bySIFCA
目次文献略語

破産法学習ノート2

破産手続開始決定


関西大学法学部教授
栗田 隆
bySIFCA

1 破産手続開始申立ての審理・裁判  2 不服申立て


1 破産手続開始申立てについての審理裁判


1.1 審理と裁判

審理方法
破産手続開始申立ての審理に際しては、裁判所は、8条2項により、職権で証拠調べをすることもできる。実務では、同時廃止および破産免責が予想される場合を別にして、書証と申立人および債務者の審尋だけで審理を終えるのが通常のようである。なお、和解を勧めることは(民訴89条)、破産事件の性格に照らして適当でない。

申立書の補正を命ずる処分
申立書に必要的記載事項が記載されていない場合及び申立手数料が納付されていない場合には、裁判所書記官による補正を命ずる処分(21条1項・2項)、これに対する申立人からの異議申立てとそれに対する裁判所の裁判を経て(同3項から5項及び13条、民訴121条)、最終的には裁判長により申立書が却下される(同6項)(5項と6項の主語の違いに注意しておくこと)。

裁判所による審理事項
申立てが認められるための要件は、形式的要件と実質的要件とに分類することができる[5]

形式的要件(申立ての適法要件、手続的要件)  次の条件が満たされない場合には、申立ては不適法となる(証明責任、疎明責任も付記した)。国内管轄権を欠く場合は管轄裁判所に移送されるが、その他の場合には申立ては棄却される。

実質的要件  次の条件を満たさない場合には申立ては理由なしとして棄却される(証明責任、疎明責任も付記した)。

 申立適格について  破産債権者が申し立てた場合に、その申立適格(破産債権者であること)も審査の対象となる。これは手続的要件であり、要件の充足について証明が必要か否かについて、争いがある。

  1. 証明説  申立人が破産債権を有しない場合には申立ては却下されるべきであり、申立人の債権の存在も破産手続開始決定が下されるための要件であるから、これについても証明が必要である。債務者保護の視点からも、要求されるべきである。
  2. 疎明説  破産手続は、その開始原因がある以上迅速に開始されるべきであり、そのためには申立人の債権の存否は疎明で足りる(大判大正3.3.31民録20-256、[伊藤*1991a]59頁)。

 個人の債務者自身が破産手続開始申立てをする場合には、申立人が債務者本人であることについて証明が必要である。一部の理事・取締役が申し立てる場合には、理事・取締役であることの証明が必要である。

 破産手続開始原因の証明  自己破産の場合でも、破産手続開始原因の証明は必要である[CL2]。支払能力のある債務者が免責により債務を免れようとすることは、不当である。それを阻止する第一の関門は、この要件の証明である。このことが特に問題になるのは、破産債権者がほとんど一人で、弁済期にある債務について分割弁済を提案している場合である。

もっとも、債務者自身が破産手続開始原因となる事実が存在すると主張している場合に、その証明を要求して破産手続の開始を遅らせ、ひいては免責を遅らせるのは妥当ではないとの批判もある。

要件を満たさない場合の主文
前述のように大正11年破産法は「棄却」の語を「申立てを認めない」という意味で用い、現行民事再生法(25条参照)も現行破産法もこれを引き継いでいると見るべきであるので、主文は、形式的要件を具備しない場合でも、実質的要件を具備しない場合でも、「破産手続開始の申立てを棄却する」でよい。もし、手続的要件が具備されていないことを強調したいのであれば、「不適法として棄却する」とする。この用語法は、33条2項・91条3項・171条3項・177条3項との関係で好ましい。ただ、最近は、「却下」の語を用いる文献が多い。いずれの用語が用いられたかにかかわらず、破産手続開始申立てを認めない決定は、すべて33条2項等にいう「申立てを棄却する決定」に該当する。

開始決定の時(30条2項)
破産手続開始決定は、決定の時に効力を生ずる(30条2項)。それが具体的に何時であるかについては、つぎのような見解がある。

  1. 決定書記載時説  決定書に記載された日時とする見解([加藤*1952a]282頁、[加藤*2006a] 94頁)。どの日時を記載すべきかについては、次のような見解がある。
  2. 破産管財人告知時説  開始決定が言い渡されたときは言渡しの時、その他の場合には決定書が破産管財人に向けて発送された時とする見解([宗田*2005a]136頁)、あるいは、決定書には、破産管財人への告知の予定日時を記載すべきであり、通常はその日時が決定の時となるが、実際に破産管財人に告知されたのがそれよりも後であるときは、彼への告知時を基準にすべきであるとする見解([霜島*倒産]147頁 )
  3. 破産者告知時説  期日において破産者に言渡し又は告知がなされる場合にはその時であり。その他の方法で告知がなされる場合には破産者に告知された時(破産13条、民訴119条)であり、決定書の送付の方法で告知がなされる場合には破産者への発送の時とする見解([中田*破産・和議]67頁、[伊藤*破産v4.1]109頁)[3]

破産手続を円滑に行うためには、破産手続開始決定が効力発生の時刻も明確に確定する必要があり、かつ、破産手続は多数の利害関係人の利益を公平に調整するための手続として設計されており、その目的を達成のためには破産手続は速やかに開始する必要があることを考慮すると、裁判所が破産決定書を完成させ、破産裁判所内部において裁判所の手を離れる日時が決定書に記載されるべきであり、決定書に記載された日時に破産手続開始決定は効力を生ずる。もちろん、決定書が告知により形式的効力を生ずることを前提にしており、30条2項は、決定が告知により形式的効力が生ずると、内容的効力がそれ以前に遡及的に発生することを認める規定である点で民訴119条の特則である。

1.3 同時処分(31条

裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をするが(216条)、そうでなければ、破産手続を進めるために、開始決定と同時に次の処分をする。

)破産管財人を選任する(31条1項柱書き)。事柄の性質上、破産手続開始決定前に破産管財人となるべき者から予め内諾を得ておかなければならず、内諾を与える適当な管財人候補者が見つかるまでは、開始決定もできない。

)次の事項を定める(31条1項)。各期間または期日は、特別の事情のない限り、下記の条件を満たすことが必要である(規則20条1項)。

  1. 債権届出期間(1号)  開始決定の日から2週間以上4月以下。知れている破産債権者で日本国内に住所、居所、営業所又は事務所がないものがある場合には、4週間以上4月以下。
  2. 財産状況報告集会の期日(2号)  開始決定の日から3月以内の日。
  3. 債権調査期間または債権調査期日(3号)  (α)債権調査期間:1週間以上3週間以下であり、かつ、債権調査期間の初日と債権届出期間の末日との間には1週間以上2月以下の期間を置く。(β)債権調査期日:債権届出期間の末日から1週間以上2月以内の日。

財産状況報告集会は、破産者の財産状況を報告するために招集される債権者集会であり、旧法における第1回債権者集会に相当する。この集会の期日は、債権調査が期日において行われる場合には、債権調査期日と併合してよい。また、各期間・期日についての上記の条件は、通常の場合についての条件であり、特別の事情がある場合には、その事情に応じて、裁判所が定めることができる。

一括期日
上記の各期日は、別個の日時に指定することもできるが、負担軽減のために、同一の日時が指定されることがある(同一の日時を開始時間としつつ、順次処理していく)。なお、官報に掲載された公告を見ると、個人破産の管財人選任事件については 、

債権の届出期間、調査期間・調査期日の指定の保留
上記(b)の同時処分のうち1と3は、配当に充てるべき財産がない場合には、意味がない。そのことが明らかであれば、破産手続開始決定をすると同時に破産手続を廃止することになる。しかし、財産がないとまでは言い切れないが、財団不足のおそれがあると判断される場合には、破産管財人を選任して破産財団の換価を進めるが、破産債権の届出等は後にするのが合理的である。そこで債権届出期間と債権調査の期日・期間は、財団不足のおそれがなくなるまで定めずにおいて、そのおそれがなくなってから定めることができるとされた(31条2項・3項)。

財産状況報告集会の省略31条4項)
財産状況報告集会も、これに参加するであろう債権者の数が非常に多い場合には、費用を考慮すると、債権者の参集する場所の確保自体が困難となる。逆に、債権者の範囲が限定されている場合には、破産債権者が債務者の財産状況をよく知っている場合もありえ、その場合には、財産状況報告集会を開く意味も少ない。裁判所は、裁判所に知れている債権者の数、あるいは予想される債権者の数、債権者の地理的な散在状況、集会を開く費用、集会における報告に代わる報告方法などさまざまな事情を考慮した上で、財産状況報告集会を招集することが相当でないと認めるときは、その集会の期日を定めないことができる(31条4項)。

大規模破産事件における各種通知等の省略31条5項)
破産債権者の数が裁判所に知れているものだけでも1000人を超すような大規模破産事件については、各種の通知の費用と手間が破産財団および裁判所(あるいは破産管財人)にとって負担となり、破産財団に残されている財産を考慮するとその負担が合理性を欠く場合もある。そこで、知れている破産債権者の数が1000人を超し、かつ、相当と認めときは、裁判所は、次の通知あるいは呼出しを省略する旨の決定をすることができる(31条5項)。

これらの通知・呼出しを部分的に省略することが許されるかは一つの問題となりうる。規定の文言(「かつ」という接続詞)からすれば部分的省略は許されず、また、利害関係人に混乱が生ずるのを避けるためには選択肢を限定する必要があることを考慮すると、これらの通知・呼出しを全部省略するか否かの決定のみが許されると解すべきであろう。

通知等を省略したことの周知32条2項・規則20条3項)
31条5項により上記の通知等を省略することを決定した場合には、そのことを破産債権者・議決権者に周知させるために、破産手続開始決定の公告をする際にあわせて公告する(32条2項)。のみならず、破産債権者が通知事項や債権者集会の期日を知るために官報の公告を常時注視することを期待するのは適当ではないので、より簡便な方法で破産債権者・議決権者がそれらを知る機会を用意しておくことが望まれる。裁判所がそのような措置をとることができることを規則20条3項が明示している[1]。もしそのような措置をとる予定であるならば、その予定の公告を31条5項の決定の公告とともにしておくことが望ましい。

1.4 付随処分

破産手続開始決定がなされると、破産手続に関係する人・機関にその旨を通知することが必要となる。その方法は、公告と通知である。その内容は、同時廃止決定がなされない場合について、32条において定められている。

32条1項所定事項の公告

ただし、31条5項により通知・呼出しの省略が決定された場合には、その旨も公告しなければならない(32条2項)。

32条3項に規定された次の者への通知(公告事項の通知)

金融機関の破産の場合には、債権者たる預金者等に通知することを要せず、預金保険機構に公告事項を通知する(金融更生特499条1項・2項)。預金保険機構が預金者表を作成して裁判所に提出し、これをもって預金者の破産債権の届出とするからである(金融更生特例503条以下)。

)監督庁等への通知  破産手続開始の決定があったことを裁判所書記官が次の官庁等に通知する。

)破産手続開始の登記・登録

破産財団に属する財産の管理処分権は、破産手続開始決定により破産管財人に帰属する。破産手続開始の登記は、このことを公示する重要なものであるが、ただ、この登記が管理処分権移転の対抗要件となるわけではない。例えば、破産手続開始決定が効力を生じた後に、破産者が破産財団に属する不動産を他に譲渡した場合に、譲受人の善意・悪意に関わらず、また、破産手続開始の登記の前後に関わらず、その譲渡は無権限者がした行為として破産財団との関係では無効である。したがって、破産財団に属する財産に関する権利の登記がある場合に、その権利について破産手続開始の登記をすることは、警告的な意味をもつに過ぎない。法人の破産の場合には、その警告は各営業所における破産手続開始の登記で十分になされていると考えられるので、財団財産に関する権利については破産手続開始の登記をしないものとされた([小川*2004a]354頁)。


2 不服申立て


2.1 即時抗告

破産手続開始申立てについての裁判に対しては、即時抗告ができる(33条)。抗告権者は、その裁判により不利益を受ける関係人である。 

保全処分がなされた後で手続開始申立てが棄却されると、保全処分の効果は消滅することになるが、抗告審で開始申立てが認められる余地があるので、保全処分に関する規定(24条から28条)が準用される(33条2項)。同項にいう棄却は、「申立てを不適法として棄却する」(現在よく使われる用語法では「却下する」)場合を含む。この場合の保全処分は、抗告審がすることができるほか、記録が原審にある間は原審もすることができるとすべきである(民訴404条の類推適用)。

即時抗告期間は,同決定の公告のあった日から起算して2週間であり,同決定の公告前に通知を受けた破産者についても同じである。なお、破産手続開始決定の公告前に通知を受けた破産者は,公告前でも即時抗告をすることができる(旧法下の先例として最高裁判所 平成13年3月23日 第2小法廷 決定(平成12年(許)第42号)がある(当時は、通知ではなく送達であるが、重要な差異ではない))。

執行停止の効力はない  即時抗告は、執行停止の効力(抗告の対象となっている裁判の内容的効力の発生を停止させる効力)を有するのが原則である(民訴法334条)。しかし、破産手続開始決定の効力は決定の時から生じ(30条2項)、即時抗告が提起された場合でも存続させないと破産手続が円滑に行われない。そのため、破産手続開始決定に対する抗告は、例外的に、執行停止の効力を有しない(大判昭和8年7月24日民集12巻2264頁・[百選*1990a]6事件(廣尾勝彰))[CL4]。

抗告審は、続審として新事実も斟酌することができる。抗告審の審理終結時において破産手続開始の要件が具備されているかが判断される。[CL5]

開始決定の確定  開始決定に対する即時抗告がないまま即時抗告期間が満了した時、又は即時抗告があるとそれを棄却する決定の確定時に開始決定は確定する[10]。開始決定が効力を生じてから確定するまでの期間は、即時抗告がない場合については、25日前後である(官報への公告の掲載は、早ければ1週間程度、遅ければ2週間程度かかり[11]、掲載日の翌日から2週間を経過した時に即時抗告期間が満了する)。

2.2 破産手続開始決定の取消し

抗告審が破産手続開始決定を取り消す裁判をし[8]、それが確定すると、破産手続開始決定が遡及的になかったことになる[CL6]。開始決定をした裁判所は直ちにその主文を公告し、必要な通知をする(33条3項)。

開始決定を取り消す裁判が確定すると各種の資格制限も消滅し、財産の管理・処分権は債務者に回復される。ただし、管財人が破産手続開始決定の取消しまでになした破産財団に関する行為は、取引の安全のために、その効力を保持する。管財人は残務整理として財団債権を弁済する。

2.3 管轄違いの場合の処理

抗告審は、開始決定自体は正当であるが、原裁判所が管轄権を有しないと判断する場合には、開始決定を取り消すことなく事件を管轄裁判所に移送すべきである(その後の処理は、開始決定をした原裁判所が裁量移送する場合と同様である)[6]。

破産手続開始の申立てを受けたA地方裁判所が、管轄違いを理由にB裁判所に移送する決定をした場合に、その決定に対して即時抗告をすることができるかについては見解が分かれるが、これまでのところ否定説が多数説である。A裁判所が誤って管轄権のないB地方裁判所に移送した場合には、その移送決定自体に対して即時抗告を許す規定はないので、即時抗告は許されない(開始原因が存在する場合に、開始決定を迅速に行うことを重視したためである)。B地方裁判所の開始決定に対する即時抗告において、管轄違いを主張することができるかについては、肯定説と否定説[9]の対立があるが、肯定説をとるべきである。抗告裁判所は、開始決定自体は正当であると判断する場合には、開始決定を取り消すことなく(したがって、抗告を棄却して)、事件を管轄裁判所に移送すべきである。迅速な破産手続開始の要請のために犠牲にされた専属管轄の制度が、開始決定後に回復されることになる。


3 開始決定の効果


破産手続開始決定の最大の効果は、破産管財人が選任され、破産者の財産の大部分が破産管財によって管理処分される財産となり(その集合が破産財団)、破産債権は破産手続によらなければ行使できなくなることである。

その外に、法人は、破産手続の開始が解散原因とされている。個人である破産者は、破産法以外の法律の規定により種々の資格制限を受けるが、これについては復権の章で取り上げることにしよう。

法人の解散
一般に法人は破産が解散原因となっている(例えば、会社法471条5号。比較的新しい法律の中では、特定非営利活動促進法31条1項6号)。したがって、法人の解散を要件とする規定は、この時から適用される可能性が一応出てくるが、適用される規定であるか否かは、個々の規定における「解散」が「破産手続開始による解散」を含んでいるか否かによって決せられる。例えば、

破産手続の開始により解散した法人も、破産手続中は清算法人として法人格があり(35条)、破産手続の終了によって消滅する。ただし、労働組合については、破産はその存在目的に影響を及ぼさないので、解散原因ではない(労組法10条参照)。もっとも破産手続終了後に存続しても、自然人の保護のための制度である免責の適用はない(248条1項)。したがって、残存債務がある場合には、組合を存続させるより、解散して新しく組合を作り直すほうが経済的負担は少なくてすむ。

破産手続開始決定を受けた法人の法的地位については、財産の帰属主体としての側面と、それ以外の側面とに分けて考える必要がある。

  1. 財産の帰属主体としての側面(同時廃止事件の場合)  同時廃止の決定がされた場合に、残余財産があるときには清算手続をする必要があり、清算人が必要不可欠になるが、破産宣告当時に取締役であった者が商法417条1項本文(会社法478条2項)により当然に清算人になるものではない。この場合には、原則として、商法417条2項(会社法478条2項)に則り、利害関係人の請求によつて裁判所が清算人を選任すべきである(最高裁判所 昭和43年3月15日 第2小法廷 判決(昭和42年(オ)第124号))。
  2. 財産の帰属主体としての側面(管財事件の場合)  財産の管理処分権は破産管財人に専属するので、法人の従前の代表者の権限は失われる。実質的に見れば、破産管財人が法人の代表者になると言っても大過はないが、それでも、破産管財人が従前の代表者の職務を全て行うわけではなく(例えば従業員の給与の支払いについて所得税の源泉徴収義務を負わない)、法人とは別個の管理機構と位置づけられ、そのようなものとして財産管理を行う。破産管財人が破産財団から財産を放棄することには色々問題があるが、超過負担不動産が破産財団に属したままであると固定資産税債権が財団債権となり破産財団を圧迫するので、それを免れるための便法として、破産管財人が破産財団所属財産を放棄することが認められている。放棄不動産について誰が管理権者になるかの問題について、破産手続開始当時の取締役は管理権限を有しないとされている(最高裁判所平成16年10月1日第2小法決定(平成16年(許)第5号))。実務では、別除権者の申立てに基づき臨時の清算人を選任すると便法がとられている([新宅2013*]243頁)。
  3. 法人の組織に関する事項  破産管財人はこれについて権限を有さず、法人自身が行う。法人の意思決定をなすのは、第一次的に、破産手続開始当時の取締役や理事等であり、法人を代表するのは、破産手続開始当時の代表者である。その論理的前提として、破産手続開始によっては法人と取締役等との間の委任関係は当然には終了しないと解されている(株式会社について、最高裁判所 平成21年4月17日 第2小法廷 判決(平成20年(受)第951号))。したがって、株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても,訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解されている( 前掲最判平成21年)。

破産により解散した法人の登記
法人の代表例として株式会社を取り上げることにしよう。一般に株式会社が解散すると、まず(1)解散の登記がなされ、それから(2)清算人の登記がなされ、清算手続が進められ、清算が結了すると、(3)清算結了の登記がなされる(会社法926条・928条・929条、商業登記法71条・73条・75条)。しかし、破産手続が開始された場合には、(1)破産手続開始決定の登記がなされ(破産法257条1項)、これが解散の登記に相当するので、解散の登記はなされない(会社法926条参照)。清算業務は破産管財人が行い、破産手続開始の登記内容の一部として破産管財人の氏名又は名称及び住所が記載される(破産法257条2項。別途に清算人の登記がなされることはない)。破産手続を終了させる決定(ここでは、破産手続終結決定又は破産手続廃止決定)が確定すると、その決定の登記がなされる(破産法257条7項)。

破産手続の終結決定又は廃止決定が確定すると破産会社は一応消滅すると考えることができ(破産法35条参照)、それらの決定の登記が会社の消滅の公示となる。ただ、破産会社に属する財産が存在する限り、それらの財産の帰属主体として破産会社が存続していると考えることになる(追加配当の制度があることに注意。これらの決定が確定するとともに、破産会社に属していた不動産が民法239条2項により国庫に帰属する、というわけではない。特に同時廃止の場合には、破産手続の費用を賄うのに足らない財産が残存している可能性がある)。したがって、これらの決定の確定により破産会社が完全に消滅すると言い切るのは危険である。


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Author:栗田隆
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1997年6月10日−2005年4月19日−2015年4月19日