関西大学法学部教授 栗田 隆


破産法学習ノート2 「破産債権の届出・確定」の注


注1  旧法下において次のような議論があった(片野[百選*1990a]217頁参照)。 この議論は、現行法の下でも通用しよう。

注2  ただし、債務者(破産者)自身が破産手続開始前に原債権の弁済をしたが、彼が受託保証人に通知することを怠っているうちに破産手続が開始され、彼又は彼の破産管財人が通知する前に受託保証人が第三者弁済をしたため、民法463条2項により、受託保証人がその弁済を有効とみなすことができる場合に(受託保証人の通知が主債務者の通知よりも先に相手方になされたものとする)、原債権は債務者自身の弁済により消滅しているから代位の余地はないとの解釈を前提にしたときに生じうる。

注3  なお、届出債権者が法律を誤解して誤って劣後的破産債権であるとして届け出ている債権について、破産管財人が劣後的破産債権でないと判断する場合に、それを認めない(普通破産債権である)との認否をすることができるかが、問題となる。この問題の解決として、次の2つが考えられる。(α)この場合に、破産管財人が届出債権者に対して届出変更を促すことが許され、債権者が届出の変更をすれば、それは「届出期間経過後になされる他の債権者に不利な変更」であるが、破産管財人が認否書に「認める」との認否を記載すれば、一般調査期間において調査されることになる;このことを考慮して、かつ、処分権主義を重視すれば、破産管財人は、「劣後的破産債権であることを認めない」との認否をすることができないと解すべきである。他方で、(β)破産債権者に公平に配当を与えることが破産管財人の重要な職務であることを重視し、また、届出の変更を促すことが時間的に間に合わない場合があることを考慮すると、「その債権が劣後的破産債権であることを認めない」との認否を許してもよいことになろう。破産管財人の法的地位は個々の問題点毎に検討すべきであることを前提にして、今論じている問題に関するかぎり、(α)の解決がよいと思われる。

注4  費用の予納を命ずる裁判所書記官の処分に対しては、裁判所に対して異議を申し立てることができるが(破産法13条・民訴法121条)、同処分に対する異議の申立てについての決定に対しては、不服申立てをすることができない。費用の予納がないことを理由に届出を却下する決定に対して即時抗告をすれば足りるからである([小川*2004a]162頁)。

注5  確定判決と同一の効力は強力な効力であるので、実在するもの(可視的なもの)即ち「破産債権者表の記載」に認められているのである。

注6  調査終了日については初日不参入の原則を適用すべきであるので、「終了日の翌日から1月内」と言い換えても同じである。

注7  異議の訴えに対しては、「原決定を取り消して事件を差し戻す」というような裁判をする余地はない。異議の訴えは、査定決定に対する不服申立てではあるが上訴ではなく、また、差戻しなどをすれば事件処理を遅延させるからである。また、査定手続は略式手続であり、略式手続でくだされた裁判が十分な審理を経ずになされたものであるならば、十分な審理が予定されている訴訟手続で審理すれば足りるからである。「破産債権査定申立てについて決定を取り消す」という文言を用いることもできない。この決定を取り消すと、査定申立てについての裁判がなくなるが、その裁判を異議訴訟の裁判所がすることは予定されていないからである(査定申立てについての裁判は、破産事件を担当する裁判機関が決定ですべきものだからである)。

注8  破産債権確定訴訟は、破産債権の異議を述べられた事項についての確認訴訟である(通説。注27参照)が、「確定」の語を用いるのが慣例である。事件名には、「破産債権確定請求事件」あるいは「破産債権確定反訴請求事件」を用いる。もっとも、係属中の訴訟を破産債権確定訴訟として利用する場合には、本訴請求事件については、訴え提起当時に付けられた事件名がそのまま用いられるので、この場合については、判例集に「破産債権確定請求事件」が登場することはないであろう。他方、129条1項の規定により異議者等から破産債権確定訴訟が提起される場合には、「破産債権確定請求事件」という事件名もあり得る。ただ、請求の趣旨は、「被告が・・・の破産債権を有しないことを確定する」との判決を求める消極的確認請求になり、その点をそのまま事件名に表すと、「破産債権(一部)不存在確定訴訟」といった名称になろう。

注9  破産法は、民事再生法が採用しているような債権自認制度(同法99条1項等参照)を採用していない。

注10  根拠条文としては、次のいずれかを挙げることができる。

注11  法人が特定されているのであるから、代表者の氏名の記載のみで代表者は特定され(同姓同名の代表者が複数いる場合には、さらに年齢等により特定する必要が生ずるが、それは例外である)、かつ、代表者への各種の書類の送達・送付は法人の住所に向けてすれば足りるからである。民訴法37条・103条1項ただし書参照。

注12  民訴法40条4項の準用は明規されていない。その理由は、よく分からないが([小川*2004a]167頁−168頁においても説明されていない)、次のように考えてよいであろうか:本来は(すなわち、平成8年民訴法の成立当初の考えに従えば)、共同訴訟人の中に被保佐人等がおれば同項の準用(ないし類推適用)の必要が生ずるが、類似必要的共同訴訟においては、自ら上訴を提起しない者は、上訴人の地位には就かないとの最高裁判例が出されているので(住民訴訟につき最高裁判所 平成9年4月2日 大法廷 判決(平成4年(行ツ)第156号))、民訴法40条4項の準用の必要はない;固有必要的共同訴訟については、同趣旨の最高裁判例はまだないが、異議等を受けた者が原告となって異議者等の全員を被告にして訴えを提起する場合には、固有必要的共同訴訟に分類されるとはいえ、査定異議の訴えに関する限り、必要的共同訴訟の一部の者のみが上訴を提起する場合に、他の者まで上訴人の地位につける必要性は乏しく、類似必要的共同訴訟の場合と同様に扱ってよい。

注13  債権確定訴訟説を採る文献として、次のものがある:[加藤*1927a]56頁以下、[注釈*1997c]286頁(栗田)、[伊藤*破産・民再v4]685頁注87。

ただし、次の点に注意する必要がある。[加藤*1927a]は、破産手続開始時に請求異議訴訟が係属している場合について「消極的確認訴訟として其の訴訟を受継き其の異議を主張すへき」(57頁。原文カタカナ)と述べており(「其の異議」が「請求異議」の意味なのか、「債権調査における異議」の意味なのかが問題となるが、後者と解すべきであろう)、また、係属中の訴訟がない場合について消極的確認訴訟を提起すべきとしている(同56頁)ので、債権確定訴訟説に分類することができるが、[加藤*1952a]369頁では、「破産者が為すことを得べき訴訟手続」の例として、「執行力のある債務名義の表示する債権に対する攻撃方法としては請求に関する異議の訴」が挙げられており、その趣旨の理解に悩む。この記述の直後に1927年の前掲文献の参照が指示されているのであるから、債権確定訴訟説に分類したままでよいと思われるが、請求異議の訴えに関する規律(特に管轄に関する規律)の下で消極的破産債権確定訴訟を提起することができるとの趣旨に理解する余地もある。

[伊藤*破産・民再v4]685頁注87は、請求異議の訴えについて否定説が合理的であると述べた後で、次のように述べている:「執行証書については、執行文付与に対する異議など(民執32・34)か請求異議の訴えのいずれかという議論があるが、破産債権そのものの存在を争うのであれば、後者が適当である。」。これは、選択肢を執行文付与に対する異議などと請求異議の訴えに絞った場合の説明とみるべきであろう。一般論としては、請求異議の訴えよりも消極的確定訴訟を提起させる方が合理的であり、執行証書についても、前記のように選択肢を限定する必要はなく、消極的破産債権確定訴訟を提起させる方が合理的であると思われる。

注14  [山木戸*1974a]251頁。

注15  破産債権査定申立ての制度がない大正11年破産法では、無名義債権についての債権確定の訴えは、破産裁判所の管轄に専属すると規定されていた(同法245条)。有名義債権についての異議主張方法として消極的破産債権確定の訴えが新たに提起される場合に、この規定が準用される旨を同法248条2項は規定していなかった。平成16年破産法でも状況は基本的に同じである。すなわち、同法は、破産債権査定申立ての制度を導入し、申立てについての決定に対する不服申立て方法として査定異議の訴えを規定し、その管轄裁判所を破産裁判所としたが(126条2項。6条により専属管轄)、有名義債権についての異議主張方法として消極的破産債権確定の訴えが新たに提起される場合について、126条2項の準用を規定しなかった(129条3項参照)。

 破産者の採りうる訴訟手続についての管轄規定によるべきものとすれば、破産者が提起する場合に適用される管轄規定により自ずと管轄裁判所が考えたものと推測される。そうであるならば、債務不存在確認訴訟の原則的管轄裁判所は、被告である債権者の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所となる。しかし、その立法論的当否はさらに検討が必要であろう。

注16  請求異議説は、異議者等が口頭弁論終結前の事由をもって破産債権を争うことが禁じられることの根拠として民執法35条2項を持ち出すことができるという利点があるようにも見えるが、消極的債権確定訴訟が提起された場合にあっても、そのことは既判力の標準時に関する一般理論により十分説明ができる。さらに、請求異議説では、民執法35条3項・33条2項が適用されることになろう。管轄裁判所が一つに限定されること自体はよいことであるが、民執法33条2項の専属管轄は、主として、請求異議が認容されて執行力が排除された場合に、執行文付与機関が執行力の存否を調査し易くすることを考慮して定められたものと考えられ、執行力の排除を目的としない債権確定訴訟事件を民執法33条2項の裁判所の専属管轄に服させる実益は乏しい(このことは、請求異議認容判決の確定を当該債務名義(原本)に附記する方法により調査しやすくなっている場合でも、基本的に同じである。ただし、裁判以外の債務名義について、その成立に瑕疵があることが異議事由となっている場合(民執法35条1項後段)には、証拠の収集の便宜も専属管轄の根拠となるが、債権者間で破産債権を確定する場面で債務名義の成立の瑕疵を争っても意味はなく、破産債権の額等を争わせるべきである)。むしろ、異議等の解決については破産者よりも異議者等の方が大きな利害関係を有することを考慮すると、破産債権者のみならず異議者等にも関係のある裁判所たる破産裁判所の方が、多くの場合には、管轄裁判所として適切であろう(なお、破産法126条2項・3項の類推適用を肯定すべきである)。

注17  調査期日は裁判所法69条にいう法廷でなされるべきものであるかという問題があるが、ともあれ、同条2項を参照。

注18  例えば、金額1000万円の債権として届け出られていた場合に、600万円を超える部分について異議等が出された場合に、その処理でよいのか。破産債権届出期間はすでに過ぎており、かつ、書面による調査の場合には調査期間も過ぎている。したがって、金額600万円の破産債権として再届出をしようとすれば、112条1項の「その責めに帰すことができない事由」の存在が要求されるが、この場合にそれが存在するとは言い難い。この場合については、おそらく、異議等のあった範囲で届出はなかったものとみなすべきであり、前記の例では、(α)金額600万円の破産債権の届出がなされたものとみなすことになろう(400万円部分について取下げがあったとみなすと説明しても、同じ結果になろう)。この解決と、(β)当該破産債権は金額600万円の債権として確定すると構成することとの間に実際上の差異があるかと言えば、それはないであろう。前者の場合であっても、届出破産債権の金額が600万円であることについて異議は出されていないのであるから、124条3項の適用を肯定すべきだからである。

そうすると、届出破産債権の一部の事項についてのみ異議等が出された場合には、異議等に係る部分を除いた破産債権(破産債権者に最も不利な内容の破産債権)として確定するとすべきことになる。異議等が届出破産債権の存在そのものを否定する内容である場合を全部異議等と呼ぶことにしよう。全部異議等の場合には、届出自体がないとすることも可能であるが、そうなると、一部異議の場合と全部異議の場合とで取扱いが異なる(具体的には、前者の場合には124条3項の適用が肯定され、後者の場合には否定される)ことになる。それが妥当かどうかは、同項にいう「確定判決と同一の効力」をどのように解するかにも依存することである。ともあれ、種々考慮すべき事項はあるが、この学習ノートでは、一部異議等の場合には、査定申立期間が遵守されない場合には、届出債権は、異議等のない範囲で確定する、との立場をとることにする。

注19  [小野木*1940a]187頁以下。[注釈*1997c]279頁・248頁(栗田)。旧会社更生法について、[条解*1997a]785頁以下。

注20  平時(主債務者も受託保証人も破産手続開始決定を受けていない時期)に、双方がほぼ同時期に相前後して弁済をなした場合(一方の弁済の通知が他方に到達する前に他方も弁済した場合)の民法463条2項・3項の適用を表で整理しておこう([大村=道垣内*2017a]254頁以下による)。

誰の弁済が有効とみなされうるか(表中の「***の弁済」が優先する)

  先に弁済をした者
主債務者 受託保証人
先に通知
をした者
主債務者
主債務者の弁済
主債務者の弁済
受託保証人
受託保証人の弁済
受託保証人の弁済

注 事前通知の必要性を定める民法463条1項における「債権者に対抗することができた事由」として主に想定されているのは相殺権の行使であり、債務者による債務消滅行為そのものは含まれない。

メモ 

注21  訴状の請求の趣旨において、≪との判決を求める≫が省略されるのと同じ傾向である。査定申立ても、裁判所に対して一定の行為(ここでは決定)を求める申立てである以上、本来は≪との決定を求める≫の部分も書かれるべきである。しかし、目くじらを立てるほどの問題ではない。

注22  破産法13条により民事訴訟法28条−37条が準用される。民訴法30条の準用も肯定してよい。

注23  大正11年破産法に関し、[加藤*1927a]328頁以下(名義の有無は債権の性質に属し、名義の存在は届出事項に含まれ、かつ、債権調査に服すとする。特に執行文の付与について論じたものである)、[注釈*1997c]284頁(栗田隆)。ただし、いずれも、この異議の解決については論じていない。

注24  大正11年破産法に関し、肯定説に立つ文献として、[加藤*1927a]315頁、谷口安平『倒産処理法2版』 (筑摩書房、昭和57年)301頁、[伊藤*破産法]331頁、[加藤*破産v1]115頁がある。否定説を説く文献として、大正11年破産法に関し、[井上*1971a14f]328頁以下、[青山ほか*2001a]133頁(福永有利。執行文の付与申請も破産手続外における権利行使とみて許されないとする)がある。

 現行破産法について、本文と同様な中間説をとる見解として、次のものがある:[中島*2007a]179頁。

注25  [井上*1971a14f]336頁は、次のように述べる:「名義の示す債権が金銭債権以外の財産を物体[対象]とする場合に、其の評価額に向けられた異議は、有名義債権に対する異議として扱はるるものではない」(カッコ内は栗田が補充)。債権の存在・破産債権性・順位に向けられた異議がどのように取り扱われるべきかについて言及がない。破産債権の額についての異議の取扱いについては私見と同じであるが、その他の属性についての異議の取扱いに関し、私見と同じと言えるかは判然としない。

注26  この場面での破産管財人の位置付けについては、次のような見解がある。

注27 [前野*1938b]161頁(破産債権として行使することができる実体法上の債権自体の確認訴訟であると述べる)、 [中田*破産・和議]220頁、兼子一・編『破産法』(青林書院、昭和45年(昭和31年第1刷))208頁。民事再生法に関し、[注釈*2006a]523頁。

注28  債権調査終了時とする見解として、次のものがある:[前野*1938b]174頁。

注29  文献上異論なく認められている。旧法下の文献として、[前野*1938b]176頁(この受継申立ては、大正15年民訴法216条(現126条)によるものではなく、旧246条(現127条1項によるものであるとする))。

注30  大正11年破産法の下では、異議の撤回は異議を受けた債権者に対してしてもよいとする見解と、「行為の撤回は其の撤回せらるべき行為と同様の方式に依るを理論上正当とする」ことを理由に、異議の撤回は常に裁判所に対してなすべきであるとする見解([前野*1938b]178頁)とがあった。後者が正当であり、現破産規則38条等はこれに従っている。

注31  [菊井=村松*1984a]1169頁は、≪理由なしとして却下する決定≫に対して通常抗告をすることができるとし、不適法として却下する決定に対して抗告をすることができるかを明示していないが、不適法却下の場合も含むと解すべきであろう。[条解*1986a]726頁は、「異議を却下した決定に対しては、通常抗告ができる」と述べる。

注32  [菊井=村松*1984a]1169頁、[条解*1986a]726頁。この結論が民訴法のどの条に基づくのかは明示されていない点で不安があるが、この結論を承認すべきであろう。

注33  大正11年破産法の下では、債権者表更正の申立てを許容しないことは裁判であり、これに対しては即時抗告を許すべきであるとの見解もあったとのことである。[前野*1938b]180頁以下の議論を参照(同書は、公証行為説である)。

注34  2種類の調査方法のうち、書面による債権調査は、日本の倒産法制の中では、平成11年民事再生法で初めて採用され、その後、平成14年会社更生法で採用された([深山*2003a]166頁)。これらの再建型手続では、期日における債権調査の方式は採用されていない。

注35  コンピュータを利用して表を作成することが普及していなかった時代には、この方法で作成することが多かったと思われる。コンピュータの利用が普及した後でも、データの入力作業の軽減を図り入力ミスを防ごうとすれば、この方法が簡便であろう。

注36  重政伊利=大林弘幸『破産管財事件における書記官事務の研究』(平成26年)85頁(書式は、書58頁)参照。なお、民事再生手続に関して、[注釈*2006a]482頁参照。

注37  議論の状況につき[条解*2014a]838頁以下参照。民事再生法につき、[条解*2006a]491頁以下参照。

注38  債権調査の終了日(125条2項所定の調査期間の末日又は調査期日)までとすることも考えられる。しかし、執行力のある債務名義が存在する旨を届け出る場合には、規則32条4項で、「執行力のある債務名義の写し」の添付が義務づけられており、届出時に単純執行文が備わっていることが必要であると解してよく、実際上も、単純執行文の取得にそれほど時間がかかるとは思われない。また、債権調査の終了日までに執行文を得て提出すればよいとするのでは、破産債権確定手続の開始責任を誰が負うのかが異議者等にとって不明確になり、好ましくないと思われる。

注39  民事再生法に関し、[注釈*2006a]507頁参照。

注40  明文の規定はないが、このように解されており、異論は見あたらない。なお、民事再生法に関しも、確定判決と同一の効力が再生債務者等に及ぶと解されている。[注釈*2006a]507頁参照。

注41  民事再生法に関し、[注釈*2006a]510頁参照。

注42  民事再生法に関し、[注釈*2006a]510頁参照。

注43  民事再生法に関し、[注釈*2006a]512頁参照(ただし、「議論の余地はあろう」と述べる)。

注44  破産法125条1項が「破産債権の存否」を挙げることなく「破産債権の額又は・・・」としている点に鑑みれば、本文掲記のこの主文例が予定されているというべきである。ただ、「申立人の破産債権が不存在であると査定する。」としても、実質は同じであり、このような主文も許されると考えたい。

注45  民事再生法に関し、[注釈*2006a]512頁参照。

注46  通常の判決手続では、「申立人のその余の申立てを棄却する。」との主文が掲げられ、その主文の中に60万円を超える部分の不存在の判断が示されていると考えられているが、それとは異なる。

注47  形成訴訟説をとる文献: [条解*2014a]890頁、[中島*2007a]173頁(なお、「破産債権査定決定の効果を認可し、または変更することを求める」訴えであると述べる部分があるが、この記述は疑問である。原告は、査定決定の変更を求めているのであり、査定決定の認可を求めてなどおらず、もし求めても訴えの利益は否定されるからである)。民事再生法に関し、[注釈*2006a]516頁。

確認訴訟説をとる文献: 河野 憲一郎「破産債権確定手続の基本構造」商学討究60巻2・3号(2009年)177頁。

注48  民再法106条1項の訴訟について[注釈*2006a]520頁。

注49  管理命令が発せられていない場合には、次のように正当化できる。再生債務者自身がその訴訟の当事者になっているときは、その訴訟の判決の効力は彼に及び(民訴法114条1項1号)肯定してよい;再生債務者自身はその訴訟の当事者になっていないときは、彼は訴訟の対象となっている再生債権を争っていないのであるから、その訴訟の判決の効力が再生債務者に及ぶとしても彼に不利益になるわけではないから、その訴訟の終了前に破産手続に移行した場合に、その訴訟の破産手続開始時における訴訟状態(ないし「生成中の既判力」)に破産手続における異議者等も拘束されるとしてよい。

他方、管理命令が発せられている場合には、再生債務者は異議を述べることができるが(102条2項。ただし、通常は、再生債務者たる法人を代表して異議を述べようとする者はいないであろう)、その異議は再生債権の確定を妨げる効力を有せず(104条1項)、再生債務者が異議等に係る再生債権の確定のための訴訟手続の当事者となることもない。管財人が再生債務者の利益擁護者として行動することが期待されるが、どの程度期待することができるかについての評価は分かれよう。

注50  例えば、民事再生法に関し、[注釈*2006a]527頁。

注51  民事再生法に関し、[注釈*2006a]523頁。

注52  民事再生法に関し、[注釈*2006a]525頁(本文αの立場)。

注53  否定説:[注釈*2006a]527頁。

注54  民事再生法に関し、[注釈*2006a]531頁。

注55  当事者が交替していることを考慮すれば、新たな当事者に従前の口頭弁論の結果(つまりは、現在の訴訟状態)がどのようなものかを知る機会が新当事者に与えられるべきであり、それは従前の訴訟状態を把握している裁判官が新当事者に陳述(説明)するという形でなされてよいと思われる(民訴法249条2項は、裁判官が交代した場合に当事者が従前の口頭弁論の結果を陳述すべきものとしているが、今問題にしている場合は、裁判官の交代ではなく当事者の交替であるから、裁判官が従前の口頭弁論の結果を陳述(説明)するという形をとるべきであろう)。

注56  [注釈*1997c]285頁(栗田隆)では、「簡易に作出される新たな債務名義の側面ももつ承継執行文」を念頭において、そのような承継執行文は、「破産宣告前に付与されていないければならない」、と述べた。破産者が履行すべき非金銭債務が承継執行文において金銭債務に書き換えられるような場合には、確かにそうである。

現実に多く生ずるのは、前記の場合よりも、被承継人を債権者とする執行力のある債務名義に表示されている金銭債権が承継人に承継される場合であろう。この場合については、本文に述べたことが妥当する。

注57  債務名義の成立についての瑕疵を理由にして執行力が排除された場合には、当該破産債権の存否・内容は確定されておらず、当該破産債権が無名義債権になるだけである。その場合に、破産債権者があらためて査定申立てをして、最終的には査定異議の訴えにより解決されることになるとするのでは、迂遠であるのみならず、査定申立期間の起算点を債権調査終了日ではなく、請求異議認容判決確定の日に後ずれさせる必要が出てこよう。それは、異議等を迅速に解決しようとする現行破産法の方針にそぐわない。

注58  次のことを理由にする。

注59  44条4項(及び5項)の「破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続」には、破産債権に関する訴訟手続も含まれ(44条2項・133条3項参照)、また、破産手続開始時に係属中であった訴訟に限られず、開始後の新たな訴訟手続も含まれる([注釈*2015a]317頁。

注60  特に異議債権者が破産債権確定訴訟で勝訴することにより得る利益は、届出債権者への配当分を他の破産債権者と分け合うことになるので、あまり大きくないのに対し、破産者は、届出債権について免責されない場合を想定して言えば、敗訴により、届出債権者の債権全額について弁済義務を負うことが不可争になるになる。

注61  [小野木*1940a]177頁。

注62  [小野木*1940a]177頁。

注63  令和元年の時点において、訴額1000万円に対する訴え提起の手数料は5万円であり、これを基準にした控訴提起の手数料は7万5000円であるが、訴額100万円に対する訴え提起の手数料は1万円であり、これを基準にした控訴提起の手数料は1万5000円である。

注64  旧法下において、[小野木*1940a]183頁は、これらの事項に関しては訴訟の受継をなす余地はないから、破産宣告の当時既に訴訟が係属する場合でも債権確定の新訴を提起する他ない、と述べる。有名義債権について、187頁以下参照。

注65  大正11年破産法について、[小野木*1940a]188頁。執行文については、その付与申立ては個別執行禁止原則に反しないことを理由に、破産宣告後に付与されたものでもよいとする。

注65  [小野木*1940a]184頁。

注66  [小野木*1940a]189頁。

注67  [小野木*1940a]189頁以下。

注68  [小野木*1940a]190頁以下(大正11年破産法245条(現126条2項)を準用すべきであるとする)。

注69  [小野木*1940a]194頁。

注70  [小野木*1940a]194頁(「かかる判決の既判力は破産財団に対する関係に於て破産債権者の全員に対して拡張せらる」)、197頁以下。

注71  [小野木*1940a]201頁。

注72  [小野木*1940a]205頁(債務名義に関する一般理論によりこのように解すべきであるとする)。

注73  [岡ほか*2017a]67頁、竹下守夫ほか編『破産法大系・破産手続法』(青林書院、2014年)344頁(上野保)。

注74  ただし、竹下守夫ほか編『破産法大系・破産手続法』(青林書院、2014年)358頁(上野保)は、「破産者は、債権調査期間又は債権調査期日において、・・・書面で異議を述べることができる」とする。

注75  立案段階では、届出債権者が「届出書の複本及び証拠書類を破産管財人に対して提出する」旨を規則において定めることも検討されたが(中間試案第10の1後注及び中間試案説明第10の1末尾参照)、これは、現行規則32条5項において若干形を変えて実現された。また、「債権者の選択により破産管財人に届出書の正本を提出することができる」との考えも検討されたが、採用されなかった(中間試案第10の1後注及び中間試案説明第10の1末尾参照)。とはいえ、実務においては、本文記載のような運用により、一層強力な形で実現されることがある。

注76  ただし、類似必要的紀要同訴訟とする異説もある(河野 憲一郎「破産債権確定手続の基本構造」商学討究60巻2・3号(2009年)185頁以下。複数の異議者等のうちの一部の者が異議等を取り下げれば、その者に対する訴えは取り下げることができることを主たる理由とする。なお、理由付けの中に、「異議者等の側が訴訟を提起する場合には自らが起訴の時期を選択することができるわけだから、たとえ訴訟がかなりの程度進んでから名乗りを上げようが、訴訟提起をはじめからせず判決効を甘受するという選択肢をしようが、問題はない。」(186頁)との記述があるが、前半部分(2番目の読点までの部分)は、126条1項・5項・6項・129条3項・125条2項・126条5項・6項に反するのではなかろうか。