関西大学法学部教授 栗田 隆
民事訴訟法講義「訴え 2」
の比較法メモ
注1 訴訟係属
テッヒョー「訴訟法草案」213条(原文はカタカナ縦書き。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は漢数字である。)
- 訴訟物件は訴状送達の時より拘束を受くるものとす
- 訴訟物件の拘束は左の効力を生す
- 原告若くは被告同一の訴訟物件に付き他の訴訟に於て請求反訴若くは抗弁を為したる時は対手人は其物件の拘束に係るを理由として抗弁を為すことを得
- 裁判所の管轄は訴訟物件の増減住所の変換等に因り変更せさるものとす
- 原告は被告の明諾黙諾を経るに非されは訴訟を変更することを得す
明治23年民事訴訟法195条(原文はカタカナ縦書き。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は「第一」等である。)
- 訴訟物の権利拘束は訴状の送達に因りて生す
- 訴訟拘束は左の効力を有す
- 権利拘束の継続中原告若くは被告より同一の訴訟物に付き他の裁判所に於て本訴又は反訴を以て請求を為したるときは相手方は権利拘束の抗弁を為すことを得
- 受訴裁判所の管轄は訴訟物の価額の増減、住所の変更其他管轄を定むる事情の変更に因りて変換すること無し
- 原告は訴えの原因を変更する権利なし但変更したる訴えに対し本案の口頭弁論前被告が異議を述へさるときは此限に在らす
オーストリー民事訴訟法(2011年改正後の1895年法)
- 232条
- 訴訟係属[1]は訴状の被告への送達により生ずる。期間の遵守及び期間の進行の中断のためには、別段の定めがなければ、裁判所への訴状(Klage)の提出で足りる。
- ある当事者が訴訟の進行中に初めてある請求を提起するときは、その請求に関する訴訟係属はその請求が口頭弁論において主張された時に生ずる。
- 233条
- 訴訟係属は、その継続中は主張された請求について同一の裁判所においても他の裁判所においても争訟(Rechtsstreit)[2]を行うことが許されないという効力を有する。訴訟係属中に同一の請求について提起された訴えは、申立てにより又は職権で却下する。
- 訴訟係属の発生後に被告は、反訴の裁判籍の他の法律上の条件が充足されるときは、第一審の口頭弁論が終結されない限り、本訴の裁判所に反訴を提起することができる。
- 234条
- 係争中の物又は債権の譲渡は、訴訟に影響しない。取得者は、相手方の同意なしに主当事者として訴訟に参加する権利を有しない。
訳注
- 原文では、「Rechtshaengigkeit der Streitsache (Streitanhaengigket)」となっており、逐語訳をすれば「訴訟事件の権利拘束(訴訟係属)」であるが、この全体を「訴訟係属」と訳した。
- 「Rechtsstreit」 は「訴訟」と訳す方が日本語としては分かりやすいが、「Prozess」と区別するために、敢えて「争訟」と訳した。