない(規則23条2項)。
裁判所書記官は、破産管財人に対し、その選任を証する書面を交付する(規則23条3項)。
1.2 職務
職務内容
破産管財人の職務を法律の規定にしたがって列挙すると、次のようになる。
破産管財人の監督・コントロール
破産管財人は、破産裁判所の監督に服するほかに、破産債権者等も一定の範囲で破産管財人の行動にコントロールないし影響を及ぼすことができる。
- 破産裁判所
- 破産管財人は裁判所の監督に服す(75条1項)
- 解任(75条2項)
- 債権者委員会
- 破産債権者
- 破産管財人の計算に異議を述べることができる(88条4項・89条3項)
- 解任申立権(75条2項)
- 破産者
- 破産管財人の計算に異議を述べることができる(88条4項・89条3項)
- 解任申立権(75条2項)
破産管財人の権限
破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人が有し、かつ彼に専属する(2条12項・78条)。
重要な財産処分行為については、破産裁判所の許可が必要である(78条2項)。
(a)金額に依存しない法定重要行為 次の行為は、金額にかかわりなしに裁判所の許可が必要である。
- 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
- 鉱業権、漁業権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権[5]、回路配置利用権、育成者権、著作権又は著作隣接権の任意売却
- 営業又は事業の譲渡 「営業」は商法で用いられている用語であり(商法16条等)、「事業」は会社法で用いられている用語である(会社法21条・467条等)が、意味するものは同じである。
- 商品の一括売却
- 借財
- 相続の放棄の承認(238条2項)、包括遺贈の放棄の承認(243条・238条2項)又は特定遺贈の放棄(244条1項)
(b)金額に依存する法定重要行為 次の行為も、原則として裁判所の許可が必要であるが、破産規則で定める額(規則25条により100万円)以下の価額を有するものに関するときは、裁判所の許可は必要ない(78条3項1号)。
- 動産の任意売却
- 債権又は有価証券の譲渡
- 53条1項の規定による履行の請求
- 訴えの提起
- 和解又は仲裁合意
- 権利の放棄
- 財団債権、取戻権又は別除権の承認
- 別除権の目的である財産の受戻し
(c)その他裁判所の指定する行為
裁判所による許可不要指定
法律の規定によれば裁判所の許可が必要な場合でも、裁判所は、事件の特質、破産管財人の資質、経済状況等を考慮して、許可不要の指定をすることができ、許可不要の指定がされているものについては、個別の許可は不要である(78条3項2号)。
営業又は事業の譲渡
財産の処分にあたっては、複数の財産を一括して、その有機的連関を保った状態で(場合によれば、顧客関係あるいは労働関係を含めて)処分する方が、高額で売却できることがある。そこで、営業または事業の譲渡も認められているのであるが(3号)、裁判所は、許可をする場合には、労働組合等(32条3項4号)の意見を聴かなければならない(78条4項)。営業や事業の譲渡は、積極財産の譲渡であり、雇用関係を当然に包含するものではないが、しかし、譲受人が譲渡人の労働者を雇用することを期待できることもあり(さらに言えば、稀ではあろうが、労働者も譲受人になりうるのであり)、その点で労働者は営業・事業の譲渡に利害関係を有し、また、労働者が譲渡される営業・事業の内情に詳しく、有益な情報が提供されることを期待できるからである([小川*2004a]133頁)。
職務執行
破産管財人が複数いる場合には、原則として共同で職務を行う(76条1項本文)[1]。しかし、大規模な事件においては、基本的事項は共同して決定する必要があるとしても、その他の事項についてまで共同して職務を行うことを要求していたのでは、迅速な処理が望めない。破産管財人らは、裁判所の許可を得て、それぞれ単独にその職務を行い、又は職務を分掌することができる(76条1項ただし書)。
破産管財人は、自己の責任で、代理人を選任することができる。
- 包括的な代理権を有する破産管財人代理 必要があるときに、裁判所の許可を得て、その職務を行わせるため、自己の責任で一人又は数人の破産管財人代理を選任することができる(77条)。管財事務の遂行が代理人任せにならないように気を付けなければならない。
- 特定事項についての個別代理人 これは、裁判所の許可なしに選任できる。
破産管財人は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、裁判所の許可を得て、警察上の援助を求めることができる(84条)。裁判所の許可が必要とされたのは、破産管財人が公務員でないことを考慮してのことである(公務員である執行官は、民事執行を行うに際して、裁判所の許可なしに警察上の援助を求める事ができるとされている(民執法6条1項))。
破産管財人の職務執行は、刑罰規定によっても保護されている。偽計又は威力を用いて、破産管財人・破産管財人代理の職務を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれの併科に処せられる(272条)。
破産管財人の注意義務・忠実義務
破産管財人は、その職務を忠実にかつ注意深く行わなければならない。
(a)民事上の責任)[CL2] 破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負い(85条1項),この善管注意義務違反に係る責任は,破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務に違反した場合に生ずる(同条2項)(最高裁判所
平成18年12月21日 第1小法廷 判決(平成17年(受)第276号))。
- 賃借人が敷金返還請求権に質権を設定した後に破産宣告を受けた場合に、破産管財人が賃貸借契約をただちに解除することなく存続させ、破産宣告後の賃料債権が財団債権になるにもかかわらず、賃料を支払わずにおいて、契約解除に際して敷金を未払賃料に充当する合意を賃貸人とすることにより、質権の目的である敷金を消滅させことについて、質権者に対する担保価値維持義務に違反するものであるが、当時学説や判例が乏しかったこと等に鑑み、破産管財人としての善管注意義務違反の責任を問うことはできないとの理由で、質権者の破産管財人に対する損害賠償請求が棄却された事例がある(前掲最判
平成18年12月21日 第1小法廷 )。
(b)刑事上の責任 破産管財人・破産管財人代理が自己若しくは第三者の利益を図り又は債権者に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、債権者に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれの併科に処せられる(267条)。
破産管財人の報酬
破産管財人は、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる(87条1項)。破産管財人代理の報酬は、破産管財人が受ける費用の前払の中に含めることも考えられるが、その職務の重要性を考慮して、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができるとされている(87条3項。ただ、費用の前払いは、破産管財人が一括して受領して、必要に応じて破産管財人代理に渡す方がよいであろう)。
破産管財人・破産管財人代理の報酬債権は、148条2号により財団債権となり、共益費用の一部として他の財団債権に優先する。[CL3]
破産管財人の源泉徴収義務
破産管財人は、破産財団所属財産を換価して得た金銭を利害関係人に支払うので、税法上の源泉徴収義務を負うかが問題となる。最高裁判所
平成23年1月14日 第2小法廷 判決(平成20年(行ツ)第236号)は、所得税法199条及び204条の源泉徴収義務について、「支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである」との根拠付けを前提にして、破産管財人と支払を受ける者との間の密度を検討して、次のように判示している。
- 破産管財人の報酬は,旧破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理,換価及配当ニ関スル費用」に含まれ,破産財団を責任財産として,破産管財人が,自ら行った管財業務の対価として,自らその支払をしてこれを受けるのであるから,弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負う。
- 破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。・・・破産管財人は,上記退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではない。
1.3 任務の終了
破産管財人の職務は、破産手続の終了のほか、辞任・解任・死亡により終了する[4]。その後の破産財団所属財産の管理は、(α)辞任・解任・死亡の場合には、後任の破産管財人が、(β)破産手続開始決定の取消し・破産廃止の場合は破産者がなす。これらの者が財産を管理できるようになるまでの間、急迫の事情があるときは、従前の破産管財人が必要な処分(応急処分)をなす(90条1項)。
辞任
破産管財人は、正当な理由があるときは、裁判所の許可を得て辞任することができる(規則23条5項)。破産管財人が辞任を裁判所に申し立て、裁判所が正当な理由の有無を判断して、辞任の許否を決定する。辞任不許可決定に対して、辞任を申し立てた破産管財人は、即時抗告ができる。破産管財人が業務遂行意欲を失っている場合に、辞任を不許可にしても満足な結果は生じないので、正当な理由は、緩やかな解釈される(破産管財人個人または家族への悪質な嫌がらせも、辞任理由となりうる)。
解任
裁判所は、破産管財人が破産財団に属する財産の管理及び処分を適切に行っていないとき、その他重要な事由があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産管財人を解任することができる。この場合においては、その破産管財人を審尋しなければならない(75条2項)。
計算報告等
破産管財人の任務が終了した場合には、破産管財人は、遅滞なく、計算の報告書を裁判所に提出しなければならない(88条1項)。破産管財人の任務がその死亡等により終了したため、彼自身が報告をすることができないときは、後任の破産管財人が計算報告書を作成して、提出する(88条2項。死亡した破産管財人の相続人は、計算報告義務を承継しない。その意味で、計算報告義務は一身専属的義務である)。
破産債権者・破産者への報告は、次の2つの方法のいずれかでなされる。
- 債権者集会の開催(88条3項) 債権者集会の期日と計算報告書の提出日との間には、3日以上の期間を置かなければならない(88条5項)。
- 書面による計算報告(89条1項) 計算報告書の提出があった旨及びその計算に異議があれば一定の期間内にこれを述べるべき旨を公告する。異議申立期間は、公告が効力を生ずる日から1月以上でなければならない(89条2項)。
いずれの方法によるのであれ、破産債権者・破産者は、破産管財人が報告した計算に異議を述べることができる(88条4項・89条3項)。計算報告をした破産管財人と後任の破産管財人とが異なる場合には、後任の破産管財人も異議を述べることができる。
計算報告の承認
破産債権者等は、債権者集会が開催された場合には、期日において異議を述べ、書面報告の場合には裁判所が定める異議申立て期間内に異議を述べる。異議がなければ、計算は承認されたものとみなされる(88条6項・89条4項)。
承認の意味は、責任追及がなされないということである。その意味での承認であるから、正確な情報開示が前提となる。十分な情報開示を伴わない計算報告が承認されても、責任免除とはならない。異議が提出された事項については、破産管財人は十分な説明をし、異議が撤回されれば、承認とみなされる。異議が撤回されなければ、通常の訴訟手続(損害賠償請求訴訟など)により決着が図られる。
破産管財人が死亡して、後任者が計算報告をした場合に、その報告に異議が述べられたときには、破産債権者から前任者の相続人に対して損害賠償の訴えが提起される可能性があるから、後任者が相続人に異議が出された旨を通知すべきであろう。
1.4 破産管財人の地位
破産法上の地位
破産管財人の地位をどのようにとらえるかについては、議論が分かれている。主要な見解のみを挙げると、次のような見解がある。
- 破産財団代表説:破産財団に法人格を認めて、破産管財人をその代表者と見る見解([兼子*1977a]472頁)。
- 管理機構人格説: 破産財団の法人格を否定し、財団所属財産は破産者に帰属したままであることを前提にして、管理機構としての破産管財人の法主体性を肯定し、これが財団所属財産について管理・処分権を有するとみる。管理機構としての破産管財人と破産管財人に選任される者(自然人・法人)とは別個であり、破産管財人が解任等により交代しても管理機構としての破産管財人は同一であると説く([山木戸*1974a]80頁以下)。
以下では、管理機構人格説を前提にして、説明する。
訴訟上の地位
破産財団に関する訴訟については、破産管財人が当事者となる(80条)[3]。彼は、民訴法115条1項2号の適用を受ける訴訟担当者であり、破産者は被担当者である。判決の効力は、破産手続終了後、破産者に、その有利にも不利にも及ぶ。[CL4]
破産管財人の実体法上の地位 − 第三者との関係
次の2つの面があり、いずれに重点を置くかで、見解の対立がある。
- 破産者の地位を引き継いだ者としての側面に重点を置く見解 破産管財人は、破産者の地位を引き継いで彼が有していた管理処分権を行使する者にすぎない。破産管財人が行使する管理処分権は、破産債権者への公平な平等弁済のために修正を受けるに過ぎない([百選*1990a]55頁(小林)など)。
- 破産債権者の利益代表としての側面に重点を置く見解 破産管財人は、破産財団から破産手続による満足の現実的期待をもった破産債権者の代表であり、強制執行の場合の差押債権者と同様に第三者性を認められるべきである。
破産手続は、「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整」(1条)しながら債務者の財産関係を適正かつ公平に清算する手続であるから、破産法のこの目的の実現のために設置される破産管財人の職務もまた、利害関係人の利害を適切に調整しながら行われるべきものとなる。したがって、破産管財人の地位を上記のいずれか一方に一律に決めるのは適当ではない。問題毎に、そしてその問題の解決のために適用されるべき規定の趣旨を考慮して、いずれに重点を置くべきかが検討されるべきである。
(a)破産者の地位を引き継いだ者としての側面に重点がおかれる問題
- 手形の人的抗弁の切断(手形法17条) 融通手形の受取会社が破産し、その破産管財人Xが振出人Yに対して手形金を請求したと思われる事件である(正確な事実関係は不詳)。破産管財人からの手形金請求を次の理由により否定した。「3通の約束手形は、いずれも破産会社代表者Aの依頼を受けて、Yが破産会社の運転資金を融通する目的で振り出したものであり、なんらYと破産会社との間に対価関係があって振り出されたものではなく、Yは、このことをもって、破産宣告後破産会社から右約束手形を受け取り所持している破産管財人であるXに対しても対抗することができる」。最判昭和46・2・23判例時報622-102([百選*1990a]58頁(宮川)はこれに賛成する)。
- 破産者の担保保存義務 債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,この義務は、質権設定者が破産した場合に、その破産管財人に承継される(最高裁判所
平成18年12月21日 第1小法廷 判決(平成17年(オ)第184号))。
(b)破産債権者の利益代表としての側面に重点がおかれる問題
- 双方未履行契約の解除(53条)と賃借権の対抗要件 破産管財人が破産手続の開始を理由にして、破産者が締結した双方未履行契約を解除することができる。このこと自体が、破産管財人が単に破産者の地位を引き継いだ者ではないことを示している。そして、賃貸人について破産手続が開始された場合に、破産管財人は、賃貸借契約を53条1項の規定により解除することができるのが原則であるが、賃借人が賃借権を第三者に対抗するのに必要な要件(登記等)を具備しているときは、賃貸人に破産手続が開始されたことによってその存続を否定するのは妥当でないとの政策的判断の下に、破産管財人は解除をなしえないとされている(56条1項による53条1項・2項の適用の排除)。この場合の要件(登記)の機能は、53条の解除権を排除することであり、その点に鑑みて、この要件は、本来の対抗要件ではなく権利保護資格要件であると言われる。なお、56条に相当する規定のなかった旧法下において、この問題に関係する先例として、最判昭和48・2・16金融法務678-21がある。これは、借地人が建物保護法1条(現・借地借家法10条)による対抗要件を得る前に賃貸人が破産し、破産の登記後に初めて建物の登記がなされ、破産管財人が借地人に建物収去土地明渡しを求めた事件において、次のように説示した:「破産管財人は破産者の代理人または一般承継人ではなく、破産債権者の利益のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関であるから、破産宣告前破産者の設定した土地の賃借権に関しては、建物保護に関する法律1条にいわゆる第三者に当たるものと解すべきである」。本件の事実関係の下では、借地人は借地権を破産管財人に対抗できない。[百選*1990a]54頁(小林)はこれに批判的である。
- 物権の対抗要件(民法177条・178条) 破産債権者は、登記等により公示された破産者の財産から満足を得ることについて利益を有しており、破産手続の開始によりその利益は現実的な法的利益になるので、破産者から不動産物権を得た者との関係では、民法177条にいう第三者(登記の欠缺を主張することについて正当な利益を有する第三者)に該当する。破産者から物権を得た者は、破産手続開始時までに登記を経由しなければ、自己の権利を破産手続の関係で(従って、破産管財人に対して)主張できない。178条との関係でも同様である。ただし、登記については、49条1項ただし書に特則があり、破産手続開始後になされた登記の効力を破産手続の関係で主張することができる場合もある。
- 通謀虚偽表示による無効の主張の禁止(94条2項) 破産手続開始前に、破産者との通謀虚偽表示に一定の法律関係の外形を作出した者は、破産者に対してはその無効を主張することができるのであるが、破産管財人に対してもその無効を主張することができるとは限らない。破産管財人の背後には破産債権者がおり、破産債権者は、作出された財産関係を前提にして破産者の財産から満足を得ることについて利害関係をもつにいたっているからである。破産管財人はその利益代表者として94条2項にいう第三者に当たる。誰を基準にして善意を判断すべきかについては、見解が分かれている。
- 不法原因給付(民法708条)の主張 これについては、次の先例がある。
- 大阪地判昭和62.4.30判時1246-36・[百選*1990a]110事件(上原)がある。豊田商事の破産管財人が法外な歩合給を得た社員に対して、歩合報酬契約は公序良俗に反した無効なものであり、歩合報酬は不当利得になると主張して、その返還を請求した。被告は、歩合報酬契約が違法で無効であるならば、民法708条の不法原因給付にあたり豊田商事はその返還を求めることができず、同社を代表する破産管財人も同様に返還を求めることができないとして争った。裁判所は、次のように判示した。「破産管財人の権利行使の許否については、その態度等一切の事情を考慮して、同条の立法趣旨に照らし別途判断されるべきものと解する。けだし、破産管財人は裁判所によつて選任され(同法第157条[現74条])、裁判所の監督のもとに
(同法第161条[現75条1項])総債権者に公平な満足を得させることを目的として、破産法に基づき固有の権限をもつて管財業務を執行する独立した法主体であつて、その権利行使は破産者の権利承継人または代理人としてするものでないからである」[2]。
- 最高裁判所 平成26年10月28日 第3小法廷
判決(平成24年(受)第2007号)は、無限連鎖講を組織した会社について破産手続が開始され、講に参加した会員に賠償金を支払うために破産管財人が、配当金を得た会員に対して、配当金から出資金を控除した金額が不当利得に当たると主張してその返還を請求した事案において、配当金を得た会員は、信義則上、無限連鎖講の配当金が不法原因給付(民法708条)にあたると主張することができないと説示している。この判旨は、給付原因が公序良俗違反を理由に無効である場合一般に拡張してもよいように思えるが、最高裁は、そこまでの一般論は述べておらず、事例判決に止まっている。民法708条は、不法な目的のために給付をした者は保護に値しないとの考えに基づいているが、この事例では、破産会社は確かに不法目的の実行の一環として被告に給付をしており、708条により返還請求をすることができない。そして、配当金を受けることができなかった多くの会員も程度の差はあるにせよ、自分が無限連鎖講の会員になって不当な利益を得ようとして出資をしているのであるから、不法な目的のために会社に出資をしているということができるが、ただ、その出資行為の不法性が配当金返還請求を否定するほどに高いかと言えばそうではなかろう。そして、無限連鎖講の禁圧という目的の達成のためには、出資金の返還を抑制するよりは、配当金を得た者に利得を吐き出される方がよい。破産管財人が、出資をして配当金を得ていない会員への配当原資を得るために、配当金を得た者に対するからの配当金返還請求は認められるべきであり、配当金受領者が民法708条の適用を主張することは信義則上許されないとされるのである(木内裁判官の補足意見も参照)。
2 保全管理人
略