目次文献略語

民事訴訟法講義

判決の効力 3


関西大学法学部教授
栗田 隆

8 既判力の主観的範囲(115条


8.1 相対性の原則

既判力は訴訟の当事者間で作用し(115条1項1号)、当事者以外の者には及ばないのが原則である。その根拠は、次の点にある。
同一物についてA・B・Cがそれぞれ自己の所有権を主張している場合に、A・B間の訴訟ではAの所有権が認められ、B・C間の訴訟ではBの所有権が認められ、C・A間の訴訟ではCの所有権が認められると収拾がつかなくなる。しかし、このようなことは実際上は稀である。また、このような3者間の紛争を一挙に解決し、判決の矛盾が生じないようにするための制度として、独立当事者参加の制度が用意されている(47条)。

当事者を異にする矛盾判決の解決手続
同一当事者間で既判力ある判断が矛盾した場合には、後で確定した判決は再審訴訟により取り消されるべきものとされている(338条1項10号。取り消されるまでは、後で確定した判決の判断が優先する)。これに対して当事者を異にする判決に矛盾がある場合については、そのような取消手続は現行法では用意されていない。しかし、現実問題として、前述のような形で矛盾した判決が出た場合に、それを放置したのでは、社会生活上著しく不便である。適当な解決手続が用意されるべきであり、解釈論により補充することにしよう([栗田*2002d]745頁以下参照)。
要件  3人以上の者の間で論理的に矛盾した2個以上の判決が存在し、既判力の主観的拡張がないため、その矛盾を再審の訴えによって除去することができず、かつ、その矛盾判決が存在することにより当事者間の社会生活に重大な支障が生ずる場合には、矛盾する判決の名宛人全員を当事者とする矛盾解決のための訴訟の提起が許される。請求は、矛盾解決に適したものであれば、何でもよいが、前述の例では、AがB・Cを被告に提起する場合には、Aの所有権確認請求となる。
効果  判決の矛盾の解消という目的の達成のために必要な範囲で、従前の確定判決の既判力は制限される。前述の例では、CA間のCの所有権を認める判決の既判力は、矛盾解決訴訟には及ばない。
手続  原告適格を有するのは、矛盾判決の各名宛人であり、被告となるのは、矛盾判決の名宛人のうちで原告以外の者全員である(固有必要的共同訴訟)。矛盾判決の解決に関心を持たない者は、訴訟手続から離脱(脱退)することができ、これにより訴訟費用の負担から逃れることができる。裁判所は、残存当事者の提出する資料に基づいて判決をし、第一審判決またはこれに代わる上訴審の判決は離脱者(脱退者)を含む全員を名宛人とする。
判決効  矛盾解決判決の既判力ある判断は、最新の判断として、先行する判決の既判力ある判断に優先する(これは、矛盾解決判決に抵触する範囲で、先行する判決の既判力は当然に消滅することになると言い換えてよい。いずれにせよ、取消宣言等は必要ない)。判決は、名宛人全員を拘束する(被告間でも拘束力がある)。
評価(濫用の可能性)  矛盾解決訴訟が敗訴判決の実質的無効化のために濫用されることがあってはならないことは言うまでもない。例えば、CのAに対する所有権確認訴訟において、敗訴したAがBをダミーの被告にして所有権確認の訴えを提起して勝訴すれば、直ちに矛盾解決訴訟が可能になると言うのであれば、濫用の可能性が高い。しかし、「要件」の項で述べたように、矛盾解決訴訟の提起のためには、BのCに対する所有権確認訴訟においてCが敗訴していることが必要である。要件をこのように設定しているので、矛盾解決訴訟が濫用される可能性は低いと評価してよいであろう。

8.2 既判力の拡張

既判力は、紛争解決の実効性を高めるために、当事者以外の一定範囲の者にも拡張される[CL2]。
  1. 115条による拡張(115条1項2号−4号)
    • 訴訟担当の場合の被担当者(利益帰属主体)(2号)
    • 既判力の標準時後の承継人(3号)
    • 係争物の所持人(4号)
  2. その他の規定による拡張  個別の法律関係の特性に基づいて個別の規定により判決効が拡張されている場合がある(例えば、破産債権確定訴訟に関する破産法131条)。

115条が対象とする効力
115条1項にいう判決の効力の中心は、既判力である。しかし、内容的効力のうち執行力の主観的範囲については、民執法23条に一般規定が、民事保全法62条1項などに特則の規定があるので、狭義の執行力は115条1項の対象外となる。形成力については、別個の取扱いが必要である([伊藤*民訴v4.1]534頁)。

紛争蒸返しの禁止の法理による効力(主張禁止効、提訴禁止効)が当事者に生ずる場合に、この効力が判決効の及ぶ他の者にも及ぶかが問題になる。この効力は制度的効力ではないので、既判力と比較すると、その拡張の必要性は高くはなく、また、信義則に基づく効力であるから、個別の事案ごとに拡張の当否が検討されるべきものである。ただ、一般論として言えば、被担当者(115条1項2号)への拡張は認められやすく(特に任意的訴訟担当の被担当者への拡張は原則的肯定してよく)、承継人(3号)への拡張には慎重であるべきと言えよう。

115条 2項が仮執行宣言について1項の規定を準用しているが、これは、狭義の執行力ではなく広義の執行力に関係する[9][10]。

8.3 当事者(115条1項1号)

当事者として訴訟追行の機会を与えられた者には既判力が及ぶ。判決確定前に当事者の死亡等により訴訟の当然承継があった場合には、承継人を指す。この場合には、訴訟手続の中断後に新当事者が受継して(124条1項1号)、あるいは訴訟代理人がいるため中断しない場合(124条2項)にはこの者からの届出により、承継人が判決において当事者として表示されるのが原則であるが、判決に表示されたか否かにかかわらず、承継人が当事者として既判力を受ける(115条1項1号)。上告審係属中に当然承継があって、その後に上告が棄却された場合も同様である(この当然承継人を3号の承継人と考える見解もあるが、そのように考えるのは適当ではない)。

既判力が当事者以外の者には及ばないことの例
発展問題
原則(二当事者対立構造)  民事訴訟では、「対立する二当事者間の紛争を相対的に解決すれば足り、紛争解決のために対立当事者の一方(原告)が請求を提示し、その請求の当否について双方(原告と被告)が主張と立証をなし、その請求について裁判所が下した判決は対立する二当事者を拘束し、かつ、当事者のみを拘束する(既判力を有する)」という訴訟構造が採用されている。これを「二当事者対立構造」という。したがって、115条1項1号にいう「当事者」とは、請求について攻撃防禦方法を提出し合う原告と被告を指す。例えば、同一の不動産についてX・Y・Zの三者がそれぞれ自己の単独所有権を主張している場合に、XがYとZとを共同被告にして所有権確認請求の訴えを提起し、その請求認容判決が確定した場合に、既判力の及ぶ当事者は、XY間の請求についてXとYであり、XZ間の請求についてXとZである。YZ間には請求が立てられていないので、両者の間では、「本件不動産がXの所有に属することを確認する」との判断は拘束力を有しない。このことを明確にするために、「本件不動産がXの所有に属することを確認する」との文言の前に、「原告Xと被告Yとの間において、」あるいは「原告Xと被告Zとの間において、」の文言が付加されることがある。

独立当事者参加訴訟   独立当事者参加訴訟(47条)は、しばしば「三当事者対立訴訟」あるいは「三面訴訟」といわれるが、この訴訟においても、3者のうちの2者間の請求に関する判決の既判力が他の1者に及ぶことはなく、その点で、二当事者対立構造が基本的に維持されている。ただ、三者間で論理的に矛盾のない紛争解決を実現することがこの訴訟の制度目的であるので、必要的共同訴訟に関する40条1項から3項までの規定が準用され(47条4項)、各当事者は、他人間の請求についても判断資料を提出することができるとされているにとどまる。

例外(遺産確認訴訟を例にして)  しかし、法律関係を合一的に確定することが強く要求される固有必要的共同訴訟においては、判決の既判力は被告間にも及ぶと考えるべきである。例えば、ある財産が遺産に属するのか共同相続人の一人の固有財産に属するのかが争われている場合の遺産確認訴訟は、共同相続人全員を当事者とすることが必要な固有必要的共同訴訟と解されている。4人の共同相続人A・B・C・Dがいて、ある不動産が遺産に属することをAが主張し、Bがこれを否定して自己の固有財産であることを主張し、CがAの主張に同調し、DがBの主張に同調する場合に、遺産確認訴訟を提起するAは、BのみならずDを被告にしなければならず、さらに、Cが共同提訴を拒むときには、Cも被告にしなければならない。Aの請求を認容する判決の既判力は、原告であるAと被告B・C・Dとの間に及ぶのみならず、被告相互間にも及ぶと解さなければならない(そうしないと、法律関係の合一的確定という目的が達せられない。したがって、請求を認容する判決主文において、「原告と被告らとの間において、」といった文言を付す必要はなく、また、付すべきではない。)。この点を滑らかに説明するためには、原告1人と3人の被告との間に3つの請求があると考えるよりも、Aが提示した一つの請求について、ABCDの4人が当事者になっていると構成するのがよい。

境界確定訴訟の場合  同様に、境界確定が必要な隣接地の一方がAとBの共有に属し、他方がCの所有に属してい場合に、Bが共同提訴に応じなければ、AはCとBを被告にして境界確定訴訟を提起することができる。その訴訟で下された判決の既判力は、被告BC間にも及ぶとしなければならない。前記の場合に、AとBが共同原告になってCを被告にして提起した境界確定訴訟の判決の既判力がAB間にも及ぶと考える必要性はそれほど高くない。しかし、既判力がAB間にも及ぶとすることに支障があるとも思われない。法律関係の合一的確定のために、この判決の既判力はAB間にも及ぶと考えておく方がよい。

8.4 訴訟担当(115条1項2号)

任意的訴訟担当における本人への拡張
任意的訴訟担当の場合の既判力拡張の根拠は、被担当者が担当者に訴訟追行を授権したことである。訴訟に勝訴することを条件に訴訟追行を授権することは許されず、担当者の勝訴・敗訴にかかわらず、既判力は被担当者に拡張される。

法定訴訟担当における本人への拡張
法定訴訟担当の場合に、判決の効力をどのように及ぼすべきかについては、見解が分かれる。
)破産管財人による破産財団に関する訴訟(破産法80条)や、後見人あるいは後見監督人が成年被後見人のために追行する離婚訴訟(人訴14条)の場合などには、判決効を被担当者に全面的に及ぼすことを正当化する十分な根拠がある。
)次のような訴訟については、これを訴訟担当ととらえるべきか、訴訟担当ととらえた場合に、判決の効力をどのような条件の下で被担当者に及ぼすべきか、あるいはどの範囲で及ぼすべきかについて、争いがある。
債権者代位訴訟を例にして
代位訴訟を例にして言えば、債権者が追行した訴訟における敗訴判決の効力を本人に及ぼすことを妨げる次のような事情がある。
他方で、判決の効力を本人に拡張することを求める次のような要請もある。
そのため、被担当者に敗訴の結果を及ぼすべきか否かについて、見解が対立している。大まかに言えば、次のようになる。
  1. 全面的拡張説  代位訴訟も通常の訴訟担当であり、判決効は被担当者に全面的に及ぶ。判例はこの立場である(大審院 昭和15年3月15日 第5民事部 判決(昭和14年(オ)第123号))。現在のところ、学説の多数説と見てよい。
  2. 勝訴判決拡張説  担当者の勝訴の場合にのみ被担当者に及ぶ[12]。
  3. 条件付拡張説(1)  代位訴訟が担当者のための訴訟担当であることを強調した上で、被担当者に参加の機会を与えることを条件に、既判力は被担当者に及ぶとする。被担当者に参加の機会を与える負担を誰に負わせるかについては、担当者と相手方の2つの選択肢があるが、担当者がこの措置(53条の訴訟告知など)をなすことを原則とすべきである。担当者がこの措置をとることにより初めて彼の訴訟担当資格が根拠づけられ、それをしないと訴えは却下される。[19]
  4. 否定説  代位訴訟は固有適格に基づく訴訟追行であり、訴訟担当ではない。
  5. 条件付拡張説(2)  否定説が基本的に正当である。ただし、民執法157条の参加命令の制度の類推適用などにより、相手方は、被担当者に訴訟参加の機会を与えれば、判決の効力を被担当者に拡張させることができるとすべきである。

全面的拡張説に従っても、担当者と自称する者と相手方との間の訴訟において、自称担当者が担当資格を有しなかったことが判明すれば、訴えは却下される。訴えが却下されることなく本案判決が下された場合でも、後に被担当者と相手方との訴訟において自称担当者が実際には担当資格を有していなかったことが判明すれば、自称担当者が追行した訴訟の本案判決の効力は被担当者には及ばない。相手方は、そのリスクを軽減するために、被担当者に訴訟告知をすべきである。
Xが次のような実体関係を主張して、Yに対して債権者代位訴訟(β債権取立訴訟)を提起した。裁判所により、α債権は存在するがβ債権は存在しないと判断され、請求棄却判決が確定した。その後に、ZがYに対してβ債権の取立訴訟を提起した。この訴訟の裁判所は、XY間の訴訟の口頭弁論終結当時にα債権は存在していなかったと判断し、かつ、β債権は現存するとの判断に達した。裁判所はどのような判決をすべきか。代位債権者の法的地位について判例の立場を前提して、考えなさい。
X──(α債権)─→Z──(β債権)─→Y

A──(α債権)─→B──(β債権)─→C
注意 今しばらく、全面拡張説を前提にしよう。B(被代位者)の債権者であるA(代位債権者)がBの債務者であるC(第三債務者)を被告にして、BのCに対するβ債権(6金額00万円)の取立訴訟(債権者代位訴訟)を提起したとする(右の図参照)。この訴訟におけるA勝訴の確定判決は、β債権が存在するとの判断にも既判力が生ずる(一般にそのように考えられている)。同判決確定後にBがAに弁済をし、時効中断のために再度Cに対してβ債権取立訴訟を提起したとする。今、利息や遅延損害金を無視していえば、前訴の請求の趣旨は、通常「被告(C)は、原告(A)に対して金600万円を支払え、との判決を求める」であり、後訴の請求の趣旨は、「被告(C)は、原告(B)に対して金600万円を支払え、との判決を求める」であり、請求の趣旨は支払先が異なる限度で異なる。その違いにあるにもかかわらず、前訴の訴訟物についてなされた既判力ある判断(β債権が存在するとの判断)は、後訴の裁判所がその訴訟物について判断する際に、拘束力を有するのであるから、請求の趣旨の前記の相異は訴訟物の相異をもたらさないと説明する必要がある。さらに進んで言えば、前訴においてAが当事者適格を有することは、訴訟物の特定要素にならないことになる。なお、一般論として、原告が当事者適格を有すること(訴訟追行権を有すること)は、訴状の必要的記載事項に含まれるかという問題があるが、請求欄の当事者欄の記載事項と考えるべきであろう[25]。

発展的問題(1) 詐害行為取消訴訟
詐害行為取消権(民法424条)は、債権者代位権とともに、債務者の責任財産を保全するために債権者に与えられた権利であるが、権利の内容は異なる、債権者代位にあっては、債権者は債務者が有する権利を行使するのであるが、詐害行為取消しにあっては、債権者は債務者が有しない権利を行使する。複数の債権者が詐害行為取消権を行使する場合に、各債権者の行使する取消権の関係をどのようにするかについては、少なくとも立法論としては、さまざまな可能性がある。例えば、(α)詐害行為がなされた当時の債権者らに1つの取消権が与えられ、最初にそれを行使する者が全債権者のためにそれを行使すると構成することも可能である(ただし、債権者が金銭の給付を求める場合(価額賠償を求める場合や、債務者による金銭給付を取り消す場合)には、各債権者の債権額の範囲で取消請求することになるので、一部行使になる)。他方で、(β)債権者取消権は、各債権者に固有に認められた権利であるとすることも可能である。

これらの法律構成の違いは、取消訴訟における請求棄却判決の効果が他の債権者に及ぶかの問題についても違いをもたらそう。すなわち、前者の構成をとれば、既判力は他の債権者にも及び、後者の構成をとれば、及ばない。現行法の解釈として、(α)の構成も否定し得ないが、しかし、一般には、(β)の構成によっているものと思われ、この講義もこれを前提にすることにしよう。

したがって、受益者は、詐害行為当時の債権者の数だけの取消訴訟にさらされることになり、全部の取消訴訟に勝訴しないと自己が得た利益を確保できず、各債権者は自らが提起した取消訴訟において敗訴しても、他の債権者が勝訴すれば、受益者から債務者に返還された財産(特に不動産)から配当を得ることができることになる。

受益者の負担軽減のために、1人の債権者から取消訴訟が提起された場合に、他の債権者をその訴訟に引き込む道が開かれていることが好ましいとも思われるが、現行法では、その手だては用意されていない。そもそも、詐害行為当時の債権者全員を把握することは困難であるので、立法論としても、受益者勝訴判決の効力を全債権者に及ぼすために全員を1つの取消訴訟に引き入れる道を開くことは困難であり、知れている債権者に取消訴訟の係属を通知して判決効拡張の道を開くことにとどまろう。

発展的問題(2) 担保信託
信託法は、担保権のみの信託(Security trust)を認めている(同法3条1号・2号中「担保権の設定」・55条参照)。この信託がなされた場合には、担保権は受託者に属するが、被担保債権は受益者に属するという形で、担保権と被担保債権の帰属者の分離が生ずる。この場合には、「担保権の実行の申立て、売却代金の配当又は弁済金の交付を受ける」者は、受託者であるとされている(信託法55条)。(α)配当異議の訴えの当事者となる者は誰であるかは、明示されているとは言い難いが、この信託が行われる場合の1つとして、被担保債権が転々譲渡される場合が想定されているのであるから、担保権者である受託者が配当異議の当事者となるのでなければ、この信託の目的は十分に達せられないであろう。すなわち、「配当・・・を受けること」の中には、配当異議を述べ、配当異議訴訟において原告又は被告となることも含まれている解すべきである。そして、その配当異議訴訟の中で、被担保債権の存否が争われ、判決理由中で判断され、その結果が配当表の変更を命ずる判決や異議を棄却する判決に結実し、その判決に基づく配当結果を不当利得返還請求により争うことは、この判決の既判力により許されない。その既判力は受益者にも及ぶとしなければならない。その既判力の拡張は、民訴法115条1項2号に基づくものと説明すべきであろう。もっとも、被担保債権の消滅時期に関し、「受託者が受領した配当または弁済金を受益者に現実に交付してはじめて消滅することになる」とする見解([寺本*2007a]192頁)もる。この見解は、受託者による担保権行使が受益者の有する被担保債権に及ぼす影響を最小限度にとどめようとする見解と見ることができる。したがって、この見解は、前記の既判力拡張には消極的であると予想される。他方、(β)抵当不動産所有者兼債務者が配当異議請求に被担保債務不存在確認請求を併合する場合に、債務不存在確認請求の被告になるべきものは、抵当権者(受託者)か債権者かの問題が生ずるが、この請求は、配当問題の解決に必要不可欠というわけではないので、債権者(抵当権信託の受益者)としてよいであろう。

8.5 口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)

特定承継人への判決効拡張の根拠
必要性  民事訴訟法は、紛争解決の実効性を確保し、勝訴当事者の手続的利益(費用と労力を払って勝訴判決を得たという利益)を保護するために、確定判決の効力を既判力の標準時である事実審の口頭弁論終結後の承継人(既判力の及ぶ当事者又は被担当者からの承継人)に拡張することにした(115条1項3号)。承継人への拡張が必要になる場合として、例えば、次の場合がある。
許容性  例えば、建物所有者Xが建物占有者Yに対して建物明渡請求の訴えを提起したところ、Yの借家権の抗弁が認められて、請求を棄却する判決が確定したとしよう。この建物をXから購入したZは、前訴の口頭弁論終結時にYが建物明渡義務を負っていないとの判断に拘束される(その義務が存在することを主張するために、前訴の口頭弁論終結時にYの借家権が存在していなかったと主張することは許されない)。この拘束は、Zに不利益である。その不利益をZに押しつけることはなぜ許されるのかを考えてみよう。それは、次のように説明することができる[1]。
  1. Zは、Xから権利を承継するに当たって、目的物の権利関係を十分に調査すべきである。調査の結果、Yに対する明渡請求を棄却する判決が存在することを知りながら建物を購入したのであれば、その判決に拘束されるという不利益を甘受すべきである。調査したにもかかわらず、それを知ることができなかったというのであれば、調査不十分というべきである。調査不十分の結果自己に生じた不利益を、XZ間の承継に関与できないYに押しつけることは許されない。
  2. Zは、調査に際して、建物の権利関係に関する十分な情報をXに求めることができる地位にある。もし、ZがXから十分な情報を提供されないまま購入したのであれば、ZはXに裏切られたことになる。Zは、信頼を裏切ったXに対して賠償を求めるべきであり、Xの相手方であるYに不利益を押しつけることは、許されない(類似の議論は、民法192条の根拠としても出される[20])。訴訟の当事者とその承継人との間には、多くの場合に、こうした意味での信頼関係がある。

根拠が妥当しない場合  以上のような既判力拡張の根拠が妥当しない場合には、既判力の拡張は制限されるべきである。
 |この段階で特定承継があった場合には、
 |49条以下の問題となり、
 |115条1項3号は適用されない。
 |
事実審の口頭弁論の終結(既判力の標準時)
 |
 |この段階で特定承継があった場合には、
 ↓115条1項3号が適用される。
特定承継人の範囲(1)──基本的問題
)判決効(既判力)は、 事実審の口頭弁論終結後の承継人にのみ拡張される[22]。 口頭弁論終結前に承継があった場合には、訴訟に参加し(49条・51条)、あるいは訴訟を引き受けさせ、当事者として判決の効力を受けるようにすべきである(50条・51条)。

承継の時点    承継の時点は、できるだけ外部の者、特に訴訟の相手方当事者から認識可能になる時点とすべきである。そうでなければ、被承継人を相手に無駄な訴訟をする危険を相手方当事者に押し付けることになり、不当である。対抗要件の具備を必要とする権利については、対抗要件具備の時を承継の時期とすべきである。下の図のZは口頭弁論終結後の承継人にあたる。
Y←(建物収去・土地明渡請求)─X

|口頭弁論終結前に建物を譲渡し、
|口頭弁論終結後に所有権移転登記を
|経由した。

 しかし、権利取得を第三者に対抗するために対抗要件が必要な財産でも、対抗要件の具備を要しない権利変動もあるので、注意が必要である。例えば、Xの不動産についてXの意思に基づかない偽造文書によりXからYへ所有権移転登記がなされたと主張して、XがYに対して所有権移転登記抹消請求の訴えを提起し、その訴訟の係属中にXとZとの間でその不動産について売買がなされ、Xの主張する所有権がZに移転した場合には、承継の時期は、X・Z間における所有権移転時期となる。

形式説と実質説  承継人が独自の抗弁を主張することができる場合の説明については、次の2つの可能性がある(既判力に関する限り、説明の差異であり、結論に差異が生ずることはない)。
  (所有権に基づく) 勝訴
Y←──(引渡請求)──X
売主         第1買主

|譲渡+所有権移転登記

Z・第2買主
XのYに対する請求認容判決が確定した。その事実の口頭弁論終結後にZがY係争不動産を買い受けて所有権移転登記を得た。Zが悪意者(ないし背信的悪意者)に該当しない限り、Xからの明渡請求を拒むことができるとの結論は動かない。問題は、115条1項3号との関係でそれをどのように説明するかである。
  1. 実質説  ZはXに対して所有権を主張できるから、Yの承継人ではない。
  2. 形式説  ZはYの承継人であり、YがXに対して明渡義務を負っているとの判断及びXのZに対する明渡請求権の主張を既判力の標準時前の事由で争うことはできない。しかし、自分がXより先に対抗要件を得たという独自の抗弁を提出できる。

形式説と実質説の差異
拡張の基準 拡張される既判力の作用
実質説 承継人が相手方に対して判決に表示されている義務ないし類似義務を負っていること(または、権利を有していること) 被承継人の地位も前訴判決の既判力によって確定される。
形式説 承継の事実のみ 被承継人とその相手方の間の法律関係に関する既判力ある判断は、承継人との関係でも尊重されるべきである。承継人は、その判断を前訴の口頭弁論終結前の事由で争うことができない。しかし、その判断あるいはそれを前提とする相手方の自己に対する法律関係の主張を前訴の口頭弁論終結後の事由あるいは被承継人が提出することのできない事由などで争うことはできる。

学説の多くは形式説である[18]。判例は実質説であると評価されることもあるが[8]、最近では、そのような評価は適切でないとする見解が多い。

特定承継人への既判力拡張の意味
)貸金返還請求を認容する確定判決の口頭弁論終結後に当該貸金債権が譲渡される場合のように、訴訟物たる権利関係自体が承継される場合については、既判力の拡張は、まず、(α)当該債権が存在するとの既判力ある判断が承継人と相手方との間でも拘束力を有することを意味する。そこから、(β)相手方は、承継人との関係でも、当該債権の存在を既判力の標準時前の事由で争うことを禁止される(遮断される)ということがストレートに導かれる。

X・Y間で所有権の帰属について争いのある土地について、XのYに対する所有権確認請求を棄却する判決の口頭弁論終結後にZがYからその土地を承継した場合にも、「当該土地についてXは所有権を有しない」との判断に既判力が生じ、その判断の拘束力がX・Z間に拡張される。したがって、Xは、Zとの関係でも、その判断を既判力の標準時前の事由で争うことを禁止される(遮断される)ということが直に導かれる。

)しかし、既判力の拡張が上記のような場合にとどまらず、いわゆる紛争主体たる地位の移転の場合にも肯定されるようになると、既判力拡張の意味の説明には工夫が必要になる。例えば、土地所有者Xが地上建物の所有者Yに対して建物収去土地明渡請求の訴えを提起し、その認容判決が確定し、その後にZが、建物とともに敷地の借地権を取得するつもりで、建物をYから取得した場合を考えてみよう。この場合に、ZのYに対する建物収去土地明渡義務は、Yから承継されたものではなく、Zが建物所有者になったことにより、Xに対して原始的に負うのであると説明される。それは、XのYに対する請求権とXのZに対する請求権とは別個のものであることを意味する。したがって、既判力がZに拡張されるとしても、Zは「XがYに対して請求権を有する」との判断を争うことはできないが、「XがZに対して請求権を有する」との判断はまだなされていないのであるから、その判断に既判力は生ぜず、まして、その既判力がZに拡張されることもないことになり、さらに、XのYに対する請求権との関係では、ZはXの土地所有権を争うことやYの借地権の存在を主張することは遮断されるが、そのことから、XのZに対する請求権との関係でも同様な遮断効が生ずること当然には帰結されない、との議論も可能である。ここで見解の対立が生ずる(対立状況につき[長谷部*2017c]372頁以下参照。なお、同論文は、「遮断効」に代えて「失権効」の語を用いる)。一つは、()Xの法的地位の安定のために判決効を拡張すべきであるとの出発点の命題を貫徹するために、XのZに対する建物収去土地明渡請求との関係でも、前記の事項について遮断効を肯定する立場である(拡張肯定説)。もう一つは、()それを根拠付ける実定的根拠がないことを理由に、遮断効の拡張を諦める立場である(拡張否定説)。否定説は、前訴の当事者は、承継人への既判力の拡張が認められる所有権確認や賃借権の存否の確認の訴えを提起しておくべきであるとする。

拡張肯定説が多数説であるが、ただ、その根拠・要件・効果(遮断される事項の範囲)について、見解は分かれている。例えば、
  1. [長谷部*2017c]は、(α)建物収去土地明渡請求の認容判決の口頭弁論終結後に被告が建物を譲渡した場合を取り上げて、次のように説く:失権効拡張の根拠は、被承継人が訴訟物たる権利関係を真剣に争ったこと(攻撃防御が尽くされた上でなされた裁判所の判断の内容的正当性の高さ)に求めることができる;その根拠は、被告(被承継人)が賃借権の存在を主張して、その点について熱心に訴訟追行しつつ、原告の土地所有権について自白した場合に、その自白された事項についても妥当する(381頁−382頁);しかし、被承継人が訴訟追行に不熱心であり、彼が期日に出頭しないため自白が擬制された場合について妥当せず、この場合の失権効を承継人に及ぼすことは正当化されない(382頁)。さらに、(β)建物収去土地明渡請求を被告の土地賃借権の抗弁により棄却する判決の口頭弁論終結後に原告が土地を譲渡した場合を取り上げて、次のように説く:前訴で被告の賃借権の存否が争点になり裁判所が実質的に判断したのであれば、承継人がその判断を争うことは許されない(失権効が承継人にも及ぶ);しかし、原告が被告の賃借権を争わなかったために請求が棄却された場合にまで失権効を承継人に及ぼすことはできない(383頁)。
  2. [笠井*2016a]は、(α)XのYに対する建物収去土地明渡請求を認容する判決の口頭弁論終結後にYが建物をZに譲渡し、その後にXが承継執行文を得て強制執行の申立てをし、これに対してZが請求異議の訴えを提起する場合を取り上げ、次のように説く:XのYに対する建物収去土地明渡請求権が存在したとの判断の既判力はZに対して拡張され、Zは、その判断を覆すことになるYの賃借権が口頭弁論終結時に存在していたと主張することを禁じられ、Zの請求異議は棄却される;同様に、原告が前訴口頭弁論終結後に土地をWに譲渡し、Wが承継執行文を得て被告Yに対して強制執行を申立て、これに対してYが請求異議の訴えを提起する場合にも、XのYに対する建物収去土地明渡請求権が存在したとの判断の既判力はWに拡張され、Yは、その判断を覆すことになるYの賃借権が口頭弁論終結時に存在していたとの主張をWに対してすることを禁じられ、Yの請求異議は棄却される(566頁−567頁)。しかし、(β)XがZに対して建物収去土地明渡請求の訴えを提起することが仮に許されるとすると、拡張否定説が説くように、次のような問題が生ずる:Yの賃借権が口頭弁論終結時に存在しないとの判断は、前訴の理由中の判断にすぎず、これに既判力が生ずることはない。そして、前訴におけるXのYに対する請求と後訴におけるXのZに対する請求とは請求原因を異にし、別個の訴訟物であるから、後訴においてZがYから譲り受けた賃借権を主張することは前訴判決の既判力により遮断されることを根拠付けるこは、簡単にはできない(559頁)。そして、(δ)そもそも、Xは、Yに対する債務名義を利用してZに対して承継執行をすることができるのであるから、XがZに対して提起する建物収去土地明渡の訴えには訴えの利益はないと考えるべきであり、そのように考えれば、前記(β)の問題も検討の必要がなくなる(568頁)。 この見解は、(β)において否定説に惹かれ、(α)において請求異議の訴えの中で遮断効の拡張を認めるべきであるとしている点で、折衷説に分類することもできるが、この講義では、ひとまず肯定説に含めておこう。

いずれの立場をとるべきであろうか。前記の例でXが勝訴判決を得ている場合には、彼の法的地位は執行力の拡張によりかなり保護されるので、遮断効を拡張する必要性は、必ずしも高くない。しかし、Y勝訴の場合(例えばYの借地権が肯定されて請求が棄却された場合)には、執行力の拡張は問題にならず、勝訴判決を得たY及びその承継人であるZの利益を保護は、遮断効の拡張によってのみ実現されることなる。したがって、判決により自己の法的地位の安定を得た者の保護のために、拡張肯定説を採るべきである。遮断効が拡張されるということは、遮断効が及ぶ範囲で(遮断効により保護される範囲で)承継人と相手方との間の法律関係が不可争になることであり、したがって、その法律関係についての判断に既判力が生ずるということと同義である。もっとも、その判断は裁判所によりまだなされていないので、ここでは「判断」の概念の拡張が必要となる。すなわち、既判力は、本来は、裁判所がした判断に生ずるものであるが、既判力の拡張が問題になる場合には、既判力の生ずる「判断」中には、「なされるべき判断」も含まれる。そして、現実に問題となるのは、控訴において承継人がなす主張(通常は、承継人の相手方に対する請求あるいは相手方の承継人に対する請求に含まれる権利主張(狭義の請求))の当否であり、その権利主張が既判力の拡張により不可争になるか否か、逆に言えば、口頭弁論終結後に承継があったことにより争いうるものになることの当否である。そこで、以下では、「なされるべき判断」を包摂する言葉として「主張」の語も適宜に用いることにする。なお、既判力の承継人への拡張の場面では、承継人の独自の主張は、既判力の拡張により遮断されないことにも注意する必要がある。

では、どのような判断に既判力が拡張されるのか、あるいはどのような事項について主張が遮断されあるいは遮断されないのか。それは、承継人への既判力の拡張の根拠(許容性と必要性)により規定されることである。[長谷部*2017c]は、前述のように、被承継人の不熱心な訴訟追行の結果を承継人に押しつけるべきでないとし、被承継人の不出頭の結果自白が擬制された事項の遮断効は被承継人には及ばないとする。それは、判決効の拡張の根拠付けの枠組みの中では、許容性の中に位置づけられる考慮事項であるが、この講義では、そこまで考慮する必要はないとしておこう(被承継人の訴訟追行の熱心さは、相手方が関知しない事柄であり、訴訟追行に不熱心であったことは拡張の必要性を低下させない。許容性の視点から言えば、口頭弁論終結後の承継人は、被承継人が熱心に訴訟を追行したか否かを確認する機会を通常は有するし、確認できなかったとしても、そのことから生ずる不利益は被承継人から回復すべきであり、遮断効の排除という形で相手方に不利益を負わせるべきではないとは思われるからである)。以上のことを前提にして、前訴判決の既判力がZにどのように拡張されるかを見てみよう。この拡張は、次のように2段階にわけて考察するとわかりやすい。

既判力 Yは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの裁判所の判断に拘束され、その判断を既判力の標準時前の事由で争うことを禁止される。
第1段の拡張 Zは、
  1. XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの裁判所の判断に拘束され、
  2. その判断を既判力の標準時前の事由(例えば、前訴の口頭弁論終結時に、Xが土地所有権を有していないこと、あるいは、Yが借地権を有していたこと)で争うことを禁止される。
第2段の拡張 Zは、
  1. XがZに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの主張(Xの所有地にZが無権原で建物を所有しているという事実によりZがXに対して建物収去土地明渡義務を原始的に負っているとの主張)を、
  2. 既判力の標準時前の事由(例えば、前訴の口頭弁論終結時に、Xが土地所有権を有していないこと、あるいは、Yが借地権を有していたこと(それを口頭弁論終結後にZが承継したこと))
で争うことを禁止される。

既判力の特定承継人への拡張は、執行力の拡張との対比で、次のように説明されることがある:
しかし、これは、第1段の拡張を述べているにすぎない。114条1項3号の規定による既判力の拡張は、第2段の拡張まで含むものと解すべきである。それを前提にすると、次のように言うほうがよい:
)上記の例において、YがXのYに対する明渡請求権を争うために前訴の既判力の標準時にXが土地の所有権を有していなかったと主張することは許されないが(遮断効)、Xの所有権自体が確定されているわけではない。Yは、別の請求(例えばYのXに対する所有権確認請求)の訴訟において、前訴判決の既判力の標準時において係争物の所有者はYであってXではないと主張することは許される([中野*1994a10]226頁)。

)以上の既判力拡張のルールを、既判力拡張の必要性を取り込む形で説明すると次のようになる:
この二つを一つにまとめると、
特定承継人の範囲(2)──占有のみの承継がある場合
例えば、XがYに対してYの占有する物の引渡請求訴訟を提起し、その認容判決が確定した後でその執行前に、ZもYに対してその物の所有権を主張し、YがZに目的物を引き渡した場合には、占有権原の承継はないが、それでもYからZへの占有の移転はあるといってよい(Zからみれば、Yによって奪取された占有が任意に返還されたことになる)。この場合にも、既判力拡張を基礎づける承継関係があると評価すべきかは、次の(3)の場合とのバランスで迷うところであるが、この講義では肯定しておこう。ただし、この場合の既判力拡張の効果は、後述のように、それほど大きくない。

特定承継人の範囲(3)──承継人に該当しない場合
例えば、YがZ所有の空家に無断で入り込んで占有している場合に、Xがその不動産の所有権を主張してYに対して明渡請求の訴え提起し、その認容判決が確定した後でその執行前に、Yが任意にその不動産から退去し、その後にZがその建物に居住したとしよう。この場合には、その建物の占有権原の承継も、占有の承継もない。このような場合には、XのYに対する明渡請求を認容する判決の既判力をZに拡張することを根拠づけるに足る承継関係がYZ間にあるとはいえない。

記述要素の発生時期
前 訴 (α)
 ↓
承 継 (β)
 ↓
後 訴 (γ)(δ)
既判力拡張の効果──どのような承継があればどの主張が遮断されるのか
形式説にたつと、ある者が訴訟当事者の一方の承継人であると述べただけでは、その者の法的地位の記述としては、不完全になる。その記述のためには、(α)前訴判決でどのような権利関係が確定されたのか、及び、(β)確定された権利関係に関係する要素についてどのような承継があったのか、の2点をいわば前提条件として述べ、次に、(γ)相手方と承継人との間のどのような権利主張について、(δ)どのような主張が前訴判決の既判力により遮断されるかを明らかにすることが必要となる。ただ、通常は、(α)と(γ)とが一致する事例が問題となるので、(γ)は相対的に重要でない。しかし、それでも多数の組合せが生ずる。いくつかの事例を検討しよう。以下では、純粋に既判力の視点から説明する。いくつかの設例では、紛争の蒸返しの禁止の法理により最終的な結論が修正される余地があるが、ここでは立ち入らない。

)訴訟物たる権利自体を承継した者が承継人の典型例である。例:貸金返還請求訴訟における当該債権の譲受人;所有権確認請求における係争物の譲受人など。

このように係争権利(又は係争義務)そのものを承継した者は、
  1. 前主が敗訴した場合には、前主が主張することを遮断される事由をその権利の存在のために主張することを禁止される。
  2. 前主が勝訴した場合には、相手方が前主に対して主張することを遮断される事由をもって承継した権利の存在を攻撃されることはないという保護を受ける。
  3. 上記のいずれの場合であっても、既判力の標準時後の事由の主張は、相手方も承継人も遮断されることはない。

a')免責的債務引受人(併存的債務引受人については否定説が有力である)のような義務承継についても、同様である。
  1. 前主が敗訴した場合には、前主が主張することを遮断される事由をもってその義務の不存在の主張することを禁止される。
  2. 前主が勝訴した場合には、相手方が前主に対して主張することを遮断される事由をもって承継した義務の不存在を攻撃されることはないという保護を受ける。
  3. 上記のいずれの場合であっても、既判力の標準時後の事由の主張は、相手方も承継人も遮断されることはない。

)訴訟物たる権利義務自体が承継された場合でなくても、相手方・被承継人間の法律関係についての判断の既判力(拘束力)を承継人に及ぼすことを正当化するだけの承継関係が存在する場合には、既判力を承継人に拡張すべきである。

Y←(建物収去・土地明渡し)─X
|             勝訴
|建物譲渡


Zは建物の所有権を承継取得したが、明渡義務まで承継取得したと見ることはできない(そのように見ることは、Zの通常の意思に反する)。明渡義務は、Zが建物所有者になったことにより原始的に発生すると考えるのが適切である。しかし、Zは、建物の譲受けによりXY間の紛争における紛争主体たる地位をYから承継したということができ、ZはYの承継人にあたる。

Zは、口頭弁論終結時において本件土地の所有権がXにあること、Yが土地の占有権原を有しないことを争うことによりXのZに対する建物収去土地明渡請求権を争うことができない。

Y←(建物収去・土地明渡請求)─X
|              勝訴
|建物の賃貸借契約
|建物の占有移転

Z借家人
この場合にも、ZはYの承継人となる。

Zは、口頭弁論終結時において本件土地の所有権がXにあること、Yが土地の占有権原を有しないことを争うことによりXのZに対する建物退去土地明渡請求権を争うことができない。

承継人が主張することを禁止されない事由
承継人が相手方の主張を争うために主張することを禁止されない事由を整理しておこう。説明の単純化のために、ここでは、敗訴当事者の側に承継があった場合を取り上げる。
  1. 前訴の口頭弁論終結後に生じた事由  これは、既判力の標準時の理論により一般的に是認されることである。例えば、動産の引渡請求訴訟に敗訴した被告から口頭弁論終結後にその動産を善意取得した者は、その善意取得の事実を主張して、前訴原告の引渡請求権を争うことができる。
  2. 前訴の口頭弁論終結前から存在していた事由  前訴の口頭弁論終結前から存在する事由で、被承継人が主張しようと思えば主張することもできたものであっても、被承継人の権利に依存しない()承継人自身の権利を基礎とする主張、及び()第三者の権利を基礎とする主張は、前訴判決の既判力によって遮断されない。

上記2を具体例で確認しておこう。
a1)Yが占有する動産について、XのYに対する所有権確認請求と所有権に基づく引渡請求を認容する判決が確定した後で、その執行前に、ZがYのところにやってきて、その動産の真実の所有者はZであると主張した。Yは、前訴判決の存在をZに説明したが、それにもかかわらず、Zが当該動産の所有を巡る経緯を資料に基づき詳細に説明した。Yがその説明に納得して、当該動産をZに引き渡してしまった。そこで、XがZに引渡請求訴訟を提起した場合に、Zは、前訴の口頭弁論終結時において真実の所有者はZであってXではないと主張して、Xの引渡請求権を争うことができる。なぜなら、(α)Zは、当該動産がYからXに引き渡された後でも、Xに対して自己の所有権を主張することができる立場にあるからである。また、(β)Zは、Yから引渡しを受ける際に、X・Y間の確定判決の存在を知ったからといって、Yから引渡しを受けることを諦めるべき取引行為をYとしているわけではないからである。(γ)XY間の確定判決を知った以上は、Zは、Xに対して第三者異議の訴え(民執法38条)を提起すべきであるということはできるが、しかし、その第三者異議訴訟において、前訴の口頭弁論終結時に所有者であるのはZでありXではないと主張できる立場にZがあることに変わりはない。

このような立場にあるZも115条1項3号の意味での承継人というべきである(執行力の拡張との関係では別途検討が必要である)。彼は、Xの請求を争うために、Xの所有権取得の事実を否認するだけでは足りず、自己の所有権の取得原因事実を主張・立証して初めてXの請求の棄却判決を得ることができるからである。これは、ZがXから占有を得る前にXが強制執行によりYから引渡しを受け、その後にZがXに対して引渡請求の訴えを提起する場合に、ZはXの所有権を争うだけでは足りず、自己の所有権取得の原因事実を主張しなければならないことと状況が似ている。この状況を判決の執行前に作り出す点に、XのYに対する請求認容判決をZに拡張する意味があると考えてよい。この意味で前訴判決の既判力はZにも及んでおり、ZはYの承継人であるということができる[3]。

a2)右の図の場合には、Xの請求を認容する判決の確定後に、Yが次のことを主張してXの建物収去土地明渡請求権を争うことは、既判力により禁止される。
  (建物収去・
X−−土地明渡請求)−→Y
勝訴          |建物譲渡
            |
            ▽
            Z
  1. Yが口頭弁論終結前から土地の利用権を有していること。
  2. 土地が口頭弁論終結前からXに属していないこと(典型的には、Yの所有に属しているからXに属していないこと)。 ただし、後述のように、「土地が口頭弁論終結前からZの所有に属しているからXの所有に属さない」との主張は許される。

Xが建物の譲受人Zに対して建物収去・土地明渡請求の訴えを提起した場合に、上記の禁止効はZにも及ぶのが原則である。しかし、Zは前訴の口頭弁論終結時において敷地所有者はZであってXでないと主張することは、(α)ZのXに対する敷地所有権確認の反訴請求との関係で許される。前訴判決は、敷地所有権について既判力のある判断をしていないからである([中野*1994a10]226頁)。その主張は、(β)XのZに対する建物収去土地明渡請求との関係でも許されるべきである。なぜなら、建物の譲渡がなければ、Zが自己の土地所有権を主張することはX→Y間の判決の既判力によっては遮断されないのであり、ZがYの建物を譲り受けたという事実のみでZのその主張を遮断することは正当化されないからである。また、この場合には、たとえZがXの土地明渡請求権を争えないとしても、土地所有権がXに属していることは確定していないのであるから、Zはそれが自己に属することを主張することができ、Zの土地所有権を確認する判決が確定すれば、ZはXに土地の再引渡しを求めうると考えてよく、そうだとすればZは、XのZに対する建物収去土地明渡請求訴訟あるいはZのXに対する請求異議訴訟において、自己の土地所有権を主張してXの自己に対する明渡請求権を争うことができるとすべきだからである。換言すれば、確定判決によるXの法的地位の強化は、もともとZの土地所有権の主張の排除までは含まない。ZがXから借地していたとの事実の主張についても、同様なことがあてはまる。こうした限度、前記bの点の主張制限の例外が認められる。

)YがAから賃借して占有している動産について、Xが自己の所有物であると主張して引渡しを請求した場合に、Yは賃貸人にその旨を通知する義務がある(民法615条)。しかし、その通知をすることなく応訴して、Xの所有権を争ったが、請求が認容されたとしよう。これを知ったAがYとの賃貸借契約を解除し、新規の賃借人Zに目的物を引き渡すようにYに指示し、Yがこれに従ったとしよう。XがZに対して引渡請求の訴えを提起したときに、Zは、当該動産がXの所有物であることを単純に否認して、Xの引渡請求権を争うことを前訴判決により禁止される。しかし、その動産がAの所有物であることを主張・立証して、自己はAからの賃借人であることを理由にXのZに対する引渡請求権を争うことは許されるべきである。なぜなら、Aは、自己の賃借人にすぎないYの敗訴により自己の所有権をXに主張することを封ぜられる理由はなく、ZはそのAの賃借人であるから、Aが主張できることをZも主張できてよいはずだからである。このことは、Yが目的動産をいったんAに返還してからAがZに引き渡した場合でも、ZがYから直接引渡しを得た場合でも、同様である。また、Yが前訴でAの所有権を主張していたか否かに関わらない。

適格承継説と依存関係説
既判力の拡張の基礎となる承継関係をどのように法律構成するかについては、次のような見解がある[2]。
  1. 適格承継説  訴訟物について当事者適格ないし紛争主体たる地位を承継した者も115条1項3号の意味での承継人にあたる(「適格承継説」ないし「紛争主体たる地位の承継説」)。
  2. 依存関係説  訴訟物たる権利関係、その基礎となっている権利関係または訴訟物たる権利関係から派生する権利関係を承継した者(実体法上の依存関係がある者)が115条1項3号の意味での承継人に当たるとの見解(依存関係説)も有力である。

両者の意図した結論自体は、基本的には同じであると見てよく、その意味で、両者の対立は、実質的な対立というより、むしろ表現方法ないし説明方法(法律構成)の対立である。(α)既判力の主観的範囲の拡張は、訴訟法上の効果であるから、その要件を訴訟法の概念を用いて設定しようとするのは、自然なことである。適格承継説が、既判力の拡張を訴訟法上の地位の移転を基準に解決しようとしたことは是認できる。(β)訴訟は実体法上の権利関係を巡る紛争を解決するものであるから、訴訟法上の多くの問題は、実体法上の出来事を標準にして解決されることになる。既判力の拡張の要件の規律において、「紛争主体たる地位の承継」を要件として設定しても、その要件の主要部分は、実体法上の権利の承継あるいは権利義務関係の承継の問題に還元して記述されることになる(実体法上の権利の承継の問題に還元されない部分があるかどうかは、微妙である[21])。

ともあれ、上記(α)(β)を前提にすると、次のような説明が適切と思われるる。
 

設例  AがBに対しα債権(1000万円)を有し、BがCに対してβ債権(800万円)を有し、Aがα債権の保全のためにBに代位してCに対してβ債権取立訴訟を提起し、勝訴判決を得た。その判決の確定後にXがAからα債権を取得した。この場合に、Xは、AC間の訴訟における「被告Cは原告Aに対して金800万円を支払え」との判決の承継人になりうるかが問題になる。もし肯定されるのであれば、適格承継説によれば、次のように説明されることになろう。Xは、α債権をAから取得したことによりβ債権を巡る紛争主体たる地位をAから承継したことになるから、Aの承継人である。依存関係説に従うと、どうなるか。Xは、Aから訴訟物たる権利(β債権)自体やそこから派生する権利を取得したのはなく、また、β債権の基礎となっている権利を承継したとも言い難い。したがって、この場合のXはAの承継人に該当しないとの結論ももありえようが、おそらく、承継人に該当するとの結論を維持するために、「訴訟物たる権利関係等の管理処分の根拠となる権利を前主から伝来的に取得した者も承継人である」との説明を付加することになろう。

一般承継
115条1項3号の承継人を論ずる際に、一般承継人と特定承継人とを区別することなく、事実審の口頭弁論終結後の承継人であれば、同号の承継人に該当するとする文献が多い(例えば、[伊藤*民訴]469頁以下)。しかし、判決確定前に一般承継が生ずると、承継人はその時点で当事者の地位につき、直ちには訴訟を追行できない彼のために訴訟手続が中断するのが原則である(124条1項1号・2号。同条2項の例外に注意)。したがって、一般承継人が115条1項3号の意味での承継人になるのは、判決確定後に承継があった場合と考えるべきであろう。この制限はあるが、ともあれ、一般承継人も115条1項3号の承継人に当たる。

本人が当事者となった判決の担当者等への拡張
権利義務の帰属主体である本人が追行した訴訟において下された判決の既判力は、その後にその者のために訴訟担当資格を得た者が追行する訴訟において、訴訟担当者にも及ぶ[13]。複数の株主が提起する株主代表訴訟(会社の役員に対する損害賠償請求権を行使する訴えを株主が会社に代位して提起する訴訟)が類似必要的共同訴訟であることの根拠付けのためによく用いられる論理である(株主の受けた判決の既判力が会社に及ぶことは115条1項2号によって説明され、会社に及んだ既判力が他の株主に及ぶことは、前記の理論により説明される)。

本人について破産手続が開始された場合も、同様である(本人が受けた判決の効力は、破産管財人が追行する訴訟にも及ぶ)。ただし、担当者(破産管財人)の独自の抗弁(例えば、否認権)の行使は妨げられない。また、破産法は、債権確定手続において有名義債権に対する異議の主張方法を破産者がなすことができる訴訟手続に制限することにより、判決効が異議者等に拡張されることを認めている(破産法129条)。

8.6 係争物の所持者(115条1項4号)

他人の所有物を占有ないし所持する者は、次のように分類される(独立性の弱い者から強い者への順に並べてある)。係争物の所持者は、このうちのbである[4]。
  1. 占有補助者(所持機関)  占有者の家族、未成年者・成年被後見人の占有物を管理する法定代理人、法人の占有物を所持する代表者・従業員など。これらの者は独立の占有を有しないと考えられており、占有者本人に対する引渡・明渡判決で、これらの者の占有も排除できる。
  2. 他人のための所持者115条1項4号、民執23条3項)  受寄者(荷物を預かった隣人)、管理人など。なお、留守番もこの一例として挙げられることが多いが、短期の留守番は占有補助者とみる方がよい。
  3. 自己の利益のために占有する者  賃借人、質権者など。これらの者は、4号の所持者にはあたらない。これらの者の占有を排除するには、これらの者を直接の当事者とする独立の債務名義が必要である。

他人のための所持者は、目的物に独自の利害関係をもっているわけではないので、他人(本人)に対する判決の効力を拡張される(既判力について115条1項4号、執行力について民執法23条3項)[24]。

8.7 訴訟脱退者

独立当事者参加訴訟(47条)からの脱退者にも判決の効力が及ぶ(48条)。その意味については見解が分かれているが、次のように考えるのが明快である:脱退者は自己が関係する請求について裁判の基礎資料の提出を残存当事者に委ね、裁判所は脱退者が脱退前に提出した資料および残存当事者が提出した資料に基づきその請求について判決し、脱退者は判決の名宛人になり、判決の効力はその名宛人たる脱退者にも及ぶ(井上説)。独立当事者参加の項を参照。

練習問題

Y←(建物明渡請求)─X
‖         勝訴



Z現在の占有者
Q1)YがXから建物を賃借していたが、賃料不払により賃貸借契約を解除され、その判決の口頭弁論終結後にYが任意に立ち退いた後で、Zが不法占拠を開始した場合に、Zは、115条1項3号の意味でYの承継人と言えるか。

Q2)YがZから賃借している建物について、Xが真の所有者であると主張して明渡請求の訴えを提起した。請求認容判決が確定した後で、Yは賃貸借契約を合意解除し、建物の鍵をZに引き渡すのと引き換えに敷金の返還を受けて、建物を立ち退いた。Zは、115条1項3号の意味でYの承継人と言えるか。

著作権の管理のために著作者が著作権を著作権管理団体に信託的に譲渡した。(α) 譲渡前に著作者が受けた敗訴判決の既判力は、管理団体に及ぶか。(β)管理団体が受けた敗訴判決(例えば、著作権料支払請求棄却判決)の既判力は、著作者に及ぶか。

ヒント:(α)の場合については、下記の判決のような事案を想定している(ただし、既判力の拡張が問題となった事案ではない)。
β)については、事案を適当に想定すること。

9 その他の拡張


文 献

9.1 115条以外の規定による判決効の拡張

115条所定の場合以外にも、訴訟物たる権利関係の特性に応じて、判決効が拡張される。
人訴24条の規定による拡張
人の身分関係は、社会生活の基礎となる重要事項であるので、その法律関係が万人との関係で画一的に定まることが必要である。そこで、重要な利害関係を有する者には訴訟に関与する機会を保障して判決効を及ぼし、それ以外の者には訴訟に関与しなくても判決効を及ぼすのが妥当である。

)訴訟関与の機会の保障  12条が被告適格を法定している。例えば、第三者[16]が提起する婚姻取消訴訟においては、夫婦を被告としなければならない。また、検察官を被告とする人事訴訟においては、訴訟の結果により相続権を害される第三者には共同訴訟的補助参加の機会が与えられている(人訴15条)。

)重要な利害関係人が訴訟に関与しなかった場合  これは、場合分けをする必要がある。
仮処分の当事者恒定効の一部としての既判力拡張
当事者恒定のための仮処分がなされると、その後に仮処分債務者から係争中の権利義務関係を承継した者等にも、仮処分債務者に対する給付判決の執行力が拡張されることが原則となる(民事保全法58条2項・3項・4項・61条・62条1項・64条)。この場合に、執行力の拡張の裏付けとして既判力も拡張されるのかについては、見解の対立がある(肯定説にたった場合には、拡張される既判力の内容についても議論が生ずる)([福永*2000a]参照)。

当事者恒定のための仮処分は、基本的に、執行力の拡張により仮処分債権者を保護する制度であり、執行力が拡張されればその目的を達することができる。既判力まで拡張すると第三者の利益を不当に害するおそれが高くなる。特別の事情のない限り、第三者には真実の権利関係の主張を許すべきであり、既判力は拡張されないと考えるべきである。その前提があってこそ、執行力の拡張が肯定されやすくなるのである。

9.2 判決の構成要件的効力

実体法の規範において、(確定)判決の存在が構成要件の中に取り込まれている場合がある。その場合には、その規範で定められた法律効果の法律効果は、判決によって生ずる効力とみることができ、これを判決の構成要件的効力という。 次述の反射効も構成要件的一種と見られているが、議論すべき点が多いので、ここでは、それ以外の明文の規定のあるものを取り上げる。

当事者間で生ずるもの
当事者の一方と第三者との関係で生ずもの

9.3 反射効

意義
第三者が直接に判決の既判力を受けるわけではないが、既判力のある判決の存在が当事者と特殊な関係(依存関係)にある第三者に反射的に有利または不利な影響を及ぼしてよい場合がある。判決のこの影響力を法的な拘束力として肯定する立場に立った場合に、その拘束力を反射効という[CL1]。
X─(貸金返還請求)→A
          主債務者
  請求棄却判決確定

X─(保証債務履行請求)→Y
            保証人
主債務が存在しなければ、保証債務も存在しない(附従性)。

主債務の不存在について、保証人が主債務者勝訴判決を援用すれば、前訴で敗訴判決を受けた債権者はもはやそれを争うことができないとするのが、反射効肯定説。

反射効は、ある法律関係が既判力を以て確定されたことの法律要件的効果であると説明される[11]。反射効を肯定するか否かについては、見解が分かれている[5]。判例は、反射効を認めることに消極的である。 しかし、一般論としては肯定すべきである(どのように要件設定するかの問題は残るが、上記の設例の場合のように、肯定されるべき場合は存在する)。

否定説を採る場合でも、上記の設例において、XY間の訴訟においてAがY側に補助参加したときは、Xは前訴判決の既判力ある判断と矛盾する主張をすることができないとすべきである。

既判力と反射効とが矛盾する場合
例えば、保証人敗訴判決の後で主債務者勝訴判決が確定した場合に、保証人は主債務者勝訴判決を援用して保証債務の不存在を主張することができるであろうか。
(1) X──→Y  認容判決確定
 債権者   保証人

(2) X──→A  棄却判決確定
     主債務者

(3) Y──→X  請求異議の訴え
        (民執35条)

(2)訴訟において、主債務の成立が否定された。

(3)の訴訟において、Yは(2)の判決(主債務の存在を否定する判決)を援用できるか。


最判昭和51.10.21民集30-9-903頁[百選*1998b]156事件は、次のように判示して援用を認めなかった。「一般に保証人が債権者からの保証債務履行訴訟において、主債務者勝訴判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導きうると解せられるにしても、保証人がすでに保証人敗訴の確定判決を受けているときは、保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定しても、同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと解すべきである。」

この結論は、次のように正当化してよいであろう。Yは、Aの補助参加を得てXの請求を棄却する判決を得る余地もあったが、そうすることなく敗訴したのはYの意思に基づく訴訟の処分の結果である。Yのこの訴訟処分の結果Xが確保した利益をYがA勝訴判決を援用してXから奪うことができるとしたのでは、Xの地位が不当に不安定になる。Yは、第1訴訟において、Aの補助参加を促すとともに、求償権を確保するために、訴訟告知をすべきであった。

反射効が認められない場合
(1)X─(土地明渡請求)→A
地主         借地人

(2)X─(建物収去土地明渡請求)→B
    X勝訴判決確定   転借地人

(3)X─(建物退去・土地明渡し)→Y
            Yが(2)訴訟の
           口頭弁論終結前に
           Bから建物を賃借
借家人Yの法的地位は、家主Bの有する法的地位を基礎とし、これに附随してのみ成立する。(2)訴訟の確定判決は、(3)訴訟でYに不利な拘束力を持ちうるか。

(3)訴訟の上告審である最判昭和31.7.20民集10-8-965は、反射効を否定し、(2)訴訟の判決が存在する場合でも、(3)訴訟の裁判所はBの転借権が消滅したか否かをあらためて審理し認定すべきであるとした。反射効を肯定する学説の多くもこの場合には反射効を否定する[6]。Yに不利な形でX・B間の法律関係が判決により確定された場合であり、その訴訟に関与する機会がYに与えられていなかったからである。

反射効が認められなかった場合

交通事故の遺族
X─(損害賠償請求)→E(運行供用者)
 └(損害賠償請求)→国(道路管理者)

Xは、Eと国との共同不法行為を主張して、損害賠償請求の訴えを提起した。被告Eと国は、不真正連帯債務者になるが(民法719条1項)、通常共同訴訟(民訴法39条)である。

第一審において、 Eが物損の賠償請求権を主張し、 X主張の物損の賠償請求権と相殺する旨の抗弁を提出したが、国はこれを援用しなかった。

第一審は、X→E請求についてのみ相殺を認め、X・E間の判決が確定した。
国が控訴し、控訴審がEの自働債権額額を認定することなく、X・E間の判決の存在に基づいて損害賠償額の相殺による消滅を認める。

Xが上告。


最高裁判所 昭和53年3月23日 第1小法廷 判決は、次のように判示した:不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は、他の債務者にその効力を及ぼすものではなく、このことは、民訴法199条2項(現114条2項)により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様であると解すべきである。したがって、控訴審がE主張の自働債権の損害を確定することなく、原告・E間でEの相殺を認める判決が確定していることのみを認定して、国の債務もEの相殺により一部消滅していると判断したことは違法である。破棄差戻し。

既判力との差異
このように最高裁は、反射効を認めることに消極的であるが、反射効が肯定されることを前提にすると、これと既判力との間には次のように差異が認められる。

目次文献略語
1999年12月23日−2016年9月12日