目次文献略語

民事訴訟法講義

複数請求訴訟 1


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 複数請求訴訟の発生形態


文献
比較法:明治19年(1886年)テッヒョー草案[CL4] 明治23年日本民事訴訟法[CL5]  大正15年改正日本民事訴訟法[CL6] 1895年オーストリー民事訴訟法(最終改正:2010年)[CL2] 1877年ドイツ民事訴訟法(最終改正:2007年)[CL3] 2008年スイス民事訴訟法[CL1]  注:ここに付記した最終改正年は、参照した資料に記載されていたものである。
はじめの一歩

XはYから不動産を買い受けたが、Yが売買契約の無効を主張している。Xは、不動産の引渡しを得たが、所有権移転登記をまだ得ていない。この場合に、

  • Xは、Yに対して、所有権確認請求と所有権移転登記手続請求を1つの訴えでなすことができる(136条。請求の併合)。
  • Xは、Yに対して、所有権確認請求の訴えを提起した後で、所有権移転登記手続請求を追加することができる(143条。訴えの変更(追加的変更)。
  • Xは、Yに対して、所有権移転登記手続請求の訴えを提起した後で、YがXの所有権取得を争う旨の主張をすれば、所有権確認請求を追加することができる(145条。中間確認の訴え)。
  • Yは、Xに対して、その訴訟において、目的物の明渡請求の訴えを提起することができる(146条。反訴)。
  • Yは、Xに対して、その訴訟において、目的物の明渡請求の反訴を提起した後で、所有権確認請求を追加することができる(145条。中間確認の反訴)

(占有)
−(所有権確認請求)→

(登記)
−−(登記手続請求)−→
←−(明渡請求)−−
←(所有権確認請求)−

1.1 請求併合・訴え変更・反訴・中間確認の訴え

同一当事者間において複数の請求が成り立ち得る場合に、請求を異にするごとに訴訟手続を別にしなければならないとすると、次のような不便が生ずる。
そこで、現行法は、同一訴訟手続において複数の請求を併合して審判することを認め(複数請求訴訟)、管轄の点でもそれを可能にするために併合請求の管轄を特に規定した(7条)。ただ、むやみに複数請求を同一訴訟手続で審理すると、かえって審理の混乱と停滞をまねくことがあるので、一定の要件が課せられる。なお、請求の数え方は訴訟物に関する見解により異なるが、ここでは説明の便宜上、判例の立場(旧実体法説)を前提にする。
用語法

請求の併合は、「訴えの客観的併合」(あるいは、略して「訴えの併合」)と呼ばれることもある[1]。

「訴えの客観的併合」の語は、訴えの変更や反訴の提起による複数請求現象を含めた意味で使うことがあるので、請求の併合のみを指す場合には、「訴えの固有の客観的併合」ということがある。

なお、複数請求現象一般を指して「請求の併合」という文献もある(広義の請求の併合)[32]。

複数請求訴訟を発生させる当事者の行為として、次のものがある。冒頭の設例で説明すると、
裁判所の行為として、次のものがある。

1.2 原始的複数と後発的複数

原始的複数
請求併合は、当初から複数の請求について審判を開始させるという点に特色がある。

後発的複数
これに対して、訴えの変更と反訴は、ある請求について審理が進んだ段階で他の請求について審判を開始させるという点に共通の特色がある(請求の後発的複数)。これを広く認めると、次の問題が生ずる可能性があるので、請求併合の要件を満たした上で、さらに一定の独自の要件を満たすことが要求されている。
後発的複数と審級の利益
現行民事訴訟法では、適正な裁判を保障するために、2つの事実審と1つの法律審が用意され、これら3つの裁判所による審判を受ける利益(審級の利益)が当事者に認められている。とはいえ、控訴審は第一審の続審として位置付けられており[19]、審級の利益が絶対的に保障されるわけではない。審級の利益よりも紛争の適切な解決が優先され、請求の基礎が同一である限り控訴審で被告の同意なしに訴えを変更することが認められている(最判昭29・2・26民集8-2-630)。後述の予備的併合や選択的併合の場合に、第一審で裁判されていない請求について控訴審が審判できる場合があるが、これも同様に説明できる。控訴審での反訴の提起については、法文上は相手方の同意が必要となっているが、請求の基礎が同一であるのと同等の範囲では、相手方の同意は必要ないとすべきである([上田*1980a]29頁以下)。

1.3 併合審理

併合審判が強制される場合
ある請求について訴訟が係属している場合に、それに関連する他の請求について別訴を提起するか、それともその訴訟手続内で併合審判を求めるか否かは、通常、当事者の自由に委ねられている。しかし、次の場合には併合審判が要求されている。
弁論の併合・分離・一部判決による調整
複数の請求について併合審判を行うか否かは、処分権主義を妥当させるほどの問題ではない。裁判所は訴訟指揮の一環として、口頭弁論の制限・分離・併合および一部判決により調整することができる。ただし、弁論の分離や一部判決は、関連する請求の一体的審理を破壊し、判決の矛盾をもたらす虞があるので、許されない場合もある。これに対して、口頭弁論の併合あるいは制限は、そのような問題を生じさせないので、広く許されてよい。

2 請求の併合(136条


2.1 意義

同一の原告が同一の被告に対し1つの訴えをもって複数の請求をなす場合を請求の併合という。ここでいう「訴え」は、訴え提起行為を意味する。「1つの訴え」は、1つ(1通)の訴状を裁判所に提出することであるから(133条)、請求の併合が許されるというのは、1つの訴状に複数の請求を記載することが許されるということと同義である。

2.2 要件

請求の併合が許されるためには、次の要件を満たしていることが必要である。

)複数の請求が同種の訴訟手続によって審判されるものであること(136条)。 民事裁判手続は、非訟事件手続法や家事事件手続法などにより規律される非訟事件と、民事訴訟法等により規律される訴訟事件とに大別される。後者は、さらに次のように分かれる。

  1. もっぱら民事訴訟法第1編から第4編により規律される通常訴訟。 以下、この訴訟手続を「通常手続」という。
  2. 第5編の特則の適用を受ける手形・小切手訴訟
  3. 第6編の特則の適用を受ける少額訴訟[21]
  4. 人事訴訟法の適用を受ける人事訴訟
  5. 行政事件訴訟法の適用を受ける行政訴訟

これらの異種の訴訟手続で裁判されるべき請求を併合することは、手続を混乱させるので、許されない(2・3については、各訴訟の要件規定(350条368条)及び反訴禁止規定(351条・369条)を参照)。例えば、離婚請求(人事事件)と嫁入り道具の引渡請求(通常事件)との併合、あるいは、地方自治体に対する行政処分の取消訴訟(行政事件)と納入物品の代金支払請求(通常事件)とを併合することは許されない。

ただし、人事訴訟法も行政事件訴訟法も、別段の定めのない事項については民事訴訟法によることを前提にしており(人訴1条、行訴法7条)、また、審理に関する原則が相違していても、各請求毎に適用される原則(典型的には、弁論主義又は職権探知主義)を使い分けることもできるし、場合によれば、重要性の高い請求に適用される審理原則を他方の請求に拡張することも考えられるので、異種手続により裁判されるべき請求を併合審理することが不可能というわけではない。そこで、人事訴訟法や行政事件訴訟法では、関連性が高い一定の請求(通常訴訟の請求)を併合して審判することの利点を生かすために、それらの併合審理を認める規定が置かれている(人訴17条、行訴法16条1項・38条1項・41条2項・43条)。また、最判平5・7・20民集47-7-4627によれば、係属中の国家賠償請求(民事訴訟)事件に憲法29条3項に基づく損失補償請求(行政訴訟)を追加することも、両者に密接な関連性があるので、訴えの追加的変更に準じて許容される(当該事件では、控訴審で損失補償請求が予備的に追加され、相手方の同意が必要であるとされ、その同意がないことを理由に却下された)。さらに、人事訴訟では、紛争の包括的解決のために、本来なら家事審判の手続によりなされるべき処分(附帯処分)についての裁判の申立ての併合も認められている(人訴32条)。

こうしたことを考慮すると、民訴法136条の解釈としても、(α)通常手続で裁判されるべき請求と別種手続で裁判されるべき請求とが相互に密接に関連していて、(β)両手続の異種性が低い場合には、請求の併合が許されると解すべきであろう。通常手続との異種性が低いのは、行訴法4条後段の実質的当事者訴訟の審理手続である。この訴訟でも職権証拠調べの規定(行訴法24条)が準用されるが(同法41条1項)、同条は、「(行政)処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無」の争点を含む民事訴訟(同法45条のいわゆる争点訴訟)において当該争点について準用されるのであるから、併合審理を妨げるほどの要素と見るべきではない。

なお、通常事件の再審の訴えも通常の民事訴訟手続により審判されるので、これと他の請求とを併合することも許される[3]。

)各請求について日本の裁判所が国際的管轄権を有すること。 日本の裁判所が1つの請求について管轄権を有する場合には、これと密接な関係のある請求については、独立の管轄権を有しなくても、3条の6により管轄権を有する(ただし、同条の適用が3条の10により排除される場合があることに注意)[31]。

)各請求について受訴裁判所が国内的管轄権を有すること。    受訴裁判所が一つの請求について管轄権を有すれば、他の請求についても7条により管轄権を有することになる。ただし、他の裁判所が法定専属管轄を有する請求については7条は適用されないのが原則であり(13条1項)、その原則が適用される限り、その請求の併合は許されない。ただし、特許権等に関する拠点裁判所(大阪地裁と東京地裁)の専属管轄は、拠点裁判所に専門的知識を有する裁判官等を配置するとの政策に基づくものであり、拠点裁判所以外の裁判所との関係では専属管轄とする必要が強いが、拠点裁判所相互間では専属管轄とする必要は弱いので、一方の拠点裁判所は他方の拠点裁判所の専属管轄事件についても管轄権を有するとされている(13条2項。非拠点裁判所との関係では専属的であるが、拠点裁判所相互間では非専属的である)。

)併合が禁止されていないこと、及び、一定の要件(請求間に関連性があること)の下でのみ併合が認められている場合にはその要件を充足すること。 民事訴訟法は、請求間の関連性を要求していない。請求併合の場合には当初から複数の請求について審理が開始されるので、同一当事者間の紛争を包括的に解決する道を開いておくのがよいからである。しかし、行政訴訟では、紛争の迅速な解決の目的等のために、関連性が要求されている(行訴16条1項等)[18]。

2.3 併合の態様

併合された複数の請求の審判について、原告は一定の条件を付すことができる。この条件の有無および条件の内容に従い、併合の態様はつぎの3つに分かれる。

単純併合(並列的併合)
複数の請求のすべてについて無条件に裁判を求める併合態様をいう[2]。原則的な併合態様である。例えば、被告により不法占拠されている建物について、損害賠償請求と明渡請求を併合する場合がそうである。なお、物の給付を請求するとともに、その執行不能の場合にそなえてその価格相当額の請求(代償請求)を併合した場合には、いずれの請求についても認容判決が求められているので、単純併合である(代償請求は将来給付の訴え(135条)となる[9])。

予備的併合[10]
法律上両立しえない複数の請求に順位を付し、先順位の請求が認容されることを後順位請求の審判申立ての解除条件として、それらを併合する場合をいう[4]。併合される請求が2つの場合には、先順位の請求を主位(的)請求、後順位の請求を予備(的)請求あるいは副位(的)請求などという。例えば、売主は、売買契約の有効を前提にして代金支払請求を主位請求としつつ、売買契約が無効と判断される場合を考慮して目的物の返還請求を予備請求とすることができる。この場合に、両請求を単純併合にすると、原告は売買契約の有効を主張しつつ、同時にその無効を主張することになり、主張の矛盾が生じて適当でない。別訴によったのでは、第1訴訟で敗訴した場合に第2訴訟の提起が必要となり最終的解決に時間がかかる上に、代金支払請求訴訟では売買契約は無効であるとの理由で敗訴し、返還請求訴訟では売買契約は有効であると判断されて敗訴する可能性がある(矛盾した理由による二重敗訴)。予備的併合は、こうした問題を解決するために認められた併合形態である。

選択的併合(択一的併合)
同一の目的を有し法律上両立することができる複数の請求を、そのうちの一つが認容されることを他の請求の審判申立ての解除条件とした併合態様をいう。これは訴訟物について旧実体法説に立った場合に必要とされる併合形態である。例えば、賃貸借契約の終了の際の賃貸借契約に基づく返還請求権(原状回復請求権)と所有権に基づく返還請求権とは、請求権競合の関係に立ち、いずれの請求も認容されうる。しかし、判決主文において二重に給付を命ずることは奇妙であり、それを回避するためにこの併合形態が認められている[5]。これに対して、同一の目的を有する請求権や形成権が競合する場合にその同一の目的を獲得する法的地位を訴訟物と考える訴訟法説にあっては、この併合形態を認める必要はない([三ケ月*1995a]98頁以下、[高橋*概論v1]295頁、[長谷部*民訴v2]72頁)。しかし、訴訟法を前提にしても、一般論としてこの併合形態が否定されるというわけではない([中野*1994a] 54頁注42)。

2.4 予備的併合と選択的併合の許容の根拠とその限界

条件付併合の許容の根拠
これら3つの併合態様のうち予備的併合と選択的併合にあっては、原告勝訴の場合にすべての請求が裁判されるわけではない(予備的併合の場合には、主位請求が認容されると予備請求について裁判がなされない)。判決申立てが条件付きだからである。訴訟行為に条件が付されると訴訟手続が不安定になるので、条件を付すことができないというのが原則であるが、予備的併合あるいは選択的併合という条件付訴訟行為[20]は、次の理由により許される。
被告から見れば、裁判されなかった請求について勝訴判決を得る機会を奪われたことになるが、そのことによる不利益は、次の事情により小さい。このことも、許容根拠として付加されるべきである。
このことを前提にして、これらの併合形態の許容範囲がどこまで拡張可能かが問題となる。

予備的併合が許される場合の拡張
予備的に併合された請求は、法律上両立しえない関係(排斥関係)にあることが本則である[6]。その他の場合に予備的併合が許されるかについては、次のように見解が対立している。
  1. 併合される請求権が排斥関係にある場合に限定する説([高橋*概論v1]295頁、[伊藤*民訴v5]615頁)[24][30]。
  2. 請求権競合の場合のように同一の目的に向けられた両立しうる請求が併合された場合(選択的併合に親しむ場合)にも許されるとする説。  旧実体法説をとる判例は、この立場である[11]。新訴訟物理論に従えば、同一の目的に向けられた両立しうる請求権・形成権は単一の訴訟物を構成する(単一の訴訟物の構成要素になる)ので、この見解の採否を問題する余地はない。
  3. 請求の基礎が同一(審理対象が共通)で、再訴の可能性が少ない場合に許されるとする説([大久保*1996a]166頁。これに明確に反対する見解として、[梅本*民訴v4]725頁がある)[8]。
  4. 原告の意思を尊重して限定を付さない説(無限定説。[榊原*1984a]312頁以下、[池田*1998a]136頁。[八木*2014a]161頁以下は、裁判所はこの方向にあるとする;特に、164頁注12参照)。

訴訟物につきどの見解をとるかに従い、A説ないしB説を支持してよい。すなわち、
)新訴訟物理論を前提にするときには、A説を支持すべきことになるが([高橋*概論v1]295頁参照)、旧訴訟物理論を前提にするときには、選択的併合に親しむ請求を予備的に併合することも肯定してよく、B説を支持すべきである。この場合にも予備的併合を許容する根拠が妥当し、それを望む原告の意思を尊重するのがよいからである。もっとも、これを前提にしつつも、主位請求について認容又は棄却の判断をするよりも予備請求について認容の判断をするのが容易であり、かつ、原告が主位請求により求める利益と予備請求により求める利益とに実質的な差異がない場合に、原告の意思をどこまで尊重すべきかは問題である。そのような場合に、裁判所が予備的併合から選択的併合に変更することを原告に促すことは許されよう(原告がそれに応じなければ、それまでである)[23]。なお、[伊藤*民訴v5]615頁は、「訴えの目的たる利益の内容に差が存在するために、審判の順序について原告の選択権を認めることが合理的と考えられる」ことを予備的併合が許容されることの根拠とする。この根拠を貫徹するならば、請求権競合の関係にある請求の予備的併合は否定されよう。

請求権競合の関係にある複数の請求権の間には、要件と効果の点で差異があり(例えば、消滅時効期間の長短、除斥期間の有無、証明責任の分配、相殺の可否)、予備的併合を選択した原告の意思を尊重すべきか否かの判断の差異に考慮されるべきである。判決でいずれが認められるかは、その後の法律関係の展開に影響を与えることもある。ここでは、効果の点の差異をいくつか指摘しておこう。
)他方、単純併合に親しむ請求については、予備的併合を認めるべきではない(大阪高判昭49・7・22判時757-76、福岡高判平成8.10.17判タ942-257。[高橋*概論v1]295頁)[16]。D説にあっては、予備的併合の許容根拠(被告が不当な不利益を受けないこと)が妥当するとは言い難いからである。C説は、「再訴の可能性が少ないこと」を要件に加えることにより被告の立場にも配慮しているが、ただ、「少ない」という言葉を含むこの要件は明確性を欠き、この要件を追加してまで予備的併合の許容範囲を拡張する必要があるとは思われないからである。

こうした併合は、実際には時折見られることであるが、その弊害は主位請求認容の控訴審判決を上告審が破棄して主位請求を棄却する場合に、顕著に表れる。上告審は予備的請求の審理のために事件を原審に差し戻すことになるからである。実例として、最高裁判所平成28年10月18日判決がある(不法行為を理由とする損害賠償請求が主位的に、その前提となる義務の確認請求が予備的に併合された事例である。この併合が許されるのであれば、所有権侵害を理由とする損害賠償請求あるいは所有権に基づく返還請求を主位とし、所有権確認請求を予備とする併合も許されることになるはずであるが、それは不当であろう)。ただし、請求の内容たる権利関係の主張は両立しうる場合でも、一方が適法であれば他方は不適法とされ、一方が不適法とされれば他方が適法とされる関係にあり、一方が適法とされるか否かが明瞭でないときには、予備的併合を許してよい [33]。

単純併合に親しむ請求が予備的に併合された場合の処理  問題は、この場合の処理である。次の2つの選択肢が考えられる。
  1. 予備請求に付された条件部分のみを無効とし、単純併合として扱う(一部無効)([新堂*新民訴v5]750頁、[梅本*民訴v4]726頁)。
  2. 予備請求自体を不適法なものとして却下する(福岡高判平成8.10.17判タ942-257)。

条件付であるとはいえ原告が本案判決を求めている点を重視すると、裁判所は条件部分のみを無効として、できるだけ本案判決をするのがよく(二重起訴の禁止に触れる訴え等の場合と同じである)、A説が好ましい[14]。これに従えば、裁判所は、予備請求部分についても申立手数料の納付を命じ、納付がなければ、そのことを理由に訴えを却下する(原告の意思確認の機会となる)。原告が予備請求部分について申立手数料を納付した場合でも、裁判所は、必要に応じて弁論の分離や17条による移送をすることができるのは当然である。しかし、A説をとったのでは、主位請求も予備請求も認容されるべき場合に、原告も被告も望んでいない結果となる。このような不当な条件を付すこと自体を抑圧するために、B説をとるべきであろう。本来ならば、予備請求に係る訴えはただちに却下してよいはずであるが、ただ、2つの請求について判決要求が条件関係で結ばれていることには変わりはなく、上級審でどのように判断されるかわからないことを考慮すると、予備請求についての訴えのみを先に却下してその後に主位請求について審理裁判するのは適当ではなく、両者について1個の全部判決をすべきである。ただし、予備請求は不当な条件が付されていることを理由に却下される運命にあるのであるから、裁判所は、そのことを前提にして、本案の弁論を主位請求のみに制限すべきである。第一審が主位請求を認容して予備請求に係る訴えを却下したが、控訴審は、主位請求を棄却すべきであると判断し、予備請求については第一審と同様に予備的併合の要件を充足しないと判断した場合には、原判決中の被告敗訴部分のみを取り消して主位請求を棄却し、予備請求について本案の判断をすべきでない(原告が予備的に附帯控訴を提起して予備請求の認容を求めている場合には、附帯控訴を棄却すべきである)。とりわけ主位請求と予備請求とが請求の基礎を同じくしない場合には、この措置をとらなければならない(この場合に控訴審が予備請求について本案判決(請求認容判決)をすることは、被告の審級の利益を害することになり、不当である)。 もっとも、請求の基礎が同一である場合に、原告が控訴審において予備請求に付されていた条件を撤回して単純併合とすることは、控訴審における訴えの変更の一種として許容される(143条1項ただし書に抵触しないことも必要であり、手数料も追納しなければならない)。
 

)選択的併合が許される範囲の拡張
選択的併合は、伝統的に、同一の目的に向けられた法律上両立することができる請求について認められてきたが([兼子*体系v3]367頁)、次の2つの方向の拡張傾向がある(このような拡張に消極的な見解もある[26])。

2.5 併合請求の審判

併合要件の調査
併合された各請求についても一般の訴訟要件の具備が要求される。それを欠くときには、裁判所は、訴え却下あるいは移送の措置をとる。その他に、併合要件も具備されなければならず、これも職権調査に服する(多数説は、これを特別の訴訟要件と位置づける)。ただし、併合要件のみの欠如の場合には、裁判所は、原告の意思に反しない範囲で、可能な限り独立の訴えとして扱い、必要に応じて弁論を分離し、あるいは管轄裁判所に移送する(大判昭10・4・30民集14-1175、[鈴木*1988a]229頁以下、[伊藤*民訴v5]616頁)。抗告訴訟に関連請求が併合されている場合に、基本となる抗告訴訟が却下されるときにも、関連請求は独立の訴えとして扱うことを原則とすべきである(福岡地判平成15年7月18日労働判例859号5頁)。もっとも、単純併合に親しむ請求を予備的併合にした場合のように、併合された請求に付された条件が違法であるために、予備請求の訴えが不適法として却下されるべき場合もある。

審理・裁判
併合された請求は、その後に弁論の制限あるいは分離がなされなければ、同一の訴訟手続で審理裁判される。争点整理、弁論および証拠調べは、すべての請求に共通になされる(最判昭41・4・12民集20-4-560[昭41・42年度重要判解]、最判昭43・11・19民集22-12-2692)。弁論が特定の請求に制限された場合でも、分離されなければ、そこで得られた資料は他の併合請求の裁判資料となる。

発展問題
以下では、民事訴訟手続によって審理裁判されのが本来である請求を「民訴請求」と呼び、行政訴訟手続あるいは人事訴訟手続によって審理裁判されのが本来である請求を「行訴請求」あるいは「人訴請求」と呼ぶことにしよう。
人事訴訟手続における民訴請求の審理   例えば、離婚請求と離婚の原因となった行為による損害の賠償請求(民訴請求)とが併合審理される場合には、(α)前者については人事訴訟法の特則が適用され(特に人訴法19条による民訴法157条・179条中自白に関する部分等の適用が排除され)、後者についてはその特則の適用はないことが原則となるが、(β)そのような処理が適切でない場合には、人事訴訟の特則がいずれの請求にも適用されることになる(民訴請求は、人事訴訟手続において付随的に審理裁判されることが重視されるべきである)。

すなわち、弁論主義の基本に関わる問題については、両請求は区別して扱われることになる。 (α1) 人訴請求について裁判所が職権で斟酌する主要事実が民訴請求の主要事実にも当たる場合に、その事実を後者についての裁判の基礎資料とするためには、当事者からの主張が必要であると解すべきである。(α2) 自白の拘束力の排除に関しては、民訴請求も人事訴訟手続において併合審理される以上、排除原則に全面的に服するとの見解([三ケ月*1959a]130頁)と、両請求に共通する主要事実に限定して民訴請求にも排除原則が適用されるとの見解([河野*民訴]656頁)とが対立している。しかし、同じ事実についての自白であっても、そのもつ意味は離婚請求と損害賠償請求とでは異なり、損害賠償請求が私的自治の範囲内に属する請求である以上、その裁判の基礎資料について当事者の処分権を尊重してよく、例えば、被告による不貞の事実が自白された場合に、離婚請求との関係では裁判所が証拠調べの結果その事実を否定して離婚請求を棄却し、損害賠償請求との関係では自白の拘束力によりその事実を前提にして賠償請求を認容することも許されるべきであろう(似たような現象は、同じ不貞行為が、離婚原因となるには足らないが、損害賠償請求権を発生させるのに足るものであると評価される場合にも生ずることであり、異とするに足らない)。人訴法19条1項による民訴法159条1項の適用排除についても、同様である。(α3) 人訴法20条による職権探知は、人訴請求の裁判に必要な範囲でのみなされるべきである。

他方、次の事項は、両請求に共通させてよいであろう。(β1)人訴法22条による当事者尋問等の公開停止がなされた場合に、そこで得られた証拠資料は民訴請求についての裁判の基礎資料になるとすべきである。(β2)職権証拠調べにより得られた資料については、当事者を異にする場合にも認められている証拠共通の原則の趣旨(裁判所が認定する事実は一つとすることが裁判所の負担軽減になる)に鑑み、それも民訴請求についての裁判の基礎資料にもなるとすべきである(民訴法247条の解釈問題である)。(β3)人訴法19条1項により適用が排除されている民訴法207条2項・208条・224条・229条4項は、事実の認定に関するものであり、離婚請求と共通する事実については、損害賠償請求にもそれらの適用は排除され、適用排除を前提にして裁判所が認定する事実が後者の請求についての裁判の基礎資料になる。特に、人訴法19条1項による民訴法207条2項(当事者尋問の補充性)の適用排除は、同項の規定自体がそれほど厳格ではなく(同項ただし書参照)、また離婚の特質に鑑みれば、離婚に伴う損害賠償請求にも及ぶと解すべきである。(β4)損害賠償請求を離婚請求から分離して裁判することは、通常は適切ではなく、そのことを前提にする限り、人訴法19条1項による民訴法244条の適用排除は、損害賠償請求にも及ぶ。(β5)人訴法19条1項による、民訴法157条・157条の2の適用排除を損害賠償請求に及ぼすべきかは迷うが、損害賠償請求と離婚請求とは一体的に審理裁判する必要性が高いと思われ、また、手続進行の問題であり、弁論主義の問題ではないことを考慮すると、これも損害賠償請求にも及ぼすべきである。

民事訴訟手続における行政処分等に関する争点の審理   行政事件訴訟法の領域では、「私法上の法律関係に関する訴訟」(人事訴訟も含まれうるが、ここでは民事訴訟のみを想定する)において、「(行政)処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合」に、その争われている事項を「争点」と呼び、その民事訴訟法を「争点訴訟」という(「争点」だけではわかりにくい場合があるので、以下では「行政処分等に関する争点」ともいうことにする)。争点訴訟における争点の審理を行訴法45条が規定している。当該処分又は裁決をした行政庁は、争点訴訟に参加することが認められている(同条1項による23条1項の準用。訴訟参加した行政庁の訴訟行為について45条2項が規定し、争点について争いがなくなった場合に裁判所が参加の決定を取り消しうることを3項が規定している)。

また、行政庁が訴訟参加したか否かにかかわらず、行政処分等に関する争点の審理について、次の特則(行訴法の規定の準用)が規定されている(同条4項)。
訴訟参加した行政庁が行政処分等に関する争点について提出した攻撃・防御方法のうち事実と証拠をその他の争点との関係でどのように扱うべきかが問題になる。その他の論点との関係では当事者からの援用が必要とすることも考えられるが、援用を要しないとしてよいであろう。なぜなら、(α)弁論主義は判決の基礎資料の収集に関する裁判所と当事者との間の役割分担を定めるものであり、訴訟参加した行政庁は裁判所ではないから、行政庁が提出した事実と証拠も当事者から提出されたものと同様に扱ってよい;(β)行政処分等に関する争点もその他の争点も同一の民事請求について生ずる争点であり、前者のために行政庁が提出した事実と証拠をその他の争点の判断に用いるためには当事者からの援用が必要であるという形で分けると裁判所の判断作業に負担がかかることになり、その負担を生じさせてまで分けて取り扱う必要があるとも思えないからである。

行訴法23条の2・24条は、行政処分等に関する争点について準用されるのであるが、得られた資料は、民訴請求の判決の基礎資料としても用いることができると解すべきであろう。職権証拠調べの結果については、裁判所の負担軽減のために、「認定される事実は一つ」の原則が適用されるべきだからである。釈明処分の結果得られた事実は、それが民訴請求の主要事実である場合には、当事者からの主張が必要であるが、間接事実である場合及び弁論の全趣旨の一部として事実認定の資料として用いる場合には、当事者からの援用は必要ないとしてよいであろう(合理的な事実認定を行うために、民訴法151条の釈明処分についてそのように解すべきであり、行訴法23条の2の準用による釈明処分もこれと同様に取り扱ってよいからである)。

民事訴訟手続における行政請求の審理   前述のように、民訴法136条の解釈として、(α)通常手続で裁判されるべき請求と別種手続で裁判されるべき請求とが相互に密接に関連していて、(β)両手続の異種性が低い場合には、請求の併合が許されるとの立場にたつと、例えば、民事訴訟手続において民訴請求とともに、行訴請求のうちの一部のもの(行訴法4条後段に該当する請求)を併合して審判することも、許容すべきことになる。行訴法41条で当事者訴訟にも同法24条が準用されているので、民事訴訟手続において実質的当事者訴訟の請求を審理する場合にも同条の準用を肯定すべきである。行訴法45条が争点訴訟について同条の準用を明示的に規定しているのであるから、問題はなかろう。得られた証拠資料は、(b)の場合と同様に、民訴請求の関する事実の認定のためにも用いることができる。

2.6 単純併合の審判

裁判所は、すべての請求について判決をしなければならない。一部の請求について判決を脱漏すれば、追加判決をしなければならない(258条1項)。弁論の分離や一部判決は可能であり、それをするか否かは裁判所の裁量に委ねられている(通説)。ただし、先決関係にある請求あるいは基本的法律関係を共通にする請求が併合されている場合に、それらの弁論を分離することは不適切である[13]。また、分離審判が重複起訴の禁止規定(142条)等の趣旨に反する場合には、分離審判は許されない。

1つの判決に対して上訴が提起されると、判決全体の確定が遮断され、判決されたすべての請求が上訴審に移審する(上訴不可分の原則)。このことは、両当事者が一部勝訴・一部敗訴の場合に、相手方に附帯上訴の機会を与えるために重要である。一部判決がなされた場合には、そこで裁判された請求と残部判決で裁判される請求とは分離され、各判決に含まれる請求のみがその判決に対する上訴により移審する。

2.7 予備的併合の審判

すべての請求が条件関係で結ばれているので、一括して取り扱われる。弁論の制限は許されるが、分離は許されない。裁判所は、(α)先順位の請求について認容すべきであるとの判断に達すれば、後順位の請求について裁判できない(大判昭16・5・23民集20-668)。他方、 (β)先順位請求を排斥する場合には、後順位請求についても裁判しなければならない(最判昭38・3・8民集17-2-304)。いずれの場合も、判決は1個の全部判決である。 併合された請求を個別に棄却する一部判決は許されない([野間*1954a]243頁)[7][22]

上訴が提起されると、判決主文において判断されていない請求を含むすべての請求が上訴審に移審する。主位請求認容判決に対しては被告のみが控訴の利益を有し、控訴審が主位請求を棄却すべきものと判断すれば、原判決を取り消して主位請求を棄却した上で、一審判決のない予備請求について裁判することができる(大判昭11年12月18日民集15巻2266頁[百選*1965a]27事件[29]、最判昭33年10月14日民集12巻14号3091頁[百選*1998b]A49事件)。控訴審が予備請求を認容する場合に、予備請求についてはまだ判決による応答がないから(予備請求についての判決は訴えに対する応答になるから)、原告からの附帯控訴(293条)は必要ない。

他方、主位請求棄却・予備請求認容の第一審判決に対しては、原告・被告の双方が控訴の利益を有する[15]。この判決に対して被告のみが控訴を提起し、原告が控訴も附帯控訴も提起しなかった場合の取扱いについては、議論が分かれている([栗田*1995a]278頁以下、[石渡*2008a]参照)。

 ()判例・多数説は、審判の対象となるのは予備請求に関する部分のみであり、主位請求に関する部分は対象とならないとする(上告に関して最判昭54・3・16民集33-2-270、控訴に関して最判昭58・3・22判時1074-55。[伊藤*民訴v5]617頁[石渡*2008]47頁、[坂本*2014a]719頁以下。学説の状況は[石渡*2008]38頁以下が詳しい)。これに従えば、控訴審が予備請求を棄却して主位請求を認容すべきであるとの判断に達しても、原判決中の予備請求認容部分のみが取り消されてその棄却判決が下され、原告全面敗訴の結果となる。これを避けるためには、原告は附帯上訴を提起して、主位請求棄却部分の取消しを明示的に申し立てておかなければならない(予備請求認容の一審判決が維持されることを解除条件とする予備的附帯控訴でもよい[17])。

 ()上記の結果を不当とする立場からは、原告からの明示的な不服申立てがなくても上訴審が主位請求部分を裁判できるようにするために、次のような法律構成が主張されている。

  1. 「私的紛争の合理的解決」のための例外的措置としてこの部分は上訴審の審判対象となる(最判昭54・3・16の大塚裁判官意見、鈴木正裕・判評258号170頁)。
  2. 予備的併合訴訟の特性から、予備的関係で結ばれた複数請求についての判決は一個不可分の判決であり、不服申立てはその全部に及び、上訴審は主位請求部分を含めて原判決全体を取り消し又は破棄すべきである([小室*1970a]121頁)。
  3. 予備的併合をした原告の意思に基づき、主位請求部分も上訴審の審判対象となる([新堂*1981a]354頁)。
  4. 被告からの控訴に対して原告がなす控訴棄却の申立ては、原判決で認められた利益を維持したいとの意思の表明であるから、これと異なる意思が明示されていなければ、控訴棄却の申立ては、予備請求が棄却される場合には原判決の主位請求棄却部分を取り消してその認容判決を求めるとの意思(予備的附帯控訴)を含むものと解釈するのが合理的である。その趣旨を含む控訴棄却の申立てに基づき、主位請求部分が上訴審の審判対象となる(栗田。岡庭幹司[百選*2010a]237頁は、解釈論としての可能性を肯定しつつも、審判対象が異なるから、多数説が説くように、附帯上訴を促す釈明をすべきではないかとする)。

2.8 選択的併合の審判

すべての請求が条件関係で結ばれているので、一括して取り扱われる。弁論の分離は許されない。審理しやすい請求から順次審理するために弁論を制限することはできる。裁判所は、一つの請求について認容すべきであるとの判断に達すれば他の請求について判断する必要はない。原告を敗訴させるためには、すべての請求を審理して棄却しなければならない。いずれの場合も、判決は1個の全部判決である。併合された請求を個別に棄却する一部判決は許されない。

一部認容の場合  乙請求と選択的に併合されている甲請求の一部が認容され残部が棄却される場合に、乙請求は、(α)甲請求の一部認容と重なる部分と(β)その余の部分とに分かれる。選択的併合の付された条件に従えば、前者(α)については判決要求は撤回されたことになる。しかし、後者(β)については、判決要求の撤回がないので、裁判が必要である(通常、この部分は棄却され、これも「原告のその余の請求を棄却する」の中に含まれる。もし認容するのであれば、乙請求を全部認容して、甲請求については裁判せずにおく)。

上訴審での審判  上訴が提起されるとすべての請求が上訴審に移審する。請求認容判決に対して控訴が提起され、控訴審が第一審の認容したα請求ではなく別のβ請求を認容すべきであるとの判断に達した場合の取扱いについては、次の2つの選択肢がある。

  1. 控訴審はβ請求を認容するだけでよく、原判決を取り消す必要はない([伊藤*民訴v5]616頁注11)。理由:
    • β請求が認容されることにより、α請求についての審判申立ての解除条件が成就し、α請求を認容した原判決は当然に失効する。
  2. 原判決を取り消した上でβ請求を認容する。理由:
    • α請求を認容した原判決が効力を失ったことを明確にすべきである。
    • 原判決が存続する以上β請求について審判する必要はなく、β請求について判決する前提としてα請求を認容する判決の取消しが必要であると考えるのが、選択的併合に付された条件に適合する。

B説が妥当と思われるが、判例はA説である。上告審が自判する場合も、同様である(最判平成1年9月19日 判時1328号38頁)。

原審が認容した請求以外の請求については判決がまだなされていないので、上訴審がその請求を認容するにあたって、その請求の認容を求める原告からの控訴や附帯控訴は必要ない。予備的併合の場合と異なる点である。ただし、原判決が一部認容判決の場合には、被告のみが控訴し原告からの控訴・附帯控訴がなければ、不利益変更禁止原則が適用され、控訴審は別請求の全部に理由があると判断する場合でも、原判決の認容額の範囲内で別請求を認容する(最判昭58年4月14日 判時1131号81頁)。第一審が甲請求の一部を認容して残余を棄却した場合に、棄却部分について原告が不服申立てをしなければ、いずれの請求の棄却部分も控訴審の審判対象にならない。したがって、控訴審が甲請求は全部棄却されるべきであると判断したときには、乙請求のうち甲請求の認容部分と選択的併合の関係にある部分についてのみ裁判する(上告審に関するものであるが、最高裁判所 平成21年12月10日 第1小法廷 判決(平成20年(受)第284号)参照)。

仮執行がなされていた場合  第一審判決に仮執行宣言が付されていて、仮執行がなされた後で上訴審がそれとは別の請求を認容する場合に、原状回復および損害賠償が命じられうるかが問題となるが(260条2項)、ここで重要なのは目的であって手段としての請求権ではない。控訴審で認容される請求と第一審で認容された請求が同一の目的に向けられている限り、260条2項の適用はないと解すべきである。


目次文献略語
1998年7月25日−2019年2月23日
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