関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート2「消費者破産
の注


注1  [伊藤*1989a]152頁以下は、支払困難に陥っている債務者にもさまざまな類型の者があり、更生手段としてもその類例に応じた適切なものが選択されるべきであるとの考え(マルチドア理論)を提唱する。

注2  多くの破産者にとっては、債権者の追及を受け、破産したという体験が2度目の破産を避けるための最も苦くて効き目のある良薬であろう。しかし、放縦な生活の結果過大な債務を負った者については、それだけでは足らず、何らかの方法で生活パターンを改善しないと破綻を繰り返す可能性が夙に指摘されている。裁判所以外の機関によるカウンリングが活発に行われているようであり、それは奨励されるべきである。しかし、裁判所が債務者の生活改善にまで乗り出すことには、謙抑的であるべきだと考えたい。それは、債権者と債務者との利害が鋭く対立場面での、個人の生活全般にかかわる問題である。中立的な判断機関が必要であり、裁判所はそのような機関として純化されていることが好ましいと思われる。また、場合によれば、正義とか公平と言った観念ではとらえきれない債務者の心の問題にかかわることが必要であり、法の適用を基本的使命とする機関に馴染む問題とも思われない。

注3  奈良県警暴力団対策課と奈良署が1998年11月12日、意図的な自己破産で1800万円余の借金を免れたとして、過怠破産罪の疑いで逮捕した例が報告されているが、同県警などによると、個人の自己破産への同罪適用は今回が初めてのことである(時事通信 11月12日による)。

注4  消費者破産の両極端の事例を基に、次のような類型化もなされている[町村*1997a](下)80頁)。

フランスでは、1995年の時点では、積極的過重債務類型が減少し、消極的過重債務の類型が増加しているとのことである([町村*1997a](下)80頁)。

注5  平成大不況の中、自営業者を主たる融資先とする商工ローンの高金利・苛酷取立・根保証契約の濫用は、かなり前から問題にされており、また、少なからぬ数の債務者が自殺に追い込まれいた。これに対して、「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団」(団長・木村達也弁護士)が積極的に活動し、商工ローン業者には違法な取立の中止、監督官庁には監督権限行使を求めていた。商工ローンの取り立てには、《俺のところの債務者には、腎臓が一つしかない人間が多い。お前も一つ売って債務の弁済に充てろ》といった脅迫的言動も用いられていた。1999年10月になって、債務者の一人がそうした脅迫的取立の状況を録音して、それを証拠に慰謝料請求の訴えを提起する予定であることが報道されてから、一気に社会の注目を集めるようになった。問題状況は1980年前後のサラ金地獄の時と同じであるが、問題が社会の耳目を集めるようになってからの国会の対応は、サラ金地獄の場合と比べれは、早くなったといってよいであろう。1999年12月に議員立法で「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(平成11年法律155号)が成立した。[毎日*1999h][毎日*1999i][毎日*1999g]など参照。

注6  金融庁事務ガイドライン第3分冊「3 貸金業関係」>「3−2 業務関係」>「3−2−2 取立て行為の規制」で、次のように規定されている。

 法第21条第1項(取立て行為の規制。法第24第2項、法第24条の2第2項、法第24条の3第2項、法第24条の4第2項、法第24条の5第2項において準用する場合を含む。)の規定に係る監督に当たっては、次に掲げる事項に留意するものとする。

 (1) 貸金業者又は債権の取立てについて委託を受けた者等が、債務者、保証人等を威迫する次のような言動を行ってはならないこと。

  1. 暴力的な態度をとること。
  2. 大声をあげたり、乱暴な言葉を使ったりすること。
  3. 多人数で押し掛けること。

 (2) 債務者、保証人等の私生活又は業務の平穏を害する次のような言動を行ってはならないこと。

  1. 正当な理由なく、午後9時から午前8時まで、その他不適当な時間帯に、電話で連絡し若しくは電報を送達し又は訪問すること。
  2. 反復継続して、電話で連絡し若しくは電報を送達し又は訪問すること。
  3. はり紙、落書き、その他いかなる手段であるかを問わず、債務者の借入れに関する事実、その他プライバシーに関する事項等をあからさまにすること。
  4. 勤務先を訪問して、債務者、保証人等を困惑させたり、不利益を被らせたりすること。

 (3) その他、債務者、保証人等に対し、次のような行為をしてはならないこと。

  1. 他の貸金業者からの借入れ又はクレジットカードの使用等により弁済することを要求すること。
  2. 債務処理に関する権限を弁護士に委任した旨の通知、又は、調停、破産その他裁判手続をとったことの通知を受けた後に、正当な理由なく支払請求をすること。
  3. 法律上支払義務のない者に対し、支払請求をしたり、必要以上に取立てへの協力を要求すること。
  4. その他正当と認められない方法によって請求をしたり取立てをすること。

注7  江戸時代の加賀藩の下級武士の債務整理の例を紹介する文献として、[磯田*2003a]=磯田道史『武士の家計簿』47頁以下、特に60頁以下がある。過剰債務を負うに至った理由(武士階級間の10%を高利金融と身分を保つために必要な多額の交際費等)も分析されていて興味深い。