目次文献略語

民事執行法概説

非金銭執行


関西大学法学部名誉教授
栗田 隆

文 献


1 概 説


金銭の支払を目的としない請求権の満足のための強制執行は、非金銭執行と総称される。非金銭執行は、執行方法の点からみると多様であり、次のように分類される。
  1. 直接強制  金銭執行の場合と同様に国家の執行機関が直接に権利実現行為にあたるもの 。
  2. 代替執行  権利実現行為を債権者または第三者に行わせるもの 。
  3. 間接強制  義務を履行しないと金銭を支払わせるという心理的強制を債務者に加えて、債務者自身に権利実現行為を行わせるもの。平成15年改正により、その適用範囲が大幅に拡大された(173条1項)。
  4. 意思表示の擬制  債務名義の成立(判決については確定)の時(一定の場合には、執行文が付与された時)に意思表示があったものと擬制する方法により権利を実現するもの(177条1項)。

民事執行法は、執行により実現されるべき義務の代表例を基にして、その義務と上記の執行方法とを結び付けている。しかし、現実に発生する権利は多様であり、法律により規定された執行方法のみでは実効的な実現を期待できない場合がある。その場合には、(α)必要であれば、幾つかの執行方法を組合わせて執行すること、(β)債務名義に表示された一つの権利の全部を強制執行により実現することが困難な場合に、その一部を強制執行により実現し、残部については損害賠償により実質的に実現することも認められるべきである[8]。
強制執行に親しまない義務   しかし全ての義務が強制執行によりその内容どおりに実現され得るわけではない。強制執行に親しまない義務については、損害賠償請求権に転化させて権利者を保護せざるをえない。ただし、「権利」の定義に関わる問題であるが、すべての権利がその侵害行為者に対する損害賠償請求の方法で保護されるわけでもない。侵害行為に対する非難が許されるにとどまるものもある。

2 物の引渡義務の強制執行


2.1 総説

金銭以外の有体物の引渡し(現実的支配の移転)を目的とする請求権については、執行官が直接強制により実現すべきものとされている(168条−169条)。間接強制も許される(173条)。執行官は、執行に際して補助者を用いることができ、特殊な設備・技術がないと引渡しができない場合には、執行官がその責任において専門業者に引渡作業の一部を行わせることになる。民執法は、目的物が不動産であるか、動産であるかによって、執行方法に若干の差異を設けている。

2.2 不動産の引渡し等の強制執行(168条)

168条の対象となる不動産等
168条の適用対象となるのは次のものであり、「不動産等」と一括されている。
占有者の確認
債務者の占有する不動産等の引渡し・明渡しの強制執行を行うために、執行官は、まず、占有者を確認する。債務名義に表示された執行債務者から独立して占有する者がいる場合には、執行官は、その占有者に対する執行正本(25条)を提出して執行申立てをすることを執行債権者に求めなければならない。他方、執行正本において執行債務者とされている者の家族や従業員がいても、これらの者は占有補助者であり、占有者に対する執行正本でもって占有補助者も排除することができる。

誰が占有者であるか、現に占有している者が独立の占有者であるか占有補助者に過ぎないかを判断するためには、事実関係の確認が必要である。そこで、執行対象である不動産等に所在する者に対して質問をし、文書の提示を求める権限が執行官に与えられている(168条2項)。例えば、建物収去土地明渡しの強制執行において(建物収去は代替執行であり、土地明渡しが168条の執行である)、建物所有者から建物を賃借している者がいれば、彼は独立の占有者であるので、この者に対する建物退去土地明渡しの債務名義が必要となる。しかし、賃借人と称している者が実際に賃借人であるとは限らず、賃借人を仮装する占有補助者にすぎない場合もあるので、執行官は、その者に質問をし、賃貸借契約書や電気料金の請求書等の提示を求めて、賃貸借関係の存否を確認する。

執行官が占有者についての判断を誤った場合には、執行債務者から独立した占有者は、執行異議(11条)により執行裁判所に是正を求めることができるとともに、第三者異議の訴え(38条)により執行の不許を求めることができる。

必要な執行正本についての設例
例えば、土地の所有者Xが土地の不法占拠者であるYに対して土地明渡請求の訴えを提起して、請求認容判決を得ている場合に、
例えば、不動産の強制競売において、買受人Xが債務者Yに対する引渡命令を得ている場合に、
執行方法
執行対象物に人が居住する場合に「明渡し」、人が居住していない場合に「引渡し」の語が用いられることが多いが、それほど厳密に区別されているわけではない(168条の2第1項に「引渡し期限を定めて、明渡しの催告・・・をする」という表現がある)。両者を一括して、「引渡し等」ということもある(168条の見出し参照。この概説では、「引渡し」の語は、広義では「明渡し」も含む意味で用いることができるものとしよう)。不動産等の引渡しの執行は、次の方法で行なわれる。
  1. まず、執行官が目的物に対する債務者の占有を解く。債務者の占有解除には、不動産内にいる人の退去と執行対象外の動産(「目的外動産」と呼ばれる)の撤去が含まれる(168条5項) 。
  2. 次に、債権者(または執行正本において指定された第三者)にその占有を得させる。そのために、債権者またはその代理人が執行場所に出頭することが必要である(168条3項)。

)債務者の占有解除のために、執行官は、不動産等に立ち入る。その際に、必要な場合には、閉鎖された戸を開くために必要な処分をすることができる(4項。通常は、解錠、やむを得ない場合には、戸の破壊。建物の入り口の扉が閉鎖されている場合でも、施錠されていない窓があれば、そこから入る)。そして、不動産内にいる人を退去させる(通常、占有者に直接手をかけることはせずに、説得行為により退去させる)。

引渡執行の対象外の動産を「目的外動産」あるいは「残置動産」という。目的外動産があれば、それを撤去する(5項)。撤去した動産は、債務者又はその代理人等(以下「債務者等」という)に引き渡す(法168条5項)。しかし、現実には、債務者が引取りに来ないことが多い。その場合には、執行官が動産執行の例により売却し、売得金から売却・保管費用を控除した残額を供託する(法168条6項・7項)。

)執行現場には、債権者またはその代理人が臨在することが必要である(168条3項)。不動産等を引き渡すことにより執行は完了し、その後に当該不動産等を債務者が再度占有するに至ったときには、執行債権者は改めて債務名義を調達しなければならない。建物が引渡し等の対象である場合について言えば、執行官から引渡しを受けた執行債権者は、通常、外部との出入口となる戸の錠を直ちに変更する。それ以外の場所から出入りが可能な状態になっている場合には、そこを閉鎖する。必要であれば、留守番を置く。

目的外動産の売却
法的性質  法168条5項により執行債務者に引き渡すべき動産を彼に引き渡すことができない場合に、執行官がその動産を売却することは、不動産の引渡執行の一環としてなされるものである。それは、≪保管に費用を要するのが通常である動産≫を≪供託という方法で容易に引き渡すことができる金銭≫に換えるための売却である(法195条の換価のための競売ないし形式競売の一種)。その売却には、執行債権者の申立てを要しない(この点で、換価のための競売の中でも特殊なものとなる)。

売却手続   その売却手続は、各種の動産に対する強制執行における売却の例による。すなわち、一般の動産については執行官が入札、競り売り又は最高裁規則で定める方法(執行官自身が行う特別売却(規則121条)、執行官以外の者に売却を行わせる委託売却(同122条))により売却する(法134条)。多くは引渡執行の場での競り売りである。登録自動車については、自動車の強制競売(規則86条以下)の例によるが、執行機関は執行官ではなく裁判所であるので、執行官の申立てに基づいて競売される([浦野*1985a]737頁。管轄裁判所は、規則87条により自動車使用の本拠の位置を管轄する地方裁判所であり、引渡執行の執行裁判所とは限らない)。建設機械や小型船舶についても同様のことが妥当する(規則98条以下の例によって売却される)。新規登録を受けた航空機についても同様であるが、管轄裁判所は航空機の所在地を管轄する地方裁判所であるので(規則84条・法113条)、不動産の引渡執行の裁判所と一致する。

形式競売であることの意味  目的外動産の売却が形式競売であることは、一般の動産の場合について述べれば、次の点に現れる。
即日売却・近接日売却  目的外動産は、債務者等に引き渡すのが原則である。しかし、現実には、債務者等が引取りに来ないことが多い。その場合には、執行官が一時保管して、債務者等の引取りを待ち、引取りに来ない場合に売却するのが本来である(規則154条の2第1項参照)。しかし、実際には、目的外動産の多くは、保管費用や保管のための運搬費用をかけるほどの財産的価値がない。それでも、債務者の財産である以上、執行官が廃棄処分することは、財産権の保護の視点からみて適当ではないので、売却という方法をとらざるを得ない。動産執行の方法により売却する場合に、例えば競り売りの方法で売却する場合について言えば、1週間以上の日をおいて競り売り期日を指定し、競り売りの公告をすることが必要となるが(規則114条・115条)、それでは、明渡執行での現場での売却ができない。そこで、目的外動産の売却については、引渡執行が断行された日に売却すること(即日売却)あるいは1週間以内に売却すること(近接日売却)できるように、特則が定められている(法168条5項後段、規則154条の2第2項・3項)。
  1. 明渡しの催告がなされた場合(規則154条の2第2項)  予め即日売却を公告する時間的余裕があるので、売却の公告をして明渡執行の実施予定日に売却をする。公告においては、売却すべき動産の表示に代えて目的外動産を売却する旨を記載すれば足りる。
  2. その他の場合(同条3項。明渡しの催告をしたが2項の公告をしなかった場合を含む)  この場合には、下記の要件の下で、即日売却又は近日日売却が可能である。即日売却がなされる場合には、売却の公告を省略することができ(3項2文)、それ故に、許容範囲が1の場合よりも狭い。執行官が即日売却を選択しなかったときは、近接日売却ができるが、売却の公告が必要である。
    1. 高価な動産に該当しないこと(4項)。かつ、
    2. 相当の期間内に債務者等に引き渡すことができる見込みがない場合であること。例えば、執行債務者が引取りを拒絶している場合や所在不明で連絡が取れない場合がこれにあたる。

上記2の場合で即日売却・近接日売却が許されない動産又は許されない場合については、動産執行の例により売却する。売却の公告が必要である(規則115条・120条3項)。規則114条では、競り売り期日は「やむを得ない事由がある場合を除き、差押えの日から1週間以上1月以内の日」とされているが、そこにいう「差押えの日」は「明渡し執行の断行日」と読み替えられる。

売却できない場合はどうするのか
目的外動産(以下では混乱を避けるために「残置動産」という)は、多くの場合に、執行債権者が最後の買受人となるが、彼は買い受ける義務を負うわけではない。実際、処理に特別の技術が必要な有害物質など、うかつに買い受けることはできない。執行官が売却を試みても売却できなかった残置動産はどうするのか。この点について明文の規定があるとは言い難い。なるほど法168条6項は「執行官は、・・・これを保管しなければならない」と規定している。しかし、執行官が無期限に保管することが可能なわけではない;同項は、執行官が保管した動産を売却することができることを前提にした規定と解すべきである(同項2文はそれを前提にしているとみるべきである);換言すれば、同項にいう「保管」は「売却されるまでの一時的な保管」である。したがって、執行官が残置動産を保管した場合でも、動産を売却できないことが確定した時点で、残置動産の処理を含めて引渡執行の手続は完了し、残置動産の処理は執行債権者に委ねられると解さざるを得ない。その後、執行債権者は、売却できなかった残置動産を保管して、執行手続外で、引取義務を負う者(通常は所有者)に対して引取りを請求することができる。引取りを命ずる判決が確定した場合に、判決内容の直接的な実現は、残置動産を引取義務者の管理場所に搬入することになるが、それは動産の引渡し(債務者の占有する動産を取り上げて債権者に引き渡すこと)ではない。したがって、その執行方法は、代替執行又は間接強制の方法になる。

このことから、逆に、次のように言うことができる。(α)残置動産について即日売却を行わないため執行官がそれを一時保管する場合に、執行官自らが管理する場所で保管するのは、残置動産の売却が確実な場合に限るべきである。売却の見込みがない動産については、引渡執行の対象不動産上で保管すべきである(規則104条1項により執行債権者に保管させる)。この場合に、執行債権者の同意を得ることが望ましいことは言うまではないが、同意が得られなくても、そうすることができると解すべきである。(β)実際上は、執行官の管理場所で保管する場合に、保管料を執行費用の一部として執行債権者に予納させることになり、無期限の予納となれば相当な金額を予納させることになるので、執行債権者は、引き渡された不動産上で保管することに同意するであろう(この場合でも保管費用が生ずることはあるが、執行費用の一部として予納することは必要ない)。

執行の終了時期
引渡し等の強制執行は、不動産に対する債務者の占有を解いて臨在する債権者の実力的支配に移した時に終了する。 ただし、目的外動産が存在する場合には、すべての目的外動産についてその処理(債務者等への引渡し、売却成功後の買受人への引渡又は売却不成功後の執行債権者への引渡し)が完了した時に終了する。

2.3 明渡しの催告(168条の2

不動産の明渡し等の強制執行をする際に、執行官が何の予告もなく対象不動産に赴き、直ちに債務者の占有を解除すると、トラブルが生じやすい。債務者の中には、強制執行が迫ったことを知れば、諦めて自主的に立ち退く者も少なくない。そこで、執行実務では、古くから、執行官が目的不動産に赴いて、占有者に期限を定めて明渡しの催告をし、催告に応じないときに初めて明渡しの断行(債務者の占有の解除)を行うとの慣行があった。これを平成15年改正により明文化したのが168条の2である。

催告の効果  明渡しの催告は、催告を受けた者が他の者に占有を移して強制執行を妨害するという危険を伴う。そこで法は、執行官による明渡しの催告に占有移転禁止の効果を付与し(5項)、執行債務者が禁止に違反して執行債権者以外の者(第三者)に占有を移転した場合には、その占有者を執行債務者と見なして168条の強制執行を実施することができ、執行費用もこの者に負担させる(当該第三者が42条の債務者と見なされる)との効果(債務者擬制の効果)(6項)を付与した。後者の効果の発生の前提として、執行官は、催告がなされていること、引渡期限及び占有の移転が禁止されている旨の公示をする(3項)。

6項により第三者が債務者と擬制される場合には、その第三者に対する執行には、当該第三者に対する執行文(27条2項)は不要である。その点で、明渡しの催告に結び付けられた効力は、強力である。

引渡期限  この強力な効果を正当化する1つの要素は、明渡しの催告から明渡しの断行までの期間が比較的短く、その短い期間に正常な第三者が占有を取得する可能性は低く、かつ、たとえ正常な第三者が占有を取得しても、その不動産上の生活関係は発生から日が浅く、占有を継続することについての生活利益はそれほど強いとは言えないことに求めることができる。引渡期限は、この正化事由の1つの要素であるから、催告があった日から1月を経過する日と規定されている(2項)。執行官はそれより後の日を引渡期限とすることもできるが、それには執行裁判所の許可が必要であり(2項)、また、期限を延長することもできるが、それには当初の引渡期限内に執行裁判所の許可を得ることが必要であり、かつ、期限の延長も公示しなければならない(4項)。明渡しの断行は、引渡期限の満了日に行うことになる。引渡期限後でも、債務者に対する明渡しの断行は可能である。しかし、引渡期限を過ぎてからの明渡しの断行には、6項の適用は予定されていないので、もし第三者が占有しているのであれば、執行債権者は、その者に対する承継執行文の付与を申し立てざるを得ない。

債務者擬制に対する異議の訴え(168条の2第7項)  明渡しの催告後に執行債務者から占有の移転を受けた第三者が次の要件を満たす場合には、彼は、訴えの方法により強制執行の不許を求めることができる。
この場合にまで債務者と見なす(擬制する)のは、彼に酷であるとの価値判断による。この訴え(以下「債務者擬制に対する異議の訴え」という)は第三者異議の訴えではないが([谷口=筒井*2004a]123頁注134)、その法的性質は第三者異議の訴えに近く、機能的には執行文付与に対する異議の訴え(34条)に代わるものである。明渡しの催告があったことについて占有者の悪意が推定される(8項)

債務者擬制に対する異議の訴えが提起された場合に、執行債権者は、当該第三者が占有権原を有しないのであれば、明渡しの反訴を提起することができる(この反訴請求は所有権に基づくものであるので、執行債権者の所有権が認められる場合には、占有者に占有権原の発生原因事実の証明責任がある)。

請求異議の訴え  第三者は、明渡しの催告を知っていた場合あるいは債務者の占有の承継人である場合でも、執行債権者に対抗することができる占有権原を主張して請求異議の訴えを提起することができる。典型的には、第三者が「当該の不動産の真の所有者は、執行債権者ではなく、自己である」と主張する場合がそうである。

執行異議(9項)  明渡しの催告後に占有した者が請求異議の訴え又は擬制に対する異議の訴えを提起することができる場合には、彼は、執行異議においてそのことを主張することができる。承継執行文なしに執行を受けることの代償措置であると説明されている(もし執行文が必要であるとすれば、第三者は執行文付与に対する異議の申立て(32条)を提起する機会が与えられていたはずであるのに、承継執行文が不要とされたために、その機会が与えられなかったことに対する代償措置である。それに加えて、請求異議事由も主張することができるとして、第三者の保護を手厚くしている)。実際上は、7項によって準用される36条の執行停止の裁判を得るまでの当座の措置、すなわち、11条2項・10条6項により執行の一時停止を命じてもらうことに意味がある。

2.4 動産の引渡しの強制執行

債務者の占有する有体動産の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者(または執行正本において指定された第三者)に引き渡す方法による。執行官は、動産執行の場合に準じて、強制立入、捜索、解錠等をなすことができる。執行対象が貨物自動車のような場合には、その中に執行目的外の動産があれば、それは不動産の引渡し等の執行の場合と同様に処理する。

動産の範囲
ここでの動産には、有価証券も含まれ、また、集合物、一定数量の代替物でもよい。しかし、人の居住する船舶等は不動産の引渡執行によるので、除かれる。

債権者の出頭の要否
不動産の引渡執行の場合と異なり、「債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り、することができる」旨の規定(168条3項)は、民執法自体にはない。これは、様々な場合が想定されるので問題の規律を規則に委ねる趣旨である。民事執行規則は、次のように規律している。強制執行の場所(目的動産の所在場所)に債権者又はその代理人が出頭しない場合において、()執行官は、債務者から物を取り上げて保管することができるときには、そのようにする(規則155条2項)。()「当該動産の種類、数量等を考慮してやむを得ないと認めるときは、強制執行の実施を留保することができる」(同条1項)。(a)と(b)とは二者択一の関係にある(債務者から取り上げて、執行の場所に放置することはできないし、債務者に保管させるといったことも不適切であろう。執行官が第三者に保管させることは、できないわけではないが、債権者が引き取りに来ない場合に、法律関係が複雑になる)。

条文上は(a)が原則で、(b)が止む得ない場合の例外のように規定されているが、幾分リップ サービスのように思える。(α)執行官が保管するとなると、保管のための運搬が必要になり、運搬・保管の費用の問題が生じ、運搬・保管中に事故が生じたときには誰が責任を負うべきかの問題が生じ、また、債権者が引渡しを受けた後に目的物の損傷や機能不全が判明すれば、執行官の運搬・保管中に生じたのではないかとの疑念を債権者がもつ可能性があるからてある。(β)そもそも債権者は、目的物の引渡しを得たいので強制執行の申立てをしているのであり、特段の支障がない限り執行場所に出頭して速やかに引渡しを得るべきであると言い得るからである(例えば、執行債務者と顔を合わせると危害を加えられる虞があること、あるいはそのような恐怖心を抱いてやむを得ない状況であることは、特段の事情に当たり得るが、その場合には、まずは代理人を出頭させるのが本則であり、諸般の事情で適当な代理人を見い出せない場合にはじめて特段の事情となる)。このような視点に立つとことは、規則155条と整合的ではない虞はあるが、以下ではこの視点に立つことにする。

)運搬・保管の費用  これは、執行官法10条1項6号の費用にあたり、概算額を予納させることができ(同法15条1項)、予納がない場合には執行申立てを却下することができる(同法15条3項)。債権者が執行場所への出頭を確約する場合に、費用の予納は必要ない。費用の予納なしに執行を開始しようとしたが、確約に反して債権者がが出頭しない場合には、規則155条1項により執行を留保することができる([条解*2020b]714頁)。同項では、運搬・保管費用のないことを執行留保事由として明示していないが、当然のことであり、「等」の中に含まれると理解すべきである)。

) 執行申立ての段階  執行官は引渡執行の申立てを受けた際に、債権者に執行場所に出頭することを促すことができる。出頭しない場合には、規則155条1項により執行が留保される可能性があること、及び、同条2項により保管可能であると執行場所で判断される可能性がある場合には、運搬・保管の費用の概算額を示す。申立書等から規則155条1項に該当することが明らかで、費用を予納させて執行官の責任で運搬・保管するのが不適当な場合には、費用の概算額を示すことなく、155条1項による執行留保の可能性を教示すれば足りる。

)執行日時の指定  規則155条2項に該当し、かつ、債権者が運搬・保管の費用の概算額を予納する場合には、執行官は速やかに引渡執行に着手する。それ以外の場合には、債権者又は代理人の出頭可能な日時を確認し、出頭を確約できる日時を執行日時に指定する。この段階で、規則155条2項に該当するか否かについて、債権者と執行官との間で見解の相違が生ずれば、債権者は民執法11条1項後段の執行異議により、執行裁判所に救済を求めることができる(規則155条2項に該当する場合であると主張する債権者から見れば、執行官が速やかに執行を行わないことは、同項の「遅怠」に該当する)。

)債権者が出頭を確約した日時に執行官が執行を開始しようとしたが、債権者が出頭しない場合には、、規則155条2項に該当し、かつ運搬・保管費用の予納のあるときを除き、同条1項により執行を留保する(費用を予納させている場合でも、執行場所で目的物を現認して費用不足が予想される場合には、執行を留保することができる)。この段階でも、同条2項に該当するか否かについて債権者と執行官との間で見解の相違が生ずれば、債権者は執行異議により救済を求めることができる([条解*2020b]713頁))。

2.5 第三者が占有する物の引渡しの強制執行

引渡執行の目的物を執行債務者以外の第三者が占有している場合には、直接の引渡しの執行はできない。当該第三者に対する債務名義が必要である。しかし、その第三者が債務者に対して引渡義務を負っている場合には、その引渡請求権を差し押さえ、それを執行債権者が債務者に代わって行使する方法により執行することができる(法170条1項)。

同じ目的は、次の方法によっても、実現可能である。

3 作為・不作為執行


3.1 総説

金銭債務、物の引渡義務以外の義務は、執行法上、作為・不作為義務と一括される。これらの義務の中にも、執行機関が直接実現するのに適すると思われる類型のものもある(例えば、建物収去義務)。しかし、民事執行法は、直接強制の新たな類型は設けずに、すべて代替執行または間接強制の方法により実現されるべきものとした[5]。

執行機関  作為・不作為執行にあっては、債務名義の形成に関する記録の参照が必要な場合があることを考慮して、執行機関は、記録が所在すべき第一審裁判所または調停・和解裁判所であり、執行文付与の訴えの管轄裁判所と同じである(法171条2項・172条6項・33条2項1・2号)。

3.2 代替的作為義務の強制執行

執行方法
執行債権の目的たる作為が代替性を有する場合には、その強制執行は、代替執行により得る。作為の代替性とは、債務者自身がするか第三者がするかによって債権者の受ける作為結果に経済的・法律的差異を生じないことを言う。建物・工作物の収去、建築工事、修理、物品運送などの非個性的労務のほか、謝罪公告を新聞に掲載することも代替執行に服す。以下では、 執行債権の目的たる作為(執行債権の満足をもたらすべき作為)を「代替的作為」あるいは「代替行為」という。

代替執行の手続
執行申立て 授権決定の申立てが強制執行の申立てとなる。執行裁判所は、一般の要件および代替執行の要件を審査し、決定をもって裁判する。申立てを認容して授権決定を発する場合には、債務者を予め審尋していることが必要である(法171条3項)。

授権決定 これは、代替的作為を債務者の費用で債務者以外の者が実施する((α)債権者が第三者に実施させる又は(β)債権者が自らが実施する)権限を債権者に授与する旨の決定である(171条1項1号の文言は(α)のみがあげられているが、債権者自身が当該作為をする技能を有する場合に、それを禁ずる理由はない)。授権決定に基づく作為の実施の基本的な性質は、執行行為であり私的な行為ではない。それは、次のこと意味する。
  1. 代替行為が債務者の財産を毀損する行為であっても、授権決定に基づいてなされる限り、違法行為にならない(債権者所有地上から債務者所有建物を収去する場合が典型例である。授権決定に基づく限り、刑法260条(建造物等損壊)の適用を受けることもない )。
  2. 債務者がなすべき作為を実施するのに必要な費用は、執行費用として、債務者から費用を取り立てることができる(42条)。

費用前払決定  費用を代替行為の実施前に債務者から取り立てることもできる(民執法171条4項)。それには前払決定が必要であり、債権者は、授権決定の申立てと同時に又はその後にその申立てをする。

授権決定における実施者の指定  実施者は指定しなくてもよいが、実務では、「債権者の申立てを受けた執行官」と指定することが多い。特に、建物収去・土地明渡しの強制執行のように、代替執行(建物の収去)と直接強制(土地の明渡し)とが有機的に結びついている場合には、執行官を実施者にするのが通常である。執行官が実施者になった場合には、執行官は、収去作業を解体業者に請け負わせることができ、通常はそうする(執行官自ら重機を操作して建物を収去することは、法的には可能であるが、実際上はあり得ない)。この場合の執行官の執行現場における主たる役割は、債務者その他の者が建物収去作業を妨害する場合に、それを阻止し(国家公務員である執行官の職務の執行の妨害には刑法95条が適用される)、必要な場合には警察上の援助を求めることである(民執法6条1項)。

執行官法1条2号  執行官が実施者となるためには、授権決定の中で指定されていることが必要である(この指定は、執行官法1条2号の「裁判において執行官が取り扱うべきものとされたもの 」に該当する。執行官に代替執行の実施を申し立てる場合には、この指定が必要であり、この指定がない場合には、執行官は代替執行の申立てを受けることができない。彼は、国家の執行機関として強制力を用いることができる地位にあり、私人の権利の実現について、法で定められたこと以外はなしえないとしておく必要があるからである。執行官法1条における執行官の職務の列挙は、限定列挙である。執行官の職にある者が私人として委任を受けることが許されるかが問題となるが、執行官職の性質を考慮すると、それもできないと解すべきである。授権決定が執行官を代替行為実施者に指定しているときは、債権者は執行官に申立てをし、執行官はこれを拒むことができない。申立てを受けた執行官は、自己の責任において他人を使用して代替行為をすることができる。

共助機関としての債権者  授権を受けた債権者は、執行機関たる執行裁判所の共助機関の地位を有する。授権決定により、債権者は、指定された行為を自らまたは第三者にさせる権限を取得し、その行為の実施に必要な範囲で債務者の不動産に立入り、あるいは債務者の財産を破壊する等の権限を取得する。授権決定は、そのような法律効果をもたらす執行処分である。

債務名義性等  (α)授権決定自体は執行処分であり、債務名義ではなく、執行文は必要ない([中野=下村*2016a]811頁)。請求異議の訴えは、授権決定の基礎となる債務名義に対して提起すべきであり、授権決定に対してこれを提起することはできない。29条(債務名義等の送達)の適用もないので、債権者は、授権決定が債務者に告知されると同時に、代替行為の実施に着手することができる。ただ、債務者からの不服申立てにより授権決定が取り消される可能性が残されているので、慎重を期すならば、確定後に代替行為に着手することが望ましい。(β)費用の支払(特に前払)は、授権決定の基礎となる債務名義に表示されている債務(代替的作為)とは別個の義務である。従って、費用前払決定は22条3号の債務名義に該当し、その執行のためには執行文が必要であり、29条の適用を受ける。

不服申立て  授権決定またはその申立てを却下する裁判に対しては、執行抗告ができる(法171条5項)。抗告理由となるのは、執行裁判所が調査すべき事項についての手続違背に限られ、債務名義の実体的不当や執行文付与の違法は、理由とならない。

代替執行の実施  債権者は、授権決定に基づいて、代替執行の実施に当たる。授権決定に行為者の指定がない場合には、債権者は、自ら実行することも、第三者たる私人にさせることもできるが、執行官に当該行為の実施を申し立てることはできない。

債権者の権利実現行為は、単なる私的行為ではなく、執行行為であって、執行共助者たる債権者は、代替行為の実施に際して抵抗を受けるときは、執行官に対し援助を求めることができる(法171条6項・6条2項)。第三者が代替行為を実施する場合も同じである。代替行為の実施過程の違法に対しては、債務者等は、債権者を相手方として執行異議を申し立てることができる。

代替行為の実施中の事故による損害賠償  代替行為の実施中に事故等により第三者に損害が生じた場合に(例えば、建物収去作業に用いられたクレー車が転倒して隣家が損傷を受けた場合に)、損害賠償義務を負うのは、第一次的に実施者である。(α)実施者の選任・監督について債権者に過失があり、それが不法行為と評価される場合に、債権者が執行共助機関であり、代替行為の実施が執行行為だからといって、国家賠償法の適用を肯定することはできない。債権者は国賠法1条1項にいう公務員ではなく、私人として実施者を選任・監督すると見るべきだからである。実施者の選任・監督が被害者との関係で過失のある違法行為と評価される場合には、国家賠償法の適用はなく、債権者が責任を負う。(β)実施者が債権者自身である場合も同様である。(γ)実施者が執行官である場合には、彼は国家の執行機関として代替行為を実施しているのであるから、国家賠償法の適用がある。執行官が代替執行の実施について技術者を用いた場合に、その技術者の行為が不法行為になるときはどうか。執行官は、技術者等に細かな指示を出さなくてもよいように、請負という形で技術者等を用いることになるが(民法716条参照)、それでも、請負人の選任・請負人に対する指図ついて過失があり、違法行為と評価されることはあり得え、それによる賠償責任は国が負う。

費 用  代替執行の実施に必要な費用は、執行費用であり、債務者が負担する(法42条)。債権者の申立てがあれば、執行裁判所は債務者に対し、必要な費用の前払いを命ずる(民執法171条4項)。債権者はこれを債務名義として金銭執行により取り立てることができる。前払決定がない場合、あるいは前払されたが不足が生じた場合には、執行費用一般の取立方法に従って取り立て(法42条4項)、前払額に剰余が生じた場合には、不当利得返還の問題となる。

執行の終了時期  代替執行は、代替行為の実施が完了したときに終了する。

間接強制の許容  代替的作為義務は、代替執行により実現されるのが原則であり、それが現実に可能である場合には、間接強制の余地はないと伝統的には考えられてきた。しかし、強制執行の強化のために、平成15年改正により、特段の要件を課すことなく、債権者は間接強制の方法により執行することを申し立てることができるとされた(173条1項)。

3.3 不代替的作為義務の強制執行

執行方法
作為義務が代替性を有しない場合には、その強制執行は、間接強制による。例えば、義務の履行が債務者本人の特別の地位・技能・学識・経験等に依存する場合(芸能人の劇場出演義務、専門家の鑑定義務など)、債務者本人が自らの法律上の責任において行為しなければならない場合(財産管理の精算行為をなすべき義務。なお、手形その有価証券に署名すべき義務は、立法論としては、138条に準じて裁判所書記官その他の適当な者が債務者に代わって署名するようにすることもできないわけではないが、解釈論としては、不代替的作為義務とされている)。ただし、不代替的作為義務には、およそ強制執行に親しまないものが少なくない。

間接強制の手続
執行申立て  強制金決定の申立てが、執行申立てとなる。執行裁判所は、一般の執行要件および間接強制の要件を審査し、決定をもって裁判する。強制金決定をなす場合には、債務者を予め審尋しなければならない(法172条3項)。

強制金決定  申立てを認容するときは、執行裁判所は、債務者のなすべき債務を特定したうえ、その義務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる(法171条1項)。命じ方には二つの態様がある:(α)遅延の期間に応じて一定額の金銭(例えば、遅延一日につき金何万円)を支払えと命ずるもの;(β)執行裁判所が認める一定の期間内に履行がないときは、直ちに一定額を支払えと命ずるもの。強制金決定は、22条3号の裁判として、強制金の取立てのための債務名義となる。

強制金は、履行強制のための手段であり、単なる損害回復のための賠償金ではない(罰金や過料でもない)。その金額は、心理強制の目的に即して、執行裁判所がその合理的裁量によって決定する。強制金は債権者に帰属し、債務不履行による損害の回復に充てられる。支払われた強制金の額が損害額を上回っても不当利得の問題は生じない[10]。逆に損害額を下回る場合には、債権者は、差額の賠償請求を妨げられない(172条4項)。

強制金の取立て  強制金決定後に作為義務の履行がないときは、債権者は強制金決定の正本に執行文の付与を受けて、強制金取立ての強制執行ができる。義務履行の有無については、債務者が証明責任を負うので、債権者は執行文付与の際に義務の履行がないことを証明する必要はない。

作為義務が履行されれば、強制執行は終了し、その後に強制金の支払義務が発生することはない。しかし、それ以前に強制金支払義務が発生していた場合には、その取立てのための強制執行が行われ得る。

債務者が作為義務の当初からの不存在あるいは履行による消滅等を主張する場合には、作為義務の債務名義について請求異議の訴えを提起でき、執行停止の裁判あるいは確定した請求異議認容判決を提出して、執行裁判所に強制金決定の変更・取消しを申し立てることができる(法172条2項)。他方、強制金を任意に支払ったことを主張する場合には、強制金決定に対して請求異議の訴えを提起することができる。強制金決定が下された後に履行があったが、履行の時期に争いがあるため、強制金の存否あるいは額に争いがある場合には、作為の債務名義に対する請求異議の訴えのみならず、強制金決定に対する請求異議も許される。

作為を命ずる仮処分命令に基づいて間接強制決定がなされた場合に、本案訴訟の判決において被保全権利が仮処分命令の発令時から存在しなかったものと判断され,このことが事情の変更に当たるとして当該仮処分命令を取り消す旨の決定が確定した場合には,当該仮処分命令を受けた債務者は,その保全執行としてされた間接強制決定に基づき取り立てられた金銭につき,債権者に対して不当利得返還請求をすることができる(最高裁判所 平成21年4月24日 第2小法廷 判決(平成20年(受)第224号) )。

3.4 不作為義務の強制執行

執行方法
執行方法は、(α)間接強制(172条1項)、(β)義務違反の結果の除去命令、(γ)義務違反の予防のための適当な処分の命令(予防的処分命令)の3つに区分される(後2者は民執法171条1項2号。平成29年改正前fは、民414条3項に規定されていたが、同改正により民執法に移された)。 義務違反が現実になされる前の間接強制が許されるかについては、これを否定する見解と肯定説とが対立しており、肯定説の中では、違反行為の危険が重大・明白な場合に許されるとの限定を加える見解もある。しかし、不作為義務の違反の有無の証明責任は債権者側にあるのが原則であり、間接強制決定が下されても違反の事実を証明して初めて執行文を得て金銭執行に移ることができることを考慮すると、事前の間接強制決定は、違反の虞と違反行為の結果との相関関係において事前抑制が適切と認められる場合に許されるとしてよい。

最高裁判所 平成17年12月9日 第2小法廷 決定 (平成17年(許)第18号)は、次のように説示している:不作為を目的とする債務の強制執行として民事執行法172条1項所定の間接強制決定をするには,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない;債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,この立証は,高度の蓋然性や急迫性に裏付けられたものである必要はない。

執行裁判所は、同一の債務名義の執行として、これらの方法を併用することができる。もっとも、不作為自体の間接強制と予防的処分とは、ともに違反行為の防止を目的とするから、同時にその双方を求めることはできないとする見解([中野=下村*2016a]818頁))が有力である。しかし、担保の提供と間接強制の双方を同時に命ずることが必要な場合もあろうし、必要であれば認めるべきである。また、不作為自体の間接強制または予防的処分と違反結果除去処分とは併行可能である。

権利実現の態様
不作為義務といっても、一回限り(限られた時間限り)の義務や継続的な義務など様々なものがあり、義務違反にもさまざまな態様がある。

)反覆的・継続的な不作為義務  (a1)義務違反が生じないように、あるいは義務違反があった場合に反復・継続の阻止のために、債権者は間接強制決定の申立てをすることができ、また、(a2)「将来のための適当な処分の命令」(予防的処分命令)を得て、これを債務名義して、その内容(違反防止のための物的設備の構築、担保の提供など)の強制的実現をはかることができる(後述参照)。また、(a3)債務名義成立後の違反行為が違法な物的状態(通行受忍義務違反の柵など)を残し、それが義務違反の反復・継続に該当するときは、執行裁判所の授権決定を得てそれを除去することができる。

)一回的な不作為義務  事前抑制が重要であり、(1)間接強制又は(2)義務違反の予防のための適当な処分を命ずる必要がある。(3)一回的な不作為義務については、物理的に違反結果が残存しても、その除去はほとんど問題にならないであろう(例えば一定の場所で一定の日時に行われる講演を妨害してはならないとの義務に違反して妨害物が設置された場合に、その除去は所有権等に基づく妨害排除請求権になると思われる)。ただし、結果除去請求権を不作為義務から派生する請求権と観念することができる場合があれば、171条1項2号により、その除去を命ずることができる。

いずれの不作為義務についても、その義務違反に対する最後の救済方法は、損害賠償である。間接強制金が支払われた場合には、損害賠償額に充当される。損害額が支払額を超過するときは、その超過額を損害賠償額の一部としてさらに請求することができる。支払われた強制金額が損害額を超過する場合でも、債権者は超過額債務者に返還しなくてもよい。間接強制制度の機能を維持するために、そのように制度を設計する必要があったからである。

執行手続
債権者は執行裁判所に、前述の諸場合に応じて、不作為を命ずる債務名義に基づいて、()強制金決定、()義務違反の結果の除去を命ずる決定、()将来の適当な処分を命ずる決定を申立てることができ、それが執行申立てとなる。執行裁判所は、一般の執行要件およびそれぞれの決定の要件を審査し、要件が具備すれば、その決定を下し、具備しなければ申立てを却下する。

)の決定の直接の内容(金銭の支払)は、不作為義務を命ずる債務名義の内容とは異なるので、独立の債務名義(22条3号)になる。間接強制決定の発令後に義務違反があった場合に、強制金を取り立てるためには,執行文の付与を受ける必要があり,そのためには,間接強制決定に係る義務違反があったとの事実を立証することが求められる(前掲最決平成17年)。

)の決定については、(α)債務名義ではないとする見解([条解*2019a]1544頁)と、(β)債務名義性を肯定する見解とが対立しているが、後者を支持すべきである。後者は言う:本来は、結果除去の授権決定に先行して代替的作為を命ずる決定が先行すべきであるが、それでは手続が繁雑になりすぎるので、(β1)代替的作為を命ずる裁判と、(β2)その代替執行のための授権の裁判とが一つの決定書の中でなされていると理解すべきである([中野=下村*2016a]818頁)。これを授権決定に素直に反映させるならば、授権決定の第1項(β1に対応する部分)は、「債務者は、[不作為義務に反してした行為の結果である]有形物Aを除去せよ」であり、第2項は、「債権者は、債務者の費用で、第三者に前項の有形物Aを除去させることができる」である。債務者は、(β1)の部分に対して、当該有形物の設置が不作為義務違反に該当しないこと等を理由に、そこに表示された作為請求権の不存在を主張して、請求異議の訴えを提起することができる。また、執行文の付与が必要であり(25条)、代替行為の実施以前に授権決定が債務者に送達されていることが必要である(29条)。

)の例としては、例えば、債務者が債権者の土地に汚水を流出させないという不作為義務を負っているにもかかわらず、汚水を流出させている場合に、債務者の土地内に排水路や障壁を設置することが考えられる。そうした設備設置を命ずる裁判とその実施の授権の裁判とが「授権決定」と呼ばれる一つの決定書において同時になされるとみるべきであり、結果除去を命ずる決定と同様に、債務名義性を肯定すべきである。

)将来のための適当な処分が直接強制に親しむ場合  将来のための適当な処分の例として、しばしば、債務者の違反行為により債権者に生ずるおそれのある損害の担保の提供が挙げられている。担保の提供の方法として、例えば金銭の供託を想定した場合に、その強制的実現は、債務者の財産を換価してその代金を供託所に供託することによりなされる。通常の金銭執行との違いは、換価金が債権者に交付されるのではなく担保として供託される点に現れるが、そのことは、将来のための適当な処分が直接強制により実現される義務であることを左右するものではない。そうなると、171条は代替執行を定める規定であるので、この担保提供義務の強制的実現について同条1項2号の適用はないことになる。しかも、将来のための適当な処分として担保の提供を命ずる直接の規定は、平成29年改正後は民法にも民事執行法にも存在しない。しかし、それを否定するとの立法的決断がなされたとも思われない。そうだとすると、規定の欠如は解釈により補充すべきであろう。この問題への類推適用に適した規定は、もちろん、171条1項2号である。(α)執行裁判所は、不作為義務の将来の違反の抑制に適当な処分(債務者のなすべき行為)が直接強制に親しむ場合には、その行為をなすべきことを債務者に命ずる決定をする。(β)債権者は、その決定を債務名義(22条3号)として直接強制の申立てをする。執行裁判所が命ずる処分(債務者のなすべき行為)が意思表示(例えば債務者の不動産上に抵当権を設定する登記の申請)である場合には、意思表示の擬制による。(α)は、171条1項2号の文言から離れていないが、(β)は同条の見出に示されている同条の適用範囲からずれるので、類推適用である。さらに進んで、171条1項2号により命じられた行為の強制的実現を間接強制により図るのが適切な場合には、173条により間接強制も許されるとする説が有力である([中野=下村*2016a]817頁)。

3.5 抽象的差止判決に基づく強制執行

一般に、作為・不作為執行の債務名義は、それに基づいて強制的に実現されるべき作為・不作為の具体的内容を執行機関に一義的に指示するものでなければならない。しかし、公害や生活妨害などのおおむね企業活動に基づき一般人の権利が侵害される場面においては、被害者は侵害発生のメカニズムを確知しえず、侵害防除措置の具体的特定が困難であるのみならず、侵害防除のために複数の措置が可能であるが、被害者としては侵害が防除されさえすれば、防除のための措置はいずれであってもかまわないという場合が多く生ずる。そこで、侵害の差止のみを命じ、そのための具体的措置を命じていない判決(抽象的差止判決)が下され、この判決による強制執行の可否ないし執行方法が問題となる。議論は分れているが、一定の生活関係における具体的危険ないし危険発生源と侵害結果との特定により差止請求権は特定され得るのであり、差止の抽象性は、侵害防除のための具体的措置の選択を債務者に委ねるものとして、抽象的差止判決の執行を肯定すべきである。

抽象的差止判決は、抽象的不作為(例えば、「60ホン以上の騒音を原告の居宅に流入させてはならない」)を命ずる主文を掲げる場合と、抽象的作為(例えば、「原告の居宅に60ホン以上の騒音が流入しないように防止設備を施せ」)を命ずる主文を掲げる場合とがあるが、前者の場合はもちろん後者の場合も、その本質は不作為義務を命ずるものと理解すべきである(債務者は、後者の場合でも、操業の停止により義務を履行することができる)。

間接強制 それゆえ、執行方法として間接強制が許され、かつ、債務者に侵害防除のための具体的措置の選択を委ねる趣旨からすれば、これが中心となる。侵害結果の除去のための授権決定も許される。

作為命令 これに対し、将来のための適当な処分として侵害防止のための特定の設備の設置、侵害発生装置の撤去などを命ずることができるかについては、積極説と消極説との対立がある。しかし、具体的な侵害防除措置が技術的観点からみて一般に限られている場合、あるいは、適切と判断される防除措置が抽象的差止判決の形成過程の中で絞り込まれている場合には、執行裁判所はその中から債務者に最も負担が少ないと認められるものを命ずることができると解してよいであろう。 これには、次の2つ場合が考えられが、いずれであっても作為命令を許してよい。

4 子の引渡の強制執行(174条)


判 例

4.1 令和元年改正前

監護を必要とする子(以下「幼児」の語で代表することもある)の引渡執行の問題は、古くからある問題であり、その規律の明文化の必要性も古くから意識されつつも、明文の規定を設けるとなると意見が様々に分かれ、明文化は難しかった[6]。

幼児について監護権を有しない者(非監護権者)が幼児を手元におき、監護権を有する者(監護権者)の引取りを妨げる場合の執行方法については、令和元年改正前は、特別の規定がなく、見解が対立していた。幼児ともいえども人格者であり、動産と同じ意味で権利の客体、占有対象とならないことは明かであるが、ただ、執行債権を監護権に基づく幼児引渡請求権と構成するにせよ、幼児の引取りの妨害禁止という不作為請求権と構成するにせよ、その実現のための最終的に実効性のある方法となると、執行官による取上げであり、それが許されるかが問題となるからである。()動産の引渡しに準じて執行官の取上げを認める見解と、()不作為執行によるべきであるとする見解とが対立していた。後者は、(B1)執行方法として間接強制のみをあげる見解と、(B2)間接強制のほかに、将来のための適当な処分(あるいは妨害結果の除去)として(法171条1項、民法旧414条3項)、執行官による幼児の取上げによるべきであるとする見解とに分れていた。

いずれにせよ、子が意思能力を有し、現在の監護者の許[もと]にとどまる意思を自発的に明示する場合には、原則として執行不能となる(後述4.3参照)。

ハーグ条約実施法
このように、子の引渡執行について明文の規定を欠く状況が続いていたが、明文化の強い要請が外国から来た。すなわち、国際結婚の破綻に伴い夫婦(父母)の一方が他方に無断で子を国境を越えて連れ去ったり、一定の期間連れて行くことについての同意を得て連れ去った後で期間経過後も留置する事態に対して、子を連去り前の居住国(子の常居所地国)に戻して(返還して)、常居所地国で問題を解決すべきであるとの考えを基礎にして、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)が1983年に発効した。日本も同条約に加入することを求められ、2013年に同条約を実施するための国内法「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成25年法律48号)」(ハーグ条約実施法)を制定した上で、2014年(平成26年)に同条約を締結し、日本における条約発効日に同法は施行された(同法附則1条)。

ハーグ条約実施法は、強制執行により実現されるべき義務を「子を常居所地国に返還する義務」(26条・134条)とし、子をその常居所地国に現実に連れ戻す義務もこれに含めた。執行方法は、民事執行法所定の間接強制(172条)又は代替執行(171条)とした(実施法134条)。代替執行の前に間接強制が行われるとの原則(間接強制前置主義)を採用した(令和1年改正前136条)。また、代替執行は、執行官による監護解除と執行裁判所が指定する返還実施者による外国への返還(子を監護しつつ外国に移送すること)から構成され、執行官による監護解除に際しては子が返還義務者とともにいることが必要とされた(同140条3項。「同時存在原則」と呼ばれる)。

ハーグ条約実施法の規定の影響
ハーグ条約実施法は国内事件にも影響を及ぼし、国内における子の引渡しも同条約の規定に準拠して行われるようになった。

しかし、実際に執行をしてみると、同時存在原則の下では、子が債務者の親族等に預けられている場合には、執行官による監護解除が困難になり、また、代替執行を見越した債務者が執行回避のために子との同時存在を避ける事態も生じた。また、子を手元に置きたいという債務者の意思が強い場合には、間接強制の前置は時間の空費となり、さらに子が債務者から積極的あるいは消極的に虐待されている場合には即時の代替執行が必要になると批判された。そこで、令和1年の民執法改正では、国内事件について、これら2つの原則が修正されることになった。その決断がハーグ条約実施法にも影響を及ぼし、同年改正により同実施法においても修正がなされた。

4.2 令和元年改正後

2種類の執行方法とその位置付け・名称  令和元年の改正により、子の引渡債務の強制執行について、民執法174条以下に明文の規定が置かれた。同条1項が2つの方法を定めている。そのうちの
引渡執行の対象となる子
引渡執行の対象となる子の範囲(特に年齢の上限)について、民執法は規定をおいていない。ハーグ条約実施法は、子が満16歳に達した場合には子の返還の代替執行をすることはできないとし(135条1項)、16歳に達した日の翌日以降の不履行について間接強制金を取り立てることができない(2項)と規定している。これは、ハーグ条約が16歳に達した子を対象外としている(4条)ことに由来する。多数の国が関係する条約では、このように年齢をもって画一的処理をする必要があるとの理由によるものと思われる。

民執法174条の「子」についてはどうか。次述の(γ)により解決が図られるものと思われる。(α) 子の引渡しの請求の根拠は、(親権の一部である)監護権であるから、監護権に服する者が同条にいう「子」である([内野=吉賀=松波*2020a]226頁)。民法は、未成年の子は親権に服し(民法818条)、親権者は「子の監護及び教育の権利を有し、義務を負う」(同820条)と規定しているので、未成年の子であればすべて監護権に服し[15]、引渡執行の対象になり得る[13]。実際、子が虐待されている場合には、年齢にかかわらず引渡執行をしなければならない。しかし、虐待がなく、子が自律的・自発的な意思に基づき現在の監護者の許にとどまりたい場合はどうか。未成年の子であっても、成年年齢に近づけば自己の意思に基づいて行動することができるようになり、その人格を尊重する必要があるので、未成年の子のうちのどの範囲のものが強制執行──特に執行官による直接強制──の対象になるのかという問題が生ずる。
  (β)令和1年改正前の実務では、個別の事案に応じて強制執行の可否を判断し、その際に子の年齢等を考慮するとの運用がなされ([内野=吉賀=松波*2020a]226頁)、また、執行官による直接強制については、動産の引渡執行の規定が類推適用されていたため、物に対する支配関係と同一視することができるかいった観点から、対象となる子の年齢の上限をおおむね小学生低学年ぐらいまで(8歳から10歳程度)とされていたとのことである([法曹会*2017a]371頁、[内野=吉賀=松波*2020a]227頁)。
 (γ)子の引渡しについて明文の規定が設けられている現行法の下では、執行官による引渡実施を動産執行の規定の類推適用により根拠付ける必要はない。「物に対する支配関係と同一視することができる」という要件を設定することもできない。結局の所、子の年齢それ自体というよりも年齢と共に発展していく自発的意思が重視されるべきであり、それが債務名義形成段階のみならず、174条1項の決定の段階、さらには直接強制の場合には引渡実施の段階で考慮されることになろう。すなわち、執行段階において引渡しが子の意思に反しないのであれば、債務名義に表示された引渡義務を実現してよく、年齢等をもって制限する必要はない。問題になるのは、引渡しが子の意思に反する場合である。(γ1)子の意思は監護権者決定段階あるいは債務名義作成段階で考慮されるべきは当然であり、引渡が子の意思に反するということは少ないはずである。しかしそれでも、引渡しが、執行段階で子の表明する意思に反することはあり得ることである。比較的単純な例は、子が複数おり、いずれも他の子(兄弟姉妹)と分かれたくないとの意思を表明しているが、一部の子(年長子)は現監護者である父の許にとどまりたいとの意思を表明しているが、他の子(年少子)はその意思を表明していない場合に、裁判所が年少子は母の監護を受けるのがよいと判断すると、年長子も年少子と離れ離れにならない方がよいとの考慮を優先させも、その理由により母に引き渡されるべきであると判断する場合である。この場合には、裁判所は年長子の希望も考慮の上で上記の決定をしたことになるが、年長子から見れば、父の許に留まりたいとの意思を無視されたことになる。(γ2)子の成長は早く、現監護者である父の許での生活に不満がなく、学校生活が安定していれば、ますます母に引き渡されること拒むようになる。母との共同生活について苦い思い出があり、それを債務名義作成過程では言葉にして具体的に表明することができなかった子が、時の流れの中でその思い出を反芻し、母の監護を拒絶する意思を強くし、それを明確に表明することもあろう。執行段階において子が自律的・自発的に表明するその意思は尊重されるべきである。確かに次のような見解もある:「債務名義作成過程で子の意思は考慮されるため、・・・子が拒絶の意思を表明したとしても、これを考慮して執行不能にすることにはならない。(中略)もっとも、執行の現場において子が激しく抵抗するなどした場合には、子に対する威力の行使が禁止されていることから、執行不能という結果に至ることがあり得る」([内野=吉賀=松波*2020a]289頁)。しかし、子は、債務名義作成手続で当事者とはなっておらず、自己の意思に反して引き渡されようとしている場合に、「激しく抵抗」しなければ引渡しを阻止できないというのは、酷である。子にとって、引渡執行の段階は、自己の意思を表明する最後のチャンスである(引き渡された後で逃げ帰るチャンスもあるが、それは例外であるとしよう)。子がその最後のチャンスに言葉により表明する意思は、それが自律的・自発的なものである限り、尊重されるべきであり、執行不能の理由になる(規則163条3号の「円滑に引渡実施を行うことができないおそれがあるとき」に含まれる)。

執行方法
174条1項が定める執行方法は、(α)間接強制(2号)又は(β)直接強制(1号)である。

執行機関
いずれについても、最初の申立て(間接強制決定の申立て・直接強制決定の申立て)は執行裁判所になされる。執行裁判所となるのは、債務名義について執行文付与の訴えを管轄する裁判所(33条2項1号・6号所定の裁判所)である(間接強制決定について172条6項・171条2項、直接強制決定について174条5項・171条2項)。引渡しを実施する執行官は、引渡しがなされるべき地を管轄する地方裁判所に所属する執行官である。

決定の審理手続
間接強制決定も直接強制決定も、債務者の審尋を経ることが必要である(172条3項・174条3項本文)。ただし、直接強制決定については、子に急迫した危険その他特別の事情(審尋により執行目的を達することができない事情)があるときは、債務者の審尋を要しない(174条3項ただし書)。

間接強制決定
間接強制は、債務者に金銭支払義務を課すことにより心理的圧迫を与え、債務者自身に義務を履行させる執行方法(172条)である。間接強制決定においては、義務不履行の場合に間接強制金の支払を命ずる。(α)義務不履行に対して1日あたり一定金額(例えば1万円)の強制金支払義務を課すというのが一つの代表例である。(β)一定期限までに履行しない場合には一定金額を直ちに支払うことを命ずることもできる(以下、この方式を「猶予期間方式」という。一定の期限までに義務が履行されない場合には直接強制を行うことが予定されることになろう)。間接強制金の額は、義務の履行を強制するのに足る金額を裁判所が裁量により定める。子の引渡義務の遅滞については、財産的損害は想定しがたく、精神的損害が考えられるのみであるが、執行裁判所は、その予想される精神的損害の金銭的評価額とは関係なく強制金額を定めることができる。

直接強制決定(引渡実施決定)
令和元年改正前のハーグ条約実施法は間接強制前置主義を例外なく認めていたが、同改正後の同法及び民執法は、これを修正した。すなわち、間接強制がまず試みられるべきことを原則とし、間接強制決定の確定日から2週間(猶予期間方式の場合に猶予期間が確定日から2週間経過後に満了するときは、猶予期間)を経過した後でなければ、直接強制決定の申立てはすることができない(174条2項柱書・1号)としつつも、次の場合には、間接強制決定を経ることなく直ちに1号の強制執行の申立てをすることができるとした。(α)間接強制を実施しても債務者が監護を解く見込みがあるとは認められないとき(174条2項2号。文言上、監護を解く見込みがあるか否か不明のときも含まれる。換言すれば、執行債務者が監護を解く見込みの証明責任を負う)。債務者が「強制執行を受けても子を手放さない」といった言葉で子の監護を継続する強い意志を表明している場合が代表例である。(β)子の急迫の危険を防止するために直ちに強制執行(直接強制)をする必要があるとき(3号。証明責任は執行債権者にある)。子が暴力を受けている、食事を与えられていないといった場合(虐待事例)が代表例である。

執行裁判所は、174条2項の要件が証明されない場合には、直接強制の執行申立てを却下する。ただ、すでに間接強制の決定が確定している場合には、同項1号所定の2週間の期間経過の要件は早晩充足されるので、直ちに却下することなく、2週間の経過を確認してから直接強制決定をすることも許されよう。

直接強制決定では、申立てにより、次の2つが命じられる。
  1. 執行官に対する職務命令、すなわち「執行官に対し、債務者による子の監護を解くために必要な行為をすべきことの命令」(174条4項)[7]  この決定に基づき執行官が何をすることができるかは、175条に規定されている。執行場所において、実際にどのようにするかは執行官の裁量に委ねられる。また、ここにいう「執行官」は「(債権者から)申立てを受けた執行官」であるから、主文は「申立てを受けた執行官は、***をしなければならない」の形式でもよい。
  2. 費用前払決定、すなわち「債務者に対し、費用を予め支払うべきことの命令」(174条5項・171条4項)  執行官に対する職務命令の申立ては必要不可欠であるが、この命令の申立ては必要不可欠ではない。執行裁判所は、この申立てがなければ、費用前払の裁判をしない。その意味で、職務命令の申立てと費用前払命令の申立てとは、別個の申立てと観念される(174条6項参照)
不服申立て
いずれの決定の申立てについての裁判に対しても、それにより不利益を受ける申立人又は相手方は、執行抗告をすることができる(間接強制決定について172条6項、直接強制決定について174条6項)。

4.3 直接強制決定の執行(執行官による引渡実施)

直接強制決定(引渡実施決定)は、代替執行における授権決定と同様に、債務名義ではない。直接強制決定については、確定しなければ効力が生じないとの規定はないので、原則に従い、告知により効力を生ずる。債権者は、決定が債務者に告知された後に、執行文なしで、引渡実施がなされるべき地(子の現在地ないし住居地)を管轄する地方裁判所に所属する執行官に、引渡実施を申し立てることができる(執行官への申立てがなければ実施されない。執行官法2条1項本文)。この段階で初めて引渡実施を行う執行官が特定される。申立書(民執規158条)には、引渡実施決定書を添付することが必要である(同条2項柱書)。また、引渡しを実施するためには債権者又は代理人の出頭が必要であるので(法175条5項)、申立書には、引渡実施を希望する期間を記載する(同条1項7号)。

申立てを受けた執行官は、債権者の希望を考慮して執行実施の日時と場所を指定して債権者に通知し(規則11条1項)、債権者又はその代理人の出頭を求める。執行官は、監護解除のために、次の行為をすることができる。

執行官がなし得る執行行為──執行場所による区分
債務者占有場所での執行  執行官は、債務者の占有する場所で、監護解除のために、次の行為をすることができる。
  1. 債務者に対する説得
  2. 子以外の者(債務者を含む)に対する威力の行使(6条1項。ただし、175条8項2文による制限がある)  子に対する威力の行使は許されない。
  3. 債務者の占有する場所に立ち入り、子を捜索すること。必要であれば、閉鎖した戸を開くのに必要な処分をすること(施錠されている場合に解錠等をすること)もできる。
  4. 債権者(若しくは代理人)と子を面会させ、又は、債権者(若しくは代理人)と債務者を面会させること。「又は」で結ばれているが、一方のみの意味ではなく、両方してもよい。
  5. 債務者の占有する場所に債権者(又は代理人)を立ち入らせること。

子に対する威力の行使は許されない(175条8項)。ここにいう威力は、「腕力等の実力」([注解*1984a]99頁)あるいは「人の意思を制圧する程度の有形力の行使」([内野=吉賀=松波*2020a] 282頁)と解されている。(α)抵抗又は拒絶していない子の手をとったり、その背中を押す程度のことを許される([条解*2020b]741頁注2。他方、[内野=吉賀=松波*2020a]282頁は、「子が口頭で拒絶の意思を示していても、身体的な抵抗までは示さない」場合には、執行官が子の手を引いたり肩を押したりして子を誘導することは許される」、と述べる)。(β)子に対する威力が禁止されている理由の一つは、威力の行使によって「子の心身に有害な影響を及ぼすおそれ」があり、それを避けるべきことにある(8項2文からその趣旨を窺うことができる)。8項のこの趣旨により、子の心身に悪影響を及ぼすおそれのある威圧的な言葉の使用あるいは発言態様(例えば怒鳴りつけるような言い方)も禁止されると解すべきである。(γ)子が会話をすることができる年齢に達している場合には、執行官が子に状況を説明することは必要であろう。その延長上で、子の意思の抑圧につながらない優しい言葉で子を説得することも許される(命令口調での説得はすべきでない)。

その他の場所での執行  執行の場所は、上記のように、第一次的に債務者の占有する場所である。しかし、子が他の場所にいる場合にも、債務者に対する直接強制決定に基づく執行を可能としておかないと、引渡執行の実効性を確保できない。そこで、2項がこれを認めている。ただし、その場所で引渡実施を行うことが「子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認められること」(以下「相当性の要件」という)が必要である。(α)他の場所の中には、公道や公園その他公衆に開放された場所(誰もが立ち入ることのできる場所)も含まれるが、相当性の要件を充足することが必要である。(β)第三者が占有する場所で引渡実施を行うこともできる。

b')第三者占有場所での執行    第三者が占有する場所で引渡実施を行う場合には、第三者の利益も尊重しなければならないので、相当性の要件の外に、次の要件の下で、執行官は、(a)の3から5の行為をすることができるとされた。

保育園や学校において引渡実施を行うことは、一般論としては可能である。ただ、相当性の要件を充足するかについては慎重な見解(否定的見解)もある([内野=吉賀=松波*2020a]266頁)。この見解は、さらに占有者の同意を得ることの必要性も指摘する。その点はともあれ、相当性の要件を満たす場合に、執行官は誰の同意を得るべきか(その場所の占有者が誰か)は、解釈問題として議論しておく必要がある。私立の保育園について言えば、保育園を運営している法人と解すべきであり、その同意は、法人の代表者(理事長)の同意と解すべきであろう。監護者との間の保育契約の当事者となるのは保育園を運営する法人であり、園長が当該子の保育契約の履行・終了について法人を代表する権限を有する場合あるいは代理権を与えられている場合は、保育園の園長の同意でも足りる。しかし、園長がそのような代表権限ないし代理権を有しない場合には、園長の同意をもって占有者の同意があったと見ることはできない。

なお、(a)に列挙した1と2は、(b)の場合には条文の文言上は除外されているが、債務者が第三者占有場所に現在しないことを想定しての立言と理解すべきであろう。債務者が現在するのであれば、債務者を説得し、あるいは威力を用いることも許されると解すべきである。また、175条1項2号にいう「債務者」は、「執行の行われる場所を占有する第三者(法人の場合には占有場所に現にいる従業者(例えば担任の先生)を含む)又は債務者がその場所に現在する場合には債務者」に読み替えるべきである。他方、閉鎖された戸を開くための処分は、執行が第三者の同意を得て行われる場合には想定しがたいが、3項の裁判所の許可を得て執行がなされる場合には、可能であろう。3項の許可がある場合でも、第三者に対する威力の行使は許されない。しかし、説得まで禁止すべきかは疑問である。短時間の説得行為は許されると解したい。

引渡実施の終了の通知(規則162条)
執行官は、引渡実施が完了した場合ときは、債務者にそのことを通知する(規則163条所定の場合に引渡実施の目的を達することなく事件を終了するときは、通知は不要である)。また、第三者占有場所で引渡しがなされた場合には、その場所の占有者に対しても通知する。次の場合には、債務者あるいは第三者は子が引き渡されたことを適時に認識できるとは限らないので、この通知は迅速確実に行う必要がある。 通知は、相当と認める方法で行うことができ(民執規則3条1項、民訴規則4条)。(α)債務者に対する通知は、債務者が執行場所にいる場合には、口頭での通知で足りる([条解*2020b]737頁);その他の場合には、事柄の重要性に鑑みれば、文書で通知することが望まれる。(β)第三者占有場所で引渡しがなされる場合には、占有者への通知は文書でなされることが望まれる。(β1)占有者が法人の場合には、法人内部での連絡・記録保存の便宜のために、文書でなされることが望まれる;特に、執行場所が保育・教育施設であるときは、債務者との契約に付随する義務の履行として、債務者に対して報告する必要がある(その報告は、執行官からの通知とは別個になされるべきものである);(β1')執行場所が保育・教育施設である場合に、執行に立ち会った職員(立会者)がおれば、通知書をその者に交付し、法人内部での連絡(園長・校長や施設設置法人の代表者への連絡)は、立会者に託してよいであろう。(β2)執行場所の占有者が債務者の親族の場合に、占有者が執行に立ち会っているときは、文書でなされる必要性は低くなるが、それでも第三者が占有する場所で執行するのであり、その者の利益及び事柄の重要性を考慮すれば文書でなされることが望まれる。(β3)執行場所の占有者への通知と並んで、債務者への通知が必要であるが、その通知は執行官が直接行うべきであり、執行場所の占有者に託することは許されない。

引渡目的の達成不能による事件の終了(規則163条)
執行官が子の引渡場所に赴き、債権者又はその代理人が出頭しても、(α)子の引渡を実施することができない場合がある。(β)実施できないわけではないが、実施を完遂することが適切でない場合もある。その場合には、執行官は、強制執行の不能を理由に申立てに係る事件(子の引渡実施事件)を終了させことができ、執行不能事由を調書に記載する(規則13条4項1号・1項7号)。

前記(β)場合にも執行を終了させることができるとすると、執行不能とすることができる場合を明規する必要が出てくる。そこで、規則163条がそれを列挙した。執行不能事由となるのは、下記の場合に該当し、かつ、引渡実施の目的を達することができないことである([条解*2020b]739頁)。下記に該当するときでも、日時をずらして引渡実施を行えば目的を達する見込みがあるときは、再度引渡実施を試みるべきである。したがって、「引渡実施の目的を達することができないとき」に該当するか否かの判断に際しては、「再度試みれば目的を達する見込みがあるか」も考慮される([条解*2020b]739頁)。
  1. 引渡実施を行うべき場所において子に出会わないとき。  一時的不在である場合は、執行不能とすべきではない。例えば、一時間以内に執行場所に来ることが予期される場合には、子の到来を待つことになり、数日以内に来ることが見込まれる場合には、再度引渡実施を行うべきである。
  2. 引渡実施を行うべき場所において子に出会つたにもかかわらず、子の監護を解くことができないとき。
  3. 債権者又はその代理人が法第175条第9項の指示に従わないことその他の事情により、執行官が円滑に引渡実施を行うことができないおそれがあるとき。  これは、「円滑に引渡実施を行うことができないとき」を含む(「円滑に引渡実施を行うことができないとき、又はそのおそれがあるとき」の意味と解すべきである)。
上記の内で1の場合が最も適用範囲が狭く、かつ、執行不能とする判断を最も確実にすることができる。3に該当するか否かは、そこに「円滑に」という概念が含まれているために、判断が難しくなる。それとともに、適用範囲が広い(1や2に該当しない場合でも、3により執行不能になり得るという意味で「適用範囲」が広い)。もっとも、要件の明確化のために、該当性の判断の容易なものを独立させており、1や2に該当する場合は3から除外されることになるので(ただし、いずれに該当するかで実際上の差異が生ずる訳ではないので、その点に神経質になる必要はない)、実際に執行不能となった事件でいずれの不能事由が多いかは別個の問題である。

3において、債権者側の事情によって執行不能となることが明示されていることは重要である。「その他の事情」の中には、子の事情(例えば、自発的意思に基づき債務者の許にとどまりたい旨を口頭で述べること)も含めることができる。[条解*2020b]740頁では、次の例が3に含まれるとされている。
規則163条が執行不能とすることができる場合をかなり包括的に列挙しているので(特に3号)、これ以外の場合に引渡実施を不能とすることができる場合はあまり思いつかないが[12]、もしあれば、執行官は引渡実施の目的を達することができなかった具体的事情を調書に記載して事件を終了することができると解すべきである。

先例の中から  2号ないし3号に該当するとされた場合を先例の中から拾ってみよう(2号・3号に該当すると執行官が判断したことが事実関係に現れている事件であり、その当否が問題となった事件ではない。ハーグ条約実施法の事件、令和元年改正前の国内事件を含む)。 執行官が執行不能と判断したことに対しては、債権者は、執行裁判所(法3条後段により、執行官が所属する地方裁判所)に執行異議を申し立てることができる(法11条1項2文)。

5 意思表示義務の強制執行(177条)


5.1 執行方法

 意思表示義務は、不代替的作為義務の一種であるが、債権者には意思表示の結果として生ずべき法律効果を与えれば足り、債務者に現実の表示行為の実施を強いるのは迂遠である。そこで、法は、意思表示を命ずる債務名義の発効時点又はその後の所定の時点で債務者がその意思表示をしたものと擬制する、という執行形態を定めた。

なお、実例のほとんどは登記申請義務に関係する(不登法63条参照)。この場合には、その実効性を確保するために、なされるべき登記と抵触する処分行為を禁止する仮処分を執行しておくのが通常である(民保法58条)。登記申請以外では、次のものがある。

5.2 意思表示の擬制 − 要件と効果

要 件
)意思表示請求権を執行債権とする場合に限る。ここでいう意思表示は、広義である。一定の法律効果を伴うものでなければならないが、それで足りる。 次のものがこれに含まれる。
他方、次のものは、意思表示の擬制に服さない。
)意思表示の内容は、法律効果の発生に必要な程度に債務名義上明確に特定されていなければならない。

)意思表示を命ずる判決その他の裁判が確定し、またはその旨の和解・認諾・調停の調書が成立したことが必要である。意思表示を命ずる判決に仮執行宣言を附すことができるかについては、これを否定するのが判例・多数説である。しかし、その執行方法を間接強制とした上で、これを肯定する見解も有力である([中野*民執v5]788頁・181頁注2[中野*民執v6]826頁・190頁注2。意思表示を命ずる仮処分について[中野*2001a11]306頁)。とりわけ登記手続の協力を命ずる判決については、登記の公示機能を重視して、仮執行宣言を付すことができないとするのが多数説である(執行方法を間接強制にしたところで、仮執行宣言付判決が後に取り消された場合には、真実の権利関係が尊重されるべきであり、善意者保護規定(民法94条)の類推適用は否定されるべきであるから、結局の所、公示機能が害される)。

効 果
原則として裁判の確定または調書の成立の時に、債務者が有効適式にその意思表示をおこなったものと擬制され、執行文の付与や現実の執行処分は必要ない(例外については、後述)。ただし、意思表示の受領者が第三者である場合に、当該第三者が判決の確定証明書を求めることはあり得、確定証明書が提示されるまで当該意思表示による法律効果の発生を彼が否定することは、特段の事情がない限り、違法とは言えない。

)その意思表示が所定の方式に従ってなされるべき場合には、所定の方式に従った意思表示がなされたものと擬制される。第三者が意思表示の受領者である場合に、第三者は、厳密に見れば自己が定めた方式(特に、原告と被告とが共同して意思表示をする場合の方式)に合致していなくても、合致したものと扱わなければならない(端的に言えば、通常の方式とは別個に、意思表示の擬制がなされる場合のための方式を別途用意しておくべきである)。その意味で、意思表示の擬制は、受領者である第三者に対して方式の変更の強制力をもつ。当該第三者が適式な意思表示と扱うべきであるにもかかわらず、不適式な意思表示として法律効果の発生を否定すれば、その意思表示により生ずべき義務の不履行の責任が生ずる。

)債務者が無能力者や法人ならば、能力の補充のもとにあるいは正当な代表者によって意思表示がなされたと擬制される。

)意思表示の擬制以上の効果はない。したがって、法律効果の発生に他の要件の充足が必要な場合には、その要件が別途充足される必要がある。例:

債務名義の取消し、無効
意思表示を命じた裁判や調書が再審ないし準再審により取り消された場合には、意思表示の擬制も遡って失効する。意思表示をすべき旨の調書が成立しても、その和解が無効である場合、あるいは取り消された場合には、執行により擬制された意思表示も無効であり、あるいは取り消されたことになる。これらの場合には、実体法上の法律関係は、意思表示の存否・瑕疵の問題として扱われるべきである。すなわち、本人の意思表示がそもそもあったのか、本人の意思表示があったとして、意思表示に瑕疵があったか(錯誤の有無・取消原因の有無)の法的評価がなされ、その法的評価に従って実体法上の法律関係が決定される。

擬制の効果の発生時
原則  効果が生ずる時点は、次の場合を除き、意思表示を命ずる裁判の確定時あるいは調書成立時である。
例外  ()意思表示が確定期限の到来にかかる場合には、その期限の到来時に意思表示が擬制される(法30条1項)。

 ()債務者の意思表示が債権者に証明責任のある事実の到来にかかるときは、補充執行文(法27条1項)が付与された時に意思表示があったものとみなされる(法177条1項ただし書)。

 ()債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合には、債権者が反対給付をなしたことあるいはその提供を証する文書を提出したときに限り執行文が付与され、執行文付与の時点で意思表示が擬制される(法177条1項ただし書・同2項)。例えば、「債権者が代金を支払うのと引換えに債務者は所有権移転登記手続に協力せよ」との趣旨の判決の場合には、債権者が債務者に代金を提供又は供託したことを証明して執行文を得て、登記申請をすることになる。その限りで債権者は先履行を強いられることになるので、そのことから生ずるリスクの回避のためにも、処分禁止の仮処分を執行しておくことが重要となる。
 ()一定の期日までに債務の履行がないときは一定の登記をなすべき旨の判決が確定し又はその旨の調停等が成立した場合のように、債務者の意思表示が、債務者の証明すべき事実(債務の履行など)のないことに係る場合には、裁判所書記官は、債務者に対して一定の期間を定めて当該事実を証明する文書の提出を催告し、債務者が所定期間内に証明文書を提出しない場合に限り、執行文が付与され、その時点で意思表示が擬制される(法177条1項ただし書・同3項)。債務者が証明文書を提出できないときは、彼は、執行文付与前に請求異議の訴えを提起し、執行停止の仮の処分を得る必要がある。例えば、
上記の(ロ)(ハ)(ニ)の場合に、執行文の付与が拒絶されたときは、債権者は、その処分に対する異議(32条1項)あるいは執行文付与の訴え(33条)を提起することができる(後者の場合、請求認容判決が確定した時に意思表示が確定する)。執行文が付与されたときに、債務者が執行文付与に対する異議(32条1項)あるいは異議の訴え(34条)を提起できるかについては、(α)これにより直ちに意思表示が擬制されるのでその余地はないとする見解と、(β)これを肯定し、執行文付与が取り消されれば擬制による意思表示も遡って失効するとの見解とが対立している。

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Author: 栗田隆
Contact: kurita@kansai-u.ac.jp
1998年 12月 2日−2021年3月30日