目次文献略語

民事訴訟法講義

判決の効力 1


関西大学法学部教授
栗田 隆
裁判(判決・決定・命令)には、様々な効力が付与されている。ここでは、判決に認められた主要な効力を中心にして説明し、付随的に、その他の裁判に認められた効力も取り上げる。判決の効力は、「原告が求めた判決内容に認められる効力」(内容的効力)と「判決内容に関わらない効力」(形式的効力)と「その他の効力」に分類することができる。第1の効力に含まれるのは、既判力・執行力・形成力である。第2の効力の代表例は、自己拘束力と形式的確定力である。覊束力は、判決内容に関わる効力ではあるが、原告が欲した効力というよりは、訴訟の円滑な解決のために民事訴訟法が付与した効力であり、本来は「その他の効力」の項を立てて、その中で説明するのがよいが、本講義では、項目立ての便宜上、「形式的効力」の項の中で説明する。

なお、前記のような分類法のほかに、「判決の成立により生ずる効力」(自己拘束力、覊束力)と「判決の確定により生ずる効力」(形式的確定力、既判力・執行力・形成力)に分類する文献もある([梅本*民訴v4]904頁以下)。これもよい分類法である。

1 形式的効力


1.1 判決の自己拘束力(256条・257条)

判 決
権威のある判断は、熟慮の上でなされ、撤回されることがない。判決を権威のある判断にするために、判決を言い渡した裁判所自身は撤回することができないという効力が認められている。この効力を判決の自己拘束力という。自縛力あるいは不可撤回性の効力ともいう。ただし、次の例外がある。
判決が言い渡されると、当該審級での手続が終了する。弁論の再開(153条)は、もはや許されない(256条2項も参照)。もっとも、上訴の余地があるかぎり、訴訟係属は消滅せず(訴訟は判決裁判所になお係属し)、上訴により上級審に移転すると考える。

終局判決の自己拘束力は、判決を撤回できないという効力に尽きる。しかし、中間判決の自己拘束力は、判決を撤回できないという効力(形式的自己拘束力)とともに、自分がした判決に示された判断と矛盾する判断をその後の判決ですることができないという効力(内容的自己拘束力)も含む。

決定・命令
決定・命令には、判決に認められているような自己拘束力はない。

1.2 確定判決の形式的効力(116条

形式的確定力  判決に対する通常の不服申立方法がなくなった時に、判決は確定したという。判決が通常の方法ではもはや取り消され得ない状態に入ったことを判決の効力と見て、形式的確定力という。訴えについて裁判する判決(訴訟判決又は本案判決)が確定すると、訴訟手続全体が終了する(上告審の破棄差戻判決は、訴えについて裁判するものではないから、これが確定しても訴訟手続は終了しない)。

通常の不服申立方法  116条2項により判決の確定を遮断する効力を認められた不服申立方法を通常の不服申立方法という。
確定判決を取り消しあるいは変更するためには、特別上告(327条)のような上訴形式の手段を除外すれば、特別な訴えによらなければならない。次の2つがある。

1.3 覊束力

訴えの提起から判決の確定に至るまでの手続の中で、複数の裁判所が関与する場合がある。例えば、ある裁判所から他の裁判所に事件が移送される場合がそうである。移送を受けた裁判所がその事件を移送元の裁判所に送り返すことができると、移送の繰返しとなり、事件の解決が図られないので、移送の裁判には移送を受けた裁判所を拘束する効力が認められている。このように、同一の手続の中で、ある裁判所がした裁判が他の裁判所を拘束する効力を覊束力という[3]。次のものがある。

2 内容的効力


原告が求めた判決内容に認められる効力として、既判力・執行力・形成力がある。既判力は、終局判決の内容である判断の通用力(後の訴訟の裁判所に対する拘束力)である。これについては、後で詳しく説明する。

2.1 執行力

狭義の執行力  被告に一定の義務履行を命じた判決が確定したにもかかわらず被告がその義務を履行しない場合には、原告は、義務内容の強制的実現のために、その給付判決に基づいて、強制執行を申し立てることができる。このように、判決で命じられた義務内容を強制執行によって実現できる効力を判決の執行力(狭義の執行力)という。執行力は、判決以外の文書(和解調書や執行証書など)にも認められる。執行力の認められる文書を債務名義という(民執法22条)。確定判決はその代表例である(同条1号)。

広義の執行力  裁判に基づき公の機関に対して、強制執行以外の方法で、その内容に適合する状態の実現を求めることができることを広義の執行力という[9][4]。

2.2 形成力

意義  「原告と被告とを離婚する」という主文の離婚判決が確定すると、原告・被告間にそれまで存在していた婚姻関係が終了する。このように、判決で宣言されたとおりに法律関係を変動させる効力を形成力という。

発生時期  形成判決の形成力は、判決確定の時に生ずる。ただし、訴えの併合あるいは反訴等の形で他の請求と弁論が併合されている場合には、形成請求を認容すべきであるとの判断に至った時点で、形成力が生じた法状態を前提に他の請求について判断できる(その請求が給付請求である場合には、将来給付の訴え(135条)となる)。
最判昭和40.3.26民集19巻2号508頁[百選*1998b]158事件
事実の概要  Xからの第三者異議の訴えに対して、執行債権者Yが反訴として詐害行為取消しの訴えを提起した。
判 旨  「詐害行為取消の効果は取消を命ずる判決の確定により生ずるのであるから、Xの本件動産所有権取得原因たる贈与契約が詐害行為に該当するとして右契約の取消を命ずる判決がなされても、右判決が確定しないかぎり、Xが右動産所有権を喪失するいわれのないことは明かである」。しかし、「贈与契約により右動産所有権を取得したことを前提とするXからの本訴第三者異議の訴訟の係属中に、右契約が詐害行為に該当することを理由として右契約の取消を求める反訴がYから提起され、右本訴および反訴が同一の裁判所において同時に審理された結果、口頭弁論終結当時の状態において、Yに詐害行為取消権が存すると判断され、Xの本件動産所有権取得が否定されるべきことが裁判所に明かな場合においては、X主張の前記所有権は民訴549条[現民執法38条]の異議事由に該当しないものと解するのが相当である。」

判決の形成力は、法律関係の安定のために、判決確定時(判決が通常の不服申立方法によっては覆されることがなくなった時)に生ずるのが原則である(民執法37条1項のような例外を定める規定もある)。特に、実体法上の法律関係を変動させる形成判決については、判決確定前に仮執行宣言により形成力を発生させることは許されない。判決確定により生じた形成力が過去に遡及するか否かは、形成される法律関係により定まる。離婚判決の形成力は、遡及しない。また、実体法上の行為の取消しを宣言する判決であっても、法的安定性のために、取消しの効力が過去に遡及しない旨が規定されているものもある(例えば、会社法839条、民法748条1項)。他方、認知判決の効力は、過去(出生時)に遡及する(民法784条が認知の遡及効を定めており、同条は、認知判決にも適用される)。

3 仮執行宣言(259条・260条)


3.1 総説

意義
決定の内容的効力は、告知の時に生ずるのが原則である(119条)。これに対し、判決の内容的効力は、判決の確定のときに生ずるのが原則である。判決の内容的効力を判決確定前に発生させ、狭義または広義の執行を可能にするためには、特別の宣言が必要である。その宣言を仮執行宣言という。特に重要なのは、狭義の執行力を発生させるための仮執行宣言であり、通常は、これを指す。

 ()給付判決に付される仮執行宣言(民執22条2号)は、判決確定前に狭義の執行力を発生させる裁判である。

 ()狭義の執行力以外の効力を判決確定前に発生させるためにも仮執行宣言を付すことができるが、その例はそれほど多くはない。例:
 )確認判決や形成判決にも仮執行宣言を付すことができると言われることが多いが、実際上、上記(b)の範囲に限定されよう。確認判決に仮執行宣言が付されても、既判力まで生ずるわけではない。短期賃貸借解除判決(平成15年改正前民395条但書)のような形成判決に仮執行宣言を付すことも理論的には可能であるが、そもそも形成判決は法律関係を明確にするために当事者の意思表示ではなく判決により法律関係を変動させようとするものであるから、これに仮執行宣言を付すことを積極的に肯定する文献はあまりない。離婚判決は、財産上の請求に関する判決ではないので、259条1項の要件を満たさず、仮執行宣言を付すことができない。

制度目的
判決の内容的効力が判決確定時に生ずるとの原則を前提にして、仮執行宣言の制度は次のことを目的とする。
仮執行宣言の形式
仮執行宣言は、通常、給付判決の主文に記載される。判決主文中の特定の項目(裁判)を指示して、「この判決は主文第**項にかぎり仮に執行することができる」と宣言するのが通常である。控訴審が控訴棄却判決の中で第一審の給付判決の仮執行を許す場合のように、仮執行されるべき裁判と仮執行の宣言をする裁判とが異なる場合には、仮執行されるべき判決を明示することが必要である。なお、294条の場合がそうであるように、決定により仮執行が宣言される場合もある。

3.2 仮執行の宣言(259条

以下では、狭義の執行力を判決確定前に発生させる仮執行宣言に中心にして説明することにしよう。

仮執行宣言の原則的要件(259条1項)
仮執行宣言は、次の要件が充足されるときに付される。
  1. 財産上の請求であること(259条1項)  財産上の請求であれば、執行が不当であった場合でも、金銭賠償により原状回復が比較的容易にできるからである。
  2. 仮執行宣言を付す必要性があること  必要性の有無の判断は裁判所に委ねられている。ただし、一定の場合には仮執行宣言を必ず付すことが要求されている。

必要的仮執行宣言
次の場合には、仮執行を宣言をすることが必要とされている。
  1. 手形金等の請求に関する判決(259条2項)  職権で付す。手形債権は、実体法上その権利の存在の確率が高度に保障されており、統計上も、手形金請求事件の原告の勝訴率も高く(立法当時に95%)、手形の経済的信用維持のために迅速な権利実現の道を開いておくことが必要である。また、金銭債権についての仮執行は、執行債権に限定して考えれば、敗訴の被告に回復しがたい損害を与えることは原則としてないからである。この規定は、通常訴訟においても手形訴訟においても適用される。遅延損害金は、法定利率分に限定されており、それを超える部分は259条1項による。
  2. 請求異議の訴えにつき受訴裁判所が下した判決において、執行の停止等に関する裁判についてする仮執行宣言 (民執37条1項・ 38条4項)  職権で付す。
  3. 控訴審または上告審において下級審の判決中不服申立てなき部分に対し行う仮執行宣言(294条・323条)  申立てがあれば、必ず仮執行の宣言をする。法文上は「できる」となっているが、申立てがあれば必ず仮執行宣言すべきものと解釈されている([注釈*1998c]25頁(宇野))  
  4. 支払督促に対し異義の申立てがない場合に行う仮執行宣言(391条)  申立てにより宣言する。

仮執行宣言の適法性が問題となる場合
 ()登記手続を命ずる判決については、肯定説もあるが、次の理由により、否定説が判例・通説である。
 ()離婚判決と同時になされる財産分与を命ずる判決に仮執行を宣言することができるかについては、見解が対立しているが、給付義務は離婚判決の確定によって生ずるのであるから、否定すべきである(多数説)。原告の利益は、婚姻費用分担請求や財産分与されるべき財産に対する保全処分で図るべきである[5]。

 ()控訴審が控訴棄却判決を下す場合には、その判決の中で、原判決に基づいて仮執行することができることを宣言することができる。控訴棄却判決自体に仮執行の宣言を付すことは適当ではないが、誤って付された場合には、原判決中の執行に親しむ部分に仮執行宣言が付されたのと同じ効果をもつとしてよい(債務名義はいずれにせよ原判決であり、執行力の有無は、原判決と控訴審判決とに基づき、執行文付与機関が判断する)。

 ()訴訟費用負担の裁判に仮執行宣言を付すことは、判決が上訴審で取り消された場合のことを考慮すると、あまり望ましいことではないが、認められている[6]。仮執行宣言が付されると、裁判所書記官が申立てにより訴訟費用額確定の処分をし(71条)、その処分が債務名義となる(民執22条4号の2)。

担保の提供
仮執行宣言が付された判決が後に変更されると、仮執行は結果的に不当であったことになる。この場合に被告に生ずることのある損害の賠償を確実にするために、執行裁判所は、自由裁量により担保の提供を仮執行の条件とすることができる(259条1項)。ただし、手形金請求については、原則として無担保でなければならず、裁判所が相当と認めるときに限り担保を条件とすることができる(259条2項)。

仮執行免脱宣言
債権者と債務者との間の利害の調整は、担保を立てることを条件とする仮執行宣言によりかなり図られるが、当事者間の利益をよりきめ細かく調整できるようにするために、仮執行宣言を付すと共に、裁判所は、申立てにより又は職権で、被告が担保を立てることを条件に仮執行を免れることを宣言することができる。仮執行免脱の担保の被担保債権は、訴求債権そのものではなく、執行の遅れによる損害賠償債権であるとするのが通説・判例である(最判昭和43.6.21民集22-6-1329)。建物明渡請求の場合にはこれでよいが、しかし、金銭支払請求の場合には、訴求債権自体もこれにより担保されるという利害調整方法も望まれる。

仮執行宣言等の形式259条4項・5項)
仮執行宣言および仮執行免脱宣言は、判決主文に掲げる形式でなされる(4項)。通常、主文の末尾に記載される。仮執行宣言の申立てについて裁判しなかったとき、または、必要的仮執行宣言をしなかったときは、裁判の脱漏となるが、請求自体についての裁判の脱漏ではないので、決定の形式で補充される(5項)。補充決定は、判決書の原本及び正本に付記するのが原則である(規則160条2項・1項)。

3.3 仮執行宣言の効力

文 献
仮執行宣言は、執行力を即時に発生させる。仮執行宣言の付された給付判決に基づき、権利の終局的満足にまで至ることができる。仮執行による弁済の効力については、場面を分けて検討する必要がある。

上訴審での斟酌  上訴審が本案請求の当否を判断する場合に、債権者が仮執行によって弁済を受けた事実を斟酌すべきか。多数説・判例は、仮執行による給付の事実を顧慮すべきでないとする(大判昭和13年12月20日民集17巻2502頁)。もし斟酌すると、給付請求は常に棄却されることになってしまい、仮執行の当否を確定することができなくなり、また、現在の給付請求に代えて、仮執行による給付当時に債権が存在したか否かの確認請求を立てたのでは、過去の法律関係の確認となり、望ましくないということを理由とする。この場面では、仮執行による給付は弁済の効力を有せず、債権を消滅させないと理解しておくのがわかりやすい。しかし、次の場面ではどうであろうか。

相殺の抗弁  仮執行後、被告はなお相殺の抗弁を提出することができるか。弁済効否定説によれば、相殺ができることになる([注釈*1998b]254頁(本間)は、これが妥当な結論であるとする)。これに対して、被告の相殺により、仮執行による給付が無に帰し、また被告がその反対債権を仮執行による給付の返還請求権にすり替える点で不当であるとの実質的理由により、相殺を否定することが弁済効肯定説から主張されている([青山*1983a]429頁)。

倒産手続  仮執行後に、被告について破産手続あるいは会社更生手続・民事再生手続が開始された場合に、原告の訴求債権は破産債権あるいは更生債権・再生債権となるか。次の二つの考えがある
  1. 弁済効否定説(多数説)  仮執行によって得た満足は確定的なものではなく、本案判決または仮執行宣言が後に取り消されることを解除条件とする暫定的なものである。したがって、債権はまだ消滅しない。
  2. 弁済効肯定説  仮執行においては執行力が解除条件付であるにすぎず、執行の効果は仮定的性格を有さないこと等を理由に、仮執行による満足の時点で実体法上の弁済の効力を有し、したがって、その時点で債権は消滅すると考える([青山*1983a]、[林*1984a])。

弁済効否定説によれば、原告の訴求債権は破産債権等となる。弁済効肯定説は、次の理由により、破産債権等にならないとする。すなわち、破産債権等かどうかは、債権の確定の有無を基準として決定するのではなく、手続開始時の債権の満足の有無によって決定すべきであり、仮執行による満足は、倒産法上、倒産手続開始前の完全な満足にあたる。このような満足を得た債権者は、債務者のその後の倒産からの保護に値し、また保護すべきものである。そのことは、仮執行の目的の一つがこのような債務者の無資力に陥る危険から債権者を保護することにあることからも明らかである([青山*1983a]415頁、[林*1984a]268頁以下参照)。

判例は、弁済効肯定説を採用している。すなわち、最高裁判所 平成13年12月13日 第1小法廷 決定(平成13年(許)第21号)は、仮執行宣言付判決に対して上訴に伴う強制執行の停止・執行処分の取消しがされた後,債務者が破産宣告を受け,破産管財人が担保取消しを申し立てた事案である。最高裁は、担保提供者が破産宣告を受けたとしても,その一事をもって「担保の事由が消滅したこと」に該当するということはできないからこの取消し申立ては却下すべきであるとの結論を導くにあたって、「仮執行宣言付判決に係る事件が上訴審に係属中に債務者が破産宣告を受けた場合において,仮執行が破産宣告当時いまだ終了していないときは,破産法70条1項本文により仮執行はその効力を失い,債権者は破産手続においてのみ債権を行使すべきことになるが,他方,仮執行が破産宣告当時既に終了していれば,破産宣告によってその効力が失われることはない」と説示した(これに続く同趣旨の先例として、最高裁判所 平成14年4月26日 第2小法廷 決定(平成14年(許)第1号)がある)。今後、これを支持する学説が増加するであろう。

留置権・同時履行の抗弁権  これらの抗弁が認められると、引換給付判決がなされ、引換条件の部分は民事執行法では執行開始要件として扱われている(民執法31条1項)。仮執行が開始された後で、このような引換条件が追加されても、それは執行開始前の状態に戻すことを根拠付けるほどの事由ではなく、債務者は反対給付を請求してその認容判決により自己の利益を守れば足りよう。したがって、仮執行開始後は、これらの抗弁を例えば控訴審において提出することは許されない([注釈*1998b]255頁(本間))。

3.4 仮執行宣言の失効と原状回復・損害賠償義務(260条

仮執行宣言の失効(1項)
仮執行宣言は、次の変更により、変更の限度で効力を失う。
本案判決の変更(2項)
未確定判決に基づく執行を債権者に許したこととのバランスをとるために、執行が不当であることが判明した場合には、債務者に迅速な救済(原状回復と損害賠償)を与える必要があるので、260条2項が本案判決の取消し・変更という形式的条件のもとで原状回復と損害賠償を認めている。取消し・変更の理由は、実体上の理由であっても訴訟上の理由であってもよい。差戻判決が下された場合にも、260条2項の適用がある。仮執行の時点において請求に理由があったが、仮執行後に生じた事由に基づいて仮執行宣言付き判決が取り消された場合には、損害賠償義務は生じない。しかし、原状回復義務は生ずる。

判例のとる旧訴訟物論を前提にした場合には、(α)同一当事者間で、同一事実関係から例えば損害賠償請求権と不当利得返還請求権とが請求権競合的に発生し、第一審は一方を認容し、控訴審は他方を認容する場合に[14]、260条2項の適用があるかが問題となる。形式論理的には肯定されるが、この結論は、原状回復により返還されるべきものを再び給付すべきことになり、両請求が請求権競合の関係にあることを考慮すると、不当である。実質的経済的利益が共通する限り、260条2項の適用はないとすべきである。(β)融資者が、消費貸借契約の有効を前提にして主位的に貸金返還請求を、契約の無効を前提にして予備的に不当利得返還請求をする場合に、第一審が主位請求を認容し、控訴審がこの第一審判決を取り消して予備請求を認容する場合も同様である[11]。

損害賠償義務の性質
これが無過失責任であるか否かについて、対立がある。無過失責任説が判例・多数説であるが、過失責任説も有力である。また、判決に基づいて執行したという点をどのように評価するかについては、次の見解が対立している。
  1. 広義の不法行為説(通説) 損害賠償義務を発生させる執行行為を違法行為と評価し、またはその違法な結果に着目して、広義の不法行為とする。
  2. 危険責任説  執行申立てを法的に許された行為であるとしつつ、ただ、判決の確定前にこれを行ったことから、その結果が違法となりうることの危険について責任を負うべきであるとする。

原状回復および損害賠償請求の主張方法
被告の権利行使を容易にするために、本案訴訟中における給付申立てという簡易な申立て方法が特に認められている(260条2項)。この申立ては、反訴の実質を有するが、反訴についての適法要件の一部の適用を受けないので、「反訴に類するもの」と言われる。

目次文献略語
1999年3月13日− 2013年9月26日