目次文献略語

民事訴訟法講義

証 拠 2


関西大学法学部教授
栗田 隆

4 証人尋問(190条−206条)


証言拒絶に関する 文献  判例
文 献
意 義
証人とは、自己の経験によって知った事実を訴訟において供述する第三者をいう(当事者尋問の方法で尋問される「訴訟当事者及びその法定代理人や代表者」以外の者)。証人尋問は、質問に答える形で証人に供述させる取調べの方法である。証人のうちで、専門的学識経験をもっていたが故に認識しえた具体的事実について供述する者も証人の一種であるが、特に鑑定証人という(217条。例:特定の患者を診察・治療した医師)。

証人義務
日本の裁判権に服するすべての者は証人義務を負い、裁判所はすべての者を証人として尋問する権限を有する(190条)。義務の内容:
裁判所の権限あるいは証人の義務を制限する規定として、次のものがある。
公務秘密についての証人尋問の制限(191条
「公務員が職務上知ることができた秘密」は、国家公務員法上は、次の2つに分類される。
  1. 職務上の秘密  例えば、税務署職員が知る税務調査開始基準や税務調査の方法
  2. 職務を行うに際して知ったその他の秘密(個人や私企業の秘密)  税務調査によって知った所得金額や所得税申告書に記載されていた所得金額

公務員は、「職務上知ることができた秘密」に該当する限り、上記の秘密の何れについても守秘義務を負う(国家公務員法100条1項)。そして、公務員・元公務員は、「職務上の秘密」について証言を求められる場合には、証言をするに先立って所轄庁の許可を得なければならない(国家公務員法100条2項)。
公務員が職務上知ることができた秘密
誰の秘密か 最判所平成17年による区分

職務上
の秘密に
所掌事務に属する秘密 職務上の秘密
該当
職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密 公務運営のために秘匿すべき私人の秘密
その他の私人の秘密
該当
しない


民事訴訟法191条・197条1項1号・220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」については、どのように解すべきであろうか。最高裁判所 平成17年10月14日 第3小法廷 決定(平成17年(許)第11号)は、220条に関して、次のように説示している:「公務員の職務上の秘密」には,「公務員の所掌事務に属する秘密」だけでなく,「公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって,それが本案事件において公にされることにより,私人との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるもの」(以下「公務運営のために秘匿すべき私人の秘密」という)も含まれる。この解釈は、191条・197条1項1号との関係でも支持されるべきである。のみならず、国家公務員法100条2項との関係でも妥当させるべきである(そうでないと、裁判所が公務員に「公務運営のために秘匿すべき私人の秘密」について尋問する場合に、公務員は所轄庁の許可を必要としないが、裁判所は監督官庁の承認を得なければなせないことになり、191条と国家公務員法100条2項との対応関係が悪くなる)。
「職務上の秘密」については、証言を求めれた公務員・元公務員は、予め所轄庁の許可を得なければならず、これに重ねて、裁判所も監督官庁の承認を得なければならない。屋上に屋を架すようにも見えるが、職務上の秘密を厳重に保護しようとしているのであろう。191条1項の承認がある場合には、国家公務員法100条2項の許可も与えられるべきである(公務員に与えられた許可の範囲が裁判所に与えられた承認の範囲よりも狭い場合には、後者が優先すると解すべきである)。

裁判所は、公務員・元公務員に「職務上の秘密」について尋問する場合には、監督官庁の承認を得なければならない。承認は、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」場合を除き、拒むことができない(同条3項も参照)。裁判所は、承認拒絶の当否について判断できない(民訴法199条1項参照)。 191条1項は、公務員又は元公務員を保護する規定ではなく、公務の秘密を保護する規定であるので、公務員・元公務員が進んで証人となって証言する場合でも、裁判所は監督官庁の許可を得なければならず、また許可を得ずに尋問することは、異議権(責問権)の放棄・喪失(90条本文)の対象にはならない[14]。尋問事項が多岐にわたり、「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」事項とそれ以外の事項の双方に及ぶ場合には、後者についてのみ証人することになるが、両者の分別が困難なため、証人尋問の場における証人の判断に委ねられる場合もあろう。その場合を念頭におくと、1項の実質的な意義は、次の点にある:証言を拒絶すべき事項を予め監督官庁と証人とが協議し、監督官庁がどのような事項について証言を拒絶すべきかについて指示を与えることを確実にする。

証人尋問の申出・呼出し
証人尋問の申請は、集中証拠調べ(人証調べ)の実を挙げるため、できる限り一括してしなければならない(規100条)。やむを得ない事情がある場合を除き、申出と同時に、尋問事項をできる限り個別的かつ具体的に記載した尋問事項書を提出しなければならない(規107条)。証人の記憶喚起を容易にし、特に相手方の反対尋問の十分な準備を可能にするためである([最高裁*1997b]209頁)。争点整理の段階で後に証人となるべき者から陳述書が提出されている場合には、尋問事項書でその内容を引用することも許される([最高裁*1997b]209頁)。尋問事項書は、裁判所に訴訟記録の一部として保存するほか、証人への呼出状に添付して送達する必要があるので、2通を裁判所に提出し、さらに相手方当事者に直送する。裁判所は、証人および当事者を期日に呼び出す(94条規則108条)。

証人尋問の主体と場所
証人尋問は、直接主義及び公開主義の要請により、受訴裁判所(合議体の場合は構成員全員)が裁判所内の公開の法廷で行うことが原則である。ただし、これには、次の例外がある。
証人尋問が上記の例外的方法により行われた場合には証人尋問の結果は、口頭弁論に上程(報告)することが必要である(裁判官全員でしない場合(上記b,c)には直接主義の充足のために、および、受訴裁判所の法廷(裁判官全員がそろった法廷)の外でなされる場合(上記a,b,c)には公開原則の充足のために、そうすることが必要である)。上程は、証拠申出をした当事者が尋問結果を陳述するという形ですることが慣例となっているが、当事者がしない場合あるいはできない場合には、裁判所がする。当事者が在廷しない期日でも上程することができる(183条参照)。

証言拒絶権(196条・197条)[CL1][CL4]
証人は、下記の場合には、証言を拒絶することができる。

自己負罪等の回避のための秘匿  証言が証人自身又は証人と密接な身分関係にある者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するとき、並びに、これらの者の名誉を害すべき事項に関するとき(196条)  証人がこれらの事項について証言を拒むときにそれを強制することは、日本の社会の文化観念(倫理)に照らし酷であると考えられるからである(刑事訴追を受けるおそれのある犯罪について言えば、証人本人の犯罪については、憲38条が参照されるべきであり、その親族等の犯罪については親族間の連帯を犯罪事実の証言によって破壊するのは酷であるとの配慮に基づくと言うことができる)[15]。証人と密接な身分関係にある者は、次のものである。なお、この証言拒絶権は、証言により証人またはその近親者が重大な不利益を受けることを理由に認められるものであり、証人が当事者と近親関係にあること自体により認められるのではない[16]。
秘密保持の必要がある場合197条1項)  197条1項1号から3号に掲げられている者は、そこに掲げられている事項について尋問を受けるときは、証言を拒絶することができる。

1号(公務員の守秘義務・公務の秘密の保護)
公務員又は公務員であった者は、職務上の秘密について証言を拒絶することができる。もっとも、職務上の秘密について尋問することが予定されている場合には、裁判所はその監督官庁の承認を得なければならず(191条第1項)、監督官庁の承認を得て尋問がなされる場合には、その承認は197条2項の黙秘義務の免除に当たるので、公務員等は証言を拒絶することができない([山内*1931a]68頁 )。したがって、1号が適用されるのは次のような場合になろう。
「公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密」は、私人との信頼関係を維持して公務を公正かつ円滑に運営するために秘匿する必要のあるもののみが証言拒絶の対象となり得る。証言拒絶者は、秘匿の必要性についても疎明しなければならない(198条)。

「職務上の秘密」に該当することの疎明がある場合に、裁判所がその事項についての尋問が必要と判断すれば、191条1項の規定により監督官庁に承認を求める。その疎明がない場合には、他に証言拒絶理由がなければ、197条1項1号・191条1項の場合に該当しないことを示しつつ、証言拒絶が許されない旨の決定をする(199条1項)。この場合に、裁判所は、191条2項の「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」がない旨の判断をすることはできず、そのおそれがないことを理由に証言拒絶が許されない旨の決定をすることはできない。

整理 公務の遂行により知り得た事項について証言拒絶が認められるためには、次の2つのことが充足されなければならない:
2号(他人の秘密に関与することが必要な職業にある者の守秘義務)
医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合には、証言拒絶が認められる。これらの職(2号列挙の職)を一括して「法定専門職」、この職に現に従事する者を「法定専門職従事者」、過去に従事していた者を含めて「法定専門職従事者等」という(最高裁判所 令和3年3月18日 第1小法廷 決定(令和2年(許)第10号 ))。

法定専門職従事者等については、それぞれの職業・職務を規律する法律(例えば弁護士法23条、弁理士法30条)あるいは刑法134条において守秘義務が明示的に定められていて、その義務の遵守を徹底させるために証言拒絶権を認める必要がある。秘密にされるべき事項に関係する者を秘密帰属者と呼ぶことにしよう。自己又は他人の秘密をこれらの職業にある者に告げた者を秘密告白者という。秘密帰属者が秘密告白者となることが多いが、そうでない場合もある。この証言拒絶権は、(α) 秘密帰属者ないし秘密告白者の利益を保護するものである(秘密帰属者と秘密告白者とが異なる場合に、後者の利益だけを保護すれば足りるかについては、なお議論が必要である)。それと同時に、(β)これらの職業にある者の秘密保持の信頼を高めることによりその職業的利益を擁護するものでもある。(γ)社会的需要の視点から言えば、人々がこれらの職業にある者に安心して秘密を暴露して、より良いサービスを受け得るようになることを社会が欲しており、この権利は その社会的需要を満たすものでもある(制度に対する社会的信用の維持)。ただし、多くの文献・先例は、拒絶権を認めた根拠は(α)であり(β)ではないとする[18]。(γ)根拠を述べる文献等は従来はあまりなかったが、前掲最決令和3年が、電気通信事業従事者等に2号の規定が類推適用されるべきことを説示するに際して、「電気通信の利用者は,電気通信事業においてこのような通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており,この信頼は社会的に保護の必要性の高いものということができる」と述べており、これは(γ)の視点からの根拠付けとみることができる。

2号所定の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう。弁護士等に事務を行うこと等を依頼した者に関し、最高裁判所 平成16年11月26日 第2小法廷 決定(平成16年(許)第14号)[13]、医師等に診療を依頼した者に関し、名古屋高等裁判所 平成25年5月27日 民事第3部 決定(平成24年(ラ)第267号)。

2号が類推適用されるべきもの  2号の規定は、法律により刑罰をもって守秘義務が課されている他の職業についても、その秘密の保護の必要性が2号列挙の職業と同等以上であると考えられるときは、類推適用されるべきである([坂田*1994a]39頁−40頁。例えば、社会保険労務士法21条、司法書士法24条、保健師助産師看護師法42条の2参照)[11]。

2号が類推適用されるが「黙秘すべきもの」の範囲が問題になるもの  () 電気通信事業従事者等  電気通信事業法4条は、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密の不可侵を規定し(1項)、「電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密」を守る義務を電気通信事業従事者等に課している(2項)。したがって、電気通信事業従事者等にも197条1項2号が類推適用される(前掲最決令和3年)。送信者情報は、通信の内容そのものではないが,通信の秘密に含まれる(送信者情報について前掲最決令和3年。同決定は受信者情報については述べていないが、同様に保護されるべきである。以下では、叙述の簡略化のために送信者情報のみを取り上げる)。問題は、送信者情報の守秘義務は、通信内容にかかわらずすべての通信に及ぶかである。
  1. プロバイダー責任制限法4条は、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」(以下「被害者」という)は、一定の要件の下で、「特定電気通信役務提供者」に対して発信者情報の開示を求めることができると規定する。したがって、特定電気通信役務提供者が電気通信事業法4条の適用を受ける電気通信始業者である場合には、同条は、電気通信事業法4条1項の特則となる。そこで、特定電気通信役務提供者が電気通信事業法4条の適用を受ける電気通信始業者であり、被害者がこの規定により電気通信事業者に対して発信者情報の開示を求めることができる場合に、その開示請求をすることなく、電気通信事業従事者等に発信者情報について証言を求めたときに、従事者等は証言拒絶権を有するかが問題になる。
  2. 特定電気通信以外の電気通信(例えば、電子メール、Webページの書込欄(書込内容が公開されない書込欄)への書込み)が受信者に対する詐欺や脅迫に該当し、受信者がこれにより被害を受けた場合に、被害者が電気通信事業従事者等に送信者情報の証言を求めた場合に、従事者等は、通信内容にかかわらず証言拒絶権を有するか、換言すれば、通信内容にかかわらず、送信者情報はすべて「黙秘すべきもの」に該当するかが問題になる。最決令和3年は、通信内容にかかわらず証言拒絶権を有するとの立場を前提にした。

)電気通信事業者  上記2の場合に、電気通信事業従事者が197条1項2号の類推適用により証言拒絶権を有することを前提にすると、「電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密」の事実で黙秘すべきものが記載された文書・準文書(所持者は電気通信事業者とする)は、220条4号ハの類推適用により文書提出義務の対象外になる。同様なことが、発信者情報が記録されている電磁的記録物が検証の対象となるときに、検証物提示義務について妥当する。そこで、送信者情報が前記秘密に含まれることを前提にして、通信内容が犯罪行為あるいは不法行為を構成する場合であっても、送信者情報は167条1項2号の「黙秘すべきもの」に該当するかが重要な問題になる。最決令和3年の事案では、(α)原審は次の立場をとった:「本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること,本件メールの送信者情報は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること,本件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人[電気通信事業者]に与える影響等の諸事情を比較衡量すると,本件記録媒体等に記録され,又は記載された送信者情報は保護に値する秘密に当たらず,抗告人は,本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う」。しかし、最高裁は、送信者情報は送信内容にかかわらず「黙秘すべきもの」に該当するとの立場にたって、原決定を破棄した:「電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提示する義務を負わない」。

守秘義務者の証言拒絶義務  他人の秘密を守る義務を実体法上負っている者は、その他人との関係で証言拒絶権を行使する義務を負う場合があるとすべきである(文書提出命令についてであるが、最決平成19年12月11日(平成19年(許)第23号)田原意見参照)。証言拒絶権行使義務を負っているにもかかわらず、拒絶権を行使することなく証言すれば、秘密を正当な理由なく漏示したと評価され、その他人に対して損害賠償責任を負うことがあり得る。他方、証言拒絶権を有する者が証言拒絶権を行使したにもかかわらず証言拒絶を認められなかったためにその秘密を証言した場合には、この賠償責任から免れるとすべきである。しかし、証言拒絶権を行使することなく証言した場合には、拒絶権を行使しても証言を強制されたであろうとの事情の存否を考慮して、賠償義務の成否を判断すべきである。なお、証言拒絶権を行使することなく証言した場合に刑法134条等の秘密漏示罪が成立するか否かについては、犯罪の成否に関する問題として別個の検討が必要である。

裁判所の配慮義務  証言拒絶権を行使するか否かは、証人が自己の責任で判断すべき事柄であるが、秘密帰属者ないし秘密告白者との関係で証言拒絶義務を認める以上、証人が守秘義務を負っていることを十分に認識しているか疑問のある状況においては、裁判長は、証人尋問に先立って、証人が守秘義務を負っている事項について質問がなされる可能性があること、その場合には、証言拒絶権を行使できること、証言拒絶権を行使することなく証言すると、秘密帰属者又は告白者から損害賠償責任を問われることがあることについて、注意を喚起すべきである[CL2]。

3号(技術又は職業の秘密の保護)
2号に該当しない場合でも、自己の職業的利益の維持のために、または他人の秘密を守ることが自己の職業的利益を守ることになるときにその他人の秘密を守るために[19]、証言拒絶権が認められている。「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるもの、又は当該職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものをいう(最高裁判所 平成12年3月10日 第1小法廷 決定(平成11年(許)第20号))。

特に問題となるのは、報道機関のニュースソースの秘匿権である。最高裁判所 平成18年10月3日 第3小法廷 決定(平成18年(許)第19号)は、報道の自由の前提となる取材の自由の憲法上の価値に鑑み、取材源の秘密は3号の職業の秘密に当たるとしたうえで、他の利益との調整のために、次のような判断基準を立てた(当該事案については、拒絶権を肯定した)。 取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。

α )報道が公共の利益に関するものであって、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、( β )当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり、証人は、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができる。

2号の証言拒絶権は、刑罰規定をもって他人の秘密を守ることを強制されている者がその秘密を守るために用意された権利であるから、その者がそのような刑罰規定の対象外となる秘密(例えば、弁護士業務を効率的に行うための特別の技術についての秘密、あるいは特別な情報源など)について尋問を受ける場合には、その秘密の保護は、2号ではなく3号の問題である。

黙秘義務の免除(197条2項)
証言拒絶の権利が第三者の秘密保護のために認められているときは(197条1項1号・2号の全部と3号の一部)、証人が第三者から黙秘義務を免除されると、証言拒絶権を失う(197条2項。2項が1項3号の場合にも適用されうることにつき、220条4号ハ参照)。直接には文書提出命令に関する先例であるが、黙秘義務免除に関する先例を挙げておこう:


文書提出義務・検証物提示義務との関係
証言拒絶権が認められる事実又は事項で黙秘義務が免除されていないものが記載されている文書は、一般提出義務から除外される(220条1号ハ。所持者について言及がないので、誰が文書の所持者であるかを問わないと解されている)。また、検証物提示義務は文書提出義務以上に一般的義務と解されていて、232条1項で220条は準用されていないが、正当な理由があれば提示を拒絶できる(232条2項参照)。証言拒絶権の認められる事実または事項で黙秘義務が免除されていないものが記録されている物件については、その検証によりその事実・事項が獲得されるときは、特段の事情がない限り、提示拒絶の正当理由があるというべきである。

宣誓(201条
証言の信用性の担保のために、証人には、証言に先立って宣誓をさせなければならない。宣誓は、偽証罪(刑169条)の構成要件要素となる重みのある行為である。次の場合には、宣誓義務の例外となる(文末の微妙な違いに注意)。


期日における質問と陳述202条・203条)
期日においては、次の順番で質問がなされるのが原則である(例外につき、規則113条2項・3項)。
)人定尋問  証言する者が誰であるかを確認するための尋問

)証明主題についての尋問(202条 1項、規則113条 ・114条)

  1. 尋問を申し出た当事者による主尋問  立証すべき事項及びこれに関連する事項
  2. 相手方当事者による反対尋問  主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項並びに証言の信用性に関する事項
  3. 尋問を申し出た当事者による再主尋問  反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項
  4. 裁判長による補充尋問(202条1項)・介入尋問
  5. 陪席裁判官による尋問(規則113条4項)


質問と証言は、口頭でなされる。証人は、書類に基づいて陳述することができないのが原則である(203条本文)。証言の際の証人の内面の動きが読み取りにくくなるからである。しかし、複雑な事実関係をすべて記憶をもとに陳述することが困難な場合もある。そのような場合には、裁判長の許可を受けて、書類を見ながら陳述することができる(203条ただし書)。

証人尋問の制限規則114条・115条)
証人尋問は、証人にとって、ときに精神的拷問となることがある。多くの証人は、生まれて初めて公開の法廷で、宣誓の上、刑事制裁の威嚇のもとで証言するのであり、異常な場で一方的な質問に答えることになるからである。自分の証言によって自分に近い立場にある当事者に不利な判決が出ることの懸念、隔離尋問の原則のもとで、自分と同じ立場にある他の者の証言と食い違っていたらどうなるのだろうという懸念が、不安を高める。尋問者の最大の武器は、「質問に答えなさい」の一言であろう(「質問にお答えいただけないのですか」と慇懃に言っても大差はない)。

そこで、質問の制限が民訴規則で規定されている(規則114条・115条)。特に115条1項の制限は証人の人格的利益の保護のために重要である。わざわざ規定されていることは、そのような質問が多く見られることの現れでもあろう。


質問制限権と制限申立権
裁判長は、申立てによりまたは職権で、こうした質問を制限することができる。こうした質問(特に1号の質問)を制限することは、証人となる国民の裁判所に対する信頼を維持するために必要なことであり、裁判長の手腕の見せ所である。同時に、相手方当事者ないし訴訟代理人も、質問制限申立権を有することを自覚し、適時に質問制限を申し立て、証人を救わなければならない。

質問制限申立権を有する者は、まず訴訟当事者、そして補助参加人である。共同訴訟においては、証拠共通の原則がとられるから、ある共同訴訟人の質問に対して他の共同訴訟人も質問制限を申し立てることができるとすべきである。

証人自身にこの申立権を認めるべきか。個々の質問制限規定の保護法益の中に証人の利益も含まれる限り、証人に申立権を認めてよい。


尋問の際の証人の保護措置 ── 付添いと遮蔽措置
人が社会で生きていくためには精神的にもたくましいことが必要であるが、現実には、人の精神的強さは様々である。適正な裁判の実現のために、法廷での証言の重圧を和らげ、証人が真実を語りやすくするために、平成19年に次の二つの規定が新設され、所定の要件の下で、証人への付添い及び遮へいの措置が可能になった[17]。


204条2号(映像と音声の送受信による通話の方法による尋問)
なお、証人尋問は法廷(したがって裁判所内)において行うことのが本来であるが、証人が法廷に出頭することも困難な状況にあるときは、裁判所は、裁判所外で証人尋問を行うこともできる(185条1項本文)。受命裁判官が裁判所外で証人尋問をすることも一定の範囲で許されるが(195条)、証人の保護の必要を理由にすることは、当事者に異議がないとき(4号)又は証人が正当な理由により受訴裁判所に出頭することができないとき(1号後段)に該当することが必要である。

対 質規118条
同一の尋問事項について複数の証人の証言に食い違いがある場合、先に提出された陳述書の内容に矛盾がある場合等、必要がある場合には、複数の証人を同時に並べて尋問することができる。これを対質という(証人尋問の1つの手法である)[5]。証言の信用性の判断に迷う場合に効果的な尋問方法であり、集中人証調べを行うことにより現実に可能となる。対質尋問については、裁判長が最初に尋問することができる(規118条3項)。対質を行うに当たっては、裁判長のその旨の裁判(命令)が必要である(「対質を命ずる」は、その意味である)[CL3]。

裁判長による尋問指揮と当事者の異議権
証人尋問は、裁判長が指揮する。裁判長の指揮に対する当事者の異議権が明示的に規定されているものと、規定されていないものとがある。 当事者の異議権が規定されているもの。異議については、合議体が裁判する。

当事者の異議権が規定されていないもの。


映像等の送受信による通話の方法による尋問(204条
遠隔の地に居住する証人の尋問をする場合には、受訴裁判所は、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人を尋問することができる(204条)。この場合には、当事者を受訴裁判所に出頭させ、その証人のみを最寄りの裁判所に出頭させて尋問を行う(規123条1項)。受訴裁判所は、証人が出頭する裁判所に協力を嘱託する(尋問場所への誘導、宣誓書の交付・署名押印された宣誓書の受領など)。この場合に、受訴裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権が証人の出頭している場所に及ぶので、尋問に立ち会う職員は、受訴裁判所の指揮命令を受ける([最高裁*1997b]213頁 )。文書を証人に示して尋問する場合に(規116条)、相互認識のために用いる映像装置の解像度が低いことによりその内容を示すことができないときは、他の映像装置を併用したり、予め文書の写しを送付する等の措置をとっておく(規123条2項)。

なお、少額訴訟においては、費用の節約のために、音声通話の方法による証人尋問も認められている(372条3項・規則226条)。

書面尋問(尋問に代わる書面の提出)205条規則124条
裁判所は、相当と認める場合において、当事者に異議がないときは、証人の尋問に代え、書面(回答書)の提出をさせることができる。これを書面尋問とも呼ぶ。例えば、交通事故の実況検分をした警察官に事故の状況について書面で尋問することがある。裁判所は、相手方当事者にも回答事項の希望を書面で提出させることができる(規124条)。これは、通常の尋問における反対尋問に相当するものと位置付けることもできるが、虚偽陳述発見の機能まで期待することはできず、むしろ、質問の機会の平等付与の機能を有するにとどまると見るべきである。書面尋問をするか否かは、尋問事項の性質(宣誓の上で口頭で陳述させる必要があるか)、証言すべき者の都合(多忙あるいは病気などのために出廷困難)などを比較考量して裁判所が決める。虚偽陳述発見の機能のある通常の反対尋問をなす権利に配慮して、尋問に代わる書面の提出は、当事者に異議のある場合には許されない。

書面尋問を行う場合には、裁判所は、尋問を申し出た当事者が提出する尋問事項書(規107条)および相手方当事者から提出される回答希望書を基に尋問事項書を作成して証人に送付する。この場合に、裁判所は、証人が回答書を提出すべき期間を定めることができる。証人は、回答書に署名押印しなければならない(規124条3項)。書面尋問は偽証罪の対象外であるので、書面尋問には宣誓は必要ないと解されている([最高裁*1997b] 193頁)。

 


5 当事者尋問(207条−211条)


意義
当事者尋問(当事者本人の尋問)とは、当事者を証拠方法として、その経験した事実について質問し、その陳述を証拠資料とする証拠調べの方法である[6]。当事者は紛争の基礎にある取引あるいは不法行為等の直接の関与者であることが多く、しばしば最も重要な証拠方法である。当事者尋問には、次の特徴がある。
上記の特徴を有する当事者尋問の対象となるのは、当事者本人またはその法定代理人(211条)もしくはこれに準ずる法人代表者(37条)である。これらを区別するために、本人尋問、法定代理人尋問、代表者尋問の語が用いられる。

当事者の弁論と当事者尋問における陳述の違い
当事者の弁論における主張も、弁論の全趣旨の一部として事実認定の資料となるが、事実認定の資料としては、当事者尋問における陳述の方がはるかに重みがある。(α) 弁論における主張は、時間をかけた調査に基づき熟慮を重ねて主張内容を固め、それを訴状や準備書面に記載して、法廷ではそれを陳述すれば足りる。訴訟代理人がいる場合には、彼に自分の考えを伝えれば、彼が主張してくれる。真実を主張するとの宣誓もしていない。相手方からの質問も、裁判長を経由してくるのであり(法149条3項)、質問の趣旨を問い直すこともできる。質問には、即答する必要は必ずしもない。 (β)これに比して、当事者尋問においては、当事者は、精神的重圧が格段に大きい環境下で陳述することになる。原則として書面に基づかずに陳述するのであり、予期せぬ質問にも即答しなければならない。虚偽の陳述をする場合には、小さな矛盾をつかれて説明を重ねるうちに説明がつかなくなり、「実は、・・・」と言う可能性がある。当事者尋問においては、当事者はその不安を抱えながら陳述するのである。

不出頭・陳述拒絶等に対する制裁208条
当事者本人を尋問する場合に、正当な理由なしに出頭しないとき、又は宣誓もしくは陳述を拒むときは、尋問事項に関する相手方の主張を裁判所が真実と認めることができる。過料等の制裁を科すより効果的であり、また無駄がない。これは、裁判官の心証が確信(証明)に至らなくても、相手方の主張を真実と認めることを許す趣旨の規定である(証明度の低減(事実の認定ために裁判官が認識すべき事実の蓋然性の度合いの低減)を定める規定)。裁判所は、他の証拠資料を考慮して、相手方の主張を真実と認めないこともできる。

虚偽の陳述に対する制裁(209条
当事者本人は、たとえ宣誓していても証人ではなく、虚偽の陳述をしても偽証罪(刑法169条)に問われない。より緩やかな制裁として、過料の制裁が用意されている(民訴209条)[12]。より多くの真実を当事者本人に語らせるのは、こうした制裁というより、相手方からの厳しい質問であろう。

証人尋問の規定の準用(210条
当事者尋問には、証人尋問に関する次の規定が準用される。
次の規定は、準用されない。その理由は、自分で考えてみよう。
証人尋問と当事者尋問の違いは、証人尋問に適用される次の規定にも現れている。いずれも、証人が証拠として重要であることを考慮して設けられた規定であり、当事者尋問には適用がない。
対 質
裁判長は、必要があると認めるときは、当事者本人と、他の当事者本人又は証人との対質を命ずることができる(規則126条)。当事者本人が訴訟無能力者である場合に、本人と法定代理人とを対質することも許される[7]。

法定代理人・法人等の代表者(211条
当事者を代表する法定代理人も、当事者尋問の方法により尋問される(211条)。訴訟において法人を代表する者も、法定代理人に関する規定が準用されるので(37条)、証人尋問ではなく当事者尋問の方法により尋問される(代表者尋問という)。

211条の「代表する」という語は、同条の適用を包括的な代理権を有する者に限定する趣旨である。したがって、刑事施設に収容されている者に対する送達については刑事施設の長が法定代理人となるが(102条3項)、このような個別的な法定代理権は211条の適用を根拠づけない。

人事訴訟における特則
人事訴訟では、当事者の陳述が重要である。当事者を尋問するときは、裁判所は出頭命令を発することができる(人訴21条1項。単なる「呼出し」ではないことに注意)。命令違反に対しては科料や罰金の制裁を科すことができ、さらに必要であれば勾引することができる(人訴21条2項、民訴192条−194条)。他方で、207条2項の適用が除外され(証人尋問の前に当事者尋問をすることができる)、また、真実発見を重視して、208条(当事者尋問における不出頭の効果)の適用が排除されている(人訴19条1項)。

6 鑑 定(212条−218条)


文献
意 義
鑑定人とは、裁判所の命令により専門的知識を報告する者である。鑑定人から報告を得るための証拠調べを鑑定という[9]。次の事項が鑑定の対象となる。
鑑定人は、専門家であることにより得られる知識・判断等を裁判所に提供する者であり、裁判所を補助する者と位置づけれられ、誰を鑑定人にするかは裁判所が決定する(鑑定の申出は当事者がするが、鑑定人の指定・鑑定事項の決定は裁判所がする)。鑑定人となるのは自然人である。宣誓のうえ鑑定させることにより、虚偽鑑定罪(刑171条)の威嚇の下、虚偽鑑定を防止することができるからである。鑑定のために一定の設備等が必要な場合には、その設備を利用しうる者が鑑定人に指名される(鑑定人と設備の管理者との関係は、鑑定命令の対象外である)。設備を保有する官庁・法人に鑑定を依頼するのが適当な場合には、218条により官庁・法人に鑑定を嘱託する。

証人 鑑定人
忌避
×
○(214条1項)
報酬
日当
(費用法18条1項)
鑑定料
(費用法18条2項)
指定する者
当事者
規106条
裁判所
213条
勾引

194条
×
216条
証人と鑑定人との区別
両者の取扱いの主要な差異は、右の表のとおりである。両者の区別の基準については、いくつかの見解があるが、この講義では、自ら体験した事実を供給する者は証人で、専門的知識や専門的知識に基づく判断を供給する者は鑑定人であるとする。この差異から、証人には代替性がなく、鑑定人には代替性があるという差異が出てくる。

こうした特性の差異に基づき、鑑定人に口頭で陳述させる場合と証人尋問の場合とで、手続上の差異が生じうる。その差異は、平成15年の改正により顕著になった[3]。

鑑定義務(212条214条
証人義務が日本の裁判権に服するすべての者の負う一般的義務であるのに対し、鑑定義務は、鑑定をなすに必要な学識を有する者が負う義務である(212条)。この抽象的義務は、鑑定命令により具体的義務となる[2]。例外:
鑑定人の義務
鑑定人は、出頭義務・宣誓義務・鑑定意見報告義務を負う。義務違反に対しては、証人義務違反の制裁規定がおおむね準用される(216条)。ただし、証人と異なり、勾引はできない(216条における194条の準用排除)。

手 続
口頭での意見陳述と質問−説明会方式(215条の2規則132条の3・132条の4)
鑑定人の意見陳述は、従来、証人尋問の場合と同様に一問一答方式、すなわち質問者の細分化された質問に鑑定人が答える方法で行われることが多かった。当事者からの反対尋問は、時に鑑定人に屈辱感を与えるものであり、また、鑑定人が意を尽くして説明しようとしても「質問に答えなさい。YesですかNoですか」といった言葉に遮られることがあった。こうした質問を浴びた専門家は、裁判所での鑑定の仕事は二度としたくないと思うことが多々あったようである。

そこで、平成15年の改正により、鑑定人が意見報告をしやすくするために、口頭での意見陳述を説明会方式と呼ばれる方法で行うことが明文化された。すなわち、鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合には、(α) まず鑑定人が全部の意見を陳述し、(β)その後で、鑑定人の意見の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するために必要な事項について(規則132条の4)、裁判長、鑑定を申し出た当事者、その他の当事者の順で質問するものとされた(215条の2)。

正当な質問事項は、「鑑定人の意見の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するために必要な事項」である。当事者は、鑑定人を侮辱し、又は困惑させる質問や、正当な質問事項に関係のない質問をしてはならない。また、正当な理由がない限り、誘導質問や既にした質問と重複する質問をしてはならない。裁判長は、そのような質問を申立てにより又は職権で制限することができる(132条の4)。鑑定人も質問制限を申し立てることができると解すべきである。

質問と尋問  質問と尋問の本質は同じであり、区別は難しい。民訴規則115条は、証人について「質問」の語を用いており、尋問の中核をなすのが質問であることを表している。民訴法は、証人について「尋問」(202条等)の語を用い、鑑定人について「質問」(215条の2)の語を用いているが、この違いは、平成15年改正の経緯から見て、鑑定人には丁重に応対する必要があることによるものであろう。235条2項の「尋問を受けるべき者」の中には鑑定人も含まれるから([東京地裁証拠保全*2010a]85頁)、鑑定人に対する質問も尋問の一種ということができる。

テレビ通話方式による意見陳述と質問(215条の3規則132条の5
遠隔地にいる専門家の口頭での意見陳述を容易にするために、映像等の送受信による通話の方法による陳述も認められている。鑑定人が出頭すべき場所は、受訴裁判所が相当と認める場所でよく、裁判所に限定されていない(規則132条の5規則123条と対照)。

受命裁判官等の権限(215条の4
受命裁判官又は受託裁判官が鑑定人に意見を述べさせる場合には、裁判所及び裁判長の職務は、その裁判官が行う。ただし、質問の順序を変更することについて当事者が異議を述べた場合には、異議についての裁判は、受訴裁判所がする。これは証人尋問の場合と同様である。当事者の異議について裁判所が直ちに裁判できない環境で鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合には、予め質問の順序について当事者と協議し(規則129条の2)、変更が適当であればその裁判を予めしておくべきであろう。

証人尋問の規定の準用(216条
鑑定も、鑑定人となった個人が正しい裁判の実現に協力する義務を基礎とするので、同じ基礎をもつ証人尋問に関する次の規定が準用される[4]。
次の規定が準用されないことに注意。
鑑定証人(217条
自己が体験した事実を陳述する者は、たとえその事実が特別の学識経験により知り得た場合であっても、証人であると位置付けられ、その事実についての尋問は証人尋問となる(217条はこのことを注意的に定めた規定と解されている。同趣旨の規定として、刑訴174条参照)。例えば、治療に当たった医師が患者の病状・治療内容について陳述する場合がそうである。当事者本人が特別の学識経験により知り得た事実について尋問する場合は、当事者尋問となる。

鑑定の嘱託(218条
鑑定は、内外の官庁・公署または相当の設備を有する法人に依頼することもできる。このことを定める218条は、次の2つの点で重要である。
法人等が鑑定を行う場合には、宣誓に関する規定は準用されない。鑑定書は、法人等に属する特定の者が作成することになるが、その者が鑑定人となるわけではない。裁判所は、必要があると認めるときは、法人等が指定した者に鑑定書を説明させることができ、当事者はその際に鑑定の経過等を質問することができる。

専門訴訟
医療・建築・特許のような分野の訴訟は、専門的知識が必要となるのが通常であり、そのような専門知識を必要とする民事訴訟を「専門訴訟」という[R71]。裁判所に専門的知識を供給するための中立性の高い鑑定人を早期に得ることが必要となるが、現実には鑑定人を得るのに時間がかかっている。そのことも一因となって、専門訴訟は通常の訴訟事件よりも長期化する傾向にある。

公正、中立で適切な鑑定人の選任を早期に得るために、2001年7月に、最高裁判所に医事関係訴訟委員会及び建築関係訴訟委員会が設置された。

知的財産の領域では、発明の技術的範囲等一定の事項について裁判所から特許庁に鑑定の嘱託があった場合に、どのように対応するかが特許法等で規定されている[1]。この場合に、特許庁は判定請求の料金と同額を裁判所に請求する。また、特許権等の無体財産権(産業用知的財産権)の侵害訴訟において、当事者の申立てにより、裁判所が当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な事項について鑑定を命じたときは、当事者は、鑑定人に対し、当該鑑定をするため必要な事項について説明しなければならない、と明規されている(特許法105条の2など)。

目次文献略語
1998年12月15日− 2021年5月19日