注1 専門訴訟における鑑定 下記の事項について明文の規定がある。
特許庁は、上記以外の事項についての鑑定の嘱託を拒絶できるかが問題となるが、公法上の一般的義務として公正な裁判の実現に協力すべき義務があり、正当な理由がない限り拒絶できないと解すべきであろう。
注2 鑑定命令を発するにあたって、鑑定人となるべき者の承諾は法規上は不要であるが、実際上は承諾を得るのが通常となろう。
注3 平成15年改正以前は、証人尋問に関する次の規定が準用されていたが、改正により準用は廃止された。下記に付記した説明は、改正前に準用されていたことの理由の説明である。
注5 対質は、明治23年民事訴訟法311条2項で規定されていたが、その意味するところは、草案(テヒョー草案)302条2項の文言の方がわかりやすい;「証人の供述他の証人の供述と齟齬する時は同時に之を審問することを得」(原文はカタカナ)。対質は、証人同士が論議すること、あるいは対決的に質問しあうことではない。[山内*1931a] 79頁、[条解*1997a]260頁、 [伊藤*民訴]335頁参照。
注6 ドイツ民訴法では、1933年のZPO改正で、宣誓要求制度を廃止するとともに当事者尋問制度が採用された([伊東*2001a]=伊東俊明「ドイツ法における宣誓要求制度の意義と機能(3完)」小樽商科大学商学討究52巻1号226頁参照)。日本法では、明治23年法当時から宣誓要求制度はなく当事者尋問制度が採用されていた(明治23年法360条)。
注8 当事者がこの説明義務を果たさない場合には、次の措置をとることになろう。
注9 アメリカ合衆国の通常の民事裁判では陪審制が採用されており、鑑定人の仕事は陪審員に判断材料を提供することであり、裁判官の仕事は陪審員に適切な判断材料を提供することができる鑑定人を選任あるいは選別(当事者から申し出られた鑑定人の選別)することとなるようである(後記の[山口*2003b]による)。薬害紛争等における疫学的証明の鑑定を素材にして問題状況を紹介するものとして、[山口*2003b]=山口龍之「民事訴訟における科学鑑定に関する一考察 ──米国での議論を参考にして」島大法学47巻2号25頁-78頁 がある。
注10 当事者尋問はなぜ職権で行うことができるのかは、案外難しい質問である。差し当たり次のことを指摘しておこう。(α)弁論主義の下で、裁判の基礎資料の第1のものは当事者の主張であり、裁判所は当事者の主張を聞くことの延長線上で、当事者を職権で尋問することができるとしてよい。(β)当事者尋問のために当事者が出頭するための費用は訴訟費用の中に含まれるが(民訴費用法2条4号)、それは敗訴当事者が勝訴当事者に償還する形で支払われるものであり、証人の旅費や日当・宿泊料(同18条)のように裁判所が支給することを要する費用ではないという意味で(費用の予納が必要ないという意味で)、当事者尋問は費用のかからない証拠調べの方法である。(γ)裁判所は、常に両当事者に公平でなければならないという視点からすると、裁判所が証人を見つけだすことは、偶然に左右される可能性が高く、従って職権による証人尋問は当事者に不公平感を与えやすい。これに対して、当事者尋問の対象となる当事者の存在は裁判所に明らかであり、その発見が偶然に左右されることはなく、また、裁判所が一方当事者のみを尋問したことを不公平と考える当事者は、まだ尋問されていない当事者(自己又は相手方)の尋問を申し出ることにより、その不公平感を容易に解消することができる。(δ)弁論主義も絶対的な原則というわけではなく、真実に基づく裁判の要請との緊張関係の中でその妥当範囲が決まるべきものである。現行法は、その緊張関係の中で、前記(α)(β)(δ)をも考慮して、当事者については職権で尋問することができるとしたと考えることができる。
注11 総務省の法令データ提供システムで、「人の秘密」をキーワードにして検索すると、2004年11月7日現在で、53件の法律がヒットする。これらの守秘義務違反には、刑事制裁が科されていることを考慮すると、その多くについて(公務員関係を除く)、2号の類推適用を認めるべきであろう。その点からすれば、2号の文言が適切かも問題となる。
注12 民訴法209条1項に規定する過料の裁判は,裁判所が職権によって行うものであり,訴訟の当事者はその裁判を求める申立権を有しない。最高裁判所 平成17年11月18日 第2小法廷 決定(平成17年(ク)第626号)。
注13 金融監督庁長官の命令に基づき損害保険会社の旧役員の経営責任を明らかにするために保険管理人が設置した弁護士及び公認会計士による調査委員会の調査報告書は,民訴法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」には当たらないとされた事例である。
この判示は、最高裁の後続の次の先例でも確認されている。最高裁判所 令和3年3月18日 第1小法廷 決定(令和2年(許)第10号 )。
注15 視点を変えて言えば、ある者が反社会的な行動をしても、絶対的な孤立に追い込むことは適切ではなく、親族間の連帯を維持することを認めるべきだからである。さらに、親族が刑事訴追を受け、あるいは有罪判決をうけることが、証人自身に社会生活上不利益を及ぼす可能性が高いことも、根拠の一つに挙げることができる。
注16 明治23年法297条では、証人が当事者と一定の身分関係があること自体を理由に、一切の事項について証言拒絶権があるとされていたが、これでは適正な裁判を実現することが困難であるとして、大正15年改正の際に、現行法のように改められた。[山内*1931a]69頁以下参照。
注17 こうした証人保護の必要性は、刑事訴訟手続においてより深刻であり、証人等の保護について先進的である。刑事訴訟法の次の規定も参照。
注18 例えば、名古屋高等裁判所 平成25年5月27日 民事第3部 決定(平成24年(ラ)第267号))。