注1 新追行者が手続を続行すべきことを知っており、手続の追行に支障がない場合にまで中断を認める必要があるかという問題は生ずるが(例えば会社の合併の場合に、存続会社は多くの場合に消滅会社が当事者となっている訴訟の係属を合併前から知り得るはずであり、合併後に直ちに手続を追行することに支障があるとは思えない)、画一的な処理を優先させて、新追行者が訴訟手続を直ちに追行することを定型的に期待できる場合(124条5項参照)以外は、訴訟手続は一律に中断するものとされている。
注2 「訴訟追行者」と言わずに「手続追行者」と呼んだのは、「訴訟追行権」という言葉が当事者適格論の領域で使われており、これとの混同をできるだけ避けるためである。条文の文言も、「訴訟を受け継ぐ」ではなく「訴訟手続を受け継ぐ」となっており、対象を「手続」に統一しておく方がよい。
注3 債権譲渡の場合には、債務者への通知または債務者による承諾が対抗要件となっており、このことは既判力拡張との関係でも承認されるべきである。すなわち、口頭弁論終結前に譲渡の合意がなされても、終結後に通知又は承諾がなされた場合には、譲受人は口頭弁論終結後の承継人として既判力の拡張を受けるとすべきである。この価値判断を前提にすれば、債権者代位訴訟について固有適格説をとる場合は別として、訴訟担当説をとる場合には、代位権行使の通知を受けた債務者が口頭弁論終結前に代位債権者に弁済をして代位資格を消滅させたときには、債務者は第三債務者に直ちにその旨を通知すべきであり、終結後に通知がなされた場合には、判決の効力は債務者にも拡張されるとすべきであろう。
注4 古い教科書では、「受継は中断した手続の続行申立てである」と説明されることが多いが、この説明は、最近の法律に用いられている「受継」には妥当しない。例えば、
注5 旧法下では、実務上、次のような取扱いがなされていようである。現行法下でも、これらの考えは妥当するであろう。
注6 明治31年人訴法2条4項では、夫婦の一方が他方に対して提起した婚姻取消訴訟において、被告死亡により検察官がその承継人となった後で、原告が死亡した場合につき、弁護士を原告の承継人(職務上の訴訟担当者)とする制度(弁護士承継人制度)を設けていた。しかし、原告死亡の場合には訴訟は当然に終了するのが人事訴訟の原則であり、被告が検察官である場合にそのことのみを理由にこの原則を変更する理由は見いだしがたいとして、平成15年人訴法ではこの制度は廃止された。
注7 現行民訴法124条1項4号は、大正15年制定の民訴改正法において新設された同法211条に相当する規定である。大正11年制定の旧信託法が翌年1月1日に施行されてから、大正15年民訴改正法が昭和4年10月1日に施行されるまでの間は、受託者の任務終了は訴訟手続を中断しなかった。旧211条を新設した理由を、[山内*1929a]330頁は、次のように説明している:「信託関係に於て受託者の任務終了したときは利害関係人の請求に因つて裁判所新受託者を選任し、信託関係は総て新受託者に移転するのである(信託法第四十九條第五十條)此の場合に於て普通権利義務移転の場合と同様に参加の規定に依つて新受託者をして訴訟を引き受けしむるものと為すは宜くないと認めて新法は受託者の更迭をもつて訴訟手続の中断及び其の受継の原因としたのである」。この規定が、利害関係人の請求によって裁判所が新受託者を選任する場合を念頭において立案されたことは明白である。しかし、その場合になぜ参加の規定によつて訴訟を承継させるのでは不都合なのかについての説明はない。裁判所による新受託者の選任までに時間がかかることが考慮されたのであろうか。
注8 「受け継ぐ」の中に「受継申立てをする」の意味が含まれている用例として、次のものを挙げることができる。
注9 昭和27年会社更生法69条1項「前条の規定によつて中断した訴訟手続のうち更生債権又は更生担保権に関しないものは、管財人又は相手方においてこれを受け継ぐことができる」。
注10 旧破産法69条がその一例である。
注11 兼子一=松浦馨=新堂幸司=竹下守夫『条解民事訴訟法』(弘文堂、昭和61年)242頁。
注12 菊井維大=村松俊夫『全訂 民事訴訟法(1)追補版』(日本評論社、昭和59年)484頁、瀬戸正二「信託の終了と訴訟手続の中断」(兼子一・編『実例法学全集・民事訴訟法上巻』(青林書院、1963年第1刷、1976年第8刷)157頁 、梅本吉彦『民事訴訟法[第3版]』(信山社、2007年)606頁。
注13 ただし、信託の終了により財産が委託者に帰属する場合に本号を類推適用を肯定する見解もある。
注14 破産管財人が受継後に従前の訴訟代理人を自己の訴訟代理人に選任することは可能であるので、実際上の意味は、新当事者である破産管財人が従前の訴訟代理人に訴訟追行を委ねてよいか否かをチェックする機会を与えることにある。