by SIFCA
目次文献略語
破産法学習ノート2

復 権


関西大学法学部教授
栗田 隆
by SIFCA

1 意義  2 復権の態様
3 一部免責の場合の復権


1 資格制限


外国では、破産者を懲戒のために刑務所に入れた時代もあった。しかし、破産者を刑務所に入れても債務の弁済がなされるわけではなく、また、食費の負担も無視できない。そのため、そのような制度は捨てられた。現行破産法は、破産手続の追行のために必要な自由の制限を除き、破産手続開始決定を受けたことのみを理由に破産者に不利益を課す制度を設けていない(非懲戒主義)。しかし、他の法律において破産手続開始決定を受けたことが罷免事由や欠格事由とされていることがある。なお、破産手続開始決定を受けたことは、戸籍簿[3]にも住民票にも記載されない(通常人が閲覧したり謄本や記載事項証明書を請求することのできない特別の記録簿に記録される)。

破産者の能力・資格等に及ぼす影響
破産手続の開始は、次の事項に影響を及ぼさない。

しかし、他の法において、制限が設けられていることがある。次の事項については、資格制限があり、破産者になったことが資格喪失事由(欠格事由)となっている[2]。そして、資格制限からの回復のための制度して、復権制度(255条・256条)がある。

  1. 一定の職業  弁護士(弁護士法7条5号)、公認会計士(公認会計士法4条4号)、公証人(公証人法14条2号)、弁理士(弁理士法8条10号)、不動産鑑定士(不動産の鑑定評価に関する法律16条3号)、宅地建物取引業者(建物取引業法5条1項1号)。警備業を営むことも警備員になることもできない(警備業法3条1項1号・14条)できない。
  2. 一定の私法上の地位  後見人(民法847条3号)、後見監督人(民法852条)、保佐人(民876条の2第2項)、保佐監督人(民法876条の3第2項)、遺言執行者(民法1009条)。
  3. 一定の法人の役員  銀行や保険会社等の取締役・執行役・監査役(銀行法7条の2第2項・52条の19第3項、保険業法8条の2第2項・271条の19の2第1項・272条の4第10号イ、資金決済に関する法律10条9号ロ・40条10号ロ・66条4号ロ)、特定非営利活動法人の役員(特定非営利活動促進法20条2号) 、一定の紛争解決等の業務を行う法人(代表者・管理人の定めのある団体を含む)の役員(銀行法52条の62第4号ロ、資金決済に関する法律99条4号ロ)、銀行の清算人(銀行法44条3項)
  4. 一定の公務員  人事官(国家公務員法5条3項1号)、都道府県公安委員(警察39条2項1号)。なお、破産手続開始決定を受けたことが罷免事由とされているものもある:公正取引委員(独禁法31条1号)。

上記のうちの1から3は、他人の財産の管理に関与する職業・職務と性格付けることができる。これに対し、医師は、他人の健康・生命に関与するが財産に関与するわけではないので、破産手続開始決定を受けたことは資格喪失事由とされていない。

委任契約のように当事者間の高度の信頼関係を基礎とする契約は、一方が破産手続開始決定を受けることにより終了するものとされている(民法653条2号)。したがって、委任に関する規定が適用される法律関係は、一方当事者(特に信頼を受ける者)の破産により終了することになるが、問題は、破産して未だ復権を得ていない者はそのような法律関係において信頼を受ける者の地位から排除されるか否かである。かつては、破産者で復権を得ていないものは、そのような地位から排除されることが一般的であった。現在でもそのような規定を含む法律もあるが(例えば、特定非営利活動促進法20条2号)、他方で、破産に至る事由は様々であり、一律に破産者に財産管理能力が欠けていると見ることはできないから、破産者を信頼するか否かは信頼を与える者が判断すべき事であるとの考えに基づき、破産者であること自体は欠格事由でないとする法令も出現している。例えば、

もっとも、株式会社等の法人の行う業務が他人の財産関係に関与する度合いが高く、高度の信頼性が要求されるものである場合には、その業務の許認可を定める法律において、役員のうちに「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当する者のある法人には、その業務を認可化しない旨が規定されていることがある(例えば、資金決済に関する法律(平21年法律59号)10条1項9号ロ等。この種の規定は多数ある)。


2 復権とその態様


復権に関する 文献  判例

一度破産者になると永久に資格制限を受けるというのは適当ではないので、一定の要件を満たせば、資格を回復できるようにすることが必要である。破産手続開始決定を受けたことを資格喪失事由とする個々の法律においてそのことを定めることもできるが、現行法は、破産法において復権という一般的な制度を設けて、復権した者は喪失した資格を回復するものとしている。資格制限を定める規定の多くにおいて、復権を得るまで資格制限が続くことが明規されている。

復権には、2つの態様がある。

当然復権255条)  次の事由が発生した場合には、その存否が比較的容易に判断できるので、法律上当然に復権する。

裁判による復権(256条)  次の事由がある場合にも復権するが、その存否の判断は簡単ではないので、破産者からの申立に基づき、復権事由の存否を裁判所が審理の上、裁判により復権するものとされている。

復権の効果
復権の効果は資格制限を定める規定により定まる(255条2項が当然復権についてこのことを規定している。裁判による復権については規定はないが、同様に解すべきである[4])。

資格制限事由として「破産者で復権を得ていないもの」であることが定められることが多い。この場合には、資格制限は、復権により終了する。しかし、「破産者」であることを資格制限事由とする規定もある(例えば、民法847条3号)。この場合には、いつ「破産者」であることが終了するのかが問題となるが、規定の趣旨が復権にも拘わらず資格制限を続ける趣旨であることにあることが明瞭でない限り、復権により資格制限は終了すると解すべきである。民法847条3号は、復権にも拘わらず資格制限を続ける趣旨の規定であるとは言えず、同条の資格制限は、復権により終了する。


3 一部免責の場合の復権


一部免責の議論が果たす機能は、現在では、民事再生法があたらに設けた給与所得者等再生手続によって賄われるようになったが、それでも、債務者が民事再生手続ではなく破産手続を選択した場合に、一部免責論はなお有用な議論と言うべきである。ここでは、特定の債権を除外する形での一部免責あるいは割合的一部免責が許されることを前提にして、そのような免責許可決定があったことが当然復権の事由に当たるか否かについて検討しておこう。これについては、次の2つの見解がある。

  1. 当然復権肯定説  一部免責許可決定も免責許可決定であることには変わりがないから、当然復権の事由となる。
  2. 当然復権否定説  免責から除外された部分について弁済がなされてから復権を認めるべきであり、したがって当然復権の事由には当たらないとすべきである。

当然復権肯定説の論拠としては、次のことを挙げることができる。

これに対して、当然復権否定説の論拠として、次のことを挙げることができる。


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Author: 栗田隆
Contact: <kurita@kansai-u.ac.jp>
1997年 2月 12日−1998年1 2月 3日−2008年11月3日