破産法学習ノート
破産債権の届出・確定関西大学法学部教授
栗田 隆 |
by SIFCA |
破産復権の届出・調査・確定に関する 文献 判例
破産法上の効果
破産債権者が破産手続に参加するためには、破産債権の届出が必要である(111条1項)[9]。すなわた、破産債権の届出は、次のことのために必要である。
債権届出は、破産手続への参加(その主たる内容は、配当を受けること)に向けられた一種の申立て(したがって、訴訟行為[22])とみてよい。届出は、取り下げることができ、また、裁判所の決定により却下されることもある(120条5項)。
実体法上の効果(時効完成猶予効)
債権届出には、実体法上の効力として、時効完成猶予の効力が認められている(民法147条1項4号)。この効力は、破産管財人あるいは他の債権者から異議等を述べられたことによっては、失われない。
異議等が述べられても破産債権者が権利を行使していることには変わりはなく、異議等は単に破産債権の確定を阻止する効力を有するにとどまるからである (旧法下の先例であるが、最判昭和57.1.29民集36-1-105)。
(ア)時効更新効 ところで、民法147条1項1号から3号までの方法による債権の確定は、債権者と債務者との間の確定を意味する。4号についても同様に解すべきか、それとも、4号については、破産債権者間での確定で足りる(破産者が届出債権に異議を述べていても、債権者間で確定すれば147条2項の時効更新効が生ずる)と解すべきかが問題になる。後者の選択肢を採るべきであろう。 なぜなら、(α)破産手続が開始されると、破産債権者は破産者が異議を述べている場合でも、破産者との間で破産債権を確定する手段を与えられていないからである(大正11年破産法の下では、異議を述べた破産者に対して債権確定の訴えを提起することが認められていたが(244条2項)、現行法は、これを廃止した(破産手続中に破産者に債権確定の訴えに応訴することを強いるのは酷であり、また、免責制度の利用が広がっている現在では多くの破産債権は免責の効力を受け、破産者との間で確定する実益は乏しいとの理由による);(β)もちろん、異議を述べた破産者との間で破産手続中に債権の存在を確定する手段が与えられていないことは、 本来から言えば、「破産手続終了後6月を経過するまでは時効は完成しない」といった時効完成猶予効を根拠付けるにすぎないが、 時効完成猶予効のみが認められるのであれば、債権者は破産手続終了後直ちに裁判上の請求等の措置をとることを迫られる。 破産者は破産手続終後間もない時期であればまだ疲弊しているであろうと想定されるので、裁判上の請求等の措置を執ることを破産債権者に迫るのが政策論として妥当かも問題である; (γ)債権者間での確定には、破産管財人が中立的な立場から関与するのであるから、債権者間で破産債権の存在が確定した場合には、債権の存在の確実性が高く、その確実性の高さは、破産者との関係で時効更新効を根拠付けるに足ると説明してよいであろう。
もっとも、破産者が異議を述べている場合には、破産債権者間で破産債権の存在が確定判決と同一の効力をもって確定されたことをもって、民法169条の時効期間延長の効果を肯定してよいかは、別個の問題である。 前述の(α)や(β)の事情は、同条の適用を根拠付ける事情にはなり得ない。同条の効果は、債務者との間で債権が確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものにより確定された場合に適用される規定と解すべきであろう。
(イ)債権調査留保型の場合 異時廃止が見込まれる場合には、裁判所は破産手続開始決定に際して、債権届出期間及び債権調査の期間・期日を定めないでおくことができる。この場合でも、消滅時効の完成が迫っている債権者は、破産債権を届け出て、民法147条1項4号の時効完成猶予効を得ることができる[73]。 この場合に、債権調査が行われないまま異時廃止になったときは、民法147条2項の時効更新の効果が生ずることはないが、147条1項柱書内のかっこ書が適用され、異時廃止決定確定の時から6月間は時効の完成が猶予される。
届出書及びその提出先
届出は、書面により(規則1条1項)、裁判所に対してする(破産債権の届出に時効完成猶予効を認める上では、これを裁判上の請求等の一種と位置づけるのがよく、そのためには、裁判所に向けてなされる権利行使行為とする必要があるからである)。裁判所は、届出をしようとする者に、届出書の写しの提出を求めることができる(規則32条5項)。破産管財人が認否をする上でそれを必要とするからである。
ただし、破産管財人を裁判所に提出すべき書類の受領担当者とする等の運用がなされる場合があり[75]([岡ほか*2017a]59頁・60頁注8・73頁)、その場合には、その運用に従い破産管財人を経由して提出する(この場合には、時効完成猶予効及び届出期間の遵守は、届出書を破産管財人に提出した時を基準にすべきであり、破産管財人は届出書に受付日を記載すべきである)。
債権届出が皆無の場合
債権届出期間内に届け出られた債権が皆無の場合には、破産手続を続行する意味はないから、手続をすみやかに終了させるべきである。218条1項1号(債権者全員の同意を得ての廃止)の類推適用により、破産者は破産手続廃止の申立てをなすことができるが、破産者からの申立てがない場合には、職権で終了させることになる。その方法については、見解が分かれている(後述)。
届出の催促
破産法は、破産債権者が破産債権の届出をすべきものとしており、届出なしに破産管財人が破産債権を認めること(自認)を否定しているが、そのことは、裁判所や破産管財人が破産債権者に届出を催促することを禁止するものではない。
むしろ、破産財団の公平な分配のために、破産債権の届出の催促は積極的になされるべきである(もちろん、虚偽債権の届出を奨励する意味ではない。実務上の工夫について、[岡ほか*2017a]60頁参照)。
(a)裁判所 裁判所は、破産手続開始決定をした後、付随的処分として、知れている破産債権者に破産債権届出期間等を通知する(32条3項1号・32条1項3号・31条1項1号等)。裁判所が破産債権者を知るために、次の手段がある。
(b)破産管財人
別除権を有しない一般債権者は、次の事項を届け出る(届出書に記載する)。
添付書類(規則32条4項)
債権の帰属主体以外の者による届出
届け出られるべき破産債権の帰属主体以外の者がその債権を行使する権限を有する場合には、その者も届出をすることができる。例
金融機関の破産の場合の特例
金融機関について破産手続が開始された場合には、預金保険機構が預金者表を作成して裁判所に提出し(金融更生特503条)、この提出をもって預金者等の債権届出とみなされる(505条)。預金者等は自ら破産手続に参加することができるが(裁判所への届出が必要である。506条1項)、参加しなかった預金者等については、預金保険機構がその者のためにその後の破産手続に属する行為をし、及び債権確定訴訟を追行する(507条)。
オプトアウト方式による代理である(507条では、「機構代理預金者」あるいは「機構代理債権」という言葉が使われている)。
この代理を任意代理と位置づけるべか法定代理と見るべきかが問題となるが、金融更生特507条が機構の一定の行為について民訴法32条2項1号又は2号に掲げられている行為等をする場合には、機構代理預金者の授権を得なければないないとしている点等に鑑みれば、法定代理と位置付けるのがよく、したがって、送達については、民訴法102条1項の類推適用があると解すべきである。
別除権者は破産債権の届出をしなくても別除権の行使について影響を受けない。しかし、彼が、破産債権者として権利行使をする場合には、彼は、別除権の行使によって回収できない部分(不足額)について(不足額を基準にして)配当を受けることができるにとどまり(108条1項)、かつ、破産配当を受けるためには破産債権の届出が必要である。 破産管財人や裁判所が別除権の目的財産や見込み不足額についての情報を予め得ておく必要があるので、別除権者は、破産債権の額・原因などの事項(一般債権者の届出事項bの1−5)の外に、次の事項を届け出なければならない(111条2項)。 準別除権者についても同様である(111条3項)
別除権者が一般債権者としてのみ届出をなし、別除権の目的物と予定不足額の届出をしなかったところ、それが一般債権として異議等なく確定した場合に、別除権の放棄があったと見るべきかについては、争いがある[1]。
破産手続を円滑に進めるためには、破産債権届出期間を設定し、それを遵守させることが好ましい。しかし、現実には、様々な理由で、期間を遵守することができないことがあり、期間経過後の届出を一切許さないとするのは酷である。そこで、破産法は、次の2つの態様で、期間経過後の届出を許している。
(a)一般調査期間又は期日(31条1項3号。118条3項・121条9項により変更された場合には変更後のそれ)の経過又は終了後に届出がなされる場合には、次の要件が満たされることが必要であり、かつ、 届出債権について特別調査がおこなわれ、その費用は届出債権者の負担となる(後述(b)参照) 。
破産手続開始前に原因のある停止条件付債権は、停止条件成就前(したがって債権としての効力が生ずる前)に届け出ることができ、112条3項の適用対象とすべきか否かが問題となる。(α)原則として3項の対象にならないとしつつ、条件成就の可能性が低い等の理由により停止条件付債権として届け出ることを期待することが困難である場合に、届出期間経過後に生じた債権(3項の適用対象)になるとする見解(旧会社更生法に関し[条解*1987a]588頁)と、 (β)その場合でも3項の対象にならず、1項の規定により救済されるにとどまるとする説([条解*2014a]811頁)とに分かれる。なお、3項の対象となる債権であっても、債権者は、将来発生することのある債権(例えば、破産管財人の契約解除を条件に発生する債権)として、届出期間内に届けることも許されるべきである(そうすることにより、彼は特別調査の費用負担を免れることができる。前記の例では、破産者の相手方は、債権届出期間内に破産管財人に対して確答の催告(53条2項)をするとともに、確答前に将来発生することのある債権として届け出ることができる)。
また、期日調査の場合には、期日の続行が可能であり(121条10項参照)、かつそれが広く行われていることとの関係で、112条1項にいう「一般調査期日」には続行期日が含まれるのか(「一般調査期日の終了」は「続行期日を含んだ一般調査期日の終了」を意味するのか)が一応問題となりうるが、続行期日も含まれると解されている([条解*2014a]809頁)。
(b)債権調査のために設定された期間・期日の終了までに届出がなされる場合 届出期間内に届出をすることができなかったことについて破産債権者の責めに帰すことができない事由は必要ない。しかし、
上記にいう「特別調査」の機会として、裁判所は、特別調査期間を定めなければならず(119条1項)、必要があれば特別調査期日を定めることができる(122条1項)。いずれであっても、その費用は、後れて届出をする破産債権者の負担となる(119条3項・122条2項)。
破産手続開始から債権債権調査までの流れの例
4月1日 | 破産手続開始決定(30条)、破産債権の届出期間の決定及び調査期間又は調査期日の決定(31条1項)、公告(32条1項)等 | ||
5月1日 | 6月1日 |
破産債権の届出期間(31条1項1号、破産規20条1項1号) | ||
6月1日 | 6月20日 |
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書面による一般調査
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期日における一般調査
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7月1日 | 7月14日 |
一般調査期間(破産規20条1項3号) | 7月14日 |
一般調査期日(破産規20条1項4号) 続行されることもあり、その場合には、1日では終らない(極端な場合には最後配当の少し前まで続行される)。 |
書面による特別調査
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期日における特別調査
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8月20日 | 8月30日 |
一般調査対象債権以外の適法な届出債権について、裁判所は特別調査期間を定めなければならない(119条1項本文・2項)。 |
8月30日 | ただし、裁判所は、必要があると認めるときは、 特別調査期日を定めることもできる(122条1項本文)。 |
破産債権届出期間内であれば、届出内容を変更することができる。
届出期間経過後に届出内容を変更する場合には、他の破産債権者に不利な変更は破産債権の新たな届出に準じて扱われる。すなわち、112条1項・2項の準用を受け(112条4項)、また、119条1項・122条1項の適用を受ける(119条2項後段・122条2項)。不利でない変更の届出については、これらの法条の適用ないし準用はない。
届出後の債権移転(届出債権の承継)
債権はさまざまな事由により移転するが、一定の場合には債権移転の通知や債権を移転させる命令の送達が必要であり、他方で必要がない場合もある。このことは、債務者について破産手続が開始された後でも変わらない。それを一瞥しておこう。
上記の通知あるいは送達は、破産債権への配当の実施機関である破産管財人になされるのが本則である。特に、配当金の交付直前の段階で債権譲渡や転付がなされる場合には、破産管財人に対して通知又は送達がなされていなければ、債権の移転を破産管財人に対抗することができず、破産管財人が旧債権者にした配当金交付は、破産債権の取得者との関係でも有効となる。ただ、破産手続開始の直前に債権譲渡の合意や転付命令の申請があった場合については、債務者への通知や送達が破産手続開始後に到着する場合もありえよう。 その場合に、破産管財人に宛てて通知や送達をやり直すことが好ましいとはいえ、それが絶対的に必要とすべきかは問題である。債務者に対抗するための要件としての債権譲渡の通知の主たる機能は、過誤払いの回避であり、債務者の確定日附のない承諾でも足りることを考慮すれば、破産手続開始前になされた債権譲渡についてその通知が破産手続開始直後に破産者に到着したことを破産管財人が争わないのであれば、債務者の破産手続においてその債権譲渡を主張することができるとしてよいであろう(譲渡人について破産手続が開始された場合に、 その破産手続との関係ではどう考えるべきかは別個の問題である)。転付命令の送達についても同様である。
なお、破産債権の差押えにより、差押債権者は破産債権の取立権限を取得する(ここでは転付命令が発せられていないことを前提にしている)。差押命令により債権自体が差押債権者に移転するわけではないが、差押債権者が配当金受領権者になる点では、転付命令による破産債権の移転の場合と変わらず、その取扱いはこれに準ずる。例えば、差押債権者が取立権限の取得を破産管財人に主張することができるようになるためには、差押命令が破産管財人に送達されていることが必要である。
届出名義の変更の届出
届け出られた破産債権を取得した者は、裁判所に届出名義の変更を届け出て、届出名義の変更を受けることができる(113条、規則35条。代位弁済による原債権取得の場合の例(単なる実例)として、最判平成9.9.9
判時1620号63頁参照)。裁判所への届出に際しては、債権の取得原因を証する文書、及び対抗要件として通知等が必要な場合にはその通知等がなされていることを証する文書も提出しなければならない(届出書に添付する)。破産債権の差押えによる取立権限の取得もこれに準ずる。
113条の文言中の「届出名義の変更を受ける」の裏返しとして、「届出名義の変更をある者が認める」ことが想定される。その「ある者」が誰であるかは、条文上明示されていないが、破産債権の届出は裁判所に宛ててなすものであるから、届出名義の変更の届出も裁判所に宛ててなすものと解すべきであることを前提にすれば、「届出名義の変更を認める」者は、裁判所と解すべきである(裁判所内部において裁判官がするのか裁判所書記官がするのかが問題になるが、ここでは立ち入らない)。
名義変更の届出がなされた場合には、裁判所は、添付書類に基づき債権の移転が有効になされているかを判断し、有効であると認める場合には、それを前提にしてそれ以後の手続を進める。既に破産債権者表が作成されている場合には、裁判所書記官が届出名義の変更があったことを記載する。
債権移転について争いがある場合
債権移転の当事者間で移転について争いがある場合に、その旨を破産債権者表に記載し、誰に帰属しているかの争いの解決は当事者間の訴訟等により解決させるよりしかたない(ただし、転付命令による債権の移転については、執行債務者である旧債権者は民事執行法で用意されている方法によってのみ転付命令を争うことができ、転付命令が効力を有する限り、破産事件を担当する裁判所は転付命令に拘束される)。
したがって、裁判所が届出名義の変更を認めるか否かの判断(ないしその判断に基づく裁判所書記官の処分──破産債権者表への記載)は、旧債権者・新債権者間の紛争を解決するための訴訟の開始責任を分配する機能を有する。その判断は、現行法上は裁判の一種として規定されていないが、提訴責任の分配という重要な機能を営むことを考慮すれば、裁判所は、双方に主張と証拠の提出の機会を与え、また、その判断(ないし裁判所書記官の処分)を双方に告知すべきである。実質的にみれば、その判断は裁判の一種であり、届出名義変更の届出は申立ての一種である(ただし、転付命令による債権の移転の場合には、そのように解する必要はなく、破産債権者表における届出名義の変更の記載は、転付命令に従った処分とみてよい)。
破産手続開始前の代位弁済の場合
弁済者代位の規定(民法499条以下)により原債権(代位弁済がなされた債権)を取得した者は、求償権の確保のために原債権を行使することができる。
(a)求償権が破産債権で、原債権が優先的破産債権である場合には、原債権を破産債権として届け出る方が有利である(原債権を財団債権として行使することができるときは、もちろんそうする)。この場合に、償権の額が原債権額を上回る部分(超過部分)があるときは、原債権を破産債権として届け出た上で、求償権のうち超過部分を破産債権として届け出ることができる。 このようなことは、例えば、優先権の認められる債権について保証委託契約が締結され、その契約中で求償権の利率が原債権の利率よりも高く設定されていて、破産手続開始前に保証人が保証債務を履行した場合に生じうる。
(b)求償権のために担保権が設定されている場合には、別除権を行使して回収することができなかった不足額について、原債権を破産債権として行使するのがよいので、求償権を別除権付債権として届け出るとともに、不足額の範囲で求償権の確保のために原債権を行使する旨を明示して、原債権を届け出ることもできる。この場合に、破産債権として原債権のみが届け出られたとき、原債権が被担保債権でないことを理由に不足額主義の適用はなく、破産手続開始時の原債権額を基準にして配当を受けることができるかの問題が生じうる。不足額主義の制度の趣旨に照らせば、同制度の適用を肯定すべきである(別除権の行使により求償権が消滅した範囲で原債権は消滅し、残存する原債権額を基準にして配当を受ける)。その点からすれば、代位弁済者が原債権のみを届け出ることは不適切であり、求償権、別除権の目的及び予定不測額も届け出るべきである(111条2項)。
(c)なお、求償権について平成29年改正前民法174条の2(現169条1項)の適用を受けるためには、求償権自体も届け出てその確定を経ることが必要であるとされている(最高裁判所平成7年3月23日 判決(平成3年(オ)第1493号))。債権者から破産債権が届け出られた場合には、保証人の求償権についてまで調査がなされることはなく、かつ、保証人が代位取得した債権は保証人の求償権の確保を目的とする従たる権利だからである。このことを考慮するならば、求償権者は、原債権を破産債権として届け出るとともに、原債権との関係を明示して求償権自体を届け出ることもできると解すべきである。
破産手続開始後の代位弁済の場合
破産債権の届出後に第三者(受託保証人等)がその破産債権について全額弁済をした場合に、弁済者は代位取得した破産債権(原債権)について届出名義の変更の届出を受けることができるが、それとは別個に求償権(破産手続開始前に原因があるものとする)を届け出ることができるかについて、争いがある(後述「全部義務債権」の項を参照)。しかし、この場合でも、求償権者は、原債権と求償権との関係を明示して、両債権の確定を得ることができると解すべきである。
なお、弁済者が求償権のみを破産債権として行使しようとする場合には、原債権について届出名義の変更を受けた上で、原債権の届出を取り下げることになるが、そのような行動をとることの実際上の必要性はないであろう[2]。
租税等の請求権や罰金等の請求権が財団債権に該当しない場合、すなわち破産債権である場合に、(α)その性質上、債権の真実性が一応推定され、(β)他の破産債権者に異議権を認めても、その適切な行使が期待できない(破産管財人に争う権利を認めれば足りる)と考えられる([小川*2004a]172頁)。そこで、これらについては、次の特別な取扱いが規定されている(114条)。
(1)債権確定前の取下げ これは自由にできる。再届出も許される。
(2)債権確定後の取下げ これも可能である。取下げの趣旨については、次の二つの可能性がある。いずれの趣旨かを明示して取下げの意思表示をするべきである。いずれにせよ、再届出は許されない。
債権確定後の取下げを認めない見解もある。この見解は、破産債権者表における当該債権の記載が確定判決と同一の効力を有すること(124条)を根拠にする。しかし、確定判決の 場合と異なり、手続自体はいまだ継続しており、確定判決と同一の効力の除去のための措置(破産債権者表における記載の抹消)は容易にでき、かつ届出の取下げが破産手続の終結までというそれ程長くない期間に限り許されることを考慮すれば、債権届出の取下げによる既判力の除去が法律関係の安定を害するとは思われない。また、裁判所が下した判決の既判力を当事者の意思で消滅させることは、判決をなした裁判所の威信を低下させることになるが、破産債権者表に生じた確定判決と同一の効力については、そのような問題は生じない。それゆえ、債権確定後も、前記1の意味での取下げも認められるべきである。
もっとも、債権確定のための訴訟(破産債権確定訴訟や査定異議訴訟)を経て破産債権の存在が確定した場合には、1の趣旨での取下げを認めることは、その確定判決の既判力ある判断をないがしろにすることになるので、許されないと解すべきである(2の趣旨の取下げはなお許される)。
用語の定義(規約)
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破産財団に属する財産は、破産債権者に分配される。その分配について破産者も利害関係を有する 。しかし、ある届出債権の存在・内容を破産者のみが争う場合に、その争いを破産者と届出債権者との間で訴訟等により解決するまでその届出債権に配当を与えないのがよいかについては、その他の要素も考慮する必要がある。(α)破産債権の確定手続に破産管財人を関与させ、破産管財人が中立的立場から各届出債権を調査するならば、多くの場合に、破産債権は客観的に正しく確定することができ、破産者の利益はこれによりかなりの程度守ることができる; (β)破産手続が開始されることにより、破産債権者は多くの場合に弁済期から後れて不十分な満足しか得られない状況に置かれ、そのことにより大きな不利益を被っているのであり、破産者のみが届出債権の存在・内容を争う場合に、そのことによりさらに満足を遅れるのは、妥当とは言えない; (γ)破産者も経済的に疲弊しており、届出債権の存在・内容を争うときに、破産手続開始から間もない段階で訴訟によりそれを確定するだけの余裕はないのが通常であろう; (δ)債権者間で確定した破産債権が実際には存在しなかった場合には、事後的に破産者からの不当利得返還請求により調整することも可能である。こうしたことを考慮して、配当の前提としての破産債権の確定は、破産管財人を関与させた上で[26]、破産債権者間で行うものとし、破産者には異議を述べる機会は与えるが、彼の異議は破産債権の確定には影響しないものとされたと考えられる。
作成者 届出のあった破産債権を集団的に(破産管財人及び届出をした全ての破産債権者を関与させて)確定していくための準備として、破産債権者表を裁判所書記官が作成する。
記載事項 次の通りである。
届出のあった債権1つにつき、破産債権者1名を観念して破産債権者表を作成する。ただし、請求権競合の関係にある複数の債権については、一人の破産債権者が請求権競合の関係にある複数の債権を主張していると観念する。通常訴訟において予備的に併合されるべき関係にある複数の請求についても同様である。同一の連帯債権(民法432条)が複数の連帯債権者により各別に届け出られた場合には、それらの者を一つのグルーブにまとめるべきである。
破産債権者表の形式・方式 破産債権者表の形式は、比較的自由である。破産債権者表において債権届出書の内容を引用(参照指示)することも許される。なお、各破産債権者ごとの記載部分を「破産債権者表(個別)」という。これとの対比において破産債権全体に関わる事項を記載する用紙を「破産債権者表(全体)」ということができる。
(a)表方式 各破産債権者ごとに上記の記載項目欄及び破産管財人による認否や債権確定手続の結果の記載欄を設定し、各行に各届出債権の届出項目を記載する方法で作成することにより、一覧性の高い表を作ることができる。
(b)パインダー方式 各破産債権者ごとに1枚の用紙を用いて破産債権者表(個別)を作成する方式である。
(c)届出書等引用方式 上記の2つの方式のいずれにおいても、届出書や配当表の記載事項を引用することができる。例えば、実質的には(b)の方式になるが、破産債権者表に記載すべき事項の標目を表紙に列記し、届出事項については、「別紙届出書記載の通り」と記載し、表紙の後に破産債権届出書(の写し)を添付することもできる[35]。また、「破産債権者表」との標題が付された用紙に「この破産債権者表は、債権認否書及び債権届出書と一体となるものである。」との一文を添えることもある[36]。
利害関係人の閲覧 利害関係人は、破産債権者表の閲覧を裁判所書記官に請求することができる(11条1項。破産債権者表は、裁判所書記官が作成する文書であるが、同項の「裁判所」は「裁判所内部での役割分担を考慮しない意味での裁判所」であり、同項の「裁判所が作成した文書」に含まれる)。利害関係人のうちで重要なのは、破産管財人、届出をした破産債権者及び破産者である。
記載事項の更正(115条3項) 破産債権者表の記載に誤りがあるときは、裁判所書記官は、申立てにより又は職権で、いつでもその記載を更正する処分をすることができる(115条3項)。届出債権者の申立てにかかわらず裁判所書記官が更正をしないときは、届出債権者は、裁判所に異議申立てをすることができる(破産法13条、民訴法121条。[小川*2004a]162頁参照)。 こうした規律の前提として、破産債権者表への記載は公証行為にすぎず、判断作用を含まず、裁判所書記官は固有の権限により更正をすることができるとの考えが採られている([小川*2004a]161頁参照)[33]。破産債権者への記載が公証行為であることは、例えば、破産債権者表が債権届出書や認否書を引用する方式で作成する場合に典型的に現れる。 なお、裁判所書記官の処分に対する異議申立てを却下する決定に対しては、民訴法328条1項により抗告をすることができ[31]、異議申立てを認容する決定に対しては、これにより不利益を受ける相手方は、通常抗告をすることができる[32]。
破産管財人への交付 破産債権者表は、破産管財人に交付され、破産管財人は各破産債権について認否を行う。
有名義債権であることの確定
届出債権に名義があるか否かは、その債権の確定手続の開始責任の分配を左右する点で重要であり、この点もどこかの段階で調査されるべきである[23]。具体的には、規則32条4項2号の規定に従い提出された「執行力ある債務名義の写し又は判決書の写し」から存在が推定される債務名義又は判決書が真正なものであるか、届出債権に係るものであるか、「執行力ある債務名義」の要件を充足するか、第一審の終局判決が提出された場合に、控訴審で取り消されて事件が上告審に係属中でないか等が調査されるべきである。
ところで、有名義債権であるか否かは、破産債権確定手続の開始責任の分配を左右するものであるので、破産債権確定手続の中で確定すればよいとするわけにはいかず、同手続の開始前に確定しておく必要がある。そのための可能な選択肢は、破産債権者表の作成段階しかないであろう。したがって、有名義債権である旨の届出があれば、その旨の記載が裁判所書記官により破産債権者表になされることになるが、それは公証行為である。それとは別に、届出債権者から提出された資料に基づき、さらに破産管財人等から資料が提出されればそれも考慮して、当該債権が有名義債権に該当するか否かの判断が破産債権者表に記載されるべきである(この解釈論を「有名義性判断の必要論」ということにする)。 その判断は裁判所(裁判官)がするのが本来と思われるが、裁判所書記官が判断するとしても、破産法13条、民訴法121条・328条1項を通じて抗告の道が開かれているのであるから、結論的にそれほど大きな差が生ずるわけではなかろう。 裁判所書記官によりその判断がなされ、それに対して民訴法121条による異議申立てがなされ、それに対する裁判所の決定がなされた場合に、それに対して民訴法328条の抗告が可能とされているが、届出債権が有名義債権であるか否かの決定は迅速になされる必要があることを考慮すると、その抗告は期間制限に服すべきであり、即時抗告とする必要がある。条文上直接の根拠があるわけではなく、事柄の性質上そのように解すべきであるというのは、確かに苦しい解釈論である。 しかし、例えば、民訴法71条4項は、訴訟費用額を定める裁判所書記官の処分に対する異議申立ての期間を告知の時から1週間とし、同条7項は、異議申立てについての決定に対して即時抗告をすることができるとしている。従って、裁判所書記官の処分の性質を考慮して、裁判所書記官の処分に対する異議申立てに期間制限を設けたり、あるいは異議申立てについての決定に対する抗告に期間制限を設けるべきであり、その判断は本来は立法の段階でなされるべきであるが、立法時にその判断がなされていない場合には、解釈により補充することも許されると考えるべきであろう。 そして、届出債権の有名義性の判断は破産債権確定手続の開始前になされるべきであるにも関わらず、立法上その点について何らの手当もなされておらず、それを解釈により補充しようというのであるから、民訴法121条の決定に対する不服申立てを即時抗告とすることは、その解釈論の一部として肯定されるべきである。
裁判書書記官が明示的に判断する場合 有名義債権として届け出られた債権について裁判所書記官が有名義債権に該当するか否かを明示的に判断している場合には、その判断に不服のある届出債権者又は他の破産債権者若しくは破産管財人は、債権調査期間末日または債権調査期日までに(換言すれば、125条2項(127条2項及び129条3項により準用される場合を含む)の不変期間の開始前に)、民訴法121条により、裁判所に異議申立てをすることができる。 異議申立てについての裁判所の決定に不服のある者は、さらに即時抗告をすることができる(民訴法328条1項によるというよりも、民訴法71条7項の類推適用という方がよいであろう)。 適法な異議申立てがあれば、異議申立てについての裁判が確定するまで、125条2項の不変期間は進行を開始しないと解すべきである。
裁判書書記官が明示的に判断しない場合 裁判所書記官が有名義債権として届出のあったことの公証のみをし、有名義債権に該当するか否かについて明示的に判断をしていない場合には、どのようにすべきであろうか。(α)その判断を示していないこと自体が異議申立ての事由ないし対象になると考えて(民執法11条1項にならっていえば、「処分の遅怠」)、民訴法121条の異議申立てをすることができるとすること、 あるいは(β)届出通りに有名義債権であるとの判断が黙示的になされていると見て、その黙示的判断に不服のある他の破産債権者又は破産管財人は、民訴法121条の異議申立てをすることができるとすることが考えられる。それぞれの構成の特質を検討しておこう。
債権調査においては、次の事項について破産管財人が認否を行い(117条1項・121条1項)、他の破産債権者に異議を述べる機会が与えられ(118条1項・121条2項)、かつ、破産者に債権の額について異議を述べる機会が与えられる(118条2項・121条4項)。これらの事項を「調査事項」ということにする。
この外に、次の事項についても異議等を述べることができると解されている。
次の事項についても、破産管財人・他の破産債権者は異議等を述べることができると解すべきである。破産者についても同様である。
次の事項は、届出事項であるが、異議等の対象にならず、調査事項ではない。
破産法は、破産債権の集団的確定のために、次の2種の調査方法を用意している(116条)[34]。いずれの調査方法においても、破産管財人が認め、他の破産債権者が異議を述べなかった破産債権は確定したものとされる。
(a)書面による債権調査(117条以下) 規定上は、これが原則的調査方法である(116条1項)。 この場合には、
(b)期日における債権調査(121条以下) 必要があるときは、裁判所はこの方法を採ることもできる(116条2項)。
法文上は、上記2種の調査方法のうち(a)が原則的な方法であるが、実務上は(b)が一般的である([重政=大林*2014a]89頁、[岡ほか*2017a]63頁)。こちらの方が、この調査方法では、期日を続行することにより、債権調査を比較的長期にわたって行うことができ、また破産管財人は問題のある債権についてその認否を当面保留しておくこともできるので、債権調査を柔軟に行うことができるからである(書面による調査では、認否の保留はできないため、破産管財人は疑問のある破産債権を否認しておかざるを得ず、そうすると破産債権確定のための手続(破産債権査定手続等)が(期日における調査の場合と比較して不必要に)増加してしまう)。
一般調査と特別調査
債権届出期間内に届け出られた債権については、破産財団の負担において調査が行われる(一般調査)。一般調査のために設定される期間又は期日を一般調査期間又は一般調査期日という。届出期間経過後に届け出られた債権については、原則として、届出債権者の負担おいて調査が行われる(特別調査);ただし、一般調査において調査される場合もある。特別調査のために設定される期間又は期日を特別調査期間又は特別調査期日という。
特別調査についても、原則的な調査方法は書面による調査であるが、裁判所は、必要があると認める場合には、期日における調査を行うこともできる。また、一般調査と特別調査とで調査方法を異にすることもできる(116条3項)。
一般調査を書面により行う場合には、裁判所は、同時処分として、一般調査期間を定める(31条1項3号)。
破産管財人による認否書の作成と提出(117条)
認否書の作成 一般調査期間が定められたときは、破産管財人は、裁判所書記官から交付された破産債権者表に記載の破産債権のうち、届出期間内に届け出られた債権について、次の事項についての認否を記載した認否書を作成しなければならない(117条1項)。
破産管財人は、届出期間経過後に届出のあった破産債権について、その認否を認否書に記載することができる。しかし、記載の義務を負うわけではない。届出期間経過後に届出のあったある債権に関し、認否すべき事項の全部又は一部についての認否が認否書に記載されると、その債権も一般の債権調査の対象になる(119条1項ただし書参照)。届出期間内に届け出られた債権について、期間経過後に破産債権者の利益を害する変更の届出がなされた場合も同様である(117条2項参照)。
認否書の提出 破産管財人は、作成した認否書を裁判所の定めた期限までに裁判所に提出しなければならない。その期限は、一般調査期間(の開始)前でなければならない(117条3項)のみならず、各届出債権について認否書を参考にして他の破産債権者が異議を述べるか否かを判断することができるだけの時間的余裕を持つことができるように設定されるべきである(ただし、破産管財人が認否を変更する可能性があるので、他の破産債権者は、破産管財人が認めないと述べているから異議を述べる必要はないと考えるべきではない。むしろ、破産管財人がある届出債権について認めないと述べている場合には、そのことを一つの判断材料として、自らも注意して調査の上で、異議を述べるべきである)。なお、破産管財人が認否に理由を付すことは求められていないが(規則39条を対照)、無用な争い(届出債権者からの破産債権査定申立て等)の低減を期待して、理由を付すことが少なくない。
認否書の閲覧 裁判所に提出された認否書は、裁判所において利害関係人の閲覧に供される(利害関係人は、裁判所書記官に対して閲覧を請求することができる。11条1項)。なお、破産管財人の事務所においても閲覧に供することが望ましいとの意見もある([条解*2014a]840頁)。破産管財人が認否の内容を各届出債権者に通知することは予定されていない。ただし、認否を変更した場合には、変更に係る届出債権者に変更したことを通知しなければならない(規則38条。 当初の認否書が裁判所に提出された後、その認否書(変更前の認否書)を当該届出債権者が11条1項の規定により閲覧していることを前提にしての規定である)。
「認める」の擬制
破産管財人は、各届出債権について各届出事項ごとに認否を明確にすべきであるが、実際には認否の記載を失念することもあろう。そこで、認否の記載がない場合について、(a)届出期間内に届出のあった債権(以下「期間内届出債権」という)と(b)期間経過後に届出のあった債権(以下「期間後届出債権」という)とに分けて、次のみなし規定を置いている。
(a)期間内届出債権 書面による調査は、調査を迅速に進めるために、調査期間前の裁判所の定める期限までに破産管財人がすべての債権について認否を記した認否書を提出し、他の破産債権者(及び破産者)に調査期間内に異議を述べる機会を与え、破産管財人の認否と破産債権者からの異議の有無に基づいて調査を行う(破産管財人が認め、かつ破産債権者から異議がない破産債権は確定する)方法により行われる。そこでは、破産管財人が全部の債権について認否を明らかにすることが予定されており、一部の債権について認否を留保する余地はない。破産管財人は、一部の債権について資料不足等のため認否を保留したい場合には、一般調査期間の延長を裁判所に申し出るか、又は、暫定的に「認めない」の認否をして、問題の解決を査定決定等の手続に委ねるべきである。このことを前提にして、117条4項が、「認否書に認否の記載がないものがあるときは、破産管財人において当該事項を認めたものとみなす」と規定している。
(b)期間後届出債権 これについては、破産管財人は認否をすることができるにとどまる。複数の期間後届出債権のうちの特定の債権についてのみ認否を明らかにし、他の債権については認否を明らかにしないこともできる。後者の債権については、119条1項ただし書中の要件のうちの前半部分(「又は」の前の部分)が充足されないことになり(後半部分は期日調査に関するものであり、その要件の充足は問題にならないので)、119条又は122条の特別調査が行われることになる。 このことを前提にして、117条5項が、「認否書に当該事項の一部についての認否の記載があるときは、破産管財人において当該事項のうち当該認否書に認否の記載のないものを認めたものとみなす」と規定している(ここで「当該事項」は、「1項各号に掲げる事項」を指す)。 したがって、ある期間後届出債権の届出書に優先的破産債権である旨の記載がある場合に、その記載についてのみ「認めない」との認否をすれば、債権の存在と金額については「認める」との認否をしたことになる。
4項の規定は、117条1項各号に掲げる全ての事項について認否の記載のない債権にも適用されるのに対し、5項の規定は、全ての事項について認否の記載のない債権には適用されないことに注意する必要がある。この擬制規定があるために、書面による調査については、認否の留保はあり得ないことになる。他方、後述の期日における調査では、一時的に認否の留保をすることができるが、認否保留のままでは調査が完了したことにならず、調査期日の続行が必要になること、つまり、破産管財人は最終的に「認める」又は「認めない」のいずれかを明示しなければならないことにも注意しておくべきである。
認否の変更
破産管財人が認否書を裁判所に提出した後で認否書の記載を変更することを(書面による調査における)「認否の変更」という。
(a)「認めない」と記載していた場合に、それを「認める」に変更することは、ある時期までは許される(破産管財人が状況に応じて見解を改めることは許容すべきであり、他の破産債権者は、「破産管財人が認めないとしたから、自分から異議を出す必要はない」と考えるべきではない)。この変更は、裁判所に書面を提出してしなければならず、かつ、無用な査定申立てを回避するために、認否変更に係る破産債権者に通知しなければならない(規則38条)。
どの時期まで変更することが許されるかについては、争いがあるが、少なくとも査定申立期間の満了時までは許される。査定申立期間経過後も変更することができるかについては争いがあり、(α)査定申立期間の徒過により異議等のあった事項は届出債権者の不利益に確定するから異議等の変更・撤回の余地はないとする見解と、(β)査定申立期間の徒過は異議等のあった事項を届出債権者に不利益に確定する効果を有さず(124条3項が「第1項の規定により確定した事項」についてのみ適用があるとしたのはこの趣旨であり)、異議等の変更・撤回は許されるとする見解とが対立している[37]。
(b)認否書に認否が記載されていない場合に、「認める」に変更することは、期間内届出債権については、117条4項の推定規定があるので、あまり意味のあることではないが、許される。認否が一部なされている期間後届出債権についても同様である(117条5項参照)。
(c)認否がまったくなされていない期間後届出債権について「認める」に変更することは、どうか。判断は分かれようが、本来特別調査に服すべき債権を一般調査に服させることになり、他の破産債権者に与える影響が大きく、許されないと解すべきであろう(裁判所にいったん提出されると、各破産債権者は裁判所書記官に対して閲覧請求することができるのであるから、その時点で他の破産債権者は、認否の記載がまったくない期間後届出債権が特別調査に服するとの期待を持ち、その期待を保護する必要があると考えられる)。
(d)「認める」を「認めない」に変更することは、当該変更に係る届出債権者の地位を不安定にするので、一律に許されないと解されている(規則38条がこの類型の変更に言及していないのは、これを前提にしていると理解されている)。したがって、破産管財人は、届出債権を認めることに若干なりとも疑問を抱く場合には、とりあえず「認めない」としておかなければならない。もっとも、認否書作成後に生じた事由による認否の変更は、許されるべきである(例えば、保証人の破産手続において、認否書作成後に主債務者が弁済をした場合がそうである)。
他の破産債権者の書面による異議
他の破産債権者は、一般調査期間内に、裁判所に対し、期間内届出債権の調査事項について、書面で、異議を述べることができる(118条1項)。異議には理由を付さなければならない(規則39条)。期間後届出債権の届出事項についても書面で異議を述べることができるが、そのこと自体により直ちにその債権が一般調査期間において調査される債権(119条1項ただし書の適用を受ける債権)になるわけではない。
しかし、破産管財人が期間後届出債権についての認否を明らかにした場合には、その債権に異議のある破産債権者は書面で異議を述べておく必要が生ずる。
異議があったときは、裁判所書記官は、届出債権者にその旨を通知する(規則39条2項。同12条により民訴規則4条1項が準用され、普通郵便やファクシミリ、さらには電子メイルによることもできる)。届出債権者が異議に適切に対応することができるようにするためであり、他の破産債権者による異議が稀であることを考慮すれば、届出債権者に調査期間終了時に他の債権者からの異議の有無を確認することを期待するのが適当でないとの配慮による([条解*2005a]100頁)。特に、無名義債権者が破産債権査定申立てを適時に行うことができるようにする点に意義がある。
破産者の書面による異議
破産者は、118条2項の規定上、債権額についてのみ異議を述べることができる。異議は書面によってしなければならず、また理由を付さなければないない(規則39条)。破産者の異議は、破産債権の確定を妨げる効力を有せず(124条1項参照)、確定した破産債権についての破産債権者表の記載が確定判決と同一の効力を有することになることを妨げるにとどまる(221条1項参照)。
破産者は、次の事項について異議を述べることができない。
明文の規定はないが、破産者は次の事項については、異議を述べることができると解すべきである。
なお、解除条件の成就の場合あるいは停止条件不成就の確定の場合には、破産者は、債権の不存在すなわち債権額がゼロである旨の異議を述べれば足り、それは、債権額についての異議として扱えば足りる。
一般調査期間の変更
裁判所は、債権届出期間前であっても同期間経過後であっても、一般調査期間を変更することができる。
裁判所は、一般調査期間を変更する決定をしたときは、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者(債権届出期間の経過前にあっては、知れている破産債権者)に送達しなければならない(118条3項。10条3項の適用が排除されていないので、代用公告も可能である)。この送達は、普通郵便又は信書便によってすることができる(118条4項。規則40条も参照)。この方法で送達をした場合には、その郵便物等が通常到達すべきであった時に、送達があったものとみなされる(発送の時に送達があったとみなされるのではない。民訴法 107条3項と対照的)。
一般調査期間において調査されない債権のために、届出債権者の負担において(119条3項)、特別調査期間における調査が行われる。この調査に服する債権は次の債権であり、それが存在する場合には、裁判所は特別調査期間を定めなければならない(職権でする)。
費用とその予納
特別調査に服する破産債権を有する者は、その費用を負担しなければならない(119条3項。その費用は、148条1項1号の「破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用」に該当しない)。これには、特別調査期間を定める決定書の送達費用、破産管財人に対する追加報酬が含まれる。
特別調査期間が定められた場合には、裁判所書記官は、相当の期間を定め、特別調査に服する破産債権を有する者に費用の予納を命ずる(120条1項)。費用の予納がないときは、裁判所は、決定で、その者がした破産債権の届出又は届出事項の変更に係る届出を却下する(120条5項)。この却下決定に対しては即時抗告をすることができる(120条6項)。この即時抗告においては、裁判所書記官の費用予納の処分の当否を争うことができる[4]。
期日おける調査の方法により一般調査を行う場合には、裁判所は、同時処分として、一般調査期日を定める(31条1項3号)。調査期日は、特別の事情がある場合を除き、破産債権届出期間の末日から1週間以上2月以内の日でなければならない(規則20条1項4号)。
期日では、破産管財人の認否及び破産債権者又は破産者の異議は、口頭で陳述される。したがって、期日の進行・整理が必要であり、裁判所の構成員である裁判長が期日を指揮する(条文上の根拠を挙げるとすれば、13条による民訴148条の準用になるが、ただ債権調査期日は口頭弁論の期日ではない)。この期日は、破産債権の存否・内容を確定していく重要な期日であるが、憲法82条の対審にあたらず、非公開で行うことができる。多数の破産債権者の出席が見込まれる場合には、裁判所外で行うこともある[17]。規則4条が、破産手続等においては調書は裁判長が作成を命じたときにのみ作成すれば足りるとしており、同条は調査期日にも適用があるとされているが([条解*2014a]858頁)、期日の重要性を考慮すれば、期日調書を作成することが望ましい。
出頭者
この期日には、次の者が出頭して、期間内届出債権の調査事項について、異議等を述べることができる(121条)。
期日においては、異議等は口頭で陳述されることが必要であり、異議等を記載した書面を提出しただけでは足りない(出頭しない場合には、口頭陳述はない)。破産者の異議も口頭でなされる必要がある[74]。もっとも、破産管財人が認否予定書を提出している場合に、「認否予定書に記載のとおりです」と陳述すれば、記載内容の全部を陳述したものとする取扱い、また、破産債権者・破産者が異議とその理由を記載した文書を期日に持参して、「持参文書に記載の通りです」と陳述すれば、その記載内容の全部を陳述したものとする取扱いは許される。
調査対象となる破産債権
次の破産債権が一般調査期日における調査対象になる。
期日の変更・延期・続行
これらの語の意味は判決手続の場合と同じである。すなわち、
裁判所が期日の変更・延期・続行を決定したときは、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者に送達しなければならない(9項・10項)。この送達は、普通郵便・信書便により行うことができ、その郵便物等が通常到達すべきであった時に送達があったものとみなされる(121条11項による118条4項・5項の準用)。期日の変更・延期・続行の決定に対しては、即時抗告をなすことができない(9条前段にいう特別の定めがない)。
公告は必要ない([小川*2004a]165頁以下)。ただし、
破産管財人による認否の保留
破産管財人は、調査されるべき各破産債権について、各調査事項ごとに認否を明らかにしなければならない。117条4項・5項の規定は準用されないので、ある債権のある事項について認否が明らかにされていない場合には、その事項について認否は保留されたことになり、当該債権については調査は未了となる。調査されるべき破産債権の全部について調査が完了するまで調査期日は続行される。
認否の変更・異議の撤回
破産管財人は、認めないとの陳述をした後で、認める旨に変更することができる。その場合には、彼は、変更内容を記載した書面を裁判所に提出し、かつ、認否変更に係る届出債権者に通知しなければならない(規則44条・38条。認否予定書の提出が命じられている場合には(規則42条参照)、変更予定書を提出すべきである)。他の破産債権者がした異議の撤回についても同様である[30]。
他の破産債権者による異議の陳述の終期
他の破産債権者がいつまでに異議を述べなければならないかは、あまり明瞭ではない。破産管財人が認否を保留して、期日を続行することができるからである。以下では、最初の期日において破産管財人が認否を保留している届出債権について、他の破産債権者が何時までに異議を述べるべきかを問題にする。選択肢は、次の3つであろう。
いずれをとるべきかの問題は、(α)他の破産債権者が異議を述べるべきか否かを判断する際に、破産管財人の認否ないし認否予定書を参考にする機会(以下「熟慮の機会」という)を与えるべきか否かの政策的判断、(β)破産債権確定手続はどの程度迅速に開始されるべきかという政策的判断、及び、(γ)異議等のあった事項を合一的に確定するために、全ての異議者等に共通の一つの破産債権確定手続が開始されるべきであるとの現行法上の制約(無名義債権について125条1項・126条5項・127条1項、有名義債権について129条3項・126条5項)を考慮して、決せられるべきである。
次の理由により、Bの選択肢を採るべきである。
一般調査で調査されない破産債権又は届出事項の変更については、特別調査期間における書面調査を行うのが原則である(119条1項)。しかし、裁判所は、必要があるときは、特別調査期日において調査することを決定することもできる(122条1項)。
調査対象となる債権を条文に則して列挙すると、次のようになる。
2項により、119条2項・3項・6項(118条3項−5項の準用)・120条・121条1項−6項・8項が準用される。したがって、
また、
破産者の責めに帰することができない事由によって一般調査期日又は特別調査期日に出頭することができなかったときは、破産者は、その事由が消滅した後1週間以内に限り、書面で異議を述べることができる。期間調査にはない、期日調査独自の制度である。
117条1項所定の次の事項は、破産管財人が認め、かつ、他の破産債権者が債権調査において異議を述べなかったときは、確定する(124条1項。この確定を「任意的確定」ということもある[61])。ここで、「債権調査において」とは、精確には、「一般調査期間内若しくは特別調査期間内又は一般調査期日若しくは特別調査期日において」を意味する。
その外に、次の事項も、確定すると解すべきである。
別除権者の見込不足額は、債権者集会の議決権との関係で意味があるが(140条1項2号・3号・141条1項2号)、別除権者に配当される金額は、次の金額を基準にして定まるので、確定すべき事項から除外されている(124条1項かっこ書)。
裁判所書記官は、調査結果を破産債権者表に記載する(124条2項)。確定した事項についての破産債権者表の記載は[5]、破産債権者の全員に対して確定判決と同 一の効力を有する(124条3項)。破産配当の結果に争いが生じないようにするためである。届出をした破産債権者のみならず、届出をしない破産債権者も拘束する。破産管財人も拘束され[40]、かつ、確定事項を否認権をもって覆すこともできなくなる。
債権調査の終了時点では異議等があった場合でも、その後に異議等が消滅することがある。異議等が消滅すると、破産債権は確定するので、裁判所書記官は、破産債権者表に異議等の消滅事由を記載する(a,bの事由は、裁判所書記官が職務上知ることができるものであるので、職権で記載する。c,dの事由も、裁判所書記官がそれを職務上了知したときは、職権で記載することができるが、そうでなければ、異議を受けた債権者が記載の申立てをする必要がある)。
破産手続は、基本的に配当財団(破産財団所属財産の換価金)を破産債権者間で分け合う手続であり、また、破産債権者に迅速に配当を与える必要があるので、破産者の異議は破産債権の確定を妨げないものとされている。破産者からも異議がなければ、破産債権者表の記載は破産者に対しても確定判決と同一の効力を有する(221条)。すでに別の債務名義がある場合に、その債務名義が破産債権者表の破産債権確定の記載によって当然に無効にされることはない(ただし、反対説[72]もある)。
破産管財人又は破産債権者からの異議等があれば、異議等は、最終的には、破産手続外で訴訟により確定される(この確定を「強制的確定」ということもある[62]。債権確定のための最終的な手続は、通常訴訟であるが、手続的負担の軽減のために、簡易な決定手続である破産債権査定手続が用意されている。
破産債権確定手続 次の3つの手続を総称して、破産債権確定手続という。
債権確定訴訟は、狭義では、「・・・を確定する」という形式の判決を求める訴訟、したがって3の訴訟のみを指す。しかし、広義では、債権確定のための訴訟の意味で、2の訴訟を含めて債権確定訴訟ということもある。
確定手続開始責任とその分配
異議等のある破産債権について債権確定手続を開始させないと、その破産債権の異議等のある事項が否定されたり、あるいは異議等がなかったものとされる(破産債権が届出通りに肯定される)。これは、異議等のある債権を届け出た者あるいは異議等を述べた者の不利益と見ることができる。その不利益を確定手続開始責任と呼ぶ。開始責任は、異議等のある債権について「その存在・内容を公証する一定の文書(名義)」が存在するか否かによって分配される[CL2]。
名 義
名義となる文書は、次のものである(129条1項)。
上記の文書が存在する債権を「有名義債権」といい、そのような文書が存在しない債権を「無名義債権」という。
問題となるもの
開始責任の分配
確定手続の開始責任は、異議等のある債権に名義があるか否かに従い、次のように分配される。
なお、有名義債権について係属中の訴訟がある場合には、異議者等が受継申立ての責任を負うが、有名義債権者の側から受継申立てをすることは妨げられない[29](大判昭和5年12月20日民集。大正11年破産法の下では、異議者等による受継申立てに期間制限がなかったため、有名義債権者も迅速に権利関係を確定して配当を受けること(現202条1号の供託又は214条1項1号の寄託を避けること)について利益を有していることが強調された。現行法の下では、異議者等からの受継申立てに期間制限があるので、有名義債権者の側から受継申立てをする利益はそれほど大きくはないが、しかし、そのことは彼の側からの受継申立てを不適法とする理由になるとは思われない)。この場合の受継申立ては、異議者等の全員を相手方とする必要があり、その意味で127条1項による受継申立てと位置づけられる。
確定手続開始申立てをなすべき期間の起算点
異議等のあった破産債権の確定手続を開始させる申立ては、開始責任を負う者が、 調査期間の末日又は調査期日から1月の不変期間内にしなければならないと規定されている(査定申立てについて125条2項、無名義債権者による訴訟手続の受継について127条2項、有名義債権者に対する訴訟手続の開始について129条2項)。調査期間の末日が1月の不変期間に含まれるかについては、その末日が午前0時から始まることを理由に肯定する見解もある[43]。しかし、規定の趣旨は、末日に異議の書面が提出された場合に、異議を受けた届出債権者は早ければその日に11条1項により異議書を閲覧して異議が出されたことを知ることができることを前提にして、その時から1月の期間内に確定手続を開始させればよいということではなかろうか。そのように考えるならば、「期間の末日」は、「末日に提出された異議書に係る債権者が異議があったことを最も早く知ることができる日」の意味であり、初日不算入の原則が適用されるべきである(13条、民訴法95条1項、民法140条)。同様に、調査期日についても、初日不算入の原則が適用されるべきである。
訴 額 訴訟の目的の価額は、配当の予定額を標準として受訴裁判所が定める(規則45条)。主として訴え提起の手数料や上訴提起の手数料の算定基準になるものであり、事物管轄の決定に影響することは多くない。
ただし、債務不存在確認請求棄却判決のある届出債権(有名義債権)について異議者等が提起する破産債権確定訴訟は、126条2項・3項の類推適用を否定するならば、事物管轄は、配当予定額を標準にして定めることになろう)。
破産債権査定申立て
異議等を受けた無名義債権者は、債権額等の確定のために、異議者等の全員を相手方として、裁判所(当該破産事件を担当している裁判機関としての裁判所)に、額等についての査定の申立てをすることができる(125条1項)。ただし、当該破産債権に関する訴訟が破産手続開始当時に係属していた場合には、破産債権査定手続を経ることなく、その訴訟をそのまま破産債権確定訴訟として流用するのが合理的であり(127条1項参照)、また、有名義債権に対して異議等が出された場合には、異議者等が債権確定訴訟の開始責任を負うので(129条1項参照)、これらの場合には、査定申立てはできない(125条1項ただし書)。
ただし、無名義債権について訴訟が係属中であっても、破産債権性や優先順位についてのみ異議等が述べられた場合に、どのようにするかという問題がある[64]。係属中の訴訟が上告審に係属している場合を例にして、検討してみよう。破産債権性や優先順位については、破産者と届出債権者との間ではなんら争点にならないので、この点については、事実審理が必要になる。上告審は法律審であり事実審理は行わないとの原則は、この場合にも妥当する。したがって、127条1項の適用を肯定すると、上告審は、事実審理のために、事件を控訴審ないし第一審(審級の利益を考慮するとこの方が好ましい)に差し戻すべきであるとせざるを得ない。しかし、新しい争点について直接訴訟で争わせるでは、破産債権査定制度を設けた趣旨と整合的ではない。したがって、破産債権性や優先順位についてのみ異議等が述べられた場合には、127条1項の適用はないとせざるをえない。 係属中の訴訟が第一審や控訴審に係属中の場合には、127条1項の適用を認めても、それほど問題は生じないが、ただ、ルールの単純化という点からすれば、係属中の審級がどこであるかにかかわらず、この場合には、127条1項の適用はないとすることが好ましい。
では、破産債権の額とともに、破産債権性や順位が争われた場合はどうか。受継されるべき事件が上告審に係属中である限り、優先順位等については、破産債権査定手続を通すべきことになろう。 この解決は、査定異議の訴えが提起される場合には、額に関する訴訟手続と優先順位等に関する訴訟手続が並行することになり、あまり好ましい解決とは思えない。ただ、これは、破産者と届出債権者との間では問題にならない事項が破産債権者間では争われ得るということから生ずる問題であり、どのような解決を採っても、おそらく一長一短の解決となろう。ルールの単純化のためには、この場合にも、優先順位については127条1項の適用はなく、破産債権性や優先順位について査定申立てがなされるべきであるとするのが好ましい。査定決定に対して異議の訴えが提起された場合には、係属中の訴訟の判決が先に確定するであろうから、その確定後に査定異議の訴えについて実質的な審理を開始することを通例としてよいであろう。ただし、届出債権の破産債権性を否定する査定決定に対して査定異議の訴えが提起されなければ、係属中の訴訟手続を債権確定のために続行する意味はなく、その訴訟手続は再び中断し、破産手続終了後に届出債権者と破産者との間で続行されるべき等の例外は生じよう。
同様なことが、有名義債権についても妥当する。
申立期間 査定申立ては、債権調査の終了日から1月の不変期間内にしなければならない(125条2項。調査終了日は1月の期間に算入しない[6]) [CL1]。債権調査の終了日とは、具体的には、
申立期間不遵守の効果 査定申立ての期間が遵守されなかった場合の効果を定める明文の規定は、破産法にはない。この点に付き、(A)会社更生法151条6項は、「異議等のある更生債権等についての届出は、なかったものとみなす」と規定しており、この規定を破産手続にも類推適用すべきであるとの見解(不届出擬制説。[条解*2014a]886頁)も有力である。(B)同規定を類推適用しないことを前提にした場合に、(B1)異議等のない事項があれば、その事項は124条1項により確定するが、異議等のある事項については、その不存在が確定するのではなく、単に異議等のある事項の確定手段が失われるにすぎないとする見解も有力である。その外に、(B2)≪債権の存在そのものに異議等が出されている場合でも、一部の事項について異議が出されている場合でも、査定申立期間を遵守しない場合には、異議等のない範囲でのみ破産債権は確定する≫、と解する立場もありえよう[18]。
例:異議等を受けた破産債権者が査定申立期間を徒過したことを前提にして、
申立ての文例 査定申立てにおいては、破産事件及び申立人の届け出た破産債権を特定し、その破産債権について金額や優先権の存在あるいは劣後的破産債権でないこと等を査定する決定を求める旨を明らかにする。下記の例において、≪との決定を求める。≫の部分は省略される傾向にある[21]。
査定の手続(審理・裁判)
審尋・裁判 裁判所は、申立てについて決定で裁判する。
申立てについての決定(却下決定又は査定決定)の裁判書は、当事者に送達される(125条5項)。この送達については、代用公告は許されない。
査定決定
査定申立債権者の債権が存在しない(債権額がゼロ)である場合には、査定申立てを棄却するのではなく、「申立人の[届け出た]破産債権(破産債権者番号***)の額が0円であると査定する。」[44]との裁判をする[45]。したがって、一部認容の場合にも、「その余の申立てを棄却する。」との裁判は必要ないことになる。例えば、査定申立人の主張債権額が100万円である場合に、裁判所が債権額は60万円であると認定すれば、「申立人の破産債権の額が60万円であると査定する。」との主文を掲げれば足り、この主文の中に、「申立人の債権は60万円を超えては存在しない。」との判断も含まれていることになる[46]。
100万円の届出債権のうち40万円を超える部分について異議等が出され、届出債権者が査定申立てをする場合はどうか。この場合には、異議等のない40万円部分は、124条1項により確定していると考えるべきかが問題となるが、肯定してよいであろう。裁判所が届出債権の額は全部で60万円であると判断する場合には、異議等のない部分について査定の裁判をする必要はない(してはならない)ので、「申立人の破産債権のうち40万円を超える部分について、その額が20万円であると査定する。」との主文を掲げることになろう。
その他、幾つかの例を考えてみよう。
破産債権査定決定により破産債権の存否・額等という実体法上の問題が解決されるので、査定申立てについての決定により不利益を受ける者には訴訟による救済の道が用意される必要がある([小川*2004a]168頁)。そこで、126条1項が、破産債権査定申立てについて決定(破産債権査定決定と申立却下決定の双方を含む)に不服がある者は、その送達を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができるとした。その異議の訴えを「破産債権査定異議の訴え」という。
この異議の訴えの類型については、民執法35条の請求異議の訴えについてと同様に、見解が分かれている。訴訟物を異議等に係る破産債権と見る確認訴訟説もあるが、査定申立てについての決定の変更を求める形成の訴えと見る見解(形成訴訟説)[47]を採るべきである。
管轄裁判所 破産債権査定異議の訴えは、破産裁判所(2条3項)が管轄する(当該破産事件を担当する裁判官が裁判するとは限らない)。大規模破産事件においては、破産者の経済生活の本拠から離れた裁判所が破産裁判所になることがある。破産裁判所の管轄の根拠が5条8項又は9項のみである場合(破産裁判所が7条4号ロ又はハの規定のみにより移送を受けた場合を含む)がそうである。この場合には、当事者の管轄の利益を保護するために、破産者の経済活動の本拠地を管轄裁判所に移送することが好ましい場合がある。 そこで、破産裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、査定異議訴訟を5条1項に規定する地方裁判所(その地方裁判所がない場合には同条2項に規定する地方裁判所)に移送することができるとされた(126条3項)。 この移送は、判決の合一確定を確保するために、1月の出訴期間経過後に、同一の破産債権に係る全ての異議訴訟事件を一纏めにしてなすべきである。
訴 額 訴訟の目的の価額は、配当の予定額を標準として受訴裁判所が定める(規則45条。前述)。
当事者 破産債権査定異議訴訟の当事者は、査定申立手続の当事者と基本的に同じである。異議者等の間で判決が区々になることは許されない(合一確定の必要がある)ので、この異議訴訟は、必要的共同訴訟である。その余の点は、誰が原告になるかで差異が生ずる。すなわち、
合一確定の確保のための措置 合一確定を確保するために、次のことが規定されている。
判 決 可能な判決内容(主文の形式)として、次の3つが規定されている。
破産手続開始当時に破産債権について係属中の訴訟がある場合には、その訴訟手続は中断する(44条1項。2項も参照)。破産債権の調査手続において異議等がなければ、その債権は破産債権者間では届出通りに確定するからである。異議等が出された場合には、破産債権査定手続を経由することなく直接その訴訟手続において異議等を解決する方が迅速な確定につながるので、その訴訟手続を債権確定のための訴訟手続として続行する。その訴訟の性質は、受継に係る訴訟が確認訴訟であるか否かにかかわらず、確認訴訟である(注[27]参照)。ただし、判決主文の末尾は「***を確認する」ではなく「***を確定する」との文言にするのが慣例になっている。
上記のことは、届出債権者の破産者に対する給付訴訟あるいは破産者の届出債権者に対する消極的確認訴訟が係属中である場合については、明瞭である。しかし、次の訴訟手続等については、検討が必要である。
請求の趣旨の変更 破産手続開始により中断した訴訟は、債権者が原告となっている給付訴訟の場合もあれば、破産者が原告となっている債務不存在確認訴訟の場合もあろうが、いずれであっても、破産債権の確定のために従前の訴訟手続を利用するのであるから、請求の趣旨は破産債権の確定に適するものに変更されなければならない。届出債権者が原告になっている場合について言えば、「被告は、原告に対し、1000万円を支払え」から「原告が・・・の破産債権を有することを確定する」、あるいは「原告が・・・の優先的破産債権を有することを確定する」に変更する。その請求認容判決は確認判決の一種と考えられており、給付の訴えが確認の訴えに変更されることになる[8]。上告審での訴えの変更も許される(最判昭和61.4.11民集40-3-558。「法律審では訴えの変更は許されない」との原則の例外となる)。
受継されるべき訴訟手続が破産者からの消極的確認訴訟の手続である場合については、訴訟がどの審級に係属しているかを問わず、(α)原告の地位を承継した異議者等が請求の趣旨を変更すべきであるとの見解と、(β)被告である届出債権者が破産債権確定請求の反訴を提起すべきであるとする見解[65]が対立している。また、債権の存否のみが争われている場合については、(δ)届出債権者は単に請求棄却の申立てをすればよいとする見解[51]もある。各見解を検討しておこう。
前記α説に決定的な不都合があるというわけではない(実際、有名義債権に対して異議等が出された場合には、係属中の訴訟がなければ、異議者等の側が消極的破産債権確定の訴えを提起しなければならない)。しかし、無名義債権者については、係属中の消極的確認訴訟について受継申立てをするのみならず、反訴を提起する責任を負わせてよいであろう。実際上も、消極的破産債権確定の訴えよりも積極的破産債権確定の訴えの方が、取り扱いやすい。したがって、反訴必要説(前記β説)が採られるべきである。この見解に従い、破産債権者からの反訴提起が必要であるとする以上、反訴が提起されなければ、破産債権者は異議等を認めたと扱うべきであり、係属中の訴訟がない場合に、異議等を受けた債権者が査定の申立てをしなかった場合と同じ取扱いに服すとすべきである。
当事者 届出債権者が異議者等の全員を当該訴訟の相手方として、訴訟手続の受継の申立てをする。
訴訟状態の承継 (a)係属中の訴訟を債権確定訴訟として流用することは、訴訟状態の流用を意味する。新たに訴訟当事者になる異議者等は、原則として従前の訴訟状態に拘束される[55]。従前の訴訟状態の中には、訴訟資料の流用、現に係属している審級での訴訟手続の続行等が含まれる。新たな当事者となる異議者等が、破産者がした自白に拘束されるかについては見解は分かれようが、従前からの当事者である届出債権者の訴訟上の地位を尊重するならば、含まれるとすべきである (ただし、破産者のした自白について否認の要件が備わっている場合には、破産管財人は、否認権の行使により破産者がした自白を覆すことができると解されている)。
(b)ただし、異議者等は、破産者がすることのできない独自の主張をすることは妨げられない。典型的には、破産管財人は否認権を行使して破産債権の発生自体を争うことができる。また、係争債権の破産債権性や優先順位は、破産者と届出債権者との間で確定されるべき性質のものではないので、異議者等は、これを争うこともできる。
(b')この場合(bの場合)に、裁判所は、両当事者に攻撃防御方法の提出機会を十分に与えるべきであり、新主張により生ずる争点について審理を尽くすために事件を第一審に差し戻すのが適切であると判断される場合には、控訴裁判所は、そのことを理由に第一審判決を取り消して事件を第一審に差し戻すこともできると解すべきである(事件が上告審に係属中に中断・受継が生じた場合には、そうすることの必要性は一層高まる)。
受継申立ての期間制限 受継申立ては、異議等のある破産債権に係る債権調査の終了日から一月の不変期間内にしなければならない(127条2項・125条2項)。期間が遵守されない場合には、破産債権は、異議等のない範囲で確定する。債権額全部について異議等があったにもかかわらず受継申立ての期間が遵守されない場合の効果については、前述「3.3.1 破産債権査定手続」中の「申立期間不遵守の効果」の項を参照。
主張の制限(128条)
異議等を述べられた債権について、異議等を述べられた範囲で審理裁判がなされる。届出債権者は、(α)異議等を受けた債権とは別個の債権がある場合に、112条の要件の下でそれを新たに届け出ることは許されるが、前述の3つの破産債権確定手続の中でそれを主張することは許されず、また、(β)債権額及び優先劣後関係(117条1項1号−3号)について、破産債権者表に記載されている事項(内容)のみを主張することができる(127条)。そうしなければ、確定手続の当事者となっていない者がその債権について異議等を述べる機会を奪われてしまうからであり、また、債権の確定が遅れるからである。
とは言え、債権届出の際に請求権の発生原因や性質について厳密な検討を経ることを届出債権者に常に期待できるとも言えないので、給付の内容が等しく、(α)社会経済的に同一の利益を目的とする範囲では、あるいは(β)請求の基礎が同一の範囲では、届出債権の変更は許されるとの見解[52]も有力になってきている。判例は分かれている。会社更生事件についてであるが、債権者が預託金返還請求権を含むゴルフ会員権を届け出たが、確定訴訟において預託金返還請求権に変更することを認めた例として、大阪高判昭和56.6.25判時1031-165頁[百選*1990a]71事件がある。
上訴提起の手数料 1000万円の届出債権に給付の訴えが第一審で係属している段階で破産手続が開始され、その訴訟手続が債権確定のために受継されたとする。 配当予定額は100万円であるとした場合に、そのことは訴額を1000万円として納付された訴え提起の手数料には、もはや影響しないと考えるべきであろう。 問題は、例えば、第一審の請求棄却判決に対して届出債権者が控訴を提起する場合に、訴額を1000万円と考えるべきか、それとも配当予定額の100万円と考えるべきかである。後者と考えるべきであろう[63]。
破産債権者が破産手続開始前にその債権の存在を公証する一定の文書(129条1項列挙の文書)を得ている場合には、破産法は、その事実を尊重して、その債権に対する異議等を解決する手続の開始責任を異議者等に負わせている。
名義の除去のみを目的とする手続
大正11年破産法の下では、名義が除去されれば無名義債権になり、その時点から届出債権者が債権確定訴訟の起訴責任を負うことになるとの考えに立って、異議者は、有名義債権の不存在の確定を目的とするのではなく、名義の除去のみを目的とする手続をとることもできるとする見解(以下「名義のみ除去許容説」という)もあった。しかし、これは訴訟経済の原則に反する等の理由によりこれを否定する見解[67]も有力であった。現行法は、無名義債権について査定制度を用意しており、「名義のみ除去許容説」は、これとも調和しがたく、採用できない。ただ、現在でも、「名義のみ除去許容説」も、時折見られる([栗田*2019a]3号148頁注17参照)。
執行力ある債務名義
破産手続開始前に債権者が「執行力ある債務名義」を有する場合には、彼は、直ちに強制執行をなすことができるという地位を取得していたことを尊重して、債権確定手続の開始責任が異議者等に負わされている。ただし、判決の言渡し及び送達は訴訟中断中にもなし得ることを考慮して、≪名義の成立時点は必ずしも破産手続開始時期と一致しない≫(破産手続開始後に言い渡された未確定判決でもよい)とする見解[65]もある。
「執行力ある債務名義」は、強制執行の基礎となる文書(民執法25条所定の文書)を指し、原則として執行文が付与されていることが必要である(会社更生事件において公正証書に関し、最判昭和41年4月14日参照)。しかし、少額訴訟の確定判決のように執行文が必要ないものもある(同条ただし書)。
執行文は、破産手続開始後に付与されたものでよいかについては見解の対立がある[24]。執行文の種類ごとに検討してみよう(下記のように単純執行文についてのみ破産手続開始後に付与されたものでもよいとする見解を「中間説」という)。
非金銭債権について名義がある場合
非金銭債権が103条2項1号イの規定により金銭債権に転化する場合に、前者についての終局判決等は後者の金額を確定しているわけではないので、破産債権(転化後の金銭債権)については名義はなく、金額についての異議等のみならず、債権の存在・破産債権性・順位に向けられた異議等についても、破産債権確定手続の開始責任は異議等を受けた債権者が負うと解すべきである([注釈*1997c]285頁(栗田隆))
[25]。
利用可能な訴訟手続
異議者等が用いることのできる訴訟手続は、破産者がすることのできる訴訟手続である。執行力のある債務名義のある債権に対するそのような手続として、「再審の訴えや請求異議の訴え等」を挙げる文献もあるが[50]、請求異議の訴えが「***の債務名義に基づく強制執行を許さない」との趣旨のものであれば、破産債権の確定に適するとは言えず、疑問である。
有名義の破産債権の確定のために利用可能な手続として、例えば、次のようなものがある。
係属中の訴訟の受継 異議等のある破産債権に関し届出債権者が当事者となっている訴訟が破産手続開始当時に係属している場合には、異議者等はその訴訟手続を受け継がなければならない(129条2項)。届出債権者が既に得ている訴訟上の地位を尊重する必要があり、既存の訴訟状態を前提にして審理裁判することにより迅速な解決が可能になるからである。なお、異議者等は、この訴訟において、破産者が提出することのできない独自の主張(特に抗弁)があれば、破産手続開始時の訴訟状態の如何にかかわらず、それを提出することを妨げられず、また異議者等である破産管財人は、この訴訟手続において否認権を行使することができる。
出訴期間等 異議者等が新たに訴えを提起する場合であれ、中断中の訴訟手続の受継を申し立てる場合であれ、それらは債権調査の終了日から一月の不変期間内にしなければならない。出訴期間等の不遵守の場合には、債権調査において異議等が出されなかったものとみなされる(129条4項)。
破産債権の確定に関する訴訟手続が期間内に開始されなかったとき、あるいはその訴訟に決着がついたときは、裁判所書記官は、破産管財人又は破産債権者の申立てにより、その結果等を破産債権者表に記載する。すなわち、次の内容を記載する。
(a)無名義債権について、
査定申立てが125条2項の不変期間内になされなかった場合、申立てが却下された場合については、130条は何も述べていない。この場合には、破産債権者表には異議等が述べられた事実のみが記載された状態になり、届出債権の額等が確定することはないので、査定申立てが期間内になされなかった事実を特に記載する必要はないからである。
(b)有名義債権について、
破産債権の確定に関する訴訟についてした判決は、配当に関する法律関係を単純化するために、破産債権者の全員に対して、その効力を有する(131条1項)。届出をしない破産債権者にも及ぶ。
破産者に及ぶかについては、破産管財人が当事者である場合について、「破産者は破産宣告の前後を通じて破産財団の主体」であり、破産管財人は破産財団に関する訴訟担当者であることを理由に(大正15年民訴法201条2項、平成8年民訴法115条1項2号)、これを肯定する見解がある[69]。
しかし、このような考えには賛成することができない。次のように解すべきである。(α)破産者が異議を述べない場合に、確定した破産債権についての破産債権者表の記載は、破産者に対しても、確定判決と同一の効力を有する(221条1項により、確定した債権者表により自由財産に対して強制執行をすることができるのであるから、破産財団から配当を受ける権利の存在も確定されると考えるべきであり、破産者は、破産手続終了後に配当を受けた債権者に対してその債権の不存在を主張して不当利得返還請求をすることはできないとしなければならない)。 他方、(β)破産者が異議を述べる場合には、221条の適用はなく、また、破産管財人は、破産財団に属する財産に関する訴訟については破産者の訴訟担当者とする必要があるが(そうしないと、破産財団の整理が円滑に進まない)、破産債権については、その必要性はなく(破産配当は可能であり)、かつ、破産管財人が破産債権確定訴訟を追行することについて有する利害関係は、破産配当を適正に行うのに必要な範囲にとどまる(届出債権額1000万円であっても、配当予定額が50万円であれば、50万円の訴額の訴訟として追行するにとどまる)のに対し、破産者が有する利害関係は、1000万円の債務の存否だからである(係争債権が非免責債権であり、破産者が破産手続終了後に責任財産を取得することがあることを前提にする); さらに、大正11年破産法の下では、破産者が異議者である場合には、彼も破産債権確定訴訟の共同当事者になるとされていて(244条2項・246条2項・248条2項)、破産管財人と共に共同被告又は共同原告になる場合に、両者の関係は通常共同訴訟人の関係と解すべきであったのであり[71]、破産管財人は破産者のための訴訟担当者ではないと位置付けざるを得なかったからである。
破産債権査定申立てについての決定に対する破産債権査定異議の訴えが、出訴期間(126条第1項)内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、当該査定決定は、破産債権者の全員に対して、確定判決と同一の効力を有する(131条2項)。査定異議の訴えが提起されたが取り下げられた場合も同様である。
判決の効力(既判力)が(α)破産財団からの配当に関してのみ及ぶのか否か、あるいは(β)破産手続内にとどまるのか否かについては、見解は分かれる(αとβが同じことの別表現と見て良いかは明瞭ではないが、仮にそのように見るならば、下記のAとBは、他の破産債権者に関しては、同じことの別表現となる。また、いずれの表現が適切かを問題にするならば、αの表現の方が適切であろう)。
異議を述べた破産債権者が破産債権の確定に関する手続を追行して勝利した場合には、訴訟等の費用の償還を相手方から受けることができる。しかし、相手方が無資力のために現実に償還を受けることができない場合には、相手方に配当されることになっていた金額だけ破産財団が利益を受けるので、異議債権者は、破産財団が利益を受ける限度で破産財団に償還を求めることができる。この訴訟等の費用は共益費用の性質を持ち、その償還請求権は財団債権である(132条)。
133条の内容を表にまとめると、下記のようになる。なお、条文中の「破産手続開始の決定の取消し又は破産手続廃止の決定の確定により破産手続が終了したとき」は、破産手続が「配当によらずに終了したとき」を意味し(以下では、この終了を指して「無配当終了」という)、「破産手続終結の決定により破産手続が終了したとき」は、「配当により終了したとき」を意味する(以下では、この終了を指して「配当終了」という)。置き換えて読むと分かりやすくなることがある。
破産手続終了時に係属している手続
|
破産手続終了事由
|
|||
開始決定の取消し|廃止決定の確定 | 終結決定(配当のために債権確定手続を進める必要がある)
|
|||
1項
|
破産債権査定申立ての手続 | 終了
|
続行。申立てについて決定があったときは異議の訴え可(2項) |
|
3項
|
査定異議の訴えに係る訴訟手続・127条1項又は129条2項より受継された訴訟手続 | 破産管財人が当事者である | 中断/
破産者受継(44条4項・5項) |
不中断(続行)
|
4項
|
査定異議の訴えに係る訴訟手続 | 破産管財人が当事者でない | 終了
|
続行
|
5項・6項
|
127条1項又は129条2項より受継された訴訟手続 | 破産管財人が当事者でない | 中断(5項)/
破産者受継(6項・44条5項) |
続行
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133条の規定は詳細であるが、全ての場合を網羅しているとは言えない。そこで取り上げられていないものの多くは、44条により処理される[59]。
以下では、これらの場合を含めて説明していくことにしよう。なお、133条は、破産手続終了時に係属している手続ごとに規定する方法を採っているが、ここでは、破産手続の終了事由ごとに説明する。
127条1項・129条2項より受継された訴訟手続と無配当終了−その1
これらの規定により受継された訴訟手続は、無配当終了後にどうなるのであろうか。破産手続廃止決定が確定した場合(及び破産手続終結決定があった場合)には、破産者が届出債権に異議を述べたときを除き(221条2項)、確定した破産債権について破産債権者表の記載は、破産者に対して確定判決と同一の効力を有する(同条1項)と規定しているので、破産者が異議を述べたか否かで場合分けをして考察するのがよい。
(a) 破産者が届出債権に異議を述べていない場合 この場合には、破産者は、破産手続開始前に届出債権について訴訟で争っていたにもかかわらず、破産手続開始後にその係争債権について異議を述べないという、首尾一貫しない行動をしており、そのことをどのように評価するかが問題となる。(α)異議を述べないことを届出債権の承認と評価するならば、127条1項・129条2項より受継された訴訟手続を続行する実益は乏しく、訴訟手続は当然に終了すると解してよいことになる。しかし、破産法はそのような評価をしているわけでない。(β)破産法は、221条1項の適用要件として、破産者が異議を述べていないことに加えて、届出債権が破産債権者間で確定していることも要求しているのである。この規律からは、≪破産者は異議を述べないことにより届出債権の存否・額に関する争いを破産債権者間での解決に委ねた≫との評価を読み取るべきである。これを前提にすると、この場合には、127条1項・129条2項より受継された訴訟手続は、受継時の訴訟状態を前提にして続行される。
(b) 破産者が届出債権に異議を述べていた場合 この場合は、破産管財人が当事者になっているか否かで分けて考察する必要がある。
(b1) 破産管財人が当事者になっていないときは、無配当終了により訴訟手続は中断し、破産者が受け継ぐべきと規定されている(133条5項・6項)。問題は、破産者が破産手続開始時から無配当終了時までに生じた訴訟状態の変化に拘束されるかである。破産債権確定訴訟の判決は、破産債権者の全員に対してその効力を有するが(131条1項)、破産者に対しても効力を有する旨の規定はないのであるから、破産者に対してはその効力を有しないと解すべきである。これを前提にすると、異議債権者による訴訟追行の結果生じた訴訟状態の変化の内で破産者に不利なものに破産者は拘束されるいわれはないことになる。 したがって、(α)破産手続開始時(異議債権者による受継時)から終了時(破産者による受継時)までに届出債権者が提出した攻撃防御右方法は、そのまま訴訟資料になるが、破産者に認否の機会を与えるべきであろう(異議債権者がした自白に破産者は拘束されないことになる)。
(β)破産手続開始時と終了時とで係属している審級が異なる場合はどうか。 (β1)訴訟が破産手続開始時に第一審に係属し、終了時にも第一審に係属している場合には、異議債権者による訴訟追行の結果に拘束されることなく、破産者は攻撃防御方法を提出することができるとすれば足りる(破産者が新たに提出する攻撃防御方法の提出が時機に後れたものであるかの判断は、異議債権者による訴訟追行を考慮することなくなされるべきである)。
(β2)訴訟が破産手続開始時に第一審に係属し、終了時には控訴審に係属している場合にも上記のことが妥当するが、この場合には、さらに審級の利益が問題になる。破産者の審級利益を重視するならば、第一審判決が破産者に不利なものであれば、控訴審は第一審判決を取り消して、事件を第一審に差し戻すべきことになる。 しかし、控訴審において破産者に訴訟資料の提出の機会を与えれば足りると考えることもできよう。 133条5項・6項の規定の文言からは、後者の選択肢が原則となるべきように思われる。ただし、それでは審級の利益が十分に保護されないと判断される場合には、控訴審は、そのことを理由に(判決内容の当否に立ち入ることなく)原判決を取り消して事件を第一審に差し戻すことができると解すべきである。
(β3)訴訟が破産手続開始時に第一審又は控訴審に係属し、終了時には上告審に係属している場合はどうか。 この場合には、上告審が破産者に有利な判決を下す場合は別として、そうでない限り、破産者に審級の利益(事実審についての審級の利益)を保障するために、控訴審において十分な訴訟資料を提出する機会が破産者に与えられていなかったことを理由にして、控訴審判決を破棄して事件を控訴審に差し戻すべきである。
(b2) 破産管財人が当事者になっているときは、44条5項により、破産者は訴訟手続を受け継がなければならない。破産手続終了までの間は、破産管財人が訴訟担当者として訴訟追行をしていたと解するならば、破産者は破産管財人がした訴訟追行の結果に全面的に拘束されると解することもできないわけではない(無配当終了前に訴訟が終了した場合には、判決の効力は民訴法115条1項2号により破産者に及ぶことになる)。しかし、破産管財人とて、争われている届出債権への配当額と費用を考慮して訴訟追行の意思決定をせざるを得ないことを考慮すると、破産債権確定訴訟について、破産管財人を異議を述べた破産者の訴訟担当者と見ることには慎重であるべきである。 破産財団に属する財産に関する訴訟については、破産財団の整理を確実に行うために、破産管財人を訴訟担当者と見る必要があるが、破産債権確定訴訟については、その様な事情はない。したがって、(b1) の場合と同様に扱ってよいように思われる。
127条1項・129条2項より受継された訴訟手続と無配当終了−その2
異議等が破産債権性や優先順位にのみ関わり、破産債権額に関わらない場合はどうか。届出債権者と異議者等の間での訴訟手続において、届出債権者と破産者との間で確定されるべき債権額が債権の存否に関する資料が提出される可能性は低いのであるから、破産者は、破産手続開始時の訴訟状態において(特にその当時に訴訟が係属していた審級において)訴訟手続を受け継ぐとすることも一つの方法である。
しかし、破産法133条は、そうした場合分けをしていない。訴訟手続の受継という基本的な問題であるので、処理基準は単純明快であることが望まれる。この場合でも、破産者は、破産手続終了時の審級において訴訟手続を受け継ぐとしておく方がよい。
破産手続において配当を受けるべき債権は、どのようにして確定されるか。