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民事訴訟法講義
提訴前の資料収集
関西大学法学部教授
栗田 隆
1 総 説
文 献
[長谷部*2002a]=長谷部由起子「提訴に必要な情報を得るための仮処分」『竹下守夫先生古稀祝賀』(有斐閣、2002年)473頁−501頁
[佐藤*2006a]=佐藤優希「イギリス民事訴訟規則における情報開示」志學館法学7号(2006年1月31日)121頁−150頁
原告は、訴えの提起をする前に、提訴後に主張する事実及び提出する証拠を予め収集あるいは確認して、勝訴の見込みを確認した上で訴えを提起すべきか否かを決定するのが合理的である。弁護士等が原告から訴訟追行を受任する場合には、自身は事実関係を直接把握しているわけではないので、こうした資料(事実と証拠)の収集と確認は、特に重要である。以下では、主として、弁護士による資料収集について見てみよう。
提訴前の資料収集の方法
委任を受けた弁護士は、まずは、依頼者の話を聞き、依頼者が予め用意した資料を受け取る。それらを点検して、依頼者本人あるいは関係者(特に依頼者が法人である場合には、事件に直接関係した従業員等)と面談して事実関係を質問して、事実を追加する。必要に応じて、それを陳述書の形でまとめ、あるいは依頼者等に報告書を作成してもらうことになる。社会的に許容されるコミュニケーションの範囲内で、弁護士が依頼者と親密な関係に立たない者に対して質問することも、もちろんできる。しかし、その第三者が回答を拒絶する場合に、それでもその者から情報を得ようとすれば、通常のコミュニケーションの範囲外の手段を用いなければならない。
実体法上の情報請求権
弁護士が第三者に情報提供を求める場合に、依頼者が第三者に対して実体法上の情報提供請求権を有する場合には、その権利行使として、弁護士は、第三者に対して情報提供を強く求めることができる。もちろん、裁判外の権利行使も、義務者の生活の静穏を害しない範囲でなされなければならないことに注意しなければならない。
実定法により認められている情報請求権として、例えば次のようなものがある。
個人は、個人情報取扱事業者に対して、自己に関する個人情報を保有しているか否か、及び保有している場合にはその内容を開示することを求めることができる(個人情報保護法25条)。
不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信による情報の流通によって権利を侵害された者は、発信者に関する情報が損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他正当な理由があるときには、電気通信役務提供者に対して発信者に関する情報の開示を求めることができ(プロバイダー責任法4条1項)。
共有物が分割された場合には、各分割者は、分割された物に関する証書を保存する者に対して、その使用を請求することができる(民262条4項)。
会社の株主及び債権者は、会社に対して株主名簿の閲覧を請求することができる(会社125条)。懈怠に対しては過料の制裁が科せられる(976条8号)。
実定法により明示的に認められているわけではないが、解釈論として、次の主張がなされている。
被害者には、加害者ではないが不法行為に一定の関わりをもった第三者に対して、実体法上の請求権として、「被告とすべき者を特定するための情報の開示請求権」が認められるべきである([長谷部*2002a])。
以上の権利は、最終的には訴えにより実現することができ、また仮処分により仮の権利保護を受けることもできる([長谷部*2002a]参照)。
民事事件の記録の閲覧等
裁判所書記官が保管する民事事件の記録の閲覧・複製については、次の規定がある。
民事訴訟事件の記録については、何人も、裁判所書記官に対し、その閲覧を請求することができる(
91条
1項)。さらに、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、訴訟記録の謄写も請求することができる(91条3項)。
執行裁判所の行う民事執行について、利害関係を有する者は、裁判所書記官に対し、事件の記録の閲覧又は謄写を請求することができる(民執法
17条
)。
民事保全命令手続及び保全執行手続に関し、裁判所の行う手続について、利害関係を有する者は、裁判所書記官に対し、事件の記録の閲覧又は謄写を請求することができる(民保法5条)。
破産事件について、利害関係人は、裁判所書記官に対し、破産法あるいは破産規則の規定に基づき、裁判所に提出された、又は裁判所が作成した文書その他の物件の閲覧を請求し、又はそれらの複製もしくは複製の許可を請求することができる(破産法
11条
、破産規
10条
)。
弁護士法23条の2の照会制度
弁護士法は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することが弁護士の使命であることに鑑み(同法1条)、その使命の達成のために必要な情報の入手を支援するために、そして弁護士が個々の依頼者の利益のために活動するものであり、情報の提供を求められる者の利益が不当に害されないように歯止めをかける必要があることを考慮して、同法23条の2において、所属弁護士会を通じて公務所又は公私の団体に報告を求める制度を規定している。
弁護士から公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることの申し出を受けた弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができることが重要なポイントであり、弁護士会がその申出に従い公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めた場合に、相手方はそれに応ずる義務があるか否かが問題となる。見解の分かれる所であるが、次の要件のもとで、報告義務を肯定すべきであろう。
弁護士が、受任している事件について、依頼者の利益の擁護のために報告を必要としていること。
相手方に報告を拒絶する正当な理由がないこと
報告拒絶の正当な事由としては、次のことなどが考えられる。
報告すべき事項が220条4号所定の事項に当たること
報告すべき事項が第三者の個人情報であり、当該第三者の同意が得られず、同意なしに回答すれば回答者が相手方が当該第三者等から損害賠償を請求するおそれがあること。
義務の強制方法の欠如と義務違反の効果
報告拒絶に対して、過料などの制裁は用意されておらず、その意味で強制方法はない。しかし、法的義務であるから、弁護士会は報告義務を負う者の報告拒絶を非難することができる。その非難を公表することが許されるかは、事案によろうが、少なくとも、弁護士会と報告義務者との間では、非難すること自体は違法性を欠く。また、報告義務は、弁護士制度を含む司法制度への協力義務の一つであり、照会をした弁護士会に対して負う義務であるが、その義務違反により適正な裁判の実現が妨げられる場合には、調査嘱託の申出をした当事者との関係で不法行為となりえ、損害賠償義務を負うことがある(
大阪地方裁判所 平成18年2月22日 第2民事部 判決
(平成15年(ワ)第4290号))。
報告義務を負う者が弁護士会に報告をすることは、正当業務行為と評価され、これにより第三者が損害を受けても、その第三者に対する違法行為にはならないと解すべきである。とは言え、
最高裁判所 昭和56年4月14日 第3小法廷 判決
(昭和52年(オ)第323号)が、弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると判断したことに鑑みると、第三者の個人情報にかかわる事項について照会がなされた場合には、照会を受けた者は、第三者の利益を尊重すべきなのか、弁護士の依頼者の利益を尊重すべきなのかの難しい判断を強いられることになる。このような場合には、照会を受けた者は、報告によって第三者に対して賠償義務を負うことのないこと、そして賠償義務を負うに至った場合には弁護士会がその補填をすることの保証を求めることができると解すべきである(弁護士会が、報告を求めつつ、報告によって報告者に賠償義務が生じても弁護士会はなんら責任を負わないと主張するのは、信義に反しよう)。
判例を挙げておこう。
大阪地方裁判所 平成18年2月22日 第2民事部 判決
(平成15年(ワ)第4290号) これは、住所を秘匿しているヤミ金融業者の被害者から依頼を受けた弁護士が業者の住所・電話番号を知るために,振込先であるヤミ金融業者の口座が開設されている銀行に対して弁護士法23条の2の照会(以下「23条照会」という)の申出を弁護士会にし,弁護士会が銀行に照会をしたが,銀行が顧客の同意が得られないことを理由に回答を拒絶した場合に,銀行の回答義務が肯定され,回答拒絶が弁護士の依頼者との関係で権利侵害行為に当たるとされたが,銀行に過失はなかったとして,依頼者の銀行に対する損害賠償請求が棄却された事例である。多数の重要な説示がなされているが、とりわけ次の説示が重要である:銀行が顧客等との間で預金等の受入れを内容とする契約の締結等をするに当たり取得した当該顧客の氏名又は名称,住所又は所在地,電話番号等当該顧客の特定に資する情報についてこれを開示することを求める内容の23条照会又は調査の嘱託を受けた場合,23条照会に係る照会書やその添付書類等又は調査の嘱託書やその添付書類等からして,{1}当該顧客の行為によって23条照会又は調査の嘱託により当該顧客の特定に資する情報の開示を求める者(当該照会申出をした弁護士の依頼者又は当事者)の権利ないし法的利益が侵害されていることが明らかであるとみえること,{2}当該情報が開示請求者の権利ないし法的利益の裁判制度による回復を求めるために必要である場合その他これに準じる当該情報の開示を受けるべき正当な理由があること,{3}当該銀行に対して当該顧客の特定に資する情報の開示を求める以外に当該顧客を特定するための他に適当な方法がないこと,の要件をいずれも満たす場合には,当該銀行は,23条照会又は調査の嘱託に対して当該照会又は嘱託により報告を求められた顧客の特定に資する情報について照会をした弁護士会又は嘱託をした裁判所に報告する義務を負う。
2 提訴予告通知制度
2.1 総 説
訴えを提起しようとする者は、入手した資料に基づき、提訴を決断する。その際に、入手できる資料が多ければ多いほど、合理的な判断が可能になる。多くの資料に基づき訴訟をすべきでないとの判断がなされれば、これにより無用な訴訟が回避される。提訴がなされた場合でも、当事者が予め入手した多くの資料に基づき審理の準備がなされているので、迅速な審理を期待することができる。同様なことは、被告となる者にも妥当する。彼に多くの資料を入手する機会が与えられていれば、彼は、応訴すべきか和解すべきかについてより合理的な判断をすることができる。応訴した場合でも、訴訟開始後に収集しなければならない資料が少なくなっているので、審理の迅速が期待できる。
こうした考慮に基づき、提訴前に相手方あるいは第三者から資料を収集することを可能にする手続(提訴前の資料収集手続)が用意されている(
第1編第6章「訴えの提起前における証拠収集の処分等」
)。もちろん、この手続もコストがかかるものであり、上記の利点も、その点を割り引いて評価しなければならない。また、提訴前に相手方当事者となるべき者あるいは第三者から資料を収集することを可能にする制度は、訴訟開始後の資料収集手続よりも濫用される危険性が高い。すなわち、訴訟開始後であれば、被告が応訴の態度を示した以降は、原告は、被告の同意がなければ訴えを取り下げることはできず(
261条
2項)、係争法律関係は判決により解決される。原告はそれだけのことを覚悟して訴えを提起しているのである。ところが、提訴前の資料収集手続が行われても提訴が強制されるわけではないから、提訴しようとする者は、これを利用して、いわば気楽に情報集めをすることができる。場合によれば、営業秘密やプライバシーの侵害手段として悪用される可能性がある。
そうした危険を避けるために、提訴前の資料収集手続においても、訴訟法律関係の成立を認め、裁判所と当事者と第三者との関係を権利義務関係として規律する必要がある。その第一歩が提訴予告通知である。
提訴予告通知がなされることにより、提訴前訴訟法律関係が発生し、予告通知者と被予告通知者は、(
α
) 相互に相手方に対して照会をなすことができ(提訴前照会)、また、(
β
)一定範囲の証拠収集処分を裁判所に申し立てることができる。
当事者間でのコミュニケーション(通知、返答、照会)は、すべて書面ですることが要求されている(
132条の2
第1項、132条の3第1項)。コミュニケーションの経過について争いが生ずることを防ぐためであり、また、書面の方が、多くの場合、冷静なコミュニケーションを期待できるからである。
なお、このコミュニケーションは、当事者となるべき者に法定代理人がいる場合には、法定代理人が行うべきである。
2.2 提訴予告通知制度
意義
提訴予告通知は、「訴えを提起しようとする者が訴えの被告となるべき者に対し訴えの提起を予告する通知」である(
132条の2
第1項)。この通知は、次の事項を記載した書面でしなければならない。
法第132条の2第1項の規定による予告通知である旨(
規則52条の2
第1項3号)
予告通知の年月日(同2号)
予告通知をする者及び予告通知の相手方の氏名又は名称及び住所、並びにそれらの代理人の氏名及び住所(同1号)
提起しようとする訴えに係る請求の要旨及び紛争の要点(
法132条の2
第3項)。これらは、具体的に記載しなければならない(
規則52条の2
第2項)。
可能なかぎり、訴え提起の予定時期(
規則52条の2
第3項)
予告通知書作成者(予告通知者またはその代理人)の記名押印
代理人がいる場合には、代理権証明文書を添付すべきである。
通知の効果
この通知がなされることにより、提訴前訴訟法律関係が発生する。その内容は、通知者・被通知者ともに、予告通知の日から4月以内に限り、(
α
) 相手方に対し提訴前照会をし、(
β
)裁判所に証拠収集処分の申立てをすることができることである。
予告通知に対する返答
予告通知書に記載された請求の要旨及び紛争の要点に対する答弁の要旨を回答することを「予告通知に対する返答」という。この返答は、次の事項を記載した書面でしなければならない(
規則52条の3
)。
法第132条の3第1項の規定による返答である旨
返答の年月日
予告通知者及び被通知者の氏名又は名称及び住所並びにそれらの代理人の氏名及び住所
請求の要旨及び紛争の要点に対する答弁の要旨
返答書作成者(被通知者またはその代理人)の記名押印
返答責任
予告通知に対する返答自体は義務とされていない。しかし、返答をしなければ、被通知者は照会および証拠収集処分の申立てをすることができないという形で、返答責任を負わされている。
期間制限と予告通知の一本化
予告通知を基礎とする照会及び証拠収集処分の申立てについては、それを通知の日から4ヶ月の期間内にしなければならないという制限が付されている。この期間は、相手方の同意があればその後の照会あるいは証拠収集処分申立ても許されるという形で緩和されているが、緩和はこの場合に限定しておく必要がある。ところで、同一内容の予告通知が数度なされた場合に、最後の通知の日から4月内であればよいとなると、この期間制限が潜脱されることになる。これを防止するために、既にした予告通知と重複する予告通知に基づいては、照会あるいは証拠収集処分を申し立てることができないとされている(
132条の2
第4項・132条の4第3項)。
3 提訴前照会(
132条の2
・132条の3)
3.1 予告通知者の提訴前照会(
132条の2
)
通知者は、予告通知をした日から4月以内に限り、被通知者に対して、「訴えを提起した場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をする」ことができる。例:
医療事故により損害を受けた患者が病院を提訴しようとする場合に、手術に関与した看護師の氏名・住所を照会する。
照会禁止事項
次の照会は、許されない(
132条の2
第1項)。
1号 訴訟係属後の当事者照会において禁止されている事項についての照会(第163条各号のいずれかに該当する照会)
2号 相手方又は第三者の私生活についての秘密に関する事項についての照会であって、これに回答することにより、その相手方又は第三者が社会生活を営むのに支障を生ずるおそれがあるもの
3号 相手方又は第三者の営業秘密に関する事項についての照会
ただし、第三者の私生活上の秘密(2号)または営業上の秘密(3号)については、被通知者の回答を第三者が承諾した場合には、照会禁止事項から除外される。この承諾は、予告通知者が事前に得ておくべきである。もっとも、既知の情報との関係で当該第三者の氏名・住所自体が私生活上の秘密と評価され、通知者がそれを知る手段を有しない場合には、当該第三者が承諾するか否かを被通知者が問い合わせるよう依頼することは、許されてよい。
照会書
照会書には、次の事項を記載しなければならない(
規則52条の4
第2項)。
照会をする者及び照会を受ける者並びにそれらの代理人の氏名
照会の根拠となる予告通知の表示
照会の年月日
照会事項及びその必要性
法第132条の2第1項の規定により照会をする旨
回答すべき期間
照会をする者の住所、郵便番号及びファクシミリの番号
照会書作成者(照会者またはその代理人)の記名押印
照会書は、代理人が存在する場合には、代理人に送付しなければならない(規則52条の4第1項末文)。
回答書
回答書には、次の事項を記載する(規則52条の4第3項)。
照会をする者及び照会を受ける者、並びにそれらの代理人の氏名
照会の根拠となる予告通知の表示
回答の年月日
照会事項に対する回答。回答を拒絶する場合には、その拒絶理由(163条各号または132条の2第1項第2号もしくは第3号のいずれに該当するか)を記載する。
回答書作成者(照会を受けた者又はその代理人)の記名押印
回答書の送付先については特に限定はないので、通知者本人またはその代理人にすればよい。もし回答を代理人に送付することを希望する場合には、照会書にその旨を明示しておくべきである。なお、法定代理人からの照会に対しては、法定代理人に回答書を送付すべきである。
3.2 被通知者からの照会(
132条の3
)
被通知者が予告通知に返答をすると、当事者平等原則に基づき、彼も提訴前照会をすることができる。4ヶ月の照会可能期間の起算点は、返答の時からではなく、予告通知がなされた時からである。返答が遅れれば、それだけ照会可能期間も短くなる。このことは、返答を促進する要因となる。
次のような照会が考えられる。
交通事故による損害賠償請求事件で、被通知者(加害者)が事故と通知者(被害者)の症状との因果関係について主張・立証の準備をするために、通知者の既往症並びに診療機関名とその所在地について照会する([法務省*2002a2]13頁)。もっとも、
132条の2
第1項2号に該当する場合には、そのことを理由に回答を拒絶できる。
他は、通知者からの照会とそれに対する回答の場合と同じである。
4 提訴前の証拠収集処分(
132条の4
)
4.1 総 説
提訴前の資料収集のもう一つの手段は、裁判所による証拠収集処分である。通知者および返答者(返答をした被予告通知者)は、「予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきもの」について、次の証拠収集処分を申し立てることができる。
1号処分
(文書の送付嘱託) 文書(231条所定の準文書を含む)の所持者にその文書の送付を嘱託すること。
2号処分
(調査の嘱託) 必要な調査を官公署等(官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体)に嘱託すること。
3号処分
(専門家の意見陳述の嘱託) 専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託すること。
4号処分
(執行官による調査) 執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずるこ と。
1号から3号までの処分は、権力的要素の少ない処分(嘱託)である。受嘱託者は、正当な拒絶事由がなければ嘱託に応ずる義務を負うが、強制手段は用意されていない。受嘱託者は、正当な拒絶事由があると判断する場合には、当該事由により嘱託に応ずることができない旨を回答すれば足りると解すべきである。求められている情報が文書に記載されれれば、その文書が220条4号イからホに該当することは、正当な拒絶事由になると解すべきである(220条4号イからホの証明責任に関する通説的理解を前提にして述べれば、次のようになる:正当な拒絶事由がないと評価されるためには、求められている情報が文書に記載されても、その文書が220条4号イからホの文書に該当しないことが必要である)。4号の処分は、権力的要素のある命令である。
費用は、申立人が負担する(
132条の9
)。後に提訴がなされても、敗訴者の負担となるべき訴訟費用には組み入れられない(なお、[法務省*2002a2]11頁参照)。
なお、提訴前の証拠収集処分の対象となる証拠であっても、証拠保全の必要性がある限り、
証拠保全
も許される。
4.2 申立て
申立権者
申立権者は、提訴予告通知者とその返答者である。
申立期間
証拠収集の申立ては、提訴予告通知の時から4月の不変期間内にしなければならない。ただし、相手方の同意があれば、その後でもできる。
記載事項
申立書には、下記の事項及び規則2条所定の事項を記載する。
申立人及び相手方の氏名又は名称及び住所、並びに代理人の氏名及び住所(
規則2条
1項1号、
規則52条の5
第2項1号)
申立てに係る処分の内容(
規則52条の5
第2項2号)
申立ての根拠となる予告通知に係る請求の要旨及び紛争の要点(同3号)
予告通知に係る訴えが提起された場合に立証されるべき事実(
法132条の6
第5項・
180条
1項)及びこれと処分により得られる証拠となるべきものとの関係(同4号)
申立人が証拠となるべきものを自ら収集することが困難である事由(同5号)。これについては、疎明が必要である(規則52条の5第6項)。
予告通知がされた日から4月の不変期間内にされた申立てであること又はその期間の経過後に申立てをすることについて相手方の同意があること(同6号)。
各処分特有事項 各処分の特質に応じて、下記の事項も記載する(規則52条の5第3項・4項)
文書送付嘱託 当該文書の所持者の居所、並びに、送付を求める文書を特定するに足りる事項
調査の嘱託 当該嘱託を受けるべき官公署等の所在地
専門家の意見陳述の嘱託 特定の物についての意見陳述の嘱託に係る場合、当該特定の物の所在地、並びに、その物を特定するに足りる事項
執行官による調査 当該調査に係る物の所在地、並びにその物を特定するに足りる事項
添付書類
申立書には、下記の書類を添付する(
規則第52条の6
)。
予告通知書の写し
予告通知がされた日から4月の不変期間が経過しているときは、相手方の同意を証する書面
被予告通知者が申し立てるときは、返答の書面の写し
3号処分又は4号処分を申し立てるときに、対象物の権利について登記または登録がある場合には、その登記事項証明書・登録原簿記載事項証明書)(規則52条の6第3項)
4.3 管轄・審理・裁判
管轄裁判所
申立ては、次の地を管轄する地方裁判所にする(
132条の5
)。本案が簡裁事件の場合にも、証拠収集処分は地方裁判所が管轄する。
1号処分
申立人若しくは相手方の普通裁判籍の所在地、又は、文書所持者の居所。この場合の居所は、4条2項の場合と異なり、住所と一致してもよい。
2号処分
申立人若しくは相手方の普通裁判籍の所在地、又は、調査の嘱託を受けるべき官公署等の所在地
3号処分
申立人若しくは相手方の普通裁判籍の所在地、又は、特定の物につき意見の陳述の嘱託がされるべき場合における当該特定の物の所在地
4号処分
調査に係る物の所在地
移送について、次の規定が準用される
。
第16条
(管轄違いの場合の取扱い) 第1項 その他の移送規定(例えば17条(遅滞を避ける等のための移送))は、準用されない。実際上その必要がないからである。
第21条
(即時抗告)
第22条
(移送の裁判の拘束力等)
却下の裁判
裁判所は、期間遵守の要件等の手続的要件が充足されていない場合には、申立てを却下する。
本案の裁判
申立てが適法である場合には、裁判所は、次の積極的要件および消極的要件について判断する。
積極的要件
処分により得られる資料が、当該予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものであること
申立人がこれを自ら収集することが困難であること[
1
]
消極的要件
その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないこと
積極的要件の充足が確認され、消極的要件に該当しなければ、裁判所は、求められた処分をする。この場合には、予め相手方の意見を聴かなければならない。要件が充足されない場合には、申立てを棄却する。裁判所は、必要があると認めるときは、嘱託を受けるべき者その他参考人の意見を聴くことができる(規則52条の7第1項)。
処分後に消極的要件の充足が確認された場合には、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
不服申立て
これらの裁判に対しては、不服申立ては許されない(
132条の8
)。
処分の手続
裁判所が申立てを認めて証拠収集処分をする場合には、次のようにする。
1号処分 文書送付の期間を定めて、文書の送付を嘱託する。文書の送付があった場合には、申立人および相手方に通知し、これらの者の利用に供するため、文書を1月間保管する。
2号処分 調査結果の報告の期間を定めて、調査を嘱託する。報告は書面でする。報告書の送付があった場合には、申立人および相手方に通知し、これらの者の利用に供するため、書面を1月間保管する。
3号処分 意見陳述をすべき専門家は、裁判所が指定する(132条の6・213条)。意見陳述の期間を定めて、その者に意見陳述を嘱託する。意見陳述は、書面でする。陳述書の送付があった場合には、申立人および相手方に通知し、これらの者の利用に供するため、書面を1月間保管する。
4号処分 調査結果の報告期間を定めることは必要的ではない。報告は、書面でする。この調査は、当事者を立ち会わせてすることが望ましいので、この命令を受けた執行官は、調査を実施する日時及び場所を定め、申立人及び相手方に対し、その日時及び場所を通知する(規則4条1項・2項・5項の準用があり)。報告書には、下記の事項を記載する。
調査をした執行官の氏名、
調査に係る物の表示、
調査に着手した日時及びこれを終了した日時、
調査をした場所、
調査に立ち会った者があるときはその氏名、
調査を命じられた事項並びに調査の結果
1号から第3号までの処分については、外国に所在する者等にも嘱託することができる。この場合には、法
184条
1項、規則
103条
が準用される。
事件記録の閲覧等
申立人及び相手方は、裁判所書記官に対し、証拠収集処分の申立てに係る事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は当該事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる(
132条の7
)。
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2004年5月15日 −20013年7月21日