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民事執行法概説

債権執行2/3


関西大学法学部教授
栗田 隆

5 執行競合・配当要求


5.1 執行競合

二重差押え 一部差押え
観念的にのみ存在する債権については、動産執行の場合のような二重差押えの禁止は実行困難であるので、すでに差押えまたは仮差押えの執行のあった債権に対してさらに差押命令の申立てがなされた場合には、重ねて差押命令が発せられる(二重差押え)。また、債権執行では、差押対象債権が単一ならば、その債権額が請求債権額を超えている場合でも、その全部を差し押えることができる。しかし、その場合でも、実務では請求債権額に限定しての差押えの申立てが多く、そのような差押えを一部差押えと言う。

執行競合による一部差押えの効力の拡張(149条
同一の債権について、差押えが競合する場合には、取り立てられた金額を執行債権者に平等に配分することが必要となる。この平等確保は、全部差押えが重複した場合のみならず、全部差押えと一部差押えとが重複した場合、および一部差押えの重複であるが差押えの対象額の合計が目的債権額を超過する場合にも生ずる。仮差押えの執行と差押えとが重複する場合も同様である。これらの場合に、次のことが認められている。
執行競合の時的限界
執行競合は、次の時期的制限に服する。

5.2 配当要求(154条

債権執行においても、配当要求が認められている。配当要求の資格を有するのは、次の者である。
これに対して、次の者は配当要求をなしえない。
時 期   配当要求の時期は、差押えの発効後、法定の配当加入終期(法165条)までに限る。

手 続   配当要求は、債権の原因・額を記載した配当要求書を差押命令の発令裁判所に提出してなす。執行裁判所は、(α)配当要求を適法と認めるときは、配当要求があった旨の通告書を第三債務者に送達する(法154条2項。規145条27条も参照)。(β)不適法な配当要求で補正がないときは、配当要求却下の決定をなす。この決定に対しては、執行抗告ができる(法154条3項)。不適法な配当要求の受理に対しては、これにより不利益を受ける他の債権者は執行異議を申し立てることができる。

効 果   配当要求債権者は、差押債権の換価金から配当等を受ける地位を取得し、その範囲で執行手続上の地位を認められる。

配当要求の効力の発生時期  配当要求の効力は、執行裁判所が配当要求書を受理した時点で生ずる(法145条3・4項と154条2項との対比)。他方、配当要求を原因とする供託義務は、第三債務者への通告書の送達の時点で生ずる。配当要求書の受理後、通告書の送達前に第三債務者が差押債権者に弁済をした場合には、その弁済により第三債務者が免責されるのみならず、執行債権者の給付保持力も影響を受けない。配当要求債権者は、結果的にその弁済金から満足を受けることができない。これに対して、第三債務者が供託した場合には、配当要求債権者は配当等に与ることができる[2]。

後発申立ての配当要求効  後発の債権差押えの申立て自体に配当要求の効力が認められるかについては、見解が分かれている。
  1. 肯定説  これは、次の2つの理由による。(α)債務名義に基づき債権執行の開始を求めた債権者の地位は、執行の一部たる配当のみを求めた債権者の地位を含むと解すべきである。(β)反対に解すれば、差押えの申立て後・差押命令の送達前に供託がなされた場合に、差押命令を申し立てた債権者が配当要求債権者より不利な立場に立つことになる。
  2. 否定説  否定説は、債権の差押えの申立てをしただけでは、他の特定の差押事件において配当を求める意思が手続上明確になっているとはいえないことを根拠とする。後発の申立債権者が物上代位権者であっても同様である。最判平成5年3月30日(昭和63年(オ)第1453号)。

6 配当(165条以下)


6.1 総説

競合債権者がいない場合には、そして権利供託がなされなければ、差押債権者は差押債権の取立てあるいは転付等により満足を得ることができる。この満足が得られると、債権執行手続は、配当等の手続を経ることなく終了する。

競合債権者がいる場合には、差押債権の換価金は、執行機関の管理下におかれる。換価金は、通常、供託所に供託され、執行裁判所はその支払委託をなすことにより換価金を債権者の満足に充てる。競合債権者がいない場合でも、権利供託があれば同様である。

6.2 配当等を受ける債権者 − 配当加入終期(165条

債権執行では、法定の配当加入終期までに差押え、仮差押えの執行、配当要求または交付要求をした債権者が配当等を受ける。配当加入終期は、次の時(時刻)と定められている(165条)。
法定の配当加入終期以前でも、次の場合には配当加入が排除される。

6.3 配当等の手続(166条

配当等を実施すべき場合
次の場合には、執行裁判所が配当等(配当又は弁済金交付)を実施する(動産引渡請求権の差押えの場合や管理命令が発せられた場合も含めて述べる)。 これ以外の場合(典型的には、供託義務を負わない第三債務者が執行債権者に弁済金を支払った場合)には、執行裁判所による配当等は行われない(その必要がないからである)。

債権執行における配当に固有の問題
債権執行における弁済金交付・配当の手続には、不動産執行に関する規定が広く準用されるが(法166条2項、規145条)、債権執行の配当手続に固有の問題として、次の問題がある。
 ()競合債権者の中に、何らかの事情で請求債権額に満たない金額で一部差押えをした債権者(例えば、特定の売買代金債権の実債権額は1000万円であるにもかかわらず、その債権額400万円と認識して、その金額で差押えをした請求債権額700万円の債権者)がいる場合でも、執行競合により差押えの効力が拡張され、各債権者が債権額に応じた配当額を受けることになる。結果、その債権者への配当額が当初の差押額を上回る場合がありうる。この場合に、当初の差押額を満足申立限度額と考えれば、それを超える金額の配当は処分権主義と調和しないことになるが、この場合の一部差押えはそのような趣旨でなされるのではなく、差押債権の債権額の誤認等によりなされたと解するのが適当であるので、差押額を超えた配当も許される。

 ()差押債権が担保権者の物上代位の目的である場合、物上代位権の行使にも配当要求の終期の制限が課せられる。配当要求の終期の到来により差押債権はそれまでに手続に参加した債権者の満足に充てられる配当財団を形成し、これは民法304条の払渡しに相当すると考えるべきだからである。物上代位権者は配当加入終期までに193条1項に基づく差押命令が第三債務者に送達された場合にかぎり優先的に配当を受けることができる(動産先取特権に基づく物上代位につき、最判平成5年3月30日民集47巻4号3300頁)[1]。

 ()執行裁判所が法153条により差押禁止範囲を変更する場合に、競合債権者ごとに異別に定めることができ、その場合には、複数債権者に共通する差押許容範囲でのみ執行競合が問題となり、競合部分についてのみ供託義務が生じ、配当が必要となる。

 ()給料その他の継続的給付の差押えの場合には、各支分給付ごとに配当加入の終期が設定されるが、配当額の計算にあたっては、執行債権の元本額は当初の執行申立書・配当要求書に記載した請求債権額を基準とする。各回の配当において、それ以前の配当による満足を控除する必要はない(最初から配当加入した者が途中から加入した者より早く全額の弁済を受けることになる)。
 ()法152条所定の債権(差押禁止債権)が差し押さえられた場合には、債務者に対して差押命令が送達された日から4週間を経過するまでは配当等を行うことができない(166条3項)。ただし、執行債権の中に151条の2第1項所定の扶養義務に係る債権が含まれている場合には、速やかにその債権に配当等を与える必要があるので、差押命令が債務者に送達されてから1週間が経過すれば、配当等を実施することができる(166条3項かっこ書)。

7 動産引渡請求権に対する執行(163条


債務者所有の動産を第三者が占有し、第三者が動産執行において目的物の差押えに応じない場合には、債務者が第三者に対して有する動産の引渡請求権が執行対象となる(163条)。差押債権者は第三債務者に対して執行官への動産引渡を請求する。引渡しを受けた執行官は、動産執行の換価手続により動産を換価し、売得金を執行裁判所に提出する。この換価の点に金銭債権に対する債権執行と異なる特殊性があるが、その他の点(管轄裁判所、配当加入の終期、配当実施機関等)は、一般の債権執行と同じである。

貸金庫内の動産の引渡請求権の差押え
特に問題となるのは、債務者が銀行の貸金庫内に保管している動産である。銀行は、貸金庫の内容物の差押えに任意に応ずるべきであるが、これに応じない場合には債権者は債務者の銀行に対する貸金庫契約上の内容物引渡請求権を差し押さえる方法により、強制執行をすることができる(最高裁判所平成11年11月29日第2小法廷判決(平成8年(オ)第556号) )。

二重差押え
1個の動産引渡請求権に対して複数の差押命令が発せられ,差押えの競合が生じている場合に,配当手続を実施する執行裁判所は,165条各号所定の時期までに差押え,仮差押え又は配当要求をした債権者を配当を受けるべき債権者として配当期日に呼び出さなければならない(法165条)。

この場合に、後行事件の裁判所は、先行事件の存在をどのようにして知るかが問題となる。
  1. 第三債務者が供託する場合(165条1号)  第三債務者からの事情届出(156条3項)により執行裁判所は競合債権者の存在をすることができる。
  2. 取立訴訟が提起された場合(同条2号)  競合債権者が存在するときは義務供託が命じられるので(157条4項)、同様に第三債務者は事情届出の義務を負い、その事情届出により執行裁判所は競合債権者の存在を知ることができる。
  3. その他の場合(165条3号・4号)  明文の規定はないが、同様に事情届出の義務を負わせるのが本来であろう。執行裁判所は、165条3号又は4号所定の事由が生じた時に、職権で、事情届出を催告することができると解したい。

上記のcの場合のうちで、165条4号の場合に関し、最高裁判所 平成18年1月19日 第1小法廷 判決(平成17年(受)第761号が次のように説示している:後行事件の執行裁判所は,第三債務者が提出した陳述書から先行事件の存在を知った場合,配当手続の実施に備えて,後行事件の存在を先行事件の執行裁判所に知らせる民事執行手続上の義務を負う;後行事件の差押債権者には,先行事件で実施される配当手続に参加するために,自らの差押事件の執行裁判所及び先行事件の執行裁判所に対し,自らの差押事件の進行について問い合わせをするなどして,競合差押債権者の存在を認識させる措置を執るべき義務はない;したがって,このような措置を執らなかったことは、過失相殺の対象となる過失になりえない。

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Author: 栗田隆
Contact: kurita@kansai-u.ac.jp
Last Updated: 1998年2月2日−2020年9月23日