注1 肯定説:[中野=松浦=鈴木*1998a]104頁(坂原)、[上田*1997a]108頁、[新堂*1998a]147頁など。
否定説:[兼子*1967a]128頁。
注2 商法309条の社債管理会社の訴訟上の地位については、法定代理人説([吉戒*1993a]1331号31頁)、法令による訴訟代理人説([松下*1995b]43頁)がある。実体法上の行為については代理人としつつ、訴訟法上の位置付けを訴訟担当とすることも可能である。区分所有法25条の管理人にその例がある。同法26条2項・4項参照。
注3 本人の意思で消滅させることができる法定代理権もある。これは、任意代理人に近くなるが、当初は本人の意思に基づかずに代理権が与えられるという点で、なお法定代理権の性質を有する。例えば、金融機関について会社更生手続あるいは破産手続が開始された場合には、預金保険機構が預金者表を作成し、これを裁判所に提出することをもって預金者等の債権届出とみなされ、預金者等は自ら手続に参加することができるが、そうしなかった預金者等については、預金保険機構が代理人としてその後の手続に属する行為および債権確定訴訟を追行する(金融更生特391条以下・394条(更生手続)、503条以下・506条(破産手続))。
注4 規則15条の法定代理権等を証明する文書は、次のようなものである([条解*1997a]32頁以下参照)。
民訴法35条により選任された特別代理人は、受訴裁判所の裁判長が選任し、選任の裁判の記録が訴訟記録にあるから、規則15条の証明文書は必要ない。
注6 法定代理人は、本人の意思に基づかずに選任されることを特色とするのに対し、法人その他の団体の代表者は、その内部的意思決定機関により選任される。選任過程に重要な差異があるが、本人が自ら有効に訴訟行為をなすことができないという点では共通している(法人等は、観念的な存在であり訴訟行為をまったくすることができない)。そして、民事訴訟法の法定代理に関する規定は、判断能力が不十分な本人が自ら訴訟行為をなすことができず、法定代理人がその利益を代表するということを基礎にした規定であるので、法人等の代表者にも準用されるのである。
注7 後見監督人がいなければ、後見監督人のいない後見人の場合と同様に授権を要しないと解する余地もないわけではないが、一般にこのように解されており([条解*2011a]192頁)、また、無能力者の利益保護を確実にするために、このように解すべきであろう。
注8 平成11年改正前の民法846条では、禁治産者であることは後見人の欠格事由であったが、同改正後の847条では、成年後見開始の審判がなされたこと自体は後見人の欠格事由とされていない。そのような事態に陥る前に後見人が解任されることが期待されている。しかし、実際上は極まれであろうが、それでも、成年後見開始の審判を受けた彼の解任と新後見人の選任が遅れる場合もあろう。この場合の取扱いは、明瞭でない。
注9 家庭裁判所がこれらの者に代理権を付与するにあたっては、自己決定権の尊重の趣旨から、本人の申立に基づかない場合には本人の同意が必要である。そして、(α)代理権の与えられた事項について同意権がある場合には、これらの者は、制限訴訟能力者の法定代理人である。他方、(β) 補助人に代理権が与えられた事項について同意権が与えられていない場合には、本人の行為能力は制限されない。したがってこの場合の補助人・保佐人は、任意代理人に近接しているが、それでも法定代理人と位置づけられている(124条5項参照)。とはいえ、この場合の保佐人・補助人は、訴訟能力者の法定代理人であり、訴訟無能力者の法定代理人とは異なった扱いを受けることがあることに注意すべきである。
注10 ここで問題となっているのは、訴訟代理人の選任という訴訟行為というより、むしろ、訴訟代理人との間の報酬支払契約という実体法上の行為の能力の補充である。この能力補充については、被保佐人・被補助人については、保佐人・補助人の同意に代わる家庭裁判所の許可の制度がある(民法13条3項・17条3項)。なお、被補助人については、有償委任契約の締結について制限を受けていない場合もあり、この場合には、自らの意思で訴訟代理人を選任することができる。
注11 平成11年改正前は、「夫婦の一方が禁治産宣告を受けたときは、他の一方は、その後見人になる」と規定されていた(民法旧840条)。
注12 同じ事の別の表現形式にすぎないが、提示方法の参考のために記しておこう。
注13 この実体法上の法律行為の制限は、委任される訴訟が人事訴訟であるか否かに関わりなく存在する
注14 なお、最高裁判所 平成15年12月16日 第3小法廷 判決(平成14年(オ)第545号、平成14年(受)第546号)は、旧商法275条の4に関し、退任した取締役に対して責任追及の訴えを提起する場合には、代表取締役と被告となる退任取締役の馴合い訴訟の可能性は低いので、代表取締役も会社を代表する権限を有するとし(代表取締役の代表権限と監査役のそれとが並立する)、同様のことは、旧商法275条の4が準用されていた農業共同組合の理事と監事の間の訴訟についても妥当するとした。
しかし、新会社法386条1項が、元取締役と会社と間の訴訟についても監査役が会社を代表すると明規しているので、この最高裁判例は、法律により変更されたと見るべきであろう。
注15 かつては、民旧34条・45条が、公益法人は主務官庁の許可によって成立すると規定していたまで、これについては、設立登記がなされるまでの間は、主務官庁が保管する文書の謄本等が資格証明文書となった。もっとも、民旧45条1項により2週間以内に法人登記をすべきものとされているので、そのような事態になることは、実際上はほとんどなかったであろう。
注16 ただ、財産管理人が不在者のために行動しているつもりでも、法律上は相続人のために行動しているのであるから、その食違いからいろいろ問題が生ずるのは確かである。訴え提起前に不在者が死亡していたことが訴訟係属中に判明した場合について考えてみよう。
注17 [吉戒*1993a]1331号31頁、[注釈*2010a]141頁。受益者代理人については、もう少し複雑な説明になるが、基本は同じである。
注18 [注釈*2010a]141頁、[松下*1995b]36頁。もっとも、その根拠が、代理人の選任が本人によってなされていない点にあるのか、法令により代理人の設置が義務づけられている点にあるのか、その双方なのかは、必ずしも明瞭ではない。本文後述の最高裁判所 平成28年6月2日 第1小法廷 判決(平成26年(受)第949号)が、社債管理者の制度にならって置かれた外国ソブリン債の管理者を任意的訴訟担当者と位置付けていることを考慮すると、社債管理者の代理権限取得の根拠は本人の受益の意思表示にあると見て、任意代理人に分類することも可能であろう(任意代理人とみる場合には、法令による訴訟代理人に位置づけられる)。ただ、いずれに分類するにせよ、社債権者に判断能力が欠けているわけではないから、社債管理者は本人の能力を補充するための代理人であるとはいえない。しかし、通常、個々の社債権者は弱小であり、社債上の権利の実現をはかる必要がある場合に、個々の社債権者が孤立的に行動するよりは代表者を通じて行動する方が有利であるので、そのような代表者として社債管理者を設置すべきものとされているのである。民訴法上の法定代理人に関する規定(民訴法102条・124条1項3号など)の適用ないし類推適用の有無は、こうした実質を考慮して決められるべきである。例えば、社債管理者が会社法706条1項2号の規定により社債全部について訴訟行為をする場合には、多数説によれば、個々の社債権者は個別の権利行使をすることができないと解されており、この実質により、個々の社債権者は無能力者ではないが、民訴法102条の類推適用を認めるべきであろう(同条の類推適用と言わずに、条理により同じ結論(送達は法定代理人にしなければならないこと)が導かれると言っても実質は同じである)。