関西大学法学部教授 栗田 隆

民事訴訟法(判決手続)1・2の練習問題

---レベル1・2・3 ---

2019年12月5日


レベル表示について

解答にあたっては、次の点に注意しなさい。

ヒントについて

なお、学部の定期試験(本試験)においては、上記の出題範囲に属する場合でも、次の問題は出題範囲外とする(この出題範囲の制限は、本試験にのみ適用し、追試験には適用しない)。

練習問題の答案は、必ず友人とチームを作って考えなさい。それが、答案の質を高める最も確実な方法である。


裁判所・裁判権

  1. [L1]2005年7月7日に、大阪市北区内に住所を有するXが京都市中京区内に住所を有するYに100万円貸したが、Yが返してくれない。2006年8月1日に、Xは貸金返還請求の訴えを提起しようとしている。法律に疎いXは、法学部で民事訴訟法を勉強しているあなたに、どの裁判所に訴状を提出することができるかを問うた。この問に下記の順番で答えなさい。
     (1)管轄の意義について説明しなさい。
     (2)事物管轄について一般的に説明しなさい。
     (3)土地管轄について一般的に説明しなさい(次の小問(4)に適用される民事訴訟法の規定の根拠も説明すること)。
     (4)どの裁判所に訴状を提出することができるか(法定管轄裁判所はどの裁判所か)、答えなさい。


  2. [L1a・類題]あなたの友人Xが大阪市内に住んでいる。法律に疎いXは、法学部で民事訴訟法を勉強しているあなたに、次のように質問した。「俺、知り合いのYに金を貸したんだが、一向に払ってくれん。しゃぁないんで、裁判にしようと思うんだが、どの裁判所に行けばいいんだ」。「どの裁判所に行けばいいんだ」は「法定の管轄裁判所を教えてくれ」の意味であるとして、この問に下記の順番で答えなさい(解答は、会話体ではなく、文章体(である調)で書くこと)。
     (1)管轄の意義について説明しなさい。
     (2) 事物管轄について一般的に説明しなさい。
     (3)土地管轄について一般的に説明しなさい(本問に必要な範囲で、関係する民事訴訟法の規定の根拠も説明すること)。
     (4)この問いに答えるには、2つほど情報が足りない。あなたは、Xに、どのような情報を求めるべきか(Xに対する質問文を書くこと(文章体で書くこと))。その情報が必要な理由もあわせて説明しなさい(結論に違いをもたらす情報内容を例示して説明すること)。
     (5) Xが回答する情報を4つのパターンに分けて例示し、各パターンごとに法定管轄裁判所を全て示しなさい。

  3. [L1]2005年7月7日に、大阪市北区内に住所を有するXが京都市中京区内に住所を有するYに、弁済期を1年後、利率を年5%と定めて、140万円貸した。ところが、弁済期が到来しても、Yが返してくれない。2007年7月7日に、貸金の元本と約定利息と遅延損害金の支払を求める訴えを提起しようとしている。法律に疎いXは、法学部で民事訴訟法を勉強しているあなたに、どの裁判所に訴状を提出することができるかを問うた。この問に下記の順番で答えなさい。
     (1)管轄の意義について説明しなさい。
     (2)事物管轄について一般的に説明しなさい(訴額の算定についても言及すること)。
     (3)土地管轄について一般的に説明しなさい(次の小問(4)に適用される民事訴訟法の規定の根拠も説明すること)。
     (4)どの裁判所に訴状を提出することができるか(法定管轄裁判所はどの裁判所か)、答えなさい。


  4. [L1]鹿児島市内に住むXが札幌市内に住むYに対して、金沢市内で起きた交通事故による損害500万円の賠償を請求する訴えを提起しようとしている。Xは、どの裁判所に訴えを提起することができるか(合意管轄、応訴管轄、移送については言及しなくてよい)。


  5. [L2]名古屋市内に主たる営業所を有するX会社は、名古屋港からある製品を輸出している(年間輸出価額は100億円で、利益率は5%である)。神戸市内に主たる営業所を有するY会社が、その輸出行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、その中止を要求してきた。Xは、Yを被告にして差止請求権不存在確認の訴えを提起しようとしている。どの裁判所に提起することができるか。法定管轄裁判所を4つあげなさい。

    なお、不正競争防止法2条1項1号・2号・15号の不正競争行為の差止請求の訴額は、原告または被告の[争いに係る表示を使用した商品,営業,役務の年間売上推定額]×[訴え提起時の推定利益率]×[10年]×[10分の1]をもって算定することができる(東京地裁大阪地裁の知的財産部が示す訴額算定基準参照。他の算定方法もあるが省略する)。そこで、この事例の訴額は、[原告の訴え提起時の年間輸出価額]×[原告の訴え提起時の利益率]×[10年]×[10分の1]であるとする。



  6. [L1]福岡市内に住所を有するY(サラリーマン)は、東京都港区内に本店を有するX会社の福岡支店(中央区天神)で、据付工事が必要な商品(自家発電装置)を、代金を200万円(工事費込み)、支払期限を据付工事完了後4週間以内、支払義務履行地を同支店と定めて購入した。売買契約書には、「この契約から生ずる一切の訴訟事件について、東京地裁を専属管轄裁判所とする」旨の条項が入っていた。その商品がYの自宅に搬入されて、据付工事がなされた。その商品は、最初の1週間は、正常に動作したが、その後まったく動作しなくなった。その商品は、Yの見るところでは、明らかに欠陥商品であったので、Yは代金の支払を拒絶した。しかし、商品の欠陥を否定しているX会社は、Yに対して代金200万円の支払請求の訴えを提起したい。
    次の小問に答えなさい。
     (1)この事件の法定管轄裁判所について説明しなさい。
     (2)Xは、東京地方裁判所に代金支払請求の訴えを提起することができるか。
     (3)Xが東京地方裁判所に訴えを提起し、Yが事件を福岡地裁に移送することを申し立てた場合に、この申立てが認められる可能性はあるか。なお、Xは、福岡地裁への移送に反対している。


  7. [L1a]事故が発生し、Xが負傷した。Xは、その事故はYの過失により生じたと主張して、Yに対して損害賠償請求の訴えを提起した。裁判官A・B・Cからなる合議体で審理されることになった。審理の途中で、Xが、裁判官Aがその事件の重要証人であると主張して、Aの証人尋問を申請した。Aは、その事故現場に偶然居合わせたことを思い出した。裁判所および裁判官Aは、どのように対応すべきか。
  8. *[L2]Xは、千葉市内に本社のある株式会社である。Yは、ドイツ国内に20年以上居住して営業活動を営んできた日本人である。Xは、Yと、フランクフルト市において、欧州各地からの自動車の買付け、車両の船積み等の業務をXがYに委託する契約を締結した(準拠法は特に定められていない)。XはYの求めに応じ、自動車買付資金として合計1億円をYの指定したドイツ国内の銀行の口座に送金したが、その後XはYに不信感を抱くようになり、預託金の残額の返還を求める訴えを千葉地裁に提起した。Xは、日本の国際裁判管轄権の原因として何を主張できるか。Yが日本の国際裁判管轄権を争う場合に、裁判所はどうすべきか。



  9. [L2a]Xは、Y宗教法人の代表役員及び責任役員の地位にあったが、Y宗教法人の包括宗教法人Aの法主であるBにより解任され、CがY宗教法人の代表役員及び責任役員の地位についた。そこで、Xは、Yを被告として、XがYの代表役員の地位にあることの確認請求の訴えを提起した。この訴訟で、Bが解任権限を有するかが問題となり、この問題は、Bが宗教団体Aの教義にいう血脈相承を受けて、前記処分の権限を有する法主の地位に就いたかどうかに依存することが明らかになった。裁判所は、この訴えに対してどのように対応すべきか。
  10. *[L1]国家が国民の税負担において民事訴訟制度(判決手続の制度)を設けている理由は何か。

当事者・訴訟手続の中断受継

  1. [L1]Xはある大学のボートクラブであり、部員はキャプテンのA(3回生)ほか30名である(教員の部長や監督はいない)。Xの部員は、先輩たちが資金を出して購入したボートを受け継いで、練習に使用している。そのボートがYによって盗まれたので、取り戻したい。Xの部員は、Aを代表者として、Xの名でボートの返還請求の訴えを提起することができるか。

  2. [L1]広島市内の親元を離れて吹田市内で下宿生活をしている18歳6箇月の少年Xは、大学1年生であり、父親から「大学の勉強に専念して4年間で卒業するように」ときつく言われていて、アルバイトなどはしていない。そのXが教材販売会社であるY社から100万円の学習教材を売りつけられた(Y社の販売員は、販売に際して、Xは成年に達していると勘違いしていた)。Xは、売買契約を取り消して教材を返還した。Y社はこれを認めず、代金の支払を執ように迫ってきた。この場合について、下記の2つの小問に答えなさい(各小問の解答に際しては、他の小問で問題にされている訴えが提起されないことを前提に解答すること)。

    [小問1]訴訟能力及び訴訟無能力者について説明しなさい。

    [小問2]Xが、Y社を被告にして、債務不存在確認の訴えを自ら提起した。第一審裁判所は、第一回口頭弁論期日において、出頭しているXが未成年であることに気付いた。裁判所は、どうすべきか。

    [小問3]Y社が、Xを被告にして、代金支払請求の訴えを提起した。被告の法定代理人の住所・氏名の記載のない訴状がXの下宿先に送達された。第一審裁判所は、第一回口頭弁論期日において、出頭しているXが未成年であることに気付いた。裁判所は、どうすべきか。
  3. [L1]17歳の少年Yが35歳のXに暴行を加えた。XはYに対して損害賠償請求の訴えを提起しようと思うが、Yには法定代理人がいない。Xはどうしたらよいか。

  4. [L1]Xが、Yに対して1000万円の貸金返還請求の訴えを提起した。第一審の口頭弁論の終結前にXが病気で死亡した。近所に住む成人した一人娘ZがXの財産を単独で相続した。訴訟手続はどうなるか。()X本人が訴訟を追行していた場合と、()Xが弁護士Aを訴訟代理人に選任していた場合(AはXの死亡を直ちに知ったものとする)の双方について説明しなさい。

  5. メモ1  60分で5題出題していた時代には、下記のように問題を細分化していた。

    1. [L1]Xが、Aを訴訟代理人に選任して、Yに対して貸金返還請求の訴えを提起した。訴訟の途中で、Xが死亡した。成人した一人娘ZがXの財産を単独で相続した。Aの訴訟代理権は、Xの死亡により消滅するか。訴訟手続はどうなるか。
    2. [L1・類題]Xが、Yに対して貸金返還請求の訴えを提起し、自ら追行した(本人訴訟)。訴訟の途中で、Xが死亡した。成人した一人娘ZがXの財産を単独で相続した。訴訟手続はどうなるか。

    しかし、1の問題は中途半端な問題である。この問題の解答に際して124条1項について言及する必要は必ずしもないが、学生の理解を確認するためには、124条1項に言及されていることを期待せざるを得ないからである。論述式の問題として出題する限り、そして解答時間に厳しい制約がないかぎり、これら2つの問題は統合することが好ましい。

    メモ2

    問題文の末尾にある「X本人が訴訟を追行していた場合」は、従前は、「X本人が訴訟を追行している場合」としていた。問題文の前の部分でも、「Xが病気で死亡した」となっているため、時制が不適切で、「Z本人が訴訟を追行している場合」の誤記ではないかとの質問が出た。誤解が生じないように、前記のように修正した。

    メモ3

    粗忽にも、当初は、問題文の末尾を次のようにしていた:「Xが弁護士Aを訴訟代理人に選任している場合と(AはXの死亡を直ちに知ったものとする)、X本人が訴訟を追行していた場合の双方について説明しなさい。」。この順番に解答すると答案は書きにくく、そして、採点に苦労する結果となった。学生諸君が解答しやすいように、まず原則的な場合を問い、次に例外的な場合を問わなければならないことを痛感した。


  1. [L3・類題]Yは、夫Hに先立たれ、12歳の一人娘Zと二人で暮らしている(Yの両親はすでに死亡している。夫の両親は健在であり、孫娘のZに愛情を持っているが、Yとは疎遠である)。XとYとの間で3億円の不動産の所有権の帰属について争いがあり、XがYを被告にして所有権確認の訴えを提起した。第一審の口頭弁論の終結後にYが病気で死亡した。ZがYの財産を単独で相続した。請求を認容する判決が言い渡されたが(132条1項)、Zの未成年後見人はまだ選任されていない。訴訟手続はどうなるか。Y本人が訴訟を追行していた場合と、Yが弁護士Aを訴訟代理人に選任していた場合(AはXの死亡を直ちに知ったものとする)の双方について説明しなさい。
  2. [L1a・類題]Xが、弁護士Aを訴訟代理人に選任して、Yに対して1000万円の貸金返還請求の訴えを提起した(Aの法律事務所には、事務員は2人いるが、弁護士はAのみである)。第一審の口頭弁論の終結前にXが病気で死亡した。別居中の成人した一人息子のZが唯一の法定相続人である。Aはこの事実を裁判所に届け出た。その2週間後にAも死亡し、この事実は法律事務所の事務員から裁判所に届け出られた。訴訟手続はどうなるか。次の2つの場合について説明しなさい。

     (1)AがZの住所を知っていて、裁判所にZの住所も届け出るとともに、Zに訴訟の経過を報告していた場合。
     (2)Zが外国に居住していて、Aの調査にもかかわらずZの住所が判明しないために、AがZに訴訟の係属さえも報告していない場合。Aは、この事実も含めて裁判所にXの死亡を届け出ているものとする。

  3. *[L1]誰が当事者であるかを確定する基準について説明しなさい。

訴えの提起

  1. *[L1]民事訴訟法では、訴状の必要的記載事項として何が法定されているか。

  2. *[L1]訴状が地方裁判所に提出された。被告への送達の前に、誰がどのような事項について審査するか。その手続や目的についても説明しなさい。

  3. [L1]Xは、2016年6月6日に、返済時期を6ヵ月後と定めて、金200万円をYに貸し渡した。しかし、返済期を過ぎても弁済がないので、XはYを被告にしてこの貸金の返還を求める訴えを提起した。訴状の請求原因の欄には「原告は被告に金200万円の債権を有している。被告が債務を弁済しないので、その返還を求める」とのみ書いてあった。この訴状は、どのように処理されるか。

  4. [L1]Xは、Yを被告にして、「被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する1999年6月1日から支払済みまで年1割の割合による金員を支払え」との判決を求める訴えを提起した。訴状の請求原因の欄には「1999年6月1日、原告は被告に被告の自宅で金200万円を貸し渡し、被告は6箇月後に年利10%を付して返還することを約束した。しかし、弁済期の12月1日を経過してもいまだに弁済がないので、前記貸付金元本並びに弁済期までの年1割の割合による利息及び弁済期の翌日から完済までの年1割の割合による遅延損害金の支払を求める」と書いてある。しかし、当事者欄を見ると、被告の氏名は書いてあるが、住所もこれに代わるもの(居所など)も書いてない。この訴状はどのように処理されるか。

  5. [L2b]甲野アキコは、株式会社幸福プラン(本店所在地:東京都港区マロン町99丁目99番99号)の社員乙山タロウと自称する者から投資信託への投資を勧誘され、乙山から、「株式会社幸福プラン(東京都港区マロン町99丁目99番99号)営業第1課課長乙山タロウ」と記載された名刺を受け取った。その名刺には、乙山の手書きで、連絡先として乙山の携帯電話番号(0909-9999-9999)が記載されていた。甲野は、乙山から何度か勧誘を受け、甲野の側からも前記電話番号に2度電話して、ついにこれに応ずることにした。甲野は、乙山に現金100万円を渡し、前記会社名義の領収書と信託証書を受け取った。その際、定期的に運用実績の報告がなされることになっていたが、一向に連絡がないまま6ヶ月が過ぎ、前記会社が経済産業省から行政処分を受けたとの話も聴くようになり、甲野は乙山に騙されたことに気が付いた。甲野は、株式会社幸福プランに対して損害賠償請求の訴えを提起すると共に、乙山タロウに対しても損害賠償請求の訴えを提起することを決意した。甲野は、乙山の住所を知るために、株式会社幸福プランの人事課職員に乙山の住所を尋ねたが、「乙山は3カ月前に退職しており、現在の住所は把握しておらず、在籍当時の住所は答えられない」と言われた。そこで、甲野は、乙山から渡された名刺に記載されていた携帯電話番号を管理する電話会社である株式会社カスターニアに対して、その電話番号の加入者の氏名及び住所に関する情報の提供を求めた。しかし、電話会社は通信の秘密を理由に回答を拒絶した。

     上記の事例について、下記の問に答えなさい。
     (1)訴状の必要的記載事項のうち、当事者について説明しなさい。必要的記載事項の記載を欠く訴状はどのように扱われるかも説明しなさい。
     (2)訴状に被告乙山タロウの現住所を記載することなく、被告を次のように表示して訴えを提起した場合に、この訴え(あるいは訴状)は訴状審査の段階でどのように扱われるか。
      「(最後の就業場所及び職位) 東京都港区マロン町99丁目99番99号 株式会社幸福プラン 営業第1課課長
       被告  乙山タロウ」
     (3)甲野が訴え提起の段階(訴状提出後・送達前の段階)で、裁判所を通じて乙山の住所を知るために、どのような方法を利用することができるか。
  6. [L2b]甲野イチロウは、マロン大学の卒業生で、現在、郊外のパソコン販売店の店長をしている。彼はサイクリングが大好きで、新車価格20万円のお気に入りの自転車を所有していて、これに乗って自宅から職場まで通勤している。2013年7月7日10時頃に、客の一人が、次のように言ってきた:気に入った機種のノートパソコンがあるので、それを買いたい;ただ、所持している現金が足りないので、銀行で預金を引き出して来たい;ここから少し距離があり、また、バスが来るまで時間があるので、自転車をお借りして銀行に行ってきたい。甲野は、一瞬迷ったが、客に「身分証明書になるようなものをお持ちですか」と尋ねると、客が顔写真付きの学生証を提示した。そこには、「マロン大学法学部法律学科学生 乙川ハルオ(学籍番号:法学部2010−0030)」との記載があった。甲野は、客が自分の後輩であることに安心感をもち、乙川の了解を得て学生証をコピー機で複写して、自転車を貸すことにし、鍵を渡した。ところが、乙川ハルオは、閉店時刻になっても戻ってこなかった。甲野は、騙されたのではないかと不安に思った。翌日、マロン大学に電話をして、いきさつを話した上で、前記乙川ハルオの住所を尋ねた。しかし、「その名前と学籍番号の学生さんは、確かに本学に在籍しておりますが、個人情報である住所や電話番号を教えることはできません」と言われた。甲野は、乙川ハルオを被告にして自転車の返還請求及び損害賠償請求の訴えを提起することを決意した。
     乙川の住所がわからないので、訴状に乙川ハルオの現住所を記載することなく、被告を次のように表示して訴えを提起し、かつ、学生証の写しを被告特定のための書類として添付した。
     「学校法人マロン大学(主たる事務所:〒564−999 吹田市マロン町99丁目99番99号、代表者:織田信長)が設置するマロン大学(学長:豊臣秀吉)の法学部法律学科学生(学籍番号:法学部2010−0030)
       被告  乙川ハルオ」
     なお、就学場所であるマロン大学法学部の事務室(またはこれに相当する部署(法学部学生と連絡をとるのに適した部署))の所在地は、「請求原因」(請求を理由付ける事実)の欄に記載されているものとする。

     上記の事例について、下記の問に答えなさい。
     (1)訴状の必要的記載事項のうち、当事者について説明しなさい。必要的記載事項の記載を欠く訴状はどのように扱われるかも説明しなさい。
     (2)上記の訴状をそのまま被告に送達すると仮定した場合に、送達はどのようになされるか。可能な方法を検討しなさい。
     (3)この訴状の被告の記載は、133条2項1号の要件を満たしていると言えるか。
     (4)甲野が訴え提起の段階(訴状提出後・送達前の段階)で、裁判所を通じて乙川の住所を知るために、どのような方法を利用することができるか。

期日・期間・送達

  1. [L1]Xは、Y会社(代表者Z)に対して損害賠償の訴えを提起した。訴状の送達は、誰を名宛人として、どこを送達場所としてなされるか説明しなさい。送達場所については、最もノーマルな場所を1つと、それ以外の場所を1つ挙げて説明しなさい。

  2. [L1]Xの両親は、二人とも健康であり、退職して自宅にいることが多い。Xは、その両親の住む家から1Kmほど離れた場所を住所として一人暮らしをしている会社員であり、母親によく面倒をみてもらっている。Xの現在の勤務先は、社員10人ほどがいる営業所であり、通勤時間は1時間かかる。平日は朝の8時半には出社して、6時頃まで営業所内にいる。行きつけの風呂屋があり、そこに立ち寄ってから帰宅するため。帰宅時間は早くても22時頃であり、飲み会などがあれば、さらに遅くなる。土日は友人と遊びに行くことが多い。Xは、Yの不法行為により200万円ほどの損害を受け、本人訴訟で問題を解決しようと考えている。Xは、期日の呼出状や判決等の裁判所から送達される書類を受け取るために、どのようにすべきか。次の2点に注意しながら、説明しなさい(差置送達(106条3項)については、説明しなくてもよい)。

    (1)上記の3つの場所について、その場所に送達名宛人(受送達者)がいない場合の取扱い。
    (2)上記の3つの場所について、送達場所としての得失。


  3. [L2]A(40歳)は、Xから融資を受けるに当たって、同居中の父Y(70歳)の実印を無断で持ち出してYを連帯保証人とする契約書を作成した。XがYに対して保証債務履行請求の訴えを提起した。その訴状および期日呼出状がY宛に送達されたが、Aが同居者としてこれを受領し、Yに引き渡さなかった。このため、Yが期日に出頭しないまま敗訴判決を受けた。その判決正本がYに送達された時も、同様にしてAが受領し、Yに引き渡さずにいた。強制執行が開始されてから。Yは初めてこれらの事態を知ったが、その時には、第一審判決の送達時から半年以上すぎていた。Yは、第一審判決に対してなお控訴を提起することができるか。
  4. *[L1]訴訟係属について、次の事項を説明しなさい(全部説明すること)。
    1.  訴訟係属の意義
    2.  訴訟係属の発生時期
    3.  訴訟係属の主要な効果
    4.  訴訟係属の移転

時効完成猶予

 

  1. [L2]Yが1980年5月にXの5000万円相当の有価証券を着服した。Xは、そのことに直ちに気が付き、Yに損害賠償を求めて交渉を続けたが、不調に終った。Xは1985年1月に不法行為を理由に損害賠償請求の訴えを提起し、1988年5月になって不当利得返還請求を追加した。これに対して、Yは、損害賠償請求権も不当利得返還請求権も消滅時効が完成していると主張した。この主張は認められるか。

    上記の問いに、下記の順序で答えなさい。
    (1)訴えの提起による時効完成猶予について一般的に説明しなさい。
    (2)裁判上の催告について一般的に説明しなさい。
    (3) この設例の損害賠償請求権の時効完成猶予について説明しなさい。
    (4) この設例の 不当利得返還請求権の時効完成猶予について説明しなさい。


  2. [L1]ある大学の職員であるXは、2010年6月6日に、叔母のYに懇願されて、返済時期を2011年6月6日と定めて、無利子でYに300万円を貸し渡した。Yがいっこうに弁済しないので、Xは、2016年6月1日(水)に、6月30日までに全額弁済することを求める文書を配達証明付内容証明郵便の方法で送付した。その書面は、同年6月3日にYに配達された。Xは、2016年7月6日(水)に、この貸金のうちの一部であることを明示して、200万円の返還を求める訴えを提起し、その訴状は7月27日(水)にYに送達された。その訴訟の係属中の2017年1月11日(水)に、Xは、この貸金の残部100万円も請求金額に含まれるように請求を拡張する書面を裁判所に提出した。

    この貸金債権の消滅時効の完成の有無について論じなさい。


訴えの利益

 注意 試験範囲の区切りの関係で、重複起訴の禁止の問題の中に包含される問題は、「重複起訴の禁止」の項にいれてある。

  1. [L2a]Xは、Yが製造するある機種の製品により自分の特許権が侵害されていると考え、Yが2000年3月1日から製造・販売した最初の100台により生じた損害の賠償を求める訴えを提起した。裁判所は、Xの発明はYの製品には用いられていないと判断して、請求棄却判決を下した。同判決は、Xの控訴・上告にもかかわらず、確定した。ところが、Xは、その後、同じ機種の101台目から200台目の製品により同じ特許権が侵害されたと主張して、再度訴えを提起した。この請求を棄却する判決が確定した後で、更に、次の100台による権利侵害を主張して同趣旨の訴えを提起してきた。裁判所は、訴状を被告に送達することなく訴えを却下することができるか。
  2. [L2a]Aは、意思能力を有する時点で、自己の財産の一部をXに遺贈する旨の遺言書を作成した。これを受けて、Xは、高齢のために事理弁識能力を欠く常況に陥り寝たきりの状態になったAを介護している。ところが、Aの法定相続人がその遺言の効力を争うので、Xは、自分の介護の努力が将来経済的に報われるのか不安を感じた。そこでXは、Yを被告にして、その遺言が有効であることの確認を求める訴えを提起した。この訴えは適法か。
  3. [L2a]X(男・昭和14年生)は、A(女・明治44年生)の養子であり(昭和17年養子縁組)、Aの夫(明治44年生)が平成2年11月に死亡した後は、Aの唯一の推定相続人である。Aは、昭和63年頃から痴呆症状があらわれていたが、Y(Aの甥)の主張するところによれば、平成元年12月に、Aが所有する甲不動産の持分100分の55をYに遺贈する旨の遺言(以下「本件遺言」という)を、Aの夫外2名の立ち会いのもとで、公証人に口述し、公証人がこれを公正証書に記載し、これにより公正証書遺言がなされたとの由である。Aは、平成2年2月に、アルツハイマー型老人性痴呆と診断されて入院し、一時退院したことはあるが、その後も入院を継続した。Xは、平成3年3月にAを禁治産者とし、Xを後見人とする旨の家事審判を申し立てた。これに対して、Yも、同年4月にAを禁治産者とし、Yを後見人とする旨の家事審判を申し立てた。家庭裁判所は、Aの主治医に対しAの精神鑑定(判断力、責任能力、自己管理能力の有無)を命じ、同医師は、アルツハイマー型老年痴呆であると診断し、判断力、責任能力及び自己管理能力はないとの鑑定意見を提出し、Aが高年齢であること、過去の入院歴、2年間にわたる経過観察が芳しいものでないこと等を総合して、回復は望めないと診察した。家庭裁判所は、この鑑定の結果に基づいて、日常生活での異常な行動はないものの、財産の管理等について合理的な判断をする能力は全くなく、その高齢からして病状が改善される見込みはないので心神喪失の常況にあると判断し、平成5年3月に、「Aを禁治産者とする。Yをその後見人に選任する」との審判をし、同審判は確定した。平成6年になって、Xは、AとYを共同被告にして、「本件遺言は、Aの意思能力が欠如した状態で作成され、かつ、公正証書遺言の方式に違反している(Aは遺言の趣旨を公証人に口授せず、公証人は筆記した内容を読み聞かせておらず、かつ、遺言者が筆記の正確なことを承認していない)」と主張してて、本件遺言の無効確認請求の訴えを提起した。下記の小問に答えなさい。
    1. 確認の利益とは何か、どのような場合に認められるか、一般的に説明しなさい。
    2. Aが第一審の口頭弁論終結前に死亡した場合に、この訴えは適法か。
    3. Aがこの訴訟の係属中も生存している場合に、この訴えは適法か。なお、Yは、訴え却下判決を求めているものとする。
    4. 前記3の場合に、YがAを介護していて、公正証書遺言が無効とされるのであれば、介護の苦労が報われなくなると思い、請求棄却判決を申し立てているときはどうか。

  4. [L2a/ただし、小問cは、民事訴訟法2の範囲外である]Xは、Aから甲建物を賃借して、現に居住中である。Xの主張によれば、Xは、賃貸借契約に際して、賃料の10カ月分に相当する敷金400万円をAに差入れ、Aは、賃貸借契約が終了して建物を明け渡した後で、未払賃料債権や損害賠償請求権等の被担保債権が発生していなければ、その8割に相当する320万円を返還することを約束したとの由である。その後、建物はYに売却され、AからYへの所有権移転登記がなされている。Yの主張によれば、Yは、建物を買い受けるに際して、Aから、敷金の差入れはないと説明されていたとの由である。ところが、その後の賃料改定交渉時にXが、差入敷金額は400万円であり、8割を返還することが約束されていると主張したため、Yはこれに驚いて、「Aから敷金の差入れはないと聞いており、それを前提にして建物の売買価格を決めた。賃貸借契約終了後に敷金返還要求があっても応ずることはできない」と応酬した。次の各小問に答えなさい。
    1. 確認の利益とは何か、どのような場合に認められるか、一般的に説明しなさい。
    2. Xが賃貸借契約の継続中にこの敷金について下記の各訴えを提起した場合に、各訴えは適法か答えなさい。
      1. Xが「被告は、原告被告間の賃貸借契約が終了して原告が建物を明け渡した後に、原告に320万円を支払え」との給付の訴えを提起した場合。
      2. Xが「原告が被告に対し、別紙物件目録記載の建物に関する賃貸借契約に付随する敷金契約に基づき、320万円の限度で敷金返還請求権を有することを確認する」との確認の訴えを提起した場合。
    3. Xの前記の請求のいずれかが万一にも認容された場合には、Yは、XがAに差し入れた敷金の引渡しをAに求めたいと考えている。それを確実にするためには、Yはどのようにしたらよいか。

  5. [L2a]Xは、Y保険会社の募集業務等に従事する外勤の正規従業員である。Xの職種は、Y社においては、リスクアドバイザーと呼ばれるものであった。Y社は、平成17年10月に、経営の再構築のためにリスクアドバイザーの職種を廃止することにし、この職種に属する全従業員に対して、(1)職種を変更して継続雇用されるか又は(2)退職することを求め、リスクアドバイザーの職種の廃止の期限を平成19年7月末日とした。Xは、平成18年2月に、「平成19年8月1日以降も、Y社のリスクアドバイザーの地位にあることを確認するとの判決を求めて訴えを提起した。次の各小問に答えなさい(請求の趣旨を変更すれば訴えが適法となる場合には、その旨を記しなさい)。

    1. 確認の利益とは何か、どのような場合に認められるか、一般的に説明しなさい。
    2. 第一審裁判所がこの確認の訴えについて平成19年9月に口頭弁論を終結して、同年12月に判決をする場合に、裁判所は、この訴えを適法であると判断することができるか。
    3. 第一審裁判所がこの確認の訴えについて平成19年1月に口頭弁論を終結して、同年4月に判決をする場合に、裁判所は、この訴えを適法であると判断することができるか。

重複起訴の禁止

  1. [L1]1億円の価値のある不動産の所有権の帰属について、大阪市内に住むXと京都市内に住むYとの間で争いが生じ、互いに自分が所有者であり、相手の所有権侵害行為により損害を受けたと主張している。先にXがYに対して大阪地裁に300万円の損害賠償請求の訴えと所有権確認請求の訴えを提起し、その訴訟が第一審に係属中である。これに対抗して、Yも300万円の損害賠償請求の訴えと所有権確認請求の訴えを提起したい。
     (1)次の小問(2)と最も関係の深い規定(民訴法142条)の趣旨と要件と効果を説明しなさい。
     (2)Yが京都地裁にその訴えを提起することは、許されるか。 もし京都地裁にその訴えを提起すると、どうなるか。
     (3)Yは、どのような形でその訴えを提起するのがよいか。

  2. [L2a]AがBに対して5000万円の貸金債権(α債権)を主張して、その全額の支払請求の訴えを提起した(第1訴訟)。その訴訟の係属中に、BがAに対して2000万円の売買代金債権(β債権)を主張して、その支払請求の別訴を提起した(第2訴訟)。第2訴訟において、Aは、β債権の発生を争いつつ、予備的にα債権でもって対当額で相殺すると主張した。この防御方法の提出は許されるか。

  3. [L2a]Xは、Yに対して1億円の債権を有しているが、Yの資力を考慮して6000万円の支払請求の訴えを提起した(明示の一部請求訴訟)。この訴訟が第一審に係属している時に、Yが別訴で4000万円の支払請求の訴えを提起してきた場合に、Xが残債権を反対債権として予備的相殺の抗弁を提出することは許されるか。

  4. [L1]XがYに対して200万円の貸金返還請求の訴えを大阪地裁に提起し、請求棄却判決が確定した。その後にXがさらに同じ訴えを東京地裁に提起した。後の訴えは、民訴142条により禁止されるか。後の訴えについて、裁判所はどのようにすべきか。なお、両地裁とも、それぞれの訴えについて管轄権を有するものとする。

  5. [L2a]YがXに対して3000万円の債権を主張して、度々返済の催促をしてくる。XがYを被告にして債務不存在確認請求の訴えを提起した。その訴訟の係属中にYが3000万円の支払請求の反訴を提起してきた。裁判所は、Xの訴えをどのように処理すべきか。

  6. [L2a]XがYに対して、貸金債権を主張している。YがXに対して債務不存在確認の訴えを大阪地裁に提起した。その訴訟について争点整理が終了し、集中証拠調べに入る段階で、XがYにその貸金の返還請求の訴えを東京地裁に提起した。東京地裁は、Xの訴えに対してどのように対応すべきか。なお、両地裁とも、それぞれの訴えについて管轄権を有するものとする。

  7. [L2a]YがXに対して3000万円の債権を主張して、度々返済の催促をしてくる。XがYを被告にして債務不存在確認請求の訴えを提起した。その訴訟の係属中にYが3000万円のうちの2000万円について支払請求の反訴を提起してきた(明示の一部請求)。裁判所は、Yの債権は800万円の範囲で存在し、かつ履行期が到来していると認めた。裁判所は、Yの反訴およびXの本訴についてどのような判決をすべきか。


口頭弁論およびその準備

  1. [L1]1999年9月9日、Xは、吹田市山手町3丁目99番99号にあるXの事務所で、Yの従業員であり金銭の借り受けについてYから代理権を授与されたと述べるAに、Aが持参した同日付のY作成名義の委任状を確認の上、200万円を貸し渡すことにし、Aは、Yの代理人として、同年10月9日に返還することを約束した。Xは、消費貸借契約書を作成し、200万円の受領書と引換えに200万円をAに貸し渡し、かつ、Aが提出した委任状をこれらの書面とともに保存している。しかし、弁済期になってもYが返還しないので、XはYを被告にして貸金返還請求の訴えを2000年2月8日に提起し、前記の事実を主張した。これに対して、Yは、「AがYの従業員であったことは認める。しかし、Aは、1999年7月に退職しており、現在音信不通である。Aに代理権を付与したとの事実は否認する、その余の事実は知らない。」と答えた。Xが証明する必要のある主要事実は何か。

  2. [L1]貸金返還請求訴訟において、被告が「被告が原告から借りた金銭は、元利ともすでに弁済済みである」とのみ主張し、何時、どれだけの額を弁済したかをあきらかにしなかった。裁判所は、どうすべきか。

  3. [L1・類題]貸金返還請求訴訟において、裁判官が被告から提出された準備書面を読んでいると、「被告が原告から借りた金銭は、元利ともすでに弁済済みである」とのみ記載されていて、何時、どれだけの額を弁済したかが記載されていない。裁判官は、口頭弁論の期日前に、この点について釈明権を行使することができるか。

  4. [L1]150万円の貸金返還請求訴訟の答弁書の中で、被告が金銭の授受を否認すると記載した。被告は、この書面をファックスで裁判所に提出するとともに、原告に送付した。原告は、この答弁書を受領した旨の書面をファックスで被告に送付するとともに、裁判所に提出した。第1回口頭弁論期日に原告は出頭したが、被告は出頭しなかった。原告は、金銭の授受を証明する必要があるか。

  5. [L1]Yは、Xが経営するレストランの優良固定客である。Xは、固定客の飲食代金について掛売りをしており、毎月末で1月分を計算して翌月15日に支払請求することにしている。しかし、YがXのレストランにあまり来なくなり、また代金の支払いが遅延するようになった。Xは、Yの2020年5月分の飲食代金について、Yを被告にして、2025年8月1日に代金支払請求の訴えを提起した。訴訟の第1回口頭弁論期日に、被告Yが飲食の事実を否認した。第2回期日のための準備書面において、被告Yは、領収書はないが、飲食代金はいつも翌月の15日過ぎに現金でまとめて払っていたから、たとえ飲食したとしても弁済しているはずだと主張し、もし弁済の事実が認められないのであれば、消滅時効を援用すると主張した。被告Yの訴訟代理人は、その旨を記載した準備書面をファックスで裁判所に提出するとともに、原告Xの訴訟代理人にも送付した。原告Xの訴訟代理人は、この準備書面を受領した旨の書面をファックスで被告Yの訴訟代理人に送付するとともに、裁判所に提出した。しかし、被告Yもその訴訟代理人も、第2回口頭弁論期日には出頭しなかった。

    (1)この事例において、Xが主張することができる時効完成猶予事由として、どのようなことが考えられるか。状況を適当に想定して答えなさい。

    (2) 期日に出頭した原告Xの訴訟代理人は、この状態で、時効完成猶予事由を主張する必要があるか(裁判所が地方裁判所の場合と簡易裁判所の場合とにわけて解答すること)。

    メモ: クレジットカードが普及する前の時代にテレビドラマなどでよく見かけた事例である。クレジットカードが普及した現在においては、時代錯誤的であり、特に平成29年民法改正により飲食代金等の債権の短期消滅時効制度が廃止されてからはその感がさらに強まるが、ご容赦いただきたい。
  6. [L1]Xは、2016年6月6日にXの事務所において、期限を1年後として、Yに250万円を貸し渡したが、Yから受け取った借用証書及び領収書を紛失してしまった。Yが弁済期に弁済しないので、Xは、2018年1月7日に、貸金返還請求の訴えを提起した。訴状には、請求を理由付ける主要事実が全て書かれている。第1回口頭弁論期日に出頭したXが訴状の記載内容を陳述し、金銭の授受および返還約束の事実について証拠を提出することなく口頭弁論の終結を申し出た。次の場合に、Xに勝訴の見込みがあるか。

     小問1 訴状および期日への呼出状の送達を受けたYが「原告の請求を棄却する、との判決を求める。被告は原告とは面識がなく、原告の主張は全て争う」という趣旨を記載した答弁書を裁判所に提出したが、期日には出頭しなかった場合。

     小問2 訴状および期日への呼出状が書留郵便に付する送達によりYに送達され、Yが答弁書を提出せず、期日にも出頭しなかった場合。

     小問3 Yの現在の住所・居所が不明のため、訴状および期日への呼出状が公示送達の方法によりYに送達され、Yが答弁書を提出せず、期日にも出頭しなかった場合


  7. [L1・類題]Xは、2016年6月6日にXの事務所において、期限を1年後として、Yに250万円を貸し渡したが、Yから受け取った借用証書を紛失してしまった。Yが弁済期に弁済しないので、貸金返還請求の訴えを提起した。訴状には、請求を理由付ける主要事実が全て書かれている。訴状および期日への呼出状がYに送達された。第1回口頭弁論期日に出頭したXが訴状の記載内容を陳述した。しかし、Yは、答弁書を提出せず、期日にも出頭しなかった。この場合に、Xが金銭の授受および返還約束の事実について証拠を提出することなく口頭弁論の終結を申し出た場合に、勝訴の見込みがあるか。適当に場合分けをして答えなさい。
  8. *[L1]XはYに対して貸金返還請求の訴えを提起した。訴状には、請求を根拠付ける事実をすべて書いた。第1回口頭弁論期日にYは出頭したが、答弁書その他の準備書面をXに送付していなかった。Xは、父親の葬儀に出席し、期日に出頭しなかった。Yは、弁済の事実をその期日において主張したい。次の小問に答えなさい。

     (1) Yは、この主張をする必要がそもそもそあるのか。
     (2)Yは、この主張をすることができるのか。


  9. [L2a]不動産担保貸付契約に基づく債務を期限に弁済できない債務者と債権者(A)との間で,債務者が猶予された期限までに弁済できない場合には担保不動産の所有者を債権者名義に変更することと債権者の判断で売却することを承諾する契約が成立した。弁済がなかったため、債権者が予め交付されていた書類により自己への所有権移転登記を経由したものの,その後も債務者に不動産の買戻しを要請し,利息を収受した。しかし、結局のところ買戻しがなされなかったため,第三者(B)に売却して所有権移転登記を経由した。その後に、債務者が前記契約は仮登記担保契約であり,清算金の通知がなされていないから所有権は債務者にあると主張して訴えを提起し,A・Bに対しては所有権移転登記の抹消手続をなすことを求め,Aに対しては予備的に清算金を求めた。これに対し,A・Bは、本件契約は代物弁済契約であると争った。口頭弁論終結後の評議の結果、裁判所はこの契約を譲渡担保契約であると解した。裁判所は、当事者から主張のないまま譲渡担保契約であると認定して、判決をすることは許されるか。

  10. *[L1]自白の拘束力とその撤回の要件について説明しなさい。

相殺の抗弁

試験範囲の区切りの関係で、重複起訴の禁止の問題の中に包含される問題は、「重複起訴の禁止」の項に入れてある。

  1. [L2]Xは、Yに対して3回に渡って金銭を貸し付けた(以下「α債権」、「β債権」、「γ債権」と呼ぶ)。α債権について、Yがすでに弁済しており、かつ利息制限法違反の利率が合意されていて、Yは過払利息について500万円の不当利得返還請求権を有している。Xが、Yに対しβ債権全額(300万円)の支払請求の訴えを提起した。

    [ケース1] Yは、領収書を保存していないが、β債権はすでに弁済済みであると主張しつつ、予備的に前記不当利得返還請求権(500万円)と対当額で相殺する旨の抗弁を準備書面に記載して、裁判所に提出するとともに、Xに直送した。
     (小問1) 裁判所は、審理の結果、β債権全額とY主張の不当利得返還請求権全額の存在を認め、Yの相殺の抗弁に理由があると判断するに至った場合に、裁判所は、判決主文でどのような裁判をすべきか(訴訟費用の裁判については言及しなくよい)。
     (小問2) 上記の場合に、既判力はどのような判断について生ずるか。

    [ケース2] [ケース1]記載のYの準備書面を見たXは、Y主張の不当利得返還請求権を争うことなく、γ債権(500万円)をもってY主張の請求権と相殺する旨の再抗弁を準備書面に記載し、裁判所に提出するとともに、Yに直送した。口頭弁論期日において、Xが訴状および準備書面に基づいて陳述した後で、Yが準備書面に基づいて陳述した。
     (小問3) この場合に、裁判所は、Xが口頭弁論期日において先に陳述しているので、Xの相殺の再抗弁によりYの不当利得返還請求権は消滅しており、Y主張の不当利得返還請求権とβ債権との相殺は効力を生じえないと判断することができるか。
  2. [L3・類題] Xは、Yに対して3回に渡って金銭を貸し付けた(以下「α債権」、「β債権」、「γ債権」と呼ぶ)。α債権について、Yがすでに弁済しており、かつ利息制限法違反の利率が合意されていて、Yは過払利息について不当利得返還請求権を有している。Xが、Yに対してβ債権の支払請求の訴えを提起した。Yは、領収書を保存していないが、β債権はすでに弁済済みであると主張しつつ、予備的に前記不当利得返還請求権と相殺する旨の抗弁を準備書面に記載して、Xに送付した。これを見たXは、直ちに、配達証明付内容証明郵便で「γ債権をもってY主張の不当利得返還請求権と相殺する」旨の意思表示をした(訴訟外の相殺)。第一回口頭弁論期日において、Xが訴状および準備書面に基づいて陳述した後で、Yが準備書面に基づいて陳述した。Xは、再抗弁として、「Y主張の不当利得返還請求権の成立を認める。しかし、これは既にγ債権との相殺により消滅しているから、相殺の抗弁には理由がない」と争った。Yは、次のように反論した。

    1. 「γ債権も既に弁済によって消滅している。また、仮にそれが存在するとしても、被告が訴訟上の相殺の抗弁に供している債権であることを知りながら、それを受働債権にして訴求債権とは別の債権で相殺して、それを再抗弁とすることは、信義に反した訴訟追行であり、かつ、本来の訴求債権とは別個の原告の債権について、既判力が発生するかどうかあやふやな状況で審理を進めることになり、審理の錯雑・不安定を招くから、許されるべきではない。
    2. これを許さないとしても、原告は、請求の追加あるいは別訴により権利を行使することができ、原告が不利益を受けることはない。
    3. もし許すのであれば、β債権は弁済済みであるとの抗弁を容れてβ請求を棄却する場合でも、予備的相殺の抗弁を容れてβ請求を棄却する場合でも、γ債権が存在しないことについて既判力が生ずるように、原告の相殺の再抗弁について判決理由中で判断し、これに民訴法114条2項の適用ないし類推適用があることを明示すべきである」

    [問] 被告の反論は正当か。裁判所は原告の訴訟外の相殺の再抗弁を許すべきか。


証 拠

  1. [L1]証人尋問の期日に証人は出頭したが、当事者双方が出頭しなかった。裁判所は、証人尋問をすることができるか。


  2. [L2]Xは、大阪地方裁判所の不動産競売事件(平成15年(ケ)第xxxx号)で建物Hを買い受け、平成16年12月7日に代金を納付して、その所有権を取得した。その建物の入口のカギを所持して居住しているYに対して、Xが明渡請求の訴えを平成17年8月に大阪地方裁判所に提起した。事件は、平成17年4月に大阪地裁に着任した裁判官Aが担当することになった(Aが大阪地裁に着任したのは、これが最初である)。Yは、建物Hを占有している事実のみを認め、その余の事実は知らないと答えた。

     (1) 所有権に基づく明渡請求権の要件について、簡単に説明しなさい。
     (2) Xは、建物Hの所有者であると主張するだけで足りるか。Xは、前記競売により建物Hの所有権を取得した事実を主張することが必要か。
     (3) Yがその建物の入口のカギを所持して居住している事実について、証拠調べは必要か。民事訴訟法179条前段の趣旨について説明した上で解答しなさい。
     (4) X主張の所有権取得原因事実について、証拠調べは必要か。

  3. [L1]Xは、Yが経営している病院で治療を受けたが、病状が一層悪化した。Xは、医療過誤だと考え、Yに対して、主位的に債務不履行を理由に、予備的に不法行為を理由に、損害賠償請求の訴えを提起した。Xは、Yが経営している病院が保管している診療記録を証拠として提出したいと考えている。どうしたらよいか。
  4. *[L1]裁判所は、職権で証人尋問をすることができるか。当事者本人尋問はどうか。
  5. [L1]学校法人A(理事長B)が設置するC大学(学長D)のE学部(学部長F)に所属する学生P(19歳)が、Aに雇用されているG教授のハラスメント行為により登校困難になるほどの精神的打撃を受けたと主張して、Pの親権者Qにより、Aのみを被告にして損害賠償請求の訴えを提起した。

    1. 証人尋問と当事者尋問との共通点と相違点を説明しなさい。

    2. この訴訟において次の者を尋問する場合に、どのような尋問の方法によるかを説明しなさい。
      1. 理事長B、学長D、学部長F、加害者と主張されているG教授
      2. 学生P、親権者Q
  6. [L1]Xが崖から転落した。Yは、親友A(22歳の大学生)と母親Bに、復讐のために自分が転落させたと告げ、犯行の動機と経過を語った。復讐の言葉と被害者の重傷に心を痛めた母親は、孝行息子であるYを教会に連れて行った。Yが牧師Cに事実を告白し、牧師が神の教えを説き、自首を勧めた。Xは、Yが突き落としたと警察に訴えたが、警察は、Yに有力なアリバイがあると答え、事故として処理した。Xは、Yの行為により転落したと主張して、Yに対して損害賠償請求の訴えを提起した。訴訟で、Yが加害者であるかが争点となり、Xは、前記3人の証人尋問を申請し、この転落事故についてYが3人に語ったことの証言を求めた。母親は、この点についての証言を拒むことができるか。牧師はどうか。親友はどうか。
  7. [L1]車と車の衝突事故の損害賠償請求訴訟で、目撃証人がいない。ところが、事故現場を目撃したと名乗る匿名の者から、(1) 原告宛に事故当時の状況を記した文書と、(2) 事故当時の状況を撮影したドライブレコーダの記憶媒体(SDカード)が郵送されてきた。原告の見るところ極めて正確な文書で信憑性は高く、また、SDカードに収録された画像には日時が記録されており、また、その画像からは原告と被告の各車両のナンバープレートが読み取れる。原告がこの文書・図面の証拠調べを申し出た場合に、それはどのように処理されるであろうか。

  8. [L1]他人の債務の保証人になったXは、高利金融会社Yの社員(甲野イチロウ)から保証債務の履行を執拗に迫られ、激しい口調で「内臓を売って金を払え」とまで言われ、生活の平穏を著しく害された。Xは、Y社に対して損害賠償請求の訴えを提起した。

     [小問1] Xは、取立ての様子を録音した録音テープを有している。この録音テープの証拠調べは、どのようにしてなされるか(書証に準ずるのか、それとも検証か)。
     [小問2] Y社では、部外秘の営業マニュアルを作成しているようで、そのマニュアルには、「債務を履行しない債務者に対しては、「内臓を売って金を払え」と脅すことも一つの方法である」との文言が書かれているとの噂を聞いた。Xは、そのマニュアルも証拠として用いたい。どのようにしたらよいか(何を要証事実とするかも書くこと)。被告Y社がその営業マニュアルの提出を拒む場合に、裁判所はどのように処理するべきか。

  9. [L2a]Xは、Y銀行A支店長のすすめで多額の融資を受け、A支店長がすすめる金融商品取扱業者を通じて金融商品に投資したが、相場の暴落で多額の損失を受け、融資金の担保のために自宅に設定した抵当権を実行され、これにより自宅を失い、落胆して自殺を図ったが、一命をとりとめた。Xは、銀行がXの資力を無視して投機性の高い投資のために過剰融資を行った点を問題にして、損害賠償請求の訴えを提起した。Xは、過剰融資の経過に関する事実の主張の立証のために、銀行が所持する貸出稟議書について文書提出命令の申立てをした。この申立ては、認められるか(個人情報保護法28条(開示)にも言及すること)。

  10. [L2a・類題]Wは、Y銀行のB支店長に勧められて、Y銀行から1億円の融資を受け、B支店長がすすめる商品先物取扱業者を通じて商品先物取引に手を出した。しかし、経験不足のため多額の損失を出して、自殺した。Wの未成年の子X1と妻X2が、限定承認をした上、Y銀行の過剰融資の責任を追及して、損害賠償請求の訴えを提起した。訴訟中に、融資当時のWの収入、資力ならびに返済の見込みについてY銀行がどのように認識していたかが争点になり、その点の立証のために、Xらは、Y銀行が保管する貸出しの経緯に関する文書につき、(α) 融資を受けるためにWがY銀行に提出してY銀行が現に保管している書類(もしそれを保管していなければ、Y銀行が保管している書類中で、 融資当時のWの収入、資力が記されている書類)、及び(β) Wが提出した書類に基づいてY銀行が作成した本件融資に関する書類(特にWの返済の見込みの判断を記した書類)の提出命令を申し立てることにした。

     問 この申立ては、認められるか。


  11. [L3]今は昔、文部科学省が文部省と科学技術庁とに分かれていた頃のことである。Xは、高等学校公民科現代社会の教科書の分担執筆者の一人であった。出版社がこの教科書について教科用図書検定を申請した。これに対し、文部省の教科書調査官がXの分担部分の一部につき、口頭で検定意見の通知をした。Xは、この意見は非常に不当であると考えている。そこで、Xは、検定制度そのものが違憲であるほか、その制度の運用方法や検定手続が違憲又は違法であり、また、右検定意見の通知とその内容も違法であるとして、国に対し、検定意見の通知によって教科書の分担部分の執筆完成を断念させられたことを理由に、国家賠償法1条に基づき慰謝料の支払を求める訴えを提起した。なお、検定手続は、教科用図書検定規則(平成元年文部省令20号)、教科用図書検定調査審議会令(昭和25年政令140号)、教科用図書検定調査審議会規則(昭和31年11月30日教科用図書検定調査審議会決定)によっておこなわれ、その概要は、次のとおりである。 この訴訟の中で、出版社に口頭で通知された検定意見の内容・趣旨等について争いが生じた。Xは、通知された意見の内容・趣旨等を証明するために、≪文部大臣が教科用図書の検定の結論を出すに先だって検定審議会が審議した結果を記載した文書及びその審議結果を文部大臣に答申(報告)した内容を記載した文書≫の提出を被告に命ずることを申し立てることにした。この申立ては、平成13年法律第96号による改正後の民事訴訟法の下で認められるであろうか。なお、証拠調べの必要性の点については、問題がないものとする。

  12. [L2a]不正融資の噂のある銀行の株主Xが、代表取締役Yを被告にして、その責任追及のための株主代表訴訟を提起した。その訴訟において、原告は、次の各小問の証拠申出をした。裁判所は、証拠調べの必要性を否定しなかった。

    (1) 疑惑の噂されている融資案件に関して当該金融機関が保有する貸出稟議書について文書提出命令を申し立てた。これは認められるか。
    (2)その貸出稟議書は、Yの指示に従い、銀行員Zが作成したものである。貸出しの経緯、貸出稟議書の内容、稟議書の作成に際してYがZに与えた指示を尋問事項にして、XがZの証人尋問を申請した。これは認められるか。Zは、証言を拒絶することができるか。
  13. [L2a] 下記の事案について、下記の問い(a, b, c)に回答しなさい。

    1. Xは、Y社の男性従業員であるが、品行方正とは言えず、勤務中に女性従業員の身体を触ることがあり、複数の女性従業員から苦情が寄せられていた。Xから著しいハラスメントを受けたと主張する女性従業員Aが、Y社のハラスメント防止委員会に対して、Xによるハラスメント行為からの救済を求める申立をした。Y社は、早速、5名の委員からなる調査委員会を設置した。
    2. 同委員会は、双方の言い分を聞くために、まず、Aの聴聞会を開いた。聴聞の内容はすべてデジタル録音機で録音され、録音データは暗号化してハードディスクに保存された。録音内容を文字にした文書データも同様に暗号化のうえ、ハードディスクに保存されるとともに、その内容は文字にして紙にプリントアウトされ、委員の閲覧に供された。
    3. 同委員会は、Xについても同様の聴聞会を開き、2と同様の措置をとった。Xは、録音データを記録したUSBメモリーを交付されたが、それを紛失してしまった。
    4. 同委員会は、他の従業員の聴聞も行った上、Xを懲戒免職にするのが妥当であるとの結論を出した。その際に、同委員会の審議経過を記載した議事録が作成され、現に会社が保管している。そこには各委員の忌憚のない意見が記載されている。
    5. 同委員会は、懲戒解雇が相当であるとの結論及びその理由を記載した調査報告書を社長に提出するとともに、報告書の文書データを暗号化することなくハードディスクに保存した。
    6. 社長は、所定の手続を経て、Xを懲戒免職にした。その際、5の意見書の要旨がXに告知された。これに対して、ハラスメント行為の存在自体を否定しているXが、この懲戒処分の無効を主張し、Y社を被告にして雇用関係確認請求の訴えを提起した。

    この訴訟の中で、Xが次の物件の提出命令を申し立てた。裁判所は、いずれの物件についても証拠調べの必要性自体は認めた。しかし、Y社はその全てについて提出を渋っている。裁判所は、どのように対応すべきか。

    1. 上記4にあるハラスメント調査委員会の議事録(プリントアウトされた紙)。
    2. 上記5にある調査報告書(プリントアウトされた紙)。しかし、Y社は、プリントアウトされた調査報告書はすでに廃棄されていて、所持していないと述べている。
    3. 上記3にあるXの聴聞会の内容を録音したデジタルデータ。なお、会社は、次のように主張しているものとする:録音データを暗号化したファイルをそのままUSBメモリに複製して提出することはできるが、暗号の解除を提出命令によって命ずることはできないはずである;暗号化を行った者が既に退職していて、暗号解除に必要な情報を提供しようとせず、専門家に暗号の解除を依頼すると30万円ほどの費用がかかり、会社としてはこの費用を一時的であっても負担したくない。
  14. [L2]  下記の事案について、下記の問い(a, b, c)に回答しなさい。

    1. Xは、学校法人A大学が設置するA大学(私立大学)の卒業生である。A大学は、在学生及び卒業生の成績を大学自身が管理するデータベースに保存しており、データベースには、素点も登録されている。素点は、成績評価の基礎となる100点満点の点数であり、90点以上は秀、80点以上は優、70点以上は良、60点以上は可、それ未満は不可に自動的に換算される。なお、以下では、「学校法人A大学」も「A大学」と表示することができるものとし、「A大学」の語は、学校法人の意味でも、学校法人が設置する大学の意味でも使用することができるものとする。
    2. Xは、大学を卒業してY会社に就職して1年たったところであるが、会社の役員から能力が著しく低いと評価され、解雇されてしまった。
    3. Xは、自分には十分な職務遂行能力があり、解雇は不当で無効であると主張して、Y会社を被告にして雇用関係確認の訴えを提起した。

    この訴訟の中で、Y会社は次の情報を得たいと思っている。それは可能か。その方法はどのようなものになるか。なお、裁判所は、これらの情報の取得のための証拠調べの必要性は認めているものとする。

    1. Y会社は、Xが採用時に提出した成績証明書が改竄されたものではないかとの疑いを懐いており、その確認のために、A大学が所持しているXの成績証明書(秀・優・良・可・不可がプリントアウトされた紙)の記載内容。A大学は、その紙自体を1部だけ保存しているが、プライバシー保護のために、本人の同意がない限り成績証明書を提出することはできないと主張し、Xは、就職の際にY会社に提出した成績証明書は真正なものであるから、同意しないと述べている。
    2. 大学のデータベースに保存されているXの成績の素点。A大学は、素点を学生に開示しておらず(したがって、部外者にも開示されることはなく)、素点をプリントアウトした紙自体は所持していないものとする。
    3. Xと同年度に卒業した学生の中でのXの学業成績がどの位置にあるかを知るために、各科目の素点の平均点およびXの成績の標準偏差値。この情報自体はデータベースに保存されていないが、データベースを操作すれば比較的容易に得られるものとする。
  15. *[L2]Yは、自動車が欲しくて仕方がないが、資金が100万円しかない。自動車ローンを組むほどの信用力もない。1999年の9月1日自動車販売店Dに行くと、気に入った中古車があったが、店員Aに見積書を作ってもらうと、税金や諸費用を含めると250万円必要である。何度か値引き交渉をしたが、あまり値引きしてもらえず、やむえず、友人に融資を頼んでみると告げて、帰った。9月20日15時に、Yが友人Xの事務所に行くと、Xは不在であった。Yは、事務員Cに名刺を渡し、「自動車のことで相談に来ましたが、明後日17時頃また来ます」と言って帰った。Cは、受け取った名刺に鉛筆で「9月20日15時来訪」と記載するとともに、業務日誌作成用ノートにボールペンでYの来訪の事実と伝言の趣旨を記載し、かつ、その日の業務の終わりに、X宛の業務報告の電子メイルにその事実を記載して発信した。9月22日17時にYがXの事務所に来訪すると、Xのみがいた。Yは、仕事のためにどうしても自動車を必要としている事情を説明し、自動車販売店Dにとてもよい車があることを熱心に話した。Xは、Yの了解を得て、店員Aの作成した見積書のコピーを取り、それを見ながらYの話を聞いた。Xは、最初は渋っていたが、諸般の事情を考慮して、Yに200万円貸すことにし、別室の金庫から200万円を取り出して、Yに渡した。Yは、6か月後に弁済する約束をし、Xがコンピュータで作成した借用証書に署名した(押印はしていない)。Xは、複写機でその写しを1部作成し、Yに渡すつもりで原本とともにYと面談している机の上に置いた。そして二人でウイスキーを飲みながら雑談をしているうちに、Xに急用を知らせる電話が入り、Yに帰ってもらうことになった。そのとき、Xはうっかり借用証書の原本をYに渡してしまったが、Xは「大丈夫だろう」と思い放置した(見積書のコピーは、Xの手許にある)。Yは、翌日、自動車販売店Dに行き、自動車を購入し、9月25日にお礼の電話を自己の携帯電話からX事務所の固定電話にした。ところが、その後、XとYとが不仲になり、Yは、Xから金を借りた事実さえ争うようになった。上記のように紛争事実関係を認識しているXは、やむえず、返還請求の訴えを提起し、上記の事実を主張した。これに対して、Yは次のように主張した:「自動車は、コツコツ貯めた銀行預金を引きおろして、すべて自分の資金で買ったものである。9月21日から23日までは、自分は故郷の両親の家に帰っていた。だから、9月22日にXの事務所を来訪することはありえず、まして、借金のお礼の電話などするわけがない」(銀行名は明らかにしていない)。さらに、借用証書については、「それは、偽造文書だ。そんなコピーは、私の出した手紙の文字をスキャナーで読みとってコンピュータで組み合わせれば、いくらでも作成できる。原本を出してもらわないと困る」と主張した。

     [小問1]Xが貸金返還請求権の発生を根拠付けるために主張すべき直接事実(主要事実)は、何か。
     [小問2] Xは、消費貸借契約の成立の事実を証明するために、どのような証拠の申出をしたらよいか。

  16. *[L1]証拠調べは、誰がどのような場所でするのか。
  17. *[L1]文書の形式的証拠力と実質的証拠力について、例を挙げながら説明しなさい。

  18. *[L1]職権証拠調べの禁止の原則とその例外について説明しなさい。

判 決

  1. [L1]Yの暴行により全治2ヵ月の重傷を負ったと主張するXが、Yに対して3000万円の損害賠償請求の訴えを提起した。Yが暴行の事実を争うとともに、もし損害賠償債務が認められるのであれば、貸金債権3000万円と相殺すると主張した。Yは、貸金債権の成立を争っている。Xが、消費貸借契約書の証拠調べを申請した。

     [小問1] 裁判所は、消費貸借契約書の証拠調べをすべきか。
     [小問2]裁判所は、X主張のYの損害賠償債務の成立を認め、Y主張の債権貸金債権による相殺の抗弁を認め、請求棄却判決を言い渡した。裁判所は、言渡しから10日後に失敗に気付いた(民法509条参照)。裁判所は、自分の言い渡した請求棄却判決を請求認容判決に変更することができるか。

  2. [L1]Xは、Yに対して10億円の損害賠償請求権を有していると思っている。しかし、10億円の賠償請求の訴えを提起しても、全額認容されるかわからないので、訴え提起の手数料を考慮して、その内の6000万円の支払を求める訴えを提起した。口頭弁論においてXは損害額は全体で10億円であると主張し、その立証のための証拠を提出した。裁判所は、証拠調べの結果、Yに賠償責任があること、Xが受けた損害額が8000万円であることを認定した。裁判所は、どのような判決をすべきか。既判力は、どのような判断に生ずるか。

  3. [L1]判決言渡期日に当事者双方が出頭しなかった。裁判所は、判決を言い渡すことができるか。

  4. [L1]72歳になるXは、38年間努めた会社を12年前に退職した(退職当時の年収は、1000万円である)。5年前に妻に先立たれ、自己所有の住宅(床面積200m2)で一人寂しく暮らしている。Yの放火によりその住宅が焼失した。Xは、弁護士Aを訴訟代理人に選任して、Yに対して、損害賠償請求の訴えを提起した。Xは、焼失した動産としてどのようなものがあり、それがどの程度の価値を有していたかについて、記憶を頼りにリストを作成し、それをAに渡し、Aがそれを口頭弁論において主張した。しかし、Yがそのすべてを争った。Aは、証拠として、X本人の尋問を申請した。しかし、Yからの反対尋問にあうと、Xは、高齢で気力が弱っていたため、しどろもどろになり、また、リストの中にはXが購入したと主張する時点では発売されていなかった動産が含まれていることも判明し、リストの信用性が揺らいだ。Aは、それ以外の証拠をほとんど提出できなかった。Yが放火犯であり、Yに賠償責任があることを認めた裁判所は、焼失した動産についても賠償金の支払を命ずることができるか。

  5. *[L1]民訴253条1項で口頭弁論終結の日が判決書の記載事項としてあげられている。これには、どのような意味があるか。

  6. [L2]Xの主張によれば、Xが自動車を運転して、2023年11月11日午前11時頃、A市B町にあるC交差点を信号機の青信号に従って、東から西に向けて直進しようとしたところ、道路の北側にいたYが突然交差点に飛び出したため、衝突を回避するために自動車を急旋回させ、道路脇の電柱と衝突し、これによりXの自動車の前部に修理工場による修理が必要な損傷が生じた;Xは、2023年11月21日に、F修理工場に修理依頼し、修理代として100万円を支払った;これにより、Yに同額の損害が生じた。Xがこのように主張して、Yに対して、不法行為による損害の賠償請求の訴えを2024年6月中旬に提起した。
     これに対して、 Yは、事故当時、YはC交差点から50メートル離れたD銀行のATMで預金を引き下ろしており、交差点に飛び出すしようなことはあり得ず、また、交差点付近の監視カメラの記録映像によれば、Xが交差点に進入した時点では、Xの進行方向の信号機の信号は、既に黄色から赤に変わっており、事故はXが信号を無視した結果生じたものであり、Yに賠償義務はないと主張した。その上で、もしYの賠償義務を裁判所が肯定するのであれば、Yは、2018年1月12日の消費貸借契約によりYに100万円を貸し付けており、これにより生じた貸金債権100万円をXに対して有しているので、これを自働債権として訴求債権と相殺すると主張した。
     Yの相殺の抗弁に対して、Xは、消費貸借契約の成立を争い、仮に消費貸借契約の成立が認められるとしても、消滅時効を援用すると主張した。
     Yは、Xの時効の抗弁に対して、2022年12月12日の債務の承認により時効は更新されたと主張した。

     上記の設例について、 次の2つの小問に解答しなさい。なお、民法の規定については、平成29年改正後の規定を前提にする

     [小問1] 裁判所は、Yは事故当時に銀行におり、X主張の事故はYによって引き起こされたものではないと判断して、請求を棄却するつもりである。判決書に、当事者主張の事実として、最小限どこまで書くべきか。
      [小問2]裁判所がX主張のYに対する損害賠償請求権の成立を認め、Y主張の2018年1月12日の消費貸借契約の成立を否定し、Xの請求を認容する場合はどうか。

  7. [L1]貸金返還請求訴訟において、訴状の交付送達を受けた被告が原告の主張事実を争わず、弁済の抗弁などその他の防御方法も提出しなかった。裁判所は、請求を認容すべきものと判断した。裁判所は判決書作成の手間を省きたいが、どのような方法があるか。

  8. [L1]ある民事訴訟事件をA裁判官が単独で担当した。次の2つの小問に答えなさい。

     [小問1]A裁判官は、判決をなすのに熟したので、口頭弁論を終結した。判決書作成前にA裁判官が交通事故で死亡した。後任のB裁判官は訴訟記録に基づいて判決書を作成して判決を言い渡すことができるか。

     [小問2] 一人の証人の尋問と原告の当事者尋問が終了したが、さらに審理を継続する必要があり、A裁判官は次回期日を指定した。次回期日の2週間前にA裁判官が交通事故で死亡し、B裁判官がその事件を担当することになった。次回期日においてどのような所作がとられるか。

  9. *[L1]当事者間に争いのある事実の存否を、裁判所は何に基づいて認定するのか。二つあげて、説明しなさい。

  10. [L1]貸金返還請求訴訟において、第一審裁判所は請求認容判決をしようと思う。この判決に対して被告が控訴すると、判決の確定が遮断され、確定までに時間がかかることになる。判決確定前にこの判決に基づく強制執行を可能にすることはできるか。

  11. [L1]AはBの夫であり、とても裕福である。Bの裏切りにより婚姻関係は破綻した。婚姻関係が完全に破綻し、Bが相手の男Cと同棲を始めた後で、Aは、未婚のDに愛情を抱くようになり、Bに対する離婚請求と共に、BとCの不貞行為により精神的打撃を受けたと主張して、両名に対する損害賠償請求を併合した訴えを提起した(人事訴訟法17条1項)。いずれの請求とも認容されそうである。訴訟が第一審に係属している段階で、DがAの子を宿していることが明らかになった。しかし、BとCは、臆面もなく同棲の事実さえも否定し、最高裁まで争うと言っている。Aは、生まれてくる子供のために一日も早くDと再婚したい。そこで、第一審裁判所に対し、離婚請求認容部分と損害賠償請求認容部分の双方に仮執行宣言を付すことを申し立てた。この申立ては認められるか。

  12. [L2]カリフォルニア州民法典には、契約に起因しない義務の違反を理由とする訴訟において、被告に欺罔行為などがあったとされた場合、原告は、実際に生じた損害の賠償に加えて、見せしめと被告に対する制裁のための損害賠償を受けることができる旨の懲罰的損害賠償に関する規定が置かれている。カリフォルニア州上位裁判所が、XのYに対する損害賠償請求訴訟において、この規定を適用して、Xに実際に生じた損害42万ドルに加えて、懲罰的損害賠償として112万ドルの支払を命ずる判決を下し、その判決が確定した。Yの日本にある財産に対して強制執行するためには、この判決による執行を許す旨の日本の裁判所の判決(執行判決)が必要である(民執法24条)。Xが執行判決を求める訴えを提起した。裁判所はどうすべきか。

  13. *[L1]自由心証主義について説明しなさい。

判決の効力

  1. *[L1]次の点に注意しながら、裁判の効力について説明しなさい。
     判決と決定
     形式的効力と内容的効力
  2. [L1]XがYに対して、所有権に基づき建物明渡請求の訴えを提起した。裁判所は、判決理由中でXの所有権を認め、請求認容判決を下し、これが確定した。その後に、Yが当該不動産について、所有権確認請求の訴えを提起した。Yは、前訴の口頭弁論終結前からYが所有者であると主張できるか。なお、後訴が前の訴訟の実質的な蒸し返しであるかという問題は、度外視する。

  3. [L1a] 次の各場合について、前訴判決の既判力はどのような判断について生ずるか、その既判力は後訴においてどのように作用するかを説明しなさい。 なお、後訴が前の訴訟の実質的な蒸し返しであるかという問題は、度外視するものとし、また。前訴の口頭弁論終結時から後訴の口頭弁論終結時までの間に、法律関係の変動をもたらす事実は生じていないものとする。
    1. Xが占有している建物Aについて、XがYを被告にして所有権確認請求の訴えを提起し、請求認容判決が確定した。その後に、Xの占有している同建物について、YがXに対して、所有権に基づく引渡請求の訴えを提起した。
    2. Xの占有している建物Bについて、YがXに対して、所有権に基づく引渡請求の訴えを提起し、請求認容判決が確定した。その後に、XがYを被告にして同建物の所有権確認請求の訴えを提起した。

  4. [L1a]Xが、Yの不法行為によりX所有の不動産に1800万円の損害が生じたと主張して、その一部である500万円の支払請求の訴えを提起した(明示の一部請求)。不法行為の時から6ヶ月後のことである。Yは、X主張の不法行為をYはしておらず、Yの賠償義務の発生自体を争った。裁判所は、まず、Yに賠償責任があることを認める中間判決(原因判決)をし、その後、Xに生じた損害額について審理し、1500万円の損害の発生を認め、Xの請求通り500万円の支払を命ずる判決を下し、これが確定した。Xの主張する不法行為の時から5年目のことである。その直後(前訴判決の確定から1ヶ月後)に、Xは、残額1300万円の支払を求める訴えを提起した。

     (小問1) Yは、残額1300万円の損害賠償請求権について、消滅時効が完成していると主張した。この主張は認められるか。
     (小問2) 第2訴訟において、Yは、今度も不法行為の成立を争った。これに対して、Xは、Yが賠償義務を負っていること自体は前訴中間判決により確定されていると主張した。この主張は認められるか。
     (小問3) 後訴の裁判所は、審理の結果、X所有不動産に不法行為をしたのはYではないと認定した。後訴裁判所は、どのような判決を下すべきか。紛争蒸返しの禁止の法理には立ち入ることなく、前訴判決の既判力の内容を説明しながら答えなさい。

  5. [L1]XがYに対して1000万円の貸金返還請求の訴えを提起した。Yは、「Xの債権は、2018年10月14日の弁済により消滅している」と主張した。しかし、Yは領収書を紛失していたため、弁済の事実を証明できない場合のことを慮って、予備的に、1500万円の反対債権を主張して対当額で相殺すると抗弁した。次の2つの小問に答えなさい(各小問は独立である)。

    [小問1](a)このような予備的相殺の抗弁は許されるのか。(b)裁判所は、Xの債権の成立を認め、Yの弁済の抗弁を肯定して、請求を棄却した。この判決が確定した場合に、どのような判断に既判力が生ずるか。

    [小問2]裁判所は、Xの債権の成立を認め、Yの弁済の抗弁を否定したが、相殺の抗弁を認めてXの請求を棄却した。(a)この判決が確定した場合に、どのような判断に既判力が生ずるか。(b)その判決の確定後に、Yが領収書を発見し、「Xの債権は弁済によって消滅していたのであるから、自己の反対債権が相殺により消滅することはない」と主張して、前記1500万円の反対債権全額の支払を求める訴えを提起した。裁判所は、どうすべきか。

  6. [L1]XがYに対して1000万円の貸金返還請求の訴えを提起した。Yは、Xの債権の発生を争いつつ、予備的に、800万円の反対債権を主張し、対当額で相殺すると抗弁した。裁判所は、Xの債権の発生を認め、Yの反対債権の存在を否定して、請求認容判決を下し、その判決が確定した。その後にYが、次の訴えを提起した場合に、前訴判決の既判力はどのように作用するか。
      (1)YがXの1000万円の債権の不存在確認を求める訴えを提起した場合。
      (2)Yが自己のXに対する800万円の支払請求の訴えを提起した場合。

  7. [L1]XがYに対して1000万円の貸金返還請求の訴えを提起した。Yは、Xの債権の発生を争いつつ、予備的に、2200万円の反対債権を主張し、対当額で相殺すると抗弁した。裁判所は、Xの主張する債権の発生を認め、Yの主張する反対債権全額の存在を肯定して、請求棄却判決を下し、その判決が確定した。

    下記の各小問に答えなさい。なお、各小問は独立とする。また、再審事由は存在しないものとし、利息や損害金の請求はなされていないものとする。

     [小問1] 前訴判決の確定時から1年後に、Xが再度前記1000万円の債権の支払を求める訴えを提起した場合に、裁判所はどうすべきか。
     [小問2] 前訴判決の確定後に、Yが、Xの債権はそもそも成立していなかったのであるからYの債権が相殺によって消滅するいわれはないと主張して、2200万円の支払請求の訴えを提起してきた場合に、裁判所はどのように判決すべきか。なお、審理すれば、Xの債権はそもそも発生しておらず、Yの債権は、前訴口頭弁論の終結時に、相殺前に1500万円が存在し、残りの700万円は存在していなかったと認定されることを前提にして答えなさい。
  8. [L1]Xは、Yに対して3000万円の貸金債権を有していると主張し、YはXに対して1000万円の代金債権を有していると主張している(以下、Xの貸金債権を「α債権」といい、Yの代金債権を「β債権」という)。XがYに対して3000万円の支払請求の訴えを提起した。これに対して、YがXの債権の発生を争いつつ、予備的にβ債権で相殺すると抗弁した。
      裁判所が、α債権全額(3000万円)の存在とβ債権全額(1000万円)の存在を認定して、相殺を認める場合に、どのような判決が下されるか。その判決が確定した場合に、どのような判断に既判力が生ずるか。なお、付帯請求(利息・遅延損害金)は、無視できるものとする。

  9. [L1・類題]Xは、Yに対して1000万円の貸金債権を有していると主張し、YはXに対して3000万円の代金債権を有していると主張している(以下、Xの貸金債権を「α債権」といい、Yの代金債権を「β債権」という)。XがYに対して1000万円の支払請求の訴えを提起した。これに対して、YがXの債権の発生を争いつつ、予備的にβ債権をもって対当額で相殺すると抗弁した。

    裁判所は、次のように判断し、それを判決理由に記載した。
    1. α債権は、全額(1000万円)が成立し、現に存在する。
    2. β債権については、3000万円の全額の成立が認められる。Xは、全額弁済済みであると主張するが、弁済の事実が認められるのは、1200万円だけである。したがって、1200万円が消滅し、現存額は1800万円である。

    この場合に、どのような判決が下されるか。その判決が確定したときに、どのような判断に既判力が生ずるか。なお、付帯請求(利息・遅延損害金)は、無視できるものとする。

  10. [L2a]Xは、Yに対して5000万円の金銭債権(α債権)を主張して、その返還請求の訴えを提起したいと思っている。ただ、YもXに対して反対債権を有しているので、相殺の抗弁が提出されることを見越して、その内の3000万円の支払を求める訴えを提起した(明示の一部請求)。Yは、Xの債権を争いつつも、予備的に、3000万円の反対債権(β債権)を主張し、これとXの訴求部分3000万円とを対当額で相殺すると主張して、請求棄却判決を求めた。裁判所は、Xの訴求債権が全体で5000万円あること、Yの反対債権が3000万円あることを認定した。

      裁判所はどのような判決をすべきか。既判力は、どの判断について生ずるか(114条2項にも言及すること)。

  11. [L2a・類題]Xは、Yに対して3000万円の貸金債権を有していると主張し、YはXに対して1000万円の代金債権を有していると主張している(以下、Xの貸金債権を「α債権」といい、Yの代金債権を「β債権」という)。両者とも相手の債権の発生を否定している。XがYを被告にして、α債権が全部で3000万円であることを明示しつつ、その一部である1500万円の支払請求の訴えを提起した。これに対して、YがXの債権の発生を争いつつ、予備的にβ債権で相殺すると抗弁した。

     [小問1] 裁判所が、α債権全額(3000万円)の存在とβ債権全額(1000万円)の存在を認定して、相殺を認める場合に、どのような判決が下されるか。その判決が確定したときに、どのような判断に既判力が生ずるか。
     [小問2] 上記の場合に、裁判所が、α債権は2000万円のみ存在し、β債権は800万円のみ存在する、と認定したときはどうか。

  12. [L2a・類題]Xは、Yに対して3000万円の貸金債権を有していると主張し、YはXに対して2000万円の代金債権を有していると主張している(以下、Xの貸金債権を「α債権」といい、Yの代金債権を「β債権」という)。Yは、α債権の発生を認めつつも、全額弁済済みであると主張し、Xは、β権の発生を否定している。XがYを被告にして、α債権が全部で3000万円であることを明示しつつ、その一部である1500万円の支払請求の訴えを提起した。これに対して、Yが第一次的に弁済の抗弁を提出し、予備的にβ債権で相殺するとの抗弁を提出した。

     [小問1] Yは、α債権の弁済の領収書を紛失し、提出することができなかったため、弁済の抗弁は認められなかった。裁判所がα債権全額(3000万円)の存在とβ債権全額(2000万円)の存在を認定して、相殺を認める場合に、どのような判決が下されるか。その判決が確定したときに、どのような判断に既判力が生ずるか。
     [小問2] 上記の場合に下される判決が確定し、判決に基づく強制執行がなされたとする。その後で、Yは、紛失していた領収書を発見し、α債権は前訴の訴訟上の相殺前にすでに存在していなかったのであるから、自分のβ債権が相殺によって消滅するいわれはないと主張して、β債権2000万円の支払請求と強制執行により取り立てられた金銭について不当利得返還請求の訴えを提起した。裁判所は、領収書は真正なものであると認め、α債権は前訴の提起前にすでに弁済により消滅していたと判断した。裁判所は、どのような判決を下すべきか(再審事由は存在しないものとする)。

  13. [L2a]Xは、YがXの財産を横領したことを理由に5億円の損害を被ったと主張し、その内の1億円について損害賠償請求の訴えを提起した。しかし、YがXの財産を横領したとの事実の証明がないとの理由で、請求棄却判決が下され、確定した。次の2つの小問に答えなさい(既判力の問題として考察するとともに、紛争蒸返しの禁止の法理にも言及すること)。

     [小問1] 前記の請求棄却判決の確定後に、Xは、残額の4億円について再度損害賠償請求の訴えを提起した(民法724条1号の短期消滅時効期間の満了前であるとする)。裁判所は、どのように対応すべきか。

     [小問2]前記小問1の訴訟において、Xは、予備的に、Yが前記横領行為により得た利益について不当利得返還請求権を有すると主張して、4億円の不当利得返還請求を追加した。裁判所は、どのように対応すべきか。

  14. [L3]Yは、代金後払いの約定で、Xから名画数点を5000万円で買い受け、その引渡を受けた。その際、その代金債務について、Zに連帯保証人になってもらった。Yの財産状況が悪化し、代金を支払うことができなくなった。XがYとZを共同被告にして、代金支払請求と保証債務履行請求の訴えを提起し、両請求とも認容する判決が確定した(この訴訟を「第1訴訟」と呼ぶことにする)。その後に、Yが購入した名画が贋作であることが判明した。Yは、直ちに、詐欺を理由に、売買契約を取り消す旨の内容証明郵便をXに送付するとともに、そのことをZに通知した。すかさず、XがYの不動産とZの不動産について強制競売の申立てをしてきた。YとZは、Xに対する請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起した。Yは、取消しの意思表示による代金債務の消滅を主張することができるか。Zは、保証債務の履行拒絶を主張できるか。

  15. [L2]Xは、Yからある絵画を買い受けることにし、代金を500万円と定め、絵画の引渡しの際に200万円を支払い、残金の300万円は6月後に支払うとの約束で売買契約を締結した。Xは、200万円と引換えにその絵画の引渡を受けたが、残金を支払わなかった。YがXに対して残金の支払請求の訴えを提起し、請求認容判決が確定した。YがXの不動産に対する強制執行を申し立てたので、Xは請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起し、次の主張をした。これらの主張は、前訴判決の既判力により遮断されるか。
     (1)売買の目的物である絵画は贋作であることが前訴の口頭弁論終結後に判明した。Yは、売買契約の当時このことを知りながらXに告げることなくXに購入を勧め、契約を締結した。これは詐欺にあたるので、売買契約を取り消す。
     (2)Yは、Xが代金を支払わないことに腹を立て、前訴提起前にXに暴行を加えた。この暴行によりXが受けた損害は、500万円を下回らない。よって、これを反対債権にして、Yの残代金債権と相殺する。

  16. [L1]Xは、Aから買い受けた建物を占有している。その建物について、YがXから買い受けたと主張して、明渡しを求めてきた。Yと売買契約などした覚えのないXは、Yに対して所有権確認請求の訴えを提起した。その請求を認容する判決が確定した。その後に、AがAX間の売買契約の無効を主張して、Xに対して、建物の明渡しを求めた。XY間の訴訟におけるX勝訴判決の既判力は、Aに及ぶか。

  17. [L1]Xが所有者として登記されている建物について、Xを売主、Yを買主とする売買契約書がある。Yがこの売買契約書を根拠に、Xに対して所有権を主張してきた。Yと売買契約などした覚えのないXは、契約書は偽造であると主張して、Yに対して所有権確認請求の訴えを提起した。請求認容判決が確定した。その後にAが、Yからこの確定判決の存在を知らされることなく、その売買契約書を信用し、その建物をYから買い受け、Xに対して建物の明渡しを訴求してきた。XY間の訴訟におけるX勝訴判決の既判力は、Aに及ぶか。


  18. [L1a]1998年2月16日にXは、Yに対して200万円の貸金返還請求の訴えを提起した。口頭弁論は、同年6月16日に終結し、7月13日に請求棄却判決が言い渡され、判決に対して控訴が提起されることなく、判決はそのまま確定した。Xは、この債権を1998年6月10日にAに譲渡し、債権譲渡の通知は6月24日にYに到達していた。X敗訴判決の既判力は、Aに及ぶか。

  19. [L1]Aについて破産手続が開始され、Yが破産管財人に選任された。XからAへの所有権移転登記がなされている不動産について、Xが、その登記は偽造の売買契約書に基いてなされたものであると主張して、Yを被告にして、所有権確認請求と所有権移転登記の抹消請求の訴えを提起した。請求認容判決が確定した。破産手続終了後に、その不動産についてAが売買契約書は真正なものであり、AはXから有効に所有権を取得していたと主張して、Xを被告に、所有権確認請求等の訴えを提起した。前訴判決の既判力は、後訴のAにも及ぶか。

  20. [L2a]AがBに対してα債権を有している。Bの説明によると、BはCに対してβ債権を有している。Aが債権者代位権に基づきCに対してβ債権の取立訴訟を提起した。2023年4月のことである。次の2つの小問に答えなさい。

     [小問1]AがBに対して民法426条の6所定の訴訟告知をBに対してしようとしない。裁判所はどうすべきか。
     [小問2]民法426条の6所定の訴訟告知がなされたが、Bはその訴訟に参加しなかった。裁判所は、α債権は存在するがβ債権は存在しないとの理由で、Aの請求を棄却する判決を下した。その判決の確定後にBがYに対してβ債権支払請求の訴えを提起した。前訴判決の既判力は、後訴のBにも及ぶか。
  21. [L3]Aの主張によれば、AはBに対してα債権を有している。Bの説明によると、BはCに対してβ債権を有している。Aが債権者代位権に基づきCに対してβ債権の取立訴訟を提起した。2023年4月のことである。民法426条の6所定の訴訟告知がなされたが、Bはその訴訟に参加しなかった。裁判所は、α債権は存在するがβ債権は存在しないとの理由で、A敗訴の判決を下した。その判決の確定後にBがCに対してβ債権の取立の訴えを提起した。Cは、A敗訴判決の効力がBに及ぶと主張した。Bは次のように反論した:(1)α債権は、Aの前訴提起前に弁済によって消滅していた;(2)したがって、Aは、β債権を代位行使する権限を有していなかったから、A敗訴判決の効力はBには及ばない。次の2つの小問に答えなさい。

      [小問1]Bの反論(1)の弁済の事実の主張が真実でなかった場合に、前訴判決の既判力は、Bにも及ぶか。
      [小問2]Bの反論(1)の弁済の事実の主張が真実であった場合に、前訴判決の既判力は、Bにも及ぶか。

  22. *[L2]XがYに対して1000万円の貸金の返還請求の訴えを提起した。Yは、弁済ずみであると主張したが、領収書を紛失していたため、弁済の事実を証明することができず、請求認容判決が確定した。その判決の存在を承知の上で、下記のA,B又はCが下記の債務引受又は保証をしたとする(それぞれ別個の事例であるとする)。その後に前記弁済の事実の証拠となる領収書がY宅から発見された場合に、下記のA,B又はCは、前訴でYが主張したのと同じ弁済の事実を主張して、XのYに対する債権が前訴口頭弁論終結時に存在していたことを争うことができるか。
    1. Yの債務についてAが免責的債務引受をした。
    2. Yの債務についてBが重畳的債務引受をした。
    3. Yの債務についてCが連帯保証をした。


  23. [L2]Aの所有地として登記されている土地をYが賃借し、Yがその土地の上に2世帯用の建物を建てて、1階部分にYとその妻が居住し、2階部分にYの息子の家族に居住させた。しかし、息子の妻とYとの折り合いが悪くなり、息子夫婦がその建物から出て行った。その後、Xがその土地の真の所有者は自分であり、XからAへの所有権移転登記はAが作成した偽造文書によりなされたものであると主張して、Yに対して土地の所有権確認請求及び建物収去土地明渡請求の訴えを提起した。この訴えの提起後に、経済的に困窮し出していたYが、前記訴訟の係属を秘して、建物の2階部分をZに賃貸し、引き渡した。XY間の訴訟の口頭弁論は2018年10月1日に終結し、請求認容判決が同年12月10日に言い渡され、そのまま確定した。この判決の効力は、Zに及ぶか、及ぶとした場合に、どのように及ぶか。下記の2つの場合に分けて答えなさい。

     [ケース1]Zが建物を賃借して引渡しを受けたのが、同年8月1日である場合。
     [ケース2]Zが建物を賃借して引渡しを受けたのが、同年11月1日である場合。

複合問題

  1. [L3]ある年([J]年)の4月4日にYがXの時価2000万円相当の有価証券を横領し、即日これを売却して同額の利益を得た(Yのこの横領行為は、民法509条2号の「悪意による不法行為」に該当するものとする)。Xは、これを1週間後に知り、Yに対して損害賠償を求めたが、Yは曖昧な返事をするばかりであった。約3年後([J+3]年)の6月6日に、XがYに対して、不法行為による損害賠償請求と不法行為の日からの遅延損害金の支払請求の訴えを提起した。Yが民法724条の消滅時効の完成を援用した。Xは、Yの債務承認による時効更新(民法152条)を主張したが、認められそうもないので、訴え提起から2年後([J+5]年)の6月6日に不当利得返還請求を追加し、両者を選択的併合とした。裁判所は、この訴えの変更を適法とした。しかし、Yは、不当利得返還請求ついても消滅時効の完成を援用した。

  2. Xは、Yに対して400万円の代金債権を有していると主張して、Yを被告にしてその支払請求の訴えを提起した。Yがこの債権の発生原因事実を認めた上で、(α)弁済の抗弁を提出し、(β)それが認められないのであれば、消滅時効が完成しているのでそれを援用すると主張し、(γ)それも認められないのであれば、YはXに対して400万円の貸金債権を有しているので、これとXの訴求債権とを相殺すると主張した。第一審裁判所は、弁済の抗弁に立ち入ることなく、時効の完成を認め、請求を棄却した。

  3. [L1]大阪市内に本店のあるコンピュータ販売会社のX株式会社(代表取締役A)の従業員Bは、会社の業績を上げるために、京都市内に本店のあるY株式会社(代表取締役C)に行き、Cがコンピュータについて疎いことをいいことに、売れ残りのコンピュータシステムを代金160万円でY社に販売した。代金は商品の引渡後3ヶ月以内に支払うとの約束であったが、代金の弁済期をすぎてもYは代金を支払わないでいる。Y社の社長Cは、納入されたコンピュータが旧型であり会社の業務に役立つものではなかったから契約を解除すると主張し、さらには詐欺を理由に売買契約を取り消すとまで言い出している。X社の社長Aは、訴訟で問題を解決しようと考えた。なお、Cの住所は大津市内にあるものとする。

     (1)どのような訴えを提起したらよいか(2つの請求を考えて、その併合形態を説明しなさい)。誰が原告となり、誰が被告となるかも明示すること。
     (2)訴えは、どこの裁判所に提起することができるか。
     (3)訴状は、誰に送達されるか。送達場所はどこになるか。
     (4)裁判所は、Bを職権で尋問することができるか、Aはどうか(弁論主義にも言及すること)。

未整理問題

  1. XがYに対する1000万円の貸金債権について、1999年9月9日以降年8%の割合による利息ならびに弁済期の翌日である2000年9月9日以降の年8%の割合による遅延損害金の支払と、元本の支払を求める訴えを提起した。Yは、弁済期に利息及び元本の全部を弁済したと主張したが、領収書を紛失していたため、弁済の事実を証明することができず、請求認容判決が確定した。2001年9月9日のことである。Yは、弁済の猶予と利息部分の免除を懇請し、Xは、AがYの保証人になることを条件に、利息と遅延損害金を免除し、元本1000万円について2001年12月9日まで弁済を猶予した(2001年12月9日までに元本が支払われなかった場合に、利息部分及び遅延損害金の免除を解除する旨の明示的合意はなされていなかったものとする)。

    ところが、2001年11月9日に前記弁済の事実の証拠となる領収書がY宅から発見された。Xは、その領収書は偽造されたものであると争っているが、客観的には、この領収書により前記弁済の事実が確実に認定できるものとする。前記領収書が発見されたためYもAも義務の履行をしようとしないので、Xは、前記確定判決に基づき、前記元本債権並びに1999年9月9日以降の利息・遅延損害金債権を請求債権として、Yの財産に対する強制執行を申し立てた。
    1. Yがこれに対して請求異議の訴え(民執法35条)を提起した場合に、どうなるか。
    2. XがAに対して元本ならびに1999年9月9日以降の利息及び遅延損害金について保証債務の履行を訴求した場合に、どうなるか。Aは、前記領収書を提出して、主債務の不存在を主張することができるかを中心にして検討しなさい。
    3. XのAに対する訴訟の終了後にYについて破産手続が開始された場合に、Xが前記元本債権並びに1999年9月9日以降の利息・遅延損害金債権を破産債権として届け出たが、破産管財人はこれを認めず、他の債権者からも異議が出され、破産管財人及び異議を述べた債権者が破産法129条により異議を主張する場合に、どうなるか。どのような訴訟手続により異議を主張することができるのか、及び、破産管財人らは前記領収書を提出して主債務の不存在を主張することができるかを、検討しなさい。

  2. [L1]Xは、Yに対して1000万円の貸金債権を有している。Xは、その債権の取立訴訟の提起をA弁護士に委任することにし、2006年1月10日(火)に訴訟委任契約を締結した。A弁護士は、訴状を同月31日に裁判所に提出した。訴状は、同年2月28日にYの自宅に宛てて送達され、本人が旅行中で不在のため、Yの子C(大学3年生)が書類を同日受領した。 次の各場合に、この訴訟はどうなるか。

    (1)Yが同年3月1日に死亡し、これが3月2日に裁判所及びA弁護士に判明した場合。
       相続人は、Yの子Cのみとし、Xは生存しているものとする。
    (2)Yが同年2月27日に旅先で死亡していて、これが3月2日に裁判所及びA弁護士に判明した場合。
       相続人は、Yの子Cのみとし、Xは生存しているものとする。
    (3)Xが同年2月27日に旅先で死亡していて、これが3月2日に裁判所及びA弁護士に判明した場合。
       相続人は、Xの妻Bのみとし、Yは生存しているものとする。

以下は、あるロースクールにおける
未修者コース1年次の講義(2006年度後期)のレポート課題である


レポート課題 1

[課題の内容]

 名古屋地方裁判所 平成14年1月29日民事第1部 判決(平成12年(ワ)第929号)に関連して、次の事項を説明しなさい。

  1. 次の証拠調べについて、「証明すべき事実」(180条)は何か、その事実と主要事実との関係はどうか、裁判所は証拠調べの結果から「証明すべき事実」についてどのような理由でどのような方向の心証をもったか。
    1. 原告本人尋問
    2. 事件当日の原告の日記の記載
    3. 電話会社への調査の嘱託(の試み)
  2. 次の事項の定義を述べ、次に、この判決から具体例を取り出して説明しなさい。
    1. 弁論の全趣旨
    2. 補助事実
    3. 経験則による推認
    4. 直接証拠と間接証拠
    5. 公知の事実

 注: 授業担当者は、当事者間に争いのないことも弁論の全趣旨になるとの立場であるが、これを具体例としてとりあげても単純すぎるので、弁論の全趣旨の具体例としては、これ以外のものを取り上げること。

[課題の達成の要領]
  1.  必ずしなければならないこと。
  2.  グループ内でどのように課題を達成するかは、各グループの裁量に委ねるが、おおむね次の手順で課題が達成されることを期待している。

レポート課題 2

[課題の内容]

 次の事項について、説明しなさい。

  1. 証人尋問・当事者尋問の申出 (法180条・182条・183条、規則2条・3条・47条・99条・100条・106条・107条・108条・109条などに言及すること)

  2. 書証の申出 (法219条・226条、規則2条・3条・47条・99条・137条・139条・143条・144条などに言及すること)

  3. 判決の確定と確定証明書 (法116条・255条・285条・313条・318条5項、規則48条、民執法22条・25条、狭義の執行力・広義の執行力、戸籍法77条・63条などに言及すること)

  4. 訴えの取下げ (法261条・262条、規則2条・3条・162条などに言及すること)

  5. 訴状の記載事項及び訴状の提出 (法133条、規則2条・3条・53条・55条などに言及すること)

  6. 準備書面

  7. 期日の呼出し

[課題の達成の要領]

  1. 必ずしなければならないこと。
  2. グループ内でどのように課題を達成するかは、各グループの裁量に委ねるが、おおむね次の手順で課題が達成されることを期待している。

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2000年1月 4日−2019年12月5日