目次文献略語
民事訴訟法講義

当事者 2


関西大学法学部教授
栗田 隆

5 当事者能力


文 献
はじめの1歩
Xはある大学のボートクラブであり、部員はキャプテンのA(3回生)ほか30名である(教員の部長や監督はいない)。Xの部員は、先輩たちが資金を出して購入したボートを受け継いで、練習に使用している。そのボートがYによって盗まれたので、取り戻したい。
Xの部員は、Aを代表者として、Xの名でボートの返還請求の訴えを提起することができるか。⇒民訴29条

5.1 当事者能力の意義

民法 民事訴訟法
権利能力 当事者能力
行為能力 訴訟能力
意 義  訴訟当事者となりうる一般的な資格ないし地位を当事者能力という[27]。当事者能力を有するのは誰かの問題は、民訴法に特別の定めがある場合を除き、民法その他の法律に従う(28条本文)[CL4]。すなわち、民事訴訟制度は私法上の紛争の解決を目的としているので、私法上の法律関係の主体となりうる者を訴訟の当事者とするのが適当である。そこで民法その他の法律により権利能力(法人格)を与えられている者は、すべて当事者能力を有する。そして、当事者能力を有する者は権利能力を有する者に限られるのが原則であるが、紛争解決の便宜のために、民訴法29条がその例外(28条本文にいう特別の定め)として、法人でない社団・財団にも一定の要件の下で当事者能力を認めている。

当事者能力を有する者を列挙すると、次のようになる。
    • 自然人  一般的に当事者能力を有する。
    • 胎児   不法行為に基づく損害賠償請求・相続・受遺贈に関しては生まれたものとみなされるので(民721条・886条・965条)、それらに関する訴訟では当事者能力を有する(ただし、反対の見解もある)[33]。通常は母が法定代理人として訴訟行為をすることになるが、母が未成年である等の理由により訴訟能力を有しない場合には、母の法定代理人が胎児の法定代理人を兼ねる。
  1. 組織体
    • 法人(会社、一般社団法人、一般財団法人、特定非営利活動法人[31]、国や地方公共団体など[32]  一般的に当事者能力を有する。
    • 法人ではないが一定の範囲で「権利を有し、義務を負う」ことを認められた団体  不動産又は不動産上の権利を保有するために認可された地縁団体(認可地縁団体。地方自治法260条の2)がこれに該当する(市町村長の認可が必要であり、認可されると告示がなされ(同条10項)、告示があるまで告示事項をもって第三者に対抗することができない(同条13項)とされており、告示が法人登記と類似の機能を果たす)。 
    • 法人ではないが、代表者の定めのある社団・管理者の定めのある財団(29条)

5.2 法人でない社団・財団の当事者能力(29条

法人でない社団・財団に関する 判例

法人には登記が要求されており(民法36条)、社団や財団は登記により法人として成立する(一般社団財団法人法22条等)[37]。しかし、現実の社会では、種々の社団や財団(両者を併せて「組織体」あるいは「社団等」という)が、法律の規定にしたがって法人格を取得することのないまま、経済取引その他の社会活動を営んでいる。このような組織体にも、次の理由により、当事者能力が認められている(29条)[CL1]。
29条の適用を受けるのは、次のような法人でない社団・財団である。

 ()代表者の定めのある社団  (α)人の結合体であって、団体として組織され、構成員による多数決原理に従った意思決定がなされ、(β)構成員の変更にかかわらず存続し、(γ)その団体の活動を基礎付けるものとして構成員から独立して管理される特別な財産をもち、(δ)代表者が存在し、現実の社会において代表者を通じて当事者としてその名で取引などの活動をなすことが事実上できるような団体を指す(各要件をこの順に要約していうと、次のようになる:内部組織性、対内的独立性、財産的独立性、対外的独立性)[21]。学会、同業会、校友会、同窓会、町内会、団地の自治会、未登記の労働組合、運動団体、法人組織になっていないゴルフクラブ、入会団体[36]などである[9]。代表者は、団体の構成員であるのが通例であり、その方が構成員の利益擁護の点で好ましいが、それに限定する必要はない(会社法331条2項本文参照)。団体の構成員の利益が代表者を通じて適切に擁護される関係があれば足りる。

次の点に注意が必要である。
 ()管理者の定めのある財団  設立者の帰属を離れ、一定の目的のために結合された財産の集合体で、独立の管理機構に服しているものをいう[12]。財団の実質は備えているが法人登記のなされていない育英会や図書館などがこれにあたる[14]。財団については、管理機構と管理対象たる財産が存在すれば足り、構成員は必要でない。

29条の適用がある場合には、その社団・財団が当事者となることができる(29条の「その名において」の「その」は、「代表者又は管理者」ではなく、条文の主語の「社団又は財団」を指す)[23]。また、団体の名前で提起された訴えと、構成員の全員の名で提起された訴えとを区別する必要がある。後者の場合には、構成員全員を訴訟の当事者欄に個別に記載することが必要である。その煩雑さに耐えない場合こそが、29条がその効用を発揮する場合である[CL2]。

一般に当事者能力の有無は職権調査事項であり、かつ、法人でない社団又は財団の当事者能力の有無は明瞭でない。そのような場合に、裁判所は、法人でない社団又は財団として訴え又は訴えられた当事者に対し、定款[30]その他の当該当事者の当事者能力を判断するために必要な資料を提出させることができる(規則14条)。

なお、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」を縮約して「法人でない社団又は財団」ということがある。法人税法2条8号は、それを「人格のない社団等」 と呼んでいる(国税徴収法3条、消費税法2条7号も同じ)。そこにいう「人格のない社団等」を「権利能力が(まったく)ない社団等」の意味に理解すると混乱が生ずるが、単に、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」ないし「私法の領域においては原則的に法人格が否定されている社団等」の縮約表現にすぎないと理解すれば、混乱は生じないであろう。この講義では、この縮約表現の意味で「人格のない社団等」の語も用いることにしよう。

5.3 民法上の組合の当事者能力

団体性の稀薄な民法上の組合に29条の適用があるか否かについては、組合と社団との差異を強調する否定説と、組合であっても29条の要件を満たす場合があることを指摘する肯定説とが対立している[2][CL3]。判例は、民法上の組合についても、29条の要件を満たす限り、当事者能力を肯定する。「民法上の組合」の定義の問題でもあるが、「民法上の組合」と29条の社団とは、異なる考慮要因に基づいて異なる視点から設定された異別の概念である。したがって、部分的に重なり合うことを認めておく方がよく、肯定説が妥当である。
最判昭和37年12月18日民集16巻12号2422頁・[百選*1998a]41事件
B1,B2,B3 銀行
  |組合設立(融資先のA会社の債権の取立と3銀行の債権の保全を目的として設立された)
  ↓
  X委員会(民法上は組合) ←−−−− A会社
  |              債権譲渡
売掛代金支払請求
  ↓
  Y
  • 第一審: 当事者能力なしとして訴えを却下した。民訴29条[旧46条]に言う「法人にあらざる社団」とは、「社会生活上一つの独立体として存在する組織体であって、団体構成員各自の目的から離れた団体独自の目的を有」するものでなければならない。ところがX委員会は前記3銀行各自の債権回収を目的とした単なる申し合わせ機関にとどまり、その構成員の脱退は、X委員会そのものを消滅せしめる関係にあり、従って、X委員会はいわゆる「法人にあらざる社団」とはいえず、当事者能力を有しない。
  • 第二審: 当事者能力肯定。「X委員会は、A会社の経営を存続せしめる基本目的の下に3銀行がこれを共同管理し、同会社の債権の取立と3銀行の債権の保全とを図り、更に融資・再建の基盤を育成するための協働・調整の機関として3銀行が組織したものであって、その構成員たる3銀行個々の本来の目的を超えた客観的目的のために組織された社団的実体を有する」から、民訴29条[旧46条]に言う「権利能力なき社団にして代表者の定めあるもの」にあたる。
  • 最高裁: 第二審判決を支持。代表者の定めのある民法上の組合は、民訴29条[旧46条]により、訴訟当事者能力を有する。

5.4 権利能力との関係

29条により当事者能力を認められた社団・財団が権利能力を有するかについては、見解が分かれている。
 ()個別的権利能力肯定説(学説) 29条により当事者能力が認められる場合には、その限りで権利能力も認められる[4]。[伊藤*民訴v4.1]120頁注22は、これを多数学説とする。
 ()個別的権利能力否定説(判例)  社団(の構成員に総有的)に属する係争権利義務が争われている場合であっても、社団が権利能力を有しないことに変わりはないとする立場。判例は、この立場を特に不動産について厳格に採用している。団体の当事者能力が肯定されても、団体に不動産の所有権が帰属することの確認を求める請求は棄却される(最高裁判所 昭和55年2月8日 第2小法廷 判決(昭和50年(オ)第701号))。しかし、係争権利が(α)特定の構成員に信託的に帰属すること、あるいは(β)構成員全員の総有に属することの確認請求は認められる余地がある(入会地が構成員の総有に属することの確認の訴えについて、最判平成6年5月31日民集48巻4号1065頁)。

個別の法領域における規定  法人でない社団がまったく権利能力を有せず、権利義務の主体になりえないかと言えば、そうでもない。例えば、(α)税法の領域では、人格のない社団等を法人とみなして、各税法を適用すると規定されている(国税徴収法3条、法人税法3条、消費税法3条等)。したがって、人格のない社団自体が納税義務を負うことが予定されている(法人でない社団を法人とみなす旨の規定を有していなかった旧入場税法についてであるが、東京高等裁判所 昭和47年6月28日 判決(昭和42年(行コ)第16号)は、労働者音楽協議会を納税義務者とした)。そして、国税徴収法41条は、次のように規定している:「人格のない社団等が国税を滞納した場合において、これに属する財産(第三者が名義人となつているため、その者に法律上帰属するとみられる財産を除く。)につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、その第三者は、その法律上帰属するとみられる財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う」。そこにいう「これに属する財産」は「社団の構成員に総有的に帰属する財産」の縮約的表現にすぎないと見る余地もあるが[40]、しかし、各税法が人格のない社団を法人とみなしているのであるから、人格のない社団自体に財産が帰属していると観念する方がわかりやすい。特に人格のない財団については、構成員を観念することができず、「人格のない財団に属する財産」を「管理者に属する財産」の意味に理解すると、「管理者が名義人となつているため、その者に法律上帰属するとみられる財産」と考えられやすくなり、国税徴収41条かっこ書により、その財産に対して滞納処分を行うことができなくなる。それよりは、人格のない財団自体に帰属する財産を観念する方が解りやすい。したがって、「人格のない社団等は、一定の範囲で権利義務の主体となる資格を有する」との命題を肯定してよいであろう。また、(β)著作権法2条6項は、「法人」に「法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」が含まれるものとしており、法人でない社団も著作者人格権あるいは著作権等の帰属主体になることを肯定している。(γ)労働組合法の領域では、同法に明文の規定はないが、財産取引に関して、労働組合の権利能力を原則的に肯定する(労働組合に属する財産は、組合の単独所有財産であり、組合員の総有ではないとする)見解が有力である(例えば、[片岡*労働法1v4]104頁。ただし、「取引関係を明確にするた上で一定の制約を受ける」(例えば、組合名義では登記できない)ことは否定しえないとする(105頁))。

したがって、「法人でない社団も権利義務の帰属主体になることがある」との命題は、一定の範囲で承認されるべきである[38]。

民事法の領域一般  ただ、民事法の領域では一般論としては、法人でない社団の権利能力は否定されている。しかし、その場合でも、「法人でない社団に属する財産」という表現はよく用いられ、それは、「社団の構成員の総有に属する財産」の縮約表現と理解されている。また、「社団の債務」は、「社団の構成員が総有的に負う(総有財産が責任財産となる)債務」の縮約表現と理解される。したがって、法人でない社団の権利能力を否定しても、この縮約表現が許される範囲では、個別的肯定説にしたがった場合と、表面上の差違はほとんどない(財産の管理処分は、代表者が社団の代表者であることを明示してする。債務の弁済請求等は、代表者に対して社団の代表者であることを明示してする)。

 (1)問題となる財産が不動産の場合には、この縮約表現も許されない(著作権を除き、権利の移転等に登記・登録の必要な他の財産についても同様になろう)。不動産登記の実務及び判例が、法人でない社団に登記能力を認めておらず、社団の代表者であることを示して代表者個人名義で登記することも許していないからである(最近の判例として、最高裁判所平成26年2月27日判決(平成23年(受)第2196号)を参照)[5]。そのため、登記が直接には関係しない局面でも、不動産の所有権は、社団に帰属するのではなく、構成員に合有的にまたは総有的に帰属することが強調される。
  (α)法人でない社団が当事者となって、社団に所有権が属することの確認判決を求めることは、縮約表現としても許されない。しかし、当事者である社団は、その構成員の訴訟担当者として、不動産が構成員の総有に属することの確認判決を求めることはできる。これには、次の利点がある:構成員の氏名は、請求の趣旨等に具体的に列挙する必要はなく、「***の社団の構成員」との表示で足りる(そのように解すべきである。そうでなければ、構成員が多数の場合あるいは構成員が変動した場合に煩雑となり、29条の意義が損なわれる);社団が原告になる場合に、社団内部の意思決定を経て提訴がなされた限り、判決の効力は被担当者である構成員の全員に及ぶ(115条1項2号。もっとも、社団以外の者が訴訟担当者になる場合でも、おそらく同様とすべきであるから、社団が当事者となることの利点というよりも、財産が構成員の総有に属していることの利点というべきであろう)。
  (β)法人でない社団は、自己への移転登記の請求権を有しないので、社団の代表者が構成員全員の受託者たる地位において代表者個人の名義で所有権の登記を得るか、または、構成員全員の共有名義の登記を得ることになる。前者の場合には、代表者自身が原告になることができるが(最判昭和47年6月2日・民集26巻5号957頁)、そのほかに、社団が当事者(訴訟担当者)となることもでき(前掲最判平成26年2月27日)、この場合の判決の効力は団体の構成員全員に及び、また判決主文で代表者個人への登記手続が命じられているので、代表者は、その判決に民執法27条2項の執行文(交替執行文)の付与を受けることなく、単独で移転登記手続を申請することができる(ただし、民執法174条1項ただし書又は2項により、そこに規定された執行文が必要になる場合もある)。団体が当事者になって代表者個人の名義(登記を得るべき代表者の数に応じて単独名義若しくは共有名義)又は構成員全員の共有名義の移転登記を求める訴えは、請求権の帰属主体以外の者による訴訟担当であるとともに、第三者(代表者または構成員全員)への給付を求める訴えとなるが、これも許される[22]。

 (2)不動産の明渡請求権あるいは妨害排除請求権の主張についても(1)で述べたことが妥当する。しかし、これと並んで、構成員はこれらの請求権の行使を社団に担当させることができるのであるから(民執法20条による民訴法29条の準用)、例えば、建物の明渡請求権については、「社団に引き渡せ」との判決を求めることも許されるべきである[15]。

 (3)動産のうち、登記・登録制度が用意されているものについては、上記(1)(2)で述べたことが妥当する。しかし、その他の動産については、「社団の構成員の総有に属する財産」の縮約表現として「社団に属する財産」を用いることが許されるべきであり、その結果は、表面上は、社団自体に権利が帰属すると考えた場合と同じである。冒頭の設例において、ボート部が当事者となって、「ボートをボート部に引き渡せ」との判決を求めることは許されるべきである。少なくとも、ボート部が執行担当者として引渡執行の申立てをすることは許されるべきであるから、「[執行担当者となるべき]ボート部へ引き渡せ」との判決を求めることは許されるべきである。そしそれが許されないとなると、「ボートを[ボート部の代表者である]Aに引き渡せ」との判決を求めることになる([ ]内は、請求の趣旨には記載しない)。

 (4)債権についても、基本的に、動産について述べたことが当てはまる。なお、 債権の担保のために抵当権が設定されている場合には、登記簿上、抵当権者は社団の代表者の職にある個人となる[16]。
 (4a)銀行預金の実務では、社団の代表者であることを示して代表者名義で預金契約を締結することが、少なくとも従来は、一般的であった。もっとも、これは受寄者である銀行が、それを認める場合に可能になるにすぎず、銀行が法人でない社団には権利能力がないとの考えに固執し、社団の代表者であることを示して代表者名義で預金することを拒めば、代表者であることを示すことなく代表者の個人名義で預金することになる。仄聞するところでは、そうした取扱いをする銀行もあるようである。その場合に、(α)代表者が死亡して相続が開始されると、当該預金が社団の財産なのか、代表者の個人財産なのかが、社団(の構成員ないし新代表者)と相続人との間で争われることになる。法人でない社団が社会的に活動することを禁圧すべきであるとの立場に立てば、その社団を法人化しなかったことの結果にすぎず、構成員が不利益を受けても救済する必要はないことになろうが、(β)社会的に活動している全ての社団について法人化を求めることは現実的ではなく、社団が法人化しないまま社会的に活動することも許容すべきであるとの立場に立てば、社団の代表者であることを示して代表者の名義で預金契約を締結することを許容すべきことになる。後者の考えを採るべきである。

5.5 当事者能力を欠く場合の措置

当事者能力を欠く者を当事者とする訴訟について本案判決をする実益はなく、その訴えは、不適法として却下される[13]。当事者能力は訴訟要件(訴えが適法であるための要件)の一つである。

5.6 外国人・外国法人等の当事者能力

外国人等の当事者能力については特別の規定がないが、外国人等も当事者能力を有する。
胎児が相続や不法行為による損害賠償請求の問題に関して権利能力を有するかの問題は、国際私法の領域では、問題となる法律関係の準拠法により決定されるべきであるとする見解が有力である([折茂*1972a]2頁)。これに従えば、胎児の当事者能力は、民訴28条を介して、問題となる法律関係の準拠法が権利能力を認めているか否かにより決定される。

6 訴訟能力


はじめの1歩
Xは、バイク好きの大学1年生(18歳)である。Xは、彼の750ccのバイクを壊したY(22歳)に対して、損害賠償請求の訴えを自ら提起した。
  1. 第一審裁判所は、Xが未成年者であることに気付いた。裁判所は、どうすべきか。⇒31条・34条
  2. 第一審裁判所は、Xが未成年者であることに気付かないまま請求棄却判決をした。これに対してXが自ら控訴した。Xが未成年者であることに気付いた控訴審は、どうすべきか。

6.1 概説

意義
自ら有効に訴訟行為をなすことができる地位を訴訟能力という。訴訟行為を常に単独ですることができるとき、「完全訴訟能力」といい、訴えの提起等の重要な訴訟行為を単独ではできないとき(他者の同意が必要なとき)、「不完全訴訟能力(あるいは制限訴訟能力)」という。ここで、「単独で」は、「他者の同意なしに」を意味する。被保佐人は、自身で訴えを提起することができるという意味では訴訟能力を有するが、保佐人の同意が必要であるので、その訴訟能力は不完全訴訟能力である。

判断力が十分でないと定型的に認められる者については、その者を保護するために、訴訟能力が一律に否定されあるいは制限されている。この点に関する問題は、民訴法に特別の規定がない場合には、民法その他の法令に従う。次の問題がこれに該当する。
民訴法の定める特則として31条以下があり、重要な変更が加えられている。

行為能力との比較
行為能力は、「自ら単独で有効に法律行為をなすことができる一般的な資格」と定義されている。したがって、重要事項について保佐人・補助人の同意が必要な被保佐人・被補助人は、民法上は制限能力者の内に分類される(例えば、[内田*民法1v2a]102頁)。他方、訴訟能力の定義に、「単独で」を含めるかどうかについては、教科書の記述は分かれている[18]。しかし、被保佐人・被補助人は、訴訟無能力者ではなく、不完全ながらも訴訟能力を有する者のなかに分類し、不完全訴訟能力者(ないし制限訴訟能力者)と呼ぶのであるから、訴訟能力の概念の中に「単独で」を含めない方がすっきりした定義となろう。

「制限訴訟能力者(不完全訴訟能力者)」と「訴訟行為につき能力の制限を受けた者」(人訴13条2項)とは区別しなければならない。後者には訴訟無能力者も含まれる(同条1項で民訴31条の適用が排除されていることに注意)。これに対して、前者は、現在のところ通常は、訴訟無能力者を含まない意味で用いられている。この講義では、混乱を避けるために、「制限訴訟能力者」ではなく「不完全訴訟能力者」の語を用いるようにする。

「制限能力者」は、平成11年の民法改正前は「無能力者」と呼ばれていたが、言葉の侮蔑的な響きの強さのために現在のように改められた。その点からすれば、民訴28条で用いられている「訴訟無能力者」の語も、将来は、他の適当な語に置き換えられるのが望ましい(「不完全訴訟能力者」の語も同様である)。ただ、「訴訟無能力者」は現行法で用いられている語であり、この講義では現在の条文の用語法に従わざるをえない。

分類
訴訟能力の有無・程度により、自然人は次のように分類される。
分類 該当者 訴訟行為をなすための要件 違反の効果 人訴法上の位置付け 参考:民法上の取扱い
訴訟無能力者(31条 未成年者・
成年被後見人
自らは有効な訴訟行為をなすことができない。法定代理人によって代理されることが必要。例外あり。 無効。ただし、34条2項により追認可能 訴訟行為につき能力の制限を受けた者(人訴13条 制限能力者が能力の補充なしにした行為は、有効であるが、取り消すことができる(民法9条5条2項・13条4項・17条4項)
不完全訴訟能力者(32条 被保佐人・被補助人 自ら訴訟行為をなすことができるが、原則として保佐人・補助人の同意が必要(民法13条1項4号・17条1項)。
完全訴訟能力者 上記以外の者 自ら訴訟行為を単独でなすことができる(ただし、意思能力を欠く場合は別)。      

6.2 訴訟無能力者(31条

未成年者・成年被後見人は、訴訟無能力者であり、法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができない。訴訟無能力者が自らした場合には、その行為は無効であるが、追認があれば有効になる(法律行為が取り消されるまでは有効であるとされているのとは、対照的である)。手続の安定のためである。
ただし、次のように未成年者が独立して法律行為をすることができる場合には、訴訟行為も独立して(自ら単独で)することができる(31条ただし書)[17][41]。
  1. 法定代理人から営業の許可を得た場合にその営業に関して(民6条1項)、会社の無限責任社員となることを許された場合に社員たる資格に基づく行為について(会社法584条)。
  2. 未成年者は、自ら労働契約を締結して(労基法58条1項参照)、賃金を請求することができるが(労基法59条)、この場合にもその賃金支払請求に関して訴訟能力を認めてよい([高橋*重点講義・上v2]195頁注13など、多数説[11])。もっとも、「満十五歳に達した日以後の最初の3月31日が終了」(労基法56条1項) した後の未成年者が未払賃金債権を有している場合に、彼が自ら訴訟を追行することを期待できるかといえば、それは疑問である(未成年者が労働契約を締結することについて法定代理人が同意するに際しても、未払賃金支払請求訴訟を未成年者自身が追行するだけの能力を有することを確認しなければ同意すべきでないとは言えないであろう)。また、親権者又は後見人が未成年者の法定代理人として賃金支払請求の訴えを提起することが直ちに労基法59条2文に違反するとも思われない。こうしたことを考慮すると、未成年者の賃金支払請求権や不当解雇による損害賠償請求権等について本人の訴訟能力を肯定しつつも、親権者又は後見人も法定代理人として訴えを提起することができるとする方がよいであろう(本人の訴訟行為と法定代理人の訴訟行為とが競合する場合には、本人の訴訟行為が優先すると解する)。

他方、民法5条3項の財産処分の許可は、個別的なものであり、訴訟能力の基礎とは認められない。

任意後見監督人が選任されることにより任意後見契約が効力を生じた場合の本人の訴訟能力については、訴訟代理の項で説明する。

6.3 不完全訴訟能力者(32条

被保佐人・被補助人は、不完全訴訟能力者であり、自ら訴訟行為をなすことができるが、保佐人・補助人の同意が原則として必要である(民法13条1項4号・17条1項(要同意事項に指定されたことを前提にする))。同意は、訴訟追行を円滑にするために、訴訟全体について、または審級ごとに、包括的になされなければならない。訴え提起について同意を与える際に、この点を明確にしなければならない。32条2項所定の次の重要行為については、特別の同意が必要である。 次の場合には、保佐人・補助人の同意は不要である。
同意が必要な行為を同意なしにした場合には、その行為は無効であるが、追認があれば有効になる。

参考:32条2項と55条2項の比較
事項
不完全訴訟能力者への特別授権(32条2項)
訴訟代理人への特別委任(55条2項)
反訴の提起 民法13条1項4号・17条1項
1号
訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第48条(第50条第3項及び第51条において準用する場合を含む。)の規定による脱退  
1号
2号
控訴、上告又は第318条第1項の申立て  
3号
控訴、上告又は第318条第1項の申立ての取下げ
2号
3号
第360条(第367条第2項及び第378条第2項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
3号
4号
代理人の選任  
5号

6.4 人事訴訟における例外(人訴13条・14条)

身分上の行為については、できるだけ本人の意思を尊重すべきであるという民法の基本姿勢にしたがって、訴訟能力の要件は部分的に緩和される。
 ()被保佐人・被補助人および未成年者は、意思能力を有する限り、完全訴訟能力を有する(人訴13条1項)。ただし、これらの者の判断力が不十分な場合があるので、その場合には裁判長は、第1次的には申立てにより、第2次的には職権で、弁護士を訴訟代理人に選任することができる(人訴13条2項・3項後段)。

 ()成年被後見人も、意思能力を有する限り訴訟能力を有する。ただ、意思能力の判定が必ずしも容易でないこと、精神状態が変動することを考慮すると、手続の安定のために、成年後見人又は成年後見監督人が職務上の当事者となって訴訟を追行することもできるとされている(平成15年人訴14条)[34]。ただし、意思能力がある限り自ら追行することもできるが、必要に応じて訴訟代理人を選任すべきである(人訴13条2項・3項参照)

6.5 訴訟能力・法定代理権・授権を欠く場合の取扱い

無効の原則
訴訟能力、法定代理権または訴訟行為をなすのに必要な授権・同意(以下「訴訟能力等」という)を欠く者がなした訴訟行為を「取り消されるまで有効である」としたのでは、手続が不安定になる。そこで、これらの者がなした行為を無効としつつ、本人の利益保護のために、追認の余地が認められている。次の場合が、この原則の適用を受ける。
  1. 訴訟無能力者が自ら訴訟行為をした場合(31条違反)
  2. 被保佐人・被補助人が保佐人・補助人の同意を得ずに訴訟行為をなした場合(民法13条1項4号・17条1項)
  3. 法定代理人でない者が法定代理人として訴訟行為をした場合
  4. 法定代理人が、次のような代理制限に違反した場合
    • 代理権の行使を禁止されている事項について法定代理人として訴訟行為をした場合(利益相反行為等)
    • 法定代理権の行使について必要な授権を得ずに訴訟行為をした場合(後見監督人がいる場合)
    • 共同親権であるのに単独で代理権を行使した場合

以下では、説明の便宜上、訴訟無能力者が自ら訴訟行為をした場合について述べる。

追認
訴訟能力等を欠くとの理由で無効な訴訟行為も、法定代理人あるいは能力を有するに至った本人が追認すれば、行為の時にさかのぼって有効となる(34条条2項)。追認は、これまでの訴訟行為全体について一括してなされなければならず、「いいとこ取り」は許されない。

補正命令制度
  根拠規定 命令者 名宛人 補正事由
1 34条1項 裁判所 補正されるべき行為をした者 訴訟能力等の欠缺
2 137条1項 裁判長
原告
訴状の不備
3 140条(の反面解釈) 裁判所
原告
不適法な訴え(1に該当する場合を除く)
補正・補正命令
過去の行為について適法な追認を得ると共に、将来に向かって有資格者が訴訟を追行するようにすることを、「能力の欠缺の補正」という。補正の余地がある場合には、裁判所は、期間を定めてその補正を命じなければならない(34条1項)。訴状送達前であっても、裁判長ではなく裁判所が決定により命ずる。判断される事項が形式的事項ではないからである。

名宛人は、補正されるべき行為をした者(訴訟能力等を欠いたまま訴訟行為をした者)である[24]。(α)訴え提起段階で発せられる場合には、補正命令の名宛人は原告である。(β)被保佐人の訴え提起について保佐人が審級を限定して同意をした場合に、被保佐人が保佐人の同意を得ることなく控訴を提起する場合には、控訴人である。(γ)被告が訴訟無能力者であるにもかかわらず、被告の法定代理人の記載のない訴状が裁判所に提出され、被告本人に送達され、被告本人が訴訟手続を追行し、審理がある程度進んだ段階で、被告が訴訟無能力者であることが判明した場合には、被告に対する補正命令も許される(後述参照)。(δ)未成年者を被告とする訴訟手続中に法定代理人が死亡して訴訟手続が中断した場合に(124条1項3号。2項の適用のない場合であることを前提にする)、未成年者自身が受継を申し立てたのであれば、裁判所は、未成年者である被告本人に補正命令を発する。

追認するか否かは、追認権を有する者が従前の訴訟追行の情況を見て判断すればよいことであり、追認する義務があるわけではない。追認が得られなければ、当該訴訟行為は無効となる。

無効の原則の例外
訴訟無能力者の訴訟行為も、無能力者保護の制度趣旨と訴訟手続の安定等を考慮のうえ、例外的に、有効とされることがある([中野*1994a]=中野貞一郎『 民事訴訟法の論点1』(判例タイムズ社)87頁以下)。例えば、訴訟無能力者が単独で訴えを提起し、請求棄却判決に対して彼が控訴した場合には、無能力者の保護のために、控訴の提起は有効として、訴え提起行為の補正を命ずるべきである[6]。

訴え提起段階での無能力
当事者の一方が訴え提起の時点においてすでに訴訟能力を欠いていた場合の取扱いは、次のように場合分けされる。

 ()訴訟能力を欠く者が自ら訴えを提起した場合には、訴状審査の段階であるか、その後の段階であるかを問わず[7]、34条1項により裁判所が補正を命ずる(137条1項と34条1項とで、補正を命ずる者が異なることに注意)。補正されなければ、訴え提起行為が無効であることを理由に、訴えを却下する[25]。この場合の無効は、請求について判決(本案判決)する義務を裁判所に負わせることができないという意味で無効であり、訴えが外形的に提起されている以上、裁判所はそれを無視することはできず、訴え提起行為が無効であることを却下判決により明確にしなければならない。訴えが却下された後で、法定代理人等があらためて訴えを提起することは、妨げられない[26]。なお35条は、文言上は無能力者の相手方が訴えを提起する場合のための規定であるが、訴訟無能力者が訴えを提起する場合にも類推適用され、彼の側で特別代理人の選任を申し立てることができる(通説)。

 ()訴訟無能力者を被告とする訴えで訴状に法定代理人が記載されていないものについては、さらに次のように場合分けされる([中野*1994a]84頁以下参照)。
  1. 訴状審査の段階で、訴状の記載内容から被告の無能力が明らかになる場合には、裁判長が訴状補正命令を発し、補正されなければ訴状を却下する(137条)。
  2. 訴状が被告に送達された後で被告が訴訟無能力者であり、被告自身が訴状を受領した事実が判明すれば、裁判所は、原告に対して補正を命ずる。この補正は、140条にいう不適法な訴えの補正であり、34条1項による補正ではない[19](34条1項の補正命令の名宛人は、補正されるべき訴訟行為をした者である。もし34条1項による補正命令を発するとすると、訴訟無能力者である被告に対して発することになるが、それは妥当でない。下記3参照)[20]。補正を命じられた原告は法定代理人を探索するか、急を要する場合には35条により未成年者・成年被後見人のために特別代理人の選任を申し立てる。その上で、原告は、訴状の必要的記載事項である法定代理人の記載を補正する。訴状の送達に瑕疵があるので、被告の法定代理人がこの瑕疵を追認しなければ、訴状の送達をやり直すことにより補正する[35]。
  3. 上記2の場合に、裁判所が34条1項により被告に補正を命ずる(訴状の送達の点について追認するよう命ずる)ことができるかについては、肯定説と否定説とがある。原則としては、否定説をとるべきであろう[3]。特に、送達の時から間もない時期に上記2の事実が判明した場合は、そうである。ただ、それでも審理がある程度進んだ段階で上記2の事実および訴訟無能力者自身が訴訟手続を追行してきたことが判明したときには、訴訟無能力者に対する補正命令も許されるとすべきであろろう。ただ、その補正命令においては、法定代理人による追認は義務でないこと、追認がなされなければ、原告に対して補正命令を発すること(したがって、送達の段階から訴訟手続をやり直すこと)が十分に教示されるべきである。

6.6 外国人の訴訟能力

外国人の訴訟能力は、民訴28条・法適用法4条1項により、外国人がその本国法により行為能力を有すれば日本でも行為能力を有し、従って訴訟能力も有する。これに該当しない場合でも、日本法によれば訴訟能力を有すべきときは、訴訟能力者とみなされる(33条。なお、法適用法4条2項参照)。

7 意思能力


訴訟行為が有効になされるためには、行為者が自分の行為の意味を理解していること、すなわち意思能力を有していることが必要である。意思能力のない状態でなされた訴訟行為は、無効である。

7.1 意思能力の有無の判定基準

意思能力の有無は、問題となる訴訟行為が行為者にもたらす不利益の重大性との相関関係において判断される。
最判昭和29.6.11民集8−6−1055 [百選*1998a]51事件
事実の概要  Xが提起した訴えに精神能力12才程度のYが訴訟代理人を通じて応訴した。Y敗訴の一審判決に対して、Yが控訴を提起した。その後、Yは事実上の監護者であるDと喧嘩し、Xの訴訟代理人の勧めに従って控訴を取り下げた。その直後にYに準禁治産宣告(現:保佐開始の審判)がくだされ、Dの夫Eが保佐人に選任された。こうした事情をもとにYの訴訟代理人が控訴取下げの無効を主張した。控訴審は、控訴の取下げの無効を認めた。

これに対してXが、精神能力の欠如のゆえに控訴取下げが無効なら控訴提起も無効のはずであると主張して、上告した。
判 旨   Xの精神能力は12、3才の児童に比せられる程度にすぎず、しかも、その控訴取下げは姉D夫婦や訴訟代理人に相談せずになされたこと、そのためYは、控訴取下げによって前記のごとき重大な訴訟上並びに事実上の結果を招来する事実を十分に理解することができず、控訴取下げの書面をもって、漠然Xに対する紛争の詫状程度に考え、本件控訴取下げをなしたものであると認められることから、Yのなした控訴取下げは意思無能力者のなした訴訟行為にあたり、その効力を生じないものと解すべきである。これに反して、控訴の提起自体は、単に一審判決に対する不服の申立てにあたるにすぎず、かつ敗訴判決による不利益を除去するための自己に利益な行為である関係上、Yにおいてもその趣旨を容易に理解し得たものと認められるから、本件控訴の提起を有効な行為と解することは妨げられない[8]。

7.2 意思能力を欠く者に対する訴え提起(35条の類推適用)

原則  法定代理人のいない意思無能力者に対して訴えを提起しようとする者は、35条の類推適用により特別代理人の選任を申し立て、特別代理人を意思無能力者の代理人として訴えを提起することができる。
離婚訴訟の場合  精神病にかかった配偶者に対する離婚の訴えについては、35条の類推適用は認められない。35条の特別代理人はその訴訟限りの臨時の法定代理人たる性質を有するものであって、離婚訴訟のように人の一生に生涯を通じて重大な影響を及ぼすべき身分訴訟については、同条の適用はない。精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にあって未だ成年後見開始の審判を受けない者に対して離婚訴訟を提起しようとする夫婦の一方は、まず他方に対する成年後見開始の審判を得て、人訴14条により成年被後見人の後見監督人または成年後見人を被告として訴えを提起すべきである(最判昭和33.7.25民集12-12-1823・[百選*1998a]52事件)。

目次文献略語
1998年6月21日−2018年6月17日