関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート2「係属中の訴訟等」の注


注1 破産債権の存否・内容を一つ一つ個別訴訟で確定していては、費用と時間がかかりすぎるので、届け出られた各債権を債権調査期日等において調査し、そこで破産管財人によって認められ、他の破産債権者から異議の出されなかった債権は、確定債権として扱われる(集団的調査・確定。115条以下)。そして、異議が出された債権のみが個別訴訟で確定される。詳しくは債権調査・確定のところで扱うので、債権取立訴訟の係属中に債務者(被告)について破産手続が開始されたという典型的な場合についてのみ、説明する。

注2 破産手続の開始又はその終了による当然承継は、一定範囲の財産の管理処分権が包括的に破産者から破産管財人に移転する場合、またはその逆の方向に移転する場合に認められるのであり、特定の財産の管理処分権が破産管財人から破産者に復帰する場合には、馴染みそうもない。そのような復帰は、破産管財人の意思表示によって生ずるのであり、その意思表示に訴訟手続の中断・受継の効果が生ずるとするのは適当ではなかろう。

参加承継・引受承継によるとしても、破産管財人は、管理処分権を破産者に復帰させるという意味での放棄の意思表示を破産者にすることが必要であり、かつ、訴訟の相手方および裁判所にもその旨を通知することが望ましい。

注3 設例をもう少し具体化すれば、次のようになる。契約内容について争いがあるために双方未履行状態にある双務契約について、相手方からの履行請求の訴訟が係属している場合に、破産管財人が訴訟により破産財団に有利な内容の契約として確定させることができると判断して、履行を選択した上で相手方の請求権を争うために訴訟を受継する。

このような訴訟の受継を明規する旧破産法69条1項後段に相当する規定は、現行法にはない。しかし、これは、44条2項の「破産債権に関しないもの」に含まれ、実質は変わらないと考えてよいであろう。なお、破産管財人が解除を選択すれば、相手方の損害賠償請求権は破産債権にしかならないので、44条2項前段による受継はない。

注4 本文で紹介する最高裁判決以前において、会社更生事件について、弁済効力否定説をとる次の判決があった。

東京地裁判決昭和56年9月14日判時1015号20頁・[百選*1990a]49事件(林)

事案:

  • X──────→Y
    手形金支払請求

が提起され、仮執行宣言付手形判決(民訴259条2項=旧196条2項)による仮執行がなされた後で、同判決に対する異議訴訟の係属中にYについて会社更生手続が開始された。しかし、Xは手形債権を更生債権として届け出なかった。Yの更生管財人Y’が、Xに対して債務不存在確認請求、および民訴260条2項=旧198条2項による給付物の返還請求の訴えを提起した。

  • Y’──────→X
    債務不存在確認・給付物の返還請求
裁判所は、弁済効力否定説に立って、更生債権としての届け出がないからXの債権は更生計画認可により失われたとして、Y’の請求を認容した。

注5 明文の規定のなかった旧法下において最判昭和45年7月16日民集24巻7号879頁が与えた解決を明文化したものである。

注6 1項・2項では、財産に対する強制執行等の取扱いが規定されている。財産開示手続も民事執行の一種であるが、財産に対する執行ではないので、6項で独立に規定されている。

注7 [伊藤*破産v4.1]296頁は、次のように述べる:債権調査手続において「異議が述べられたときには、まず破産債権査定手続が行われ(125)、査定決定に対して不服がある者によって異議の訴えが提起されるが(126)、その場合には、中断中の破産債権に関する訴訟が破産管財人などの異議者によって受継される(127I・129II)。以後は、受継後の訴訟が異議訴訟として続行される」(査定手続先行説。もっとも、454頁の論述は、査定手続不要説と思われる)。

しかし、破産債権について継続中の訴訟がある場合に査定手続を先行させるか否かは、政策的な問題であるが、破産法は、125条1項ただし書きで先行させないことを明示している。また、査定手続を先行させるのであれば、127条2項において125条2項を準用すべきでなく、126条1項に相当する規定を「しなければならない」という形で定めるべきであった言うことができる。

注8  この結論を支持する見解の中には、仮執行による満足ないし執行債権の消滅は仮執行の基礎となった判決の確定が解除条件になるとする見解と、停止条件になるとする見解([野村*2002a]428頁、[注釈*1996b]354頁(栗田))とがあるが、この相違は結論を左右しない。

注9  破産法42条1項は「強制執行で・・・破産債権・・・に基づくもの」と表現しているが、この表現は強制執行の理論からすれば不適切である。強制執行は、債権自体ではなく、「執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する」からである(民執法25条1項本文)。執行債権と強制執行との関係については、民事執行法は、≪金銭債権(あるいは非金銭請求権)についての強制執行≫(民執法第2章第2節(あるいは第3節))と表現している。これに即するならば、破産法42条1項の前記部分は「強制執行で・・・破産債権・・・についてなされるもの」と表現するのが適切である。