by SIFCA

目次文献略語

破産法学習ノート2

別除権


関西大学法学部教授
栗田 隆


by SIFCA

1 はじめに  2 別除権  3 破産が担保権に及ぼす影響
4 破産財団に属さない財産からの弁済受領
5 別除権の行使方法  練習問題


1 はじめに


1.1 信用秩序の基盤としての物的担保制度

人間一人一人の能力は限られている。その人間が集まって、社会を構成し、互いの協力により、生存の保障と豊かな生活を得ている。人と人との協力の基礎は、相互の信頼である。経済取引における信頼関係の中心は、信用すなわち債務の弁済の確実性である。債権者は、債務者が将来確実に弁済してくれるだろうと信用して融資し、あるいは、代金後払いの形で物を販売するのである。取引において互いに相手を信用できなくなれば、相互協力的な経済活動は維持できず、豊かな成果を生み出すことができない。

債務者が通常の誠実性を有する限り、債権者が債務者を信用する第一基準は、債務者の収入(事業収入や給与収入など)からの弁済の見込みである。しかし、環境の変化により債務者の財産状態が悪化する可能性があることを考慮すると、債務者の通常の収入からの弁済が困難になった場合に備えて、債務者の財産(または債務者のために提供される第三者の財産)を担保にとることが望ましいことになる。そのような担保は、物を担保にするという意味で、物的担保と呼ばれる。ただし、「物的担保」の語は、有体物を対象とする担保のみならず債権等の無体的財産を対象とする担保も含めた意味で用いられるのが通常である。。

物的担保権には、抵当権、質権、先取特権などがある。その多くのものに共通する権利内容として、次の2つがある。

担保権のこうした権能は、破産手続においても尊重されなければならない。担保権は、債務者の収支状況が悪化して、通常の収入では弁済できないという非常事態において債権の回収を確実にするために設定されるものであり、そのような非常事態とは、債務者の倒産であり、典型的には破産だからである。債務者が破産した場合に担保権がその効力を発揮することができなければ、物的担保を前提にした信用秩序が破壊されてしまう。

1.2 破産手続における担保権の取扱い

もっとも、現行法から離れて言うならば、上記の権能のうち破産手続において尊重されることが不可欠なのは、優先弁済受領権である。換価権を認める必要は、必ずしもない。破産管財人が破産手続の中で担保物を売却して、その代金を担保権者に優先的に配当することによっても、担保制度の機能は十分に維持できる。

しかし、現行法は、特別の先取特権、質権又は抵当権については、担保権者の換価権を尊重し、担保権者が担保権を破産手続外で行使して迅速に債権回収を図ることができるものとした(65条1項)[CL1]。破産手続開始の時において破産財団に属する財産上にこれらの担保権を有する者に認められたこの権能を別除権と言う(2条9項)。担保財産は破産財団に属する財産であるが、その上の担保権は破産手続から切り離して(別除して)行使できることに由来する名称である(なお、別除権の認められている担保権自体を別除権という場合もある)。

ただし、担保権者が破産手続外で担保権を行使できると言っても、そのことは、担保権者の同意を得て、破産管財人が担保権消滅を前提に担保物を売却して、その代金から担保権者に弁済することを禁ずるものではない。実際には、次の事情により、別除権の対象となる財産も管財人が換価することが多いと言われている。

1.3 被担保債権の範囲

破産者は、破産手続開始後は破産財団に属する財産について管理処分権を有しないので、新たに担保権を設定することはできない。したがって、破産手続開始後に発生する債権が破産手続開始後に設定される担保権によって担保されることはない。しかし、破産手続開始後に発生する債権が破産手続開始前に設定されている担保権によって担保される余地はあり、その範囲が問題となる。

次の点は、比較的明瞭である。

次の点は検討を要する。


2 別除権(2条9項・65条


別除権は、担保財産の帰属主体について破産手続が開始されても、担保権が次の2つの基本的な点で影響を受けないことを示す概念であり、(α)担保権を破産手続外で行使できる権能[10]、あるいは、(β)破産財団に属する担保財産から優先的満足(別除的満足)を受ける権利を意味する。こうした権利が認められる担保権は、破産法では、「別除権に係る担保権」と呼ばれており(108条1項本文)、「別除権」と「別除権に係る担保権」とは別個の概念である[12]。しかし、講学上は、「別除権に係る担保権」も「別除権」と呼ばれることが多い(一種の省略表現である。[中島*2007a]290頁は、別除権は「実質的には担保権そのものである」という)。

別除権者は、担保財産の帰属主体について破産手続が開始された場合でも、実体法により認められている次の権利を失わない。

別除権者は、破産によってまったく影響を受けないわけではなく、後述3のように限られた範囲ではあるが影響を受ける。

被担保債権が財団債権であっても、別除権の行使は妨げられない(財団債権に基づく強制執行が禁止されていること(42条1項)と対照)。ただ、実際上は、破産管財人が財団債権である被担保債権を迅速に弁済するであろうから、別除権を行使する必要はないであろう。財団不足の場合には、別除権の行使の必要が高まる(151条1項ただし書参照)。

2.1 別除権の認められる担保権

次の担保権については、破産手続外での権利行使が認められている。

典型担保権

非典型担保権
有体物を目的とする非典型担保の多くは、債権者が担保目的に所有権を得ている場合、または、得ることを確実にしている場合であり、担保の実質を重視して、別除権として扱われる[CL3]。例えば、次のようなものがある[8]。

流動的集合動産譲渡担保  動産譲渡担保の中には、契約により特定された範囲の動産の集合を対象とする譲渡担保があり、集合動産譲渡担保と呼ばれる(対象となる動産の範囲は、多くの場合に、一定の場所に存在する一定種類の一切の動産という形で特定される)。その中には、担保契約後にその範囲に流入した動産も譲渡担保の対象になるとするものがあり、「流動性のある集合動産譲渡担保」あるいは「流動動産譲渡担保」などと呼ばれ、単に「集合動産譲渡担保」と呼ばれることもある。破産手続開始前に締結された流動的集合動産譲渡担保の所定範囲に破産者の所有動産が破産手続開始後に含まれることになっても、その動産については、譲渡担保権は成立しない(47条1項・48条1項)。また、破産手続開始前であっても、債務者の財産状態が悪化した後に債務者(将来の破産者)がその所有動産を所定範囲に含ませる行為(所定の場所への搬入行為)をした場合には、その行為は、破産管財人による否認の対象になる破産者の行為と解すべきである(搬入により個別動産が譲渡担保の対象に含まれる(個別動産上に譲渡担保権が成立する)のであるから、そのような行為として否認の対象となる。また、搬入が占有改定による対抗要件具備行為である場合には、そのような行為として否認の対象になる)。

2.2 別除権の認められない権利

実体法において担保権とされている権利のすべてについて別除権が認められるわけではない。次のものは、民法上は担保権とされているが、別除権は認められていない。

破産債権を被担保債権とする民事留置権が効力を失うことは明らかである(66条3項)。他方、財団債権を被担保債権とする民事留置権はどうか。「留置権は」財団不足の場合に効力を妨げられないとされており(152条1項ただし書)、この「留置権」の中に民事留置権も含まれるのか、それとも66条3項に鑑みれば含まれないと解すべきなのかが問題となるが、含まれると解すべきであろう。そうであるとすれば、財団不足が明らかになる以前においても、あるいは財団不足でない場合においても、財団債権を被担保債権とする民事留置権は効力を失わず、破産管財人は被担保債権たる財団債権を弁済しなければ民事留置権の目的物の返還を求めることができないと解すべきであろう。これを前提にすると、66条3項は、破産債権を被担保債権とする民事留置権に関する規定であると言うことができる。

2.3 発展問題

2.3.1 担保権の対抗要件

破産財団に属すべき不動産上に破産者が破産手続開始前に設定した抵当権であっても、登記を経由していないものは、破産財団に対抗することができないのが原則である(49条1項ただし書の適用がある場合は別である)。破産財団に属する財産から満足を得ようとする債権者と抵当権者とは対抗関係に立つからである(前者は、抵当権設定登記の欠缺を主張することについて正当な利益を有する第三者(民法177条)にあたる)。

被担保債権の取得に伴う担保権の取得
不動産の抵当権  しかし、抵当債務者について破産手続が開始される前に抵当権設定登記がされ、被担保債権の移転(債権譲渡によるか、弁済者代位や転付によるかを問わない)に伴い抵当権が移転している場合には、その移転登記が破産手続開始後になされても、新抵当権者は抵当権の取得を破産管財人に主張することができる。この場合には、抵当不動産の所有者は、抵当権者が誰であるかについて重要な利害関係を有さず、登記の欠缺を主張することについて正当な利益を有しないからである(それ故にまた、所有者は抵当権移転登記について登記義務者ではなく、移転登記に所有者の承諾も必要ない)。所有者の破産債権者及び破産管財人についても、同様である。

もっとも、承継人が抵当権を実行するためには、執行機関に抵当権者であることを証する一定範囲の文書を提出することが必要である(民執法181条)。そのためには、抵当権移転登記を得てその登記事項証明書(民執法181条1項3号)を提出することが確実であるが、移転登記を得ていなくても、承継を証する公文書(181条3項)を提出することができれば、それでも足りる。

登録自動車の所有権留保  上記のことは、登録自動車(所有権の移転に登録が必要な自動車)の所有権留保にも基本的に妥当する。

所有権留保の実行方法は、帰属清算のための目的物の引渡請求が原則となるが、買主に対して引渡しを求める際に所有権移転登録を得ていることは必要的ではなく、売主から留保所有権を取得していることを証明できれば足りる(前記最判の事案では、保証人は移転登録を得ていない)。

代金を完済していない買主が何らかの事情で売主から所有権移転登録を得ている場合でも、そのことが所有権留保の消滅を意味しない限り、留保所有権の取得者は、買主に対して目的物の引渡しと所有権移転登録を請求することができる。しかし、留保所有権の実行前に買主の債権者が登録自動車を差し押さえている場合には、この差押債権者と留保所有権取得者とは対抗関係に立ち、留保所有権者は留保所有権を行使できないと解すべきである。留保所有権の実行前に買主について破産手続が開始された場合も、同様である[14] 。

第三者所有権留保
登録自動車の売買に際して、信販会社等の第三者(X)が買主(Y)ために売主(A)に立替払をし、YがXに立替金の割賦償還をし、償還が終るまでXが留保所有権者になることが合意されている場合に、これを「第三者所有権留保」という。この場合に、AからXへの所有権移転登録がなされていれば問題はない。それがなされずに、Aが所有者として登録されたままの状況で、Yについて倒産手続が開始されると、XとYの倒産債権者とは対抗関係に立つのかが問題になり、次の3つの法律構成が可能になる(1が分かりやすい。2の構成も可能であり、AXY間の契約書の具体的内容によっては、そのように構成すべきことになる。3は、そのように構成できる場合もないわけではなかろうが、実際上は少ないと思われる)。

  1. AY間の売買により、代金債権を被担保債権とする所有権留保売買が成立し、Xは、代金の立替払により、Yに対する立替金償還請求権の確保のために、Aの代金債権を代位取得し、その担保である留保所有権も取得する。被担保債権の取得に伴う担保権の取得であるので、Xは、留保所有権の取得について登録を経ていなくても、Yの倒産債権者に対して権利取得を主張することができる。この場合には、立替金償還請求権は、留保所有権の被担保債権ではないので、Xは、留保所有権を行使して代金債権を回収し、その回収金を立替金償還請求権の満足に充てることになる。もちろん、立替金償還請求権が民法501条2項にいう求償権に該当することが前提であり、この前提は肯定してよいであろう(立替払の手数料の支払請求権は、求償権の利息に相当するものであり、これも同条2項にいう「求償をすることができる範囲内」に含めてよい)。
  2. AYX間の契約で、立替金及びその手数料を被担保債権とする留保所有権をXが取得することが合意されている場合には、Xは、立替金及び手数料の支払請求権の担保のために、売買契約前にAが有していた完全な所有権のうち留保所有権を取得すると構成することも可能である。
  3. AY間の売買は、所有権留保売買ではなく、Xの立替払によりYが所有権を取得する売買であるが、立替金の償還請求権の担保のためにYがXに所有権を移転すること(譲渡担保権を設定すること)が合意されていたが、その履行としてのYからXへの所有権移転登録ないしそれに相当するものがなされていないと構成すると、XはYの倒産債権者に対して担保目的の所有権を主張し得ないことになる。

最高裁判例の中には、再生事件に関してであるが、2の法律構成を採用したものがある。2の法律構成が可能な事案における先例と見るべきである。

この法律構成を前提にすると、不動産の二重売買の場合と同様に、XとYは対抗関係に立ち、何らかの事情でYが先に所有権移転登録を得ると、Xは、留保所有権を確定的に失うと解する余地も生じうる。しかし、YがXに立替払いを依頼していることを考慮すると、Yがそのように主張することは、背信的であり、その主張をYがすることは許されないと判断されるであろう。また、Aが所有者として登録されている段階で、XがYに対して留保所有権を主張して引渡しを求める場合も、同様である(Yが対抗要件の欠缺を主張することは背信的であり、Yは対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にはあたらないとされるであろう)。

では、Yについて倒産手続(再生手続)が開始された場合はどうか。Yとは別個に、Yの債権者(再生債権者)が利害関係人として登場しており、登記の欠缺を主張することができるかが問題になる。前記最判平成22年は、次のように説示した(この説示は、破産手続についても妥当する)。

この結論は、Xにとってはなはだ不満であろう。このような結論が出されるのであれば、Xは法律構成1の方がよかったことになる。ただ、契約書の文言が、法律構成1を採用するのに適するものであったかについては、意見が分かれよう。前記先例は、法律構成1を採用するのに適するものであるとは言い難いとの判断を前提にして、法律構成2を採用したと思われる。

2.3.2 登記された一般先取特権

一般の先取特権が債務者の特定の不動産の登記簿に登記されることは、皆無であろう。したがって、以下の問題は、もっぱら理論上の問題にすぎないが、それでも理論的な説明をする際には注意を要する。

民法336条は、次のように規定している:「一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない」。本文の規定は、一般先取特権が不動産について登記されうることを前提にした規定である(不動産登記法3条で登記することができる権利等が列挙されていて、5号で「先取特権」が挙げられており、「特別の先取特権」に限定されていない)。民法の教科書では、その登記は制度上可能であり([内田*民法3v3]515頁)、一般先取特権と抵当権の双方が登記されている場合には、その順位は、登記の先後によると説かれたり([我妻*1974a]299頁)、抵当権の登記が後の場合であっても登記された一般先取特権者は335条3項の制約に服すと説かれている([石田*2010a]129頁)。

これを前提にして、まず、登記された一般先取特権は、民執法87条1項4号の「登記がされた先取特権」に含まれ得るか、登記された一番先取特権者は同法181条1項4号の規定によるほか、同項3号の規定により担保権実行競売の申立てをすることができるかが問題となる。それを妨げる規定はなく、肯定してよいであろう(もちろん、彼は、この外に、同項1号・2号所定文書を提出して競売申立てをすることもできる)。次に、登記された一般先取特権も、債務者の破産手続において別除権と扱われるべきかが問題となり、これに関連して、債務者破産の場合に民法335条1項・2項・3項の適用を排除すべきかが問題になる。()破産法2条9項は、登記された一般先取特権を別除権に含めていないので、破産手続開始後は、一般先取特権者は、その権利が特定不動産上に登記されていても、優先的破産債権者としてのみ権利を行使することができ、登記された先取特権を破産手続外で行使することはできないと解する余地はある。しかし、()次の理由により、登記された一般先取特権者は、別除権者になり、かつ、抵当権者等と同様に不足額主義に服すと考えたい。

  1. 破産配当の前に抵当権者が実行されて民事執行手続による配当が行われる場合には、民法335条4項により1項・2項・3項は排除されるのであるから、これらの規定により守られる利益は、もともと小さいと考えることができる。
  2. 同条1項は、一般先取債権者は、まず不動産以外の財産から満足を受けるべきであるとしているが、これは、重要な財産である不動産をできるだけ債務者に留保すべきであるという趣旨の規定(債務者保護規定)とみることができる。債務者について破産手続が開始された場合には、同項の適用により守られるべき債務者の利益はもはや存在せず、同項の適用を排除してよい。
  3. 同条2項・3項は、言ってみれば、登記された一般先取特権者と抵当権者等との間で、前者は他の財産から満足を得た後の残額(不足額)についてのみ優先権を行使し得るとすることにより、後順位の抵当権者等を保護する規定である。しかし、それを債務者破産の場合にまで貫徹すると、一般の破産債権者が不利益を受ける。すなわち、担保不動産競売手続において後順位抵当権者に不足額が生じても、その不足額は普通破産債権になるにすぎないが、一般先取特権者に不足額が生ずると、その不足額は優先的破産債権になり、一般の破産債権者への配当額を大きく減少させる;また、後順位抵当権の被担保債権が破産債権でない場合(物上保証の場合)には、同条2項・3項が適用されると、その適用を否定した場合と比較して、一般の破産債権者が受ける不利益はさらに大きくなる。
  4. 一般先取特権といえども登記された以上は特定財産上の担保権と同等に扱い、その後に登記された担保権はこれに後れる(後順位になる)とするのが本来であり、破産手続との関係で民法335条2項・3項の規定の適用を排除しても、それは後順位抵当権者にとって予期可能なことであり、彼が不測の損害を受けることにはならない。

なお、特定目的会社の特定社債権者等には一般先取特権が認められているが(資産流動化法128条等)、債権担保のために抵当権を設定することは何ら妨げられない。ただ抵当権を設定して社債を発行する場合には、担保付社債信託法の規制を受ける。このことは、社債の担保のために一般先取特権の登記をするとしても同じであろう([永野*2011a]78頁)。ただ、社債の発行後に全部の社債権者のために一般先取特権の登記をすることができるか(担保付社債信託法の規制に服することなく登記をすることができるか)は、明瞭でない。もっとも、これについて現実の需要があるわけではなく、これは単に理論的に想定し得る問題にとどまる。


3 破産が担保権に及ぼす影響


3.1 規定の概観

別除権が認められる担保権は、担保物の所有者について破産手続が開始されても、基本的な点では影響を受けない。しかし、まったく影響を受けないわけではない。担保権は、次のような規定により影響を受ける。

)不足額主義(108条2項)を前提にして

)破産管財人の管理処分権に関連して

)破産法以外の規定による影響

3.2 不足額主義(108条

破産者が担保物所有者であると同時に被担保債権の債務者である場合には、担保権者は破産債権者の地位も有する。そして、破産債権者は破産手続開始の当時における債権額を基準にして破産手続に参加することができるとの原則をそのまま適用すると、破産手続開始後における担保権行使による満足を考慮することなく配当を受けることになる。しかし、それでは、破産財団所属財産たる担保物から一般債権者を排除して優先的に満足を受ける地位を保障されつつ、さらに担保物から優先弁済を受けた部分についてまで一般財産から配当を受けることになり、一般破産債権者との公平を欠くことになる。そこで、担保権者は、まず担保権を行使して優先的満足を受けた後に、なお不足額(未弁済額)がある場合に、その不足額を基準にして配当を受けるべきものとされている(108条民法394条も参照)。

108条1項ただし書
担保権の中には、抵当権のように、その実行の完了までに時間がかかるものがある。最後配当の除斥期間の満了までに担保権実行手続の配当が完了しないときには、別除権者は、担保物から優先弁済を得ることができない部分について配当を得ることができないという危険にさらされる。このリスクを低下されるために、別除権者が破産手続開始後でも担保権を放棄し、あるいは被担保債権額を変更することができることを前提にして、彼は担保されなくなった部分(債権の全部又は一部)を破産債権として行使することができるとされている(108条1項ただし書・198条3項)。

  1. 別除権に係る担保権の放棄(絶対的放棄)  被担保債権全体について優先弁済を受ける余地がなくなるので、被担保債権全部を基準にして配当を受けることができる。
  2. 別除権者と破産管財人との合意による被担保債権額の減額  根抵当権については、極度額の変更であるが、その登記は必要ないとしてよいであろう。普通抵当権については、被担保債権の範囲の変更である。このような変更の合意は、別除権協定[15]とも呼ばれる。

そして、108条1項ただし書の規定が別除権者の配当参加を容易にするために設けられたこと([小川*2004a]107頁)を考慮すれば、次の意思表示も同規定の適用対象とすべきであろう。

  1. 破産管財人の同意なしに別除権者が一方的になす被担保債権額の減額  別除権にかかる担保権の一方的放棄が許されるのであるから、担保権の一部放棄の性格を有する被担保債権額の減額の一方的意思表示も有効としてよい。

破産規則56条
破産管財人が別除権に係る担保財産を担保権付きのまま売却する場合には(65条2項参照)、売却価額は担保権の存否及び被担保債権額に左右されるので、前記 a, b, c の意思表示は売却価額の決定までになされなければならない。なお、不動産上の登記された担保権に関しては、担保権者にその意思表示の機会を与える必要がある等の配慮から、破産管財人は、「任意売却の2週間前までに、当該担保権を有する者に対し、任意売却をする旨及び任意売却の相手方の氏名又は名称を通知しなければならない」とされている(破産規則56条)。何時を基準にして2週間前に通知を為すべきかは明瞭ではないが、売買契約の履行時ではなく締結締結時が一応の基準時になる(被担保債権額がいくらであるかは、売買金額に影響を与えるから、売買契約締結前に担保権者に前記の意思表示の機会を与える必要があるからである。したがって、規則56条では、売却内容の通知までは要求されていない。もっとも、[条解*2005a]137頁は、これも通知すべき内容に含めているが、疑問である)。破産管財人は、通知後に別除権者が担保権の放棄等の意思表示をすることにそなえて、それが売却価額に反映されるように契約交渉を進めておく必要がある。

3.3 184条2項の規定による換価

担保権者が任意処分権を有しない場合、つまり、民事執行法等の定める法定手続により強制換価をしなければならない場合には、換価の申立てを担保権者自身がしても、破産管財人がしても大差はないので、破産管財人に競売申立権が認められている(184条2項)。

この規定による競売は、民事執行法上は換価のための競売(民執法195条)と位置づけられる([小川*2004a]248頁)。担保権者への配当ないし弁済金交付については、民事執行手続内で行うべきか、破産管財人が行うべきか、迷うところである[11]。後者に解すれば、被担保債権の確定手続を破産手続内で用意することが必要となるが、明文の規定のない現行法のもとではそれが解釈上の困難を生じさせる。また、担保権消滅制度により売却された場合の代金の担保権者への配当は、裁判所がすべきものとされていることを考慮すると(191条参照)、担保権者への配当等は執行裁判所が行うべきであろう。

担保財産が超過負担の状態にある場合には、破産管財人がこの競売をする利益は少ないが、それでも、固定資産税や管理費用等の増加を阻止する点に利益があり、破産財団所属財産の整理の一環として、競売申立てをすることができる。超過負担不動産の換価を容易にするために、184条3項により、民執法63条129条の適用が排除されている。

3.4 破産管財人による任意換価

法定手続による売却以外に、78条2項1号等の任意売却も可能である。この場合の売却形態としては、次のようなものがある。


4 破産財団に属さない財産からの弁済受領


4.1 準別除権(108条2項)

債権者が破産財団所属財産以外の債務者の財産から弁済を得る権利を有する場合には、その権利は別除権ではないが、不足額主義を適用するのが他の債権者との公平に合致する。そこで破産法は、次の2つの場合に不足額主義を適用し、それらに別除権に関する規定を適用すべきものとした(108条2項)。

その1 自由財産上の担保(2項前段)
破産者←─────────債権者
      |
      |担保権(準別除権)
      ↓
   破産者の自由財産

その2 最初の破産手続終了前に再度破産した場合(2項後段)
第1破産の財団←─────────第1破産債権者
                |(正確には、第1破産前
    ┌───────────┘ からの債権者)
    |
    ↓
第2破産の財団←─────────第2破産債権者
                (正確には、第1破産と
                 第2破産との間の債権者)
この場合には、第1破産債権者は第1破産手続の終結前に第2破産手続に届出をなし得ることが前提になっている。これは(広い意味で)100条の例外と見ることができる。

4.2 債務者と担保物所有者とが異なる場合

担保物の所有者と被担保債権の債務者とは同一の場合が多い。しかし、次のような場合には、両者は異なることになる。

  1. 物上保証  債務者以外の者が、債務者の負っている債務を保証するために、自己の財産上に担保権を設定する場合。この場合の担保権設定者を物上保証人という。
  2. 担保物の譲渡  債務者自身が自己の不動産に担保権を設定し、その登記経由後・破産手続開始前にその不動産を第三者に譲渡した場合にも、債務者と担保物所有者とが異なることになる。担保不動産の取得者を第三取得者という。
破産者←────────債権者
      |
      |担保権
      ↓
    物上保証人
    の不動産

物上保証の場合
担保物の所有者について破産手続が開始されると、担保権者は別除権者として扱われる(154条184条2項・185条186条以下の適用あり)。破産管財人は、民法351条により取得する将来の求償権を破産財団所属債権として行使することができる。

債務者について破産手続が開始されても、担保物は破産財団所属財産にならないから、担保権は別除権として扱われない。担保権者は通常の破産債権者と同様に被担保債権全額を破産債権として行使することができる(108条の適用なし)。物上保証は、人的保証や連帯債務と同様に、責任財産の集積(債権者が破産者の財産のみならず他者の財産も責任財産にして、債権の満足を確実にしていること)の一つの類型であり、債権者が破産手続開始当時の債権額全額で債権を行使できること(不足額主義の適用を受けないこと)は、責任財産の集積の結果であると説明される。債権者が債務者の破産手続に参加しない場合には、物上保証人は民法351条により取得する将来の求償権を破産法104条3項の規定により行使することができる。

破産手続開始前に担保物が譲渡された場合
債務者が自ら所有する不動産に抵当権を設定した後に抵当不動産を譲渡した場合を前提にしよう。この場合に、


5 別除権の行使方法


別除権者は、その担保権について定められた実行方法により、破産手続外で担保権を行使できる(65条1項)。手続の相手方は破産管財人である。例えば、抵当権の実行の場合には、執行債務者の地位につくのは破産管財人であり、競売開始決定は彼に送達される。仮登記担保権の場合であれば、仮登記担保法2条の通知は破産管財人になされなければならない。以下では、議論の多い担保権を主に取り上げる。非典型担保はいろいろあるが、仮登記担保と譲渡担保を取り上げる。

5.1 動産売買先取特権

実行方法
動産売買先取特権[CL4]の実行は、民執法190条による。平成15年改正以前は、そこで要求されている動産の提出あるいは差押承諾文書の提出が実際上は困難なため、先取特権の実行は困難であった。しかし、平成15年改正により、担保物が債務者の占有する場所に存在する場合には、債権者は、執行裁判所に担保権の存在を証する文書を提出して、担保権についての動産競売の開始の許可を申し立て(同条2項)、その許可を得て執行官に動産競売の申立てをすることができるようになり(同条1項3号)、動産先取特権の実行について従来あった困難は除去された。

物上代位権
例えば、次のような事例で問題となる(民法322条304条参照)。

卸商(買主)←───1.代金債権───商社(売主)
 3.破産|               │
    │               |
 2.代金債権←──────────4.物上代位権行使
    |
    |
    ↓
小売商(転買人)

上記の事例において、買主の破産手続開始後に売主は買主の転買人に対する代金債権に対して物上代位権を行使できるか否かが問題となる。最判昭和59年2月2日民集38巻3号431頁は代位権を次の理由により肯定した[4]。

5.2 抵当権

実行方法
不動産抵当権の実行は、民執法180条以下による。担保不動産競売と担保不動産収益執行の2つの方法があり、いずれも可能であるが、破産手続の目的の一つが債務者の財産関係の清算であることを考慮すると、時間のかかる収益執行は避けるべきである。

物上代位権
代位の目的債権の発生時期が破産手続の前であるか後であるかにかかわらず、抵当権者は、民法372条・304条、民事執行法193条の規定に従い、物上代位権を行使することができる。抵当不動産の滅失等により破産者が取得する保険金請求権も、物上代位の対象になるとするのが判例・通説であるが、多くの場合に、抵当権者はこの保険金請求について質権の設定を受けて、保険金からの債権回収を確実にしている[CL5]。

5.3 仮登記担保権

債務不履行の場合に債権者が債務者所有の不動産を代物弁済として取得する旨の契約(代物弁済の予約ないし停止条件付代物弁済契約)がなされ、所有権移転(請求権保全の)仮登記(不登法105条2号)がなされている場合に、債権者の有する権利(仮登記により保全された所有権移転に関する権利)を仮登記担保権という。次の条文を参照。

仮登記担保法19条1項により仮登記担保には「抵当権を有する者に関する規定」が適用されるが、仮登記担保権が抵当権とみなされるわけではない(仮登記担保法19条1項・3項と4項とを対照せよ。会社更生の場合には、更生手続外での権利行使は認められないので、抵当権とみなしてしまうのである)。破産法65条108条2項などの規定が適用されることに意味がある。破産手続外での権利の行使方法は、仮登記担保法による。そこで定められている実行方法は裁判所の関与しないものであるので、破産法185条にいう「法律に定められた方法」に当たらず、同条の適用がある。

破産管財人は仮登記担保法11条により受戻権を有する(時効に注意)。受戻しには、破産法78条2項14号により裁判所の許可が必要である。

5.4 譲渡担保

意義
動産については非占有担保権が民法で認められていない(民法345条352条参照)。このことによる不都合を克服するために、債務者の所有物を債権担保の目的で形式的に債権者に譲渡し、債務者が目的物を引き続き占有・使用する形式の譲渡担保が発達した。なお、目的物の占有をも債権者に移してしまう譲渡担保もありうるが、この場合の譲渡担保の経済的機能は質権とあまり変わらず、実際上は少ない。

譲渡担保の基本的法律関係は、下記の図のようになる[1]。

  A─────(債権)─────→B
(債権者)     |     (債務者)
          |(譲渡担保)
          |(担保目的で債権者に形式的に所有権が移転)
          ↓
    [債務者の所有物]

形式的であるにせよ所有権が債権者に移転しているのであるから、債権者は目的物に対して取戻権を有するかが問題となる。現在では、債権者は別除権を有するに過ぎないと考えられている[CL6]。

清算の必要性
債権者は目的物の価額と被担保債権額との清算義務を負う。したがって、譲渡担保を別除権と取戻権のいずれにするかの実質的差異は、破産の場合には大きくない。しかし、会社更生の場合には、担保権者も更生手続に取り込まれるので、譲渡担保を取戻権とするか否かは大きな差異をもたらす。

実行方法
帰属清算の方法、すなわち、目的物の所有権を債権者に確定的に帰属させ、債権者が破産管財人に対して目的物の引渡しを求め、清算金(目的物の価額から被担保債権額を控除した額)が存する場合にはその支払いをする方法が基本となる。

物上代位権
譲渡担保権者にも物上代位権が認められる。譲渡担保権設定者が目的物を譲渡した後に彼の破産手続が開始された場合でも、譲渡担保権者は代金債権に対して物上代位のための差押えをすることができる(最高裁判所平成11年5月17日第2小法廷決定(平成10年(許)第2号))。

5.5 商事留置権

留置権が66条1項により特別の先取特権とみなされる場合には、先取特権の行使に必要な範囲で、留置権能が維持される[5]。この先取特権は、原則として、民事執行法所定の方法で実行されるべきである(民執法192条136条参照)。この先取特権は、他の特別の先取特権に後れるからである(66条2項)。ただ、(α)そのような先順位先取特権が存在せず、(β)被担保債権額が留置権の目的物の価額を上回ることが確実であり、(γ)当事者間で約定された換価方法により得られる金額が民事執行法の定める換価方法による金額と同じであるかそれ以上であることが確実である場合には、当事者間で約定された方法で換価することができる。(手形につき、最高裁判所平成10年7月14日第3小法廷判決(平成7年(オ)第264号)参照)。

不動産は商事留置権の目的になるか  この問題については、学説上はこれまで否定説が多数であった。しかし、最高裁判所 平成29年12月14日 第1小法廷 判決(平成29年(受)第675号)肯定説を採った。同判決では、土地の賃貸借契約が賃貸人からの解除の意思表示により終了したが、それ前から賃借人(運送会社)が賃貸人(生コン製造会社)に対して運送委託料債権を有している場合に,賃借人は、この商事債権を被担保債権とする商事留置権(商法521条)により,被担保債権の弁済があるまで、賃借していた土地を留置することができるとされた。

この判旨を文言通りに受け止めれば、この事件の賃貸人について破産手続が開始された場合に、賃借人は運送料債権を被担保債権とする特別の先取特権を土地の上に有し、同先取特権を別除権として行使することができることになる(66条1項)。商事留置権者が破産者に対して有する債権は、留置物との関連性は要求されていないので、双方のための商行為によって生じた債権である限り、貸金債権や敷金返還請求権であってもその他の債権であっても、同じ結果になる。

  1. V所有の不動産を賃料月額100万円で賃借しているMは、敷金として1200万円を差し入れている。Vについて破産手続が開始された場合に、VとMの双方が商人で、商事留置権(商法521条)の成立が肯定されるならば、Vについて破産手続開始され、不動産を明け渡したあと、1200万円の敷金返還請求権を被担保債権として、賃借していた不動産に対して先取特権を行使することができる。したがって、賃借人は、破産手続が開始されてから3月後に賃貸借契約が終了する場合には、商事留置権から転化した特別の先取特権を行使することにより、多くの場合に、敷金全額を回収することができることになる(留置権が発生しなければ、70条の規定により、寄託請求した3月分の賃料相当額の敷金を回収できるだけであり、落差が大きい)。
  2. 上記の例において、Mが一つの所有権の目的となっている不動産の全体を賃借人として占有している場合には、話は比較的簡単である。しかし、彼が、その一部を賃借している場合には、留置権から転化した先取特権は、不動産の全体に生ずるのか、それとも占有していた部分についてのみ生ずるのかが問題となる。物権は、一つの客体を単位にして成立するとの考えを推し進めれば、Mの先取特権は、一つの不動産の全体に及び、全体の競売を申し立てることができるが、優先権は、占有していた部分の価値相当額にに限定されると解するのが妥当であろう。
  3. 上記1の例において、Vについて民事再生手続が開始された場合には、かなり深刻な問題となる。同法は、不動産の流動化ないし不動産の賃料債権の流動化を容易にするために、再生債権者が再生債権(敷金返還請求権以外の債権)と相殺することができる賃料債務を6ヶ月分に限定している(同法92条2項)、敷金返還請求権は賃料額6ヶ月分の範囲で共益債権とするに止めている。ところが、不動産も商法521条の留置権の対象となると解すると、Mは賃貸借契約終了後も商事留置権を行使することができ(民事再生法53条1項・2項)、被担保債権の完済までの間、Vが他の者と新たに賃貸借契約を締結して賃料を得ることが阻害される。このことにより、この政策目的がひどく害されるであろう。

不動産も商法521条の商事留置権の目的になると解することは、登記簿に公示されない特別の先取特権を生じさせることになり、不動産上の権利関係をできるだけ登記簿に公示しようとする政策(不動産の先取特権の登記の必要性に関する民法337条・338条・340条参照)と整合せず、政策的に妥当であるとは思われない。前記最判の射程範囲は、この問題に関して新しい最高裁判例が出るまで、狭く捉えておく(留置権は債務者に対して主張できるが、第三者にまで主張できるかは不明であると解しておく)のが安全であろう。


練習問題

次の事項を簡単に説明しなさい。

学内試験問題

抵当不動産の所有者について破産手続が開始された場合に、抵当権がどのように扱われるかを説明しなさい。

AはBに7000万円を貸付け、その担保のためにB所有の不動産上に第一順位の抵当権を得た。その後にBについて破産手続が開始された場合に、Aは抵当権を破産手続外で実行することができるか。また、抵当不動産の売却価額が2000万円であると予想される場合に、7000万円全額を破産債権として行使できるか。

破産者の不動産上に抵当権を有する者は、破産手続外で抵当権を実行することができるか。


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Author:栗田隆
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1997年10月23日−2005年6月16日−2020年6月30日