民事訴訟法講義
判決の効力 3関西大学法学部教授
栗田 隆 |
Xが次のような実体関係を主張して、Yに対して債権者代位訴訟(β債権取立訴訟)を提起した。裁判所により、α債権は存在するがβ債権は存在しないと判断され、請求棄却判決が確定した。その後に、ZがYに対してβ債権の取立訴訟を提起した。この訴訟の裁判所は、XY間の訴訟の口頭弁論終結当時にα債権は存在していなかったと判断し、かつ、β債権は現存するとの判断に達した。裁判所はどのような判決をすべきか。代位債権者の法的地位について判例の立場を前提して、考えなさい。
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A──(α債権)─→B──(β債権)─→C |
|この段階で特定承継があった場合には、 |49条以下の問題となり、 |115条1項3号は適用されない。 | 事実審の口頭弁論の終結(既判力の標準時) | |この段階で特定承継があった場合には、 ↓115条1項3号が適用される。 |
Y←(建物収去・土地明渡請求)─X | |口頭弁論終結前に建物を譲渡し、 |口頭弁論終結後に所有権移転登記を |経由した。 ↓ Z |
(所有権に基づく) 勝訴 Y←──(引渡請求)──X 売主 第1買主 | |譲渡+所有権移転登記 ▽ Z・第2買主 |
XのYに対する請求認容判決が確定した。その事実の口頭弁論終結後にZがY係争不動産を買い受けて所有権移転登記を得た。Zが悪意者(ないし背信的悪意者)に該当しない限り、Xからの明渡請求を拒むことができるとの結論は動かない。問題は、115条1項3号との関係でそれをどのように説明するかである。 |
拡張の基準 | 拡張される既判力の作用 | |
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実質説 | 承継人が相手方に対して判決に表示されている義務ないし類似義務を負っていること(または、権利を有していること) | 被承継人の地位も前訴判決の既判力によって確定される。 |
形式説 | 承継の事実のみ | 被承継人とその相手方の間の法律関係に関する既判力ある判断は、承継人との関係でも尊重されるべきである。承継人は、その判断を前訴の口頭弁論終結前の事由で争うことができない。しかし、その判断あるいはそれを前提とする相手方の自己に対する法律関係の主張を前訴の口頭弁論終結後の事由あるいは被承継人が提出することのできない事由などで争うことはできる。 |
既判力 | Yは、XがYに対して建物収去土地明渡請求権を有するとの裁判所の判断に拘束され、その判断を既判力の標準時前の事由で争うことを禁止される。 |
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第1段の拡張 | Zは、
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第2段の拡張 | Zは、
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前 訴 (α) ↓ 承 継 (β) ↓ 後 訴 (γ)(δ) |
Y←(建物収去・土地明渡し)─X | 勝訴 |建物譲渡 | ▽ Z |
Zは建物の所有権を承継取得したが、明渡義務まで承継取得したと見ることはできない(そのように見ることは、Zの通常の意思に反する)。明渡義務は、Zが建物所有者になったことにより原始的に発生すると考えるのが適切である。しかし、Zは、建物の譲受けによりXY間の紛争における紛争主体たる地位をYから承継したということができ、ZはYの承継人にあたる。 Zは、口頭弁論終結時において本件土地の所有権がXにあること、Yが土地の占有権原を有しないことを争うことによりXのZに対する建物収去土地明渡請求権を争うことができない。 |
Y←(建物収去・土地明渡請求)─X | 勝訴 |建物の賃貸借契約 |建物の占有移転 ▽ Z借家人 |
この場合にも、ZはYの承継人となる。 Zは、口頭弁論終結時において本件土地の所有権がXにあること、Yが土地の占有権原を有しないことを争うことによりXのZに対する建物退去土地明渡請求権を争うことができない。 |
(建物収去・ X−−土地明渡請求)−→Y 勝訴 |建物譲渡 | ▽ Z |
Y←(建物明渡請求)─X ‖ 勝訴 ‖ ‖ ▽ Z現在の占有者 |
(Q1)YがXから建物を賃借していたが、賃料不払により賃貸借契約を解除され、その判決の口頭弁論終結後にYが任意に立ち退いた後で、Zが不法占拠を開始した場合に、Zは、115条1項3号の意味でYの承継人と言えるか。 (Q2)YがZから賃借している建物について、Xが真の所有者であると主張して明渡請求の訴えを提起した。請求認容判決が確定した後で、Yは賃貸借契約を合意解除し、建物の鍵をZに引き渡すのと引き換えに敷金の返還を受けて、建物を立ち退いた。Zは、115条1項3号の意味でYの承継人と言えるか。 |
著作権の管理のために著作者が著作権を著作権管理団体に信託的に譲渡した。(α)
譲渡前に著作者が受けた敗訴判決の既判力は、管理団体に及ぶか。(β)管理団体が受けた敗訴判決(例えば、著作権料支払請求棄却判決)の既判力は、著作者に及ぶか。 ヒント:(α)の場合については、下記の判決のような事案を想定している(ただし、既判力の拡張が問題となった事案ではない)。
(β)については、事案を適当に想定すること。 |
文 献
X─(貸金返還請求)→A 主債務者 請求棄却判決確定 X─(保証債務履行請求)→Y 保証人 |
主債務が存在しなければ、保証債務も存在しない(附従性)。 主債務の不存在について、保証人が主債務者勝訴判決を援用すれば、前訴で敗訴判決を受けた債権者はもはやそれを争うことができないとするのが、反射効肯定説。 |
(1) X──→Y 認容判決確定 債権者 保証人 (2) X──→A 棄却判決確定 主債務者 (3) Y──→X 請求異議の訴え (民執35条) |
(2)訴訟において、主債務の成立が否定された。 (3)の訴訟において、Yは(2)の判決(主債務の存在を否定する判決)を援用できるか。 |
(1)X─(土地明渡請求)→A 地主 借地人 (2)X─(建物収去土地明渡請求)→B X勝訴判決確定 転借地人 (3)X─(建物退去・土地明渡し)→Y Yが(2)訴訟の 口頭弁論終結前に Bから建物を賃借 |
借家人Yの法的地位は、家主Bの有する法的地位を基礎とし、これに附随してのみ成立する。(2)訴訟の確定判決は、(3)訴訟でYに不利な拘束力を持ちうるか。 |
交通事故の遺族 |
Xは、Eと国との共同不法行為を主張して、損害賠償請求の訴えを提起した。被告Eと国は、不真正連帯債務者になるが(民法719条1項)、通常共同訴訟(民訴法39条)である。 第一審において、 Eが物損の賠償請求権を主張し、 X主張の物損の賠償請求権と相殺する旨の抗弁を提出したが、国はこれを援用しなかった。 第一審は、X→E請求についてのみ相殺を認め、X・E間の判決が確定した。 |