目次文献略語

民事訴訟法講義

訴訟上の代理 1


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 訴訟上の代理


代理人の概念  民事訴訟法上の代理人とは、当事者に法律効果を帰属させるために、当事者の名において、当事者に代わって、自己の意思決定に基づいて訴訟行為をなし、または当事者を名宛人とする訴訟行為を受領する者をいう。

訴訟上の代理人の種類  訴訟上の代理人は、伝統的に、(α)代理権の範囲が包括的であるか否か、(β)代理権が本人の意思に基づくか否かの視点の組み合わせにより、次の4類型に分類される。

包括的代理人 個別的代理人
法定代理人 ・ 実体法上の法定代理人(28条
・訴訟法上の特別代理人(35条
・刑事施設に収容された者への送達について、刑事施設の長(102条3項)
・証拠保全における特別代理人(236条
任意代理人 ・訴訟委任による訴訟代理人(54条
・法令による訴訟代理人(54条)
・送達受取人(104条1項)

以下では、包括的代理人のみを扱う。

準法定代理人  任意代理人と法定代理人とは、本人の意思に基づいて選任されるか否かにより区別される。本人の意思に基づいて選任される任意代理人は、本人の活動範囲の拡大を目的とする。他方、法定代理人は、本人の行為能力の補充を目的とする。しかし、代理制度の中には、選任と目的との間にあるこの対応関係からはずれるものがある。これを準法定代理人と位置づけることにする。次の2つがこれに該当する。

人事訴訟において裁判所が選任する訴訟代理人  人事訴訟では、通常訴訟であれば訴訟能力を制限されている者も、意思能力を有する限り自ら訴訟行為をなすことができるとの考えが採られている。ただ、通常人でも専門的知識を欠くために弁護士に訴訟委任をするのであるから、制限能力者の場合には、さらに一層、弁護士を訴訟代理人に選任することが望ましい。そこで、こうした制限能力者のために裁判所が訴訟代理人を選任する制度が設けられている(人訴法13条)。

しかし、弁護士に訴訟追行を委任するためには報酬の支払いを伴う委任契約をしなければならず[13]、この訴訟代理人をどのように位置づけたらよいかが問題となる。


2 法定代理人


2.1 意義

代理権の発生が本人の意思に基づかない代理人を法定代理人という。実体法上の法定代理人は、訴訟上も法定代理人になる(28条)。法定代理人が包括的な代理権を有する場合には、「代理」に代えて「代表」という言葉が使われることがある(例えば、民824条・859条。民訴211条における「代表」は、包括的代理権を有する法定代理人を指示すための語である)。法定代理権は、法定代理人の訴訟追行の基礎となる重要なものであり、これの欠如は再審事由となるので(338条1項3号)、書面で証明しなければならない(規則15条)[4]。

2.2 法定代理人の種類

広義の法定代理人には、次の種類のものがある[2]。
)実体法上の法定代理人[3] 
  1. 親権者(民824条)・後見人(民838条・859条)
  2. 訴訟行為について代理権を与えられた保佐人(民876条の4)・補助人(民876条の9)[9]
  3. 特別代理人
    • 利益相反行為について裁判所が選任する特別代理人(民57条・826条・860条)
    • 不在者の財産管理人(民25条以下)
    • 母がいない場合の嫡出否認の訴えの特別代理人(民775条)

)訴訟法上の法定代理人  民事訴訟法の規定に基づく代理人である。

  1. 訴訟無能力者に法定代理人がいない場合に、裁判所が個別の事件ごとに特別代理人を選任する。(35条
  2. 個別の事項(送達など)についての代理人として、
    • 刑事施設に収容された者への送達について、刑事施設の長(102条3項)
    • 証拠保全の申立ての相手方を指定できない場合に、裁判所が選任する特別代理人を(236条)。

次の者については、代理人であるのか当事者(訴訟担当者)であるのかについて争いがある。

  1. 相続財産管理人(民936条1項、家事審判規則116条・106条)  最高裁判所昭和47年11月9日第1小法廷 判決(昭和47年(オ)第585号)は、相続人の法定代理人であるとする
  2. 遺言執行者(民1006条・1010条・1015条)  最高裁判所昭和43年5月31日第2小法廷 判決(昭和42年(オ)第1023号)は、当事者であるとする。

2.3 身分関係に基づく法定代理人

一定の身分関係に基づいて法定代理人になる場合には、誰が法定代理人かを決める基準として、次の2つの選択肢がある。
  1. 戸籍の記載
  2. 真実の身分関係

真実の身分関係が何かが争われる訴訟においては、2を基準にすることはできないので、これをも考慮すると、戸籍の記載を判断基準とすべきである。

2.4 35条の特別代理人

選任  訴訟無能力者(未成年者・成年被後見人)は、自ら訴訟行為をすることができず、また、他人も、法定代理人のいない訴訟無能力者本人に対して訴訟行為(特に訴えの提起)をすることもできない。この場合に、実体法上の法定代理人(後見人)が選任されているべきであるが、死亡等の理由によりそれが欠けているときに、その選任を待っていたのでは遅滞のために損害が生ずるおそれがあるときは、訴訟無能力者に対して訴訟行為をしようとする者(相手方)は、その損害を受けるおそれのあることを疎明して、当該訴訟の限りで訴訟無能力者を代理する特別代理人の選任を受訴裁判所の裁判長に申し立てることができる(35条1項)。訴訟無能力者に法定代理人がいるが、利益相反行為であるといった理由で代理権を行使することができず、後見監督人や民法の特別代理人を選任していたのでは遅滞のため損害を受けるおそれがある場合も同様である。

選任申立てについての裁判  申立てを認める場合には、裁判長は、無能力者の利益を擁護できる適当な者(親族や弁護士など)を選任する(35条1項。「遅滞のため損害を受けるおそれがある」との要件に対応して、裁判所ではなく裁判長が選任するものとされている)。選任命令は、特別代理人にも告知する(規16条)。選任命令に対しては、不服申立てはできない。申立てを却下する命令に対しては、通常抗告ができる(328条)。

改任  特別代理人が不要になった場合(後見人が選任された場合など)や選任された者が特別代理人として適当でないことが明らかになった場合には、その者を解任し、必要に応じて別の者を選任する。これを改任という。改任の裁判は、裁判長ではなく、裁判所が決定により行い(35条2項)、新旧の特別代理人に告知する(規16条)。訴訟無能力者のために後見人が選任された場合でも、特別代理人は当然には代理権を失わず、改任決定が必要である。

類推適用  35条は、次の場合にも類推適用される。

適用除外  35条は、次の場合には適用されない。

2.5 法定代理人の地位

法定代理人は当事者ではない。法定代理人の訴訟行為の効果はすべて被代理人たる本人に帰属する。裁判籍や除斥原因等も、本人を基準とする。

しかし 法定代理人は、当事者の意思に関わりなしに代理権に基づいて訴訟行為をするので、次の事項に関しては当事者に準じて扱われる。

法定代理人は、当事者ではないので、判決の効力を直接受けるわけではない(115条参照)。しかし、敗訴の場合にその責任を分担すべきであり、本人との間で参加的効力を受ける(46条の類推適用)。

2.6 法定代理権の範囲

親権者は、利益相反行為となる訴訟行為をなしえない(民826条)。また、共同親権の場合には、訴えの提起は、共同してしなければならない(民818条。民825条は適用されない)。それ以外には、特に制限がない(民824条)。

後見人は、利益相反行為となる訴訟行為をなしえない(民860条・826条・851条4号)。また、後見人が訴えの提起、および、32条2項列挙の訴訟手続の終了をもたらす重要な行為をなすには、後見監督人がいる場合には、その同意が必要である(民864・12条1号4号、民訴32条2項)。

35条の特別代理人は、当該訴訟に関して後見人と同一の地位に立つ(35条3項参照)。特別代理人は、審級を限定して選任することもできるが、その旨が明示されない限り、すべての審級について代理権を有し、この場合には上訴も提起できる([注釈*1997b]88頁(難波孝一) )。32条2項の行為をするには、特別の授権が必要である(35条3項)。授権は、後見監督人が存在する場合にはその同意を意味し、後見監督人が存在しない場合(あるいは存在しても利益相反関係にある場合)には、受訴裁判所の裁判長の許可を意味する[7]。

2.7 法定代理権の消滅

消滅事由  法定代理権は、次のような事由により消滅する。

相手方への通知  代理権が消滅しても、相手方がそれを知らないまま従前の代理人を相手に訴訟を追行する場合がある。この場合に、その訴訟追行の効果を否定したのでは、手続が不安定になるので、法定代理権の消滅は、訴訟能力を得た本人又は新旧いずれかの代理人から相手方に通知しなければ、効力を生じない(36条)。したがって、124条1項3号による手続の中断も生じない。ただし、この通知を直ちになしうる者がいない場合、すなわち法定代理人の死亡の場合には、その時点で法定代理権消滅の効果が発生し、手続も中断する[8]。

裁判所への届出  通知を相手方になした場合には、手続のもう一つの主体である裁判所にその旨を書面で届け出なければならない(規17条)。

2.8 発展問題

不在者の財産管理人
裁判所により選任された財産管理人(民法25条1項)について考えてみよう。彼は、一種の法定代理人と考えられ、かつ、その権限は、不在者の死亡により当然に消滅するのではなく、選任処分の取消しにより将来に向かって消滅すると考えられる(『新版注釈民法(1)』361頁(遠田新一)参照)。不在者の生死はしばしば不分明であるので、彼は誰の代理人かが問題とななるが、不在者の生存中は不在者が本人であり、その死亡後は、不在者の財産管理の範囲内で、相続人の法定代理人と解すべきである。したがって、財産管理人が不在者の死亡後にした管理行為の効果は、不在者の相続人に及ぶ(裁判上の行為について、最高裁判所 昭和28年4月23日 第1小法廷 判決(昭和24年(オ)第112号)参照)。

一般に、訴訟手続との関係では、法定代理権の消滅の効果は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ効力を生じない(民訴法36条1項)。このことは、財産管理人の選任処分が取り消された場合にも妥当する(選任処分の取消しにつき、家事事件手続法147条参照)。代理権消滅の時点で訴訟代理人がいない場合には、その時点で訴訟手続が中断し、相続人が訴訟手続を受け継ぐべきである。

以上のことを前提にして、財産管理人が訴状の当事者欄に「原告 不在者 X 財産管理人 A」と記載して、不在者の属する権利について訴えを提起した場合に、誰が当事者であり、訴訟係属中に房津医者の志望が判明した場合に訴訟手続がどうなるかを考えてみよう。

訴訟当事者が訴訟手続外の事実により定まるということは、好ましいことでない。しかし、不在者を当事者とし財産管理人を法定代理人とする訴えのは、もともと、「当事者は不在者かましれないし、相続人かも知れない」という二義性を有しており、不在者の財産管理制度がそのような二義的な訴えを許容していると考えるべきであろう。


3 準法定代理人


3.1 法人等の代表者

法人および29条の適用のある社団・財団(法人等)の代表者は、法人の構成員の意思に基づいて選任される点で、任意代理人に近い一面をもつ。他面で、法人等は自ら行為することはできず、対外的には代表者の行為をもってその行為とすることになる点で、能力の補充の機能をもち、法定代理人に近い。そこで、法人等の代表者には、法定代理人に関する規定が準用される(37条)[6]。

原則
法人の代表者とは、その法人の名で、自己の意思に基づいて行為する者で、その効果が法人に帰属する関係にある者(代表機関)をいう。法人格を有しない団体についても、同様に代表者を考えることができる。次の者が代表者に当たる。

特則
監査役が設置されている株式会社とその取締役との間の訴訟(特に取締役に対する責任追及訴訟)については、取締役と代表取締役の馴合いを回避するために、監査役が会社を代表する(会社法386条1項)。当該取締役が退任している場合でも同様である(同項かっこ書)[14]。

持分会社において、代表業務執行社員と会社との間の訴訟について、その社員以外に会社を代表することのできる社員がいない場合には、その他の社員の過半数をもって会社を代表する者を定めることができる(会社法601条)。また、会社に対して業務執行社員に対する訴訟を求めた社員は、会社がその訴訟を提起しない場合には、自ら会社の代表者になって訴訟を提起することができる(同602条)。

訴訟において国等を代表する者
国を当事者または参加人とする訴訟において国を代表するのは、法務大臣である(法務大臣権限1条)。
地方公共団体については、その長である(地自法147条)。

地方公営企業   地方自治体が地方公営企業法に従い水道事業や自動車運送事業等を営む企業を経営する場合に、その企業は独立の法人格を有さないが、企業経営が政治的介入を受けることなく経済的・効率的に行われるようにするために、企業経営の専門家として管理者が置かれ、企業経営の多くの事項について管理者が自治体を代表する(同法1条・2条・7条・8条)。例えば、企業活動により損害を受けた者は、地方自治体に対して損害賠償を請求することができるが、その訴訟について地方自治体を代表するのは、自治体の長ではなく、管理者である(最高裁判所 令和3年1月22日第2小法廷 判決(県立病院が診療録の開示請求について処分をしなかったことを理由とする損害賠償請求事件について被告である県の代表者を県知事とした訴えが却下された事例)。同法9条では、管理者が企業活動に関連する訴訟について管理者が自治体を代表することが明示されていないが、8条1項柱書で管理者は「当該業務の執行に関し当該地方公共団体を代表する」と規定されており、「業務の執行」の中には「訴訟による紛争解決」も含まれると理解される)。

3.1.2 代表権限の証明

代表者の資格は、文書により証明されなければならない(規則18条・15条)。

法人等が訴えを提起するときには、これらの資格証明文書を訴状に添付することが必要である(規則18条・15条)。法人等に対して訴えを提起するときにも、原告は、訴状の必要的記載事項である被告の代表者の記載に誤りがないことを明らかにする趣旨で、資格証明文書を添付する。

3.1.2 法人の代表と表見法理

法人を被告にして訴えを提起する者は、その法人の代表者を調査して、資格証明文書を添付して訴えを提起する。調査の方法は、一般には登記によるしか方法がないので、訴え提起後に登記上の代表者が真実の代表者と異なっていたことが判明した場合に、これまでの訴訟追行の結果をどのように扱うかが問題となる。実体法では、このような場合に、取引の安全を図るために、代表者の外観を有した者を代表者とする表見法理により善意者を保護している。この表見法理を訴訟の場でも適用すべきかについて、積極説と消極説とに分かれている。最判昭和45.12.25民集24-13-2072・[百選*1998a]54事件は、訴訟開始の間もない段階で登記簿上の代表者が真実の代表者ではないと主張した事案において、消極説をとった。

3.2 任意後見人

任意後見人は、本人の意思に基づいて選任されるという点で任意代理人である(任意後見法2条1号参照)。この点を強調すれば、任意後見法に裁判上の代理に言及する規定はないが、彼は法令による訴訟代理人と位置づけるべきことになる。しかし、機能は、明らかに能力の補充であり、任意後見人に与えられた権限内では、訴訟上も法定代理人に準じて扱うべきである。

3.3 社債管理者・受益者代理人等

社債の発行者は、社債に化体される権利を設定して、その権利を売却して資金を調達する。このような社債発行者を典型例にして、他人によって取得されることを予定した権利を発生させる(設定する)者を「権利設定者」と呼ぶことにしよう(信託行為により受益権を発生させる委託者を含む)。権利設定者が、権利を取得する者のために、法令により、裁判上の代理行為もなし得る代理人を設置する場合がある。そのような代理人の代表例は、社債発行会社が社債権者(本人)のために設置することが義務づけられている社債管理者や、信託法138条により委託者が受益者(本人)のために設けることができるとされている受益者代理人である。代理人が代理権限を取得する仕組みは、社債管理者については、次のように説明される:社債発行会社と社債管理者との間で、後者が社債権者の代理人になることの契約が結ばれる;それは第三者(社債権者)のためにする契約であり、本人が社債を取得することを通じて受益の意思表示をし、これにより社債管理者は社債権者全員を本人とする代理権限を取得する[17]。

この代理人は、一般に、法定代理人に分類されている[18]。ただ、社債管理者について言えば、多数の弱小権利者である本人を保護するための代理人ではあるが、 本人の能力を補充するための代理人ではなく、その点で一般の法定代理人とは異なる。その相異は、特に、代理人がなし得る行為を本人もなし得る点に生ずる。もっとも、代理人の行為と本人の行為とが競合すると混乱が生じやすいので、本人の権利行使を制限する旨の規定が置かれている場合もある(例えば、信託法139条4項。ただし、全面的に制限されているわけではない)。

この種の代理人制度は、本人が多数でかつ変動しやすい場合に、本人と相手方(社債発行会社や受託者)との間の交渉関係を単純化するのに役立つ。そこで、代理人は、代理行為をする場合に、本人(社債権者)を個別に表示する必要は(同708条)ないとされ、あるいはその範囲を示せば足りる(信託法139条2項)とされている。

社債管理者や受益者代理人は、法律の規定により裁判上の行為をする権限を有するとされているが、そうした規定がない領域において、私人間の合意により裁判上の代理権まで与えることは、現行法の解釈論としては困難である。そうした領域においては、権利発行者は、一定の状況下で本人の権利を自己の名で行使することができる者を設置して権利を発行すべきことになる。その権利行使が訴訟においてなされる場合には、それは任意的訴訟担当となる(許容された事例として、最高裁判所 平成28年6月2日 第1小法廷 判決(平成26年(受)第949号)参照)。

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1998年6月1日−2022年1月19日