法学学習ガイダンス2

法的事件のシナリオの作成
  −−法律文書作成実習の準備として−−

関西大学法学部教授 栗田 隆


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  1. 自分の権利を守ろう
  2. 法律文書の作成に慣れよう
  3. シナリオを書こう
  4. シナリオを提出しよう

1 自分の権利を守ろう

ゼミナールでは、「自分の権利は自分で守ろう」を標語に、法律文書の作成の実習をします。平成8年の民訴法改正により少額訴訟制度が導入されました。書店には、『自分でできる少額訴訟』といった解説書が多数ならんでいます。大きな金額の事件は、弁護士に解決を依頼するのがよいでしょう。しかし、少額の事件の場合には、弁護士に支払うべき費用の方が高くなり、弁護士も引き受けたがりません。自分で自分の権利を守ることが必要です。

自分の権利を守ることを面倒がってはいけません。それは、あなたの財産を守ることになるのみならず、社会の発展にも役立つのです。社会の発展には、資源の最適配分が必要です。それは、社会の需要に応じて社会により多くの貢献する者により多くの利益と資源が提供されることです。法は、私人が合理的な経済活動をなすことを期待して経済活動の自由を認め、その成果である各人の利益を権利という名前で保障しています。多くの場合に、権利は最適配分に近い適正な資源配分なのです。権利を実現しないことは、義務者が不当な利益を得ることを意味します。不当な利益は、浪費です。浪費は、社会の存続・発展を妨げます。平成大不況も、資産インフレ(バブル経済)に伴う不当な利益配分による浪費が原因の一つとなっています。債務者である住宅金融専門会社などが、自分の権利を適切に行使しなかったために、自分の債権者に一層の損失を与えるという特別付録のついた浪費です。

権利の存在が明確な場合には、権利を行使しよう。不明確な場合には、裁判所に判断してもらおう。

2 法律文書の作成に慣れよう

自分の権利を守るためには、権利の発生を明確にしておくことが必要です。電子的な取引が多くなりましたが、それでも書面により権利関係を明確にすることが望まれます。権利を行使する場合には、通常、一定の事項を記載した書面を作成して相手方に送付したり裁判所や執行官に提出します。

これらの書面を一括して法律文書と呼ぶことにします。ゼミナールでは、こうした法律文書の作成の勉強します。私が用意したシナリオにしたがって皆さんが書類を作成するのも一つの方法です。この方法には、教える側の負担軽減という利点があります。しかし、法律書類作成というのは、定型的要素がかなりありますので、この方法ですと友達が作成した書類の丸写しで済んでしまう可能性が高くなり、学習効果はあまり期待できません。

そこで、各自がシナリオを書いて、自分のシナリオにしたがって法律文書を作成していただくことにします。法律文書の作成は、授業内容の一部でしかありません。他にもたくさんのことをします。授業時間に一つ一つのシナリオを検討している余裕はありませんので、授業時間外に電子メイルまたは口頭で個別に指導します。授業では、法律文書が各自のシナリオにしたがって適切に作成されているかを検討します。

3 シナリオを書こう

3.1 基本的シナリオ

題材
取り上げる取引は、各自が自由に選定してください。次のものが考えられます。

交通事故などの損害賠償請求でもかまいません。

3つの過程
シナリオには、次の過程が含まれるようにしてください。

  1. 権利の発生過程
  2. 紛争の発生過程
  3. 権利の実現過程

 権利発生過程では、借用書や契約書が作成されるものとします。シナリオ作成の段階では、これらの書類そのものを作成する必要はありません。しかし、これらの書類に記載されるべき内容がシナリオから読み取ることができるように書いてください。事故の損害賠償請求の場合には、契約書の代わりに事故発生状況説明書を作成します。事故の発生状況をシナリオに書いてください。

 紛争発生過程では、相手方の義務不履行の理由を適当に設定してください。例えば、次のことが考えられます。

 権利実現過程では、次の手段がとられるものとします。

上記のように明確に区分してて、上記の順で書く必要はありません。特に紛争発生過程と権利実現過程は融合することが多いでしょう。しかし、どのような形であれ、これらの過程が必ず含まれるようにしてください。

具体的事実の記載
シナリオでは、いつ、どこで、誰が、何をしたかを明確にしてください。

上記の必要事項以外に何を書くかは、各自の自由です。悲劇になっても、喜劇になっても、勧善懲悪の物語になってもかまいません。シナリオが思い浮かばない場合には、総合図書館に行って、「判例時報」などの雑誌をめくって、それに掲載されている判例をヒントにしてみてください。

条文の参照指示
シナリオには、できるだけ民法・民事訴訟法その他の法律の条文番号をあげてください。成績評価の要素の一つになります。

会社
株式会社や有限会社については、商号、本店の所在地、代表者を特定してください(民訴4条4項・37条)。1998−1999年度のゼミの先輩たちが次の2つの架空の会社の設立登記に必要な書類を用意してくれました。これを、シナリオに用いるのも一つの方法です。

商号 マロン株式会社
目的
  1. ビデオのレンタル及び販売
  2. 書籍販売
  3. コンパクトディスクのレンタル及び販売
  4. 前各号に附帯する事業
本店所在地 大阪府大阪市北区梅田99丁目99番99号
代表取締役 栗田隆
商号 有限会社カスターニア
目的
  1. 公衆浴場運営業務
  2. マッサージ業務
  3. 前各号に附帯する事業
本店所在地 大阪府大阪市北区西天満99丁目99番99号
代表取締役 中村弘毅

3.2 複雑なシナリオ

司法試験を目指す人は、表見代理、時効あるいは担保責任の問題などを含めたシナリオを書いてください。

司法書士を目指す人は、不動産の売買契約のシナリオを書いて、不動産登記の申請書も作成するようにしてください。

自分で将来会社を興したい人は、自分が考えている会社の業務のシナリオを書いてください。例えば、インターネットを利用した通信販売の会社であれば、訪問販売法8条以下に配慮しながら、代金の支払請求事件あるいは返還請求事件のシナリオを書いてください。

4 シナリオを提出しよう

シナリオは、電子メイルで提出してください。私からの指導に従って修正できるように、かならず、自分の手元のフロツピーディスクあるいはハードディスクにファイルを保存しておいてください。

民法の教科書と民事訴訟法の教科書を読みながら、ゼミで議論を活発にするようなシナリオを書いてください。強制執行の部分は、わかる範囲で書いてください。

締め切りは、電子メイルで連絡します。

楽しみに待っています。


ハトのように優しい心と、
ヘビのように賢い頭を
もちなさい
(新約聖書)
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Contact: <kurita@kansai-u.ac.jp>
1999年 1月 1日−1999年 1月 5日