関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート「破産手続開始決定」の比較法メモ


1 債務者による破産申立

オーストリー破産法: 債務者は破産原因がある場合には遅滞なく、遅くとも支払い不能が生じてから60日までに破産申し立てをしなければならない(§69/2)

2 自己破産の場合でも、破産原因の証明は必要か

オーストリー破産法: 債務者の申立てに基づく場合には直ちに破産を開始すべきものとする(69条1 項1文)。破産原因についての職権調査は不要である。理由なしに破産申し立てをする債務者はいないからである。但し、判例は、費用を償うだけの財産があるかについて職権で調査することを要求している。cf. Holzhammer2S.75

3 破産財団の成立

古い時代のドイツ法やローマ法では、財産が破産債権者(全体)に移転するという構成がとられていた(Amonn3S.283)。

4 破産決定に対する不服申立て

オーストリー破産法: 71条2項が、破産決定に対する抗告が執行停止の効力を有しないことを明示的に定めている。

スイス・債務取立・破産法: 破産開始決定に対する抗告(Berufung)が当然には執行停止の効力を有しないことを前提にして、上級裁判所は抗告に執行停止の効力を認めることができ、この場合には保全処分をなすことができる(SchKG174.2)。

5 抗告審における新事実の顧慮

スイス法: この点は、カントンの民訴法に委ねられているが、連邦裁判所は真の「新事実」の一般的排除も一般的許容も恣意的であるとの判断を繰り返している。例えば、支払いが遅れたことについて弁解の余地がある場合、更には破産の進行が非常に苛酷である場合には、抗告審係属中に初めてなされた完済を顧慮することは恣意的ではないと見られている。

6 破産決定の取消し

オーストリー破産法: 抗告審が破産開始決定を変更(取り消し)た後で、第一審裁判所が破産廃止(Konkursaufhebung)を決定し、それを周知させる(cf.Holzhammer2S101)。