民事訴訟法講義
訴 え 2関西大学法学部教授
栗田 隆 |
訴状提出の時点 で生ずる効果 |
訴状が被告に送達された時点 で生ずる効果 |
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実体法上の効果 | ◆期間遵守の効果(147条)
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◆善意占有者の悪意擬制(民法189条2項) ◆手形法上の償還請求権の消滅時効の進行開始(手形70条3項・77条1項8号) |
訴訟法上の効果 | ◆裁判所と原告との間の訴訟法律関係の発生
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◆訴訟係属の発生 ◆訴訟係属の発生に伴う効果 |
文 献
XがYを被告にして、ある不動産について所有権確認の訴えを大阪地裁に提起した(第1訴訟)。その訴状がYに送達された後に、YがXを被告にして、その訴訟の係属中に、同一不動産について所有権確認の訴えを東京地裁に提起した(第2訴訟)。 |
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別の訴訟手続で審理されるように訴えを提起する場合(別訴の場合) | 同じ訴訟手続で審理されるように訴えを提起する場合(訴えの追加的変更あるいは反訴の場合) | |
原告が重ねて同じ内容の訴えを提起する場合 | 3つの制度趣旨が妥当し、重複起訴の禁止に違反する。 原告は二重に勝訴判決を得る利益を有しないという理由でも訴えは不適法であり、却下される。 |
3つの制度趣旨は妥当しない。 しかし、原告は二重に勝訴判決を得る利益を有しないので、後の訴えは却下される。 |
同一不動産について、XがYに対して所有権確認の訴えを提起した後で、YがXに対して所有権確認の訴えを提起する場合(設例の場合) | 3つの制度趣旨が妥当し、重複起訴の禁止に違反する。 同一の訴訟手続で審理されるための措置がなされなければ、後の訴えは却下される。 |
3つの制度趣旨は妥当しない。また、Yはこの訴え(反訴)を提起する必要があるので、後の訴えは許される。 |
この講義では、客観的要件について、「事件の同一」という用語を用いた。これに対して、重複起訴禁止の要件を「事件の同一」とした上で、客観的要件について次の用語を用いている教科書もある[16]。 「訴訟物の同一」 「事件の対象の同一」 「審判の対象の同一」 |
被告が原告の債権を争いつつ予備的に相殺の抗弁を提出し、その後に自働債権を別訴で訴求する場合。 |
(1) X--------------->Y 予備的相殺の抗弁 (2) X<---------------Y 自働債権を訴求:これは許されるか? |
先に係属した別訴で訴求中の債権を、後で相手方が提起した訴えにおいて、予備的相殺の自働債権に供する場合。 |
(1) X<---------------Y 自働債権を訴求 (2) X---------------->Y 予備的相殺の抗弁:これは許されるか? |
Xは、Yに対して1000万円の売掛代金債権を有している。その債権の一部であることを明示して、Xが400万円の支払請求の訴えを提起した。これを前提にして、次の2つの場合について、142条の適用または類推適用の有無を検討しなさい。なお、それぞれの事例は独立であるとし、(2)の場合には(1)の別訴はないものとする。 (1) その訴訟の係属中に、Xが別訴で残りの600万円の支払請求の訴えを提起した。 (2) その訴訟の係属中に、YがXに対して600万円の請負工事代金債権を主張して別訴を提起した。Xは、Yの債権を争いつつ、予備的に、Yに対する債権の残額600万円で相殺すると抗弁した。 |
民法153条の催告も時効完成猶予事由としての履行の請求(民法457条1項)の一種である[32]。この点を強調して、「裁判外の請求」と言うことがある。「裁判上の催告」における「催告」をこれで置き換えると、「裁判上の裁判外の請求」という奇妙な表現になってしまう。 |
次の2つの場合について、訴訟物および時効完成の有無を論じなさい。 (1)Yが1980年5月にXの5000万円相当の有価証券を着服した。Xは、そのことに直ちに気が付き、Yに損害賠償を求めて交渉を続けたが、不調に終った。Xは1988年5月に不法行為を理由に損害賠償請求の訴えを提起し、その訴訟の係属中である1993年5月に不当利得返還請求を追加した。 (2)XはYが製造した商品を購入した。その商品の欠陥によりXの自宅が1980年5月1日に全焼した。1982年5月に、XはYに対して、損害額は5000万円であるが、さしあたりそのうちの一部である2000万円の損害賠償を求めて、不法行為による損害賠償請求の訴えを提起した。その訴訟係属中である1985年5月に請求を拡張して、5000万全額の賠償を命ずる判決を求めた。 |