by SIFCA
目次文献略語

破産法学習ノート2

破産制度の目標と概要


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 自由主義経済の基盤としての破産制度
2 破産制度の目標  3 手続の概要


1 自由主義経済の基盤としての破産制度


我々が現在暮らしている社会では、個人[10]の経済活動の自由が認められている(憲法22条29条)。人の幸福は様々であるが、経済的成功も幸福の一つの要素であることを考慮すると、経済活動の自由は重要である。しかし、その自由は、同時に、債務者はその全財産をもって金銭債務を返済しなければならないという責任を伴う(ただし、個人については、最低限度の生活に必要な財産が留保される)[6]。そして、債務を返済するに足る財産を有しない債務者ないし債務を弁済すれば事業継続が困難になる債務者は、倒産したと言われる[R26]。

新陳代謝としての倒産
企業の倒産の原因は様々であるが[16][R11]、自由主義経済社会においては、倒産した企業の解体は、社会全体の経済的健全性の維持のために必要なことである。なぜなら、社会は、技術革新や人口の変動その他の理由により常に変化していくのであり[9]、社会の需要にあわなくなった企業は消滅すべきである。のみならず、景気は波動するものである[15]。好況の後には不況がくる。好況時に群生した企業のうちのいくつかは、不況時に消滅していかなければならない[14]。債務者や経営者の行為責任[R12]を問えない場合でも、企業活動の成果たる資産を欠く企業を消滅させなければ、次の好況がやって来ない。また、個人の経済活動の自由が認められ、しかも個人の資質が様々である以上、無能な者が企業を経営することもある。そのような企業も淘汰されなければならない。倒産は、自由主義経済社会における新陳代謝である。

新陳代謝の仕方にはいろいろな方法があるが、破産手続は、裁判所が関与して、債務者の財産関係を強制的に清算させるという点に特色のある手続である。それは、経済社会における新陳代謝を円滑に無駄なく行うという重要な役割を負っている。例えば、倒産した企業の財産が債権者に配分されることなく、債務者や暴力団のまわりに滞留するのであれば、新陳代謝を円滑に無駄なく行うことができない。倒産者の財産が債権者に公平に配分されることは、経済社会全体の発展のためにも必要なことである。

裁判所が関与しない倒産処理手続
債務者が経済的苦境に陥った場合の債権債務関係の処理は、裁判所の関与なしに行われる場合もある。小さな政府の思想からすれば、むしろ、その方が望ましくさえある。

私的再生(自立的再建)  経済的苦境に陥った企業を解体せずに再建するのがよいか、再建するとしてどの範囲の者の負担で再建するのがよいかは、実のところ、さまざまな事情に左右される、難しい問題である。法的処理が常によいというわけではない。特に、デフレーションが進行している場合には、連鎖倒産が発生しやすい。法的処理が必要になる前に、すなわち、利害関係人に平等な負担を求める前に、一部の者の負担で自立的に再建できるのであれば、そうするのが好ましい場合もある。平成大不況の下で、企業の自立的再建を支援することを目的の一つとする法律として、産業活力再生特別措置法(産活法あるいは産業再生法と略称される)が平成11年に制定された(経済産業省「産活法」参照)。なお、同法は、平成26年に産業競争力強化法の施行に伴って廃止され、現在では、同法第4章第3節において「事業再生の円滑化」のための支援措置が規定されている(同法には、これのみならず、複数事業者の同一事業あるいは異種事業の再編の支援措置等も用意されている。同法について、経済産業省「産業競争力強化法」参照[18]。

私的清算  株式会社が債務超過に陥っている場合には、その財産関係の清算は、公正な清算を確保するために、破産手続によらないのであれば、裁判所の監督の下に行われる特別清算手続(会社法510条以下。857条以下・879条以下も参照)によることが要求されている(ただし、現実には会社についても私的清算が行われることがある)。しかし、債務者が個人や持分会社である場合にまでそのような手続によることが要求されているわけではない。債権者と債務者の合意ができるのであれば、裁判所の関与なしに清算手続を行うことができる。これを私的清算という。

私的清算を行う場合に、清算手続を実施する者(清算人)に、債権者の中のある者が選任されることもあれば、債権者でない者(特に弁護士)が選任されることもある。清算人は債務者が選任しても債権者が選任してもよいが、清算を有効に行うためには、選任者または被選任者が他の利害関係人から選任の同意を取り付けることが必要である。清算を円滑に行うために、債務者がその財産を清算人に移転し、清算人が債権者に支払をすることがある。この場合の法律関係については、次の2つが可能である。

  1. 委任契約  債務者と清算人との関係を委任関係と見ると、弁済資金の支払は費用の前払である。「前払費用は,交付の時に委任者の支配を離れ,受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し、委任契約の趣旨に従って用いるものとして,受任者に帰属するものとなる」(後記最判平成15年の法廷意見)。
  2. 信託契約  「会社の資産の全部又は一部を債務整理事務の処理に充てるために弁護士に移転し,弁護士の責任と判断においてその管理,処分をすることを依頼するような場合には,財産権の移転及び管理,処分の委託という面において,信託法の規定する信託契約」である。前記最判の補足意見は、このように解する余地もあるとし、さらに、委任と信託の混合契約の締結と解することもできるとする。

いずれの契約にあっても、清算という目的に向けられた清算人への財産移転により、当該財産は清算人に帰属する。それが金銭であって、清算人がその金銭を自己の名義で預金した場合に、清算人が債務者の代理人として債務者のために預金したと見るのは適当ではなく、その預金債権が債務者の責任財産としてその債権者によって差し押さえられることを認めるべきではない(最高裁判所 平成15年6月12日 第1小法廷 判決(平成13年(行ヒ)第274号))。

裁判所が関与する倒産手続
債務者が債務を正常に弁済することができないという状況においては、個々の債権者と債務者との間で利害が対立するのみならず、さまざまな種類の債権者が利害関係人として登場し、債権者間の利害対立も激しくなる。利害対立を適正に調整しながら債権債務関係を集団的・強制的に解決するために、裁判所が関与する手続を用意しておくことが必要になる。

企業(事業を行う法人・個人)が倒産した場合に裁判所の関与のもとに開始される集団的債務処理手続には、次のものがある[3]。

全部で4つの手続があるので、これらの手続を規律する法を指して、倒産4法という(会社更生、民事再生、破産については、それぞれ単行法がある。特別清算は会社法の中で規定されている)[4]。

倒産処理手続の選択
4つの倒産処理手続の中でどれを選択するかは、事件の特性(特に倒産債務者の特性)に依存する。

株式会社については、再建の見込みのない場合には、破産手続または特別清算手続になる。特別清算手続は簡易な倒産処理手続であるので、債権者や経営者の間で清算処理についてある程度の合意ができている場合、あるいは、破産管財人による財産収集の必要がない場合に選択される。再建の見込みのある場合には、会社更生又は民事再生の手続が選択される。比較的規模の大きい株式会社については、会社更生手続が選択される。民事再生手続は、現経営陣の退陣が必ずしも要求されないので、現経営陣の主導で再建可能な場合に好まれる。その代わり、「無能な経営者がもう一度無能であることを証明するための手続である」と揶揄されることがある。

株式会社以外の法人(持分会社、医療法人、学校法人など)については、破産手続または民事再生手続が選択可能である。ただし、金融機関については、協同組織金融機関(信用協同組合、信用金庫又は労働金庫)も、相互会社(保険業を行うことを目的として保険業法に基づき設立された保険契約者を社員とする社団)も、金融機関更生法が定める更生手続を選択することができる(同法3条・168条)。

個人(事業を行う者と消費者)については、破産手続または民事再生手続を選択できる(負債額が5000万円以下で、かつ、将来において継続的または反復的収入が見込まれる個人債務者、及び給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある債務者については、民事再生法221条以下に特則がある)。

会社名が消費者に浸透している会社の再建型手続
企業の名称が消費者に浸透したブランドである場合に、その会社について会社更生手続や民事再生手続が開始されると、ブランドイメージが低下してしまい、企業価値が損なわれる。そのブランドの価値を保ちつつ企業を再建するために、次のような処理がなされることがある。すなわち、

  1. 経営危機に陥ったM社のMが著名ブランドある場合には、M社の名称をZ社に変更し、新規にMの名称をもつ会社を設立する(休眠会社の名称をMにしてもよい)。
  2. Z社の事業をM社に譲渡する。Z社には、負債と事業譲渡の対価が帰属し、これを特別清算手続で清算する。
  3. 表面的には、倒産したのは、M社ではなくZ社であり、Mのブランドイメージが維持される。

もちろん、事業譲渡とその後の清算手続について債権者に異議が出ないようにすることが必要である。そのために、銀行等の大口債権者が奔走し、一部の債権者からは破産の場合よりも高い弁済率の価額で債権を買い取ることもある。それでも、ブランドイメージが維持されることのメリットが大きければ、大口債権者も、破産の場合よりも有利に債権を回収できる。

切り捨てることが社会的に許容されない債権がある場合の倒産処理(新設子会社への事業譲渡)
例えば、大企業(株式会社)が重大な事故を起こし、多額の損害賠償債務を負い、債務超過の状況にあり、かつ、その損害賠償請求権を切り捨てることが社会的に許容され得ないとしよう(水俣病の公害をおこしたチッソを想起するとよい。福島第1原子力発電所の事故を起こした東京電力もこれに近い状況にある)。債務超過の状況にあるのであるから、破産手続を開始することができるが(破産法16条1項)、破産手続が開始されると、損害賠償債権は普通破産債権になり、被害者は不十分な満足を受けて切り捨てられる。会社更生手続や民事再生手続が開始される場合にも、その損害賠償請求権は不十分な満足を受ける権利に変更され、残余は切り捨てられる(会社更生法204条1項・205条1項、民事再生法178条1項・179条1項(なお、再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の減免等を禁ずる民事再生法229条2項2号は、株式会社が再生債務者である場合には適用がない)。他の債権者の同意を得て、当該損害賠償請求権を特別扱いする余地がないわけではないが、ここで考慮外としよう)。

このような場合に、倒産債務者の事業が収益を挙げることができるときは、債務者は、その収益でもって賠償金の支払を続けるべく、存続させることになる。しかし、債務超過のままでは経済的信用は低く、事業の発展にも支障が生ずる。そこで、子会社を設立して、その子会社に事業を移転し、債務者は親会社として、子会社から配当を受け取り、その配当金でもって賠償金を払い続ける仕組みが作られることがある(チッソについては、この仕組みが採用された)。子会社は、被害者に対して直接の賠償金債務を負わず、債務超過ではなくなり、財務の健全な会社として事業を展開することができ、これにより収益が多くなれば、それだけ賠償金の支払に充てることができる金額も多くなる。それは、被害者救済の点から好ましい一面を有している。他方で、損害賠償債権者からすれば、子会社に移転した財産は直接の責任財産ではなくなり、事業が行き詰まったときに子会社に対して直接債権を有する債権者に劣後にすることになるので、大きな不安が生ずる。このような倒産処理を採用するか否かは、個々の事案の様々な要素を考慮したしたうえで決断されべき問題である。

上記のような新設子会社への事業譲渡も一種の再建型倒産処理ということができる。これが成功するための必要条件として、次のことを挙げることができる:債務者の事業が収益性を有していること;子会社の経営者が子会社設立の経緯を自覚し続け、親会社にできるだけ多くの配当をなすこと;子会社が大きなリスクを採ることなく、堅実に経営を続けること。


2 破産制度の目標


この講義では、平成16年6月2日に公布された破産法[5]について説明する。破産法は、第1条に目的規定を置いている。民事再生法1条や会社更生法1条と対比させてみよう。

破産法 民事再生法 会社更生法
対象
となる
債務者
支払不能又は債務超過にある債務者の 経済的に窮境にある債務者について、 窮境にある株式会社について、
手段 財産等の清算に関する手続を定めること等により、 その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、 更生計画の策定及びその遂行に関する手続を定めること等により、
抽象的
目的
債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、 当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、 債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、
具体的
目的
もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、

債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること

を目的とする
もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ること

を目的とする。
もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを

目的とする。

* 目的を「抽象的目的」と「具体的目的」とに分けてみた。「抽象的目的」の名称の適否については迷いはあるが、ともあれ、この講義ではこの名称を使用して説明する。

* 手段の項目の中で、民事再生法は再生手続において用いられる手段があげているのに対し、他の2法は法律の用いる手段をあげている点で差異があるが、この点の違いは無視した(再生法の手段の項目を「・・・再生計画を定めること等の手続を定めることにより」とすれば、他の2法とそろう)。

抽象的目的の項目を見ると、会社更生法では「利害の適切な調整」があげられ、民事再生法では「権利関係の適切な調整」があげられ、破産法では、両方があげられている。しかし、利害の調整は権利関係の調整となって現れるのであるから、この差異は重要ではなかろう。重要なことは、いずれの手続においても、利害あるいは権利関係の調整が必要だということである。すなわち、債務者が倒産状態にある場合には、正常時に妥当する実体法により認められた権利の貫徹が困難となり、倒産という特殊な状況にあわせて誰かの利益ないし権利を犠牲にせざるをえず、それゆえに利害関係ないし権利関係の適切な調整が必要になるということである。この抽象的目的は、立法上の基本指針である。各倒産法が実現しようとした具体的目的は、「具体的目的」の項目に記されている。

破産法の目標
破産法の具体的目的は、簡潔に言えば、「財産関係の清算」と「経済生活の再生」である。後者は、個人についての目的である。法人は、破産により消滅するのが原則であり、法人の「経済生活の再生」は、破産手続の目的とはならない。再建型手続は事業の「再生」又は「維持更生」を目的としており、法人の再生は再建型手続においても目的となっていない(事業が債務者たる法人の許で行われるのが適当である場合に、いわば事業再生に付随して、法人の存続が図られるにすぎない)。事業の再生は、破産法が破産管財人による事業譲渡を認めているので(78条2項3号)、破産手続においても不可能ではないが、それでも事業の再生は、再建型手続において行われるのが本来であり、破産法は、破産手続から民事再生手続等への移行を円滑にする規定を設けることによりこの目的の達成に寄与するにとどまる。

財産関係の清算は、「適正かつ公正」に行われなければならない。より直截に言えば、債権者に、「平等でより多くの配当」を与えることが目標とされるべきである。それとともに、倒産が多発するのは、社会全体に過剰債務の毒素が蔓延した場合(GDPに比して過剰な信用が供与され、供給力が需要を上回っているために、供給による利益によって負債を減少させることが困難な場合)であることにも注意しなければならない。倒産はその解毒過程・新陳代謝過程である。破産手続は、そのためのもっとも確実な手続である。解毒や新陳代謝は早めに開始されるほうがよい。この事物の本性に従い、倒産企業の早期解体(早期清算)も破産制度の目標となる。これも「債務者の財産等の適正かつ公平な清算」に含まれると言うべきである。

以上のことを整理すると、破産制度の目標は、次の3つになる[1][CL1]。

  1. 倒産企業の早期解体
  2. 平等でより多くの配当
  3. 破産した個人の救済

これら3つの目標はいずれも重要であり、どれか一つが決定的に重要というわけではない。しかし、その配列の順番に時代の状況を反映させ、あるいは破産制度に対する自己の思い入れを反映させることは許されよう。従来は、平等でより多くの配当という目標が強調されていた(例えば、[伊藤*1989a]37頁)。倒産企業の早期解体の目標が最初に挙げられることはあまりなかった。しかし、1980年代後半の円高に対処するために低金利政策が採用され、それを重要な一因として生じ、1990年頃をピークとする不動産・株式バブルが崩壊し、山のように積み上がった不良債権を処理していく状況(特に住専処理の状況)を見ると、これを最初に挙げたくなるのは、私だけではなかろう。

2.1 倒産企業の早期解体

企業が破産状態に陥った場合でも、企業はなお存続しようとする。企業が無事に再建できればよいが、失敗した場合には、弁済不能な債務がさらに増え[17]、債権者に一層多くの損失を与え、より多くの債権者を連鎖倒産の危険に追い込むことになりやすい[13]。破産状態にある企業については、早めに破産手続を開始し、その企業の経済活動を法的に不可能にし、連鎖倒産の膨張を防止することが必要である([伊藤*破産・民再v2]3頁も同趣旨を強調する)。倒産企業の早期解体の最大の意義は、この点にある。この解体には、さらに、次のような副次的な意義がある。

  1. 企業の倒産は、その企業が供給する商品が社会全体から見れば供給過剰の状態にある場合に生ずることが多い。企業の解体は、供給過剰(設備過剰)の状態を解消する意義をもつ。
  2. 企業の倒産は、広い意味での浪費(放漫経営、コストダウン競争に勝抜くことができないという意味で不効率な経営)によって生ずることがある。企業の解体は、浪費による損失を企業に関与した者に確定的に負担させ、浪費を抑制することに役立つ。労働者については、その負担は失業という形で現われるが[2]、それは自己の労働能力を社会の需要に合わせて開発する圧力となる。
  3. 解体された企業の財産を他の企業が有効利用すること([伊藤*1989a]7頁)。これは、1と両立しにくい要素を含むが、ともあれ、当該企業活動の内容が社会の需要に合致するものである限り、その財産が従来の人的組織から離れて新しい人的組織のもとで有効に利用されることは、好ましいことである。新しい人的組織は、倒産した企業の中からさえも生まれる。倒産企業の従業員が倒産の経験をふまえて新しい組織を作り、解体された企業財産を利用して新しい企業活動をする例は、しばしば耳にする。

他方で、経済活動の自由の尊重の視点からは、あまりにも早期の破産手続開始は好ましくない。両者を調整するのが、破産手続開始の実質的要件たる破産手続開始原因である。一般的な開始原因は、支払不能、すなわち、弁済期にある債務を一般的継続的に支払うことができないことである(15条1項・2条11項。支払停止は、その推定事由)。責任財産が現在の財産に限定される物的会社については、債務超過も開始原因とされ、早期の破産手続開始を可能にしている(16条)[7]。

申立権者  破産手続開始の申立てをすることができるのは、原則として、債務者またはこれに準ずる者および債権者である(18条以下)。裁判所の職権による破産手続開始は、他の倒産手続からの移行において認められているにすぎない(再生法250条、会社更生法252条)。金融機関の倒産は社会的影響が大きいので、1996年に、監督庁にも申立権が認められた(平成16年12月3日法律第154号による改正後の金融更生特例法490条)。

申立義務 破産手続の早期開始のために債務者等に自己破産の申立義務を負わせることも考えられるが、現行法上は、そのような義務は、清算人に限られている(持分会社について会社法656条、一般法人法による法人について同法215条1項・342条17号。株式会社の清算人については、特別清算の申立義務が課せられているにとどまる(会社法511条2項))[21]。

費用の予納  破産手続開始申立人には費用を予納することが要求されているが、費用の予納が困難であるために申立てができないことから生ずる弊害を避けるために、破産手続費用の国庫による仮支弁(立替払)の制度が用意されている(23条。もっとも、類似の制度のあった旧法下において、その主たる利用は消費者破産の場合に限られていた)。

事業の継続と譲渡
上記の説明において用いられた「企業」の概念は次の2つに分析することができる。

  1. 事業主体  破産者が法人の場合には、破産手続の終結とともに法人は消滅する。破産者が個人である場合には、破産手続の開始や終結によって法人格が消滅することはないが、破産手続開始とともに財産管理権を喪失し、彼は事業を行うことができなくなり、事業主体ではなくなる。
  2. 事業組織  企業活動に用いられる財産の有機的結合体(物的組織)および企業活動に従事する人的組織。

ところで、破産手続において達成されることが必要な最小限度のことは、破産者の財産を換価して、その換価金で破産債権者に配当を与えることである。債務の弁済のために企業活動に用いられる財産を全て換価する必要があるために、通常は、企業活動に用いられる財産を解体的に売却することになり、したがって、人的組織も解体されることになるので、企業全体が解体されることになる。

しかし、事業組織の解体が常に必要かと言えば、そうではない。破産者が行ってきた企業活動が社会的に有用であり、その企業活動を存続させる経済的需要があるのであれば、相当の対価でもって事業を譲渡して、その対価を配当財団に組み入れればよいのであり、譲受人の下で事業を継続することは許される。企業活動に用いられる財産を解体して譲渡するよりも、有機的結合を保ったまま譲渡する方が有利に(高価に)換価することができるのであれば、むしろ、そうすべきである(なお、人的組織の承継は、組織に属する労働者と譲受人との間での新たな雇用契約の締結の形態をとる必要があり、破産管財人と譲受人との合意のみでなされるものではない。人的組織を除外して物的組織のみを譲渡することは可能である)。

そこで、破産法は、破産管財人が裁判所の許可を得て事業を継続することを許し(36条)、営業又は事業を譲渡することを許容している(78条2項3号)[19]。

譲渡されるべき事業用財産が日本国内にある場合には、この事業譲渡は比較的円滑に行われようが、在内財産と在外財産とが一体的に運用されている場合には、財産が所在する外国が日本で選任された破産管財人の権限を承認するか否かの問題と絡んで、困難な問題が生じよう。

2.2 平等でより多くの配当

破産手続の第二の目標は、破産債権者にできるだけ多くの配当を平等に与えることである。債務者が破産状態になると、債権者は債務者に必死に弁済を迫り、場合によると代物弁済として債務者の財産を持ち去ることがある。債務者は僥倖を願って、しばしば正常な判断力を失う。そこに、ハイエナのように倒産屋が現れ、残存財産を巧みに奪っていく。さらに、債務者あるいは倒産企業の経営者が今後の自分の生活のために財産を隠匿することがある。こうした事態に対して、破産法は、2つの手段を用意している。

債権者は、破産手続において平等に取り扱われるべきである(債権者平等の原則)。配当は、債権額に応じてなされる(194条2項)。優先権を有する債権者も存在するが、それは、一般の先取特権などの包括的担保権を認められていた債権者である(98条)。なお、債権者集会における議決の成立については、決議に同意する債権者の合計議決権額が決議に参加した債権者の議決権総額の半分を超えることが必要である(138条)。議決権の額は破産債権額を基準にして定まる(140条)。

2.3 破産した個人の救済

自由主義経済体制の下では、各人が自己の責任において自由に経済活動をなすことができ、その不成功については各人が結果責任を負う。破産制度は、その自由主義経済体制の法的基盤である。経済的挫折の結果責任は、法人については、全財産の換価と法人の消滅である。個人については、最低限度の生活に必要な財産を除く全財産の換価と、破産配当後も残存する債務を死ぬまで働いて弁済せよとの無限責任である。我々はこうした自由主義経済体制の中で生きている。しかし、その体制のために生きているわけではない。各人の幸福のために生きているのである。個人が破産した場合に、死ぬまで債務のくびきに繋がれなければならないのであろうか。日本国憲法が健康で文化的な最低限度の生活を保障している以上、いかに多額の債務を負っても、最低限度の生活を営む権利は保障される(民事執行法131条・152条参照)。しかし、債務の重圧の下で死ぬまで最低限度の生活から抜け出せないということは、悲惨である。働けば生活が向上するという希望のあることが、「人間に値する生活」(最大決昭和36.12.13民集15-11-2803)であろう。そこで、個人債務者が破産手続開始決定を受けた場合に、彼が不誠実な債務者でないときは、債務の弁済責任を免れることができるという免責制度が用意されている(248条以下)。

免責制度の根拠はそれだけではない。
  ()破産債権者の全員が富める者であるというわけではないが、比較的多くの者は富める者であろう。そのことを前提にすると、免責制度は、債務者の破産を契機としてなされる富める者と貧しい者との間の財産再配分制度の側面を有する。その政策的根拠は、次の点にある。少数の富裕者と多数の貧困者のいる貧富の差の激しい社会と、差の大きくない社会とが経済競争をすれば、後者が優位に立つ。貧富の差の激しい社会では、多数の者が飢え、かつ十分な教育を受けることができないことにより、労働生産性が低下するからである。
  ()免責制度は、経済の活性化のためにも必要である。経済が活発に運行されるためには、供給と需要のバランスがとれることが必要であるが、貧富の差が債務債務関係を通して拡大すると、このバランスが崩れやすくなるからである。すなわち、多額の債務を負った市民(貧しい者)は、債務の返済のために働かざるを得ず、これにより供給が増加する;しかし、彼は、働いて得た金銭の全部を消費に回すことができず、その一部(賃金から債務弁済額を控除した残額の範囲内)でしか消費することができない;多額の債務を負う市民の裏側には、多額の債権を有する者(金持ち)が存在する;金持ちは、ますます金持ちになろうとするから、貧しい者が減少させた消費を補うほどには消費しない;閉じた経済社会(外部に需要を求めることができない経済社会)において、そのような貧しき市民が多数存在すると、社会全体の消費よりも供給の方が多くなり、経済はデフレーションに陥りやすくなり、そこからの脱却が困難になりやすい。経済の健全な発展のためには、免責制度によりこの不健全な状況を強制的に解消する必要がある。この視点からは、次のように言うこともできる:経済の発展にとって、財の一般的交換手段である金銭の偏在、その極致としての金銭支払請求権の偏在(貧しい者が富める者に対して多額の債務を負っている状態)自体が好ましいことではない;富める者が自主的に消費を高めて金銭ないし金銭債権の減少に努めないのであれば、貧しい者が負っている債務を免責して偏在を解消することが必要になる。


3 手続の概要


参照ページ

3.1 破産手続開始決定

破産手続は、債権者または債務者(またはこれに準ずる者)からの申立てに基づき、裁判所が「債務者について破産手続を開始する」旨の決定(破産手続開始決定)をすることにより開始される(2条1項・30条1項)[8]。開始決定は、決定の時(決定書に記載された日時)にただちに効力を生ずる(30条2項)。この時から破産者の財産は、破産債権の満足に充てられるべき財産と、その他の財産とに分割される。前者は、管理処分権が破産管財人に専属する財産として、破産財団を構成する(2条14項・34条法定財団)。後者は、債務者の自由な管理処分に委ねられ、それゆえ自由財産と呼ばれる。

自由財産となるのは、基本的に、債務者たる個人の健康で文化的な最低限度の生活の維持のために債務者に留保された差押禁止財産を中心とする財産(34条3項。留保財産)、手続開始後に破産裁判所の決定により破産財団から除外された財産(34条4項。除外財産)及び手続開始後に破産者が得た財産(新得財産)である。法人については、ほとんど考えられない(開始決定に対して開始決定当時の代表者が法人を代表して不服申立てをする場合に、その費用のための金銭を留保すべきか否かが考えられる程度あり、それを否定する立場に立てば、法人については自由財産はないと言ってよい)。

3.2 破産財団の整理・換価

破産管財人が破産財団所属財産として現実に管理している財産の集合(現実財団)と法定財団とは、食い違うことがある。管財人は、両者が合致するように整理する。

さらに、

こうして整理された財産をすべて金銭に換えて(184条以下)、配当原資(配当財団)を用意する。

3.3 破産債権の確定

配当原資の用意と並行して、配当を受けるべき債権の確定作業がなされる(111条以下)。破産財団から配当を得ることができる債権(破産債権)は、原則として破産手続開始前に原因のある債権である(100条2条5項)。債権者は、破産債権を裁判所に届け出る(111条以下)。破産債権者相互の関係は、配当金を取り合う関係であるので、届け出られた債権の存否・内容は、すべての破産債権者との関係で画一的に確定することが必要である。その方法には、書面による破産債権の調査117条)と期日における破産債権の調査121条)の2つがある。いずれの場合でも、破産管財人が認め、他の届出済債権者が異議を述べなければ、破産債権の存在・内容が確定する(124条1項)。

この方法では確定しない破産債権については、原則として、それを主張する破産債権者は破産裁判所に対し破産債権査定申立てをし、申立てが適法であれば、破産裁判所は破産債権査定決定をする(125条)。破産債権査定の申立てについての決定に不服のある者は破産債権査定異議の訴えを提起することができ(126条)、この訴えについての判決で最終的に決着がつけられる(131条)。破産手続開始当時に係属中の訴訟がある場合には、査定手続を経ることなく、その訴訟を債権確定のための訴訟として続行する(127条1項・129条2項)。

3.4 配当

こうして配当原資が用意され、配当を受けるべき債権者が決まると、配当が行われる(193条以下)。その準備のために、配当原資および配当を受ける各債権の債権額と配当額を記載した配当表を作成し、それに異議を述べる機会を与え、異議を解決した上で、配当表に基づいて配当する(196条以下)。配当は、破産財団所属財産の換価が完了する前でも、配当に適する金銭が得られた段階で適宜行うことができる(209条1項)。

換価が完了した段階でなされる配当を最後配当といい(195条)、これに接続して破産手続終結決定がなされる(220条。なお、最後配当に代わるものとして簡易配当、同意配当の制度がある)。最後配当の前になされる配当を中間配当と言う(209条以下)。最後配当の配当額の通知後に配当に適する金銭が得られた場合には、最後配当表を基に、追加配当がなされる(215条以下)。


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1996年 8月 30日−2005年3月23日−2013年4月21日