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民事訴訟法講義

上 訴 3


関西大学法学部教授
栗田 隆

4 抗 告


4.1 概 説

抗告の意義
判決手続の中で生ずる様々な問題について、事件の係属している裁判所またはその裁判官は、決定あるいは命令により裁判をなす。それらの多くは終局判決に至る過程で生ずる派生的問題についての裁判であり、終局判決に至る前に不服申立ての機会を与えて解決しておく方が好ましい;それらの中には、終局判決に至ることなく受訴裁判所における訴訟手続を終了させるものもある。それらの裁判に対する独立の不服申立ての制度として、抗告制度が設けられている(歴史につき、[鈴木*1985c]292頁以下参照。[CL1][CL2] )。

抗告は、決定および命令に対する上訴(上級裁判所への不服申立て)である。抗告は、次の不服申立てから区別される。
異 議
受訴裁判所が略式手続によりした裁判あるいはその構成員等がした裁判・処分に対して当事者が不服を述べる場合に、受訴裁判所が正規の手続あるいは合議体で裁判するのが適当な場合がある。その場合について認められる不服申立てが一般に異議と呼ばれる。異議には、(α) 判決に対する異議の申立て(357条378条)と、(β)その他の裁判あるいは処分に対する異議の申立てまたは異議の陳述とがある。後者は、抗告との役割分担が重要であるので、例示しておこう。
職権の発動を求める申立て
訴訟指揮に関する決定・命令は、いつでも取り消すことができる(120条)。したがって、不服申立ての許されない決定・命令であっても、取消しの職権の発動を求めることは許される。ただし、裁判所は、それに応答する義務を負わない。

4.2 抗告の種類

抗告は、様々な観点から区別される。

通常抗告と即時抗告
これは、一定の不服申立期間内に提起しなければならないか否かによる区別である。不服申立期間の定めのあるものが即時抗告であり、その期間を即時抗告期間ないし抗告期間という。
民事訴訟法の領域においては、このような2本立てになっているが、破産法や民事執行法・民事保全法の領域においては、即時抗告(あるいはこれに相当する執行抗告・保全抗告)にほぼ1本化されている。そして、通常抗告と即時抗告の2本立ては、その振り分けの問題が生じやすく、また、多くの裁判は早期に確定させるのが好ましいので、即時抗告に一本化すべきであるとの立法論も有力である([鈴木*1985c]303頁、[三谷*1993a]153頁)。

最初の抗告と再抗告
これは、審級の視点からの区別である。前者は、名前の通りの抗告であり、控訴に関する規定が準用される(331条本文)。抗告に対して、抗告審が決定で裁判するが、その決定に対する抗告を再抗告という。再抗告は、上告に相当するものであり、憲法違反または明白な法令違反があることを理由とするときに限り許され(330条)、上告に関する規定が準用される(特別上告・上告受理申立てに関する規定は準用されない)(331条ただし書)。最高裁判所への抗告は、裁判所法7条の解釈として、特別抗告と許可抗告のみが許され、再抗告は許されない。したがって、再抗告は、地方裁判所が抗告審としてした決定に対して高等裁判所に更に抗告する場合に限られる。

抗告の語は、狭義では最初の抗告を指すが(331条)、広義では再抗告を含む意味で使われ(330条)、最広義では特別抗告、許可抗告も含む。

一般抗告・特別抗告・許可抗告
特別抗告・許可抗告との対比において、通常抗告・即時抗告を一般抗告と呼ぶことにする。一般抗告以外のものについては、強い制限が付されている。(α) 許可抗告は、決定で処理される事項の中にも法令の解釈上重要なものがあり、その統一が必要となっていることに鑑み、平成民訴法で新設されたものである。原裁判所である高等裁判所の決定および命令に対する不服申立てであり、原裁判所の許可により最高裁判所への抗告としての効力が生ずる。 (β)特別抗告は、一般抗告が許されない場合に、憲法違反を理由として最高裁判所にする抗告である。憲81条で認められた最高裁判所の法令審査権を確保するためのものである。

下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗告をすることを許すか否かは、審級制度の問題であって、憲法81条の規定するところを除いては、すべて立法の適宜に定めるところに委ねていると解すべきである。従って、最高裁判所への抗告を一定範囲のものに限定する許可抗告制度は、憲法31条・32条に違反しない(最高裁判所平成10年7月13日第3小法廷決定(平成10年(ク)第379号)・判時1651号54頁)。

決定・命令の確定
通常抗告に服する裁判は、取消申立てに期間制限がないので、その確定を問題にする必要はない。

他方、即時抗告に服する裁判は、即時抗告期間が徒過すると、取消手段がなくなり、確定する(当該裁判を120条により取り消す余地の有無についてはなお検討の余地があるが、しかし、120条による取消しがなされるとしても、それは事情変更を理由としてなされるべきであるから、なお、確定を語ることができる。民事執行法の領域では、確定した裁判でも事情変更を理由に取り消すことができることを認める規定は多い)。決定・命令についても116条が準用される(122条)から、即時抗告(再抗告が可能な場合の再即時抗告を含む)及び抗告許可申立てが通常の不服申立てとなり、これらにより確定が遮断され、これらの不服申立方法が尽きた時点で確定することになる。特別抗告は、特別上告に相当するものであり、確定遮断効を有しない(特別抗告にかかわらず原裁判が確定することを前提にして、裁量により執行停止の裁判がなれさる(336条3項・334条2項))。

他の法領域における抗告
民事訴訟法の規定は、民事手続法に関する一般的な規定として、民事執行法(20条)、民事保全法(7条)、破産法(13条)、民事再生法(18条)、会社更生法(13条)等の法領域においても準用される。民事訴訟法上の決定は、判決手続に付随するものであり、付随的決定と呼ばれるのに対し、他の手続の決定にはそのような付随性がないので独立的決定と呼ばれる。両者の審理方式はその性質に応じた差異が生ずる(この点を抗告審の審理について論じた文献として、[本間*1982a]参照)。民事訴訟法の抗告に関する規定は、判決手続に付随してなされる決定・命令を主眼に置いた規定であり(この点を強調する文献として、[三谷*1993a]152頁参照)、これを他の法領域に準用する場合には、相応の変容が必要な場合がある。その変容は、基本的には、各法律において特則の形で明文化されるべきであるが、場合によれば、解釈により変容されこともある[1]。

4.3 抗告裁判所

訴訟事件が係属している裁判所を受訴裁判所という(第一審であるか上訴審であるを問わない。329条3項参照)。受訴裁判所の決定に対する最初の抗告を管轄する裁判所(抗告裁判所)は、その直近上級裁判所である(裁判所法16条2号・24条4号)。抗告裁判所の決定に対する再抗告を管轄する裁判所(再抗告裁判所)は、その直近上級裁判所である。

一般に、不服を申し立てられている裁判を原裁判と言い、原裁判をした裁判所を原裁判所という[7]。抗告状、再抗告状は、それぞれの原裁判所に提出してする。訴状却下命令のように、裁判長のした裁判について不服が申し立てられる場合には、その裁判長の所属する裁判所が抗告状の提出先たる原裁判所となる。

4.4 抗告審の当事者

抗告を提起する者を抗告人と呼ぶ。原裁判の当否を抗告人と争う者を相手方という。多くの場合に相手方が存在するが、しかし、存在しない場合もある。例えば:
抗告人とその相手方をあわせて、抗告審の当事者と呼ぶことにする。これと訴訟の当事者(原告・被告等)とは、同一とは限らない。例えば、原告の申立てにより第三者に対する文書提出命令が発せられた場合に、被告は即時抗告を申し立てる利益を有せず(最高裁判所 平成12年12月14日 第1小法廷 決定(平成11年(許)第36号)・民集第54巻9号2743頁)、第三者が抗告人となり、挙証者たる原告がその相手方となる。

抗告人
抗告人となりうるのは、原裁判により不利益を受ける者、又は原裁判の取消しないし変更を求める利益を有する者である。
相手方
相手方になるのは、原裁判の取消しにより不利益を受ける者である。前述のように、相手方がいない場合もあるが、多くの場合には相手方がいる。訴訟当事者に限らず、第三者の場合もある。
抗告人とその相手方は、口頭弁論が開かれる場合には弁論をなし、証人尋問をする場合には尋問権を与えられ、参考人等の審尋が行われる場合には立会権を有する。

相手方の特定
誰を相手方にすべきかは、時に微妙な判断を伴うことがあり、その判断の誤りの責任を申立人に押しつけるのは適当ではない。客観的には相手方の存在する事件おいて、(α)抗告人が相手方を指定せずに抗告を提起した場合、あるいは (β)相手方を誤って抗告を提起した場合に、その一事でもって抗告を不適法として却下すべきではない。これらの場合には、抗告審が正当な相手方を指示し、抗告人に補正を命ずるべきである。

原審が相手方の指定を誤った場合の処理
例えば、第三者が所持する文書の提出命令申立て事件においては、当該第三者が相手方に指定されるべきであるが、原審が誤って訴訟当事者(原告又は被告)を相手方に指定した場合に、その誤りに気付いた抗告審は、当該第三者を相手方に指定し直して、手続を進めるべきである(事例として、最高裁判所 平成23年10月11日 第3小法廷 決定(平成23年(行ト)第42号)参照)。もっとも、相手方に指定するといっても、「指定の裁判」といったものがなされるわけではなく、当該手続において相手方に与えられるべき処遇(原決定の告知や審尋)を必要に応じて与えれば足りる。相手方に指定された者は、通常は、審尋の機会を与えられるが、しかし、審尋の必要がない場合もある(例えば、第三者が所持する文書の提出命令の申立て事件においては、提出を命ずる場合には第三者の審尋が必要であるが、その他の場合には第三者の審尋は必要ない。223条2項)。第三者に対して文書提出命令を発する場合に、原審が訴訟当事者を相手方とし、第三者を審尋することなく文書提出命令を発すれば、それは重大な誤りであり、331条により準用される312条2項(絶対的上告理由)4号の類推適用により、原決定を取り消して事件を差し戻すべきである。しかし、原審が第三者(文書所持者)を審尋する必要のない場合には、原審による相手方の指定の誤り自体は原決定の取消し又は破棄をもたらす違法とは言えない。抗告審は、当該第三者を相手方に指定し直して手続を進めれば足りる(抗告審が文書提出命令を発すべきであると判断するときには、第三者に審尋しなければならず、その前提として原決定の告知等が必要となる)。

補助参加人
訴訟当事者が抗告人になることができる場合には、その訴訟当事者の補助参加人も抗告を提起することができる。また、補助参加人は、自ら抗告を提起したか否かにかかわらず、抗告審において訴訟行為をなすことができる(45条1項)。ただし、宣誓をした当事者が当事者尋問において虚偽の陳述をした場合の過料の決定(209条1項)のように、属人性の強い事項についての裁判に対する抗告は、例外となる(その者のみが抗告人となりうる)。

抗告人・相手方以外の利害関係人
335条では、抗告裁判所は、口頭弁論をしない場合には、抗告人その他の利害関係人を審尋することができるとされている。この規定は87条の内容を抗告審に敷衍したものであると解されている(加波眞一[注釈*1998c]98頁)。問題は、この利害関係人の範囲をどのように解するかである。具体的な問題としては、次のような事例が考えられる。
抗告事件の多様性を考慮すると、こうした審尋の必要はさまざまな場面で生じうるので、335条の利害関係人は、抗告人とその相手方に限られず、当該裁判により影響を受け、審尋請求権を与えるのが適当な者と解すべきである(三宅=古閑[注釈*1995a]439頁)。

抗告人・相手方以外の利害関係人の地位
もっとも、どの範囲の手続権(弁論権(主張する権利、他者の主張を聞いてそれに反論する権利)、証拠提出権、証拠調べ立会権など)を認めるべきかは、裁判所の裁量に委ねてよく、抗告人と同等の地位を認める必要は必ずしもない([本間*1982a]269頁)。抗告人とその相手方は、抗告審の決定に対して再抗告や抗告許可の申立てをする適格を有するが、その他の利害関係人は、たとえ裁判所から審尋を受けても、当然にその適格を有するわけではなく、抗告の利益の視点から別途判断されるべきである。

原審における地位  335条は、抗告の対象となる決定・命令の審理手続において利害関係人を審尋することができることを前提にした規定と解すべきであり、そうでなければ首尾一貫しない。もっとも、民事訴訟においては、第一審では当事者のみが審尋の対象となり、抗告審では利害関係人も対象になるとする見解も有力である([本間*1982a]254頁)。

口頭弁論が開かれた場合の地位  任意的口頭弁論を開いた場合に、利害関係人にどの程度の手続上の権利を認めるべきかも問題になるが、基本的には、口頭弁論を開かない場合と同様に解さないと、首尾一貫しない。ただ、ここまでくると、この規定は87条を敷衍した規定と言うより、裁判所が利害関係人に裁量により審尋請求権を付与する規定となる。その解釈では条文の文言と齟齬をきたすことにならないか、迷うところである。

4.5 一般抗告

抗告の対象となる裁判
)抗告に服するのは、次の裁判である。
)抗告の許される裁判のうち一定のものは、手続の円滑な進行のために早期に確定する必要があるので、不服申立てを一定期間内になすことが要求される(即時抗告)。即時抗告の対象となる裁判は、個別に規定されている。

)他方、次の裁判は、一般抗告に服さない。
抗告の提起と抗告審の手続
最初にする抗告及び抗告裁判所の訴訟手続には、その性質に反しない限り、第1章(控訴)の規定が準用される(331条)。民事訴訟事件について準用される規定を簡単に見ておこう(309条は、民事訴訟事件については準用の余地はないと思われるが、他の事件においては準用の余地はあろう)。
準用が問題となるもの
再抗告については、第2審又は第1審の終局判決に対する上告および上告審の訴訟手続に関する規定が準用される(特別上告と上告受理申立てに関する規定は準用されない)(331条)。

抗告期間
即時抗告は、原裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間内にしなければならない[8]。即時抗告に服する裁判については、即時抗告が認められた趣旨からして、当該裁判が確定する前に基本となる訴訟手続の口頭弁論を終結するのは適当ではない。しかし、口頭弁論の終結等により抗告の利益が消滅すれば、即時抗告期間中であっても、即時抗告が許されなくなる。即時抗告期間内に提起された時点では抗告の利益があっても、その後に消滅すれば、不適法として却下される。

通常抗告については、期間制限がなく、抗告により原裁判の変更を求める利益が存在する限り、抗告することができる。もっとも、判決手続においてなされる裁判については、最初の抗告の対象となる裁判をした受訴裁判所の手続が判決の言渡しにより終了すれば、抗告の利益も消滅するのが原則である。遅くとも、判決手続全体が判決の確定により終了すれば、抗告の利益は消滅する。

抗告の利益
抗告を申し立てるには、抗告により救済されるべき自己の利益の存在が必要である。上訴の利益の一種である。抗告の利益が存在しない場合には、抗告は許されない。上訴の利益については、形式的不服説と新実質的不服説の対立があるが、ここでもその対立は続く(実質的不服説は無視してよいであろう)。

いずれにせよ、抗告の利益が認められるためには、原裁判の取消しにより自己の法的地位が改善されること、その手段として抗告が適切であることが必要である。例えば、(α) 受訴裁判所が,文書提出命令の申立てを却下する決定をした上で,即時抗告前に口頭弁論を終結した場合には,もはや申立てに係る文書につき当該審級において証拠調べをする余地がないから,この決定に対し抗告を申し立てる利益は存在せず、口頭弁論終結後にされた即時抗告は不適法として却下される(最高裁判所平成13年4月26日第1小法廷決定(平成13年(許)第2号) )。この裁判に対する不服は、終局判決に対する上訴の中で述べるべきである。(β)更正決定のなされた判決に対して適法に控訴が提起されたときには、控訴手続の中で更正の当否を争えば足りるので、更正決定に対する即時抗告の利益は消滅し、抗告は許されなくなる(257条2項)。

抗告状
抗告状には、当事者および法定代理人、ならびに、原裁判の表示およびその裁判に対して抗告をする旨を記載しなければならない(331条286条2項)。もちろん、不服申立ての範囲ならびに抗告の具体的理由を記載することができる場合には、それを記載することが望ましい(規則205条175条)。抗告状は、原裁判所に提出する(331条286条1項)。不服申立ての範囲およびその具体的理由が抗告状に記載されていない場合には、抗告提起後14日以内にこれらを記載した書面を原裁判所に提出しなければならない(規207条)。

原裁判所等による更正
一般に、裁判は、言渡しや告知により効力が生じた後では、その裁判をした裁判機関自身はその裁判を撤回することができないのが原則である。これを不可撤回性の原則という。裁判に重みをもたせるためである。ただ、決定や命令については、重要な例外が設けられている。一つは、120条の定める例外であるが、もう一つは、決定や命令に対して抗告が提起された場合には、その裁判をした裁判所または裁判長は、抗告に理由があると認めるときは、その裁判を更正することができ、またしなければならないとする例外である(333条)[2]。決定や命令については、簡易迅速な手続で判断材料が収集されるのが通常であり、対象事項との関係で判決ほどの重みを持たせる必要はなく、更正すれば抗告審の手続が節約できることを考慮して認められた例外である。この更正は、「再度の考案に基づく更正」と呼ばれることもある。抗告状の提出先が原裁判所とされたことにより、この更正の機会の確保が簡潔になった[9]。

原裁判所による却下
原裁判所は、抗告が不適法でその不備を補正することができないことが明らかなときは、その抗告を却下しなければならない(331条287条1項)。この決定に対しては、即時抗告をすることができる(331条・287条2項。ただし、高等裁判所の却下決定に対しては、特別抗告または許可抗告以外は許されない)。

原裁判の執行停止
判決と異なり、決定や命令は告知により内容的効力まで生ずるのが原則である(119条はこの趣旨である。規定の位置(判決の内容的効力である既判力に関する114条・115条の後にこの規定があること)にも注意)。決定の中には、通常抗告に服するものが多々あり、これらについては確定を観念することができないので、即時抗告に服する裁判を含めて一律に告知の時に内容的効力が生ずるとの原則が取られたのである([鈴木*1998c]314頁参照)[10]。これを前提にすると、重要な裁判については、抗告期間を制限すると共に、その期間内に抗告があれば、内容的効力を停止させるのが合理的である。そこで、即時抗告のみが執行停止の効力を有するものとされた(334条1項[11][13])。

通常抗告については、抗告について決定があるまで原裁判の内容的効力を停止するか否かは、抗告裁判所や原裁判をした裁判所または裁判官の裁量に委ねられている(334条2項)。抗告裁判所等は、執行停止のほか、その他必要な処分をすることができるが、これについては、398条1項柱書本文および399条が類推適用されるべきであろう。

事件の送付
原裁判所は、自ら更正する場合、あるいは331条287条により却下する場合を除き、すなわち、抗告を理由がないと認めるときは、意見を付して事件を抗告裁判所に送付する(規則206条)[14]。すなわち、原裁判機関(裁判所または裁判長)が意見書を作成し、それと抗告状ならびに事件記録を原裁判所の裁判所書記官が抗告裁判所の裁判所書記官に送付する(規則205条174条)。事件は、これらの書類が抗告審に送付されたときに、抗告審に係属する。

抗告審における審理
抗告については、決定で裁判がなされるので、口頭弁論を開くか否かは、裁判所が決定する(87条1項ただし書)。口頭弁論を開かない場合には、抗告人その他の利害関係人を審尋する(335条)[4]。この審尋は、口頭弁論に代わる審尋である。利害関係人は、裁判所の指揮に従いつつ、自己の主張をなし、相手方の主張を聞いてこれに反論し、自己に有利な証拠を提出することができ、また、裁判所が参考人等を審尋するときには立会権を有する。

口頭弁論を開かない場合の抗告審における審理の方法は、基本的に原審における審理の方法と同じである。(α)裁判所は、適当と認める方法で抗告人およびその他の関係人の主張を聴取することができる。ただ、相手方のある事件については、抗告事件の当事者と裁判所とが情報を共有しながら審理を進めることが望ましい(当事者公開)。特に必要ないと認められる場合を除き、審尋期日に当事者双方を呼び出して審尋するか、又は書面審尋の場合には、一方の提出した書面を相手方に送付させるべきである。(β)抗告裁判所は、187条の規定により、抗告人その他の利害関係人を当事者として審尋し、その他の者を参考人として審尋することができる[5]。この審尋は、相手方がある事件においては、当事者双方が立ち会うことのできる期日に行わなければならない(187条2項)。

審理の範囲は、抗告審の当事者が変更を求める範囲に限られる(331条296条)[12]。

抗告審の裁判
抗告が不適法である場合には却下する(331条290条)。抗告は適法であるが、理由がない場合には(原裁判を変更する必要がない場合)には、棄却する(331条・302条。なお、かつては「棄却」に代えて「却下」の語が用いられることもあったが、現在では、抗告についても、「却下」と「棄却」を上記のように使い分ける傾向にある。ただし、この使分けが確立しているというわけではない)。原決定が不当な場合には、不服申立ての範囲で、原裁判の取消しおよび変更をする(331条・304条)。

4.6 特別抗告(336条

憲法81条は、最高裁判所を憲法問題の終審裁判所として位置づけている。そこで、通常の不服申立方法では最高裁判所の憲法判断を得ることができない決定事件について、最高裁判所による憲法判断を得る道を開くために、特別抗告の制度が設けられている(特別抗告は、裁判所法7条2号の「訴訟法において特に定める抗告」にあたる)。

要 件
)最高裁判所への通常の不服申立ての道がないこと  特別抗告の制度は、通常の不服申立方法では最高裁判所の憲法判断を得ることができない場合のための制度であることから、このことが要件となる。具体的には、次の場合がこれに該当する(336条1項)。
)特別抗告理由の存在の主張  不服申立ての対象となる裁判に憲法の解釈の誤りがあることその他 憲法の違反があることを主張することが必要である。

手 続
特別抗告は、告知を受けた日から5日の不変期間内に(336条2項)、特別抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。必要的記載事項は、当事者および法定代理人、対象となる裁判に対して特別抗告を申し立てる旨である(336条3項・327条2項・314条1項・313条286条2項)。

特別抗告状が提出されると、原裁判所の裁判長が特別抗告状を審査し、必要的記載事項の記載が欠けるときには、命令で却下する(336条3項・327条2項・314条2項)。さらに原裁判所は、特別上告の適法性を審査し、不適法でその不備を補正することができない場合には、特別抗告を決定で却下する(336条3項・327条2項・316条1項1号)。問題がなければ、特別抗告提起通知書を送達する。

特別抗告の理由は、最高裁の定める方式(規則190条1項・193条)に従って記載しなければならない(336条3項・327条2項・315条2項、規則208条・204条)。理由は、特別抗告状に記載することができるが、記載しない場合には、理由書提出期間(規210条1項により特別抗告提起通知書の送達を受けた日から14日)以内に原裁判所に提出しなければならない(336条3項・327条2項・315条1項)。理由の記載に当たっては、憲法の条項、当該条項に違反する事由を、できるだけ具体的に記載しなければならない(規208条190条1項・193条)。上記の条件に従って特別抗告の理由を記載した書面が提出されないのであれば、原裁判所は、特別抗告を決定で却下する(336条3項・327条2項・316条1項2号)。ただし、特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるが,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり(後述参照),原裁判所が同法336条3項,327条2項,316条1項によりこれを却下することはできない(最高裁判所 平成21年6月30日 第3小法廷 決定(平成21年(許)第9号))。却下すべき事由がない場合には、原裁判所は、最高裁判所に事件を送付する(規208条204条197条)。

事件の送付を受けた最高裁判所は、特別抗告が不適法である場合には、決定で却下する(336条3項・327条2項・317条)。ただし、主張された理由が明らかに特別抗告理由に該当しない場合には、本来は不適法な特別抗告として却下すべきであるが、この点の評価は特別抗告人(の訴訟代理人)と裁判所との間で評価が分かれやすいので、理由が主張されていることを尊重して、却下ではなく棄却の決定をするものとされている(336条3項・327条2項・317条2項)。さらに特別抗告理由を審査して、理由がなければ、特別抗告を決定で棄却し、理由があれば、原裁判を破棄し、更に差戻等の裁判または自判をする(336条3項・327条2項・325条・326条)。

執行停止
特別抗告は、通常の不服申立てが尽きた後で憲法違反を理由になされる非常の不服申立てであり、原裁判の執行を当然に停止する効力はないが、最高裁判所または原裁判をした裁判所・裁判官は、事案に応じて、原裁判の執行停止その他の必要な処分を命ずることができる(336条3項・334条2項。336条3項では、原則として特別上告に関する規定を準用するとしつつ、執行停止については、原裁判の特質を考慮して、厳格な要件を課す403条1項1号ではなく334条2項を準用したことに注意)。

4.7 許可抗告(337条

最高裁判所の負担軽減のために、最高裁判所への抗告は訴訟法に特別の定めがある場合に限定されており(裁判所法7条2項)、したがって最高裁判所への抗告・再抗告は許されていない。しかし、決定で処理されるべき事件の中にも、特別抗告により救済される憲法問題以外の重要な法律問題が含まれている場合が少なくない。そこで、そうした問題について最高裁判所による法令解釈の統一を可能にするために、許可抗告の制度が設けられた[3]。

要 件
対象となるのは、次の要件を満たすものである。
 (α)高等裁判所の決定及び命令であること。高等裁判所が受訴裁判所としてする裁判でも抗告裁判所としてする裁判でもよい。
 (β)その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告することができるものであること(337条条1項ただし書)。許可抗告は、法令の解釈のためにあるが、それでも、裁判により当事者が不利益を受ける場合の救済方法であり、裁判の内容を考慮して法律が不服申立てを認めていない裁判についてまで許可抗告を認める必要はないからである。

 (γ)ただし、次のものは除かれる(337条1項かっこ書)。

337条は、民事執行法20条、民事保全法7条、破産法13条民事再生法18条、会社更生法13条を通じて、これらの法領域にも準用される[6]。

手 続
手続は、多数の準用規定により規律されているので、最初に準用規定を一瞥しておこう。

原裁判に不服のある関係人は、抗告許可申立書を、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内に、原審である高等裁判所に提出しなければならない(申立手数料については、民訴費用法別表第1の18項参照)。必要的記載事項は、当事者および法定代理人、対象となる裁判に対して抗告の許可を申し立てる旨である(337条6項・336条3項・327条2項・314条1項・313条・286条2項)。抗告許可の申立ての理由は、抗告許可申立書に記載することができるが、記載しない場合には、理由書提出期間(規210条2項により抗告許可申立て通知書の送達を受けた日から14日)以内に原裁判所に提出しなければならない(337条6項・315条)。申立理由は、原裁判が最高裁判所の判例(これがない場合には、大審院又は上訴審としての高等裁判所の判例)と相反する判断があること、その他法令の解釈に重要な事項が含まれていることである。前記の先行判例と抵触することを主張するときには、その判例を具体的に示さなければならない(規209条・192条)。憲法違反は、特別抗告の方法により主張すべきであり、許可抗告の理由とすることができない。もっとも、同一の裁判が、憲法違反と(下位の)法令違反の双方を含む場合には、特別抗告を提起するとともに、抗告許可を申し立てることができる。この場合には、一方で申立て手数料を納付すれば、他方の関係でも納付されたものとみなされる(民訴費用法3条3項)。また、同一の事由が抗告人から見れば憲法違反に当たるが、最高裁がそのようには判断しない虞がある場合には、当該事由を憲法違反として特別抗告を提起すると共に、下位の法令の違反として許可抗告を申し立てることも許される。

特別抗告と許可抗告とを一通の書面に記載すること(兼用抗告)は、許されない(規209条において準用規定として188条が挙げられていないのは、この趣旨である)。許可抗告は、抗告が許可されない場合に、特別抗告と運命を異にすることになるからである。

抗告許可申立書が提出されると、原裁判所の裁判長が、申立書を審査し、必要的記載事項の記載が欠ける場合には、命令で却下する(337条6項・313条288条)。さらに、原裁判所が抗告許可申立ての適法性を審査し、不適法であれば、決定で却下する。適法であれば、337条2項所定の許可理由を具備する場合には、抗告を許可し、許可があった時に許可申立てに係る抗告があったものとみなされる(337条4項)。許可に際して、高等裁判所は、重要でない理由を排除することができる。高等裁判所は、相手方がある事件については、抗告許可申立書・抗告許可決定書を相手方に送達する(337条6項・313条・289条規209条189条)。原裁判所は、最高裁判所に事件を送付する(規209条208条204条197条)。

最高裁判所は、高等裁判所が排除しなかった理由についてのみ調査の義務を負うが、それ以外の理由でも職権で調査することはできる。調査の結果、裁判に影響を及ぼすべき明らかな理由がある場合には、原決定を破棄し、必要に応じ自ら裁判するか、事件を原審に差し戻す。

執行停止
特別抗告の場合と同様に、許可抗告にも原裁判の執行を当然に停止する効力はないが、最高裁判所または原裁判をした裁判所・裁判官は、原裁判の執行停止その他の必要な処分を命ずることができる(337条6項・336条3項・334条2項)。


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2005年3月7日−2021年5月11日


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