目次文献略語
民事訴訟法講義

裁判所 1


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 裁判所の構成


1.1 裁判所の意義

裁判所は、司法権が帰属する国家機関である(憲法76条)。司法権の内容は、「法律上の争訟を裁判」する権限であり(裁判所法3条)、この権限は裁判権と呼ばれる[11]。裁判所は、民事訴訟法との関係では、民事訴訟事件について裁判権を行使する国家機関である。

「裁判所」の語はさまざまな意味で使われるが、主要なものは次の2つである。
民訴法235条1項は、次のように規定している:「訴えの提起後における証拠保全の申立ては、その証拠を使用すべき審級の裁判所にしなければならない。ただし、最初の口頭弁論の期日が指定され、又は事件が弁論準備手続若しくは書面による準備手続に付された後口頭弁論の終結に至るまでの間は、受訴裁判所にしなければならない」。文中の「裁判所」と「受訴裁判所」の意味を説明しなさい。

ヒント:『基本法コンメンタール新民事訴訟法2』(日本評論社、1998年)215頁(高見進)

民訴法185条に、次のような文言がある:「裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる」。民訴法268条に、次のような文言がある:「裁判所は、大規模訴訟(当事者が著しく多数で、かつ、尋問すべき証人又は当事者本人が著しく多数である訴訟をいう。)に係る事件について、当事者に異議がないときは、受命裁判官に裁判所内で証人又は当事者本人の尋問をさせることができる。」。各文中の2つの裁判所の意味について説明しなさい。

暇ができたら、以下の問についても考えてみよう[7]。
人事訴訟法40条1項柱書きの中に、次のような文言がある:「当該裁判をした家庭裁判所(中略)の裁判官の所属する家庭裁判所」。この文言中の2つの「家庭裁判所」の意義の違いについて説明しなさい。

ヒント:もし、2つの「家庭裁判所」の意義が同一であれば、上記の文言は「当該裁判をした家庭裁判所」で十分である[4]

「官署としての裁判所」と「裁判機関としての裁判所」とを厳密に使い分けると、表現が長くなることがある。表現の短縮のために、「簡易裁判所」という一つの語が同時に「裁判機関としての裁判所」の意味と「官署としての裁判所」の意味の双方で使われることもある。例えば、民執法167条の2第3項1号下段の「同号の判決をした簡易裁判所」がそうである[15]。したがって、裁判所の語に複数の意味があるといっても、どの意味で使われているかについて、神経質になる必要はない(大意が分かれば足りる)。

1.2 裁判機関としての裁判所の構成

裁判機関としての裁判所は、その構成員の数により、次の2つに分類される。
裁判長
合議制の場合には数人の裁判官の内の一人が裁判長となり、裁判所を代表して発言し、訴訟を指揮する。しかし、裁判内容の決定は全員の合議により、見解の一致が得られない場合には多数決により裁判内容が決定される(裁判所法77条)[2]。ただし、訴状の補正命令や却下命令のように(137条)、裁判長が合議体から独立して裁判する場合もある。

受命裁判官
合議制の裁判所では、証拠調べや争点整理を含めて各種の職務は全員がそろって行うのが原則である。しかし、現実には裁判官も多忙であり、処理すべき事項によっては、一部の裁判官に行わせて効率を高める必要が生ずる。裁判所外での証拠調べがその代表例である。そこで、裁判事務の一部について、合議体を構成する裁判官に職務を執行させることが認められている。その裁判官を受命裁判官という。受命裁判官は、多くの場合は一人である。異論はあるが、複数であってもよく、複数の受命裁判官に共同で職務を行わせることも許される[13]。

受命裁判官に職務を行わせるか否かは重要なことであるので、合議体で決定する。その決定がなされた後で、どの裁判官にさせるかは合議体で決定するほどの問題ではなく、裁判長が受命裁判官を指名する(規則31条1項。3名の裁判官からなる合議体で、2人の陪席裁判官が裁判所外での証拠調べの仕事を互いに遠慮し合う場面を想像すれば、裁判長が指名することの合理性が理解しやすい)。

受命裁判官に処理させることができる事項は、 法及び規則で規定されている。その詳細ぶりから、受命裁判官にさせることができる事項が制限的に規定されていることがよくわかる:
受託裁判官
裁判所は、裁判事務について、互に必要な補助をする(裁判所法79条)。例えば、受訴裁判所から離れた地で証拠調べをする必要がある場合に、最寄りの裁判所に証拠調べを嘱託する(依頼する)ことができる(185条1項)。嘱託を受けた裁判所は、所属裁判官の中の適当な者に嘱託された事項を行わせる。その裁判官(他の裁判所からの嘱託により職務を行う裁判官)を受託裁判官という(185条2項参照)。どの裁判所に嘱託することができるかは、法律で規定されている場合がある。証拠調べについては、他の地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託する。

証拠調べは、受命裁判官にも受託裁判官にもさせることができる。しかし、事柄の性質により、受命裁判官にさせることはできるが受託裁判官にさせることはできない事項もある。例えば、88条の審尋がそうである。

1.3 裁判所書記官

職 務
各裁判所に裁判所書記官が置かれている。裁判所書記官は、(α) 裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管(裁判所法60条2項)、(β)その他、他の法律において定める事務(民訴71条382条など)を掌る(裁判所法60条2項)。裁判所書記官は、このほかに、(γ)裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する(裁判所法60条3項)。

当事者との折衝
民訴法・民訴規則で裁判所書記官の事務とされている事項は多数にのぼるが、ここでは、当事者との折衝事項を見ておこう。実務では、裁判所書記官は当事者との関係で裁判所の対外的窓口の機能を果たすと位置付けられている(例えば[最高裁*1997b]62頁)。次の事項は裁判所または裁判長の職務であるが、裁判長の命を受けて書記官が当事者と折衝することが認められている(ただし、独断でするのではなく、自己の判断を裁判長等に述べつつも、その指示を受けてする)。
裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う(裁判所法60条4項)。しかし、裁判所書記官は、手続経過の真実を明らかにする役割を担っており、口述の書取りその他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる(裁判所法60条5項)。

(参考ページ)裁判所書記官の職務について: 裁判所採用試験情報先輩職員からのメッセージ裁判所書記官

1.4 裁判所の階層構造

裁判所は、司法権行使の多数の需要に適切に応えるために[6]、全国に多数配置する必要がある。全国に多数配置された裁判所の間で法令の解釈について矛盾が生ずる場合には、その統一が必要となる。また、裁判官も人間であり判断を誤ることがある。そのことにより不利益を受ける当事者の救済のために、不服申立ての道を用意しておくことも必要である[1]。そこで、最高裁判所を頂点とする裁判所の階層構造が設けられている。

現行法上、この階層構造は、次のようになっている。
序列 裁判所の種類(裁判権の範囲を定める規定) 地理的配置 合議体・単独性の別 管轄
1 最高裁判所
(裁7条・8条)
全国に1 合議制(裁9条)
  • 5人からなる小法廷と
  • 15人からなる大法廷
上告審
  • 高等裁判所が第一審又は控訴審としてなした判決に対する上告
  • 地方裁判所が第一審としてなした判決に対する飛越上告
  • 高等裁判所が上告審としてなした判決に対する特別上告
2 高等裁判所
(裁16条・17条)
全国に本庁8

特別の支部として、東京高等裁判所に知的財産高等裁判所がある(知的財産高等裁判所設置法2条)
合議制
  • 原則として3人(裁18条2項)
  • 例外的に5人(民訴310条の2、独禁法87条2項など)
控訴審
  • 地裁および家裁が第一審としてなした判決に対する控訴(裁16条)

上告審
  • 地裁が控訴審としてなした判決に対する上告
  • 簡裁が第一審としてなした判決に対する飛越上告(裁16条3号)

第一審
  • 特殊な行政事件・民事事件[12](民訴311条参照)
3 地方裁判所
(裁24条・25条)
全国に本庁50 [各都府県に1、北海道に4(札幌、旭川、釧路、函館)] 原則として単独制(裁26条1項)。

例外的に合議体により裁判する場合として、次の場合がある(裁26条2項)。
  • 合議体の決定により合議体で裁判すると決定した場合(裁26条2項1号)
  • 簡易裁判所の裁判に対する上訴事件(裁26条2項3号)

合議体の構成員の数は、原則として3人であるが(裁26条3項)、大規模訴訟事件や特許権等に関する訴訟事件については、5人の合議体で審理・裁判することができる(民訴269条・269条の2)。
第一審
  • 140万円を超える請求(裁24条1号前段)及び140万円以下の不動産に関する事件(同後段。不動産に関する訴訟については、訴額にかかわらず管轄権を有し、140万円以下の不動産に関する事件については簡裁と競合的に管轄権を有する)。
  • 行政訴訟は、地方裁判所の管轄に専属する(裁33条1号カッコ書き参照)。
  • 人事訴訟は除かれる(裁判所法31条の3第1項2号)

控訴審
  • 簡易裁判所の判決に対する控訴
3 家庭裁判所
(裁31条の3)
全国に本庁50 [各都府県に1、北海道に4(札幌、旭川、釧路、函館)] 第一審
  • 人事訴訟について専属的(裁判所法31条の3第1項2号)。
  • 人事訴訟と併合審理できる限りで、人事訴訟の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償請求に関する訴訟について、地裁・簡裁と競合的(人訴8条2項・17条1項後段)
4 簡易裁判所
(裁33条・34条)
全国に438(2007年9月3日に閲覧した最高裁の「裁判所の組織」のページによる) 単独制(裁35条) 第一審
  • 140万円以下の請求(裁33条1号)
  • 行政訴訟については管轄権を有しない(裁33条1号カッコ書き)
裁判所 のWeb ページの中の次のページも参照:「裁判所の組織」、「各地の裁判所」、「最高裁判所」、「最高裁判所の裁判官」。なお、裁判所の名称は、所在都市名と裁判所の種類名との組み合わせで構成されるのが通常である。所在都市名が変わると裁判所名も変わる。例えば、「浦和市」が「さいたま市」に変更されたことにともない「浦和地方裁判所」が「さいたま地方裁判所」になった。ひらがな書きの名称の地方裁判所は、これだけであろう。

2 民事裁判権


民事事件を解決するための裁判権を民事裁判権という。これは、次の2つの点から限界付けられる。

2.1 民事裁判権の人的範囲

日本の民事裁判権が及ぶ者には、次のような効果が生ずる。
  1. 訴状の送達を受け、被告になる。
  2. 証人義務(190条)および文書提出義務(220条。特に4号)を負う。
  3. 判決の名宛人となり、既判力を受ける。
  4. 強制執行に服する。

こうした効果が一般的に及ぶ者の範囲は、次のようになる。
)日本の民事裁判権は、原則として、日本国内にいるすべての人に及ぶ。天皇も民事裁判権に服するかについては、学説の多くは肯定するが、最高裁判例は否定する。
最判平成1.11.20民集43−10−1160[百選*1998a]6事件
事実の概要  千葉県知事が昭和天皇の病気快癒を願う県民記帳所を設置し、これに県の公費を支出した。Xは、この公費支出は違法であり、昭和天皇が不当利得した記帳所設置費用相当額の返還債務を平成天皇が相続したと主張して、千葉県に代位して、知事に対し損害賠償を、天皇に対し不当利得返還を求める訴えを提起した。
判 旨  「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。したがって、訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものであるが、本件訴えを不適法として却下した第一審判決を維持した原判決は、これを違法として破棄するまでもない」。

 日本国外にいる外国人には、こうした法律効果が生ずる民事裁判権が一般的に及ぶことはない。特に証人義務・文書提出義務についてそうである。しかし、日本が国際裁判管轄権を有する事件の当事者となる者については、その限りで日本の民事裁判権が及ぶ。

)外国国家は、日本と対等な主権を有するので、日本の裁判権に服さないのが原則である。これを主権免除という[5]。たとえば、アメリカ合衆国駐留軍の航空機の横田基地における夜間離発着の差止請求の事案について、最高裁判所 平成14年4月12日 第2小法廷 判決(平成11年(オ)第887号,平成11年(受)第741号)は、「外国国家の主権的行為については,民事裁判権が免除される旨の国際慣習法の存在を肯認することができる」とした。

この原則にどの範囲の例外を認めるかで、次の二つの基本的な立場がある。
  1. 絶対的主権免除主義  次のような狭い範囲でのみ主権免除の例外を認める。
    • 外国国家が免除を放棄した場合。
    • 法廷地国に存在する不動産に関する訴訟の場合。
    • 法廷地国に存在する財産を外国国家が相続する場合。
  2. 制限的主権免除主義  上記の場合のみならず、外国国家が私企業と同等の経済活動をなしたことに起因する紛争についても主権免除の例外を認める。

我が国では、この点に関する一般的規定がなかった時代に、当初は絶対的主権免除主義が主流であったが、しだいに制限的主権免除主義をとるべきであるとする見解が学説上の多数説となり、平成18年には、最高裁も制限的主権免除主義の採用を宣明した(最高裁判所 平成18年7月21日 第2小法廷 判決(平成15年(受)第1231号))[3]。これは、民間企業が,外国国家の国防省との間でその関連会社をその代理人として高性能コンピュータの売買契約を締結して納入し,その代金債務について準消費貸借契約を締結したと主張して,外国国家を被告にして貸金請求の訴えを提起したが,外国国家が代理権の授与を否認し,売買契約の成立を争っている場合に,外国国家はその事件について日本の民事裁判権に服するとされた事例である。最高裁は、次のように説示していた。
  1. 外国国家は,その私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されない。外国国家が,民間企業との間で高性能コンピューター等を買い受ける旨の売買契約を締結し,売買の目的物の引渡しを受けた後,売買代金債務を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結する行為は,その性質上,私人でも行うことが可能な商業取引であるから,その目的のいかんにかかわらず,私法的ないし業務管理的な行為に当たる。
  2. 外国国家の行為が私法的ないし業務管理的な行為であるか否かにかかわらず,外国国家は,私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって,我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合にも,原則として,当該紛争について我が国の民事裁判権から免除されない。

また、最高裁判所 平成21年10月16日 第2小法廷 判決(平成20年(受)第6号)は、 被告(アメリカ合衆国ジョージア州港湾局)の日本における事務所の職員として日本において雇用されていた原告が,被告のした解雇が無効であると主張して,被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇後の賃金の支払を求めた事件において、被告が日本の民事裁判権から免除されるとして訴えを却下した原判決を破棄するに際して、次のように説示した。
  1. 連邦国家である米国の州は,外国国家と同様に,その主権的行為については我が国の民事裁判権から免除され得る。
  2. 米国の州の私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使がその主権的な権能を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されない。
  3. 被告(米国の州の港湾局)と原告(日本において雇用された者)との間の雇用関係について、原告は被告の極東代表部の代表者との間で口頭でのやり取りのみに基づき現地職員として雇用されたものであり,極東代表部には日本の厚生年金保険,健康保険,雇用保険及び労働者災害補償保険が適用され,その業務内容も,日本において被告の港湾施設を宣伝し,その利用の促進を図ることであること等の事情を総合的に考慮すると,この雇用関係は私法的ないし業務管理的なものであり、被告の財政上の理由により極東代表部を閉鎖することに伴うこの雇用関係の解消も私法的ないし業務管理的なものである。

そして、外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律が平成21年4月17日に成立した。日本の民事裁判権が外国の国家及びこれに準ずるものに及ぶか否かは、今後(同法の施行(2010年4月1日)後)は、同法の解釈問題として扱われる。規定の見出しを簡単に紹介しておこう。
)外国の外交官およびその家族等は、日本に滞在する場合でも、「外交関係に関するウィーン条約」31条・37条により、原則的に裁判権を免除されている。しかし、次の場合には、免除されない(同31条1項)。
  1. 外交官等が個人的に所有し使節団の目的に使用していない不動産に関する訴訟。
  2. 外交官が個人として、相続人等として関係している相続に関する訴訟。
  3. 外交官が自己の公の任務の範囲外で行う職業活動又は商業活動に関する訴訟。

訴訟の途中での変動
被告が訴訟の途中で日本の民事裁判権に服さなくなる(免除される)場合について、検討しておこう。

)被告が天皇になる場合  天皇は日本国の象徴であるから民事裁判権に服さないとの論理を厳格に従えば、皇太子は日本国の象徴ではないので民事裁判権に服し、被告となりうる。その訴訟の途中で天皇に即位した場合には、即位の時点で訴えは却下されるべきものとなる。天皇に当事者尋問を行うことも、天皇敗訴の判決を下すことも、日本国の象徴としての地位にふさわしくないと等の考慮に基づいて天皇は日本の民事裁判権に服さないとされており、その考慮は訴訟の途中で皇太子が天皇になった場合にも妥当するからである。

)被告が外国の外交官又はその家族になる場合  外交官又はその家族になる以前に発生した財産上の紛争に関する訴訟は、基本的に、外交官が自己の公の任務の範囲外で行う職業活動又は商業活動に関する訴訟であり、これは主権免除の対象にはならない。仮に主権免除の対象となる訴訟であったとしても、主権免除の必要性の度合いは天皇の場合ほどには強くなく、また原告が当該訴訟により紛争を解決することについての利益を保護する必要性も考慮すると、訴訟係属の時点で存していた日本の民事裁判権は、この場合に消滅することはないと解すべきである。

2.2 民事裁判権により処理される紛争の範囲(法律上の争訟)

民事裁判権の対象となるのは、次のような特質をもつ法律上の争訟に限られる。その他については、「訴訟要件」の中の「訴えの利益」の中で説明する。
)私人の生活利益に関する争いであること。生活利益は、次の3つに大別できる:(α)人格的利益(人格権に基づく騒音差止請求など)、(β)身分関係(婚姻関係等に関する訴訟など)、(γ)財産(貸金返還請求訴訟など)。私人相互間におけるこれらの利益をめぐる争いは、いずれも民事訴訟の対象となる。他方、私人と国家・自治体との争いは、次の2つに分かれ、後者のみが民事訴訟の対象となる。
)法的保護に値する生活利益をめぐる争いであり、原則として法の適用により解決される争いであること。事実や科学的見解の当否や美の判定をめぐる争いは、対象とならない。判決でもって直接に判断される事項が権利義務や法律関係であれば足り、損害賠償請求権等に関する訴訟において、科学的見解の当否などが争点の一つになっていてもよい。詳しいことは、訴訟要件のところで述べる。

法律上の紛争であっても、日本の裁判所がその紛争について裁判権を行使すべきなのか、外国の裁判所の裁判権に委ねるべきなのかの問題(国際民事裁判管轄の問題)がある。これについては、説明の便宜上、国内管轄の後で説明する。


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1998年5月8日 −2013年8月1日