関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート2「破産者の法律行為」の注


注1 ただし、不動産取引の対抗要件である登記については、49条によりこれとは異なる取扱がなされることに注意。なお、債権譲渡についても、同条の類推適用がまったく考えられないわけではない。仮にそれを肯定すれば、結論は異なる。

注2 [伊藤*1991a]174頁は、時効取得が48条により排除されないのは当然のことであるとの前提に立った上で、54条により権利取得を否定される者は、宣告前から破産者に対して債権を有していた破産債権者であるとする。

注3 中野[中野=道下*1997a]85頁も同趣旨と思われる。

注4 流動集合物譲渡担保の効力について、最高裁判所 昭和62年11月10日 第3小法廷 判決(昭和57年(オ)第1408号)を参照。

注5 借地権の対抗要件である地上建物の登記は、建物の賃借権の対抗要件である建物の引渡しと同等に位置づけるべきであり、後者に破産法49条1項の適用がないのと同様に、前者にも同条同項の適用はない。

注6 [宗田*2005a]149頁注8は、論拠として最判昭和37年8月21日民集16館9号1809頁をあげる。しかし、この先例は、民法478条が「過失がなかったとき」を要件として明示していなかった時代に、同条の解釈として無過失も要件に含めるべきとするものである。民法478条は、平成16年の改正により、無過失も要件として明示した。現行破産法は、その少し前に制定されたが、それでも、前記最高裁判決の趣旨が破産法50条にも妥当すべきと判断されたのであれば、それに即した文言が採用されてよい時期に制定されたのであり、弁済者の無過失を要件として明示しなかった破産法50条は、民法478条とは異なる政策的判断に立っていると考えるべきであろう。

注7 破産法47条は破産者の相手方の善意・悪意を問題にしていないし、善意・悪意の推定規定である51条も47条の場合を対象にしていない。動産取引の安全と破産制度の機能の維持との相克の問題であり、立法論としては、もちろん前者を優先させることもできるが、前者を優先させなければ取引秩序が維持できないほどに強い要請というわけでもない。相手方が破産手続開始後の破産者との取引により破産財団に属する財産を取得した場合に、彼が破産者に給付した財産が破産財団(現実財団)中に特定物として存在しているときは、その返還請求権を取戻権として行使することができ、特定できない形で利得として存在するときは、彼はその利得の返還請求権(民法703条)を財団債権として行使することができ(148条1項5号)、これにより損失を回復するすることができる。いずれにも該当しないときは、破産者(個人)に対して損害の賠償あるいは不当利得の返還を請求でき、これらは破産手続開始後の取引により生じた債権であるから、破産債権にはならず、免責許可決定の効力も及ばない。もちろん、相手方の給付物が特定性を有する形で破産者の自由財産中に存在する場合には、所有権等に基づいてその返還を請求することができる。