ゼミナール研究テーマ
関西大学法学部教授
栗田 隆
裁判所などに提出する法律実務文書の書式がWeb上で広く公開されるようになった。これらも法学教育の素材とすることにした。課題の狙いは、書類の作成が必要な状況に出会ったときに、適宜自分で調査して書類を作成する能力を身につけることである。≪授業で扱った書類は書けるが、それ以外の書類は書けない≫ということになってはならない。
以下では、破産債権の届出に関する書類を例にして、課題への回答の方法を説明する。
実際に書類を作成するので、その書類の作成・提出が必要となる状況をシナリオないしストーリーにすること。例えば、
****年*月*日 法律実務文書の作成トレーニング
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ストーリーを書いた書面には、「法律実務文書の作成トレーニングのためのシナリオ」の標題を必ず入れること。シナリオには、実在する会社名の使用はできるだけ避けること。誤解が生ずるのを避けるためである。
この「法律実務文書の作成トレーニング」の課題の中で最も重要なのは、このシナリオ作成部分であろう。シナリオが不自然にならないように、また前後に矛盾が生じないように注意すること。関係する条文があれば、適宜、参照指示を挿入しておくこと。シナリオの作成に当たっては、例えば、
「法学学習ガイダンス2・法的事件のシナリオの作成−−法律文書作成実習の準備として−−」も参照。
当該事例に適用される法令を説明すること。関係する判例があれば、それも取り上げること。最近では、最高裁判所規則で実務書類の記載事項が定められていることが多い。これに該当する場合には、その規則にも言及すること。
課題のこの部分は、調査と説明とに分けることができるが、調査にそれほど重点があるわけではない。説明すべき事項の多くは、少し厚めの教科書・コンメンタールを見れば、そこに書いてあることだからである。
重点は、分かりやすく説明すること(プレゼンテーション)にある。一般に、重要な問題は、一人で処理するのではなくチームで処理するのがよい。チームで処理するためには、チーム内での知識の共有が必要である。一人の者が調べたことをチームのメンバーに説明することは、知識共有化の一般的な形態である。その練習だと考えていただきたい。手続の流れなどを分かりやすく図解しながら説明することがポイントである。
これは、2と同時にしてもよい。各種書式の説明書を見れば多くのことが書いてあり、それをそのまま報告することになると予想される。そこで、学習負荷を高めるために、メモを見ずに説明することが求められることがある。なお、書式の記載事項が少数の場合には、次の4に吸収させ、この3は省略してもよい。
書類に不備がないかを演習参加者全員でチェックする。書類を作成する上で注意した点を取り上げること。
誤解が生ずることを防ぐために、書類の各葉の上部に大きめの文字で「演習用」ないし「例題」の注記を必ず入れておくこと。捺印すべき個所には、「印」の文字があればよく、実際に捺印する必要はない。誤解を避けるために、むしろ、押さない方がよい。
各種の書式のページに直接にリンクを張りたいところであるが、URLがしばしば変更されるので、以下では、各裁判所のトップページにリンクを張るに留めていることが多い。その場合には、メニューの「裁判所に提出する書式例集」から辿っていくこと。
破産申立ては、破産者にとって人生の一大事件である。数年分の人生を赤裸々に記載しなければならないかのように、申立て書類の記載事項は多岐にわたっている。個人名・住所を記載するときには、誤解が生じないように注意すること。
これで長いストーリーができるだろう。配偶者暴力に関する保護命令申立まで付け加えると、切ないストーリーができそうだ。
2003年3月26日−2003年11月16日