文 献

全般

作為・不作為執行

子の引渡の強制執行(174条)

意思表示義務の強制執行(177条)

注1 実例として、次の先例がある:東京地方裁判所 平成13年12月25日 民事第48部 判決(平成10年(ワ)第1182号)(主文第3項「被告Bは同人のホームページのトップページに,被告メディアワークスは同社のホームページ(http://www.mediaworks.co.jp/alt/)のトップページに,それぞれ別紙1記載の謝罪文を投稿して,これを1か月間掲載せよ。」)

注2 同趣旨の先例として、次のものも参照:最高裁判所 昭和31年7月4日 大法廷 判決(昭和28年(オ)第1241号)も参照。

注3 栗田隆「オルタカルチャー日本版事件」岡村弘道・編『サイバー法判例解説』(別冊NBL第79号、平成15年4月)30頁(注1で引用した東京地判の解説である)。

注4 登録自動車の売却の場合を例にして言えば、長期間放置された自動車がいわゆる「不動車」となり、執行官がエンジンキーを確保することもできないとなれば、価額は極めて低くなる。この場合でも、執行裁判所は、中古車査定機関(例えばJAAI)に査定を依頼する(規則97条、法58条1項)。査定費用額(JAAIが2021年2月時点でWWWで公開している額)は、3000cc以下の普通乗用車で6500円である(出張査定の場合には、さらに出張費用がかかる)。しかし、そのような長期放置の不動車は、外国製の著名高級車種(例えば、フェラーリ)であっても、1000円と査定されることになりやすい。売却基準価額を1000円にして特別売却に付して、1000円あるいは800円(買受可能価額)で売却すれば、査定費用もまかなえず、売却費用を下回る売却となるが、目的外動産の処分のためには、それも許さなければならない。

注5 平成29年民法(債権法)改正前は、民法414条が次のように規定して、債務の類型ごとにその強制的実現方法を定めていた。

第414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
  2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
  3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
  4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

同条に関し、通説は、人の意思の自由を尊重する立場に立って、債務者の意思を抑圧する間接強制は最後の手段であるべきであると考え、改正前民法414条の解釈として、作為・不作為義務の執行につき、次のように解してきた。(α)直接強制は認められない(同条1項本文の適用対象外)。(β)代替的作為義務については代替執行がある(同条2項本文)。これについては、従来は、間接強制は許されないと解されてきたが、平成15年の民執法改正により間接強制も許容されるようになった(民執法173条1項)。(γ)不作為義務については、違反の鎮圧のための間接強制、違反結果の除去または将来のための適当な処分としての代替執行(同条3項)が認められる。

平成29年民法改正では、債務の類型に応じて強制的実現方法を定めることを民法が規定することはやめ、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令に委ねることにした(改正後民法414条1項本文。そこにいう「裁判所に請求する」は、民執法の立場から言えば例示であり、執行官が執行機関になる場合には「執行官に請求する」になる。あるいは、そこにいう「裁判所」は「執行官を含む広義の裁判所」ということもできる)。そして、総ての義務が強制執行によって実現することができるのではなく、「債務の性質」によっては強制的実現が許されないことを民法414条ただし書が明らかにしている。

注6 なお、人身保護法による救済の道もある(事例として、最高裁判所平成11年4月26日 第1小法廷判決 (平成11年(オ)第133号、同年(受)第116号)参照)。この場合の強制方法は、明文で定められていて、拘束者の拘引、拘留又は過料である(人身保護法18条)。ただ、人身保護法による救済の道は、それが特別な手続であるため、狭い。

注7 執行決定の中で、条文のこの文言以上に具体的な行為を命ずることができるかは、一つの問題となるが、執行官のなし得る行為の限度は、175条で規定されており、それ以外の行為は許されないのであるから、執行決定で、具体的行為を命ずる必要はなかろう。

注8 平成15年改正により間接強制の適用範囲が大幅に拡張され(173条1項)、いわば最後の執行方法としての役割を持つようになった。その結果、ある執行方法が他の義務について法律の規定により認められているが、ある義務については認められていない場合に、その義務をその執行方法(法律の規定により割り当てられていない執行方法)により実現することを認めるべきであると主張する必要性は、現在ではほとんどない。しかし、同改正前においては、代替執行や引渡執行について間接強制を可能にするために、そのように主張する必要があった。

注9 保全処分命令の執行の際に、競売不動産を占有している者はYのみであることを証明する書類が作成されていれば、Bに対する執行文(27条2項)は、比較的容易に得られる。Bが採り得る対抗手段は、執行文付与に対する異議又は異議の訴えであるが、いずれも当然には執行停止の効力はない。Xは、Bを相手方にして引渡命令の発令を求めることも可能であるが、この場合には、83条3項本文によりBの審尋が必要であり、かつ、引渡命令は確定しないと効力を生じないので(83条5項)、執行抗告が提起されると(83条4項)、執行の開始までに時間がかかることになる。

注10 民事執行法立案当時、日本の損害賠償制度は被害者の損害の回復を目的とし、生じた損害額以上の賠償金を与えるべきではないと考えられていて、その思想は現在も続いている(例えば、懲罰的損害賠償制度は一般的に認められていない)。となると、強制金の形であれ、債務不履行により生じた損害額以上の金銭を債権者に与えることは、許されるのかという疑問が生じた。その議論を克服するために、平成29年改正前の民法420条1項2文が損害賠償の予定額について「裁判所は、その額を増減することができない」と規定していて、これは実際に生じた損害額以上の金額の支払義務を債務者に負わせることを許容した規定であり、当事者がそのような合意をすることができるのであれば、義務履行の強制のために裁判によりそのような義務を負わせることも許されてよいであろうとの考えが成立し得た。そこで、間接強制金は、「裁判による違約金の定めである」との説明もなされた。このように立法段階では、債権者に生ずる損害額以上の間接強制金を債権者に与えることの妥当性について議論があったにせよ、民執法が強制執行制度の機能確保のためにその趣旨の規定を設けた以上、平成29年改正前の民法420条1項2文に依拠する必要はもはやない。平成29年改正により旧420条1項2文が削除されたことは、実損害額以上の強制金が許容されることに影響を与えない。

注11 171条1項2号において、予防的処分命令の前に違反結果除去命令が規定されているため、予防的処分命令も違反があった後でなければ許されないと読む余地がないわけではないが、そのように限定する必要はない。

注12 次のような場合が一応考えられ、引渡実施をすべきか否かの判断は分かれよう。

注13 ただし、これは、「成年に達した子は、引渡執行の対象にならない」ことを意味するにすぎず(もっとも、成年被後見人について類推適用を認める余地はあろう)、当面の問題に役立つものではない。

注14 法174条5項・6項で171条の規定が準用されている。また、規則13条は、債務名義の提出を受けて執行官が強制執行を行う場合と、その他の場合(裁判所が執行機関になり、執行官がその共助機関として執行行為をする場合)とを区別し、前者には同条1項・2項が適用され、後者には同条4項により1項・2項が準用されると規定しているところ、法174条1号の決定により執行官が行う引渡実施は、授権決定により執行官が行う代替行為の実施とともに、後者に含まれている。

注15 成年間近な高校生であっても、生活を親に頼っている以上、親の監護に服しており、かつ、未成年であるので監護権に服すと観念することができ、引渡しの問題が生じ得る。他方、中学を卒業して進学することなく自らの労働により収入を得て、親元から離れて自活している子については、その子も親の監護権に服すと観念すべきかの問題はあるが、引渡しの問題は生じないであろう。

注16 「円滑に引渡実施を行うことができないとき」は、その実施の試みの前に「円滑に引渡実施を行うことができないおそれがある」と認定されるであろうから、前者を法文に挙げる必要はないと判断されたものと思われる。ただ、例外的に、執行官が「円滑に引渡実施を行うことができないおそれがある」と認定できないまま引渡実施を試みたが、結果的に「円滑に引渡実施を行うことができなかった」という場合はあり得よう。したがって、法文の「」「円滑に引渡実施を行うことができないおそれがあるとき」は、「円滑に引渡実施を行うことができないとき、又はそのおそれがあるとき」の意味と解すべきである。

注17 ワンルームマンション(建物)の引渡で、通常の単身者が第三者として占有を開始した場合を考える比較的分かりやすい。彼は1月以内に再度の転居を強いられることになり、経済的負担は増すが、隣近所との人間関係はまだ生じておらず、生活環境の把握に時間を掛けているわけではないので、当該建物の占有を係属する利益それほど大きくない。しかし、学齢期の子供のいる家族については、家財道具も多く、再度の転居は大きな負担になろう。また、子供が転校してきている場合には、再度の転校の可能性も生じ、大きくなる。ただ、短期間での再転居・再転校の負担は大きいが、隣近所との人間関係の形成による利益はまだ生じていない。本文の「占有継続の生活利益はそれほど大きくなっているとは言えない」は、これらのことの概括的な(おおざっぱな)表現である。再度の転居の不利益が小さいと考えているわけではない。