民事訴訟法講義
上 訴 3関西大学法学部教授
栗田 隆 |
一般に、不服を申し立てられている裁判を原裁判と言い、原裁判をした裁判所を原裁判所という[7]。抗告状、再抗告状は、それぞれの原裁判所に提出してする。訴状却下命令のように、裁判長のした裁判について不服が申し立てられる場合には、その裁判長の所属する裁判所が抗告状の提出先たる原裁判所となる。
原裁判所による却下
原裁判所は、抗告が不適法でその不備を補正することができないことが明らかなときは、その抗告を却下しなければならない(331条・287条1項)。この決定に対しては、即時抗告をすることができる(331条・287条2項。ただし、高等裁判所の却下決定に対しては、特別抗告または許可抗告以外は許されない)。
原裁判の執行停止
判決と異なり、決定や命令は告知により内容的効力まで生ずるのが原則である(119条はこの趣旨である。規定の位置(判決の内容的効力である既判力に関する114条・115条の後にこの規定があること)にも注意)。決定の中には、通常抗告に服するものが多々あり、これらについては確定を観念することができないので、即時抗告に服する裁判を含めて一律に告知の時に内容的効力が生ずるとの原則が取られたのである([鈴木*1998c]314頁参照)[10]。これを前提にすると、重要な裁判については、抗告期間を制限すると共に、その期間内に抗告があれば、内容的効力を停止させるのが合理的である。そこで、即時抗告のみが執行停止の効力を有するものとされた(334条1項[11][13])。
通常抗告については、抗告について決定があるまで原裁判の内容的効力を停止するか否かは、抗告裁判所や原裁判をした裁判所または裁判官の裁量に委ねられている(334条2項)。抗告裁判所等は、執行停止のほか、その他必要な処分をすることができるが、これについては、398条1項柱書本文および399条が類推適用されるべきであろう。
事件の送付
原裁判所は、自ら更正する場合、あるいは331条・287条により却下する場合を除き、すなわち、抗告を理由がないと認めるときは、意見を付して事件を抗告裁判所に送付する(規則206条)[14]。すなわち、原裁判機関(裁判所または裁判長)が意見書を作成し、それと抗告状ならびに事件記録を原裁判所の裁判所書記官が抗告裁判所の裁判所書記官に送付する(規則205条・174条)。事件は、これらの書類が抗告審に送付されたときに、抗告審に係属する。
抗告審における審理
抗告については、決定で裁判がなされるので、口頭弁論を開くか否かは、裁判所が決定する(87条1項ただし書)。口頭弁論を開かない場合には、抗告人その他の利害関係人を審尋する(335条)[4]。この審尋は、口頭弁論に代わる審尋である。利害関係人は、裁判所の指揮に従いつつ、自己の主張をなし、相手方の主張を聞いてこれに反論し、自己に有利な証拠を提出することができ、また、裁判所が参考人等を審尋するときには立会権を有する。
口頭弁論を開かない場合の抗告審における審理の方法は、基本的に原審における審理の方法と同じである。(α)裁判所は、適当と認める方法で抗告人およびその他の関係人の主張を聴取することができる。ただ、相手方のある事件については、抗告事件の当事者と裁判所とが情報を共有しながら審理を進めることが望ましい(当事者公開)。特に必要ないと認められる場合を除き、審尋期日に当事者双方を呼び出して審尋するか、又は書面審尋の場合には、一方の提出した書面を相手方に送付させるべきである。(β)抗告裁判所は、187条の規定により、抗告人その他の利害関係人を当事者として審尋し、その他の者を参考人として審尋することができる[5]。この審尋は、相手方がある事件においては、当事者双方が立ち会うことのできる期日に行わなければならない(187条2項)。
審理の範囲は、抗告審の当事者が変更を求める範囲に限られる(331条・296条)[12]。
抗告審の裁判
抗告が不適法である場合には却下する(331条・290条)。抗告は適法であるが、理由がない場合には(原裁判を変更する必要がない場合)には、棄却する(331条・302条。なお、かつては「棄却」に代えて「却下」の語が用いられることもあったが、現在では、抗告についても、「却下」と「棄却」を上記のように使い分ける傾向にある。ただし、この使分けが確立しているというわけではない)。原決定が不当な場合には、不服申立ての範囲で、原裁判の取消しおよび変更をする(331条・304条)。
337条は、民事執行法20条、民事保全法7条、破産法13条、民事再生法18条、会社更生法13条を通じて、これらの法領域にも準用される[6]。
手 続
手続は、多数の準用規定により規律されているので、最初に準用規定を一瞥しておこう。
原裁判に不服のある関係人は、抗告許可申立書を、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内に、原審である高等裁判所に提出しなければならない(申立手数料については、民訴費用法別表第1の18項参照)。必要的記載事項は、当事者および法定代理人、対象となる裁判に対して抗告の許可を申し立てる旨である(337条6項・336条3項・327条2項・314条1項・313条・286条2項)。抗告許可の申立ての理由は、抗告許可申立書に記載することができるが、記載しない場合には、理由書提出期間(規210条2項により抗告許可申立て通知書の送達を受けた日から14日)以内に原裁判所に提出しなければならない(337条6項・315条)。申立理由は、原裁判が最高裁判所の判例(これがない場合には、大審院又は上訴審としての高等裁判所の判例)と相反する判断があること、その他法令の解釈に重要な事項が含まれていることである。前記の先行判例と抵触することを主張するときには、その判例を具体的に示さなければならない(規209条・192条)。憲法違反は、特別抗告の方法により主張すべきであり、許可抗告の理由とすることができない。もっとも、同一の裁判が、憲法違反と(下位の)法令違反の双方を含む場合には、特別抗告を提起するとともに、抗告許可を申し立てることができる。この場合には、一方で申立て手数料を納付すれば、他方の関係でも納付されたものとみなされる(民訴費用法3条3項)。また、同一の事由が抗告人から見れば憲法違反に当たるが、最高裁がそのようには判断しない虞がある場合には、当該事由を憲法違反として特別抗告を提起すると共に、下位の法令の違反として許可抗告を申し立てることも許される。
特別抗告と許可抗告とを一通の書面に記載すること(兼用抗告)は、許されない(規209条において準用規定として188条が挙げられていないのは、この趣旨である)。許可抗告は、抗告が許可されない場合に、特別抗告と運命を異にすることになるからである。
抗告許可申立書が提出されると、原裁判所の裁判長が、申立書を審査し、必要的記載事項の記載が欠ける場合には、命令で却下する(337条6項・313条・288条)。さらに、原裁判所が抗告許可申立ての適法性を審査し、不適法であれば、決定で却下する。適法であれば、337条2項所定の許可理由を具備する場合には、抗告を許可し、許可があった時に許可申立てに係る抗告があったものとみなされる(337条4項)。許可に際して、高等裁判所は、重要でない理由を排除することができる。高等裁判所は、相手方がある事件については、抗告許可申立書・抗告許可決定書を相手方に送達する(337条6項・313条・289条、規209条・189条)。原裁判所は、最高裁判所に事件を送付する(規209条・208条・204条・197条)。
最高裁判所は、高等裁判所が排除しなかった理由についてのみ調査の義務を負うが、それ以外の理由でも職権で調査することはできる。調査の結果、裁判に影響を及ぼすべき明らかな理由がある場合には、原決定を破棄し、必要に応じ自ら裁判するか、事件を原審に差し戻す。
執行停止
特別抗告の場合と同様に、許可抗告にも原裁判の執行を当然に停止する効力はないが、最高裁判所または原裁判をした裁判所・裁判官は、原裁判の執行停止その他の必要な処分を命ずることができる(337条6項・336条3項・334条2項)。