目次文献略語
民事訴訟法講義

訴訟手続の中断・中止


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 中断・再開


文 献

初めの一歩

XがYに貸金返還請求の訴えを提起した。その訴訟中にYが死亡した。Yの唯一の相続人Aは、遠隔地に居住していた。Aは、葬儀の後、Yの財産関係の整理に取りかかったが、訴訟の存在を知ったのは、半年後であった。

  • Aは、いつ当事者になるのか。
  • Aが訴訟の存在を知って実際に訴訟行為をなすことができるようになるまでの間、訴訟手続はどうなるのか(そのまま進行するのか)。
  • Yに訴訟代理人がいる場合といない場合とで違いがあるのか

上記の設例において、Yの死亡と同時に法定相続人AはYの当事者としての地位を承継する。しかし、Aがすぐに訴訟手続を実際に追行することができるとは限らない。そこで、訴訟手続を一時停止した上で、一定の手続を経てAに訴訟手続を追行させることにした。訴訟手続の中断・受継と呼ばれる制度である。

1.1 中断(124条以下)

手続追行者
用語法
中断するのは、訴訟手続であり、訴訟や訴えが中断するのではない。

もっとも、縮約的表現として、「否認の訴え等の中断」と言わることがあるが(例えば、民事再生法141条の見出し)、これは精確には「否認の訴え等に係る訴訟手続の中断」(あるいは「否認の訴訟手続等の中断」)などと表現されるべきものである。

最初に言葉の定義をしておこう。訴訟手続の追行の効果は当事者に帰属し、当事者が訴訟手続を追行するのが原則である。しかし、当事者が訴訟無能力者である場合には、法定代理人が手続を追行しなければならない。現実の訴訟行為は訴訟代理人がなす場合でも、当事者または法定代理人の意思に基づいて訴訟代理人が選任され、解任されうるのであるから、手続を追行するのは当事者または法定代理人である。そこで、これらの者を手続追行者あるいは単に追行者と呼ぶことにする[2]。

中断事由(124条破産法44条
一定の事由(後述の中断事由)の発生により手続追行者の交替が必要になる場合には、新追行者またはその被代理人の利益を保護するために、誰が訴訟手続を続行すべきかが明確になるまで訴訟手続を停止しておくことが必要となる。この手続停止を中断という。訴訟手続は、中断事由の発生と共に、法律上当然に中断し、裁判所や相手方の知・不知にかかわらない[1]。中断中は、裁判所も当事者も原則として訴訟行為をすることができず、上訴期間等は手続再開後にあらためて進行する。

中断事由は、従来の追行者と新追行者との間に利益の対立関係があるか否かを考慮して、2つのグループに分けられる。(α124条で対立関係がない場合の中断事由が定められている。(β)破産手続等の倒産処理開始の場合には対立関係があるので、別個に規定されている(破産法44条等)。前者の場合には、訴訟代理人がいれば手続は中断しない(124条2項)。後者の場合には、訴訟代理人がいても中断する。

中断事由には、(α)当事者の交替を伴うものと(124条1項1号・2号・4号-6号・破産法44条2項・5項)、(β)伴わないもの(124条1項3号)とがある。当事者の交替を伴う場合には、新当事者は、中断事由発生の時点で旧当事者の訴訟上の地位を当然に承継していると説明される(当然承継)。

当事者の消滅(124条1号・2号)
自然人の死亡あるいは法人の合併を原因とする消滅により当事者が消滅した場合には、その当事者の実体法上の地位を包括承継する者、または財産管理権を包括的に付与された者(相続財産管理人等)がその訴訟上の地位を承継し、訴訟手続を続行しなければならない。

もっとも、訴訟物たる権利関係について承継人が存在しない場合には、原則として、当事者の地位を承継する者もいないことになるので、訴訟は当然に終了する(後述「訴訟の当然終了」参照)。

ただし、第三者が身分関係の当事者双方を被告として提起する人事訴訟(婚姻取消訴訟など)にあっては、その一方が死亡した場合には、特別の規定がなければ、生存当事者のみが被告適格者であるので(人訴12条2項)、訴訟手続の中断も生じない(人訴26条1項)。また、身分関係の当事者双方が死亡した場合には、検察官が被告適格者となるので(人訴12条3項参照)、検察官を被告として手続は続行される(人訴26条2項。なお、同法42条2項・43条3項の準用規定にも注意)。

当事者の訴訟能力・法定代理人の変動(124条3号)
α)これまで自ら訴訟を追行してきた当事者が成年後見開始等により訴訟能力を喪失した場合には、その者の保護のために、法定代理人が訴訟追行できるようになるまで手続は中断する。(β)未成年者が成年になった場合には、法定代理人の代理権は消滅し、本人が訴訟手続を受け継ぐ。(γ1)法定代理人が死亡した場合には、新たな法定代理人が訟追行為をなすことができるようになるまで手続を中断する。(γ2)その他の事由で法定代理権が消滅した場合も同様である。なお、(β)と(γ2)の場合には、法定代理権消滅の通知により初めて中断の効果が生ずる(36条)。

法人の代表者についても同様である(37条)。

保佐人または補助人が訴訟について法定代理権を有すると共に、本人もこれらの者の同意を得てまたは得ずに自ら手続を追行することができる場合がある(民法13条・876条の4・17条・876条の9)。この場合には、法定代理人である補佐人又は補助人が死亡した場合あるい法定代理権を喪失した場合でも、本人みずから訴訟手続を続行することを期待できるので、手続は中断しないものとされた(124条5項。同意が必要な場合には、同意を得ていることが必要である)。ただし、124条1項6号の場合などと比較すると、バランスはよくない(立法論になるが、被保佐人等の保護のために一旦中断させる方がよい)。

信託に関する任務の終了(124条1項4号)
財産を信託されたことにより財産の帰属主体となった受託者は、当該財産に関する訴訟の当事者になる。その者の信託任務が終了し、新受託者等(受託者又は信託財産管理者若しくは信託財産法人管理人)が財産帰属主体となる場合に、現行法は、帰属主体のこの変更を財産譲渡とは異なるものと捉えて、訴訟の当然承継を肯定し、手続の中断・受継を認めた(124条1項4号イ)[7]。訴訟当事者が信託財産管理者又は信託財産法人管理人であった場合には、新たな受託者又は新たな信託財産管理者若しくは新たな信託財産法人管理人が受継し、訴訟当事者が信託管理人であった場合には、受益者又は新たな信託管理人が受継する(124条1項4号ロ・ハ)。

信託の終了により清算手続を経て残余財産が信託法182条所定の者(残余財産受益者や帰属権利者等)に帰属する場合については、民訴法124条1項4号の適用はなく、訴訟の目的となっている権利の譲渡の場合に準じて49条以下によることが原則となる(法文において「信託の任務終了」といい「信託の終了」といっていないのはこの趣旨である。大正15年法につき[山内*1929a]331頁参照[13])。なぜなら、係属中の訴訟を結了させることも信託財産の清算事務に含まれ、係争中の権利関係が残余財産として残余財産受益者等に移転されることは本来はないはずだからである。ただし、清算受託者と残余財産受益者等との合意により、係争中の権利関係を残余財産の一部として移転させることは許されてよく、この場合に訴訟の参加承継・引受承継が生ずる([栗田*2008a]19頁)。

若干の注意が必要な場合を取り上げておこう([栗田*2008a]17頁以下参照)。

他人のための当事者となる資格の消滅ないし移転(124条4号−6号)
ある者が他人の権利義務について一定の資格に基づき当事者となっている場合に、その資格が消滅したときは、係争権利義務の帰属主体の利益の保護のために、訴訟手続は中断する。

)一定の資格に基づき当事者適格を有する者の資格喪失(5号)  これに該当するのは、次のものである。

他方、(α)次のものはこれに該当しない。

また、(β)次の場合もこれに該当しない。

上記のうち、(β)の場合には、訴訟担当者と被担当者と間の利害関係を考慮すると、58条2項・124条2項を適用するのは適当ではないから、この結論自体は正当である。問題は、115条1項2号との関係をどう考えるかである。固有適格説をとって既判力拡張を否定する場合には、この結論で首尾一貫する。法定訴訟担当説にたって115条1項2号による既判力拡張を認める立場に立つと、従前の訴訟成果を無にされる被告の保護が問題となろう。債権者代位訴訟について言えば、問題となるのは、被担当者が原告に債務を弁済し、原告が担当資格を喪失した場合であり、この場合には、債権譲渡に準じて取り扱うのが適当であろう(参加承継説)[3]。株主代表訴訟については、原告株主全員が担当資格を喪失した場合に、会社に訴訟を受継させるのが適当かが問題となる。訴訟追行の意思のない会社に受継させても株主にとって良い結果が生ずるとは思われないから、中断・受継は否定すべきである(原告全員の当事者適格喪失により、訴えは却下される)。

)選定当事者全員の資格喪失(6号)  選定当事者も訴訟担当者の一種であるが、一部のものが資格を喪失したにとどまる場合には他の者が引き続き訴訟を追行することができるので(30条5項)、中断させる必要はない。この点を明確にするために6号の規定が置かれた。選定当事者全員が資格を喪失し、選定者が手続を受け継ぐ場合には、必要的共同訴訟でない限り、全員がそろってする必要はなく、各自が自己の権利に関する部分を受け継げば足りる。

資格喪失事由としては、(α)選定当事者の死亡の他に、(β)辞任がある。(γ)選定当事者が原告となっている場合に、自己の利益について訴えの取下げあるいは請求放棄により訴訟を終了させる場合も含まれる。他方、(δ)選定の取消し・変更の場合が含まれるかについては、(δ1)選定者自らが訴訟追行できるから中断を認めるべきではないとする少数説と([兼子*体系]287頁)、(δ2)この場合にも中断を認める多数説とが対立している([条解*1986a]738頁)。選定当事者は機能的には訴訟代理人に近いが、それにもかかわらず、訴訟代理人の場合とは異なり、死亡を中断事由としているのは、選定当事者の地位の独立性を考慮したものと思われる。その点からすれば、選定取消しの場合にも中断・受継を認めてよく、また、そのほうが形式的に一貫する。なお、選定の取消し・変更は相手方に通知しなければ、その効力が生ぜず(36条2項)、通知を受けた相手方は直ちに受継申立てをすれば、中断から生ずる不利益を免れることができる。

訴訟代理人が存在する場合の不中断(124条2項)
上記の中断事由の発生によっては訴訟代理権は消滅せず(58条)、訴訟代理人は新追行者からの委任に基づいて訴訟を追行していると評価されるので、訴訟代理人がいる場合には手続は中断しない(124条2項)。この場合に、訴訟代理人は、中断事由が生じたことを裁判所に書面で届け出なければならない(規則52条)。裁判所が当事者の交替等を認識できるようにするための措置である。

しかし、この措置だけで足りるかは疑問である。なぜなら、当事者の死亡の場合についていえば、

  1. 訴訟代理人がいるため訴訟手続が中断しない場合でも、新追行者が訴訟代理人により訴訟を追行していることを認識していることを訴訟手続上明確にすべきである。
  2. 訴訟代理人は、自己の依頼者と協議をしながら訴訟を追行するものである。例えば、従前の当事者が死亡した場合に、訴訟代理人が、誰が相続人であるかの判断を誤って、表見相続人と協議をしながら訴訟手続を追行したときには、その結果を真正相続人に押しつけることができるかが問題となる。当事者の死亡によっては訴訟代理権は消滅しないとの建前は、それを許容するものであると評価することはできるが、それでもそのような事態はできるだけ回避すべきである。その点からすれば、死亡した当事者の相続人が誰であり、新当事者となるべき者は誰かの判断を訴訟代理人のみに委ねるのは適当ではなく、裁判所も新当事者の確定に関与できるようにすべきである。このことは、当事者尋問や釈明処分としての当事者に対する出頭命令(151条1項1号)等との関係でも重要である。

上記のaの考慮からは、訴訟代理人が中断事由を届け出る際に(規則52条)、新追行者を届け出ただけでは足りず、新追行者が旧追行者により選任された訴訟代理人に引き続き訴訟追行を委ねる旨の申出書を提出すべきである[5]。bの考慮からは、この申出について、128条を類推適用し、その申出に理由がないと判断するときは、裁判所はその申出を却下して、誰が真正な新追行者であるかが正確に特定されるようにすべきである。また、訴訟代理人が訴訟承継人を探索したが探知できなかった場合には、辞任することも許され、辞任により訴訟手続は中断し、訴訟承継人を探索する負担は相手方に移る(126条参照)。その辞任は、訴訟委任契約の一方的な解除をともない、これは民法651条1項により許容され、訴訟承継人を探知できなかったことは同条2項の「やむを得ない事由」にあたると言うべきである。契約解除の意思表示は、本来は訴訟委任契約を承継した者に対してすべきであるが、裁判所及び相手方に対してすれば足りるとかいすべきである(公示による意思表示(民法98条の2)をするのが本来ではあるが、そこまでしなくても訴訟委任契約解除の効力は生ずると解すべきである)。

前当事者により付与された訴訟代理権を代理人の全員が死亡、辞任あるいは破産により喪失すれば、その時点で2項の規定の適用の根拠は失われ、訴訟手続は中断すると解すべきである。もっとも、相手方との関係では、この場合でも、相手方にその事実を通知する必要がある(59条36条1項)。ただし、訴訟代理人の死亡による代理権消滅の場合で、承継人が訴訟の係属を知らされていないときには、相手方に通知することを期待することはできないから、中断制度の趣旨に鑑みれば、このときには、相手方への通知なしに訴訟手続は中断すると解すべきであろう。

受託者の信託任務終了の場合  受託者の信託任務が終了すると、信託財産は新受諾者に承継されるが、当該信託財産に関する訴訟手続は中断するものとされている(124条1項4号)。この場合に、その訴訟代理権が訴訟委任に基づくときは、訴訟代理権は消滅せず、訴訟手続が中断しないことについて、争いはない。

他方、訴訟代理人が法令による訴訟代理人であるとき、典型的には受託会社の支配人であるときでも同様に解すべきかについては、見解の対立があるが、支配人に関しては、不適用説が支持されるべきである。

  1. 58条不適用説[11]  民訴法58条(旧85条)は、訴訟委任に基づく代理人に限って適用されるもので、法定代理人あるいはこれと同様な本人との人的関係で認められる法令による訴訟代理人には及ばないとみるべきである。したがって、上記の問題の場合に、その支配人の訴訟代理権が後任の受託者のために存続することはなく、受託会社の信託任務の終了とともに訴訟代理人のない状態になるから、訴訟手続は中断する。もっとも、個人が選任した支配人の代理権は本人の死亡によっては消滅せず(商法506条)、このような場合には、訴訟代理権も相続人のために存続することになるが、これは民訴法58条の効果ではなく商法506条の効果である。
  2. 58条適用説[12]  民訴法58条の規定の趣旨は、訴訟手続の迅速・円滑な進行の確保の点にあり、その趣旨は上記の問題の場合にも妥当するから、受託会社の信託任務が終了しても、支配人の訴訟代理権は消滅せず、従って、訴訟手続は中断しない。彼は、後任受託者のために義務なくして事務管理を行う者と位置づけられ、善良な管理者の注意義務をもって後任受託者のために訴訟を追行すべきである。

倒産手続の開始・終了(破産法44条127条129条等)
当事者について破産手続が開始されると、破産財団所属財産について管理・処分権は、破産者から破産管財人に移るので、()破産財団所属財産に関する訴訟は破産管財人が当事者として追行すべきである。財団債権に関する訴訟手続も同様である。また、()破産財団から満足を受けるべき債権(破産債権)は、破産手続の中の債権確定手続を経て確定されるべきものであり、破産者との個別訴訟は差し当たり無意味となる。これらの訴訟手続(破産者を当事者とする財産上の訴訟手続で自由財産に関しないもの)は、「破産財団に関する訴訟手続」と総称され、上述の理由により、当事者が破産手続開始決定を受けた時に中断するとされた(破産法44条1項)。

)破産財団所属財産及び財団債権に関する訴訟  一般に、委任契約は委任者について破産手続が開始されると終了する(民法653条2号)。破産者と破産債権者との間に利害の対立があることを考慮すると、訴訟委任契約もこの原則に服させるのが適当である[14]。この政策的判断に基づき、当事者が破産手続開始決定を受けたことは、民事訴訟58条1項の訴訟代理権不消滅のリストに含まれていない。それゆえ、当事者について破産手続が開始された場合には、民訴法124条2項の適用の余地はなく、訴訟代理人がいても手続は中断する。その後の手続は、次の2つの場合に分かれる。

)破産債権に関する訴訟  届出債権について異議等があれば、この訴訟は破産債権確定訴訟として流用され、異議者等を当事者として続行される(破産法127条1項・129条2項)。

同趣旨のことは、適用範囲に広狭の差異はあるが、他の倒産処理手続についても規定されている。例えば、再生法40条が再生債権に関する訴訟手続について規定し、同67条・68条が管理命令が発せられた場合について再生債務者の財産関係に関する訴訟手続について規定している。会社更生につき、会更法68条・69条149条・152条2項。

1.2 手続の再開

「受継」と「受継申立て」と「受け継ぐ」
これらの言葉の意味は、かつては、各種の民事手続法の間で統一性なく使われていたが、平成に入ってから制定された法律では、かなり統一されてきた。

α)中断した手続を新追行者と相手方との間で手続を続行することを「受継」という[4]。、(β)当事者が手続を続行させようとする場合には、その旨の申立てが必要であり、この手続続行の申立てを受継申立てという。この申立ては、新追行者がすることができ(場合によれば、しなければならず)、かつ、通常その相手方もすることができる。(γ)「受け継ぐ」は、新追行者(受継資格者)が受継申立てをして受継する場合に使う(124条、破産法44条2項)[8]。「受け継がなければならない」は、「受継申立てをして受継しなければならない」ないしは「自己が訴訟手続を受継するために受継申立てをしなければならない」の意味である(この語は、現在では、専ら新追行者について用いられ、相手方については用いられないことに注意)。

古い法律資料を調査する際の参考になるように、古い法律の用語法を挙げておこう。

条文の表現
新追行者(B)の相手方(A)が受継の申立てをする場合については、「Aは、Bを相手方として、訴訟手続の受継の申立てをしなければならない」という形式で規定される(例えば破産法127条1項)。ただし、新追行者が直前の規定から明らかな場合には、「Bを相手方として」の部分は省略される(例えば破産法44条2項後段)。

新追行者(B)が受継の申立てをする場合については、新追行者は申立人自身であるので、特に「受け継ぐ」という言葉が用いられ、「Bは訴訟手続を受け継がなければならない」と規定される(例えば、破産法44条2項前段)
受継申立権者
受継申立ては、新追行者またはその相手方がすることができる(126条)。相手方が申し立てる場合には、新追行者を特定することが必要である。申立ては、その旨を明示して、書面でしなければならない(規51条1項)。新追行者として名乗り出た者または相手方から指定された者が受継資格者であることを証明する資料を添付しなければならない(規51条2項)。申立ては、中断事由発生当時訴訟が係属していた裁判所になす。移送の裁判後、その確定前に中断事由が生じた場合には、移送の裁判をした裁判所である(これにより、移送の裁判の正当性を争う機会が新追行者に与えられる)。

申立人の相手方への通知
申立てがなされると、裁判所は、その旨を申立人の相手方に通知する。中断事由の生じた当事者の相手方が申立人の場合には、新追行者として指名された者に通知することが必要であるが、旧追行者が存在する場合には、彼にも意見を述べる機会を与えるために、彼にも通知すべきであろう。

中断解消の効果は、受継申立人との関係では申立ての時に生ずるが、申立人の相手方との関係では、この通知により生ずる。したがって、判決等の送達後に中断事由が生じた場合に、敗訴の当事者が受継申立てをする場合には、これと共に上訴状を提出することができる(上訴状を後で提出することも可能であるが、控訴期間との関係で危険である)。中断事由の生じた当事者が敗訴している場合には、相手方は、新追行者の控訴期間を進行させるために、受継申立てをする。控訴期間は、受継申立てのなされた旨の通知が新追行者に到着した日から進行する。

受継申立ての職権調査
裁判所は、職権により申立ての当否を調査する。

職権による続行命令(129条
当事者が受継申立てをしない場合でも、裁判所は職権で手続の続行を命ずることができる。


2 中 止


裁判所または当事者に訴訟追行を不能にする事由があるときは、その事由が消滅するまで手続は中止される(民事訴訟法以外の法令においても、訴訟手続の中止に関する規定がある。法令データ提供システムにおいて、「訴訟手続の中止」と「訴訟手続を中止」をキーワードにして(orで結んで)検索するとよい)。

裁判所の職務執行不能による中止(130条
天災その他の事由によって受訴裁判所が職務を一般的に追行することができないときは、訴訟手続は、その事由が消滅するまで中止する。この中止は当然に生じ、職務執行が可能になれば、解消する(職務執行が可能になったことを当事者に通知することが望ましい)。当該事由が長期間継続することが予想される場合には、10条1項により、別の裁判所に裁判権を行使させるべきである。

当事者の故障による中止(131条
当事者が不定期間の故障により訴訟手続を続行することができないときは、裁判所は、決定でその中止を命ずることができる。天災により交通が途絶えた場合、あるいは本人訴訟において当事者が事理弁識能力を喪失したが成年後見が開始されていない場合などである。この中止は、裁判所の決定により生じ、取消決定により解消する。

当事者に生じた故障が消滅する時期が明らかな場合には、「不定期間の故障」に該当しない。この場合には、当事者に不利益が生じないように、期日指定の際にその故障を考慮して期日を指定するなり、行為期間に付加期間を付与するなりする(96条)。控訴期間のような不変期間については、訴訟行為の追完の問題となる(97条)。

したがって、この当事者の故障による中止の制度は、急に故障の生じた当事者の救済のための制度の面があることは否定できないが、基本的には、手続の整序のために訴訟手続を進行させないことを明確にする制度であるというべきであろう。

広域の大災害が生じた場合の処理
広域の大災害が生じた場合に、受訴裁判所自体が被災した場合には、130条により訴訟手続が中止される。裁判所は被災していないが、多数の住民が被災し、裁判所への交通が途絶えたような場合には、131条の中止決定をすべきことになるが、個別の事件ごとにその決定をすることにより初めて中止の効果が生ずるとしたのでは間に合わない場合もある。そのような場合には、被災地域を管轄区域に持つ裁判所について、次のような広報をして対応することになる:一定期間期日を開かないこと(その期間中に期日が指定されていた事件について、期日を変更し、変更後の期日を後日通知すること);被災した当事者が法定期間を遵守できない場合に、追完を認める用意があること;被災した当事者が期日を懈怠した場合に、不利益(自白の擬制や弁論の終結など)を課さないようにする用意があること。

例えば、2011年3月11日(金)14時46分頃に発生した東日本大震災(地震と津波による広域の大災害)の際しては、Webを通じて次のような広報がなされた。

訴訟の結果が行政機関の処分に依存する可能性が高い場合の中止
裁判所は、口頭弁論終結時の事実に基づいて判決をするのが原則である。判決の基礎となる事実の中には行政機関の処分も含まれる。口頭弁論終結時になされていない処分がその後になされた場合には、(α)既判力の標準時後の事由としてそれを主張して、既判力のある判断とは異なる判断を求め、あるいは、(β)再審の訴えを提起する(338条1項8号)ことができるとはいえ、行政機関の新たな処分が出される可能性が高い場合には、その処分を待って判決する方が訴訟経済にかなうので、その処分が出されるまでの間訴訟手続を中止することができるとされている場合がある。例:

訴訟以外の方法による紛争解決の促進のための中止
訴訟以外の方法による紛争解決を促進するために、受訴裁判所は訴訟手続の中止を決定することができることが他の法令により規定されている場合がある。これは、次の4類型に分けることができる:


3 中断・中止の効果


訴訟手続が中断または中止されると、その事由が解消されるまで、訴訟手続を進行させることができない。(α)中断・中止事由の生じた当事者を関与させるべき期日を開くことはできず、開いてもやり直さなければならない。(β)行為期間は、進行を停止し、その事由が解消した時点で、あらためて全部の期間が進行を開始する(132条2項)。期間の進行を再開する時点は、訴訟手続が中断された場合には、中断事由の解消の時点ではなく、受継申立てまたはその通知、続行命令の告知等があった時点である。130条の中止の場合には、中止事由が消滅したときであり、131条の中止の場合には、中止決定が同条2項により取り消された時である。

もっとも、当事者の関与を必要としない合議や判決書の作成は、中断中でもすることができる。判決の言渡しもできるが(132条1項)、送達は、中断解消後に、新追行者に宛ててする。なお、132条1項は、中止については適用がない。


4 訴訟の当然終了


当然終了
訴訟物たる権利関係について実体法上の承継人が存在しない場合には、その権利関係に係る訴訟の当事者の地位を承継する者もいないことになるので、訴訟は当然に終了するのが原則となる。次のような例がある。

この理由による当然終了の場合には、訴訟の終了を判決に明確にすることが有益であり、かつ、訴訟手続の経過上、判決をすることができる場合には、判決により訴訟の終了を宣言する。例

他方、訴訟の構成要素である訴訟物たる権利関係が消滅しても、訴訟は当然に終了せず、当該権利関係の消滅に照応する判決がなされる。例えば、建物の所有権確認請求訴訟において、目的建物が焼失した場合には、請求を棄却する(確認請求に併合して損害賠償請求が提起されている場合や、訴えの変更により損害賠償請求が提起された場合には、賠償請求について訴訟手続を進める)。

自然終了
中断中の訴訟が受継されないまま長期間放置される場合には、訴訟の自然終了を観念してよいであろう。例えば、
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2002年9月29日−2013年4月21日