注2 訴訟係属の消滅時期は142条との関係で重要であるので、ここでいう訴訟係属は抽象的訴訟係属である。注7参照。
注3 民事事件を担当する複数の部が置かれている裁判所では、事件はまず部に配点され、部の中でさらに単独裁判官または合議体に配点される。
注4 このような場合には、訴訟係属前であることを考慮して、決定で却下するとの立法論も考えられないわけではないが、手続の慎重を期す意味で、判決で却下するのが適当であろう。
注5 この講義では、訴訟係属以前には裁判長が対応すること、訴訟係属後は裁判所が対応し、かつ、必ず対応しなければならないことを強調する趣旨で実質的定義を採用していたことがある。
注6 「裁判長が訴状を審査し、これを適法なものと認めて、訴状副本の被告への送達が行われると、裁判所と両当事者間に訴訟法律関係が成立する。この状態を訴訟係属という」([伊藤*1998a]181頁)。
注7 この点をうまく説明しようとすれば、「訴訟係属」の語の意味を次の2つに分化させることが必要となろう。
ただし、通常は、意味を分化させることなく両者を合わせた意味で使用されており、文脈に応じて意味を読み分けることが必要である。
注8 管轄違いを理由とする移送の裁判も、裁判所がなし(16条)、被告にも送達されるべき裁判であり、訴訟係属後になされるのが本来である。訴状提出時に訴訟係属が発生すると考えると、裁判所は被告に訴状を送達する前に移送決定をすることができることになるが、訴状の送達が不能な場合には移送決定の送達もできないとう問題が生ずる。したがって、多数説は、管轄違いの裁判所に訴えが提起されるとともに訴状の公示送達 が申し立てられた場合に、移送の裁判は訴訟係属後になすべきことを理由に公示送達を認めるのである。しかし、この問題は被告の手続保障の観点から検討されるべきであり、訴状送達前の移送の裁判も可能であると考えたい。この場合の移送の裁判は、訴訟係属を移転させる裁判ではなく、裁判所と原告との間の法律関係を移転させる裁判となり、それも移送の裁判と呼んでよい。
注9 [注釈*1998b] 26頁(畑)。なお、準必要的記載事項についても補正命令が許され、ただ補正に応じない場合に訴状の却下命令が許されないにとどまるとの見解もある([最高裁*1997b] 21頁)。
注10 訴え提起前における当事者間の交渉経過を聴取の対象とするか否かは、各裁判所の判断に委ねられる([条解*1997a]135頁。これに対し、[中野=鈴木=松浦*1998a]153頁(堤)は、事前交渉の内容のみならず有無についても否定的)。交渉内容に立ち入れば、予断と偏見の原因となるが、その虞のない限度では、手続進行の参考資料として有益であれば聴取の対象となりうる。例えば、被告が弁護士を立てて交渉したのであれば、被告側の弁護士が訴訟代理人になる可能性は高く、その点を聴取することは許されよう。
注11 訴状却下命令は、被告に訴状が送達される以前になされる命令である。この段階では原告と裁判所との間の訴訟法律関係があるだけなので、却下命令は被告に告知されず、被告がこれに即時抗告する余地もない(宮川知法[注釈*1998a]202頁)。
注12 東京高判平成4.5.27判時1424-56は、後訴において相殺に供した金額だけ別訴の請求金額を減縮した場合でも、審理の重複による無駄が生ずることには変わりがなく、相殺の抗弁は不適法であるとした。
注13 多くの文献において、この場合の後訴も二重起訴の禁止の適用範囲の中に含められているが、この場合の却下は、重複起訴の禁止違反を理由とする却下というより、同一内容の訴えであることに基づく訴えの利益の欠如を理由とする却下である。[佐野*1997a]49頁など参照。
注14 [中野*1966a]121頁以下など。その詳細な論拠を列挙すると次のようになる。
次の文献も肯定説である:[松本*2000a]196頁(抗弁先行型の場合について)。
注15 これに関連して、次のような二重抗弁型の場合の取扱いも問題となる。折衷説をとる[佐野*1997a]56頁は、相殺の担保的機能を重視して、この二重抗弁は濫用的でない限り許されるとする。全面否定説では、2番目以降の相殺の抗弁は許されないことになろう。
二重抗弁型 相手方が提起した2つの訴えにおいて、そのいずれの訴求債権も争いつつ、同一の債権をもって予備的に相殺する旨の抗弁を提出する場合。 (1) X---------------->Y 予備的相殺の抗弁
(2) X---------------->Y 同一債権で更に予備的に相殺する旨の抗弁
注16 この講義での用語法は、[伊藤*1998a]182頁、[松本=上野*1998a]148頁と同じである。客観的要件として「事件の対象の同一」を用いるのは[上田*1997a]140頁以下、「審判の対象の同一」を用いるのは[新堂*1998a]194頁、堤[中野=松浦=鈴木*1998a]143頁である。かつては、客観的要件として「訴訟物の同一性」が挙げられていたが(例えば、[兼子*1967a]174頁)、それでは狭すぎるので、用語法が変化し、多様化したのである。
注17 古典的論文として、井上直三郎「訴訟の係属時点」[井上*1971a]81頁以下参照。その主要な論拠は、次の点にある(大正15年法に関する論文であるが、条文番号は平成8年法のそれに置き換えた)。
注18 ただ、裁判外での交渉が続いている場合のことを考慮すると、紛争当事者の一方がどのような訴えを提起したかを相手方に通知するのが適当な場合もあろう。被告の負担の軽減のために、訴え却下判決とともに訴状を被告に送達する取扱いも認められてよい。
注19 「請求の基礎」の概念は、次のような場面でも使用される。もちろん、同じ言葉が使われていても、趣旨と効果が異なる以上、要件にも差異が生じざるを得ない。概念名称の流用である。
注20 例えば、最高裁判所 平成3年12月17日 第3小法廷 判決(昭和62年(オ)第1385号)においてそうである。
注21 最(大)判昭和43.11.13民集22-12-2510が付した「その主張が原審で認められた本件においては」との留保は、この趣旨と理解すべきである。すなわち、民法旧149条が訴えの取下げ・却下の場合に中断効を否定したのは、判決により権利が確定される場合についてのみ時効中断の効力を認める趣旨であると理解すべきであり、先決的法律関係の主張が判決理由中で肯定されていない場合には、これに裁判上の請求に準じた効力を認めるべきではなく、裁判上の催告の効力を認めれば足りる。平成29年改正後の民法の規定に則して言えば、次のようになる。すなわち、民法新147条2項が訴えの取下げ・却下の場合に時効更新効を否定したのは、判決により権利が確定される場合についてのみ更新効を認める趣旨であると理解すべきであり、先決的法律関係の主張が判決理由中で肯定されていない場合には、これに更新効を認めるべきではなく、裁判上の催告の効力を認めれば足りる。
注22 請求の趣旨と原因が記載されているが、訴訟物が特定されているとは言えない場合も含まれる。ただ、請求が併合されていて、そのうちの一部について訴訟物が特定されているとは言えないような場合には、訴状を却下することなく被告に送達し、裁判所が当該請求にかかる訴えを却下することもある。「東京地方検察庁平成九年検第一九九八七号著作権違反について、平成九年一一月二五日に不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する。」との請求に係る訴えを却下した事例として、東京地方裁判所 平成11年12月21日 民事第47部 判決(平成11年(ワ)第20965号)参照。
注23 既判力の作用の基本的態様として、次の3つがある(以下では、前訴判決の既判力の標準時後に法律関係を変動させる新たな事実がなかったことを前提にする)。
既判力はこのような態様で作用するのであるが、次の例に示されるように、先決関係の場合には、同一関係あるいは矛盾関係の場合と同程度に既判力の抵触する可能性があるとは言えない。
こうしたことを考慮の上で、どの範囲の既判力の抵触の可能性までを重複起訴の禁止により防止するかが問題となる。142条の要件は、この点も考慮しながら定めるべきである。
注24 訴えが却下または取り下げられた場合以外に、次のものがこれに該当する。
注25 [注釈*1998b]31頁(畑)では、「訴状は重要な書類であるから、通常の送達ができないときでも、いわゆる付郵便による送達(107)は行わず、最終的には公示送達の方法によるのが実務の扱いのようである」とされている。しかし、最高裁判所平成10年9月10日第1小法廷判決(平成5年(オ)第1211号)は、訴状の付郵便送達(107条)がなされた事例であり、そこでは訴状の付郵便送達の適法性は否定されていない。
注26 判決理由中で肯定された債権(本文のaやcの事案における被担保債権など)について民法旧174条の2[現169条1項]による時効期間の延長が認められるかについては、見解は分かれる。最(大)判昭和38.10.30民集17-9-1252の多数意見は、これを否定する。他方、山田裁判官は、引換給付を命ずる主文中に掲記された場合には、肯定すべきであるとする。しかし、理由中の判断には既判力がなく、裁判上の和解などと同水準の確定の効力を認めることもできないから、否定すべきである。先決的法律関係が引換給付を命ずる主文中の引換条件として記載されても、その法律関係が訴訟物を構成しないことには変わりはなく、既判力は生じないのが原則であるから、同様に解すべきである。ただし、この場合に民訴法114条2項の類推適用を肯定する立場に立てば、反対の結論となる。
注27 東京高判平成8.4.8判タ937-262は、第一審で弁論が併合され、控訴審においてその併合関係が維持されている場合においてさえ、「将来において両訴訟の弁論が分離されることがあり得ないとはいえない」と判示して、別訴を却下した。
注28 最判平成10.12.17平成6年(オ)第857号から予想された結論である。なお、明示の一部請求の場合に残額部分について時効中断を認めなかった最判昭和34.2.20民集13-2-209は維持されていることに注意しなければならない。
注29 その他に、大阪地方裁判所平成11年10月14日第21民事部 判決(平成8年(ワ)第13483号(甲事件本訴)、平成9年(ワ)第1959号(甲事件反訴)、平成9年(ワ)第5847号(乙事件))など。
しかし、これでは、適法に訴えを提起した原告の地位が不安定になりはしないか。少なくとも、係争債権の存在が認められずに、本訴却下・反訴請求棄却の判決が下される場合に、本訴の却下を理由に本訴に係る訴訟費用を原告に負担させるのは適当ではない。また、この見解(判例の立場)に従った場合には、反訴が提起された段階で原告(債務者)は、不適法となった債務不存在確認の訴えを取り下げるのが本来となろう。そして、本訴が取り下げられた場合には、反訴の取下げには相手方の同意は不要であるのが原則となるが(261条2項ただし書)、この場合にこの原則を貫くのは妥当でないので、例外的に同項ただし書の適用はないとしなければならない。もしこの点を反対に解するのであれば、給付請求の反訴が提起されても債務不存在確認の本訴を取り下げるべきではないと言わなければならない。
注30 沿革につき、明治民事訴訟法以降を辿った[鈴木*2000b]と、明治民訴以前及びドイツ普通法時代を扱った[鈴木*2000c]を参照。
注31 規56条は、裁判官と書記官との関係では、わざわざ規定するまでもないことであろう。しかし、当事者とりわけ訴訟代理人たる弁護士との関係では、必要な規定である。人間は、感情の動物である。弁護士の中には、書記官から補正を促されること自体にプライドの侵害を感ずる者もいる。書記官からの補正の促しについても、明文の規定がある方が事務処理が円滑に進む。
注32 平成29年改正前において、民法旧153条の催告も時効中断事由としての請求(民法旧147条1号)の一種であることにつき、稲本洋之助[注釈*1987a]169頁参照。もっとも、教科書の中には、反対の趣旨に読めるものも少なくなかった。更に進んで、「催告」が「請求」の中に含まれない旨を述べる文献もあった。例えば、[神田=神作ほか*2013a](砂山晃一)は、次のように言う:「ここにいう請求とは、単に債務の履行を求めるだけでは足りず、訴訟を提起するなど裁判所が関与する手続の中で行うことが必要であ」る(162頁);「裁判外で債務者に債務の履行を求めることを「催告」といい、裁判上の「請求」とは異なって、それ自体に時効中断効は認められていない。すなわち、催告をした場合には、催告から6か月以内に裁判上の請求や差押え等を行うことにより、時効中断の効力が発生したことになる(民法153条)」(163頁)。しかし、このように民法旧147条1号の「請求」を「裁判上の請求」に限定すると、催告を民法旧147条各号のどれに位置づけるのかという問題を生じさせ、いずれにも属さないというのであれば、催告に関する規定は、差押え等に関する規定(155条)又は承認に関する規定(旧156条)の後に置かれる方がよいことになろう(民法は、催告も「請求」に含まれることを前提にして、これに関する規定を「差押え等」に関する規定の前に置いたと見るべきである)。また、旧153条と比較的文言形式が近い旧151条と同様に、催告による時効中断効は、6ヶ月以内に訴えの提起等の強力な時効中断措置をとらないことを解除条件として、催告の時に生ずると解する方がよい(催告後6ヶ月以内に所定の中断措置が執られたか否かの証明責任ついては、条文の文言からは離れることになるが、中断効を主張する者が負うとすべきであろう)。なによりも、「催告」を旧147条1号の「請求」から除外すると、債権者が時効期間の満了1ヶ月前に連帯債務者の1人に催告をし、催告から5ヶ月後に訴えを提起した場合に、民法旧434条により他の連帯債務者に対して生ずる「履行の請求」の効力のうちの時効中断効は、催告の時ではなく、訴え提起の時に生ずることになり、その時点ではすでに時効期間が徒過しているので、債権者は、他の連帯債務者に対しては、時効期間満了前にした催告による時効中断効を主張し得ないことになろう(それが妥当とは思われない。また、反対の結論をとる場合には、その説明が面倒になろう)。民法旧153条の「催告」も、旧147条1号の請求の一種であり、旧434条の「請求」に含まれると解するのが明快である。
注33 これに対して、保証人に対する履行請求の効果(時効完成猶予効及び更新効)は、連帯保証の場合であっても、主債務者には及ばない。旧458条により準用されていた旧434条が平成29年改正により廃止されたからである。
注34 例えば、最高裁判所 平成14年12月17日 第3小法廷 判決(平成13年(行ツ)第205号、平成13年(行ヒ)第202号)においては、平成4年度から平成10年度までの特別土地保有税に係る処分取消の訴えに加えて、平成7年度から平成10年度までに係る処分の取消を求める訴えが予備的に追加された場合に、後者の訴えが重複起訴禁止規定(民訴142条)に反するとして却下された。同一手続で審理しているのであるから、重複起訴禁止規定に反すると見るのは適当ではない。むしろ、後で提起された予備請求が先に提起された主位請求に含まれると言うのであれば、訴えの利益なしとして却下すべきである。
注35 しかし、残部請求にも時効中断効を及ぼすべきであるとする見解も有力である([梅本*民訴]277頁)。
注36 最高裁判所 昭和31年4月10日 第3小法廷 判決(昭和29年(オ)第858号)(控訴審における訴え変更の申立書)、最高裁判所 昭和37年11月30日 第2小法廷 判決(昭和35年(オ)第1065号)(控訴状)。
注37 最高裁判所 平成27年12月17日 第1小法廷 判決(平成27年(行フ)第1号)(訴訟救助却下決定に対する即時抗告の抗告状について)。
注38 したがって、手数料の不納付を理由に訴状を却下する命令に対して即時抗告がなされた場合に、抗告審の審理段階で手数料が追納されれば抗告審は第一審裁判長の却下命令を取り消すべきである。その段階で追納がなされないため、抗告審が抗告棄却の決定をし、送達の方法でその告知をするために決定書(謄本)の発送をした場合でも、告知前(送達完了前)に追納がなされれば、抗告棄却の決定は失当であったことに帰する。抗告審は、上級審への不服申立(高等裁判所への再抗告の申立てあるいは最高裁判所への許可抗告の申立て)がなされた段階で、333条の規定により、自己の決定(抗告棄却決定)を更正すべきである。
注39 最判平成3年事件は、相殺の抗弁に供された自働債権が別訴の訴求債権ではあるが、両訴訟が控訴審で併合審理されていた事案である。最判平成27年事件は、反訴による原則的併合審理の場合と別訴の裁量的併合審理(民訴法152条による併合審理)の場合とを区別したことになろう。もっとも、反訴も民訴152条により本訴から分離され得るし、別訴を同条により併合審理した場合には、両訴の審理に関連性が高い限り再分離は控えるべきであると考えることは可能であろう。そうであれば、反訴の場合と併合された別訴の場合とを区別する実質的理由は乏しいように思える。とはいえ、本判決が前記の疑問に全く触れることなく平成3年判決を是認している以上、判例上は、両者の区別は当分は続くことになろう。
注40 現在 「訴訟の係属」と呼ばれる概念に対応するドイツ語は、「Rechtshaengigkeit der Streitsache 」である。明治23年民訴法では、これが「訴訟物の権利拘束」と直訳され、同法195条1項は、「訴訟物の権利拘束は訴状の送達に因りて生す」と規定した(原文はカタカナ)。
大正15年民訴法は、明治23年法195条1項に相当する規定を置かなかった。そのことを起草者の一人である山内確三郎は、次のように説明している:「新法は権利拘束と云ふが如き観念は之を民事訴訟法より除き去つて、訴訟は起訴に因つて裁判所に繋属すると云う単純なる観念を基礎として立法したのである。」([山内*1931a]4頁)。「訴訟物の権利拘束」の概念を放棄するといっても、これに伴う種々の効力は「訴繋属」(訴訟係属)の効力として個別に規定するのであるから(18頁)、「訴状の送達に因って生ずる権利拘束」の観念を放棄し、これに代えて、「起訴(訴状提出)提出に因って生ずる訴訟係属」の観念を導入したと言うべきであろう。権利拘束の発生時期については、立案当時、次のような問題が議論されていたとの由である:当事者送達主義を採用するドイツ法の下では、「訴の提起は訴状を相手方に送達して之を為す」と規定され、「訴え提起の時」と「権利拘束の時」とは同一であるが、職権送達主義をとる日本法の下では、「訴の提起は訴状を裁判所に差出して之を為す」(明治23年法190条)と規定されているので、訴え提起の時と訴訟係属の時の間に間隔を生ずることになり、これが日本法の欠陥であると指摘されている(3頁−4頁)。その欠陥というのは、「訴提起後、訴状送達前同一当事者より同一の事物に付訴訟を起すことは権利拘束の効力に抵触しないと云うこと」である(19頁)。この点を改めるために、「訴の提起は訴状の送達によつて為す」とし、さらに当事者送達主義を採用することも考えられるが、しかし、職権送達主義を当事者送達主義改める必要はないので、「起訴(訴状提出)提出に因って生ずる権利拘束」の観念を放棄し、「訴状が裁判所に提起された時に於て権利拘束と同一の効力を発生する」ものとし、「起訴以後、同一訴訟を提起することは許さざることを直断に禁じた」(19頁−20頁)。
山内の考えに従えば、訴訟係属は訴え提起の効果であり、訴え提起の時(訴状を裁判所に提出した時)に生ずることになり、また学説もそのように考えた時期もある。しかし、昭和5年には、「訴訟の繋属が訴の提起を原因として生ずる法律上の効果たること」を前提にしつつも([井上*1971a5b]84頁)、訴訟繋属の時点を訴状送達時と解する井上直三郎「訴訟の繋属時点」が発表され([井上*1971a5b]。初出は法学論叢23巻1号158頁(昭和5年))、この見解が学説の多数説になり、現在の通説となっている。
この考えを前提にすると、起訴の時と訴訟係属時との間に間隙が生ずるので(訴状審査に要する時間を考慮すると短時間ではなく、2週間を超すこともある)、明治23年法の下で議論されたのと同じ問題が生ずる。例えば、XのYに対する所有権確認の訴えの提起後・その訴状送達前にYがXに対して所有権確認の訴えを提起し、後者の訴状が先にXに送達された場合に、いずれの訴えが重複起訴禁止規定(平成8年法142条)の適用を受けるかの問題が生ずる。結論の妥当性の点からは微妙の判断を強いられることになるが、相手方による提訴を知らされない段階で自己の提訴を制限されるとするのは妥当ではないと考えてよいであろう。したがって、この問題についても、訴訟係属の時点は訴状送達時と解してよいと思われる。
なお、同一原告が同一被告に対して同じ事件の訴えを別の裁判所に同一時期に提起する(一方の訴えが送達される前に他方の訴えを提起する)ことを想定して、その場合の取扱いを論ずる必要は乏しいであろうが、万一にもそのような事態が生じたとすれば、前述の論理を貫徹すれば、訴状の送達が後れた訴えが重複起訴として禁止されるべきである。その結論は、被告が先に送達のあった訴えについて応訴の準備をすすめ、その訴えの受訴裁判所の近隣に事務所を構える弁護士に訴訟を委任をした場合には、妥当であると言うことができよう。
こうした問題について、142条の規定の文言が分かりやすい解決を与えているかと問われれば、そうではない。しかし、法律の規定を事細かに立言するのも一つの立場であるが、原則的な場合に照準を合わせて単純明快に立言するのも一つの立場である。142条は後者の立場で規定されている。そして、142条が「裁判所に係属する事件については」と規定しているのであるから、そこから「先に訴訟係属を生じさせた訴えが生き残る」との結論を引き出すことは、解釈論として可能であると思われる(類推適用という必要はない)。
注41 186条の規定による調査の嘱託は、規定の文言上、職権ですることもできるが、証拠調べとしてなされるものであり、証拠については一般に当事者に申出権が認められているので、同条による調査の証拠の申出にも当事者に申立権が肯定されるとの見解が有力である。他方、151条1項6号の規定による調査の嘱託については、当事者の申立権は否定されており、当事者(当面の問題に関しては原告)は職権の発動を求める申立てをすることができるにとどまる。
注42 原告が履行期到来済みであると主張する給付請求権について、被告が履行期のみを争い、原告の現在給付請求が履行期未到来を理由に棄却された場合には、消滅時効はそもそも進行を開始していないことになる(民法166条1項)。
注43 移送を認めた先例として、大阪高決平成26年12月2日判時2248号53頁がある。これは、不貞を理由とする損害賠償債務の不存在確認請求の訴訟が東京地裁に係属した後に、同一債務に関する給付請求の訴えが神戸地裁に提起された事例である。後訴の原告は、後訴提起により前訴の訴えの利益が失われ、前訴は却下されるべきであると主張したが、大阪高裁は、17条により後訴事件を東京地裁に移送した。その理由の中で、後訴はこのままでは142条に違反になり、移送後に受送裁判所において弁論の併合がなされなければ、後訴は142条違反により却下されることを指摘した。後訴が受送裁判所において前訴と併合審理されれば142条は回避されることが前提にされており、大阪高裁は、この事件についてはその余地があると判断して移送したのである。
注44 [佐野*1997a]51頁以下、[高橋*重点講義・上v2.1]141頁以下。我妻・リマークス53号112頁中段は、別訴先行型について類推適用を否定するのが学説の多数であるとする。
注45 平成29年民法改正前においては、裁判上の請求による時効中断の根拠について、次の2つの見解があった([中島*1995b]325頁参照)。両説は、論理的に矛盾対立する関係にあるわけではなく、両方の説明が妥当する範囲では、時効中断が強く根拠付けられ、一方のみが妥当する範囲では弱く根拠付けられると説明してよかった。
しかし、平成29年民法改正により時効中断の概念が廃止された現在では、時効完成猶予がまず問題になり、その根拠の説明として適切なのは権利行使説である。
注46 平成29年改正前は、裁判上の催告の理論によりこの結論が導かれていた。改正により、裁判上の催告の理論によったのと同じ結論が明文で定められた。