破産法学習ノート
破産債権3関西大学法学部教授
栗田 隆 |
7 別除権者・準別除権者の手続参加 8 破産手続外での破産者の財産からの弁済受領
破産者が担保物の所有者であると同時に被担保債権の債務者である場合には、担保権者は破産債権者の地位も有する。 そして、破産債権者は破産手続開始時の債権額を基準にして破産手続に参加することができるとの原則をそのまま適用すると、 破産手続開始後における担保権行使による満足を考慮することなく配当を受けることになる。 しかし、それでは、彼は、破産手続開始時の債権額について、 破産財団所属財産たる担保物から一般債権者を排除して優先的に満足を受ける地位を保障されつつ、 さらに一般財産から配当を受けることになり、一般破産債権者との公平を欠く。 そこで、担保権者は、まず担保権を行使して優先的満足を受けた後に、なお不足額(未弁済額)がある場合に、その不足額を基準にして配当を受けるべきものとされている (108条。民法394条・341条・361条も参照)。
債権者が108条の適用を受ける別除権者に該当するか否かの基準時は、破産手続開始時である(2条9項参照)。
破産手続開始後に別除権者が担保権を放棄した場合には、別除権者は、担保財産から被担保債権を回収することができないのであるから、不足額主義の適用を免れるものとされている(108条1項ただし書)。 担保財産が滅失した場合も同様である。担保財産の換価が後れ、最後配当の除斥期間の満了までに不足額を証明することができないような場合には、担保権者が担保権の実行により優先弁済を得ることができる金額を限定し、 その余を不足額として配当を受けることができるとすると、便宜に叶う。そのような被担保債権額の限定は、他の破産債権者を害するものではないので、 その限度額を超える部分を破産債権として行使することが認めてよく、これも108条1項ただし書の適用範囲に含まれる(「一部」はこのような場合を想定しての文言である)。
債権者が破産財団所属財産以外の債務者の財産から弁済を得る権利を有する場合には、その権利は別除権ではないが、不足額主義を適用することが他の債権者との公平に合致する。 そこで破産法は、次の2つの場合の債権者を準別除権者と呼び(111条3項かっこ書)、これにも不足額主義を適用すべきものとした(108条2項)。
その1 自由財産上の担保(2項前段)
破産者←─────────債権者 | |担保権(準別除権) ↓ 破産者の自由財産 |
第1破産の財団←─────────第1破産の債権者 |(第1破産前 ┌───────────┘ からの債権者) | ↓ 第2破産の財団←─────────第2破産の債権者 (正確には、第1破産と 第2破産との間の債権者) |
この場合には、第1破産の債権者は第1破産手続の終結前に第2破産手続に届出をなし得ることが前提になっている。 これは(広い意味で) 100条の例外と見ることができる。
108条に規定されている場合以外にも不足額主義の趣旨が妥当する場合がある。
拡張が容易に肯定される場合
次の場合に拡張することについては、異論は少ないであろう。
意見が分かれる場合
次の場合については、拡張を認めるべきか否かについて、意見が分かれるであろう。主債権者が主債務者の破産手続開始時に1000万円の債権を有していて、
その受託保証人が主債務者の不動産上に求償権を被担保債権とする最先順位抵当権を得ていて、主債権者自身は担保権を有していない;抵当不動産を換価すると配当に充てることができる金額として600万円を得ることができるものとする。
主債務者について破産手続が開始されると、保証人が別除権者になり、その被担保債権に不足額主義が適用されることは明らかである。
他方、主債権について不足額主義の適用があるかは微妙である。不足額主義の適用がないとすると、次のような問題が生ずる。
(a)まず主債権者が主債務者の破産手続に開始時の残存債権1000万円で参加して、例えば10%配当を受けると、100万円の配当を得ることになる。 保証人は、この破産手続には参加することができない(104条3項ただし書・4項)。主債権者が残りの900万円について保証人から弁済を受けたとしよう。 その後に保証人が抵当権を実行して、600万円を回収すると、300万円が未回収の求償債権となる。換言すれば、700万円が破産財団の負担になる。
(b)他方、主債権者が破産手続に参加することなく保証人から1000万円の弁済を受けると、保証人は、1000万円の求償権を取得し、 かつ、主債権を代位取得し、保証人は破産手続に参加することができる。保証人が求償権でもって破産手続に参加する場合には、彼は別除権を有するので不足額主義が適用され、 抵当権を実行して600万円を回収し、不足額の400万円を基準にして配当を受けることになる。 配当率は他の破産債権の金額に影響されるが、 (a)の場合と比較すると、1000万円の主債権に代えて、400万円の求償権が破産債権として行使されるのであるから、 配当率は、(a)の場合(配当率10%を仮定している)を上回る。それを仮に12%としよう。 すると、彼は、48万円の配当を受ける。最終的な彼の損失(回収できない求償金)は、 400万円−48万円=352万円である。換言すれば、648万円が破産財団の負担になる。
上記の(a)の場合と(b)の場合における保証人の損失額の差額52万円は、結局のところ、(a)の場合に他の破産債権者の受ける不利益であると言うことができる。 この不利益は、(a)の場合に不足額主義が適用されないことから生ずるものである。 他の破産債権者との関係では、主債権者と保証人とは一体的に考えて、 求償権と同様に主債権も実質的には破産者の財産上の担保権により担保されていると評価してよい。 したがって、(a)の場合にも不足額主義の適用の道を開くべきである。そのための方法として、次の2つが考えられる。
破産事件に関する日本の裁判所の国際管轄権は、債務者が日本に営業所、事務所、住所、居所、財産を有する場合に限られる(4条1項)。 したがって、日本の裁判所により選任された破産管財人が破産者の在外財産に対して管理・処分権を行使することは、当該外国において承認される可能性が高い。しかし、常に承認されるというわけではない。 そのため、日本の破産管財人が管理処分することのない在外財産から、破産手続開始後に、破産債権者が任意に又は当該外国の執行手続若しくは倒産処理手続により弁済を受ける場合がある。
その弁済を受けた場合でも、破産債権者は、日本での破産手続開始後の外国での弁済額を控除することなく、 日本における破産手続開始当時の債権額で破産手続に参加することができる(その債権額を破産債権額として届け出ることができる)(109条)。
しかし、議決権の行使や配当との関係では、他の破産債権者に比して有利にならないように、外国での弁済受領額が考慮される。すなわち、
前述のように、破産者が破産手続中にその自由財産から特定の破産債権者に任意弁済することは許容されるが、その場合に、その任意弁済額を配当手続においてどのように考慮すべきかが問題となる。 (α)弁済額を控除した金額を破産債権額とすることも考えられるが、これでは破産債権額が手続中に変動することになり、 おそらく手続が不安定になろう。むしろ、(β)109条 ・ 201条4項・209条3項を類推適用する方が簡明と思われる。 ただし、(γ)破産者の意思は当該破産債権者に迅速により多く弁済したい点にあると考え、その意思を尊重するならば、 破産手続中の任意弁済は、破産手続後の任意弁済と同様に、配当額に影響を与えないとすることも考えられる。
迷うところであるが、破産者の意思を尊重して、(γ)の選択肢を採るべきであろう。ただし、第二次的な選択肢としては、破産手続中における破産債権者の平等を重視して、 (β)の選択肢も有力であり、この選択肢をとる場合には、自由財産からの任意弁済と破産配当の合計額の破産債権に対する比率(総弁済率)が他の破産債権者の配当率を超えることになっても、 配当金も任意弁済額も、破産財団に償還する必要はないとすべきである。その限りで、破産者の任意弁済の意思を尊重すべきであると考えたい (破産者がいつ任意弁済するかによって最終的な結果が異なることになるが、やむを得ないであろう)。
破産債権は、破産手続が行われている間、権利行使の面でどのような制限を受けるか。
破産債権となるのは、どのような債権か。
債務者が破産した場合に、債権者はどのように権利を行使すべきか。