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破産法学習ノート

破産者の法律行為


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 破産者の処分権喪失  2 破産者の法律行為によらない権利取得
3 善意者の保護  4 相続の承認・放棄  5 相手方の意思表示の瑕疵


1 破産者の処分権喪失


破産手続が開始されると、財団財産の管理処分権は 破産管財人 に専属するので(2条14項・78条)、破産者の処分行為は無権限者の処分と同じとなる。これを前提にして、次のことが規定されている。

手形金の支払
約束手形が裏書きにより転々と譲渡されたが、満期時には振出人について破産手続が開始されていた場合には、破産手続開始自体が遡求原因となるので(手形法77条1項4号・44条5項)、所持人がそのことを知っている場合には、彼は振出人に手形を呈示すべきではない。もし彼が提示して手形金を受領したときには、破産管財人から返還を請求されることになる。

しかし、所持人がその事実を知らずに手形を呈示したところ、破産者がその支払をする場合に、その後に破産管財人が、破産手続開始後における破産者による支払は無効であることを理由に、弁済金の返還を請求することができるとすると、手形所持人はその時点ではもはや自己の前者(裏書人)に遡求することができず、重大な不利益を受けることがある。これでは、手形制度の機能が阻害される。破産財団充実の要請を後退させてよいであろう[CL3]。類似のことは、否認権の制限に関し163条1項が規定しているので、これにならって規範文言を定立すると、次のようになろう:47条の規定は、破産者から手形の支払を受けた者が支払の当時破産手続の開始を知らずに、かつ、その支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。

163条2項に相当する規定も置かれるべきであるが、その要件は次のようになろう(2が追加される):

  1. 最終償還義務者又は手形の振出を委託した者が振出の当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったとき、
  2. 振出の当時破産手続が開始されていたとき

2 破産者の法律行為によらない権利取得(48条


破産手続開始後は、破産財団所属財産は破産管財人が管理するのであるから、管財人の行為によることなく財産が破産財団から流出することは、その流出が破産者の法律行為(および準法律行為)によるものでないとしても、許容されない。48条がこのことを明示的に規定している。

しかし、破産管財人が管理処分権を有することを前提にしても、なお、管財人の行為に基づかない財産流出が一定の範囲で破産財団に対抗できるとせざるをえない。48条の適用を受けない場合として、抽象的には次のことが言われている[2]。

  1. 破産者と全く無関係に法律の規定によって当然発生する権利ないし法律関係には適用されない。
  2. この規定は、破産者が破産財団に関して管理処分権を有しないことに関連して定められたもので あるから、相手方が何人であるかにかかわらない権利取得には適用がない。

これを具体例に当てはめようとしても、必ずしも明確な判定を下すことができない。むしろ、具体例を通じて判定基準を理解するのがよい。以下では、まず48条が適用される場合、次に適用されない場合を、設例をあげて説明しよう。

2.1 48条が適用される事例

強制執行

  1. 債権者が動産執行を申し立てる
  2. 執行官が動産を売却してその売得金を領収する
  3. 債務者の破産
  4. 債権者への配当
配当金の受領は、48条により対抗不能である(大判大正14年10月15日民集4巻504頁)。債権者は、配当金を破産財団に返還しなければならない。

輸送

  1. 商人間の売買において、売主が商品を発送
  2. 売主の破産
  3. 商品が買主に到着(商事留置権発生)
管財人から商品の返還請求を受けた場合、買主は、その商品に対して商事留置権(商法521条)を行使できない。

売却権限を授与された者の行為

  1. 整理屋が債務者の商品について売却権限を取得
  2. 債務者の破産
  3. 整理屋がその商品を債務者の財産として売却
整理屋からの買受人は、所有権取得を主張できない。

債権譲渡の承諾

  1. AがBに対する債権をCに譲渡
  2. Aの破産
  3. 債権譲渡についてBの確定日付ある承諾(民467条2項)
Cは、債権譲渡の対抗要件の取得を破産手続との関係では主張できないので、債権譲渡そのものも主張できない[1]。
借地上の建物の登記による借地権の対抗要件具備
  1. Aがその所有地上にBのための借地権を設定。Bが建物を建築
  2. Aの破産
  3. Bが地上建物について表示の登記+所有権保存登記をする(借地借家法10条1項)
Bは、借地権の対抗要件の取得を破産手続との関係では主張できないので、借地権そのものも主張できない。

注:この場合に48条ではなく49条が適用されるとする立場もありうるが、適切でない。49条は破産者が登記義務者になっている場合に適用される規定と解すべきである。

流動集合動産譲渡担保[4]

  1. 債務者Aの特定の場所に所在する動産について流動集合動産譲渡担保契約が債権者Bとの間で締結された
  2. Aの破産
  3. 譲渡担保契約の対象となりうるAの動産が他の場所から約定の場所に移動された。
Bは、その動産が集合動産譲渡担保に含まれることを主張できない。

その他

2.2 48条が適用されない事例

次の態様での権利の取得又は義務の消滅には、48条は適用されない。


3 善意者の保護(49条−51条)


破産財団の維持のために、破産手続開始後における破産者の法律行為は、破産手続との関係では、その効力を主張することができず、破産手続開始による処分権喪失について破産者の相手方が善意であっても、善意者保護に関する一般規定は適用されない。しかし、次の場合には、破産手続開始の事実を知らなかった者は保護される。

破産者の相手方が破産手続開始について善意であったか悪意であったかは、直接の証明が困難であるので、問題の行為が破産手続開始の公告(32条1項)後になされたか否かにより 、51条が次のように推定している。

51条に言う「公告」が公告の掲載そのものを指すのか、公告の効力発生(10条2項により掲載の日の翌日に発生)を指すのかは明瞭ではないが、公告の官報への掲出そのものを指すと理解してよい[3]。10条2項は、即時抗告期間の起算点を考慮した規定であり、他方、破産手続開始後の善意取引の保護に関しては、そのような考慮は必要ない(「インターネット版『官報』」が公衆送信されている時代である。ある日の午前10時に公告が掲載された場合に、翌日から前記の推定を作用させるより、掲載時点から作用させてよい)。

3.1 登記と破産 (49条)

不動産の登記(本登記)は物権変動の対抗要件であり、仮登記はその対抗要件取得の準備である。破産財団に属する財産についてこうした登記・仮登記をする権限(登記義務者として登記官にしてもらう権限)を破産者は有しない(2条14項・78条1項)。破産手続開始後における破産者からの登記の取得は、破産手続との関係においてはその効力を主張することができない。このことは、その他の対抗要件一般に妥当する。例

しかし、登記は物権変動を第三者に主張するために必要な従たる要件であり、本体となる物権変動が破産手続開始前に有効に生じているにもかかわらず、その登記を破産手続開始後に得たという理由だけで、物権変動の効力を破産手続との関係において全く主張することができないとするのでは、破産者の相手方に酷であると考えられる。そこで、登記を破産手続開始後に善意で得た場合には、取得した登記の効力を破産手続との関係でも主張することができるとされた(49条)。

したがって本条が適用されるのは、破産手続開始前に当事者間ですでに物権変動が有効に生じている場合であり、物権変動が停止条件付きの場合などには適用されるべきではない。本条の適用対象となるのは、本登記および不動産登記法105条1号の仮登記のみである。このことは、49条1項本文が示している。しかし、49条1項本文の規定内容は、すでに47条・48条が規定していることであるから、重要なのはただし書である。本文は、ただし書の適用を受けるのが本登記および不動産登記法105条1号の仮登記であることを示すための付加的な文に過ぎない(2号仮登記には、49条1項ただし書の適用はない)。

船舶の登記又は仮登記(船舶登記令35条により準用される不動産登記法105条の仮登記)についても、同様である。

同様な取扱いが、次のものにも認められている(49条2項)。

若干の問題
見解が分かれるいくつかの問題を検討しておこう。

)49条が適用される代表例は、不動産の売買である。不動産の売買では、売買契約書を作成して、契約が締結される。契約の日に直ちに履行されることは少なく、買主が資金を調達するために、あるいは売主が不動産上の負担を予め消滅させるために(ただし、売買代金で消滅させることもある)、履行期は数日後とされる。履行期には、買主から売主に代金が支払われ、所有権移転登記に必要な書類が売主から買主に交付される。この直前に、売主について破産手続が開始される場合には、買主は、破産手続開始後に代金を支払い、所有権移転登記を得ることになるので、本来は、彼はそのいずれについても保護されないことになる。これでは不動産の取引が履行段階で非常に危険にさらされることになる。

買主が売主の破産について善意であれば、彼は代金の支払いについても、登記の取得について保護される(49条1項ただし書・50条1項)。不動産の売買に関しては、49条1項ただし書は、50条1項のペアになって買主を保護する規定であるということができる。

もっとも、破産手続開始時には、売買契約は双方未履行の状態にあったのだから、破産管財人は、53条の規定により売買契約を解除することができるのではないかという重要な問題がある。この問題の解決については、次のような選択肢がありうる。問題を単純にするために、買主が破産手続開始前に不動産の引渡しを受けており、売主が履行すべき義務は所有権移転登記手続への協力だけであるとしよう。

  1. 破産手続との関係で効力を主張することができる履行行為(移転登記の経由)により履行が完了しているのであるから、もはや双方未履行状態にあるとは言えず、破産管財人は解除することができない。
  2. 53条1項による破産管財人の解除権は、破産手続開始後の履行によって影響されるべきではない。この立場に立った場合には、買主は、破産管財人に代金の返還を請求することができるかが問題となる。もちろん、問題となるのは、代金が破産管財人に渡されていなかった場合である。この点については、次の選択肢が可能である。
    1. 50条1項により代金の支払の効力を破産手続との関係で主張することができる以上、54条2項後段の適用を認めて、代金返還請求権を財団債権とすべきである。
    2. 50条1項は、弁済の基礎となる契約が有効に存在していることを前提にしており、53条1項により契約が解除された以上50条1項の適用はなく、54条2項の適用の余地もない。

不動産取引の安全の確保の視点から、1の選択肢をとるべきものと考えたい。

)49条は47条の特則であり、49条1項ただし書は、破産者が登記義務者にならない登記には適用されないと解すべきである。例えば、破産者から借地権の設定を受けていた者が借地権の対抗要件である建物の登記(借地借家法10条1項)を破産手続開始後に経由した場合には、借地権者が当該破産手続の開始について善意であるか否かにかかわらず、借地権の対抗要件の具備を破産手続との関係で主張できない(48条)[5])。この点も、反対の見解がありうる。

3.2 破産者への弁済 (50条)

破産法50条は、債務者が自己の債権者に破産手続開始のあったことを知らないで弁済したときは、破産財団に対する関係においてもこれを完全に有効な弁済と見ることにした。その根拠は、次の点にある(通常は、第1の点のみが挙げられている)。[CL4]

  1. 債務者は自己の債権者の財産状態に注意することなく弁済するのが通常である。
  2. 債権者の財産状態が悪化した場合には、倒産防止の点から、その窮状を救うために債務者が進んで弁済をすることが望ましい。ところが、宣告後の弁済を常に無効とするのでは、その弁済が阻害されるおそれがある。

類似の規定として、民法478条(破産法50条1項に対応)、479条(破産法50条2項に対応)がある。民法478条の善意弁済については、(平成16年改正前においては解釈により、改正後は明文の規定により)無過失が要求されているのに対して、破産法50条では無過失は要求されていないことに注意すべきである(ただし、善意・無過失を要件とする見解もある([宗田*2005a]149頁)[6])。

A<──(債権)──B(破産)
 ===(弁済)==>

  1. Aが自己の債権者Bに弁済をしたが、その当時Bについて破産手続が開始されていた。
  2. Bがその弁済金を破産管財人に引き渡さないとする。

α) Aが弁済時にBの破産について善意の場合は、Aは、破産手続との関係においても、弁済の効力を主張することができる(50条1項)。

β)Aが悪意の場合は、Aは、破産手続との関係において、弁済の効力を主張することができない。

 Aが悪意であるから、民法478条によって弁済が有効となることもない。この場合に、弁済が無効とされることにより損失を受けるAは、利得を得た者に対して不当利得返還請求権(場合により損害賠償請求権)を有する。すなわちは、彼は、

  • 破産者が自然人であれば、破産者の自由財産から
  • 破産者が法人であれば、弁済金を実際に受領した者の財産から

満足を受ける。いずれの場合も、この請求権が当該破産手続における破産債権となることはない。

債権者が破産者の第三債務者に対する債権を取り立てる場合については、債権者の破産者に対する債権についての弁済の問題と(48条)、破産者の第三債務者に対する債権についての弁済の問題(50条)とに分解して考察する必要がある。

  1. 債権者Gが債務者Sの第三債務者Dに対する債権の差し押さえ、取立権限を取得する(民執法155条1項)。
  2. 債務者Sの破産
  3. 債務者Sの破産を知らない第三債務者Dが債権者Gに弁済金を支払う。
DのGに対する支払いは、Dの債務の弁済として破産財団との関係でも有効であるが(民執法155条1項、破産法50条1項)、SのGに対する債務の弁済としての効力(民執法155条2項)は、破産手続との関係では主張することができない。

3.4 推定規定(51条)

49条・50条の規定の適用については、破産開始決定の公告(32条1項)の前においてはその事実を知らなかったものと推定し、公告の後においてはその事実を知っていたものと推定する。

:破産者Aの債務者Bが破産手続開始の日に破産者に弁済すれば、次のように推定される。

約束手形が振り出された場合
債務の弁済のために 約束手形が振り出され、振出しの時点ですでに受取人の破産手続が開始されていたが、振出人がそのことを知らなかったとしよう。その手形が譲渡されることなく受取人が所持人である場合に、支払の時点で振出人が破産手続の開始を知っていれば、彼は破産管財人に支払うべきである。したがって、この場合には、その支払について50条1項の適用を受けるためには、支払の時点で善意であることが要求される。

他方、その手形が裏書譲渡されていて、破産者たる受取人以外の者が所持人として手形を呈示した場合には、振出人は、受取人について破産手続が開始されていることを理由に支払を拒絶できないので、振出の時点で破産手続の開始について善意であれば50条1項の適用が肯定され、彼は破産者に対する債務を有効に弁済したと評価すべきである。この場合には、破産手続開始後の破産者による手形の裏書譲渡は無効であるので、破産管財人は、手形金を受領した所持人に対して、その手形金を不当利得として返還することを請求できる。


4 相手方の意思表示の瑕疵


ここで、破産手続開始前に破産者となるべき者と取引をした者の意思表示に瑕疵がある場合、その瑕疵ある意思表示が破産手続との関係でどのように評価されるかを簡単に見ておこう。

破産者が破産手続開始前になした法律行為について、相手方に意思表示の瑕疵があり、破産者に対して無効あるいは詐欺を主張することができる場合に、破産管財人に対してもそれを主張することができるかが問題になる。この問題の答えは、取消権あるいは無効を定めた規定の趣旨にしたがって決められるべきである。

  1. 善意の第三者にも取消し・無効を主張しうる場合には、破産手続との関係においても、それを主張しうる。例えば:
  2. 善意の第三者には主張しえないもののうち、破産債権者よりも相手方を保護する必要があるため、破産手続との関係においても主張することができるもの:
  3. 相手方を保護する必要が少ないため、破産手続との関係においては主張しえないもの

もっとも、2と3については、破産管財人ないしは破産債権者を第三者と見て、その善意悪意に従って問題を解決すべきとする見解もある。その場合に、誰の善意・悪意を問題にすべきかにつき、次のような見解がある。

  1. 破産債権者の善意・悪意に置き換えるべきである。
  2. 管財人個人の善意・悪意を問題にすればよい。
  3. 管理機構として常に善意とすべきである。

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Author: 栗田隆
Contact: <kurita@kansai-u.ac.jp>
1996年 9月 10日−2005年5月29日−2013年5月10日