注1 「訴えの客観的併合」における「訴え」を136条の意味での「訴え」と理解すると、混乱が生ずる。前者は複数(併合されるものであるから複数)であり、後者は法文に明示されているように単数だからである。前者の意味での「訴え」は、請求、あるいは、請求ごとに観念される判決要求としての訴えである(併合された一部の請求について訴えを却下する場合の主文につき、[八木*2014a]159頁注7参照)。そこで、この講義では、「訴えの併合」という用語はできるだけ避けて、「請求の併合」という用語を用いることにする。旧人事訴訟手続法7条では「訴えの併合」という用語が用いられていたが(なお、民執法38条も参照)、現行人訴法17条の見出しでは「関連請求の併合」の表現がとられている。
注2 両立しない請求に順位を付けて、それらを単純併合することも理論的には可能である(順位指定付単純併合ないし並立的予備的併合。[谷口*1987a]179頁)。しかし、客観的併合の場合にはその必要性が少ないため、実際には行われていない。
注3 [注釈*1994a]136頁(田邊)。再審の訴えの特殊性を考慮すると、再審請求と他の一般の請求との併合を認めるのは適当ではない場合がありうる。しかし、これは、弁論の分離により対処すれば足りよう。ただし、上訴審に再審の訴えが提起される場合(340条)に、他の請求を併合することは、その請求についての被告の審級の利益を奪うことになるので、原則として許されない([野間*1954a]230頁)。しかし、この場合でも、再審に係る請求とその基礎を同一にする範囲内では、再審決定がなされることを条件に、他の請求の併合審判の申立ても許してよいであろう。
注4 一般にこのように言われているが、後順位請求の弁論については先順位請求の認容が解除条件となり、裁判については先順位請求の棄却・訴え却下が停止条件となるとの見解もある([野間*1954a]246頁)。また、予備的請求に関する審理(訴訟係属)は主たる請求の認容判決の確定を解除条件とし、判決は主たる請求の棄却を停止条件とするとの見解もある([大久保*1996a]168頁)。
注5 なお、民法406条の選択債権に基づき「AまたはBを引き渡せ」と請求する場合には、1つの請求があるだけであり、選択的併合ではない。
不真正予備的併合 字義の点からすれば、排斥関係にない請求の予備的併合を不真正予備的併合ということになる。しかし、単純併合に親しむ請求については予備的併合は許されないというのが伝統的な通説であったので、不真正予備的併合と言えば、もっぱら同一の目的に向けられた両立しうる請求の予備的併合を指していた(狭義の不真正予備的併合)。ところが、比較的最近になって、≪単純併合に親しむ請求を予備的に併合することを一定の範囲であるいは無制限に認めてよい≫という見解が主張されており、この立場に立てば、不真正予備的併合の語は、この場合も含めた意味で使用することになる(広義の不真正予備的併合)。 言葉の意味が不安定になりかかっている時期であるので、この講義では、「不真正予備的併合」の語を使用することは避けることにする。 |
注7 主位請求を棄却すべきであるとの判断に達したが、予備請求についてはなお審理の必要がある場合には、審理の整序のために中間判決をすることができる。実例として、東京地方裁判所 平成14年9月19日 民事第46部 判決(平成13年(ワ)第17772号)がある。
注8 この論文は、訴訟物論について判例と同様に旧実体法説をとり、請求権競合の関係にある請求の予備的併合の許容性を論証することを意図している(122頁)。
注9 大判昭15・3・13民集19-530・[百選*1965a]26事件。代償請求の執行が許されるか否かは、執行の段階で調査される(民執31条2項)。
予備的代償請求の実例として、次のものがある。
注10 予備的併合の学説史につき、[大久保*1996a]を参照。
注11 最判昭39・4・7民集18-4-520は、これを当然の前提とする。高津環・最判解説昭39年(民)27事件参照。肯定説として次のものがある:[谷口*1987a]179頁。
注12 [池田*1998a]136頁は、明確性・実効性の点で疑問を指摘する。
注13 次の場合には、弁論の分離や一部判決は通常は適当でない。
なお、[小室*1969a]216頁以下は、これらの場合を関連的併合と呼んで、弁論の分離や一部判決は許されないとする。また、重複起訴禁止規定(142条)の適用範囲(同一事件の範囲)を≪主要な争点を共通にする請求≫にまで広げる見解に従えば、この場合の弁論の分離や一部判決は、この禁止に抵触するものとして許されない。例えば、[新堂*新民訴v5]752頁・227頁以下。
注14 却下したのでは予備請求の再訴を誘発することになるということも、付随的な理由となる([池田*1998a]136頁参照)。ただし、裁判所が主位請求と予備請求との関連性が低く、別個に審理した方がよいと考えている場合には、この理由付けの説得力は小さい。
注15 主位請求棄却・予備請求認容の原判決に双方が控訴し、控訴審が主位請求を認容すべきであるとの判断に達した場合には、原判決を取り消して、主位請求を認容する旨の主文を掲げる。被告からの控訴は予備請求認容部分の取消しとその棄却を目的とするものであるが、主位請求が認容されることにより予備請求については裁判の必要がなくなっているので、どのような主文を掲げるべきかに迷うことになるが、控訴却下の主文でよいであろう。
理由の2について補充しておこう。第一審が予備請求についても判断したことが無駄になるという損失は、予備請求に付された解除条件を無効とすることによっても防ぐことができるが(控訴審は、主位請求認容の判断をした後で、第一審の予備請求棄却判決の当否を判断し、この請求についても確定判決を与えることになる)、予備請求を不適法とすることによっても阻止することができる(予備請求については訴えが却下されるべきであるから、裁判所は本案の審理裁判に労を費やすべきでない)。他方、無限定説を前提にすると、次のような解釈問題が生ずる。主位請求認容判決に対して被告が控訴し、控訴審が主位請求を棄却すべきであると判断した場合には、予備請求について控訴審で審判がなされるのが通例である。この場合に、予備請求について第一審が省略されることになるが、それは主位請求と予備請求との間に請求の基礎の同一性があるという理由で是認されることである。無関係な請求が併合されている場合には、予備請求の審理のために事件を原審に差し戻すことが必要となる場合が生じよう。その場合の取扱いは、次のようになろうか。
理由の3のうちで、申立手数料の節約の点について補充しておこう。排斥関係にある場合に準じて考えれば、原告が訴えにより得ることができる最大利益が訴額となり、併合された請求は合算されないことになる。これに対して、単純併合可能な請求を予備的に併合しても、訴額は変わらない(単純併合の場合と同じ)とする見解も有力である([池田*1998a]136頁。[大久保*1996a]151頁におけるドイツの学説の紹介も参照)。そのように考えれば、単純併合すべき請求を予備的に併合することの実質的利点はほとんどないであろう。
注17 この場合に、このような予備的附帯控訴が許されるかは、問題となりうる。裁判所が予備請求を棄却すべきであるとの判断に達した後で主位請求を認容すべきであるとの判断に達すれば、予備請求棄却判決をすべきでないことになり、予備請求棄却・主位請求認容判決はあり得ないからである。しかし、だからといって、この予備的附帯控訴を不適法として却下する必要はない。原判決のままでも構わないという原告の意思は、なお尊重すべき場面があるからである。すなわち、控訴審が原判決を維持すべきであると判断する場合に、原告の附帯控訴を無条件のものと理解すると、裁判所は附帯控訴棄却の主文を掲げなければならず、そのことは控訴費用の負担の問題に影響しよう。
注18 人事訴訟では、旧法下では併合できる請求についてかなり厳格な制限が設けられていた(明治31年人訴法7条等)。
しかし、平成15年法ではそうした制限は撤廃され、人事訴訟法の定める手続に従って審理裁判される請求であれば(民訴136条)併合が許されるとされた(法務省民事局参事官室「人事訴訟手続法の見直し等に関する要項中間試案の補足説明」(法務省のサイト)、[小野瀬=岡*2004a]82頁以下参照)。したがって、養子縁組関係の請求と実親子関係の請求との併合も許される。
ただし、併合される請求の当事者が異なる場合には、民訴法38条の要件を満たすことが必要である。
もっとも、夫婦A・B間の離婚請求の原因と夫婦C・D間の離婚請求の原因が不貞という点で同種である場合に、これらの離婚請求が民訴法38条後段の要件を充足するからといって、主観的併合を認めるのは通常は妥当でないであろう。ただ、それでも、不貞の相手が同一である場合などには、主観的併合を肯定してもよいこともありえよう。
注19 控訴審を第一審との関係でどのように組み立てるかについては、次のような仕方(立法主義)がある。
第一審で審理・裁判されていない請求について控訴審が裁判することと、上記の各立法主義との整合性が問題になる。事後審制の下では、第一審で審理・判断されていない請求を控訴審で判断することは、原則として認められない。覆審制と続審性のもとでも、第一審で審判されていない請求の控訴審における審理裁判は望ましいことではないが、紛争の合理的解決といった他の要請との緊張関係の中で、一定の範囲でこれを認めることができる。現行法は、続審性をとりつつ、控訴審でも「請求の基礎に変更がない限り」訴えの変更を許している。これを基準にして、第一審で裁判されていない請求が、控訴審での訴えの変更以外の経路により、控訴審の審理・裁判の対象になりうるかが議論されるのである。
注20 [梅本*民訴]705頁は、予備的併合が許容されることを説明するにあたって、「訴訟行為に条件を付するものではなく、審判を求める順位を明示するにとどまり」と述べる。しかし、予備請求については、やはり、主位請求が認容されることを解除条件とする審理・裁判の申立てがあると考えるべきであろう。第一審が予備請求について判決した場合(主位請求棄却・予備請求認容判決をした場合)でも、控訴審が主位請求を認容すべきと判断すれば、予備請求について既判力のある判決が与えられない結果となることの根拠は、原告のこの条件付き申立てにあると考えるべきである。
注21 簡易裁判所の訴訟手続については、270条以下の特則と、368条以下の特則の2つのグループに分かれている。前者は、第2編におかれており、通常訴訟手続内での特則である。後者は、通常訴訟手続とは異なる訴訟手続を定めるので、特別に第6編が立てられ、その中で規定されている。第一編で規定されている特則(54条1項ただし書)は、いずれの種類の訴訟手続にも適用される。
注22 ただし、主位請求棄却の一部判決は、理論的には許されるとする見解もある([松本*2006a]185頁)。
注23 東京高判平成9年7月10日判例タイムズ984号201頁は、[萩澤*2008a]197頁により、この例と見られている。[萩澤*2008a]は、「裁判例は原告の意思の尊重一辺倒であるわけではない・・。裁判所は、審理のやり方によって、よりよい紛争の解決のために、予備的併合を認めるべきか否かという理屈を自在に扱っているようである」と述べており(200頁)、この先例に好意的と見てよいであろうか。
注24 この立場に立つ先例として、新潟地裁(長岡支)判決平成8年12月4日判例時報1593号105頁がある([萩澤*2008a]190頁・197頁参照)。
注25 すでに確定判例となっており、上告審がこのような事例に接しても、特に理由付けることなく、不服申立てがなされていない部分は上告審の審理判断の対象にならない旨の指摘がなされるにとどまる(指摘がなされている限りでは、被上告人が不服申立てをすべきであったとの警告を読み取ることができようか):最高裁判所 平成23年10月18日 第3小法廷 判決(平成22年(受)第722号)。
注26 [河野*民訴]は、このような拡張を全面的に否定するわけではないが、次の趣旨を述べている点で消極的と言えよう:両立しない請求間では原告はそのいずれを主位請求あるいは予備請求とするかを決定しなければならないのが通常であり、給付目的物が異なる場合にはなにを主位的に求めるのかを明らかにしなければ申立ての特定が十分でないとする。
注27 [三ケ月*1959a]130頁は、民事訴訟上の請求が人事訴訟又は行政事件訴訟に併合された場合には、「一般原則に拘ることなく、当然併合せられた人事訴訟手続・行政事件訴訟手続に従って審理・裁判すべきである」とし、その理由として、「一般民事事件を弁論主義で審判するというのは、一つの合目的的考慮の所産にすぎぬとみるべき」であり、職権主義的な手続で審判しても事の本質に反しないとの趣旨を述べている。この論述は、自白の拘束力の排除に直接言及しているわけではないが、それを肯定する趣旨を含むものとみられる([河野*民訴]656頁参照)。
注28 [浅生*1982a]3頁、[鈴木*1982c]205頁、[高橋*1990a]10頁、[注釈*1994a]140頁(田邊)、[梅本*民訴v4]726頁など。
注29 事案は、原被告間の契約について、原告(買主)が売買契約を主張したのに対して被告が買付委託契約を主張した場合に、原告が被告の不履行を理由に契約を解除し、主位的に、売買契約の不履行による損害賠償を請求し、予備的に、買付委託契約の不履行による損害賠償を請求したものである。第一審は主位請求を認容し、控訴審は第一審判決を取り消して主位請求と予備請求の双方を棄却した。大審院は、次のように説示した(原文はカタカナ書):「現行民事訴訟法に於ては請求の基礎同一ならは控訴審に於ける訴の変更すら許さるること明にして審級の利益なるものは絶対的意義を有するものに非す。而して予備的併合の訴に於ては主たる請求の棄却なる条件か第一審に生するも将又控訴審に於て生するも之と同時に予備的請求に付ての裁判あるへきことは原告の欲求するところなるのみならす元来予備的請求は新に訴の変更として控訴審に於ても適法に之を提起し得へきものなるか故に「第一審に於て是認し又は否認したる請求のみか控訴審の弁論及判決の物体となる」との原則は此の場合例外として適用なく控訴審は直ちに予備的請求に付ても弁論及判決を為すへきものと解するを相当とす。」。
判例研究:鬼頭兵一・民商5巻6号1411頁(賛成)。
注30 鬼頭兵一・民商5巻6号1413頁以下は、この立場に立ちつつも、その根拠を請求の基礎の同一性に求める(排他的関係があれば、請求の基礎の同一性が肯定できるとする)。しかし、請求の基礎の同一性が認められるべきことを主たる根拠にして予備的併合の適法性を認めるのであれば、請求の基礎が同一である限り、排他的関係にない複数の請求を予備的に併合することも許容すべきことになるように思われる。その結論を防ごうとすれば、予備的併合が許される根拠として、排斥関係にある請求については予備的併合の必要性があることを持ち出すべきことになろう。結局、排他的関係は、請求の基礎の同一性の要件とは別個の要件、すなわち、予備的併合を正当化するための独立の要件と位置付けるべきことになる。
注31 民訴法3条の6が新設される前に同趣旨を述べた先例として、最高裁判所 平成13年6月8日 第2小法廷 判決(平成12年(オ)第929号,平成12年(受)第780号)参照。[渡辺*2002a]は、要件の明確化の必要を指摘する。
注33 例えば、原告が一定の成果を上げることを停止条件とする金銭給付契約に関して、原告が一定の成果を上げるための努力を払うことがその契約から生ずる停止条件付債権の存在に依存する場合に、原告は停止条件付債権の存在を主張し、被告はその契約の締結自体を争っているものとしよう。そして、停止条件が成就した場合に給付されるべき金額を算定が不可能というわけではないが難しいため、将来給付請求の適格要件を満たすかどうかが微妙である場合に、(α)将来給付請求と(β)停止条件付債権の存在確認請求とは、前者が適法であれば、後者は不適法となり、前者が不適法であれば、後者は適法となろう。この場合に、前者を主位として、それが不適法として却下される場合にそなえて、後者を予備とする予備的併合は許してよい。前者の請求が棄却される場合(典型的には契約の不存在を理由に棄却される場合)には、後者の請求については審理裁判する必要はないという点が通常の予備的併合と異なる。
なお、従前(2017年7月6日以前)、上記のことについて下記のように説明していたが、取り上げた事例が適切でないので撤回する(後記名古屋高判は、本文に挙げた最判平成28年10月18日の原審判決であり、名古屋高判の事例を設例に用いることは本文の記述と矛盾する)。
被告が負う同一義務に関する給付請求と義務確認請求とは、実体法上の法律関係の主張として不両立の関係にあるわけではないが、前者が認容される場合には後者は訴えの利益を欠いて却下されるという意味で、両請求は不両立の関係にある。被告の負う義務が金銭等の給付義務の場合には、給付請求について本案判決が可能な場合には、その本案判決により給付義務の存否も確定されるので、確認請求は許されないと考えられている。しかし、特殊な義務については、原告が給付請求が認められる可能性よりも確認請求が認められる可能性が高いと考える場合がある(名古屋高判平成27年2月26日判決の事案参照)。その場合に、原告が請求認容の可能性の肯定にかかわらず給付請求が認められることが好ましいと考えるのであれば、給付請求を主位請求とし確認請求を予備請求とする併合も許されるべきである。