目次文献略語
民事訴訟法講義

判決の効力 4


関西大学法学部教授
栗田 隆

10 定期金賠償判決の変更の訴え(117条


制度の趣旨
人身損害の賠償請求においては、判決の具体的内容の確定のためには、原告に生じた損害額を算定しなければならない。その算定の基礎を現在の時点で確定あるいは予測することが困難である場合がある。その場合には、定期金の形で賠償の支払を命じつつ、損害額の算定の基礎とした事項に著しい変更が生じた場合には、そのことを理由に賠償額を変更する柔軟な賠償金支払制度が必要となる。117条は、この要請に応えようとするものである。

法的性質
この判決の法的性質については、基本的な結論に差異をもたらさない次の3つの見解がある([竹下ほか*1996a]1112号121頁以下参照)。

いずれの見解をとるにせよ、実質的な議論は、原判決で考慮されたのとは異なる事態が生じた場合に、原判決による紛争解決を部分的に放棄して新しい事態に即した新たな紛争解決を図ることをどの範囲で認めるかと言うことであり、既判力の時的範囲・客観的範囲の問題が主たる論点となる。

変更の範囲は、訴え提起の日以後に支払い期限が到来する定期金に係る部分に限定され、また、変更前の判決と変更後の判決とで内容が共通する範囲では、判決主文の構成のいかんに関わらず、変更前の判決の正当性は維持される。定期金の増額を求める場合には、原判決で裁判された請求の趣旨の拡張を伴う。

適用範囲
具体的な適用範囲をみておこう。(a)この訴えは、過去の不法行為に基づく既発生の損害の賠償を命ずる場合に限られる。将来の不法行為に対する損害賠償については、追加請求が認められているので、本条の対象外となる。(b)人身事故のため介護が必要となった場合の介護費用は、定期金賠償によく親しむ。物価の上昇による介護費用の上昇は、判決変更の理由となる。(c)他方、被害者がその事故とは別の原因で死亡した場合には、死亡後に要したであろう介護費用は、人身事故による損害として請求することができない(最高裁判所 平成11年12月20日 第1法廷 判決(平成10年(オ)第583号))ので、死亡は、給付請求権の消滅事由となる[1]。変更の訴えによるまでもなく、請求権消滅を請求異議の訴え等により主張できる考えるべきであろう。


11 外国裁判所の確定判決の効力(118条


外国判決については、それが確定したことを前提にして、その内容的効力が日本で承認されるための要件が118条で定められている。 日本の裁判所の判決手続において確定した外国判決の存在が主張されると、受訴裁判所はその外国判決が承認要件を満たしているかを判断し、満たしていればその外国判決の効力を前提にして裁判をする(別段の手続は必要ないので、「自動承認の原則」と呼ばれる)。しかし、その外国判決により日本で強制執行をするためには、外国判決で認められた請求権ないし義務について強制執行をすることができる旨の判決を得ておくことが必要であり、その判決を執行判決という。執行判決請求手続の中では、承認要件が充足されているか否かを判断し、請求権ないし義務の存否は判断しない(執行手続の中で承認要件の充足を判断するのは適当ではないので、判決手続の中で承認要件の充足を判断し、その判断を執行判決にして執行機関に伝えることにしているのである)。債務名義となるのは、「確定した執行判決のある外国裁判所の判決」であり(民執法22条6号)、外国判決と日本の執行判決とが合体して債務名義になると解されている(合体説。ただし、異説もある)。

判決の確定(柱書き)
外国判決の確定は、日本法と同等の意味での確定であり、通常の不服申立手段が尽きたことを意味する。何が通常の不服手段であるかは、日本の上訴制度の比較により決せられる。確定したことの証明方法は、いわゆる確定証明書の提出に限られない。
裁判管轄 複数の裁判所の存在を前提にした、裁判権行使の分担の定め。
国内裁判管轄  一つの国の中での裁判権行使の分担の定め
国際裁判管轄  各国の裁判所が裁判権を行使することができる事件の範囲
直接管轄  各国が定めている自国の裁判所の国際裁判管轄(自国の裁判所が裁判権を行使することができる事件の範囲の定め)
間接管轄  外国判決の承認の要件要素としての国際裁判管轄


当該外国の裁判権(国際裁判権)(1号)
直接管轄を定める際の考慮要素と、間接管轄を定める際の考慮要素とは酷なる。すなわち、直接管轄が問題になる場合には、原告に救済を与えることの必要性が重視される。他方、間接管轄が問題になる場合には、外国の裁判所に提起された訴訟について、被告が十分に応訴することができなかった場合があり、その場合に不当な判決に拘束される不利益を被告に負わせてよいかが問題となり、また、外国判決の承認を求める原告は、我が国において再度本案の訴えを提起することもできる。したがって、間接管轄の範囲(日本が判決承認国になる場合に外国裁判所に認められる国際管轄の範囲)と直接管轄の範囲(日本が判決国となる場合の国際裁判管轄の範囲)とが異なることになっても、それはやむを得ないことであり、通常は、間接管轄の範囲は直接管轄の範囲よりも狭くなる。ただ、両者が異なりすぎると、自国中心主義の身勝手な管轄設定と批判されることになるので、両者の相違が少ない方が好ましいことは確かである。間接管轄については、直接管轄のような詳細な規定はなく、1号の「外国の裁判所の裁判権が認められること」の解釈により定められることになる。

この点について、最高裁は、次のように説示している:「人事に関する訴え以外の訴えにおける間接管轄の有無については,基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきものである」(最高裁判所 平成26年4月24日 第1小法廷 判決(平成23年(受)第1781号))。判例を挙げておこう
被告が外国裁判所において管轄権不存在や仲裁合意の存在を主張することなく本案について応訴すれば、それにより応訴管轄が生じ、それが間接管轄として認められることはある。しかし、被告が外国裁判所においてこれらの主張をしただけの場合には、応訴管轄を肯定することはできない。これらの主張をしつつ、それが認められない場合に備えて本案の主張をした場合でも、同様とすべきであろう。次の先例がある。

訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(2号)
我が国の民事訴訟手続に関する法令の規定に従ったものであることを要しないが、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない(公示送達[2]やこれに類する送達は、この要件を充足せず、法文上も除外されている)。のみならず、裁判上の文書の送達につき、判決国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではない。被告が「応訴したこと」とは、いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が防御の機会を与えられ、かつ裁判所で防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合もこれに含まれる。被告が日本人であるか否かは重要ではない。

我が国の公序良俗に反しないこと(3号)  判決内容のみならず訴訟手続も日本の公序良俗に反しないことが必要である(判決の成立についても、3号の適用がある。最高裁判所 昭和58年6月7日 第3小法廷 判決(昭和57年(オ)第826号))。外国判決の承認に関して特に問題となるのは、アメリカ合衆国内の裁判所が下した懲罰的損害賠償を命ずる判決である。懲罰的損害賠償を命ずる部分は、日本の公序に反するので承認されない(最高裁判所 平成9年7月11日 第2小法廷 判決(平成5年(オ)第1762号))。しかし、訴訟費用の負担についてどのように定めるかは、各国の法制度の問題であって、実際に生じた費用の範囲内でその負担を定めるのであれば、弁護士費用を含めてその全額をいずれか一方の当事者に負担させることとしても、民訴法118条3号所定の「公の秩序」に反するものではない(前掲最判平成10年)。

相互の保証があること(4号)
当該判決等をした外国裁判所の属する国において、我が国の裁判所がしたこれと同種類の判決等が、同条各号所定の要件と重要な点で異ならない要件の下で効力を有するものとされていることを意味する(判決国承認要件が118条条の要件と同等又はそれより緩やかであることは必要ない。前掲最判昭和58年)。

外国判決の効力が判決手続内で問題になる限りは、判決手続内で承認要件の存否を判断すれば足りる。しかし、外国判決に基づいて執行する場合には、執行手続内で承認要件の存否を判断することはできず、予め執行判決と呼ばれる特別の判決を得てこれと当該外国判決とが一体となって強制執行の基礎となる債務名義になる(民執24条)。


12 決定及び命令(119条−120条)


決定及び命令は、相当と認める方法で告知することにより効力を生ずる(119条)。ここで言う効力は、内容的効力を含む(内容に応じて、執行力や形成力がある。しかし、既判力はない)。

告知にあたっては、ファクシミリ送信等の相当な方法を用いることができる。ただし、即時抗告に服する裁判は、即時抗告期間の起算点を明確にするために、送達の方法により告知されるのが通常である。多数の者が利害関係を有する裁判については、即時抗告の起算点をそろえる趣旨で、言渡しの方法で告知すべきものとされているものもある(例:民執69条の売却許可決定・不許可決定)。

12.1 内容的効力

決定・命令の本来的効力(内容的効力)は、裁判内容に従い様々であるが、実体法上の権利関係の存否を判断する内容のものであっても、既判力あるいはこれに類する拘束力は認められないのが原則である。もっとも、特別の規定があれば、それに従う(例えば破産法131条2項[2])。

決定・命令の内容的効力は、判決の場合と異なり、告知の時に生ずるのが原則である(119条はこの趣旨である。その理由は、通常抗告に服する裁判については、確定を観念することができないので、一律に告知の時を内容的効力の発生時とするのが便宜にかなうからである([鈴木*1985c]314頁)。即時抗告に服する裁判についても同様である。これを前提にして、334条1項が、即時抗告に服する裁判の内容的効力は即時抗告により停止されるとの原則を定めている[3] 。もっとも、個別規定により、≪決定の内容的効力が決定の確定時に生ずる≫との例外が定められていることがある。この趣旨の例外が明示的に規定されている例は、民事執行法に多い(民執83条5項など)が、民事訴訟法の中からは、92条5項を挙げることができる。また、移送の裁判に関する22条3項もこの例に含めることができる(移送決定の内容的効力は、訴訟係属の遡及的移転という訴訟手続上の形成的効力であり、それが移送決定が確定したときに生ずると規定されている)。

12.2 形式的効力

不可撤回性の効力(自己拘束力)
判決には、形式的効力の一つとして、不可撤回性の効力が認められているが、決定や命令は、どうであろうか。判決手続の中でなされる裁判を中心に見ていこう。
訴訟指揮の裁判  これについては、120条により、いつでも取り消すことが認められているので、不可撤回性の効力はない(120条以外にも、個別に取消しを認める規定がある。例えば、54条2項・60条2項・152条1項末尾・172条)。もっとも、
訴訟指揮の裁判以外の裁判  訴訟指揮の裁判以外の裁判とは、当該審級における訴訟手続を終了させる裁判である。例えば、移送決定(16条以下)や訴え却下の決定(141条1項)、訴状却下命令(137条3項)。これらについては、いつでも取り消すことができるとするのは適当ではなく、また、120条の「訴訟指揮に関する」の要件を満たさないので、同条の適用はない。しかし、抗告が許されるものについては、333条が原裁判所(抗告対象である裁判をした裁判所)自身による更正(変更)を許しているので、その範囲で、不可撤回性の効力はないと言うことができる(即時抗告に服する命令についても同様である)。

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1999年12月23日−2014年6月1日