民事訴訟法講義
訴訟上の代理 2関西大学法学部教授
栗田 隆 |
問題となる事項 | 法定代理人 | 訴訟代理人 |
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代理権の書面による証明の必要 | 規則15条 | 規則23条1項 |
代理権欠如の場合の補正命令 | 34条1項 | 同左(59条) |
無権代理人の行為の追認 | 34条2項 | |
代理権消滅の相手方への通知 | 36条1項 | |
代理権消滅の裁判所への書面による届出 | 規則17条 | 規則23条3項 |
代理権欠如は、絶対的上告理由・再審事由である | 312条2項4号・338条1項3号 | 同左 |
問題となる事項 | 法定代理人 | 訴訟代理人 |
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本人の意思に基づいて選任されるか | NO | YES |
当事者の地位との接近性 | 近い。例えば、当事者尋問の規定が準用され(211条)、証人や鑑定人にはなれない。 | 遠い。例えば、尋問する場合には、証人尋問の方法による。理論上は、212条2項の鑑定人欠格事由に該当しない限り、鑑定人にもなりうる(ただし、214条により忌避される可能性が高い)。 |
代理権の範囲 | 極めて広範。 ただし、利益相反行為は禁止され、共同代理に服する場合がある。また、後見監督人がいる後見人ならびに特別代理人は、32条2項の行為をなすについて、特別の授権を必要とする。 |
55条2項の事項については特別の委任が必要であるが、広範である(55条1項)。弁護士である訴訟代理人については代理権の範囲を制限することができない(55条3項)。 なお、訴訟委任による代理人と法令による代理人とで代理権の範囲に差があり(55条4項)、55条2項は法令による代理人には適用されない。 |
法定代理人の特別授権事項の範囲よりも訴訟代理人の特別委任事項の方が広範囲であることにも注意。 | ||
送達 | 法定代理人にしなければならない(102条1項) | 訴訟代理人にするのが通常であるが、当事者本人にすることも許される。 |
代理人が複数いる場合 | 代理権の根拠法に従う。婚姻中の父母の共同親権につき民818条3項、後見人につき民842条・843条・859条の2参照。法人の代表者については、個別代表が原則であるが、共同で代表すべきことを定めることもできる(会社法349条2項)。 ただし、共同代理の場合でも、送達は1人にすればよい(102条2項)。 |
個別代理(56条) |
当事者の更正権 | なし | あり(57条) |
最判昭和38.2.21民集17-1-182頁 [百選*1998a]56事件 |
事実の概要 Y−−貸金返還請求訴訟−→X ‖ A(訴訟代理人・弁護士) XはAに和解権限も授与していたが、裁判所側の発言から推察される和解案に不満であるため、Aに和解に応じられないことを明言して帰宅した。しかし、Aが、31万円の債務の承認・3回の分割弁済・支払の担保のための抵当権設定を内容とする和解に応じた。そこで、Xが次の訴えを提起した。
原審(高松高判昭35.1.26高民集13-1-24頁)は、現55条3項・2項に相当する規定を適用して、和解権限の対外的制限を認めず、また、和解権限の全面的撤回をYに通知した事実も認められないから、Aは和解権限を有するとした(59条・36条1項)。 最高裁では、Aは訴訟物外の権利関係たる抵当権設定を内容とする和解を締結することができるか否かが特に問題となった。 |
判旨 本件の抵当権設定は訴訟物に関する互譲の一方法としてなされたものであり、Aに授与された和解の代理権限のなかに包含されていると解することができる。 |
検討 債権者代位訴訟(民423条)における原告が代位の基礎となる債権を失えば、彼は当事者適格を失う。この場合に、彼が選任した訴訟代理人の代理権はどうなるか。 (a)債務者が代位債権者に弁済をしたことにより代位の基礎となる債権が消滅した場合についてはどうか。
(b)代位の基礎となる債権が他に譲渡された場合についてはどうか。
債権取立訴訟における差押債権者(民執155条)についても、同様な問題が生ずる。 |