関西大学法学部教授 栗田 隆


民事訴訟法講義「代理 2」の注


注1

58 対応する
124条1項の規定
1項1号 1項1号・3号前段
1項2号 1項2号
1項3号 1項4号
1項4号 1項3号後段(ただし、「訴訟能
力の喪失」は欠けている)
2項 1項5号
3項 1項6号

注2 ただし、55条3項を2項の事項に適用することを否定して、相手方への書面による通知をもって制限を相手方に対抗しうるとする見解もある(上北・演習民訴法230頁)。

注3 その後の先例として、次のものがある。

学説の中には、これらと異なり、和解権限を訴訟物たる権利関係に限定する見解もある。これによれば、本文で紹介した最判事件の抵当権設定は無権代理行為となり、本人による追認がなければ無効である。

注4 [兼子*1986a]246頁、[上田*1997a]124頁(発言機関に近い特殊な代理人)など。

これに対して、通常の訴訟代理人との差異を重視し、補佐人の陳述が当事者の陳述と同視されるのは当事者が黙示的に援用した結果にすぎないとみて、代理人ではなく当事者の発言機関であると説く見解もある([三ケ月*1959a]208頁)。

注5 その他に、次の見解がある。

  1. 有効説  単なる訓示規定と解して、有効であるとする説。
  2. 絶対無効説  常に無効とする説。これに対しては、相手方が無効を主張しない場合にも当該弁護士の訴訟行為を無効とするのは、行きすぎであると批判される。
  3. 本人追認説  当事者本人の追認があれば有効となる説。これに対しては、25条1号・2号により保護されるべき者は相手方当事者であり、本人の追認の有無に基づいて効力を決定するのは不当であると批判される。

注6 もっとも、新資格者が選任されるまでの法律関係をどのように理解するかは、一つの問題となろう。訴訟代理人が一時的に当事者となると解する見解は、一つの割り切った見解であるが、魅力的とはいえない。被担当者が当事者になるとすることも考えられるが、しかし、これは、例えば破産管財人が訴訟担当している場合には、被担当者である破産者が当事者適格を有しないことと調和しない。結局、訴訟担当の基礎となる一定の資格に抽象的な法人格を認め、その代理人であると考えることになろうか。

注7 [注解*1991a]421頁[伊東=高島]、[注釈*1992a]395頁[中島]。債権質権者(民367)の位置付けは微妙である。[注解*1991a]421頁は58条2項の適用を認める。

注8 したがってまた、弁護士は、専門家としての能力の維持・向上のために、継続的に研修に努めることになる。このことは、日本でも外国でも同じである。アメリカ合衆国における実情につき、[笠井*1999c]参照。

注9 もちろん弁護士のすべてが正義の味方というわけではない。消費者破産にからんで不正な利益を貪る整理屋・紹介屋などと結託する悪徳弁護士も少なからずいる[R55]。

注10 サービサーについて、次の文献を参照。[山田*1998a][浜辺*1998a][北見*1998a]。

注11 民法では権限踰越の表見代理(110条)の問題となり、相手方に「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」があるか否かにより問題が解決されることとなるが、民事訴訟法ではそのような問題ができるだけ生じないように権限を法定しているのである。

注12 民法111条1項の例外である。代理権の存続のためには訴訟委任契約の存続も必要であるから(民法111条2項参照)、民法653条の例外ともなる。なお、委任者または受任者の破産(破産手続開始決定がなされたこと)が委任契約の終了原因である点は変更されず、したがって訴訟代理権の消滅原因である。破産法44条民訴旧125条)による中断に民訴124条2項の準用がないことにも注意。

注13 特に、地方公共団体が和解や調停をなすには議会の同意が必要であり(地自法96条1項12号)、指定代理人は、議会の議決なしでは和解・調停をなしえない点に注意が必要である。

注14 弁理士法(平成12年法49)5条2項も同趣旨の規定であるが、例外の定め方に差異があることに注意。

注15 日本では、国を当事者とする民事訴訟について国を代表する資格が法務大臣に集中され、実際の訴訟はその指定代理人がする。これに対して、イングランドでは、関係諸機関に代表資格が分散されているとのことである([長谷部*2000b]23頁以下参照)。

注16 当事者になることはそれなりの精神的負担を伴うことであるから、任意的訴訟担当と訴訟代理との違いは、実際上も重要である。

注17 また、特定侵害訴訟代理業務試験により訴訟追行技量が十分に担保されていると認識される段階に至れば、2項・3項を廃止して、単独出頭を認めるべきである。その段階に至れば、単独受任を認めないことの合理性の再検討が必要となろう。

注18 特定侵害訴訟代理業務試験は、特定侵害訴訟に関する訴訟代理人となるのに必要な学識及び実務能力に関する研修であって経済産業省令で定めるものを修了した弁理士に対し、当該学識及び実務能力を有するかどうかを判定するため、論文式による筆記の方法により行なわれる(弁理士法15条の2)。これらの試験および研修を、それぞれ能力認定試験、能力担保研修などと略称することがある。両者を併せて能力担保措置という(予定されている措置の内容は、特許庁総務課長の私的研究会として開催された研究会の報告書([研究会*2002a])に示されている)。試験の細目は、経済産業省令で定められる(弁理士法16条)。能力担保研修を受ける前提として、民法および民事訴訟法の基礎知識を修得するための基礎研修(各30時間)が、平成14年後半から、日本弁理士会の委託によりいくつかの大学(青山学院大学、慶応大学、立命館大学、関西大学など)で行われるようになった。

注19 この規定が第2編第7章「簡易裁判所の訴訟手続に関する特則」の中に置かれずに54条1項中に置かれているのは、54条が第1編「総則」の中の規定だからである。

注20  簡易裁判所の判決に対する上訴の提起を簡易裁判所における訴訟行為と位置づけるべきかは微妙なところである(判決の言渡しにより簡易裁判所における訴訟手続は終了すると考えると、簡易裁判所における訴訟行為ではないと考えることもできる)。しかし、上訴期間が判決の送達時から2週間という短い期間であり、判決の言渡しに接着してなされる訴訟行為であること、上訴すべきか否かは原審に関与した者がよりよく判断することができること、上訴状の提出先が現行法では原審裁判所とされていることを考慮すると、上訴提起そのものは原審における訴訟行為と観念することができる。それを前提にして、司法書士法は、簡易裁判所の判決に対する上訴の提起について司法書士は訴訟代理の資格を有しないとされた(平成14年改正の当時からこのように規定されている)。しかし、簡易裁判所において訴訟代理人になっていた事件については、彼に上訴提起の代理資格を認めないと上訴期間徒過の危険が高まる。そこで、平成17年改正により、その場合に限り上訴提起の代理資格を認めるために、従前の「上訴の提起」が「上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)」に改正された。上訴審裁判所(通常は、控訴審である地方裁判所)は簡易裁判所でないので、司法書士は、簡易裁判所において訴訟代理人になっていた事件でも、上訴審における訴訟手続について訴訟代理資格を有しない。

注21  一般に,民事に関する紛争においては,訴訟の提起前などに裁判外の和解が行われる場合が少なくないことから,裁判外の和解についても認定司法書士が代理することを認められている(司法書士法3条1項7号)。「その趣旨からすると,代理することができる民事に関する紛争も,簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである。また,複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても,通常,債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし,最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば,裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は,個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる」。したがって、「債務整理を依頼された認定司法書士は,当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額を超える場合には,その債権に係る裁判外の和解について代理することができない」(最高裁判所 平成28年6月27日 第1小法廷 判決(平成26年(受)第1813号,第1814号))。

注22  訴訟において自分の言い分を適格に主張することは誰にでもできるということではない。その能力が十分でない者にために他人訴訟文書を作成すること、あるいは本人にアドバイスを与えることは、おそらく古い時代からから多くの国で認められていたと思われる。しかし、他人のために訴訟文書を作成する者が事実を曲げた主張をすることを助言したり、そのような主張を記載した文書を本人に代わって作成するとなると問題が生じ、そのような行為は禁止されることがある。民事訴訟であるか刑事訴訟であるかを捨象して、旧中国(明および清)についてこのことを論じた文献として、[佐立*2018a]がある。