by SIFCA
目次文献略語

破産法学習ノート2

破産手続開始申立て


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 破産手続開始申立て  2 費用


1 破産手続開始申立て


1.1 申立主義

原則  破産手続も私人の権利保護の手続であるので、私人(債権者・債務者)がその開始を求める場合にのみ開始される(処分権主義)。

例外  ただし、次の場合には、裁判所は職権により破産手続を開始することができる[15]。

1.2 申立権者

破産手続開始の申立てをなす資格を有するのは、次の者である[CL2]。

1.3 債権者からの破産手続開始申立て

申立権を有する債権者の範囲
破産手続は、強制執行と比して、次の点でより強力な債権回収手段である。

破産手続開始申立て時に破産者の一般財産から満足を受ける請求権(債権)を有する者は、このような特質をもつ破産手続を利用することについて利益を有し、申立権者となる。その債権の種類は問わない。不法行為を理由とする損害賠償債権であってもよく、また、その債権について判決等の債務名義が存在していなくてもよい。

不足額主義の適用の有無
他方、破産手続開始決定が債務者に与える影響の大きさを考慮すると、こうした破産手続の利用に利益を有しない債権者には、申立権を認めるべきではない[3]。債務者の特定財産上に担保権を有する債権者が破産手続開始の申立てをする場合に、担保権の行使によっては回収されない部分(不足額)が存在することが必要であるかについては争いがある。通説は、不足額の存在は要件ではないとする[4]。しかし、不足額の不存在が明かな場合にまで、破産手続開始申立てを認めるべきではない(この点の証明責任は、債務者が負う)。破産手続が開始されれば、108条が適用され、彼が破産配当を得ることはなく、破産手続の開始に利益を有するとは言えないからである。例外的に利益を有するのであれば、彼がそのことを明らかにすべきである。

債務者の特定財産のみを責任財産とし、他の財産を責任財産としない旨の特約(ノンリコース特約)は、通常は、当該特定財産上の担保権と組合わさっており、担保財産のみから弁済を受ける特約である。そのような特約の付されている債権のみを有する債権者も、開始申立ての利益を有しない。

申立人の債権が質権の目的となっている場合
債権が質権の目的とされた場合には、債務者の破産は質権者の取立権の行使に重大な影響を及ぼすので、質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り、質権設定者は、当該債権に基づき当該債権の債務者に対して破産[手続開始]の申立てをすることはできない(最高裁判所平成11年4月16日第2小法廷決定(平成10年(許)第8号))。申立人の債権が差し押さえられている場合についても同様に解してよい[10]。

申立人の債権の存在時期・対抗要件
申立人の債権は、破産手続開始決定の時に存在することが必要であり、また、その時に存在していれば足りる。申立債権者の債権の弁済期の到来は不要である。ただし、破産手続開始原因として支払不能が主張されている場合には、申立人または他者の債権について弁済期が到来していることが必要である。破産手続開始原因として債務超過が主張されている場合には、それも必要ない。申立債権者の債権が他から譲渡されたものである場合には、反対の見解はあるが、債権譲渡の対抗要件を具備していることが必要である(大判昭和4年1月15日民集8巻1頁)[9]。

破産手続開始決定後における申立人の債権の消滅
申立債権者が債権を有していることは、申立ての適法要件であり、開始決定前に債権が消滅すれば、申立ては却下される。しかし、開始決定が効力を生じてから後に申立人の債権が消滅しても、そのことは開始決定の取消理由とならない。開始決定は総債権者のためになされるからである。開始決定が確定してしまえば、申立債権者が当初から債権を有していなかったということを理由に取り消す余地もない。

用語法  債務者からの申立てに基づいて破産手続が開始される場合については、「自己破産」という簡潔で的確な言葉がある。これに対して、債権者からの申立てに基づいて破産手続が開始される場合については、次のような言葉が使われる。

  • 非自己破産
  • 強制破産  (アメリカ法のinvoluntary bankruptcyの翻訳語)
  • 第三者破産 (信用調査の領域で用いられることがあるが、債権者と債務者以外の第三者の破産の意味に誤解される虞がある)

いずれも「自己破産」ほどには的確ではなく、まだ確立された表現とは言えない。やや長くなるが、次の表現が確実である。

  • 債権者申立による破産

1.4 債務者・準債務者からの破産手続開始の申立て

債務者
債務者自身も破産手続開始の申立てをすることができる。債務者の申立てに基づく破産を自己破産という。法人の開始申立ての場合には、取締役会(会社法362条2項[13]等)・理事会(一般法人法90条等)の決議等に基づき、代表者が法人の名において申し立てる(取締役会の設置されていない株式会社については、会社法348条1項・2項参照。理事会の設置されていない社団法人については、一般法人法76条1項・2項参照)。

準債務者
債務者に準ずる一定範囲の者にも申立権が認められている。

申立義務
債務者またはこれに準ずる者は、通常、破産手続開始の申立義務を課されていない[5]。もっとも、個人である債務者は、免責を得るうえでは早期に自己破産を申し立てる方がよい。他方、次の者は破産手続開始の申立義務を負う(ただし、再生手続開始の申立ては妨げられない。再生法22条)[CL1]。

他方、相続財産管理人等については、旧破産法136条2項で申立て義務が認められていたが、この規定は廃止された。個人の財産関係は、破産手続を行うのが適当であるほどに財産規模が大きくて複雑であるとは限らず、限定承認等の民法上の簡易な清算手続で処理する方が適当な場合が多いからである([小川*2004a]310頁)。

1.5 破産手続開始申立ての方式

申立書
開始申立ては、規則13条所定の事項を記載した書面を提出してする(20条1項)。規則13条は、記載事項を1項と2項とに分けて規定している。

)1項の記載事項  開始申立ての中核をなす事項である

  1. 申立人の氏名又は名称及び住所並びに法定代理人の氏名及び住所
  2. 債務者の氏名又は名称及び住所並びに法定代理人の氏名及び住所
  3. 申立ての趣旨
  4. 破産手続開始の原因となる事実

)2項の記載事項  手続を円滑に進めるために必要な事項である

申立手数料
破産手続の開始を申し立てるにあたっては、申立手数料を納付しなければならない。

1.6 申立書の審査

申立書が裁判所に提出されると、(α法20条1項に規定する事項(規則13条1項所定事項)が記載されているか、並びに(β)申立手数料が納付されているか、が審査される。不備があれば、期間を定めて補正すべきことが命じられる。その審査・補正を誰が命ずるかが問題となる。訴状については裁判長であるが(民訴法137条)、破産手続開始申立書については、記載事項の定型性を考慮して、裁判所書記官が第一次的にするものとされている(21条1項)。

補正を命ずる裁判所書記官の処分に対して、申立人は、裁判所に異議申立てをすることができる。裁判所は、(α)申立書に不備がないと判断すれば、補正を命ずる処分を取り消す。(β)不備があると判断すれば、異議申立てを却下する(これに対する即時抗告は許されない)。異議申立てにより効力を停止していた裁判所書記官の処分は、異議申立て却下により、効力を復活する。却下決定の告知を受けたときから補正期間があらためて進行し、その期間内に補正がなされなければ、裁判長が、命令で、破産手続開始申立書を却下する。この却下命令に対しては、即時抗告をすることができる。 (γ)裁判所は、裁判所書記官が補正を命じた不備以外の不備があると判断する場合には、期間を定めてその補正も命じなければならない(21条5項)。

1.7 破産手続開始申立ての適法要件としての疎明事項

申立人 疎明事項
債権者 破産債権と破産手続開始原因(18条2項)
一部の理事・相続人等 破産手続開始原因(19条3項・4項)

開始申立てがなされると、そのこと自体により債務者の経済的信用が大きく揺らぐ。最終的に開始申立てが棄却される場合でも、棄却決定が確定するまでの間に債務者の信用が失われて経営が困難になることがあるので、理由のない開始申立てをできるだけ早く排除するために、開始申立ての際に右の表の事項について疎明が要求されている。疎明のない申立ては、そのこと自体により不適法な申立てとして却下される。ただし、外国においてすでに日本の破産手続に相当する手続の開始決定がある場合には、破産手続開始原因たる事実が存在するものと推定されるので(17条)[7]、疎明も不要である。この推定のためには、当該外国手続の開始原因が日本の破産手続開始原因と同等なものであることが必要であり、かつそれで足りると解すべきであろう。

疎明資料としては、次のようなものが考えられる。

疎明事項 疎明資料
破産債権 借用証書、手形・小切手、売掛台帳、請求書、給付判決、執行証書
破産手続開始原因 不渡りの付箋が付されている手形・小切手、銀行取引停止処分があった旨の手形交換所の証明書、強制執行不能調書、債務者からの支払停止の通知ないし表示(夜逃げの張紙を撮影した写真)

1.8 添付書類等

債権者一覧表
債権者以外の者が破産手続開始申立てをする場合には、債権者一覧表を提出することが必要である(20条2項本文)[8]。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。債権者一覧表の記載事項は、(α)次に掲げる債権を有する者の氏名又は名称及び住所、並びに(β)その有する債権及び担保権の内容である(規則14条)。

  1. 破産債権となるべき債権(下記2・3を除く)
  2. 租税等の請求権
  3. 債務者の使用人の給料の請求権及び退職手当の請求権
  4. 民事再生法252条6項、会社更生法254条6項又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律158条の10第6項若しくは331条の10第6項に規定する共益債権

債権者が開始申立てをする場合には、債権者一覧表の提出が困難な場合が多いであろうとの配慮の下に、破産法自体はこれらの書類の提出を義務づけていない。しかし、破産規則により、申立債権者も提出すべきであるとされている(当該債権者においてこれを作成することが著しく困難である場合は、この限りでない)(規則14条2項)。

金融機関の監督庁が開始申立てする場合も、債権者以外の者が開始申立てをする場合にあたるが、監督庁の特性を考慮して、債権者一覧表の提出は要求されない(金融更生特例490条4項)。

その他
そのほかにも、財産目録等、規則により申立書に添付すべきとされている書類がいくつかある(規則14条3項)。

また、破産法や破産規則で添付または提出すべきとされている書類でなくても、裁判所は、破産債権となるべき債権及び破産財団に属すべき財産の状況に関する資料その他破産手続の円滑な進行を図るために必要な資料の提出を求めることができる(規則15条)。

1.9 その他

時効完成猶予の効力
債権者がする破産手続開始の申立てにおける自己の破産債権の主張には、時効完成猶予の効力が認められる。もっとも、破産手続開始申立てによる時効完成猶予について直接の明文の規定がないので、平成29年改正後の民法のどの規定によりその効力が認められるべきかは明瞭ではない[6]。

  1. 裁判上の請求(民法147条1項1号)に準ずるの考え  民法改正前は、そのように解する見解が多かった(破産手続参加の場合についての同項4号も参照)。ただし、(α)申立てが認められて開始決定がなされても、それは申立て債権者の債権の存在を確定判決と同一の効力をもって確定するものではないので、民法147条2項の適用はなく、147条1項かっこ書により、時効完成猶予効が6ヶ月間維持されることになるが、6ヶ月の起算点を何時とすべきかが問題になる。(α1)開始申立てについての裁判が確定した時を起算点とすると、民法改正前と比較してかなり短くなる(改正前であれば、あらたに時効期間が進行する)。(α2)破産手続が終了した時とすると妥当な結論が得られるが、次の(β)の場合との理論的整合性が問題になろう。(β)破産手続開始申立てが棄却・却下され、あるいは取下げられた場合には、147条1項かっこ書の適用があり、棄却・却下決定の確定の時又は取下げの時から6ヶ月経過すると時効が完成する。
  2. 強制執行(民法148条1項1号)に準ずるとの考え  破産手続が開始された場合に、148条2項にいう「前稿各号に掲げる事由」に相当するのは、破産手続の終了であり、その時から消滅時効が進行することになる。他方、破産手続が開始されたなかった場合には、148条1項かっこ書が適用される。
  3. 仮差押え(民法149条1号)に準ずるとする考え  同号にいう仮差押えによる時効完成猶予効は、破産手続開始申立ての時に生じ、その「事由が終了した時」は「破産手続終了の時」又は「開始申立てが棄却・却下された時若しくは取り下げられた時」と解すべきことになろう。

結論の点のみから言えば、前記bないしcがよく、その中でも、破産手続開始申立てに際しては、申立債権者の債権に債務名義が存することを要しないことを考慮すると、cがよいであろう。aの見解を採り(α)の場合について、(α2)を選択することができるのであれば、それでもよい。

監督庁への通知
金融機関について破産手続開始申立てがあった場合には、経済社会の信用秩序に与える影響が大きいので、申立てがあったことをその監督庁に通知する(金融更生特492条)。ただし、監督庁自身が申立てをしている場合には、必要ない。


2 破産手続費用


2.1 破産手続費用の予納

申立人による予納
破産手続が開始されると、開始決定の公告や利害関係人への通知の費用が必要となり、また、破産管財人が選任される場合にはその報酬も必要となる。また、破産手続を開始すべきか否かを裁判する段階でさえも、関係人の審尋等のために費用が生ずることがある。これらの費用は、最終的には破産財団から支払われるべきものであるが、破産手続開始の段階で直ちに破産財団から支出できるわけではないので、裁判所が必要な金額を見積もって、予納すべき金額を定め、申立人が予納する(22条1項。債務者が申し立てる場合でも、予納義務がある)。予納された金銭は、債務者が予納した場合を除き[12]、後に破産財団から支出することが可能となった段階で、破産財団から償還される。

予納金額は、熊本地方裁判所では、下記のようである[R70]。

裁判所が定めた予納金を予納しない場合には、破産手続開始申立ては棄却される(30条)。そのような重要な効果が結びつけられているので、費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる(22条2項)。

国庫による仮支弁23条
破産手続は、基本的には、申立人のための救済手続であるが、申立人のみならず多数の利害関係人(特に債権者)の利益にもなる。債務者自身が破産手続開始申立てをする場合に、彼が個人であれば、彼は、困窮と疲弊のために死の淵をさまよっていることもある。また、債務者の財産の多くが損害賠償請求権等の債権の形で存在したり、管財人による否認権の行使によって回復されるべきものである場合もある。こうした場合に、費用の予納に充てる現金を債務者が有しないために破産手続が開始されないままとなったり、あるいは開始が遅れることは、妥当でない。そこで、裁判所が、申立人の資力、破産財団となるべき財産の状況その他の事情を考慮して、申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときは、国庫が費用を仮に支弁して(立て替えて)破産手続を開始する道が開かれている(23条1項)。仮支弁がなされる場合には、申立人は予納義務を負わない。なお、国庫が一部を仮支弁し、申立人が一部を予納するとの取り扱いも許されるべきであろう。

国庫からの仮支弁金は、手続開始後に破産財団から償還される。しかし、破産財団から償還される見込みのあることが仮支弁の要件とされているわけではなく、同時廃止となる場合でも、仮支弁は可能と解すべきであろう[1]。この場合には、同時廃止後に破産者が仮支弁金を償還すべきである。免責許可決定がなされても、その効力は、仮支弁制度の趣旨により、仮支弁金の償還請求権には及ばないと解すべきである[2]。

次の特則がある。

法律扶助
破産手続による救済を求める者が、それに必要な費用を支払うことができない場合に、法律扶助協会による扶助を受けることも考えられる。しかし、債務者自身が破産手続開始申立てをする場合については、法律扶助協会は、昭和58年10月に、予納金の立替払いをしないとの方針を打ち出している。法律扶助協会の立替金償還請求権は破産手続開始前に原因があるので、破産手続開始後に免責が与えられると、免責の効力がこれにも及ぶからである。

第三者による予納
22条1項では、手続費用は、申立人が予納すべきものとされている。しかし、破産手続開始申立てをした債務者が予納金を用意できない場合に、破産手続の円滑な開始を促進するために、第三者が予納して、148条1項1号の財団債権として破産財団から優先的に償還を受けることも認めるべきであろう。また第三者による予納金の破産者に対する償還請求権は、免責許可決定がなされても、その効力を受けないものとすべきである[12]。もちろん、国庫による仮支弁が円滑に行われれば、第三者による予納金納付は実際上必要ないことになるが、仮支弁の要件を考慮すると、第三者による予納を許す必要はあるように思われる。

2.3 手続費用をまかなう財産がないとき

破産管財人を選任して破産手続を追行しても、手続費用を支払うだけの財産がないと認められる場合には、破産管財人を選任することなく、破産手続開始決定と同時に破産手続を廃止する(終了させる)(216条1項)。この場合でも、申立人が手続費用を償うのに足るべき金額を予納すれば、同時廃止とならずに、破産管財人を選任して破産手続が追行される(216条2項)。


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Author:栗田隆
Contact:<kurita@kansai-u.ac.jp>
1997年6月10日−2005年4月4日−2014年8月7日