関西大学法学部教授 栗田 隆

破産法学習ノート2「別除権」の注


注1 集合物譲渡担保 譲渡担保は、目的物が特定物である場合が基本形態であるが、財産の集合(債務者の一定範囲の動産・債権の集合)が譲渡担保の目的物とされることもある。そのような譲渡担保を集合物譲渡担保といい、これを有効とする見解が強い。 法律構成には、次の2つがある。

  1. 個々の財産の譲渡担保の集合
  2. 集合体を構成する個々の財産を離れた「集合体」が譲渡担保の目的物

2の見解が通説・判例(最判昭和54.2.15民集33-1-51)である。1の見解では譲渡担保の目的物の追加のたびに対抗要件(占有改定あるい債権譲渡通知・承諾)が必要となり、実際的でない。但し、 これを広範に認めると、破産の場合に一般債権者が著しく害されることになる。

注2  この場合に、抵当権者が被担保債権を破産債権として行使する場合に、不足額主義の適用を認めるべきであろうか。抵当不動産の売買において、被担保債務の弁済責任を誰が負うかは、売買契約において当事者が合意で定めることができることであるから、場合を分けて考察しよう。

 (α)第三取得者が弁済責任を負うとされた場合(担保権者との関係では、重畳的債務引受けの場合)  例えば、1000万円の債務を負う債務者が5000万円の市場価格のある不動産に抵当権を設定した後に、被担保債権額分を差し引いてその不動産を売却した場合に、第三取得者は、たとえ抵当権が実行されても、債務者に対して求償権を行使できない。このような場合には、108条1項の適用はない。前記の事例は、主債務者が自己の財産上に担保権を設定しつつ、さらに連帯保証人を立てた場合に近似し、前記の事例において抵当権者にまず抵当権を行使すべきであると主張することができないのは、連帯保証人について破産手続が開始されたときに、債権者に対してまず主債務者に対して権利を行使すべきであるということができないのと同じである。

 (β)売主たる債務者が弁済責任を負い、第三取得者は負わない旨が合意されたにもかかわらず、担保権実行の申立てがなされた場合には、当該合意の趣旨により、第三取得者は、売買契約を解除して代金の返還を請求したり、あるいは、被担保債権を弁済して担保権の実行を回避したことにより生じた費用の償還を請求することができる(民法567条。この償還請求権等は、物上保証人の求償権と機能的に近いが、それでも重要な違いがある。物上保証人の求償権は、被担保債権に後れるものであるが、第三取得者の償還請求権は、そのような性質のものではない)。それは破産手続開始前の前記合意に基づく債権として破産債権になると解すべきである。例えば、1億5000万円の債権のために抵当権が設定されている市場価格1億円の不動産が、売主が被担保債権を弁済するとの約束の下に、1億円で第三者に売却され、その後に売主について破産手続が開始された場合に、第三取得者は、売買契約を解除して、1億円の代金の返還請求権を破産債権として行使できる。そうであるとすると、担保権者が破産手続開始時の被担保債権1億5000万円全額を破産債権として行使できるとすることは、適当ではない(反対に解すれば、1億円部分について、第三取得者の権利行使が予想されるにもかかわらず、担保権者も権利行使することになるからである)。そして、破産者が被担保債権全額について弁済責任を負っている場合に、破産手続開始前に担保不動産を第三者に譲渡しなければ不足額主義の適用を受けるのに、破産手続開始前に譲渡していればその適用を免れるというのも、合理的でない。したがって、この場合の担保権は、別除権ではないが、不足額主義の適用を受けるというべきである。このような担保権者についても、108条1項等の配当に関する規定を類推適用すべきである。

注3 商事留置権が特別の先取特権に転換される理由として、次のような説明がなされている。商事留置権制度は、民事留置権制度と異なり、継続的取引関係にある商人に相互間でやりとりされる物品を互いに担保視することを許すことにより信用取引を維持・促進するための制度して発達したのである([谷口*1998a]10頁など。なお、交互計算との類比を行う[前田*1962a]6号71頁も参照)。

注4 これに対しては、破産者が転売代金債権を受領しているか否かといった偶然的事情によって売主の地位が大きく左右されるのは適当ではない、との批判もある。しかし、この事情(買主が転売代金を受領していないこと)は、転買人の保護のために民法304条で構成要件の一部に取り入れられている重要な事情であり、売主の地位を左右するのにふさわしくない偶然的事情と評価するのは適当ではない。

注5 最判平成10年7月14日(平成7年(オ)第264号)の理解については見解は分かれるが([鈴木*2002a]192頁注1参照)、商事留置権者に留保される留置権能は、先取特権の行使に必要な範囲に限られ、留置権の外に特別の先取特権が併存的に発生するという趣旨ではないと理解すべきである。したがって、破産管財人が184条2項あるいは185条184条2項の規定により先取特権の目的物を売却しようとするときには、この留置権能を主張し得ない。なお、[谷口*1998a] 11頁は、留置権能は破産手続開始とともに消滅するが、銀行が破手続開始の時点で正当に占有していた以上、その後の占有は別除権実行のための占有として破産法上正当化されると説く。

注6 商事留置権と民事留置権とで取扱いが異なるが、その歴史については、[鈴木*2002a]=鈴木正裕「留置権小史」(河合伸一判事退官・古稀記念『会社法・金融取引法の理論と実務』(2002年6月、商事法務)191頁)参照(特に204頁以下))。

注7 不動産の売渡担保の場合には、買主(=債権者)への所有権移転登記がなされ、売主(=債務者)への所有権復帰を確保するために、買戻特約や再売買の予約とその登記がなされる。もっとも、この種の売買を担保付消費貸借契約とみるのがよいかは、契約内容に依存しよう。

再売買義務付売買を担保付消費貸借とみるか否かは、破産の場面では、実際上大きな差異をもたらさない。しかし、会社更生手続では担保権者も手続の中に取り込まれるので、大きな差異が生ずる。それゆえに、担保の実質を重視すべきであるというのが現在の主流の見解であるが、そうなると、債権者は、SPCなどを用いて倒産リスクを回避することになるが、それは、結局、担保取引のコストを上昇させていないだろうか。

もしそうだとすれば、会社更生手続の中に担保権者を取り込み、その犠牲の上に債務者の更生を図ることは、経済合理性を欠いているように思える。ただ、経済活動のボーダーレス化の中で、各国が、会社更生型の倒産処理手続きにより、世界に分散する債権者の犠牲の上に自国の債務者の更生を図ろ方向に進むのであれば、担保取引のコストの削減のために担保権者を更生手続きの中に取り込むことを中止してするという圧力は生じにくい。

注8 旧法下においては、別除権として認められるのは、(α)担保権が中心であるが、その他に、(β)実体法上は担保権として扱われていなくても、これと同様に特定の財産から優先弁済を受けることが保障された権利も別除権とされていた(94条)。

すなわち、共有者の一人が共有物につき他の共有者に対して有する債権(共有に関する債権。民法253条1項)については、特別の先取特権のような担保権が認められているわけではないが、次のような規定により優先弁済が保障されている。

そこで、旧破産法94条は、共有に関する債権の債権者に民法253条2項等で定められた権利を破産手続外で行使できるとした。

なお、旧民法債権担保編170条以下では、共有者の先取特権が認められていたが、現民法では分割の際に清算してしまうという趣旨で259条の規定が置かれた(注釈民法(7)347頁参照)。

マンションの管理費用支払請求権  現代において最もよく見られる共有は、マンションの敷地・共用部分の共有である。この共有類型においては、専用部分の所有権と敷地等の共有持分権とをセットにして換価しないと、法律関係が混乱するので、分離処分が原則として禁止されている(区分所有法22条)。そうなると、マンションの管理費用などは、民法の共有の規定によって保護するだけでは不十分となる。建物の区分所有等に関する法律は、この点を次のように解決している:

したがって、マンションの管理費用の支払を怠っている区分所有者について破産手続が開始された場合には、その費用支払請求権の取立てのために、この先取特権に基づき破産手続外で、専用部分と敷地利用権の共有持分を一括して換価できる。

注9 破産法65条2項は、「その目的である財産について別除権を有する」と規定するが、破産財団に属しなくなった財産について破産手続外で担保権を行使することができるのは、いわば当然のことである。同項が言わんとすることは、当該担保権も、不足額主義等の別除権に関する規定に服するということである。

注10 「別除権者」の範囲と「破産手続によらない権利行使が認められた担保権者」の範囲とは同じである。外延の同一は内包の同一を意味するわけではないが、多くの場合は、同一と扱っても実際上の支障は生じないので、

が引き出され、両辺の「者」を削ると

となる。

注11 破産の局面では虚偽債権への配当を阻止する必要が極めて高いことを考慮すると、破産債権確定手続の規定を類推適用して被担保債権を確定させる考えに魅力が生じ、これが≪売却代金の配当等は破産管財人が行う≫という選択肢への誘因となる。

注12 198条3項中の「当該別除権に係る第65条第2項に規定する担保権」にいう「別除権」が「担保権」そのものではなく、「担保権を破産手続によらずに行使する権利」あるいは「破産財団に属する担保財産から優先的満足(別除的満足)を受ける権利」であることは明瞭である。

しかし、65条1項の別除権は、担保権(破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する特別の先取特権、質権又は抵当権)でないと意味が通じにくい。「別除権の認められる担保権は、破産手続によらないで行使することができる」と書き換えれば、そこにいう「別除権」は、担保権自体ではなく、「担保権を破産手続によらずに行使することができる権利」を指すことがはっきりする。

2条9項の「第65条第1項の規定により行使することができる権利」は、(α)担保権を指すとも、(β)担保権を破産手続外で行使する権利(権能)とも解することができる。ただ、これを担保権と解すると、そして65条1項の別除権が担保権を指すことを前提にすると、2条9項と65条1項は、同語反復ないし循環定義に近くなる(別除権の定義の中で別除権の概念が用いられていることになる。(β)を指すと会すべきであろう。もっとも、2条9項において、「別除権」は、「破産手続開始の時において破産財団に属する財産の上に存する特別の先取特権、質権又は抵当権を破産手続によらずに行使することができる権利」をいうと定義する方が簡明である(このように定義すると、65条1項は不要となる)。

このノートでは、次の表現は、同値であるとする。

注13 破産法がいずれの意味で用いているかは、2条9項・65条1項からは確定しがたい。しかし、(β)の前提として(α)が必要であり、(α)は(β)を伴うと考えれば(つまり、≪破産管財人が換価し、担保権者は優先弁済受領権を行使することができるだけである≫という選択肢を排除するならば)、(α)も(β)も同じことを意味し、違いは、いずれを重要なものとして強調するかのニュアンスにすぎない。

注14 抵当権は、所有権を制限する物権として、所有権とは別個の登記により公示されるので、抵当権についてはこのような問題は生じないが、所有権留保の場合には、所有権の帰属の公示方法と担保的権利の帰属の公示方法とが同一のためにこうした問題が生ずるのである。

注15 この名称は、次のことに由来する:民事再生手続において、事業の再生に必要な財産上の担保権を有する債権者と再生債務者等が、(α)被担保債権の範囲を変更し(典型的には、被担保債権額を担保権の実行により優先弁済され得るであろう額に限定し)、(β)担保範囲にとどまる部分について期限の猶予を得るのと引換えに共益債権にするとともに、(γ)担保からはずれた部分を再生債権として行使することを認める合意をすることがある;この複合的内容の合意が、別除権協定と呼ばれる(破産法108条1項ただし書と同内容の再生法88条ただし書は、このような別除権協定を可能にするために設けられた言われている)。破産法108条1項ただし書による被担保債権の範囲の限定は、再生手続における別除権協定のような複合的内容の合意の一部となるものではない(βやγを伴わない。βに関して言えば、再生手続においては、被担保債権について期限の猶予を得て担保競売を回避することが重要であるが、破産手続では、担保権は速やかに実行される必要がある)。