関西大学法学部教授 栗田 隆
民事訴訟法講義「訴え 1」
の比較法メモ
注1 訴えの提起・訴状の必要的記載事項
テッヒョー「訴訟法草案」(原文はカタカナ縦書き。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は漢数字である。)
- 208条
訴訟を起す者は訴状を管轄裁判所に差出す可し
- 209条 訴状は準備書面の規則に従ひ之を作り且左の諸件を記載す可し
- 訴訟物件の価額
- 請求の原因たる事実
- 立証方法
- 一定の申立て
明治23年民事訴訟法(原文はカタカナ縦書き。項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文は「第一」等である。)
- 訴の提起は訴状を裁判所に差出して之を為す
- 此訴状には左の諸件を具備することを要す
- 当事者及ひ裁判所の表示
- 起こしたる請求の一定の目的物及びその請求の一定の原因
- 一定の申立
- 此他訴状は準備書面に関する一般の規定に従ひ之を作り且裁判所の管轄か訴訟物の価額に依り定まる場合に於て訴訟物か一定の金額に非さるときは其価額を掲く可し
ドイツ民事訴訟法草案(1871年プロイセン司法省案)(項番号は、アラビア数字で記したが、原文にはない。号番号は、ローマ数字で記したが、原文はアラビア数字である。)
- 209条
- 訴えの提起は書面の送達によってなす。
- 同書面は次の事項を含まなければならない:
- 当事者及び裁判所の表示
- 提起された請求の対象(Gegenstand)及び原因の表示並びに一定の申立て
- 争訟(Rechtsstreit)の口頭審理のために受訴裁判所に被告を呼び出すこと
- 準備書面に関する一般規定は訴状にも適用する
オーストリー民事訴訟法(1895年法) 司法省『和訳 欧州各国民事訴訟法』(清水書店、大正15年)に掲載された訳である(原文はカタカナ縦書き)。
- 226条
- 準備書面に依り提起したる訴[1]は一定の要求を包含し之に原告の主たる請求及ひ附帯請求の理由たる各個の事実を簡単且完全に記載し且原告か其事実上の主張を証明する為め口頭弁論に於て使用せんと欲する各証拠方法を詳細に表示することを要す
- 訴訟の目的物の価額に依り裁判所の管轄の定まる場合に於て訴か一定の金額を目的とせさるときは亦訴に於て目的物の価額に付き必要なる記載を為す可し商事、海事又は鉱業の裁判権の目的たる訴えか此特別裁判権の外普通裁判権を行ふ裁判所に提起せらるるときは裁判所の表示に於て事件の弁論を商事部又は鉱業裁判権の実行の為め定まりたる部に於て開く可きことを求むる旨を明白にす可し
- 其他訴状には準備書面に関する一般の規定を適用す
訳注
- 原文は、「Die mittles vorbereitenden Schriftsatzes anzubringende Klage」となっており、直訳すれば、「準備書面により提起すべき訴え」である。
注2
原書が1847年に発刊された[サヴィニー/小橋訳*現代6]353頁(原書420頁)が、既判力に関連して、次のような例を挙げる。
- 占有訴訟の裁判は、将来の所有権訴訟[所有物返還請求訴訟]について既判力の抗弁を理由付けない。占有物の返還請求権と所有物の返還請求権とは、別個の権利である。
- 「iter[通行]に向けての役権認諾訴訟がしりぞけられ、後にactus[放牧]に向けての役権認諾訴訟が提起されるとき、確定力の抗弁は対立していない。
- 所有権訴訟[所有物返還請求訴訟]の棄却は、同じ物についての不当利得返還請求訴訟の後の提起を妨げない。
なお、(下記における「所有権訴訟」は、「所有権に基づく返還請求訴訟」の意味と思われるが、サヴィニーは判決の客観的理由にも確定力を認めるので、その有責判決[請求認容判決]は、「原告の所有権を確定させる判決」でもある([サヴィニー/小橋訳*現代6]358頁(原書426頁以下)参照)。
注3
明治23年法の母法であるドイツ民事訴訟の立法当時は、形成の訴えは未だ認められておらず、確認の訴えの観念は未成熟であったので、「訴え」といえば直ちに「給付の訴え」を指していたので、訴状の記載事項としての「請求」は「実体法上の給付請求権」を指していた。明治23年法立法当時も「立法当時ニ於テハ、請求トハ私法上ノ請求権ヲ指シタルモノナルヤ疑ヲ容レス」([雉本*論文集1]38頁)