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破産法学習ノート
消費者破産関西大学法学部教授
栗田 隆 |
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消費者破産に関する 文献 判例
意義と特徴
事業を行わない個人の破産を一般に消費者破産という。サラリーマンや学生が破産した場合がこれにあたる。小規模自営業者をふくんだ意味で使われることもある(広義の消費者破産)。消費者破産における「破産」は、破産宣告を受けたという意味でも用いられるが、支払不能になったという意味で用いられることも多い。ここでは、この意味で用いる。消費者破産には、次のような特徴がある。
社会的要因と代表的パターン
消費者破産の社会的原因として、次のことが指摘されている。
消費者破産の代表的なパターンとして、次のようなものがある[4]。
消費者破産の予防には、所得に比較して過大な融資がなされることを防止することが必要不可欠である。具体策として、次のことがあげられている。
消費者破産の処理の基本方針は、次のようになる。
消費者が支払不能に陥った場合の債務整理手続としては、次のものがある[R37][CL1]。
債務者の次のような事情を考慮して、適切な手続が選択されるべきである[1][2]。
これは、裁判所の関与なしに、債権者と債務者との合意によりなされる債務整理手続である。債務の一部免除・弁済猶予が債務者に与えられるとともに、破産の場合より有利な弁済の約束が債権者に与えられるのが通常である。手続の概略は、次のようになる。
弁護士に依頼 |
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受任通知 |
貸金業規制法21条・金融庁事務ガイドラインにより、裁判外の取り立てが中止される。 =>資金調達の時間の獲得。 |
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債務確認 |
利息制限法により利息を再計算する。 負債が一定規模(例えば300万円以上)ならば、破産・免責に行く。 |
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整理案の作成 |
配当率=配当原資/総負債額。 分割払いは再度の支払不能に陥りやすいので、一括払いが原則。 |
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示談交渉 |
郵便により債権者の同意を得る。 場合により債権者集会を開く。 必要ならば、債務不存在確認訴訟・不当利得返還請求訴訟を提起する |
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弁済 |
借用書を返還させるとともに、次の書類を債権者から得ること(最初の2つは常にとる、他は保証人が立てられている場合等にとる)。
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民事調停法により調停
裁判所で行われる民事調停手続により債務を整理することもできる。調停にあたるのは、調停委員会(裁判官1名+民事調停委員2名)である。調停手続では、事件は当事者の互譲により解決される(民事調停法1条)。
調停手続は、公的な手続であるので、利息制限法が順守される。但し、要件が充足されれば貸金業規制法43条1項も適用される。調停手続は、簡便性の故に良く利用されるが、調停手続は本来1対1の紛争の解決のための手続であるので、これを債務の集団的解決のために利用するのには手続上の工夫が必要である。
手続の概略は、次のようになる。
調停の申立て |
申立書の定型化が必要である。申立書に生活状況報告書を添付する。管轄は、民事調停法3条により、原則として相手方債権者の住所地であるが、4条1項但書きによって自庁処理をなす余地あり。 |
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調停を申し立てたことを |
裁判外での取立てを禁止する効果がある。 |
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期日の指定 |
民調規則7・8条(不出頭の場合には民調法34条により過料の制裁を科すこともできるが、過料を科せばかえって調停の成立が困難となるので、実際にはほとんど行われない)。 |
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調停成立 |
サラ金業者が裁判所の調停案に異議はないが出頭できない場合には、調停に代わる決定(民事調停法17条)が効果的である。 |
特定調停法による調停
民事調停法の下での実務上の工夫ないし実務慣行を基礎として、債務の集団的整理のための特別法として、平成11年12月に特定調停法(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律)が制定された(平成12年2月から施行)[R74]。同法の指導理念は、「公正かつ妥当で経済的合理性を有する」内容の合意による債務整理である。次のような特則が設けられている([芝=古橋*2000a]76頁以下参照)。
(1)特徴
通常の破産手続と基本的には同じであるが、次の点に特徴がある。
不動産を所有する場合 債務者が不動産を所有する場合には、管財人が選任されるのが原則である。不動産は、管財人が手続費用を上回る金額で換価して、破産債権者への配当原資とすることが期待できるからである。もっとも、その不動産に抵当権が設定されていてその被担保債権額が不動産の時価を上回る状態(オーバーローン状態)にある場合には、その期待は成り立たず、その場合にまで管財人を選任することには、批判が強い。しかし、その場合でも管財人を選任することを基本方針とする裁判所もある(少なくとも、以前はあった)。この場合には、手続費用は国庫が仮支弁すべきである(23条)。仮支弁された費用は、破産財団から優先的に償還される。それができない場合には、債務者が自由財産から償還する。もし裁判所が仮支弁を認めなければ、破産申立人である債務者が費用を予納せざるをえないが、予納できない場合には、破産宣告は下されず、従って免責も得られないことになり、債務者の経済的更生が図られない。債務者が不動産を売却してから破産申立てをする道もあるが、その不動産が債務者の住居であり、容易には売却できないことがある。東京地裁は、「平成11年10月20日から、債務者が1.5倍以上のオーバーローンである不動産を所有する事案についても、即日面接の対象とする」こととしたが(東京地方裁判所民事第20部「オーバーローン不動産のある事項についても即日面接を拡大します」東弁サイト)、これはオーバーローン状態にある不動産を有する場合でも、同時廃止を認める方向の措置と理解してよいであろう。
法律扶助 破産申立も、法律扶助協会による援助の対象となる。一般的な利用基準として設定されている所得基準がここでも適用される(手取りの月収が、単身者の場合182,000円以下、2人家族の場合、251,000円以下等)。その他に、限られた資金を援助の必要度の高い者に割り当てるために、自己破産について特別の基準を設けている支部もある。例えば、岐阜県支部は、2002年2月時点で次のような要件を課している。
なお、自己破産の急増で、扶助協会の財政が逼迫し、年度末になると扶助申し込みをしても、すぐに扶助を受けることができるとは限らない状況のようである(2001年度につき[朝日*2002]参照。受付窓口を閉じたり、あるいは、受け付けはするが翌年度予算にまわすことになる)。
破産犯罪 個人破産の場合にも詐欺破産罪(265条)の成立の余地はあるが、それが問題とされた実例は少ない[3]。
(2)手続の概略
手続の概略は、次のようになる。
破産申立 |
管轄裁判所について、4条以下および民訴4条を参照。なお、申立人及び利害関係の利益保護のために、国庫による費用の仮支弁の制度が用意されている(23条)。但し、予納費用額が少額の場合には、申立人に予納が求められることがある。 破産申立書に次のような書類を添付する。裁判所ごとに異なることがあるので裁判所で確認すること。
東京地裁については、東京地裁民事20部「破産申立関係書類の作成について」(東弁サイト)を参照。 |
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審理 |
審理につき8条参照。債務者を審尋する。 同時廃止が予想される事件では、破産申立ての審理の段階で債権者の意向が聴取されることが多い(債権者意向聴取書の送付)。 |
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破産決定と |
破産宣告と同時に破産手続を終了するのが通常である。但し、財産があれば、管財人を選任して換価・配当がなされ、破産終結決定で終了する。 |
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免責申立 |
申立手数料は、300円(民訴費用法別表第1第17ホ)。自己破産の場合には、破産手続開始申立てと同時に免責許可申立てをしたものとみなされるが(252条4項)、債権者による開始申立ての場合には、破産者自身が開始決定確定の日から1月を経過する日までに申し立てなければならない(252条1項)。 |
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(免責不許可事由 |
免責の効果は保証人には及ばないことに注意 (253条2項) |
なお、次のWebページも参照。
(3)免責の前提要件としての支払不能
消費者破産を代表とする自然人の破産においては、破産原因たる支払不能の要件が充足されることが必要である。支払不能でなければ、破産手続は開始されず、免責決定の余地もない。
そこで、この支払不能を免責制度との関係でどのように理解すべかが問題となる。
したがって、支払不能とは、最低限度に近い生活を長期にわたって続けないと債務を完済できない状況を指すものと理解したい。