Xは、2008年5月5日にA土地をYに3000万円で売却した。しかし、Yが代金を支払おうとしないので、Xは、裁判所に訴えることにした。訴えるというのは、この場合には、どのようなことか。 |
訴えるということは、「訴状」という標題を付した書面に133条2項所定の次の事項ならびにその他の事項を記載して、その書面を裁判所に提出することである(133条1項)。
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「請求」には、2つの意味がある[4]。
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事項 | 別の説明 | この講義の説明 |
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狭義の請求 | 請求(権利主張)は、裁判所に向けられたものではなく、被告に向けられたものである[5]。だからこそ、被告がこれを認諾できるのである(もし裁判所に向けられているのであれば、被告が認諾する余地はない)。 | 狭義の請求は、訴えの提起により裁判所に通知される権利主張である。請求の認諾は、原告が裁判所に向けてなした権利主張(狭義の請求)が正当である旨を被告が裁判所に陳述することである。 |
訴え | 訴えは、「請求の当否について審理判決することを裁判所に要求する訴訟行為」あるいは「請求についての本案判決の要求」である[2] | 訴えは、請求の趣旨に示された判決を求める申立てである。訴えが適法であれば裁判所は本案判決をなす義務を負う。 |
訴訟類型と 訴えの名称 |
原告の求める判決類型の名称と 判決主文の例 |
判決の内容的効力 |
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確認訴訟 確認の訴え |
確認判決(一定の法律関係の存否を確認する判決)。 「別紙目録記載の土地につき、原告の所有権を確認する」(積極的確認判決)。 「被告が別紙目録記載の不動産について地上権を有しないことを確認する」(消極的確認判決)。 |
請求棄却判決は、「原告主張の権利関係が存在しない」との判断に既判力を生じさせる確認判決である。請求認容判決は、「原告主張の権利関係が存在する」との判断に既判力を生じさせる確認判決である。 認容判決・棄却判決のいずれにも、既判力がある。執行力や形成力はない。 |
給付訴訟 給付の訴え |
給付判決(被告に一定の給付を命ずる判決)。 「被告は、原告に対し、500万円を支払え」。 |
請求棄却判決は、既判力のみを有する確認判決である(「原告主張の請求権が存在しない」との判断に既判力が生ずる)。 請求認容判決は、給付判決と呼ばれ、次の効力がある。
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形成訴訟 形成の訴え |
形成判決(法律関係の変動を宣言する判決)。 「原告と被告とを離婚する」。 |
請求棄却判決は、既判力のみを有する確認判決である。(法律関係の形成を求める地位の不存在の判断に既判力が生ずる) 請求認容判決は、形成判決と呼ばれ、次の効力を有する。
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問題 | キーワード |
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判決事項(246条) | (当事者が申し立てた)事項 |
既判力の客観的範囲(114条) | 主文に包含するもの |
請求の併合(136条) | 請求 |
重複起訴の禁止(142条) | 事件 |
訴えの変更(143条) | 請求 |
再訴の禁止(262条2項) | 訴え |
仮執行宣言付き判決の変更と原状回復(260条2項) | 請求(259条1項) |
(B')の見解によれば、上記1から3の問題の答がどうなるか、考えてみよう。 |
全部説 | 一部説 | |
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裁判所が残存債務は200万円であると判断した場合。 | 請求認容判決(「原告の被告に対する債務が200万円を超えては存在しないことを確認する」)。 残債権は200万円を超えては存在しないことが確定する。かつ、残債権200万円の存在も確定する。 |
請求認容判決(左に同じ)。 残債権は200万円を超えては存在しないことが確定する。しかし、残債権200万円の存在は確定されない。 |
裁判所が残存債務は100万円であると判断した場合。 | 本来は「100万円を超えては存在しない」との趣旨の判決を下すべきであるが、原告の求める以上の判決をすることは許されないので(246条)、請求認容判決(上に同じ)。 既判力の内容は、上と同じ。 |
訴訟物になった部分について原告の法律関係の主張が認められるので、請求認容判決(上に同じ)。 既判力の内容は、上と同じ。 |
裁判所が残存債務は300万円であると判断した場合。 | 一部認容判決(「原告の被告に対する債務が300万円を超えては存在しないことを確認する。原告のその余の請求を棄却する」) 残債権は300万円を超えては存在しないことが確定する。かつ、残債権300万円の存在も確定する。 |
一部認容判決(左に同じ) 残債権は300万円を超えては存在しないことが確定する。かつ、残債権300万円のうち訴訟物となった100万円部分の存在も確定する。しかし、訴訟物とならなかった200万円部分の存在は確定されない。ただし、その部分の不存在を後訴において主張することが信義則に反するとされる余地はある。 |