関西大学法学部教授  栗田 隆

民事訴訟法講義「当事者2」の注


注1 被保佐人・被補助人の上訴あるいは附帯上訴について保佐人・補助人の同意が必要であるかについては、次のように考えたい。

  1. 附帯上訴は同意なしに許される([兼子*1986a]130頁(新堂)、[伊藤*民訴v4.1]128頁)。
  2. 被保佐人・被補助人が原告となって訴えを提起するにあたって、特に審級を限定されなければ、同意は上訴審にも及び([伊藤*民訴v4.1]128頁)、被保佐人・被補助人は特別の同意なしに上訴を提起することができる。55条2項3号で上訴の提起が特別委任事項とされているのに対し、32条2項では、特別授権事項に入れられていない点に注意。
  3. 上記2のことを考慮すると、被告として訴えられたため同意なしに訴訟追行できる被保佐人・被補助人は、その防御の延長として、同意なしに上訴もできる([百選*1998a]105頁(山本))。
  4. 他方、被保佐人・被補助人が訴えを提起するにあたって保佐人等が審級を限定して同意を与えた場合には、その同意の趣旨を尊重して、追加の同意がない限り、被保佐人等は上訴を有効に提起できないとすべきである。もっとも、3とのバランスからすれば、不利益変更禁止の原則により第一審判決より不利益な判決を受ける可能性が少ないことは、自ら訴えを提起した場合でも、相手方の訴えに応訴した場合でも変わりがないのであるから、同意を不要としてよいようにもみえる。しかし、それでも、一部勝訴一部敗訴判決に上訴する場合には、相手方が附帯控訴をなすと被保佐人・被補助人が控訴審において一審判決より不利益な判決を受ける危険性がある。保佐人・補助人が、この点ならびにその他のことを考慮して上訴の提起に同意するか否かを決定する権限を留保するために、審級を限定して同意を与えることは、尊重されるべきである。全部敗訴判決に対する上訴の場合でも、訴訟費用等のことを考慮すると、保佐人・補助人の同意が必要である。
  5. 原告が能力の制限受ける前に訴えを提起し、訴訟係属中に保佐開始の新版等を受けた場合には、訴訟手続は中断しないが(124条1項のいずれにも該当しない)、上訴の提起については、保佐人等の同意が必要である([伊藤*民訴v4.1]128頁)。保佐人等は、被保佐人等の判断能力を勘案して、控訴・上告を含めて包括的同意を与えることも、各上訴に限定して同意することもできる。
  6. 他方、被告が訴訟係属中に保佐開始等の審判を受けた場合には、3とのバランス上、保佐人等の同意なしに上訴を提起することができる。

注2 ()否定説は、組合と社団との差異を強調し、次のように説く。

)肯定説は、次のことを論拠とする。

注3 肯定説:[中野*1994a]85頁、[中野=松浦=鈴木*1998a]95頁[本間]。否定説:[斎藤=小室*1991a]81頁[小室=大谷]。

この場合に、被告に補正を命ずることは、被告に追認を命ずることになる。補正命令には必ずしも従う必要はないとはいえ、それでも命令という形式で出る以上、命令を受けた者がその命令に従うべきであることが前提になり、この場合の無能力者にはその前提が欠ける。なお、訴訟が訴訟無能力者側に有利に進行している場合には、相手方の訴え提起行為の瑕疵の除去のために本条の補正命令を発することも許されると考えてよいようにも見えるが、訴訟の成否の判断は難しいので、補正命令の段階では無能力者に有利と見えても、最終的には敗訴となる場合があり得ること、無能力者の側には自発的に34条2項の追認をなす余地があることを考えると、相手方の訴え提起行為の瑕疵の除去のために34条1項の補正命令をなすべきではない。追認は義務でないこと、追認がなされなければ、原告に対して補正命令を発することを十分に教示したうえでの補正命令(実質は、「追認のお願い」)であるならば、それは許容してよいであろう。

注4 [上田*1998a]91頁、[伊藤*民訴v4.1]122頁、[兼子*1967a]111頁、[新堂*1998a]123頁、広島高(松江支)判昭和52.1.26判時841号3頁(入会団体固有の総有権としての入会権の確認請求を認めた)。

注5 最判昭和47年6月2日・民集26巻5号957頁、[兼子*1967a]111頁。

注6 なお、この場合の取扱いについて、次のように見解が分かれている。

  1. 控訴審補正説  控訴審自身が補正を命じ、補正されなければ原判決を取り消して訴えを却下すべきであるとする説。飯倉一郎[注釈*1991a]473頁。控訴審は原判決を取り消して訴えを却下しなければならないとする見解([中野*1994a]85頁)もこれに含めてよいであろうか。
  2. 第一審補正説  控訴審は原判決を取り消して、事件を第一審に差し戻し、第一審が補正を命ずるべきであるとする説。[新堂*1998a]134頁、山本弘[百選*1998a]105頁、[伊藤*民訴v4.1]131頁注48。
  3. 選択説  原審に差し戻して補正の機会を与えるか、自ら訴えを却下すべきであるとする説。[上田*1997a]101頁。

控訴審補正説に対しては、これでは訴訟無能力者の審級の利益が守られないとの批判がなされている([伊藤*民訴v4.1]131頁注48)。しかし、この点は次のように反論できよう:これまでの訴訟追行の結果が訴訟無能力者に不利な場合には、法定代理人は、追認を拒絶のうえ、必要ならば新たに訴えを提起すればよい;それでは時効が完成して訴訟無能力者が不利になる場合もあるが、それは法定代理人が適時に訴えを提起しなかったことの結果である;法定代理人のいわば怠慢による不利益(時効の完成)を免れつつ、相手方にはこれまでの訴訟追行の結果を無駄にするという負担を押しつけることは不当である。

第一審補正説にあっては、「追認はこれまでの訴訟行為について一括的にしなければならない」との原則をこの場合にどのように適用するかが問題となる。(α)この原則を厳格に貫けば、控訴審補正説と大差がないことになる。他方、(β)308条2項により第一審の訴訟手続が取り消された結果、訴え提起の当初の段階にもどって追認することができるとすれば、第一審の途中で補正を命じられた場合と比較して有利になり、相手方の負担が大きくなる場合がある。

迷うところであるが、訴訟無能力者の保護のために、第一審補正説をとって、(β)の選択肢をとってよいであろう。

注7 訴訟無能力者が作成した訴状に法定代理人の記載が欠けている場合に、訴状審査にあたる裁判長が137条により補正を命ずることは意味がない。この補正命令に応じて訴訟無能力者が訴状に法定代理人の名前を付加したところで、訴訟無能力者が訴訟行為をしていることに変わりはなく、やはり不適法な訴えであり、裁判所が34条により補正を命ずることになるからである。最初から34条により補正を命ずるべきである。

注8 このように、個々の訴訟行為ごとに意思能力の判断をなすのであれば、「意思無能力者の控訴取下げ」といった表現は適当ではなく、「控訴取下行為について意思能力を欠いていた」というべきである。しかし、そうした判断枠組みを採用するよりも、「意思能力を有しない者の行為は、彼の利益を害するおそれがあり、また手続の安定のために原則として無効とされるが、彼の利益を擁護するために必要な行為は、その行為をなすことについての意思能力の有無を問題にすることなく、個別的に有効とされる」と考える方がよいであろう。

注9 実例として、次のものがある(当事者能力が争われた例ではない)。

権利能力のない団体が当事者になることが法令において予定されている例として、次のものがある。

建物の区分所有者の団体は、団体性が強い(区分所有法3条・25条以下・30条以下)。しかし、管理組合法人の制度が別途用意されていること(47条以下)、管理者は「区分所有者のために原告または被告となることができる」と規定されており(同25条4項)、この場合には任意的訴訟担当になることを考慮すると、区部所有者団体に民訴29条が適用される場合というのは、それほど多くないであろう。

注10 相殺の抗弁については、防御方法の側面を重視するか、既判力が発生する事項であることを重視するかにより、見解は分かれよう。次の理由により、保佐人・補助人の同意が必要であると考えたい。

注11 [高橋*重点講義・上v2]195頁注13、[伊藤*民訴v4.1]126頁注37(127頁)。

注12 管理されるべき財産がないために権利能力なき財団に該当しないとされた事例として、次のものがある:東京地方裁判所 平成11年7月23日 民事第47部 判決(平成11年(ワ)第5725号)

注13 当事者能力のない原告が請求を放棄しても放棄は効力を生ぜす、訴えを却下すべきである(東京地方裁判所 平成11年7月23日 民事第47部 判決(平成11年(ワ)第5725号))。

注14 実例として、次のものがある。

注15 執行の段階では、民執法20条により民訴29条が準用され、社団はこれらの請求権について執行当事者能力を有する。執行当事者適格に関しては、「社団に引き渡せ」との判決については、民執法23条1項1号により執行債権者になることに問題はない。「構成員ABC・・・に引き渡せ」との判決の場合には、訴訟担当者の延長としての執行担当者として申し立てることになるが、債務名義に表示された当事者であるので、民執法23条1項1号により執行当事者適格を有する。

注16 構成員全員が抵当権者となる場合には、被担保債権は、当事者の合意による不可分債権(民428条)になると考えてよいであろう。不可分債権であれば、訴訟担当理論などを用いなくても、各債権者は単独で総債権者のために全部の給付を請求し、訴えを提起することができる(民428条)。

注17 いずれの場合にも、行為能力の基礎となる労働契約の締結等について父母あるいは法定代理人の同意が必要であり、その同意は当該未成年者の判断能力が十分であると判断される場合に与えられると期待することができる。営業について6条、労働契約について5条参照。なお、労基法58条1項は、労働契約は未成年者の自発的意思に基づき未成年者自らが締結すべきものとしているが、これは労働契約の契約の締結について法定代理人の同意が必要であることを排除する者ではない(幾代通[注釈*1989]24頁)。

注18 「単独で」を概念規定に含める教科書として、次のものがある:[新堂*新民訴v2] 126頁、[高橋*重点講義v2] 162頁、[梅本*民訴] 110頁。他方、これを概念規定に含めない教科書として次のものがある:[中野=松浦=鈴木*2004a] 97頁(本間靖規)、[伊藤*民訴v4.1]125頁 (「訴訟能力は、その者の名において訴訟行為をなし、または訴訟行為の相手方たりうる能力を意味する」という個性的な定義であるが、趣旨は同じ)、[松本=上野*民訴法v2] 169頁、[小山*民訴v1.5]106頁。

注19 [中野*1994a]85頁、[兼子*1986a]134頁。

注20 もっとも、34条1項にのみに言及し、140条に言及しない文献もある:[高橋*重点講義v2] 165頁、[中野=松浦=鈴木*2004a] 102頁(本間靖規)。訴訟無能力者である被告の法定代理人を訴状に記載することなく訴えを提起した原告に対して34条1項により補正を命ずることができるという趣旨を含むのか、訴訟能力を欠いたまま自ら訴状を受領した被告に対して訴状受領の点について補正を命ずるという趣旨に止まるのかは、明瞭ではない。

注21 最判昭和39.10.15民集18-8-1671頁は、権利能力のない社団として認められるためには、原則として次のことが必要であるとしている。

  1. 団体としての組織を備えていること
  2. 多数決の原理が行われていること
  3. 構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続すること
  4. 代表の方法、総会の運営、財産の管理等、団体としての主要な点が確定していること

しかし、29条の適用を受けるためには、この全部が充足されることは必ずしも必要ではない。

なお、aの要件を敷衍すれば、意思決定機関が存在し、意思決定に関与すべき構成員が存在することが要件となる。東京地方裁判所 平成11年7月23日 民事第47部 判決(平成11年(ワ)第5725号)は、社団の意思決定に関与すべき者が構成員であり、その構成員が存在しないので権利能力なき社団に該当しないとされた事例である。

団体の構成員からなる総会が団体の基本的事項に関する意思決定機関となり、総会は少なくもと毎年1回は開くべきであるが、実際には総会が形骸化してしまい、中には10年以上にわたって総会の開かれないまま数年ごとに入れ替わる構成員から年会費を徴収し、それを固有財産にして、活動を続けている団体もあろう。そのような団体が、構成員の一部からなる評議員会といった機関の意思決定に基づいて行動している場合に、その団体の構成員を民訴29条の視点からどのように捉えるかが問題となる。数年ごとに入れ替わる構成員は、言ってみれば団体の顧客であり、本来の意味で構成員といえるか疑問があるが、その点は脇に置くならば、次のように言うことができる。構成員といっても、現実の権限行使の可能性の点から見れば多様であることを承認し、現実に行使できる権限に応じて構成員の対外的責任も異なることを前提にして、団体内部の一定範囲の者が意思決定に参加する制度(例えば評議員会)が用意され、その制度が現実に機能していればbの要件は充足されると考えてよいであろう。

規約上は、意思決定機関とそれに参加することのできる構成員が規定されていても、現実には構成員による総会はもちろん、構成員の一部の者による評議員会も機能しておらず、代表者の一存で団体の意思決定がなされている場合には、どのように理解すべきであろうか。その団体に代表者の個人財産から区別されるべき固有財産があり、その財産を巡る訴訟においては、その団体は、社団と言うよりむしろ代表者を管理者とする財団というべきであろう。代表者の個人財産から区別される財産もなければ、29条の適用は否定される。法人税法2条8号の「法人でない社団又は財団」に関する事例であるが、最高裁判所 平成16年7月13日 第3小法廷 判決(平成12年(行ヒ)第32号,33号,34号)参照。

注22 代表者が当事者(団体構成員のための訴訟担当者)となって、自己への登記を求めることも認められる。最判昭和47.6.2民集26-5-957・[百選*1998a]42事件。

注23 もっとも、29条を離れて言えば、法人でない社団についてその代表者を構成員の訴訟担当者とすることは可能であり、また、法人でない財団について、破産財団の場合と同様に(破産法80条)、管理人を当事者とすることは可能である。この場合でも、代表者または管理人は、自己の固有の財産について当事者となっている場合とは区別されるべきであり、その資格(社団の代表者、財団の管理者)である旨が明示されるべきである。したがって、訴状における当事者の記載の外形は、社団・財団が当事者となる場合と基本的に同じとなろう。

注24 小室=大谷[注解*1991a]81頁、[中野*1994a]83頁。未成年者が訴訟行為をした場合でも、補正命令は法定代理人ではなく、未成年者に発せられるべきであるとされている。

注25 この不備は補正不能な不備ではないので、140条の適用はなく、裁判所は口頭弁論を開いて訴えを却下すべきであると解されている([菊井=村松*1984a]272頁、小室=大谷[注解*1991a]81頁)。

 ただし、口頭弁論を開く意味は、訴えの適法性について当事者双方の言い分を聞く点にあり、原告の訴訟能力について被告の言い分を聞く必要があるとは思われず、原告の言い分を補正命令の手続(決定手続)の中で聴くだけでは不十分であるとも思われず、補正命令に応じない原告のためにさらに口頭弁論を開いて補正の機会を与える必要があるかは、疑問なしとしない。

注26 その間に時効期間が完成した場合には、未成年者に不利益が生ずる。これは法定代理人が財産管理・権利行使を怠った結果と割り切らざるをえない。とは言いつつも、そうした事態はできるだけ避けた方がよく、裁判所は未成年者に補正の意味を十分に説明するのが好ましく、必要な場合であれは、裁判所が法定代理人に連絡することも許されよう。ただし、それは裁判所の義務ではない。

注27 母法のドイツにおける当事者能力の概念の生成を、普通法の時代からドイツの特殊事情を十分に考慮しながら丹念に辿った労作として、[名津井*1998a]=名津井吉裕「ドイツにおける当事者能力概念の生成(1・2完)」(民商法雑誌119巻2号233頁−267頁、3号390頁-424頁)がある。

注28 [注釈*1991b]199頁以下(溜池)。[伊藤*1998a]は、この結論を、民訴28条と法例3条(現在の法の適用に関する通則法4条)により説明する。しかし、伝統的には、法例3条は行為能力に関する規定であり、権利能力に関する明文の規定は法例にはないと理解されている([折茂*1972a]2頁・23頁参照。現行の法の適用に関する通則法4条では、旧来の「能力」に代えて「行為能力」の語が用いられているので、この点について異論の余地はない)。

注29 法人の成立時期は、多くの法律において、設立の登記をした時とされている(例:会社法49条(商旧57条)、特定非営利活動促進法13条1項、一般法人法22条)。これに対して、民法では、かつては、公益法人は主務官庁の許可をもって成立し(民法旧34条)、法人設立の登記は対抗要件とされているにすぎない(民法旧45条2項)とされていた。また、特別法により法人が成立する場合には、特定の規定の施行の時に法人が成立するとされることもある(例えば、国立大学法人は、国立大学法人法附則3条により整備法2条の施行の時に成立する)。

注30 財団が設立される際に作成される基本約款(基本規定)は、現在では社団の場合と同様に「定款」と呼ばれるが(一般法人法152条1項)、かつては「寄附行為」と呼ばれていた。

注31 これの設立上の問題につき、次の文献を参照。[初谷*2001a]=初谷勇「NPO政策と行政裁量──公益性の認定をめぐって──」(The Nonprofit Review vol.1, No.1 (June 2001) pp27-40)

注32 法人の根拠法は、多数にのぼる。アトランダムにはなるが、比較的一般性のあるものを挙げておこう。

次のものは、専門職の組織化のために認められた。

次の名称の法人の根拠法令は、廃止された。

注33 胎児の間の権利能力については、(α) 権利能力を肯定しつつ死産を解除条件とする解除条件説、(β)胎児の間の権利能力を否定しつつ生きて生まれた場合に受胎の時点に遡って権利能力を認める停止条件説とが対立している。大判昭和7年10月6日民集11巻20号2023頁(判例民事法昭和7年度159事件(穂積重遠))は、停止条件説をとっている。しかし、特に証拠保全や保全処分の申請、さらには破産債権の届け出の必要がある場合のことを考慮すると、解除条件説をとるべきである([高橋*重点講義v2]148頁、[内田*民法4]337頁)。なお、大判・前掲は、胎児の父方の祖父が加害者と和解して和解金を受領した場合に、その和解の効力が胎児に及ぶことはなく、出生した子は祖父のした和解契約にかかわらず賠償金を請求することができるとしたものである。これを、法定代理人となるべき者による裁判上の権利行使をも否定する趣旨と理解するのであれば、判例の射程距離の広げすぎであろう(穂積・前掲は、出産後に法定代理人が和解した場合とのバランスを欠くと批判しつつ、「立法論としては胎児のための代理制度が問題となり得る」とする)。

注34 平成15年人訴法は、この考えに立って立案されている。法務省民事局参事官室「人事訴訟手続法の見直し等に関する要項中間試案の補足説明」(法務省のサイト)参照。ただ、旧法下については、この点について争いがあり、意思能力の判定が必ずしも容易でないこと、精神状態が変動することを考慮すると、手続の安定のために、成年被後見人の訴訟能力は否定すべきであるとする見解も有力であり、この講義も従来はこの立場に立っていた。

注35 2004年9月3日以前には、「追認が得られなければ、送達が有効になされていないことになり、訴えは却下されるのが原則である(140条)」と記述していたが、送達のやり直しにより瑕疵を除去することができるのであるから、本文のように改める。

注36  入会団体との関係では、次の規定も参照:地方自治法260条の2、入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律(昭和41年7月9日法律第126号)。

注37  かつては、公益に関する社団・財団で営利を目的としないものは主務官庁の許可を得てこれを法人とすることができると規定されていたことがあり(民法旧34条)、登記前の法人も存在していた。

注38 この命題との関係で「権利能力なき社団」の表現を用いると、混乱が生じやすい。この表現を使用すると、先ほどの命題は、「権利能力なき社団は、一定の範囲で権利義務の主体となる資格を有する」と書き換えられ、それ自体が自己矛盾の表現になるからである。この点からすると、民事訴訟法が「法人でない社団」という表現を用いていることは、配慮に富んでいる。この表現を前提にすると、次の説明が可能になるからである:権利能力を有するのは、自然人及び法人であるが、その外に、法人でない社団又は財団のうちで一定範囲のものも、一定範囲で権利能力を有する(権利義務の主体となりうる)。

注39 合名会社につき会社法576条2項、合同会社につき同条4項。[神田*2006a]36頁。株式会社について37頁参照。

注40 本文前掲の東京高判昭和47年は、労音の納税義務の責任財産を労音の構成員に総有的に帰属する財産と解している。

注41 平成30年民法改正前には、成年となる年齢が20歳とされ、かつ、婚姻適齢が男は18歳・女は16歳とされていて(民法旧731条)、これを前提にして、婚姻による成年擬制制度(民法旧753条)があった(改正法が施行される前日の令和4年3月31日までは、この制度は存続する)。それは、次のことを根拠とするものであった:未成年者の婚姻については父母の同意が必要であり(民法旧737条)、父母は未成年者が独立して家庭を営むのに足る判断能力(訴訟追行の判断能力を含む)を有するから婚姻に同意した、と考えることができる。

同改正(施行は2022年(令和4年)4月1日)により、成年となる年齢が18歳に引き下げられ、婚姻適齢が男女とも18歳にされた。この結果、成年擬制制度は不要となり、廃止された([笹井=木村*2019a]58頁)。