関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法講義「当事者2」
の比較法メモ


1 権利能力を有しない団体の当事者能力

ドイツ法 権利能力のない社団(Verein)は、被告能力のみを認められ、当該争訟においては権利能力のある社団と地位につく(50条2項)。[名津井*1998a]3号408頁以下によれば、原告能力を否定した理由は、ビスマルクの社会主義者鎮圧法に代表される当時の政府の「団結・結社に対するアレルギー」にあり、労働組合や政党の弱体化を狙ったものである。すなわち、労働組合等が構成員に対して会費等の支払を求めて訴えを提起することを不可能にしつつ、脱退者が持分の払戻請求の訴えを提起したり、除名された者が除名処分の不当を理由に損害賠償請求することを可能にするという政治的意図が秘められていたとのことである。結社の自由を承認している基本法のもとでの解釈につき、[名津井*2000a]参照。

2 

もっとも、権利能力のない団体について原則として被告能力のみを認めるドイツ法においては、その団体は原告となることができず、構成員全員を原告とする必要があるが、構成員全員を当事者として列挙することが実際上困難である場合に、構成員全員の列挙に代えて団体を当事者として記載した訴え(全体名称による訴え)が許されるかが議論されている([名津井*2000a]2号253頁以下・3号389頁以下参照)。当事者能力を広く認める日本法では問題とする必要はあまりないが、団体名で提起された訴えの意味を理解する上で有益な議論である。

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ドイツにおいては、長らく、民法上の組合と社団とが峻別され、組合は構成員間の契約関係に過ぎないとして、権利能力も当事者能力もないとする見解が支配的であった。しかし、2001年の連邦大審院の判決により、民法上の組合も取引に加わる場合には権利能力もつことが認められ、当事者能力も肯定されたとのことである([福瀧*2004a]=福瀧博之「ドイツ法における民法上の組合の権利能力(1)−−BGHの判決とKarsten Schmidtの見解−−」関西大学法学論集54巻1号(平成16年5月)5頁以下)。

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明治23年民訴法は、当事者能力に関する直接の規定を欠いていた。ただ、裁判籍に関する10条・14条の規定が次の者の当事者能力を示していた([雉本*論文集1]26頁)。

なお、明治23年法45条1項は、訴訟能力や訴訟代理権が職権調査事項であることを明規していたが、同項にも当事者能力は挙げられていない。