関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「判決の効力3」の注


注1 この場合の判決効の拡張を次のような実体的視点から説明する余地もあるが、これで説明できる範囲は、それほど広くはないであろう。

注2  幾つかの文献の説明を挙げておこう。

適格承継説

依存関係説

注3 さらに、次のように説明することもできる。本文で述べた設例におけるZが、Xからの明渡請求訴訟において、(α)主位的にZが本来の所有者であると主張しつつ、(β)予備的に前訴の口頭弁論終結前からYが所有者であり、Zはその動産をYから贈与されて所有者になったと主張することもあり得る。この予備的主張との関係では、ZはYの承継人であり、そのような主張によりXの引渡請求権を争うことは許されないということになるのであるから、ZをYの承継人とした上で、Xからの引渡請求を争うためにYの権利に依存しないZ自身の権利を主張することは許されると述べる方がよい。形式説の視点からは、そう考えるべきであろう。

注4 倉庫業者を所持者に含めてこれに判決効を拡張することはできるであろうか。倉庫業者が保管料請求権(商618)を有することを前提にしよう。商法では、運送人等(商法589・562)とは異なり、倉庫業者が保管料を被担保債権とする商事留置権を有する旨の明文の規定がないが、民事留置権は肯定でき(民法295条)、また商法521条の要件が満たされれば商事留置権も成立する。留置権は、彼に判決効が拡張されても主張することができる固有の抗弁と考えるべきである。このことを前提にして、形式説の意味で既判力を倉庫業者に拡張することには問題ない。他方、執行力の拡張を肯定すると、留置権の抗弁をどのような形で彼に主張させるのかが問題となる。彼に常に請求異議の訴えの負担を負わせるのは、適当ではなかろう。

注5 否定説として[上野*1991a]433頁以下がある。

注6 [上野*1991a]430頁以下は、この場合に反射効を肯定することは口頭弁論終結前の承継人への拡張となること、また、XはYを相手に訴えを提起しえたことを理由に、反射効を認めるべきでないとする。

注7 

注8 最判昭和48.6.21民集27-6-712[百選*1982a]106事件は、次のような事案に関するものである:通謀虚偽表示によりAが登記名義人になっている不動産をXが強制競売により買い受けた;真正所有者YがAに対して真正な登記名義回復のための所有権移転登記手続を命ずる判決を得て、これにXに対する承継執行文の付与を受けて移転登記手続をなした;これに対抗して、XがYに対して所有権確認と登記名義回復のための所有権移転登記を求めた。裁判所は、次のように説示した:「XはAのYに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから、Yが、右確定判決につき、Aの承継人としてXに対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されない」。

注9 例えば、第一審の請求異議認容判決において執行停止の仮の処分が命じられた場合に、その後に原告の地位を承継した者は、仮執行宣言付執行停止命令を執行機関に提出して執行停止を求めることができる(115条2項・1項3号)。

注10 もっとも、2項の仮執行宣言を狭義の執行力に関係するものと見た上で、民執法23条が規定された現在では意味がなくなったとする見解もある(旧法201条3項について、竹下[兼子*1986a]653頁)。

注11 なお、「既判力は判決主文中の判断につき生ずるが、反射効は理由中の判断にも及ぶ」と言われることもある。しかし、これは、「反射効は、ある法律関係が既判力を以て確定されたことの法律要件的効果である」と説明することと調和しない。

注12 [三ケ月*1995a]220頁、[福永*1974b]141頁(被告の二重応訴の負担の回避のために、被告は、50条に準じて、訴訟引受の申立てをなしうるとする)。

注13  [兼子*概論]382頁は、「当事者の訴訟の目的たる財産に対し管理権能を取得したに止まる者も承継人と解して妨げない」と述べる。

注14  但し、そもそも当事者とされていないのであるから、判決効は彼に及ばないと解する余地はある。ただ、当事者適格は職権調査事項であり、死亡していると主張された夫または妻が実際に死亡しているか否かも職権調査事項であることを考慮すると、僭称当事者の場合と同様に扱ってよいように思われる。

注15  彼が再審の訴えにより判決の取消しを求めることは、かなり難しい。しかし、例えば、刑事上罰すべき相手方当事者の行為により共同訴訟的補助参加をなしえなかったような場合を考慮すると、338条1項の類推適用の余地は肯定しておく方がよいであろう。

注16  なお、人訴法では「第三者」の語が次の3つの条文で出てくるが、それぞれの文脈において意味が微妙に異なることに注意することが必要である。

注17  

注18  もっとも、実質説・形式説という概念構成自体に疑問があるとする見解もある(例えば、[中野=松浦=鈴木*2004a] 468頁(伊藤眞)および同所引用の文献)。しかし、その趣旨は、判例が実質説をとっていると見ることができないから形式説と実質説との対立があったということはできない(あるいは、そもそも実質説など存在し得なかった)という程度の意味であるように思える。一般に一つの問題について複数の解決方法ないし思考方法を想定し、その優劣を検討することは、法律学に限らずよく行われる手法であり、形式説と実質説との対比は、少なくともそのようなものとして意味がある。そして、上記の疑問を呈する見解も、承継人への既判力の拡張の作用について採用している説は、形式説である。

注19  [池田*1995a]82頁(ただし、代位債権者から債務者に対する権利行使の催告と債務者による拒絶をもって代位債権者の訴訟追行権を根拠づける)、[新堂*新民訴v2]255頁(その読み方について、[高橋*重点講義・上]229頁注19参照)、[高橋*重点講義・上]227頁(代位債権者の訴訟追行権について、債務者による権利行使の拒絶まで要件とするか否かについては明示はないが、要件としていないと読んでよいであろう)、[梅本*民訴]387頁、[条解*1987a]670頁以下(竹下守夫)。

見解の細部は、多岐に分かれる。論点は、次のようになる。

注20  民法192条は、「他人を信頼して占有を与えた者は、その信頼を与えた者からだけ、その者の返還を請求することができる」というゲルマン法の理論に由来する([我妻*1997a] 212頁)。

注21  例えば、動産の引渡請求訴訟の被告から口頭弁論終結後に目的物を預かった者(受寄者)は、適格承継説では、「紛争主体たる地位を承継した者」とは言えないので、3号の承継人には当たらないということができる(彼は、4号の「請求の目的物を所持する者」にあたる)。したがって、口頭弁論終結前の受寄者も終結後の受寄者も、4号のみの適用を受ける。他方、依存関係説では、受寄者の占有権原は寄託者の占有権原に依存するのであるから、承継人にあたると解することになろう(このように解しても、特に不都合が生ずるというわけではない)。

注22  執行力の拡張は、民事執行法23条1項3号が規定している。そこにいう口頭弁論は、第一審の仮執行宣言付き判決に対して控訴が提起された場合については、第一審の口頭弁論終結時を指すが、その他の判決(典型的には、仮執行宣言が付されることのなかった確定給付判決)については、事実審の最終の口頭弁論を指す。第一審の仮執行宣言付き判決が上訴の棄却により確定した後でも、その判決の執行力は第一審の口頭弁論終結後の承継人に及ぶ。

注23 会社法835条1項・2項により管轄の集中が図られており、それは矛盾した判決が下されること(認容判決の確定後に棄却判決が確定すること)の回避に役立つ。しかし、同条3項が移送を肯定しており、矛盾判決が出ること自体は予想の範囲内のことである。

なお、会社法制定前の商法では、旧109条1項・136条3項・142条・247条2項などが合併無効判決等の判決効拡張を個別に規定していた。

注24 彼に対する強制執行は、判決効の拡張により、「本人に対する債務名義+所持人に対する執行文(承継執行文)」で足りる(民執27条2項・23条3項)。すなわち、彼は独立の占有を有するので、彼に対する執行には彼を執行債務者として表示する執行文(「この債務名義により[所持者]に対して強制執行をすることができる」との文言)が付された執行正本が必要であるが、それで足りる(もちろん、彼自身を当事者とする債務名義を得ることもできるが、それがなくても強制執行は可能である)。その執行正本は、本人(=他人)に対する執行正本とは別個であるという意味で、独立の執行正本である。

注25 [雉本*論文集1]48頁及び[雉本*論文集2]58頁は、訴訟をなす権能を有すること(正当な当事者であること=Prozesslegitimation を有する当事者)は明治23年法の「訴ノ原因」欄の記載事項でも「当事者欄」の記載事項でもないとする。