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破産法学習ノート2
破産事件の主体関西大学法学部教授
栗田 隆 |
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破産手続は、破産法の規定に従い債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続である(2条1項)。相続財産と信託財産をひとまず除外して言えば、それは、資力が欠乏したために債務を弁済することができない債務者の総財産を金銭に換えて、総債権者に平等に弁済するための手続である。したがって、破産事件では、対立する当事者として債権者と債務者が登場する。
破産債務者は、破産手続により弁済される債務とその責任財産の帰属主体である(債務と責任財産の連結点)。債務者の財産に対して破産手続が開始されると、彼は破産者となる(2条4項)。破産手続開始決定により、債務者の主要な財産は破産債権の弁済のための特別財産として破産財団を形成し、彼はそれについて管理処分権を失う。どの債権が破産財団から弁済を受けるべきかも、債務者を除外して、債権者間で決定される(124条1項参照)。
破産手続は、債務者の財産関係を清算する手続であるので、破産者となりうるのは、権利義務の帰属主体である。しかし、権利義務の帰属主体の中には、破産手続によりその財産関係を整理することが適当でないものがある(国や都道府県などの本源的統治団体)。他方で、法人でない団体でも、社会的に見れば経済的活動をしている場合には、その団体を連結点として清算されるべき財産関係が成立するので、その団体も破産者として扱うことができる[1]。どの範囲の者が破産者となりうるかは、破産能力の問題として後述する。
広い意味での破産債権者は、次の2つに分けることができる。
現行法は、破産債権者を「破産債権を有する債権者」(実質的意義での破産債権者)と定義している(2条6項)。形式的意義での債権者は、「(破産債権の)届出をした破産債権者」(31条5項)と呼ばれる(しかし、「(破産債権の)届出をした者」と表現する方が正確である[10])。
破産債権者と次の者とを区別することが必要である。
債権者平等の原則
債権者は、債権の種類、発生時期、額などにかかわりなしに平等に扱われ、債権額に応じた比例配当を受けるべきである。これを、「債権者平等の原則」という。例外的に、優先的に満足を得ることができる破産債権があるが、これは、破産者の一般の先取特権その他の一般の優先権(債務者の一般財産から優先弁済を受ける権利)のある債権である(98条)。社会政策的考慮から実体法により認められた一般の先取特権がその代表例である。公示されることのない一般の先取特権は、債権者平等の原則を害する結果となるが、その数はそれほど多くはない。ただし、給料債権など雇用関係に基づいて生じた債権に無制限の優先権が認められていることには注意しなければならない(民法308条)。優先的破産債権は、普通の破産債権よりも高い順位で配当を受けることができる。優先的破産債権については、さらにその中で順位が付けられている(民法329条1項参照)。配当は、まず先順位債権についてなされ、余剰があれば、次順位の債権に配当される。同順位債権者間では「債権者平等の原則」が妥当する。
外国人を日本の破産手続においてどのように処遇するかについては、外国が日本国民を保護する範囲でその外国民を日本においても保護するという相互主義の考えもあるが、現行法は、国際交流の進展をふまえて、外国人・外国法人も日本人・日本法人と同一の地位を有するものとした(3条。内外平等主義)。
破産手続に係る事件が係属している地方裁判所を破産裁判所という(2条2項・3項)。
一般に、「裁判所」の語は、官署の意味でも裁判機関の意味でも用いられるが、現行破産法では、「破産裁判所」は、官署(地方裁判所)の意味で使われている。裁判機関(破産事件を取り扱う一人の裁判官又は複数の裁判官の合議体)を指す場合には、「裁判所」の語が用いられる(例えば8条。民再法253条1項かっこ書も参照)。もっとも、6条の「裁判所」は、官署の意味である(この学習ノートでも、「裁判所」の語は、官署としての裁判所の意味で用いることがよくある)。いくつかの規定では、破産裁判所を含めた意味で「裁判所」の語が用いられるが、そのことは各規定で明示されている(例えば規則2条5項)。
個々の破産事件を担当する一人又は複数の裁判官により構成される裁判所(裁判機関)は、破産手続開始決定を下し、破産管財人を選任してその職務を監督し、届出のあった破産債権の調査を主宰し、債権者集会を指揮し、配当手続に関与し、破産終結決定を下す等の職務を行う(なお、「裁判所」といっただけではわかりにくい場合には、「狭義の破産裁判所」といい、これとの対比で、官署としての破産裁判所を「広義の破産裁判所」ということもある)。
他方、破産財団に属する財産であるか否かに関する訴訟や破産債権査定異議の訴えは、通常の民事訴訟事件として扱われる。査定異議訴訟は、破産裁判所の管轄に専属するが(126条2項・6条)、この破産裁判所は官署としての裁判所であり、破産手続を担当する裁判官以外の裁判官が事件を担当してよい[15]。
官署の意味
(広義の破産裁判所) |
裁判機関の意味
(狭義の破産裁判所) |
両方
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破産裁判所 | 2条3項、126条2項、173条2項、175条2項、180条2項、248条、256条1項 | ||
裁判所 | 6条 | 8条など多数。会社更生法250条も参照 | 規則2条5項など |
国際管轄(4条)
経済の活動の国際化に伴い、ある国の国民あるいは法人が複数の国において経済活動をすることが多くなった。(α)
経済活動のなされている国は、自国内の債権者のために自国において破産手続を行うことに利益を有する。他方で、(β)同一の債務者について複数の倒産処理手続が並行することは、債権者間の平等を害しやすく、また非効率的である。倒産処理手続は、一つに集中されるべきものである。両者の緊張関係の中で、日本の破産法は、日本国内に次のような財産的関連を有する債務者についてのみ日本で破産手続の開始を申し立てることができるものとした(4条)。
国内管轄 − 基本管轄(5条1項・2項)
この講義では、5条1項・2項の管轄を「基本管轄」と呼ぶが、「原則的管轄」ということもある([小川*2004a]32頁)[11]。
(a)第一次的基本管轄 破産事件は、第一次的に、債務者の属性に応じて、次の地を管轄する地方裁判所の管轄に服する。
債務者の属性 | 管轄原因 | |
---|---|---|
営業者 | 営業所を有するとき | ・主たる営業所の所在地 ・外国に主たる営業所がある場合には、日本における主たる営業所の所在地 |
営業所を有しないとき | ・普通裁判籍(民訴4条)の所在地 | |
非営業者 |
会社の主たる営業所の理解については、次の2つの説明がある。
第1の見解も最終的には現実の営業上の本店を「主たる営業所とするのであるから、第2の見解と実質的な差異があるわけではない。第1の見解は、定款上の本店を第一次的な基準としたのは、形式的標識と実質的標識とが通常は一致するであろうことを前提にして、実務的に判断しやすい形式的標識(定款上の本店)を第一次的な基準とした説明であると理解することができる。
大判大正15年7月10日・民集5巻558頁は、解散により清算段階に入った会社が解散前から本店を登記簿記載の所在地から移転していたが、その会社の破産申立てが登記簿記載の本店所在地を管轄する区裁判所になされた場合に(当時は、破産事件は区裁判所の管轄に属していた)、申立債権者が善意である限り被申立会社は本店移転の事実を申立債権者に対抗することができないと判示した。この古い先例を前提にすれば、定款記載の本店所在地を主たる営業所と見るべきことになるが、しかし、この先例は、管轄違いの場合に移送を認めていない明治23年民事訴訟法が施行されていた時代の先例であることに注意しなければならない。現在では、債権者が管轄違いの地方裁判所に破産手続開始の申立てをした場合には移送がなされ、これにより申立債権者の利益は保護されるので、管轄の問題を善意者の保護の領域に取り込む必要はない。主たる営業所は、現実の企業活動の中心地、あるいは、より操作可能な形で定義するならば、破産手続を遂行するために有用な人員及び資料が集中している営業所を指すと解すべきである。
主たる営業所は、一つの会社について一つだけであるとする必要はなく、破産手続を行うのに有用な人員と資料が比較的多数存在している営業所(その意味では「主要な営業所」)が複数ある場合には、いずれも5条1項の主たる営業所にあたるとしてよいとの見解も成り立ちうる。しかし、そのような考えが現行法に馴染むかは、7条との関係で問題である。なぜなら、もし主たる営業所が複数ありうることを前提に立法するのであれば、一つの主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所から別の主たる営業所を管轄する地方裁判所への移送の規定も用意すべきであるが、現行法には、その規定が欠けているからである。移送に関する規定も考慮すれば、破産手続開始申立てが5条1項の管轄地方裁判所になされた場合には、その営業所が「主要な営業所」である限り(そうでなければ管轄違いを理由に移送すべきことになる)、その営業所が「主たる営業所」になり、それ以外の「主要な営業所」は、7条1号にいう「主たる営業所以外の営業所」にあたると解して、その営業所の所在地を管轄する地方裁判所への移送の余地を残しておくべきである。
会社が清算段階に入った後で破産手続開始の申立てがなされる場合には、清算業務が現に行われている営業所は、上記の意味での「主要な営業所」にあたり、その営業所の所在地を管轄する地方裁判所に最初に開始申立てがなされれば、その営業所が「主たる営業所」になると解してよい(その営業所が従前の主要な営業所ではなくても、その営業所の所在地を管轄する地方裁判所に管轄権を認めるべきである)。
(b)第二次的基本管轄 上記の規定による管轄裁判所がないときは、財産所在地を管轄する地方裁判所が管轄する(5条2項)。債権は、裁判上の請求をなすことができる地にあるものとみなされる(民訴4条または5条により定まる裁判籍所在地)[2]。財産が各地に散在する場合には、どの財産所在地の地方裁判所にも破産手続開始の申立てをすることができる。各地に所在する財産の大小は問われないが、破産裁判所の管轄区域外により大きな財産が存在する場合には、7条3号により当該地を管轄する地方裁判所に移送されうる。
関連管轄(5条3項−7項)
経済的に密接な関連を有する複数の債務者の倒産事件(破産事件、再生事件、更生事件)は、同一の裁判所で処理する方が効率的となる。1項・2項にかかわらず、下記の各組合わせの債務者について、一方を倒産者とする倒産事件が係属している場合には、その事件が係属している地方裁判所は、他方の破産事件についても管轄権を有する。そのような関係にある債務者を「関連債務者」と呼ぶことにする。
規定 | 債務者の組合せ | 先行する手続 | |
---|---|---|---|
法人が関係する場合 | 5条3項・4項 | 親法人と子会社・孫会社 | 破産手続等(破産手続、再生手続、更生手続。ただし、債務者の属性により可能な倒産手続が異なる) |
5条5項 | 会計監査人設置会社と連結子会社 | 同上 | |
5条6項 | 法人とその代表者 | 同上(代表者については、破産手続・再生手続である) | |
法人が関係しない場合(個人同士の場合) | 5条7項 | ・連帯債務者の関係にある個人 ・債務者と保証人の関係にある個人 ・夫婦 |
破産手続 |
4項の規定は、再帰的に適用されるべき規定であり、4項により孫会社が親法人の子会社とみなされると、≪みなし子会社である孫会社≫の子会社(親法人から見て曾孫会社)と親法人との間で、3項の適用がある。
大規模事件における競合的広域管轄(5条8項・9項)
大規模な破産事件を処理するためには、経験を積んだ人員と物的設備が必要である。それを全国の全ての地方裁判所にあまねく配置することは困難であるので、地域の拠点となる大規模裁判所に大規模事件に対応できる資源を配置することにし、そこに広域管轄権を認めた。この広域管轄権は、他の裁判所の管轄権と競合的である。
規定 | 事件の規模 | 競合的広域管轄裁判所 |
---|---|---|
5条8項 | 予想破産債権者数が500人以上 | 基本管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所 |
5条9項 | 予想破産債権者数が1000人以上 | 東京地方裁判所又は大阪地方裁判所(両裁判所とも、この規模の事件については、全国を管轄区域とする) |
広域管轄裁判所が事件を処理する場合には、事件が破産債権者の住所・営業所から離れた地で事件処理がなされることがあり、これによって破産債権者が不利益を受けることがある。これに対処するために、次の措置が用意されている。
手続の一本化(5条10項)
破産事件は、その性質上、複数の裁判所で同時に処理されることに馴染まない。手続は1つに集約されなければならないので、上記の管轄裁判所のいずれかに申し立てがあると、その裁判所のみが管轄権を有する。
専属管轄(6条)
破産法の規定する管轄は、専属的である。(α)破産事件の管轄については、前述のように複数の法定管轄裁判所の中から、申立人が選択できるようになっているが、いったん申立てがなされれば、その裁判所のみが管轄権を有することになる。(β)破産事件そのものではなく、これに関連する事件(例えば、破産債権査定申立てについての決定に対する異議の訴訟事件)の管轄も専属管轄である。管轄の合意(民訴11条)や民訴17条の裁量移送の余地はない(民訴13条・20条)。もっとも、必要に応じて移送することができるように、破産法独自の裁量移送の規定が用意されている(7条や126条3項)。
移送(7条)
個々の破産事件の処理に適した裁判所を選択できるように管轄裁判所が複数認められているが、最初に申立てがなされた裁判所が当該事件の処理に最適な裁判所であるとは限らない。また、5条に規定された管轄裁判所よりも事件処理に適した裁判所が他に存在する場合もありうる。こうしたことを考慮して、裁量移送の制度が設けられている。
移送先については、法定管轄裁判所への移送と、法定管轄裁判所になるとは限らない裁判所への移送とに分けることができる([小川*2004a]34頁)。
移送の時期を特に制限する規定はないので、破産手続開始決定後でも許されると解さざるをえない。しかし、(α)開始決定と同時に破産管財人が選任され、管財人が管財業務を進めること、(β)付随的処分として債権届出期間等が公告され、債権の届出がなされ始めること等を考慮すると、開始決定後の移送は、混乱をもたらす。このことから生ずる不利益よりも移送しないことの不利益(著しい遅滞・損害)の方が大きい場合に限り、開始決定後の移送は許されるとすべきである。なお、開始決定後に移送がなされた場合には、移送先の地方裁判所が遠隔地にあるときには、従前の破産管財人を解任して地元の弁護士等を後任の破産管財人に選任する必要が生ずる場合もあり得るが、これも許される(移送があったことは、75条2項の「重要な事由」にあたりうる)。事務の引き継ぎを円滑にするために、移送先の裁判所が新たに破産管財人を選任して、当初の管財人を破産管財人代理にしてする等の措置が実務ではとられているとのことである。
破産事件について裁判所が行う手続の通則が8条以下で規定されている。
手続法の領域で一般的なことであるが、破産法の領域においても、法律と最高裁判所規則との間で役割分担がある。破産手続等に関し必要な事項のうちで、基本的な事項については、法律で定め、法律(破産法)で定められていない事項については、最高裁判所規則で定めるものとされている(14条)。その規則が、破産規則(平成16年10月6日最高裁判所規則第14号)である。
破産手続については、破産法・破産規則に別段の定めがある場合を除き、民訴法と民訴規則が準用される(破産法13条、破産規則12条)。「別段の定め」は、明文の規定に限られない。
破産手続も民事執行手続も、債権者の権利の事実的実現の要素を含む点で共通している。しかし、前者が総債権者のための総財産に対する手続であるのに対し、後者が特定の債権者のための特定の財産に対する手続であるという点で、両者は性格を大きく異にする。そのため、民事執行法の規定は準用に適さない。
申立て、届出、申出及び裁判所に対する報告は、特別の定めがある場合を除き、書面でしなければならない(破産規則1条)。手続を確実に進行させ、裁判所の記録作成の負担を軽減する必要があるからである[9]。
審理および裁判の形式
破産手続等(3条参照)に関する裁判は、口頭弁論を経ることを必要としない(8条1項)。したがって、裁判の形式は決定となる(民訴87条1項ただし書)。裁判所は、裁判にあたって、裁判の基礎資料(事実と証拠)を職権で収集することができる(8条2項)[6]。
棄却と却下
法律の世界では、基本的な言葉の意味が微妙に変わることがある。その変化を見落とすと条文の理解に混乱が生ずる。「棄却」という手続法の領域でごく普通に使われている言葉にも、このことは当てはまる。
一般に、当事者に申立権のある場合には、当事者の申立てに対して裁判所は必ず応答しなければならない。応答は、申立てを認めるか、申立てを拒絶(排斥)するかである。判決を求める申立て(訴え)については、申立ての拒絶を示す2つの言葉が用意されている。「却下」と「棄却」であり、次のように使い分けられている。
この用語法を、「拒絶理由による2元的用語法」(短くして「2元的用語法」)と呼ぶことにしよう。問題は、破産法がこの2元的用語法を前提にして組み立てられているかである。
現行破産法もこの2元的用語法を採用しているかのように見えなくもない。しかし、採用していないとみるべきである[18]。現行法の前身である大正11年破産法は、「棄却」の語を「申立を認めない(排斥する)」という意味で用いている[16]。このことは、当時の概説書の次の説明の中に示されている([斉藤*1934a]81頁、[加藤*1952a]280頁)。
したがって、旧破産法139条1項が費用の予納がないときは申立を棄却しなければならないとしているのは、「不適法として排斥しなければならない」という意味であり、判決手続の世界の用語法(2元的用語法)でいえば「却下である」。民事再生法25条にいう棄却も、少なくとも1号との関係では同様である。現行破産法は、民事再生法25条に相当する30条1項において「棄却」の語を用いることを避けていることに注意しなければならないが、それでも基本的に大正11年法の用語法を引き継いだと見てよい。現行破産法248条7項各号にいう棄却は、「申立を排斥する」という意味であり、33条2項についても同様である。
現行破産法においては「却下」の語もよく使われているが[17]、これと「棄却」との使い分けはどうなるのか。破産法249条3項2号の「免責許可の申立てを却下した決定又は免責不許可の決定」における「却下」は「不適法として排斥する」の意味であり、そのような限定した意味での用例もあるが、多くは「不適法として排斥する」と「理由がないものとして排斥する」の双方を含んだ意味で用いられているとみてよく、それは33条2項の「棄却」と同じである。これらの語がどのような基準で使い分けられているのかは明瞭でないが、申し立てられている裁判の重要性に依存し、破産手続開始決定は重要な裁判であるので、その申立てを排斥するにあたっては「棄却」の語が用いられ、それほど重要でない裁判の申し立てを排斥するにあたっては「却下」の語が用いられていると見たい。
告知
決定は、相当な方法をもって告知すれば足りるのが原則である。しかし、重要な裁判については、関係人への送達が個別的に規定されている(送達も告知の方法の一つである。送達の手続は民訴98条以下による)。例:
決定は、告知された時に効力が生ずるのが原則であるが(民訴119条)[3]、効力発生時期が別途規定されている裁判もある。例:
破産事件においては、多数の者が利害関係人として登場する。多数の者に一定の事項を知らせる方法として、公告がある。
公告の方法
公告の方法は、官報に公告内容を掲載することである(10条1項)。官報が独立行政法人国立印刷局のWebサイトで1週間無料で閲覧することができるようになっている現在、これで足りるとしてよいであろう。新聞紙への掲載や、裁判所の掲示場への掲示は行われない。もっとも、最も重要な破産手続開始決定については、裁判所は、≪破産管財人が、日刊新聞紙に掲載し、又はインターネットを利用する等の方法で所定事項を破産債権者が知ることができる状態に置く措置を執るものとする≫旨を定めることができる(規則20条3項)。
公告は、掲載があった日の翌日にその効力を生ずる(翌日の午前零時から効力が生ずるので、期間計算においては翌日も算入する(13条、民訴法95条1項、民法140条ただし書))。
必要的公告
破産法において「公告しなければならない」とされている公告を必要的公告という。例:
破産手続は多くの者の利益に大きな影響を与えるので、公告をするとともに、裁判所に知られている者に通知あるいは送達をしなければならないとされていることがある。送達ではなく通知が行われるのは、公告事項について利害関係人の注意を喚起すれば足りる場合である([小川*2004a]37頁。民訴規則4条1項により、相当と認める方法によることができる)。例:
代用公告
破産法により送達をすべき場合に、送達される書類の内容を公告することにより代用することができる(10条3項)[13]。この送達に代わる公告を代用公告という。これは、次の点に意義がある。
代用抗告は、次の場合には許されず(下記(a)、(b))、あるいはすべきでない(下記(c))。
(a)重要事項については、抗告が公告の他に送達も必要とされている場合がある。この場合の送達を公告で代用したのでは、送達と公告の双方が必要であるとした意味がなくなるので、代用公告は許されない(10条3項ただし書)。
(b)上記(a)に該当しないが、個別に代用公告の不許が規定されている場合 多くは、一定の重要事項が専ら特定の者の利害に関係し、その者への送達が定められている場合である。例えば、27条6項2文。
(c)明文の規定はなくても、個別規定により代用公告が禁止されている場合に類似していて、かつ、事柄の性質上代用公告が不適切である場合。例えば、26条3項の送達がこれに該当する。
破産手続等(3条)に関するすべての裁判に対して抗告を許す必要はなく、またそれを許していては手続の渋滞を招く。破産法は、即時抗告を許すべき場合を選別し、それを個別的に規定している(9条1文。通常抗告は許されない)。
文書提出命令のように、破産法18条により準用される民訴法の規定によりなされた裁判については、即時抗告の可否は民訴法の規定に従い、破産法に特別の規定がなくても即時抗告が許される(民訴法222条7項)。除斥・忌避の申立てを理由なしとして棄却する決定(民訴法25条5項)も同様である。
即時抗告期間は、原則として、裁判の告知があった時から1週間である(民訴332条)。ただし、裁判の公告があった場合には、その公告が効力を生じた日(官報への掲載があった日の翌日)から起算して2週間である(9条2文・10条2項)。送達と公告とが競合してなされる場合の不服申立ての起算点は、公告発効日である[8]。公告発効日を起算点とする即時抗告期間満了後に送達がなされた場合については、不服申立ての追完の問題として処理すべきであろう(民訴97条参照)(この事例についての最高裁判例はまだない)。
即時抗告には、原則として執行停止の効力がある(民訴334条1項)[4]。ただし、執行停止の効力を認めるのが適当でない裁判もあり、それについては、即時抗告が執行停止の効力を有しない旨が個別に明規されている。例:
破産裁判所には、破産事件に関し多数の文書や録音テープ等の物件が集まる。利害関係人の手続関与の権利を実質的に保障するために、利害関係人がこれらを利用することを認める必要がある。他方で、無制限に利用を許すと、破産事件の円滑な処理、あるいは公正な処理が妨げられる。資料の利用について、適切な規律が必要となる。そのために、破産法は、特則をおかなければ民訴法91条・92条の準用があることを前提にして、破産法11条・12条で特則を定めた(この結果、民訴91条については、1項から4項の準用が排除され、5項のみが準用される)。
11条・12条において、次のものが文書等と総称される[14]:
11条は、破産規則の規定に基づいて提出あるいは作成された文書等にも準用される(破産規則10条1項)
11条3項にあげられている録音テープも文書等に含まれるが、これは今となっては古風な品物のように感じられる。ただ、例示としては悪くはない。音が記録されているミニディスク、DVD、フラッシュメモリーなどは、録音テープと同様に扱われる。ビデオテープについても技術進歩があり、同様なことが妥当する。
閲覧請求権等
これらの文書等は、裁判所書記官により管理され、利害関係人は、裁判所書記官に対し次の権利を有する(11条1項以下)。
上記の理解を前提にすると、裁判所書記官が管理する電磁的媒体の記録された文字情報(例えば、多数の債権者に関するデータ)については、2項により紙媒体に謄写(ブリントアウト)するほかに、利害関係人にとってデジタルデータの形式で利用することが便宜にかなう場合には、3項により電磁的記録媒体への複製も許可されることになる[7]。
閲覧等の時期的制限(11条4項)
破産事件の裁判は、多数の利害関係人に大きな影響を与えることが多いので、裁判がなされるまでの間は、秘密を保つ必要がある場合がある。そこで、一定範囲の者について、一定の裁判があるまでは、11条1項から3項までの請求をすることができないとされている(11条4項では、「命令」と「保全処分」が「裁判」とは別個にあげられているが、「命令」も「保全処分」も「裁判」の一種であるので、ここでは「裁判」ですべてを代表することにした)。
規定
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利害関係人の範囲
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閲覧等の制限の終期(下記の裁判のうちのいずれかがあるまで)
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柱書 | 破産手続開始の申立人 |
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2号 | 債務者 |
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1号 | その他の者 |
* 閲覧制限の緩い者の順に並べてある。
支障部分の閲覧制限(12条)
破産管財人又は保全管理人が提出した文書等の中には、利害関係人が謄写等を行うことにより破産財団(を構成すべき債務者の財産)の管理・換価に著しい支障を生ずる部分が含まれている場合もある。その部分を支障部分という。
裁判所は、支障部分が含まれている文書について、手続進行の時期に関わりなしに、破産管財人又は保全管理人の申立てに基づき、次の要件の下で、支障部分の閲覧等をすることができる者を閲覧制限の申立人のみに制限する決定をすることができる。
ただし、保全管理人が申立人である場合には、破産手続開始後に破産管財人まで閲覧制限を受けたのでは不合理であるので、破産管財人は閲覧制限を受けない(12条1項柱書の最後のカッコ書き)。以下では、閲覧制限の裁判が確定しても制限を受けない者を「閲覧資格者」という。
閲覧制限の対象となりうるのは、下記の文書等である(12条1項1号・2号。条文が挙げられているマスの列上端に記された者が行右端に示されたことをするについての文書等が閲覧制限の対象となる)。
区分 | 破産管財人が | 保全管理人が | 各規定により以下のことをするについての文書等 |
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1号 | 36条 | 破産者の事業の継続することについての許可 | |
40条1項ただし書・40条2項 | 96条1項・40条 | 破産者の従業者又は元従業員に説明させることの許可 | |
78条2項 | 93条3項・78条2項 | 重要財産を処分することについての許可 | |
84条 | 96条1項・84条 | 職務執行に対する抵抗を排除する許可 | |
93条1項ただし書 | 債務者の常務に属しない行為をすることの許可 | ||
2号 | 157条2項 | 裁判所の特命によりする報告 |
閲覧制限の申立てがあると、その申立てについての裁判が確定するまでは、申立人(正確には閲覧資格者)以外の者は、閲覧を請求することができない(12条2項)。
閲覧制限の申立てを却下する裁判に対しては、即時抗告をすることができる。保全管理人が閲覧制限の申立てをし、その却下の裁判が確定する前に破産手続開始決定があった場合には、閲覧制限の申立手続は、破産管財人が当然に受継すると解すべきであろう。
閲覧制限の裁判に対しては即時抗告は許されない。しかし、閲覧資格者以外の者は、閲覧制限の要件を現在欠いていること(当初から欠くこと又は当初は備わっていたが後に欠くに至ったこと)を理由として、閲覧制限の決定の取消しを申し立てることができる。証明責任の分配については迷うが、この取消手続では、閲覧制限部分の閲覧等を許すと著しい支障が生ずることについて、閲覧制限を求める者(破産管財人等)が証明責任を負うと解すべきであろう。取消しを求める者は、当該部分を閲覧できないのであるから、この者に証明責任を負わせるのは酷だからである。